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シナリオ詳細

それは白痴にして自知万能の姫
それは白痴にして自知万能の姫

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●その世界に私だけ
 彼女は、忌憚なく述べるなら『そこから出してはいけない者』だった。
 子供としてすら許されざる蒙昧さと、少女特有の夢見がちな精神性、社会に一切そぐわない感性。
 社会性というものが全く存在せず、家族がやっと彼女と意思疎通を取れ、社会との架け橋となってやっと生存しているような相手であった。
 彼女と接触できたのは彼女の家族を除いて私だけであったが、それすらも厳重な情報統制あってのことだ。
 彼女がある程度の社会的地位を――貴族の類縁という素性を隠した『一般家庭』の子でなければ、瞬く間にその異常性は露わになっていたことだろう。

 何しろ彼女は『肌の外側』については何ら知識を持たないのに、『肌の内側』に関しては下手な医師では舌を巻くほどにすべてを理解している。
 すべてを理解している、翻って、『すべてを操ることができる』。痛覚も、五感の程度も、それどころか治癒力でさえだ。
 一度、『ちょっとした事故』で彼女が開放骨折を起こした時などは、もう目を疑った、以上の感想を持たなかった。持てなかったのだ。
 時計が巻き戻されるように骨が、皮が治っていく。だが、体の外に溢れ出た血は戻らなかった。『摂取しなければ』。
 彼女はまだ、自分の異常性を理解していない。周囲と比べるという概念がないので、異常という概念を知ることはない。ただ、彼女の肌の裡にあるものがすべて彼女の知識のなかにおかれるとしたら、彼女はいずれ気付くのではないか。
 ――いや違う。彼女は最初からそれに気付いており、肉体が変化した理由は――
(ここからの文章はぐちゃぐちゃに乱れており意味を成していない)

●彼女の世界はそこにだけ
「先に申し上げておきますが、今回の殲滅対象は『元』地方領主の娘です。元、というのは……彼女はもう魔種と化しているということ、そして領主一家はすでにこの世にはいないからです」
 イレギュラーズが集まったのを確認して、『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)は淡々と告げる。魔種の少女が、堂々と巷に、自らの屋敷に住んでいる。外へと狂気を振りまかず、自らの内側に篭っている……異常といえば、異常だ。
「彼女がいつから魔種になったのかは不明です。依頼人が医師から得た資料を見るに、かなり早い段階で『呼び声』に応じたと推察されます。……外の出来事には白痴を装いつつ、自らの裡から湧き上がったそれを十二分に理解し、受け入れた。そういうことになります」
 三弦は眼鏡に手をかけ、壁に向かって資料を投射する。意志が残した資料を移し、ところどころに血糊のついた屋敷内を見せ、
「対象の少女の認識範囲は『自身の肌の内側』であり、自分の肉体に関して常識外れの治癒力と認識力を持つ。反して、会話がまともにできない程度には知恵というものがついていない。と、まあ。外界を意識しないなら彼女の討伐優先度は決して高くなかった。ですが、彼女は我々の想像できぬ方法で行動に出た」
 即ち。『肌の面積を、自分の外に向けてしまえば、そして自らの肉体が癒え続ければ外界を我が物として認識できるのではないか』――。
 三弦が投影した――練達から取り寄せられた写真器で撮影されたいくつかの写真は、少女の部屋の内側にびっしり張り巡らされた、彼女の肌、が。

「このまま彼女が無知なまま、無邪気に自己の認識を広げようとすれば、魔種として行使できる力は理論上、想定しきれぬものとなります。できるだけ速やかに、彼女を殺害して下さい」
 最後に、と。三弦は下腹部に触れ、口元に触れる。
「……彼女の中には『彼女が知りえない者』がいます。どういった経緯でそうなったのかは、ご想像におまかせします」

GMコメント

 色々複雑奇怪な話ですが、上記の情報は結構フレーバー多めです。要点のみ列挙していきます。

●成功条件
 カリナ・アル・マイナの殺害

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●カリナ・アル・マイナ
 年齢は20代にさしかかろうかという女性。OPの通り、知能レベルは簡単な会話がやっと出来る程度ながら、自分の肉体(定義は『肌の内側』)に関しては高い認識と知性を有する。
 自己治癒、代謝率、摂取物の認識その他能力が大きく向上しており、『自分の肉体内にある自我のない有機物』は経皮摂取が可能である。
 なお、戦闘区域は屋敷2階大広間。大広間全体が『彼女の肉体』に該当する(後述)。

・食眠不要、超反射神経、精神耐性持ち。インドア派(意味深)。
・再生・中/充填・大(永続)持ち。ほぼ移動しないがスキルにより攻撃範囲が広く、EXA・EXFがかなり高い。
・インナースペース(神超ラ・万能・呪い・致命)
・すべて我が手の裡に(自付・副。大広間の壁を『至近』としてレンジ計算する。壁または床への攻撃も自身へのダメージとして扱う)
・モルフェウスタッチ(物至単・連・不運、感電、乱れ、HP吸収中)
・無知の眼力(神中扇・攻勢BS回復、必殺)
・原罪の呼び声:神特特(自分を中心にレンジ2以内)、凶運(純種に対し不吉)。属性は『傲慢』。

●大広間
 屋敷2階、入り口ホールからの階段を上ってすぐの位置にある広間。30m四方。
 フィオナは広間中央辺りに立っている。
 なお、前述の通り壁面、および床の大半に人の皮が張り巡らされている。

  • それは白痴にして自知万能の姫完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年06月30日 21時30分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
告げる拳
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
サンディ・カルタ(p3p000438)
赤鬼の引き付け役
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
ゲイムメイカー
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
リインカーネーション
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
風巻・威降(p3p004719)
悲劇を断つ冴え
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
星守

リプレイ

●白痴の姫はひとり
 てをのばしてきた、「ひと」のかげをおぼえている。
 たぶん、「ひと」のかたちをしていたから「ひと」だとおもう。
「君に僕の見ている世界を見て欲しい」
 そんな「ことば」をいっていた。なにをいっているのかわからなかった。
 でも、「せかい」がもっとひろくみえるなら――あれ?

 暗転。

「外界を肌の内側と定めることで、外を知る、か」
 『沈黙の御櫛』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は理解しがたい話を聞いたとばかりに首を振る。
 魔種の行動原理というのは兎にも角にも理解しがたい。罪を充足させるための行為とはいえ、前提と経過と結果があまりにもアンバランスなのだ。
「そういえば、魔種と相対するのは初めてだな。生い立ちやらにも興味があるが……」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はそまで考えてから首を振り、己の思索の歪さ――命の危機に優先して探求を是とする考え方――を笑う。つい先日、それで相当な目に遭ったというのに。
 痛みが歩みを止める障害たり得ないのは、実のところ相当に危ない橋を渡っているのだが、いつものことだ。
「同情は隙を作ると習いました。深呼吸して、覚悟を決めましょう」
 『星守』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)は己の言葉通りに呼吸を深くし、整えてから、戦場となる屋敷を見上げた。多分、外観上は、『なにもない』のだ。
 だが、溢れ出す禍々しさは十分伝わってくる。周囲の植物から感じ取れる悪感情の渦は、それだけで脅威であると彼に認識させただろう。生い立ち、心持ち、知ってしまえば『隙』となる、と。
「何故最初の能力が『体の内側』に向いたのか。……まーいっか。俺の範囲じゃねー」
「なかなか興味深い相手ですが、あれこれ考察する暇はありませんね」
 『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)は相手についてあれこれ考えるまえに、己のやるべき事、その範疇を再度思考し決断した。
 『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)は、己の体すらチップにして外の世界を知ろうとする在り方に興味を持ちこそすれ、優先すべきは屋敷の掃除であった。
 両者ともに、仲間達同様かソレ以上に他者への興味を持っているが。それらを切り捨てたうえで、己の道を歩む道理を弁えている。
 何しろサンディは奪う者、ヘルモルトは掃き清めるのが専門だ。終わったこと、そこにないものは奪えないし拭えない。だったら、『今』だ。
(「狩り」にしちゃぁ面倒だ。将棋とか苦手なんだよ。僕。まぁ、この魔種が自分の中の「異物」に気づいた時に、どんな反応をするかは興味があるが)
 『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)はさながら詰将棋じみた魔種の相手と聞き、あからさまに不快感を示していた。苦手分野で相手と渡り合うなど正気の沙汰ではない。
 ……そのような相手すら『知り得ぬ相手』がどこからきたのか、は非常に興味があるのだが。
「うーん、自身の知りえない者が自分の中にいる、かぁ」
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は情報屋から聞いた話を反芻し、その可能性をちらと考える。もしかして、命を宿しているのでは、と。
 そう考えた者は少なからず居る。そして、誰もが口にしない。
「どうして、そうなってしまったんだろうね……でも、もう助けられないんだ」
 『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)は油断すれば吐きそうな不快感を飲み下し、歩を進める。
 彼は旅人として、この中の者達でも最も争いや諍いと縁遠い世界から来た者だ。数多の戦いを経てなお常識的な思考を崩さぬ彼は、皆が思う可能性に当然ながら気付き、その上で、相手の境遇を慮るまでに至ってしまう。
 それは傲慢だろうか? それは本当に自分勝手だろうか? 答えは否だ。
 傲慢は、裏を返せば力あるものに許された歩み寄りの姿勢、責任の発露である。だから、彼の姿勢に誤りはない。
「お屋敷のお掃除と参りましょう」
 ヘルモルトの言葉に合わせるように、一同は屋敷の扉を開く。階段を一段ずつ上る度に濃くなる狂気の色合いは、純種の面々の表情をなお固くさせる。
「……、??」
 開かれた扉の先で呆然と佇んでいた少女――カリナは小首を傾げ、口をぱくぱくと動かして何事か喋ろうとする。
「ごめんなさい。僕は、貴方の敵です。僕たちの世界を脅かすなら、貴方を倒します!」
「狩り、開始」
 エストレーリャの宣言、そして真っ先に飛び出したヴェノムに目を向けた彼女は、薄く笑みを浮かべ、両手を掲げた。
 嗚呼、それは何者をも迎え入れる慈母にも見え、何者をも飲み込む捕食者のあぎとの如くにも見え――。

●彼女の世界はひとつ
 ヴェノムの肘がばっくりと開き、鋭い骨がカリナの喉元に食らいつく。飛び散った血がどちらのものか、など考える必要もなく、ぱっくりと開いたカリナの首筋から、血が流れ出す。『溢れる』でも『噴き出す』でもなく、『流れ出す』。首を切られた人間としては緩慢すぎるほどに。
「如何に強大でも傷は付き、倒せもする。そういう体で行かせていただきます」
 ヘルモルトは間髪入れず、カリナの腕をとって前方に引き込み、顔から叩きつけようとする。鋭い投げは確実にカリナを捉えたし、叩きつけた感触はあった。だが、次の瞬間には既に何事もなかったように立っている。一瞬で体勢を整えたというのか。
「悪いが、長々と相手してやる余裕はないぜ!」
 サンディが放ったWSSがカリナを引き裂き、その動きを制限しようとする。治癒力を阻まれた彼女がそれに抗える訳もなく、向けられた悪意をそのまま被る格好となる。
「まだまだ、攻撃の手を緩める気はないよ」
 ゼフィラはModel27の引き金を引き続け、カリナの胴に弾丸を叩き込んでいく。胴に穿たれた弾丸はサンディの助力で常より深く突き刺さった筈だが、次の瞬間には腹部から吐き出され、床に転がる。音を反響しない床は、不気味なほどに柔らかい。……否。ぶちまけられた大量の血が絨毯を湿らせているのだ。幸いというべきか、そこにはカリナの『肌』は敷かれていない。
「……斬らせてもらうよ。本当にごめんね」
 威降の鎮痛な面持ちと声に合わせて、その手に妖刀が握られる。居合の構えから振り抜かれた一閃は、明らかに刃の届かぬ間合いからカリナを裂き、その精神性にすら食い込もうとする。自らの中で、自らも与り知らぬ力を振るわれる。それは恐らく強い恐怖、悪感情を促進するものだろう……だが、カリナは笑みを浮かべた。彼の一撃は浅くないだろうに、それでもだ。
「冗談めいた、力を持っていても、扱い方は、分かっていない、な?」
 エクスマリアはナイフを振るい、距離をとって斬りつけていく。不可視の斬撃は確実にその身を裂き、傷を蓄積させていく。『目の前の相手のみなれば』、エクスマリアの脳裏では着実に勝利への道筋が積み上がっていくように見えた。詰将棋にすらならない。歩兵もなく護衛もなく、一直線に殺りにいくだけでいい。
 だが、カリナは薄く笑んだまま、広げた両手を打ち合わせる。まるで羽虫を捕らえるかのような雑な動作は、次の瞬間、威降の身に慮外の圧迫を与え、すり潰そうと試みる。迫る敵意を感じ取った威降は、重圧の余波を受けるに止めた。固めた守りは彼を守り、手傷を最小限に抑え込んだ。……抑え込んだからこそ、分かる。今の一撃をまともに喰らい、治癒が通じぬ時どうなるかを。
「あれ?」
 カリナはその時、初めて声を発した。
 心からの疑問を口にするように。首を傾げ、声を吐き出し。
「じゃあ、こっち……?」
 ゆらりと伸ばされた手は、ヘルモルトに触れる。たった一度の接触は、しかし彼女の動きを止めるのに十分。
「っ……お上手ですね、その調子ですよ」
 ヘルモルトはモルフェウスタッチの威力を肌で感じつつ、彼女の声ならぬ声を感じ取っていた。攻防ありきの肉体言語(わかりあい)は、当てることのみならず、受けることも要すものだ。
「エストレーリャさん、ヘルモルトさんをお願い!」
「分かりました、任せて下さい!」
 スティアとエストレーリャは互いに声をかけあい、ヘルモルトの不調を癒す。浅からぬ傷を癒やし切るのはかなわぬが、それでも不調は最小限にとどまった格好だ。
「傷が癒えないのは好都合っスが、ヘルモルト先輩、なにかつかめたっスか?」
 ヴェノムはヘルモルトへ向け、問いかける。攻防を経て何かを感じ取ったなら、彼女はそれを正しく伝えてくれるだろう――と。
「ええ。これだけ攻撃しているのに、割とまだまだピンピンしているということと……楽しんでいるということぐらいは」
 言うなり、ヘルモルトは威降の落首山茶花に合わせて柳風崩しを仕掛け、さらなる手傷を重ねようとする。だから、というわけでもあるまいが。彼女の目の輝きはいや増し、間合いに踏み込んだ2人を眼力によって縫い止めにくる。指先を探るように動かしたカリナは、さらに壁から誘うように手を伸ばすが、イレギュラーズはその身を壁際に沿わせる愚を犯さない。
 残念そうな表情をした彼女の純朴さは、一同の混乱を弥増すこととなるが……それすらも『魔種らしい振る舞い』であることは間違いない。
「貴女を放置するわけにはいかないの。この先どうなるか分からない以上、私達は貴女を倒すことを選択する!」
 僅かな攻防の中で力量を見きったスティアは、企図した短期決戦の図式が崩れかねぬ相手であることを理解した。魔種を前にそれは多大な恐怖であるが……それでも戦線を背負うのは彼女とエストレーリャの2人だ。ここで気を吐かずしてどこで踏ん張るというのか?
「……そう」
 カリナはスティアの言葉を聞き、残念そうに俯いた。無知蒙昧を人形にした少女の瞳は、今その時を以て凶悪な魔種の色合いを濃くし、イレギュラーズをしっかりと見据えた。
「わたしのなかで、わたしじゃないひとが、『わたしのおもいじゃないことば』を、いうのね」
「ああそうだ、私達は君じゃないからな。君の中にいても、私達は君とは違う」
 カリナの問いかけに答えたゼフィラは、相手の肉体、それに秘められた何かを看破しようと試みる。『それが隠蔽ないし隠しているものであれば通じただろうが』、秘すこともされず捨て置かれた何かを見抜く事が誰にできようか?
「わたしといっしょになりましょう。あなたもあなたも、わたしになれば」
 わからないことなんてなくなる。
 わからないままは、いや。
 悲鳴のような独白は、無意識に悪意を溶かし込み、撒き散らす。――『呼び声』を。

●誰も知らない物語の終わり
 悪運の奔流が旅人達を縛り付け、『傲慢』の気配が純種であるサンディ、スティア、そしてエストレーリャに襲いかかる。
 カリナはイレギュラーズを受け入れる為に手を広げ、二度、手拍子を繰り返す。
 凶暴性を増し、悪意を散らし、純種の内奥にある罪を曝け出すよう強く迫る。
「全てを知れば、強そう。優位に立てそう。でも、僕は、全部が分からなくても、分からないままで、一緒にいられるようにしたいから」
「貴女が魔種である以上、私達は貴女には自由を与えられない。だから――」
 エストレーリャとスティアは、迫る傲慢の指先を振り払い、意識を強く保とうとする。全身からかき集めた魔力を癒やしに傾け、2人は誰も倒れさせぬと意思を固める。
 たとえそれが叶わぬ願いであっても。結末に至るまで全力を傾けることの何を嘲笑えるものか。
「……なあ。お前の『体の中の何か』、それは魔種じゃねえのか?」
 サンディは自らを揺さぶる呼び声を押さえ込みながら、カリナに対し問いかける。サンディは、彼女が宿した何かは魔種ではない別の者ではないか、と考えたのだ。
 前例が存在せず、知られていないが故に確かなことは言えないのだが。そうでないなら、と儚い夢を見たのである。
「しらない」
 すげなく応じたカリナであったが、明らかにその声には動揺が混じっていた。自分の中にありながら知らぬもの。知ることが出来ぬもの。それを他人が知り得るなど、あり得ないとばかりに。
「カリナ・アル・マイナ。世界より先に、自分の中に居るものを、知るべきではないか? お前の中に、お前でないものがいる。それを、理解しているか?」
「しらない。……わたしのなかで、わたしがしらないなんて」
 無いか? エクスマリアの言葉に反駁しようとしたカリナは、自分に改めて問いかける。あの青年は何と問うた? この女は何と言った?
 揺さぶりをかけられた彼女は、その問いかけを振り払うように暴れる。暴威を振るう。
「おや、気づいてないのかな?或いはその手の知識も無いか……いや、ゲスの勘ぐりはよそう。お腹の子が可哀想だがね」
 ゼフィラの言葉を聞き、自らの『無知』を識り、カリナの表情は狂気の色合いを増していく。
 その猛攻は、明らかに……一同の問いかけへの肯定ともとれる。固く閉じた記憶の蓋をこじ開けることは、さらなる凶暴性を引き出すリスクもあるだろうが……ヴェノムは迷うことなく、腰の触腕をカリナの腹部へと突っ込ませる。悲鳴に似た咆哮とともに突き出された手は、『タッチ(接触)』などという生易しさをかなぐり捨てた必死さでその触腕を叩き落としにかかる。だが、そうするには近すぎる。
 ヴェノムの『舌槍』の本領は触腕ではなく、そこから突き出される舌なのだ。リーチ差を理解せねば、回避することは儘ならない。
「魔種が子を授けられるのか、魔種が子供を為せるのかなんて僕は興味ないッスけどね。母心があるのは良いことだと思ったっスよ」
 果たしてどこまで本心かは、最早知るよしもないのだが。舌槍が下腹部を深々と貫いた時点で、彼女の言葉は真となった。
「……っ」
 威降は歯軋りする己を隠さず、リベリオンを装着した手を手刀に構えてカリナの間合いに踏み込む。乱れそうな息を整え、耳から叩き込まれた情報を切り捨て、ヴェノムが正面から下腹部を貫いたなら、背後から首へと手を伸ばす。
 なめらかな軌道を描いた手刀は、カリナの首と胴を泣き別れにし、残心とともに僅かな血を振り払う。ぐにゃりと壁が歪むと、四方に張り巡らされた『肌』が崩れ落ち、一瞬にして腐り果てていく。
 ……運命を削り、深手を負った者もいる。癒やしの限りを尽くしても、受けた傷跡は浅くはない。
 だが、イレギュラーズはそれを差し引いてなお、魔種の討伐を成し遂げたのである。

 全てが済んだ後、屋敷の裏手に作られた墓はふたつ。
 カリナ・アル・マイナの墓標と――彼女の身籠った『なにか』の墓である。
 魔種になる前に孕んだのか? 魔種の種を孕んだのか? ソレ以外のなにかの可能性だったのか? ……今となっては知ることもできないが。
 恐らくは少女の歪んだ知性は、あの世ではもう歪むことはないだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167) [重傷]
告げる拳
黎明院・ゼフィラ(p3p002101) [重傷]
夜明け前の風

あとがき

 大変おまたせして申し訳ありません。お疲れ様でした。
 皆さんの認識通り、『彼女が知らぬもの=子供』だったわけですが、こう、なんとも……アレですね、はい。
 皆さんが強力だったこともあり、被害は大分軽減されています。
 回復主の常とはいえ、FBの低さは脅威ですよね……。

 以上、お疲れ様でした。
 また機会があれば。

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