シナリオ詳細
キャラバンサライに落ちる闇
オープニング
混沌世界を巡る人、物、情報の流れ。
隊商交易は世界の活性化に欠かせぬものであるのだが、その移動には少なからぬ危険が伴う。
悪天候、野生動物の群れ、ゴブリンや物盗りによる襲撃など、警戒すべきことは多く、移動中は気が休まらない。
そんな移動者たちが、もっとも危険な夜間をやり過ごすための場所として、キャラバンサライがあった。
多くはバザールに隣接して建てられ、堅固な壁に守られた中で隊商が宿泊できるようになっている。頑丈な建物の中、食事や入浴も可能で、夜間の襲撃に怯えることなくゆっくりと眠れるキャラバンサライは、旅をする者にとって心身を休めることのできる貴重な場所だ。
「けど、どんな立派は壁に囲まれてても、中に入った悪党は防げないんすよ」
『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)はそう言って、なめかけの棒付きキャンディーを軽く振った。
「使い勝手の良いキャラバンサライっすから、重宝してたんすけどね」
リヴィエールが言うのは、テミス地区にあるキャラバンサライのことだ。高い壁に守られたそのキャラバンサライの中央には広い中庭があり、周囲には数多くの露店が出ている。
そこここに建つ宿屋は、1階に飲食店や旅に必要なものを売る店、倉庫などがあり、2階以上は宿泊のための部屋となっている造りのものが多い。
馬やラクダ、荷馬車を丸ごと預かってくれる設備が整っているし、周辺の情勢なども教えてくれる、とあって多くの旅人に利用されている。
だがここ最近、その内部で不穏な事件が起きているのだという。
「1つは子どものスリ集団っす」
人が好さそうで、かつ金持ちそうな相手を見繕い、転んだ、物を落とした、そんな風に困った様子を装って、子どもの1人が近づく。そして親切に対応してくれる相手を別の子供たちが取り囲み、隙を見て財布をスリ取る。犯行は薄暗くなる時間帯に行われ、子どもたちはさっさと逃げ去ってしまう。
どうやら、旅の途中で親を亡くした子どもたちが十数人集まって、生活のためにそうしているらしい。中心となっているのは、リジィと呼ばれる15歳ほどの少女だと思われる。
「もう1つは人さらいっす」
キャラバンサライの中でも一番大きな宿屋で、女性、あるいは女性と子どものみの部屋が、朝になると空っぽになっていることがこれまでに何度かあった。基本、宿は前払いのため、早くに発ったのだろうと思われていたが、今回、家族が探しに来たことにより行方不明になっているのが発覚した。事件の被害者は、美人でおとなしげな雰囲気の女性だったという。
鍵が壊されているなどのことはなく、宿で働く人の中に手引きをしている人がいるのではないかと思われる。
治安の悪化はキャラバンサライ存続に関わる重大な問題だ。
この2つの事件を解決し、テミス地区のキャラバンサライの治安を回復してほしい、というのがリヴィエールからの依頼だ。
「ただ、あんまり大人数で動くと警戒されると思うんっすよね」
スリも誘拐も、人数の多い集団には手を出さない。
どこで誰に見られているかわからない。少人数に分かれて潜入し、互いが知り合いだと悟られないように留意したほうが良いだろう。
「まあ、明るいうちは適当に、露店とか楽しんでもらったほうが、警戒されずにすむかもしれないっす」
そのあたりはうまくやってほしいとリヴィエールは言う。
「ここが使えなくなると不便なんで、今のうちになんとかしてもらいたいんすよ」
お願いするっす、とリヴィエールはイレギュラーズに頼むのだった。
- キャラバンサライに落ちる闇完了
- GM名月舘ゆき乃
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年05月19日 21時50分
- 参加人数8/8人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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キャラバンサライには、人の声や物音が溶け合いわぁんとした唸りとなって満ちていた。
肉の焼ける匂いが客を誘い、びっしりと並べられた香辛料が鼻腔を刺激し、老婆が売り歩く小瓶からは蠱惑的な甘い香りが漂う。
「お、そこの美人さん、うちの化粧品を是非見ていってくださいよ」
呼びこみに誘われて、『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)は、興味津々に店先を覗き込んだ。金彩の施された容器におさめられた化粧品はどれも美しく、そしてかなり高価だ。庶民には手が出ない金額だが、熱心に品定めしている客もいる。
かと思えば、みすぼらしい風体の花売りが小さな花束を売り歩いていたりもし、貧富の格差が大きいことが見て取れた。
(煌びやかな灯りの陰にはより深い闇が生まれる、ということでしょうか。人の世は恐ろしゅうございますねぇ)
そんなことを考えつつ、エリザベスは店主が手にはたいてくれたおしろいに目を細めた。
中央の広場周辺には飲食を提供する店が目立つ。食べたことのない飲み物を、『銀の腕』一条 佐里(p3p007118)は珍しげに口に運んだ。
「うっ」
癖のないミルクに見えた飲み物が濃厚に喉にまとわりつき、佐里は息を詰まらせる。
「ははっ、ラクドを知らなかったのか? 慣れると病みつきになるんだがなぁ」
佐里の様子から、この辺りに詳しくないと察したのだろう。店主は笑いながら、周囲で売っている飲食物をあれこれと説明してくれた。
『天棲鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)はといえば、物慣れない様子からカモにしやすい旅行者だと判断されてしまったのか、あれやこれやと品物を前に広げられてしまう。
「変わったアクセとか好きっしょ? これなんてサイコーっすよ」
馴れ馴れしい商人には辟易したが、品物は面白い。
(買い物した代金経費で落ち……ないか)
値段交渉したいところだがそれはあきらめて、ェクセレリァスは凝った作りの飾り紐を購った。
道に日陰を作る樹の下で、『星守』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)は枝にとまる小鳥に顔を寄せた。
「……そう。ありがと」
リジィたちの居場所を尋ねているのだが、子どものいる場所の情報は多く特定は難しい。路地の奥に何人か子どもがいると聞き、エストレーリャは気に留めておく。
旅に同行している子ども。サライで暮らしている子ども。幸せな環境にいる子もそうでない子もいるだろう。
ふらりとサライを歩きながら、『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)は子どもたちの様子に目をやった。他の地域と比べるとここでは忙しく動き回っている子どもが目につく。荷物を運ぶ子、店先で呼び込みをしている子。そんな光景が活気あるサライに似合う。
探せば働き口はありそうなものだが、知らぬ大人に働かせてほしいと頼みに行くのは、子どもにはハードルの高いことなのかもしれない。
(それに、ここはシゴトしやすそうだしな)
雑多なものと人が流れ込み、道行く人は商品に目を奪われて気もそぞろ。顔見知りになる前に入れ替わるから、人と人のつながりは薄く周囲に気が払われない。被害者はサライに長居しないから、後腐れもない……つい道行く人の懐具合を推し量りそうになり、サンディは視線を戻した。
●
空に赤みがさしてくると、店のひっきりなしの呼び込みや、食事や宿へと流れてゆこうとする人々の動きで、サライは慌ただしさを増した。
そろそろ頃合いかと『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は古めかしいギターを抱えた。激しくギターをかき鳴らし、人々の関心を引く。
心揺さぶるリズムと、それに載せられた歌が楽しく弾む。興味をひかれた人々が寄ってきたところで、今度は哀切な歌声にあわせ、ゆったりとストールを翻しながら踊った。
人々の意識がミルヴィに向く中、誰かに押されでもしたのだろうか。幼い子どもがつき飛ばされたように転んだ。
「おや、大丈夫かい」
自分の足下に倒れこんだ子を、人の好さそうな紳士が助け起こした。べそをかいている子をあやしながら、男性は服についた土を払ってやる。
「アニー、どうしたの?」
子どもたちが数人、心配そうにやってきた。男性に礼を言ったり泣いている子を慰めたりしたあと、何事もなかったかのように散ってゆく。
「やはりあの人を狙いましたか」
佐里があたりをつけた中でも筆頭の被害者候補だった男性だ。犯行は隠されていて見えなかったが、間違いなくスリは行われたのだろう。佐里は逃げ去る子どもの1人の後を追った。
「うまくいった、とでも思ってるんだろう?」
残念だったなと、サンディは人ごみに紛れていこうとしていたアニーの腕を捕まえた。アニーはさっきまでべそをかいていたとは思えない、きつい目つきで見返した。
「あたしは転んじゃっただけ。それがなんなの? あたしが何か持ってるとでも?」
犯行に関しては知らないと言い張る。今までもそうしてしらを切って乗り切ってきたのだろうかと思ったとき、サンディの耳にエストレーリャのテレパシーが届いた。
(――靴店の裏。突き当りを左、3軒目の空き倉庫――)
エストレーリャがちらっとこちらに視線を送って、靴店の裏の路地に入ってゆくのが目に映る。鳥の追跡によってスリ集団の居場所をつかめたようだ。
アニーの腕を掴んだまま、サンディも倉庫を目指した。
●
観衆から抜けてくるのに手間取ってミルヴィの到着はやや遅れたが、イレギュラーズ4人が小さな傾きかけた倉庫の出口に陣取れば、子どもたちに逃げ場はなかった。
「生きるために盗む。弱肉強食。自然なら、当たり前――ですが」
奥に身を寄せ合う子どもたちへとエストレーリャは言った
「あんまり悪さをすると、今日みたいにこうやって狩られちゃいますよ」
ガオーっと脅かすと、子どもたちは身を縮めた。その間から、背の高いひときわやせた少女が立ち上がり、数歩進み出てくる。
「リジィさんですか?」
佐里が確かめると少女は頷いた。
「まさか子どものしたことだから、と無罪放免の流れは想像してないでしょう? 自警団に突き出すか、もしくは肖像画でも描いてばらまきましょうか? それで盗みは出来なくなって終わりです」
「私が無理やりやらせてたの。だから突き出すのは私だけにして」
「そんなの通るはずありません」
うなだれたリジィに佐里は、続かないですよこんなこと、と続けた。いつか露見して終わるだけのその場しのぎ。もし運よく捕まらずに済んだとしても。
「相手の注意をそらして事に及ぶ。よく考えたとは思うが、治安が悪くなればサライに来るのは次第にヤベー商人だけになる。どのみち終了だ」
サンディからの指摘を、リジィは両手をぎゅっと握り合わせて聞いていた。彼女だってどこかでわかっていたのだろう。自分たちがしているのが、いつかは落ちることが決まっている綱渡りなのだということは。
そんなリジィの様子に目をやったあと、佐里は語調を緩めた。
「……どうしたらいいかわからなかったんですよね」
言葉にこめられた共感にリジィが不思議そうに眼をあげると、佐里は淡く微笑んだ。
「私も14のとき、家族を失いました」
「アタシも昔そうだった。だからアンタたちの状況はわかるよ」
天涯孤独なった子どもが途方に暮れる気持ちも、一時的に助けるのでは根本的な解決にならないことも、ミルヴィはよく知っている。
「こんなことは長続きしない。働き口がないか口利きするし、芸が必要なら教える。だからここから抜け出そうよ」
働き口、と呟いてリジィは顔をこわばらせた。
「そうやって誘われた子が、何人もいなくなってる」
「人さらいにあったってこと? 何か知っているなら教えてもらえないかな」
ミルヴィに聞かれ、リジィはよく知らない、と首を振った。
「いなくなったのに気づいて探し回ったけど、見つからなかった。サライは広くないから隠れる場所もそんなにないのに。きっと、すぐここを出てるんだ」
堅固な壁で守られているサライだが、門番に言えば出入りはできる。特に内から出るほうのチェックはゆるく、声をかけるだけでほぼ大丈夫だ。中で潜伏するよりも外に逃げるほうが発見されにくいから、とリジィは唇を噛みしめた。
「アタシは人さらいじゃない。証明する手立てはないんだけど、ホントに助けたいと思ってる。やれるだけアンタたちを助けるから、もうこんなこと続けるのは思いとどまってくれない?」
リジィは黙り込み、どうすべきか必死に考えている様子だった。
「私も全員分、働く先を探します。住み込みOKの処もあるし賄いの出るお店もありますよ」
サライにもあるかもしれないし、なければ外で探したっていい、と佐里も言う。
「生きるために、できること、できないこと、僕も一緒に考えます」
だからもう手段を間違わないように、とエストレーリャは子供たちを見渡した。
リジィの目が、イレギュラーズへ子どもたちへ、とせわしなく動き。
やがて頷いた。
「お願い……します」
「おーし、決まりだ。親がいねえなら、お前らは俺と同じでもう子どもじゃねえ。どっかの街に入れてもらうしかねえのさ。まずは一緒に、この街に頭下げにいくぜ」
まずは自分のしたことに対する反省と謝罪。そこから始めようとサンディはリジィの頭にぽんと手を載せた。
●
サライ見物を終えたェクセレリァスは、棺桶部分に買い物をおさめた機蟹「ナイン・ザ・コフィン」 を待機させてから、宿の受付へ行った。すでに予約してあるから、簡単な手続きのあと鍵を受け取り部屋へと向かう。
それとすれ違うように、男の子が『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の手を引っ張って宿に入ってきた。
「ねーねー、お姉ちゃんもここのお宿に泊まるの? あとでお部屋に行ってもいい?」
「ヨハン、お姉さんの邪魔をしたらダメよ」
母親のサリナがたしなめるのに、アレクシアはいいですよ、と笑ってヨハンにおいでと答えた。
お土産を探しているときに知り合って、ヨハンが欲しがっていたお菓子を買ってあげたのをきっかけに、すっかり仲良くなったのだ。
わーいと喜ぶヨハンだったが、部屋を取ろうとしたアレクシアは受付で申し訳なさそうに断られた。
「今日は満室なんですよ。なんでも大きな荷捌きがあるとかで」
「えっ、そんなの困るよ!」
アレクシアは大声をあげた。すでに宿を予約済みだったサリナが心配そうに振り返る。
すみませんと繰り返す受付に、アレクシアは途方に暮れた。そこに、隣で宿泊手続きを取っていた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が見かねたように声をかける。
「女性が野宿というわけにもいかないですね。女性の泊り客がいるなら、相部屋というのも選択肢に入れてみてはいかがでしょう」
空き部屋を埋めたのが自分の友人であることはおくびにも出さず、寛治は提案した。
「私は助かるけど、いいって言ってくれる人がいるかな?」
「あの……よろしければ」
ご一緒しますか、というサリナの申し出を、アレクシアは申し訳なさそうに、けれどありがたく受けた。
「お部屋でいっぱい遊ぼうね!」
「わーい」
アレクシアはぴょんぴょん跳ねるヨハンの手を引いて、元気に宿の廊下を歩いて行った。
寛治は直接自分の部屋に行くのではなく、その途中で周囲をちらりと見回してから、友人の部屋へと入った。
「内通者らしい従業員はいましたか?」
最近雇われたばかり、あるいは経歴が怪しい従業員をあぶり出そうと頼んでおいたのだが、こちらは芳しくなかった。該当者がいないのではなく、多すぎたのだ。誰もがそれらしく見えてしまう。
「これも土地柄なのでしょうか」
引き続きお願いしますと頼むと、寛治は今度はェクセレリァスの部屋に向かった。
●
そして余は更け。
深夜の宿では押し殺した声がかわされていた。
「女2人と子ども……数は手に入るが騒がれそうだ」
「狩場を守るためにゃ、着実が一番だろ。1人のほうだ」
「ならこっちだよ」
先導しているのは、宿の下働きをしている中年の女。そのあとに4人の男が続く。目的の部屋の前で足を止めると、音のしないようにそっと合い鍵で扉を開けた。男2人が廊下に残り、残り2人の男と従業員の女が部屋に入る。
ターゲットはよく眠っているようだ。毛布からオパール色の髪が見えている。
男たちは忍び足でベッドに寄ると、一気にェクセレリァスの口をふさぎ、持ってきたロープで縛り上げた。ェクセレリァスを担ぎ上げて逃走にかかろうとする目の前で――扉が閉まった。
「なんだてめぇ。いつからそこにいた?」
静かに扉を閉めた寛治は振り返る。
「かなり前からおりました。一網打尽とはいきませんでしたが、貴女だけは逃がすわけにいかないのですよ」
寛治の視線が従業員の女性に向けられる。憎々し気に視線を受け止めた女は、ナイフを抜き放った。
「うわあぁぁぁぁ!」
魂消る悲鳴はェクセレリァスを担いでいた男の口から発せられた。ロープを切って拘束から逃れたェクセレリァスが、玉虫色に輝く半透明の結晶へと変化したのだから、驚くのも当然か。
腰が引けかけている人さらいたちへと寛治の蹴りとェクセレリァスの虹色の光刃がみまわれた。
廊下で見張りをしていた男たちは一目散に宿から飛び出した。闇に紛れるように駆け、外で待機していた仲間と合流する。
「こん中じゃ逃げきれねぇ。ずらかるぞ」
用意してあった荷車は打ち捨てて、サライの門へと急ぐ。その足元にGRG-13から発射された魔力弾がさく裂した。
「遠距離だと殺さずにいる手立てがございませんの。あまりちょろちょろ動かれると、うっかり頭を射抜いてしまうかもしれませんが、そのときは日ごろの行いが悪かったと諦めていただけますわよね」
近くの建物のバルコニーで、エリザベスが青いライフルをまっすぐに人さらいへと向けていた。
地上では、親子連れの部屋から抜け出して追跡してきたアレクシアが、
「神妙にお縄についてもらうよ」
と姿を現す。
それでも逃走を図ろうとする賊の前に、サライの門への道を封鎖するように、サンディ、ミルヴィ、エストレーリャ、佐里が立ちふさがる。
脅しを兼ねて数発叩き込めば、賊は助けてくれと両手をあげた。
●
捕縛した人さらいの一味は8人。これで全員なのかと寛治が尋ねると、リーダーの男からは、まあそんなもんだと歯切れ悪い返事がかえってきた。
「浚った女性や子どもはどこにいますか」
「適当に売り飛ばしたからな……よくわからん」
協力的でない答えに、寛治は嘆息する。
「拷問にかける必要がありそうですね」
それなら、とェクセレリァスはリーダーの傍らに寄った。。
「拷問ってのは、痛めつけることでなく心を折ることが目的だから、余り痛くしないけど覚悟しといて。たとえば、ずっと足裏くすぐられるのと、延々黒板ひっかく音を聞かされるのとどっちがいい、とかね」
こわばっていたリーダーの表情がわずかに緩む。
「それくらいならと思った? どちらも続けると発狂するらしいよ」
ェクセレリァスが足裏へ手を伸ばすと、リーダーは叫んで足を引いた。
「行方不明者を発見するには、やむを得ません。8人いれば数人が発狂しても……」
淡々と話す寛治を、リーダーの慌てた声が遮る。
「わかった! 話す、話すから!」
やめてくれ、とリーダーの男は縛られたまま芋虫のように後ずさった。
聞きたいことを聞き出してから、人さらいの一味は自警団に引き渡された。その後どんな裁きが下されるのかは、自警団に任される。
「スリをやってた子どもたちを自警団で活躍させるとか……できないかな? 不用心な人とか見極めるのも得意じゃないかなって思うんだけど」
アレクシアは自警団に頼んでみたが、子どもにつとまる仕事ではないし、ましてや犯罪に手を染めていた信用のおけない人物を受け入れるわけにないかない、と拒否された。
自警団のみならず、サライでもなかなか受け入れ先は見つからなかった。商人にとっては、盗みというものは忌み嫌われる犯罪なのだ。
たとえ子どもであったとしても、してきたことの結果は受け止めなければならない。子どもたちだけだったらその厳しい現実に、打ちのめされることしかできなかっただろうけれど。
佐里は、子どもたちへと左手を差し伸べた。
「何人かは受け入れてもらえてよかったです。残りの方は王都へ行きましょう。途中の宿場町でも探せますし」
「移動の旅費はアタシがもつから安心して。芸に興味があるなら道中に教えるよ。何かの役に立つかもしれない」
ミルヴィも子どもたちを励ました。
犯罪から本人が抜け出そうとしていて、且つ力強い救済の手があれば、きっとやり直せる。まだまだ子どもたちの人生はこれからなのだから。
イレギュラーズは子どもたちを引き連れて、到着したときよりも空気が澄んでいるような気がするキャラバンサライを後にしたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
事件は2つとも無事に解決となりました。
MVPは、誘拐事件と子どもたちにつながりがあることを見抜き、誘拐犯を一網打尽にするきっかけとなる情報を引き出すことのできたミルヴィさんへ。
人さらいから得た情報はあえて今回は伏せてあります。機会があれば、今回聞き出した情報からの依頼がだせれば、なんて思ってもいたり。
ではでは。ご参加ありがとうございました。
GMコメント
Pandora Party Projectをお楽しみ中のみなさま、月舘ゆき乃(つきだて・ゆきの)と申します。どうぞよしなに。
敵はゆるい感じですが、事件は2つとも解決させないと成功判定となりませんので、がんばってくださいませ。
情報制度はB、というところでしょうか。
情報に嘘はありませんし裏もありませんが、行動によっては予期せぬ事態が起きることもあるかもしれません。
●事件1……リジィを自警団に引き渡す、殺す、手を引かせる、などすれば、スリ集団は統率を失い散り散りになります。または、リジィ以外の半数以上の子どもを自警団に引き渡す、殺す、手を引かせるなどすれば、集団は維持できなくなり同様に散り散りになります。外に放り出して二度と中に入れない措置を取る、など他の手段でも構いません。
とにかく、キャラバンサライでのスリをやめさせることができれば成功となります。
●事件2……人さらいに関与している一味を、自警団に引き渡す、殺す、手を引かせる、人さらいができないようにする、など何らかの手段でこれ以上人さらいが起きないようにすれ成功となります。一網打尽にしなくとも、手引きをしている従業員さえなんとかできれば、人さらいを続けることはできなくなるでしょう。
狙われるのは、おとなしそうな女性(小さな子ども連れ可)です。当日、キャラバンサライに宿泊する人の中に、該当者は1組(女性+3歳の男の子)のみいます。
外部にいる一味のほか、宿にいる手引きをしている従業員に警戒されると、犯行は行われず、事件の解決が困難になります。
事件1が黄昏時、事件2は夜中に起きますので時間帯は重なりませんが、事件1に関与して目立ってしまった方は、事件2の人さらいの一味に顔を覚えられて警戒されてしまう恐れがあります。事件1対応と事件2対応に人員を分ける、あるいは事件1の際に目撃されないような対策を取る、などくれぐれもご注意ください。
明るいうちはキャラバンサライで楽しく過ごしてくださいませ。囮となる場合は、このときに狙われやすくなるような工夫をしておくと良いでしょう。
オープニングに明記されていない部分は、常識的にありそうな範囲で決めていただいて構いません。
ではでは。みなさまがキャラバンサライでどう過ごすのか、楽しみにお待ちしています。
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