シナリオ詳細
狂騒スコルピオ
オープニング
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イレギュラーズ達がローレットが諸国、清濁併せ持つ依頼人たちの依頼を請けるようになって暫く。彼らはその能力を駆使し、数々の難問に立ち向かってきた。
精度は高く、士気も高く、ローレットの評価は近隣諸国、貴族、民衆……そしてイリーガルな者たちからも右肩上がりになっている。
さて、その状況に危機感を覚える連中もいるのである。
――アクセル盗賊団。彼らもそのひとつに数えられる。他国から幻想への足がかりとして、幻想に踏み込んだ彼らは、彼らの元副首領の娘を浚い、彼への見せしめを行った。だが、イレギュラーズの活躍により、娘は救い出され元副首領は他国に逃げおおせることに成功した。
「面白くねぇ! 面白くねぇなあ!」
アクセル盗賊団の幻想入りした、分団団長バルザックは厳しい顔をさらに歪めて、愛用のハチェットを壁に投げつけ怒りを露わにする。部下を数人殺され、自らもまたそれなりの怪我をうけた彼は、ここ暫くというものの、不機嫌だ。
「カシラぁ、いい加減機嫌をなおしてくださいよ」
「うるせぇ!!」
機嫌を取ろうとした、部下をその太い棍棒のような腕で振り払えば、壁に突き刺さったハチェットと同じ場所に吹き飛ばされる。あわや激突死しそうになり、ギリギリで避けれたことに部下は息を飲む。
「おうおう、旦那。こりゃあ随分と剣呑だ」
アジトのドアがあけられ、見たこともない男が顔を見せる。
「あぁ? 誰だおめぇは」
眉を吊り上げバルザックは凄むが男はどこ吹く風だ。
「旦那にとっていい話をもってきたんでさぁ」
男は言いながら腕を捲り上げた。すると、バルザックの表情が鋭い目線はそのままに一瞬で狡猾なものに変わる。
「ほぅ、きいちゃあいたが、マジ話ってこったな?」
「そういうこっと。まあ、俺らもさぁ、ちったあつるむ時代がきたと、思わないかい?」
「まあ、俺らも足がかりとしてはこれからだからな。あんたさんらがそうしたいのであれば、吝かじゃねぇ。ほうほう、なるほどなぁ」
バルザックは舌なめずりをして、今後の自分の立場に対しての試算をする。
「とまぁ、コレだけじゃ、そちらさんも決めれないだろう? ひとつ情報を。とある貴族が武器商人と取引をして、このあたりを通るらしい。そんなカモネギ、俺らがやっちまってもいいんだが友好の証として、譲ろうって話さぁ」
「そりゃあいい! 話がわかるじゃねぇか、兄さん」
「でさぁ、それに俺も乗せてもらえねぇかな? お頭に土産をもっていきたいんでさぁ」
言って、壁の手前でもたれかかっていた部下の首を一瞬にして腰にぶら下げていた刀で跳ね飛ばした男は細い目を更に細めて、にぃっと口を半月のカタチに歪ませる。その手管は美しくも鮮烈で、容赦というものがなかった。
「なっ!?」
バルザックを取り囲む部下たちが、声にならない声をあげる。
「ほう……」
バルザックもまた目を細め、首から大量の鮮血を吹き出す部下を眺める。
「おいおい、困ったもんだなぁ、おい。部下が減って大変な時だっつぅのに」
なんとも芝居がかった口調でバルザックは鋭い目を細目の男に向ける。
「いやはや、ちょっと刀が滑っただけなんですけどねぇ、旦那もお困りの様子。俺も手を貸さないといけませんでさぁ」
細目の男もまた芝居がかった口調でこの茶番を続ける。彼はたった一太刀で雄弁に自分の実力と、目的――自分はアクセル盗賊団の用心棒になるつもりもあり、なおかつ断れば彼らを殲滅する能力があると。そして彼の主からのお目付け役であると――を伝えた。
「全く、もう少しくれぇ、穏便にこいっていうんだ。掃除は誰がするとおもってんだ?」
苦々しく思いながらもバルザックのとれる選択肢はただ一つでしかないことを痛感する。
「あー、旦那すんません! 俺あとでかたしときますんで、モップありますかねぇ?」
「いいな、野郎ども、次の獲物が決まった!」
転がる部下の瞳には、バルザックが早速部下に指示をする姿が、反射して映っていた。
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「みなさーん! とある貴族さんの荷運びの護衛の依頼なのですよー!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が両手を振って君たちを迎え入れる。
「貴族の名前は、貿易業を生業としてらっしゃるアラン・エイブラム卿です。今回大口の荷運びの取引がありまして、その護衛にとローレットを指名してきたのです。メフ・メフィートの街道沿いを通ることになるのですが、最近そこにこわーい盗賊がいましてね。もちろんエイブラム卿もある程度は自前で護衛も用意はできるんですが、それだけでは不安とのことでみなさんのご指名なのです! わー! すごいのです!」
ぱちぱちと手を叩きながらユリーカは情報のメモを読み上げる。
「それほど大きくない盗賊団で、アクセル盗賊団というのです。頭目はバルザック。こわいおじさんです。ハチェットを使う、そこそこに強い方と聞きますのでご注意ください。あとはそれほどまでに強い方はいらっしゃらないとは思いますが、油断は禁物ですよ! というわけで、皆さん護衛のお仕事よろしくおねがいしますのです!」
- 狂騒スコルピオ完了
- GM名鉄瓶ぬめぬめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年02月20日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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エイブラム家護衛とイレギュラーズはメフ・メフィートに続く街道を荷馬車に乗って進む。
「このカレーはですねぇ。王都でも有名なスパイスのお店のスパイスが使われてましてね~」
周辺警護を務める『カレーメイド』春津見・小梢(p3p000084)はドヤ顔で従者たちにもお昼ごはんであるカレーを振る舞う。護衛たちもそれを嬉しそうにうけとり、お嬢ちゃん、料理上手だね、きっといいお嫁さんになれるよとチヤホヤする。美少女の手料理というものは男にとっては嬉しいものなのだ。
(盗賊盗賊、これまた盗賊。最近こんな依頼ばっかり舞い込んでくるじゃねえか。噂じゃ「砂蠍」だかの盗賊団の頭目『キング・スコルピオ』が幻想入りしたって聞いたが、それと関係あんのかね)
はしゃぐ小梢を横目に『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)は小さくあくびしながら思う。
(――まあ、いいか。仕事はいつもどおりだ。――殺しは、しない)
それは黒羽を形作る誓いであり信念。決して自分は善人ではないだろうとおもう。だが悪人でもないのだ。誰かのため、仕方なく、理由はともかく自分だって人は殺したことはある。そして得たものは『キズ』。それはどんなときにも重く自分にのしかかってくる十字架だ。覚悟があろうがなかろうが、一生消えないキズを仲間にはうけてほしくない。
(件の盗賊たちにだって家族はいるだろう。死んで喜ぶ奴もいるかもだが、哀しむ奴もいるだろう。哀しみは怨みを呼ぶ。その怨みは廻り廻って俺達に返ってくる。そんな因果は真っ平ごめんだ)
「さて、最近巷を騒がせている盗賊相手ですか……大凡の予想は尽きますが」
同じく周辺警護の『蒼壁』ロズウェル・ストライド(p3p004564)は油断なく周囲を見渡す。
現在は休憩中で停止している状況ではあるが、だからこそと気を貼っているのだ。その緊張感に、ツーマンセルの相棒である護衛が肩を叩く。
「肩肘張った生き方も悪くはないが、そればっかじゃ折れちまうぜ。休憩は休憩。むりしなさんな」
そんな護衛の人の良さげな笑顔にロズウェルは緩く微笑む。
「そうですね。ありがとうございます」
お礼をいうものの、肩の力は抜けていない。実直で勤勉。それがロズウェルの美徳であり、不器用なところなのだ。
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は事前に仲間から渡された資料を手元で繰る。ラサでの行動範囲、構成員、討伐の顛末。荷馬車の揺れに少しの吐き気を覚え、随分と分厚い資料を読み続けたものだと、目頭を揉む。
(バルザック……生命を奪う、そう……わかったわ――まずは外堀から、埋めてあげる)
友人を痛めつけた相手。知識だけが友人だと思っていた自分にできた大切な友達。あのこをいじめられてこんな風に自分が思うなどと思ってもいなかった。馬の骨の執念、みせてあげるわ。イーリンは少しだけ口角をあげて笑った。
(アクセル盗賊団。元々大きくない盗賊団が損害を出した状態で大口の取引を大胆に狙ってくるとしたら……なんらかの手段を得た? 最近は『砂蠍』? だったかの残党が盗賊団をまとめあげようとしてるみたいだし、なんだかきな臭いおはなしね)
『不死鳥の娘』アリソン・アーデント・ミッドフォード(p3p002351)は隣に座るイーリンの思考の邪魔をしないようにちらりと見やる。自分が用意した情報の精査もしてくれているのだ。
「アリソン」
ふと名を呼ばれ、振り向くと自分が酒場でメモした羊皮紙を出されていた。なにか不備があったのかと焦れば「この、火の鳥? のイラスト可愛いわね。少し癒やされたわ」と、イーリンのつぶやきに「えへへ、かわいい?」と破顔する。
同じく『ノーブルブラッドトリニティ』シルヴィア・C・クルテル(p3p003562)は身を乗り出して「なになに?」と手元を覗き込んだ。
「あら、ほんとう、かわいらしいですわ!」
一方、『来世もルシファー』n n(p3p003213)と『赤備』ノブマサ・サナダ(p3p004279)は軍馬に二人乗りで荷馬車より先行し、偵察に向かっていた。
n nは近隣の木々と意思を交わし何らかの痕跡がないかを調べていく。仲間たちとは数百メートルの距離を開けている。
「盗賊団と言えば、ラサから逃げた、砂蠍が、幻想に来ているという噂がありますね……」
ラサ傭兵団出身であるノブマサは今回の件に一家言ある立場だ。当時傭兵団に所属していた時に聞いた砂蠍の情報は事前にイーリンに伝えてある。
「もし、キングスコルピオが、幻想にきて、いるのであれば……」
なんという幸運。神に祈りたくなる。ラサを離れ、幻想に呼ばれた甲斐があるというものだ。燃え上がる闘志は絶対零度の焔。
「いた」
短くn nが、手綱を操るノブマサに伝える。
「前方、100mってところじゃな。木々たちも怯えている……ひぃ、ふう、み……。事前の話では7人と聞いていたが、少し離れてもう一人いるらしい。すぐに戻れば迎撃もできるじゃろう。……合図は」
ホイッスルを吹こうとして、n nは思い直す。この状態で合図を送れば、こちらが気づいたこともまた盗賊たちに筒抜けになってしまうだろう。
「ノブマサ、今すぐ皆のもとにもどるのじゃ、相手に早足はない。なれば、我らが早馬に成り、直接知らせた方がよいじゃろう」
「りょう、かい」
ノブマサは手綱をひき、馬の方向を変え、仲間の元にむかって走らせた。
(あ、これ我、今天才軍師的な魔王ムーブじゃね?)
にやにやとほくそ笑むn nの表情はノブマサには見えない。
ノブマサとn nが、仲間のもとに戻り状況を報告すればにわかに護衛たちも浮足立つ。事前に決めておいた配置につき始めたところで、弓矢が木陰から放たれ荷馬車の幌に刺さる。
「人数は、7人。n nさんの話では8人だったはずでは?」
現れた気配を読み取り、ロズウェルが尋ねる。
「隠れているということじゃろうな。みな、注意を怠るな」
ややあって、木陰から強面のハチェットを携えた男が街道の真ん中にゆっくりと歩いてくる。それに合わせて部下たちも男の後ろに現れ配置する。
「なんだなんだ。聞いていたのより護衛が多いな」
「従者のみなさんは、馬車の警護を!」
イーリンがキビキビと指示を出せば従者たちはその通りに馬車の警護につく。
「ごきげんよう!盗賊の方々、私たちの乗る荷馬車を狙うとは運がありませんでしたわね?」
「固定砲台を舐めるなよ!」
シルヴィアが開口一番、呪術で編み上げた矢を強面の男――バルザックに打ち込む。追って、n nも魔力の矢を同じように打ち込み、それが開幕の狼煙となる。
「随分と歓迎されてるじゃねえか! ほう、可愛いねえちゃんたちだな。おい、野郎ども上手に倒せたらねえちゃんは好きにしていいぜ」
遠距離魔術をハチェットで弾いたバルザックは下卑た笑いを向け、部下たちを煽る。
「さすがカシラ!」
「下品……」
馬車の近くで守るアリソンは年頃の少女らしく、その言葉に不快感を隠さない。
「我が名は銀城 黒羽! あんたらを倒しにきたもんだ!」
黒羽が小さく息を吸うと、大音声で口上をあげる。バサバサと木々を揺らし小鳥が逃げていくほどの気合の入った声に、2人の弓手が怒りを露わに前にでてくる。
「どうした、遠くからでなければ私を狙う事は出来ないのか?その程度ではこの蒼壁を貫く事は出来んぞ!」
合わせてロズウェルもまた声を張り上げ、遠くで弓を構える男の怒りを誘う。
その横を駆け抜ける赤き風。ノブマサがロズウェルに向かっている盗賊の間合いに飛び込み剣を振るう。
「あなたもカレーを食べてハッピーになろうよ~」
シールドを構えた小梢はバルザックの前に立ちはだかった。
「ああ、いいぜ? ねえちゃんを別の意味でハッピーにしてやるよ」
ガチンとシールドにハチェットが食い込む。その重さに小梢は冷や汗をかくが、自分の役目はバルザックを止めることだ。
「小梢、耐えていて。私が支えるから。そして、貴方。バルザック。友達にキズをつけた落とし前、つけてもらうわ!」
「友達ぃ? ぶっ殺した数なんて覚えてねえぞ、まあそのお友達に、お大事にって伝えておいてくれ」
嬲るようなその声に、イーリンは歯噛みする。嫌な男だ。
バルザックは攻撃が入りにくい小梢よりはといったん後ろに下がり、ハチェットを、レンジの届く中で最も体力のひくそうな魔術師――シルヴィアにむかって投げつければ、美しい肩から鮮血が飛沫く。
「くっ……!」
「シルヴィア!」
黒羽は傷つく彼女を庇おうとするが、怒りを付与した二人の盗賊との交戦中だ。怒りを引きつけるということは、自分もまた、移動が阻害されるということだ。まずは数を減らすことが先決である。攻撃しないと決めた黒羽は状況に耐えるしかない。
「シルヴィアは私が癒やすから! まずは弓手の盗賊からよ! 従者の皆さんで回復を使える人は手伝って!」
イーリンが指示を飛ばしながらシルヴィアにヒールをかける。
「わかったぞ。あいつじゃな?」
超距離からの高火力が弓手の盗賊に炸裂した。
アリソンとシルヴィアもまた、指示に合わせ同じ敵に的を合わせ遠距離術式を練り上げ打ち込んでいく。
ロズウェルは捨て身の踏み込みで、自らが煽った弓手に鋭い一撃を喰らわせる。
一進一退の攻防が続く。
両陣営共に傷つき戦闘不能者も出始める頃合いだ。事実弓手の盗賊たちは、何度か正気を戻すがその度に怒りを付与され、遠距離攻撃がままならなくなり、遊撃手として戦場を走り回るノブマサや、後衛の射撃手達の手によって屠られている。
その度黒羽はつらそうな顔をする。仲間にだって殺してはほしくなかった。だが相手は手加減をできる相手ではない。
こちらの陣営は、シルヴィアと黒羽が一度パンドラに願い、復帰している。小梢はバルザックの猛攻に耐えきれず戦闘不能に陥ったのをロズウェルが引き継ぐ形でバルザックの抑えに入り、彼もまたパンドラを消費した状況である。
「バルザックの旦那ぁ? どうもこれ、ピンチって奴じゃないっか?」
軽薄な声が馬車の屋根から聞こえた。
ビクリとアリソンが肩を震わせ声の主を見やる。気配はなかった。彼らは『8人目』を警戒していた。それでも気づけなかったのだ。
件の声の主は糸目を細めてニヤニヤと笑っている。
「何者、ですか……。ただの、野盗にしては……」
ノブマサが年齢の割には鋭い眼光を細目の男に向ける。
「さぁて」
屋根の上で屈伸運動をする細目の男はその眼光を気にも止めず、飛び降りながらの駄賃に魔術師型の護衛を脳天から、いつ抜刀したのかもわからない刀で叩き切り、刀を振って血糊を落とした。
「!?」
一同に戦慄が走る。その剣筋が只者ではないことはわかる。アリソンは自分のやるべきことを思い出し、細目の男をマークし、戦線を整えた。
イーリンは頭に叩き込んだ情報を繰り、口を開く。
「あなたの、ことは……知っている」
脳裏に閃く情報は絶望にも近い、事実。砂の刀使い。名前までは分からないが、資料にオリエンタルな長い刀を携え、神速の居合術を誇るものが砂蠍にいる、と。
「アリソン、気を付けて! そいつは!」
「嫌な予感程当たるものね」
イーリンの警告に対して、対峙しているアリソンもまたひしひしとその恐ろしさを感じているのも確かだ。
「やだなぁ、俺はしがない下っ端でさぁ」
「砂……蠍……」
ギィンと飛びかかったノブマサの剣とそれを受けた細目の男の刀が刃鳴りを起こす。
「噂は、本当なのか。砂蠍の、王が、幻想に、来たというのは」
「さぁねえ、坊主はドウ思う? お前がそう思うならそうなんだろうさぁ?」
ニヤニヤと嬲るように細目の男は答える。
「あなた方の頭が動き出すのもそう遠くはない、という事でしょうかね。沈黙は肯定とみなします」
ロズウェルもまた、バルザックと武器を噛み合わせながら尋ねた。
「大抵世の中なんて、自分がそうだとおもうことが現実。そう思わないかい?」
「おい! お喋りしてねえで助けやがれ!」
半数以上の手下を殺され、本人も少なくはない裂傷を負うバルザックが叫ぶ。
「あー、ちょっと見込み違いでさぁ。あんただめだわ。コレじゃ王にはあわせれない。坊主とお嬢ちゃんはどいててな」
細目の男は刀に力を込め、ブロックするアリソンとノブマサを気合で吹き飛ばすと、一気にバルザックに近接し刀を振り上げた。
「んじゃあ、片付けさせてもらいまさぁ」
「させるか!!」
その間に、黒羽が走り込んでバルザックを庇う。
黒羽は細目の男がこの場に現れたときから違和感を覚えていた。こいつはアクセル盗賊団の用心棒ではない。細い目に宿る光は虎視眈々とバルザックを狙っていることに気づいていた。
だから飛び込んだ。飛び込んだときには敵だとか味方だとかは考えていなかった。これ以上生命が失われるのが嫌でしかたなかったのだ。たとえ生命に代えたとしても。
人を助けることに理由なんていらないのだ。
「てめぇ……なんなんだ!?」
袈裟懸けに切られ倒れる黒羽にバルザックは困惑の顔を浮かべる。
「ひゅーっ! かっこいいなぁ、こいつは悪人なのに助けちゃうんすか?」
「そんなの、関係、ない……」
目はもう見えない。意識が真っ黒に塗り変えられていく。仲間の悲鳴が聞こえた気がした。
「何ていうか、興が削がれるじゃないすか」
細目の男は抜き身の刀を鞘に収めて、踵を返す。
「そのヒーロー君に免じて、撤退するっすよ、バルザックの旦那ぁ? あんたじゃダメだ」
細目の男を止めるものは誰もいない。
「帰るのでしたらお名前くらいは聞かせてくださいませ。こう見えて強い殿方には興味がありますの」
シルヴィアがせめてもの情報をと名を尋ねる。
「ジョンドウ」
細目の男――ジョンドウはこともなげに名を告げた。
「巫山戯けないでください! それは身元不明の死体に便宜上つける名前でしょう!」
叫び、ロズウェルが斬りかかるのを片手で止めれば、その切っ先が衣服を掠め、腕が顕になる。そこにあるのは真っ赤な蠍のタトゥー。
勘の良い者ならすぐに気づく。この状況で蠍をトレードマークにするものなんて決まっている。
「まぁ、蠍は滅びたがそんなことは問題じゃないさぁ。兵隊なんてキングさえ健在ならいくらでも集まる。まあ、そっちの旦那は不合格でさぁ。弱い者に用はない。キングはそういうお方さぁ。ま、ラサの連中も無事には済まさねえ」
ノブマサを睨めつけ、恨み言をジョンドゥは零す。その声は底冷えするほどまでに冷たい。
「蠍の毒がいつ効くかを連中もこの先思い知るだろうさ」
そう言うと、ジョンドゥはひらひらと手を振って、背を向けて歩いて行った。
●
アクセル盗賊団の頭目であるバルザックはそのまま捕縛されることになる。黒羽に対する恩かどうかは分からないが素直に捕まり、キング・スコルピオについての情報も白状する。
とは言え、キングが幻想入りしたという情報と仲間を集めているというような情報以外は何もジョンドゥから伝えられてはいなかったということが判った程度だ。
積み荷は無事に配送され、エイブラム卿からの謝礼が届く。一人護衛がいなくなったことに対して、彼らに護衛になって欲しいと懇望されたが、彼らは丁重に辞退した。
――蠍の毒いつ効くかを連中もこの先思い知るだろうさ。
その不吉な予言めいたそれは彼らの心に影を落とす。これこそが毒なのかどうかはわからない。
だが、幻想に紛れ込んだ蠍はその毒をじわりじわりと広げていくのだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございます。
バルザック以下数人は捕縛。という結果になりました。
まさかバルザックさんを庇う方がいるとは……!生命をすくわれたことで素直に捕縛されております。
細目の彼もびっくりしてたようです。
スコルピオの毒がどうなるかは、今後の皆様にかかっていると思います。頑張ってくださいませ!
GMコメント
鉄瓶ぬめぬめです。お世話になっています。
今回は盗賊団が貴族の荷馬車を襲うので、それをなんとかしてほしいという依頼です。
アクセル盗賊団については拙作https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/53に登場しておりますが、読んでいなくても問題はありません。
成功条件は、荷運びの馬車護衛の完遂です。
盗賊団は壊滅させても、撤退させるのでも構いません。
味方ユニットに後述護衛のみなさんがいますが、彼らの生死については特に問いません。
情報精度はBになります。ユニット一名何者かの情報についてはローレットは入手しておりません。ご注意を。
・敵さん
リーダー バルザック
斧を手にしたバーサーカーです。力任せの攻撃をしてきますが、それなりに統率力はあり頭もキレます。
そこそこに防御力もあるようです。弱いひとを狙う狡猾さがあります。
下っ端さん 6人
バルザックの部下です。リーダーの指示には従います。
弓とかナイフで攻撃してきます。
??? 細目の男。
なかなかの手練のようです。刀を一振りもったラフな格好の青年です。
・友軍ユニット
エイブラムさんとこの護衛さん 4人
そこそこに練度はあります。前衛2人後衛2人。回復スキルは所持しています。
基本的に、よっぽどのことがなければ(戦わずに隠れてろとかそういうのじゃない限りは)イレギュラーのみなさんの指示に従ってくれます。だいたいみなさんと同じくらいの練度と思っていただいて構いません。
荷馬車。ごとごと。
一般的な大きさです。お馬さんは2匹。どなどな。
中身は武器弾薬などです。燃やさないようにお気をつけください。
・ロケーション
街道沿いの昼間。お天気。遮蔽物は、街道沿いの森の木くらいです。
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