シナリオ詳細
<クレール・ドゥ・リュヌ>猟狗死して狡兎嘲笑う
オープニング
●戻ってきた男。
薄く白みがかった青の空。小鳥がさえずり、鶏が鳴く。
それを聞いた人々が起床する、なんてことのない一日。
しかしその日は、ほんのちょっぴりだけ、普通とは異なる一日だった。
朝陽が昇るよりもやや早い。町の入り口に、一人の男が立っていた。
土に汚れ、やや錆びついたようにも見える鎧、その上に草臥れた毛皮。装いを見るに、猟師であろうか。入り口から中を、ぼうと見つめている。
やがて、いつものように小鳥と鶏が歌い始め、人々が起き出せばその姿はすぐに人々の目に止まる。
「貴方! 帰ってきてくれたのね」
「あぁ……遅くなって済まない」
30代ほどの女性が男に向かって安堵した様子を見せれば、男がぎこちなくそう言って答える。
男はそのまま、女性と共に彼女に家へと帰ってい
「ギヨーム……本当にギヨームさんなの!?」
「あぁ、義母さん。帰ってきたよ」
「あぁ、良かった……良かった……うぅ」
男――ギヨームが家の中に入ると、中にいた女性が目を見開いて、ギヨームの肩をがっしりと掴んで、震える手を動かしながら、首を伝えて頬に手をおいた。
老境に差し掛かるその女性は、ギヨームの妻らしき女をそのまま成長させたかのようにそっくりであった。
「ご、ご両親が生きていれば、こんなに喜ぶことはないでしょう……あぁ、本当に、ギヨームなのね……アネット、今日はご馳走にしましょう」
「ええ、母さん、そうしましょう」
女性――アネットが今にも泣きだしそうな震えた声でそう言って、母親の手を握った。
●紛れる男
それは、ほんの少しばかりの違和感だった。
人々はその違和感には気づけなかった。
「やあ、ドナルドさん。今日も元気がいいね」
町の中ほど、パン屋の主人に男が笑いかける。
話しかけられたパン屋の主人――ドナルドは、一瞬、目をぱちくりとさせた後、申し訳なさそうに頭を下げる。
「おはよう、そっちも元気でなによりだ」
「あははっ、だろう? 俺はそれだけが取り柄でね」
「そうかそうか……それはいい。だが……すまない、名前を忘れてしまって――」
「やだなぁ。俺だよ、俺、――だよ」
男が答える。答えを聞いたドナルドは、ほんの一瞬、誰だ、と言わんばかりに眉間にしわを寄せ、ほんの一瞬後には目を開く。
「おお、すまないすまない。しかし、大きくなったな。以前は――」
一見すれば、幼い頃を知る人物が思いもよらぬ成長した姿に驚いたように見えるやり取りだった。
しかし、態度の変化は明らかに露骨であった。
それはまるで認識を挿げ替えられたような、異様な感覚。
もっとも、ドナルドはそんなことを一切気づいてない。
あるいは、その違和感さえも挿げ替えられたかのようで。
●天蓋落ちて浄土霞む
天義、聖教国ネメシスが都――フォン・ルーベルグ。
規律正しく、信仰に厚い者が多くを占める白亜の都。
しかしながら、隠し切れぬ公然尾の事実と化した黄泉返り事件はそんなフォン・ルーベルグの市民にとっても少なくない衝撃を与えた。
親しい誰かが、在りし日の姿のまま自身の元へ戻ってくる。それは、如何に『禁忌』と理解してようとも、如何に模範的な生活を心がけていようとも、否定し難き喜びだ。
それを咎めるべき立場のネメシス指導部にとっても権力の基盤であるフォン・ルーベルグ市民――しかも“心”なる形なきものが相手ではあまりに大体的な行動は起こせない。
そんな不本意な膠着状態は、まるで時限爆弾が爆ぜるように、唐突に終わりを告げる。
フォン・ルーベルグを中心として、各地で暴動事件が起き始めていた。
その、急速に、ほぼ同時期に燃え広がる狂気の渦に関して、君達は以前に遭遇していたある事件を思い出す。
幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』――嘘つきサーカスの齎した『原罪の呼び声』を。
しかし、サーカスの時のように露骨な旗印は存在しなかった。
だが、黄泉返りとこの暴動を、一切の無関係と断言するのはほぼ不可能であろう。
赤の他人であったサーカスと、死んだはずの大切な誰か――どっちがより大きく感情を揺さぶれるのか、そんなもの誰の目にも明らかだ。
「ローレットが対応していてマジで良かった。してなかったら水面下に潜んでた爆弾は今の比じゃなかったぜ」
そんなことを、レオンは君達に言っていた。
「――皆様に依頼があります」
イレギュラーズが以前に黄泉返り事件で関わったカーティスからそう言われたのは、その狂気の対処に君達が専門家と言わんばかりに駆り出されたばかりの頃だ。
「皆様のおかげで、天義の暴動事件の火種は小さなもので済んでいると思います。実は、フォン・ルーベルグからやや北に行ったところに、黄泉返り案件が隠れていました」
そして――運悪く見逃されたその火種は爆発した。
「なぜ分からなかったのか。その理由は――黄泉返りの対象が“行方不明者”でしかなかったからです。
どこの誰が火種なのかは分かっています。どうか、この町に急行し、この黄泉がえりを討ち取っていただきたい。
恥ずかしながら。私はまだ、鍛えなおしている最中でして……あの時のようなことにならぬように、最善を尽くしたいのです」
そう言って一度頭を下げたカーティスは、再び口を開く。
「黄泉返りと思われる人物は名をギヨームと申します。銀髪碧眼の引き締まった肉体をした男であったとのこと。
かなり腕のいい名うての狩人で、近隣では多少は名を知られていたようですね。魔物の群れと戦うために数ヶ月以上家を空けることもあったとかでそれもあって発見が遅れたようです」
生前のギヨームをどれだけ再現できているのか分からない――とはいえ、無抵抗で地に還ってくれそうにはない。
「その名うての狩人が、どう死んだか、気になってやみません。事故ならともかく、もし殺されたのなら、誰が――あるいは、何が」
カーティスはそう言ってそのまま黙考し始めた。
- <クレール・ドゥ・リュヌ>猟狗死して狡兎嘲笑う完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年05月29日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
日照りはやや強く。じっとりとしたものに変わりつつある風が身体にまとわりついてくる。
(暴動とはまた面倒な事を行いますね。
この国でそんな事を行えばどうなるかわかるでしょうに)
あまり多くは意思を覗かせぬ面持ちで『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)は思考する。
町に侵入したイレギュラーズ達は既に暴徒達がどんちゃん騒ぎしている町の中心部に辿り着きつつあった。
飛び込んだヘルモルトはそのまま自らの身体を回転させて暴風域を巻き起こし、数人の暴徒を天へと撃ちあげていく。
それに続くように暴徒達の前に現れた『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)は、免罪符を掲げて声を張り上げる。
「妾達はローレットじゃ。お主達は魔種の狂気に侵されておる。
投降するならば命は取らぬし、罪にも問われぬよう掛け合うのじゃ。
大人しく武器を捨てよ!」
もしも、これがただの暴徒であったのなら、何人かは投降してくれたのかもしれない。
しかし、先制攻撃による混乱と、感情を掻き立てられた民衆には理性なんていう代物はなかった。
怒号が戦場と化した町の中に轟いた。
「仕方ないのじゃ!」
大壺蛸天――一族の秘宝より謎の触手が伸びて一人を捕捉すると、ぎゅぎゅっと縛り上げて気力を奪っていく。拷問のような締め付けに、男が暴れだす。
(こうなると死体になって出てきた方が嬉しいのだが……捕縛しても最終的には殺す。
だから戦っている時に喋りたいねぇ。)
なんてことを思案しながら、『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は、白銀の爪を掲げて鬨の声を上げて味方の士気を上げると、そのまま一番近い敵をノーモンションで殴りつける。
魔力が衝撃となって、その一人を吹っ飛ばし後ろにいた一人も巻き込んだ。
(んー、なかなかに皆様、アグレッシブにハッスルしていらっしゃるご様子で。
ここはやはり定番の「落ち着け(物理)」でございましょうか?
いえ、実際には神秘攻撃ですけれども)
割と余裕そうに、ある意味いつも通りの様子を見せる『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)はそのまま呪歌を奏で始める。
それはまるで深淵をのぞき込むかのような悍ましき詩。耳にした数人が苦しみもがいていく。
そんな中でも、冷静な様子を隠さぬエリザベスは狂気に侵されてなさそうな民衆の保護も抜かりなく動いていたりする。
(暴動事件っていうと幻想蜂起を思い出しちゃうね……
あの時と状況は違うけど、この天義での暴動も見過ごせないよね!)
近くて遠い、けれどどことなく意識してしまうかこの事件を想いながら『平原の穴掘り人』ニーニア・リーカー(p3p002058) は上空に切手の塊を投げた。
「よく考えてみて、ギヨームさんに違和感があるんじゃないの!
多くの人がそれを感じてるなら、それを見ないふりしてたらダメだよ!」
そんな悲痛な説得の声は、しかしながら、余り通じていないようで。
二―ニアは少しばかり辛そうにしながら空に打ち上げた切手を降り注がせる。
「みんな正気に戻って!こんなところで力を振るっても何にもならない!
それどころか、大事なものを……最悪は生命を失うだけだよ!」
諦めてはなるものかと、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は声を上げる。
狂気に侵された人々に、それがどこまで意味があるのかは分からない。
けれど、それを諦める理由に出来るほど、彼女は大人になり切れない。
「あぁ……みんな狂ってる、狂ってる、狂ってる。
とても見てられなくて、こんなの、はやく終わらせよう……。
全部殺して、静かにして、終わらせよう……頭が、おかしくなる……」
頭痛を抑えるようにしながら呟くのは『カースウルフ』アクア・フィーリス(p3p006784)だった。本人の精神状態を反映するように、漆黒の炎が激しく燃え盛る。
柄頭で赤い核が脈打つ黒い剣身――剣のような『何か』にあふれ出る無尽蔵の憎悪を魔力に転換して、闇と炎、二種類の魔力弾を作り出し――振り抜く。
それらは螺旋を描きながら、走り抜け、一人の女性に襲い掛かる。毒性と火炎が女性を内外から蝕んでいく。
(大切な人達が帰ってきて、嬉しいって喜ぶなんて当たり前じゃない……その気持ちをこんな風に利用して!
黄泉返りがただの偽物ならまだしも心は本人同然なんだ! なんてひどい事考えるの……)
コレを仕掛けた誰かに苛立ちを隠さぬ『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は、暴徒の中心に立つ男を見た。
対して男――衣装を見る限り、十中八九、あれがギヨームだ。
ゆるりと弓を構えて徐々に上へ。明らかに射撃の手前――
「や、やめて!!」
ミルヴィが辿り着くよりも前にそれは放たれた。
銀色の輝きが空を覆い尽くす。雨のように放たれた弾丸が、暴徒を含む全域に向けて降り注がれていく。血と悲鳴が響く中、ミルヴィは走った。
暴徒達を振り切って、ようやっとたどり着くと、そのまま魔眼を向けた。
魔眼の輝きにギヨームが釣られてミルヴィを見る。
「こんな、戦いたくもない人を無理やり抑えつけて凶器に引きずり込んで!
アタシは大抵の事は許すけど、こんな事は絶対やっちゃいけない事なの!
貴方だって泣いて迎えてくれた人がいたでしょ?」
訴えかけるミルヴィに対して、ギヨームは淀んだ瞳を向けた。
●
戦いが始まってから少しの時間が経った。
一人ずつであれば大したことはないが、数が多く、暴徒との戦いでパンドラの加護はいくつも開いていた。
ヘルモルトは風のように走り抜けると、そのまま自然の流れに身を任せ、一人の暴徒を大地へ向けて強かに打ち据えた。
力が一切乗ってないように見えるその自然な動きで打ち据えられた暴徒は、そのまま綺麗に大地にめり込んで潰れていた。
暴徒の一人に向け、ランドウェラは白銀の爪をかざす。やがてボゥと青い輝きが浮かび上がり、対象に向かって飛んで行った。
衝撃波に撃ち込まれた暴徒がバチンッと音を立ててすっ飛び、後ろにいる暴徒を巻き込んで倒れていく。
(それにしてもこの『黄泉返り』、狂気の伝搬といい、死んだ者の外見をしているだけで中身は全く別物なのでしょうか)
大局的に場面を見定めながら、エリザベスは幾度目かになる呪歌を歌う。
アクアは近づいてきた暴徒にDoomで斬りつける。
「殺さないように手加減したいけど、加減できなかったらごめんね。
首と胴が離れても、体が骨になっても、怒らないでね?」
蠢く黒い剣身が走り、暴徒の首筋と胸を刺し貫いていく。
骸骨のような白い装飾が、カタカタと笑った――ような気がした。
その横で、ニーニアが操作した切手が、数人の暴徒に降り注ぎ、彼らが卒倒していく。
美しき儀礼曲刀を閃かせ、ミルヴィはギヨームに叩きこむ。
それをひらりと躱したギヨームが懐から出した短剣で反撃とばかりに無数の刺突を放ち、ミルヴィの身体を切り刻む。
その攻撃を見止めたアレクシアの両腕に収められたトリテレイアとクロランサスが淡く輝く。
安定した魔力制御により作り上げられた調和の力が、ミルヴィの身体を白黄の光で包み込み、その傷の多くを癒していく。
デイジーは暴徒の数が減り、対応に余裕が出てきたのを察すると、密かにギヨームの方へ近づいていた。大壺蛸天から出てきた黒いキューブがギヨームの身体を包み込む。
強烈な輝きと共に、言い表しえぬ音が内側から響き渡り、やがて吐いて捨てるようにその中からギヨームが現れた。
イレギュラーズの立ち位置を見渡したギヨームが、ミルヴィの方へと接近し、引き金を引いた。
弾丸は扇のように広がって進み、デイジーとミルヴィを強かに打つ。
弾丸は散るようにして広がりながら、 ミルヴィの武器でもある肢体を浅く赤に彩り、デイジーの衣装を打ち抜き、叩きこまれた弾丸に込められた毒性が、二人を蝕む。
アレクシアは掌を天に掲げた。凝縮された癒しの魔力は一際大きく輝きを放ち始め、やがて拡散されデイジーとミルヴィを包み込む。
術式がもたらす破邪の輝きが二人が帯びた毒性を鎮静化させていく。
「あなたはこれでいいの! こうして多くの人を狂気で侵して……!
魔物と戦う狩人なんでしょう! 自分の役目を思い出してよ!」
「――魔物は、お前達だろう」
アレクシアの叫びに、それまで黙々と戦っていたギヨームが不意に呟くように言った。
「――えっ?」
光を称えぬまま、こちらを射貫く瞳とかち合って、アレクシアは一瞬目を見開く――その直後、ギヨームが天へ向けて掲げた銃より無数の弾丸が降り注ぎ、ミルヴィ達三人に無数の傷跡を残していく。
「ふっ――まぁ、魔物に何を言っても無駄だろうか。口をきける奴だとは思わなかったが」
静かにそう告げたギヨームは、黎明剣イシュラークに斬り下ろされた。
そこへ、暴徒を倒しつくしたイレギュラーズ達が更に近づいてくる。
「貴方だって泣いて迎えてくれた人が居たでしょ?
貴方は偽物かもしれないけど、その時感じた気持ちや懐かしさは本物なの!」
「――その口を閉じろ、魔物ども。さっきからネチネチと、まるで私が死んでいるかのような口ぶりで!!」
激昂したギヨームがアレクシアに向けて弾丸を打ち込んでいく。
「そうじゃ。おぬしは一度死んで、甦った。そこは間違いないのじゃ」
デイジーがそう答えた。
「違う違う違う違うぅぅぅぅああぁああ!!
俺は、シンでない!! 俺は――確かにアレを殺した!
やっとの思いで!! やっと帰ってきた!! そうだ!!」
目の色を変えて、激情のままにギヨームは叫ぶ。
「ああ、暴動の原因がお前だと言われたら困るよな。
死んでると言われたって困るだろう。けど、事実だ」
追いついてきたランドウェラが淡々と告げ、青い衝撃波を打ち込んだ。
「ところで、アレってなんのことかな? ギヨームさんは魔物を狩る狩人、だったんだよね?」
動揺して動きを止めたギヨームに向けて、ニーニアは悠久のアナセマをもたらす。
痛みを伴う『神』の呪いがギヨームを蝕んでいく。
「ま、魔物にいう義理は――なぃぃ……」
「やれやれ、口をきいていただけないのではしかたありませんね」
そう言って肩をすくめたのはいつの間にか背後を取っていたヘルモルトだった。
見た目小柄な女性といった感じのメイドは綺麗な太ももにがっつりとギヨームの顔を挟み――そのまま頭から叩き落とした。
人体が鳴らしてはいけない音が響いて、しかし、男は再び銃を握る。
(んー、私達を魔物に見間違える……なんてことがありましょうか?
何やら別のモノを見ているような……はて?)
ファミリアーによる俯瞰的な戦場の視野、それに後方でネチネチと攻撃を加えていたエリザベスは、言い知れぬ違和感に首を傾げる。
「違う! 私達はローレット! イレギュラーズよ!」
イレギュラーズへの賛歌を奏でたミルヴィは再び六方昌の魔眼を魅せながらギヨームに訴える。
「いれぎゅらーず……ぐぅぅ」
苦悶の表情を浮かべ、錯乱した様子で剣を振るう狩人に近づいたミルヴィはイシュラークでそれを捌いていく。
(この人も黄泉返りかもしれないけど、どうしよう?
殺しちゃって問題ないかな……生きてても死んでても、どっちでもいいよね、もう)
アクアはその様子を見ながら、ゆらゆらと身体を揺らした後、一気に走った。
闇のようにどす黒く、血のように赤い魔力がDoomの剣身を包み込み、ギヨームへと突き立った。
●
「ぁあ……思い出しーー」
何か重要なことを、こぼすように言いながら、パンッーーと、爆ぜた。
ギヨームの身体は、他のソレらと全く同じく、黒い泥へと変じて大地へおちていく。
聞きたいことはあまり聞けなかった。というより、殆どこれまでと変わらない。
最初にソレをふと感じたのは、エリザベスだった。遥かな上空から、町を俯瞰するように出したファミリアーの鳥。
彼女に言わせるならば、『気になってなんかいないんだからね!』というツンデレ美少女の心境。
あるいは、殺人犯や放火犯が現場に戻ってくるような。
それが所謂、不安を覆い隠すためであったり、起こした事件で騒いでいる様子を見たいという心境であったり。
そんな何となく、があった。
それは、他のイレギュラーズが『ギヨームから情報を聞き出したい』という気持ちも、同じであるのかもしれなかった。
――あぁでも。そうだ。
――作り上げたお遊びを『自分が外から眺めるだけ』なんて。
そんなことをする奴がいるだろうか。
それは、転がる幾つもの暴徒達の一人。
大の字になって寝転ぶようだった一人。
目を開いたのが、見下ろしている鳥から見える。
その時だった。
その目が、綺麗に空を舞う鳥と交わった。
――ああ、それでもきっと。それだけであれば、まだ偶然だってあるはずだろう。
――けれど。ソイツが『楽し気にこちらを見て笑った』のなら。
それはもう、偶然なんて陳腐な言葉では言い表せ得ない。
「あの、一番奥にいる男に違和感がありますわ!」
エリザベスの声が響く。
イレギュラーズが反応するよりも前に、男は立ち上がる。
それも全身を一瞬ググっと曲げ、ぴょんと。
明らかにダメージを受けた人間の反応じゃない――いや、いや!
この感じは――この感覚は。
これが、人間などであろうものか。
「あははは、殺気立ってますやん。そんな鬼気迫る感じを出さなくてもいいでしょう?」
そよ風に煽られて、男のかぶっていたフードが舞う。
ふわりと、白い髪が流れ、白いタレ耳がパフパフと動き、赤い目が静かに佇んでいた。
見た目は明らかに獣種のソレ、けれど、この迫力は――。
「魔種……!」
声を上げたのは誰だっただろう。敵が何か分かった瞬間、イレギュラーズが構えを取る。
「まぁまぁ、そんなにしなくたっていいですよ。大丈夫、俺はもう帰りますから。
吠えるだけの犬は死に、良い見世物を見せていただけやしたし。
ね、それにほら。今のアンタらで俺と戦えるか?」
口調の安定しない男はからからと笑って。次の瞬間、疾風がイレギュラーズの間を抜け、そこにはもう、誰もいなかった。
嫌に不快な、狡兎の声が、酷く耳についた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
狡くて素早い兎は逃がしましたが、アレはきっと、また皆様の前に出てくるでしょう。
人的被害も、皆様のおかげで少なく済んだようです。
MVPは状況の把握を心がけたあなたへ。
GMコメント
こんばんは、春野紅葉です。
さて、そういうわけで天義で勃発した暴動事件をおふたつほどご提供な感じです。
●オーダー
暴動の鎮圧および黄泉返りの捕縛、討伐。
●戦場
フォン・ルーベルグのほど近くにある小さな町。
田舎すぎず都会すぎずの郊外風味が強い町です。
現在、暴徒達は強欲に、貪欲に、抑えていたものを解き放ったような雰囲気を見せています。
●敵対勢力
・ギヨーム
銀髪碧眼の狩人風な人物。カーティス曰く、黄泉返りであろうとのこと。
戦闘力はそこそこあります。
距離を問わぬオールマイティな戦闘スタイルを持ちます。
反応、命中、回避、CTが高め、物攻とHPは並、防技、抵抗は低め。
散弾・扇 物近扇 威力小 【防無】【致死毒】
滅弾・域 物遠域 威力小 【万能】【体勢不利】【流血】
連剣 物至単 威力中 【弱点】
連弾 物中単 威力小 【氷結】【足止め】
・暴徒×30人
棒や農具などで武装した暴徒達です。
ぶっちゃけ雑魚です。
・――
名称不明、謎です。
異様な迫力と正体不明の能力を用いている様子。
皆さんがこの事件で鉢合わせることはないでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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