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シナリオ詳細

罪と罰、対処と見せしめ~後門の狼~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●些細な罪
 いつも通る、道。そこに建っている大きなお屋敷。
 そのお庭には、とても大きな木が生えていて、この時期になると、とてもおいしい果実をたくさんつけるのです。
 見ていると、お腹が鳴りました。
 私の住んでいる孤児院は、あまりお金がなく、こういったデザートのようなものを口にする事は夢のまた夢。
 だから私は――悪い事とはわかっていました。それでも、その果実に手を伸ばし。
 一つ、もぎ取りました。

●決裂
「では、どうしても、子供を引き渡してはくださらないと?」
 男が言う。
 派手な服を着た、壮年の男である。
「ええ、おっしゃることは理解しています。そして、それは正しいのでしょう。ですが、その罰は、あまりにも重すぎます」
 『幻想大司教』イレーヌ・アルエは毅然と答えた。
 中央大教会の応接室で、2人は対峙している。
 発端は、中央大教会の管理、運営する孤児院、そこに住む一人の少女が引き起こした事件である。
 と言っても、何のことはない。他人の敷地に生えていた木から、果実を一つ、もぎ取った。
 敷地内にあるものの所有権は、当然敷地の所有者にあるので、この場合、盗んだ、ともいう。
 さて、常なれば、子供のした事である。叱って終わり。そう言う類の物だろう。
 だが、相手が悪かった。その果実の持ち主は、幻想貴族の一人、ロン・モース伯。金はあるが、プライドが高く性格が悪い。そして極めて悪徳貴族的な思想の持ち主である。
「殺そう。死罪だ。平民如きが、貴族の物に手を出していいはずがない」
 顔色一つ変えず、モース伯はそう言った。
 一応、彼にも言い分はある。国とは法によって管理されている。法とは国であり、国とは貴族である。つまり貴族とは法であり、法とは貴族が決めるものである。
 滅茶苦茶であるが、誰も逆らえなかった。権力(ちから)と暴力(ちから)。両方を備えているものは厄介である。
 もちろん、イレーヌは全力でこれに抗議した。当然のことながら交渉は決裂した。
 今日は最後の話し合いの場であったのだ。モース伯は鼻を鳴らし、
「いえ、残念です。では、私はこれで。ああ、そうそう、最近は良く風が吹きます。火事などにはお気をつけて」
 捨て台詞を残し、モース伯は応接室を後にした。
 ――分かりやすい脅しですね。
 イレーヌは嘆息した。何らかの実力行使に出る。そういう事なのだろう。
 イレーヌは考えをめぐらす。モース伯。彼が何かをしでかすとしたら、ローレットの人間を動かすか?
 いや、蛇蝎のごとく平民を嫌っている男だ。直接ローレットとやり取りはするまい。
 となると。彼が泣きつくとしたら、恐らくはアーベントロートの……。
 イレーヌはため息をつく。厄介な取引になりそうだ。
「誰かいませんか?」
 イレーヌが声をあげると、1人の修道士が現れる。
「モース伯の動向を調べてください。それから、ローレットへ連絡を」
 イレーヌが修道士へ告げる。修道士はうなづくと、退室していった。
 ――まったく。盗賊王が幻想に現れたという噂の対処もしなければならないのに。貴族たちはどうしてこうも……。
 ふう、とため息をつく。ぼやいていても始まらない。やる事は山積みだ。まずは、一つ一つ崩していこう。
 イレーヌは立ち上がると、早速プランを練り始めた。

●脱出口
「お集まりいただき感謝いたします、イレギュラーズの皆様」
 中央大教会の応接室では、イレーヌとお付きの修道士、そしてイレギュラーズたちが対面していた。
「早速で申し訳ありませんが、今回、私たちが皆様にお願いする依頼、その内容について説明いたします」
 なんでも、中央大教会が管理、運営するとある孤児院の住人が、ある貴族の怒りにふれた。
 その貴族は、よりにもよって孤児院の放火をもくろんでいるという。
 となると、イレギュラーズの仕事は、その放火の阻止か。
 尋ねるイレギュラーズに、イレーヌは首を振った。
「いいえ。放火は放置してくださって構いません」
 イレーヌによれば、迂闊にそれを止めてしまえば、余計に貴族の怒りを買い、さらなる事態に発展する可能性があるのだという。
 貴族には、逆らえない。今はまだ。その為、とにもかくにも貴族が振り上げた拳の落としどころを与えなければならない。
「実は、件の孤児院は、かつて貴族達の小競り合いがあった時に前線基地として使われていた建物を再利用したものでして。地下に、脱出通路が存在するのです」
 つまり、こうだ。
 イレギュラーズ達には、貴族の手下による孤児院放火当日、その決行より少し先に孤児院に侵入し、地下通路から中の住人たちを連れて脱出して欲しいというのだ。
 ただし、地下通路は長年放置されていた関係で、スケルトンやグールの様な怪物が徘徊している。この怪物を排除し、脱出しなければならない。
 敵の追手は来ないのか、と尋ねるイレギュラーズに、
「孤児院には7名の僧兵を派遣しました。追加で、6名の僧兵の増援を予定しています。皆さまが脱出する時間を稼ぐには十分かと」
 イレーヌが言った。
 その僧兵たちはどうするのだ? イレギュラーズの一人が、当たり前の疑問の言葉をあげる。
「それに関しては手は打ってあります。皆、無事に生きて帰ってきますので、心配は不要です」
 イレーヌは断言した。イレーヌがそうだというのだから、そうなのだろう。
 イレーヌが無策で動く人間ではないことを、イレギュラーズは知っている。恐らく、裏で――イレギュラーズとは異なる戦場で、何らかの戦いを繰り広げたに違いない。
「それから、モース伯が雇った男達……野党崩れのようですが、6名ほど、周辺をうろついている、という情報を得ています。もしかしたら、彼らは地下通路の事を知っていて、出口を探しているのかもしれません……くれぐれもお気を付けください。……孤児院の者たちを、どうか、よろしくお願い致します」
 そう言って、イレーヌは頭を下げたのだった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 孤児院の住人たちを救出し、脱出路を目指してください。
 横暴な貴族の為、幼い命が奪われるなど、あってはならない事です。


●成功条件
 孤児院の住人を、地下通路を使い脱出させる

●情報確度
 B。何らかの緊急事態が発生する可能性があります。

●味方NPC
 孤児院のシスター ×2
 孤児院の子供達  ×10

 どちらも戦闘能力はありません。
 護ってあげて下さい。

●敵データ
 スケルトン&グール ×20
 
 20匹程度のスケルトンとグールが徘徊していると予測されます。
 20匹、と言っても、一斉に20匹と戦うわけではなく、遭遇した数体と、数回に分けて戦うことになります。
 また、プレイング、反応による判定、ギフト、スキルがうまくかみ合えば、戦闘回数や、戦う総数を減らすことも可能です。

 スケルトンは、さびた剣を用いた近接戦闘を行ってきます。
 グールも、爪や牙を用いた近接戦闘を行ってきますが、その爪や牙には毒があります。
 注意してください。


●注意
 このシナリオは、【罪と罰、対処と見せしめ~前門の虎~】の『別視点での物語』ではありますが、連携シナリオではありません。
 キャラクターレベルではお互いの依頼に参加した人物は分からず、協力、協働などは出来ず、またキャラクター同士での戦闘は絶対に起こりません。ご了承ください。

 また、その性質上【罪と罰、対処と見せしめ~前門の虎~】と【罪と罰、対処と見せしめ~後門の狼~】には、同時に同一人物が参加する事は出来ません。
 万が一同時参加が見受けられた場合、両方の依頼から除外される場合がありますので、くれぐれもご注意ください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加お待ちしております。

  • 罪と罰、対処と見せしめ~後門の狼~完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月26日 20時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
スリー・トライザード(p3p000987)
LV10:ピシャーチャ
ライネル・ゼメキス(p3p002044)
風来の博徒
レンゲ・アベイユ(p3p002240)
みつばちガール
リジア(p3p002864)
祈り
獄ヶ原 醍醐(p3p004510)
契約済み

リプレイ

●脱出作戦
 風がびゅうびゅうと吹いていた。
 北から吹く風は、その勢いで雲すら吹き飛ばし、隠れる事のない月光が、地上を照らしていた。
 夜闇を、一台の馬車が駆けていく。向か先は、市街より離れた場所にあった、一軒の孤児院だ。
 馬車は、孤児院の玄関へと横付けされる。馬車からは、八人の男女が降り立った。
「警護の者です」
 御者が、孤児院の入り口に立っていた、僧兵に対していった。
「では、あなた方が、噂のイレギュラーズ……」
 僧兵はそういうと、男女……イレギュラーズへ向けて頭を下げた。
「お話は伺っております。早速中へ。恐らく、あまり猶予はありません」
 僧兵の言葉に頷いて、イレギュラーズ達は孤児院へと入った。
 背後から、馬のいななきが聞こえた。馬車が出発したのだろう。
 共に中へと入った僧兵が、扉を閉める。
「ローレットよりいらした方ですね?」
 イレギュラーズ達の前に現れたのは、まだ年若いシスターであった。顔は少々青ざめており、感じる不安を隠しきれていない様子だ。
「ああ。ミッションを受けてきたぜ」
 『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401)が言った。その言葉に、ああ、とシスターはため息をついた。
「感謝いたします……!」
 その場で祈りだしそうな様子のシスターだ。幾らイレーヌより脱出のためのプランを説明されていたとはいえ、「これからこの孤児院は放火されます」と宣言されていたのである。まだ年若いシスターに、不安を覚えるなと言う方が無理であろう。
「ああ、もう大丈夫だよ」
 『放浪カラス』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066) は、
「とは言え、あまり時間はない様だね。早速だけど、準備はできているかい?」
 と、尋ねる。シスターは頷いて、イレギュラーズ達を奥へと案内した。
「……くだらない破壊だ……。……多くの物が燃え、消えゆく。まだ、役割を果たせただろうに」
 孤児院の内装を見やりながら、リジア(p3p002864)が言った。
「まったくね。貧乏くさいのは嫌いだけれど、使える物を無駄にするのはまさに無駄遣いだわ! 褒められたものじゃないわね!」
 『みつばちガール』レンゲ・アベイユ(p3p002240)も同意する。確かに多少古びているが、しっかりとした建物である。まだまだ、子供達の為に、その役割を果たすことができたに違いない。
 しかし、そのはずだった未来も、今日で絶たれるのだ。これからこの建物は、子供達の為の、最後の役割を――囮を、果たすことになる。
「思いは受け継ごう。死にゆく物のため、その物が育んだ生き物くらいは、長らえさせる。……どうか、安心して欲しい」
 誰に言うでもなく――いや、もしかしたら、孤児院その物に、リジアは語り掛けていたのかもしれない。当然、返事はない。だが、みしり、と家鳴りがした。それは、リジアへの、孤児院からの返答であったのか、強風により家が鳴ったのかは、わからないが。
 さて、建物の奥、物置となっていた部屋に、イレギュラーズは案内された。僧兵が、壊れかけたタンスを動かすと、床下に隠し扉があるのが見えた。
「脱出路は、この下です」
 僧兵が言う。
「すでに皆、地下で待機しています。皆さまがおりましたら、先ほどのように、ここをふさぎます」
「有難う、御座います」
 『LV3:ワイト』スリー・トライザード(p3p000987)が頭を下げた。
「いえ、こちらこそ……依頼を受けて下さって、ありがとうございます。皆様のご無事を、お祈りしております」
 僧兵の言葉に、
「いや、そっちも気をつけてくれよ。お互い、命あってのなんとやらだ」
 『風来の博徒』ライネル・ゼメキス(p3p002044)が言う。僧兵は笑みを浮かべ、改めて頭を下げた。
 イレギュラーズ達が地下へ降りると、頭上の扉が閉まり、何かを引きずるような音が聞こえた。ここからは、もう戻る事は出来ない。
 地下では、子供達とシスターが、一か所にまとまって、待っていた。子供達を纏めていたのは、年配のシスターのようだ。年配のシスターがこちらに気付くと、頭を下げ、こちらへとやってきた。
「ローレットの皆様ですね。よろしくお願いします」
 年若いシスターよりかは、些か落ち着いた様子で、年配のシスターが言う。
「よろしくです。早速ですけれど、地下道の地図などはありますか?」
 スリーが尋ねるのへ、
「はい……ただ、長らく使っていなかった通路ですから、崩落などで道がつぶれている可能性はありますが……」
 年配のシスターが、地図を差し出す。
「いえ、そうなっていた場合、何とかするために、私達が来たのです」
 スリーが微笑んで、地図を受け取った。
 地下道は、基本的には脱出路であるため、あまり複雑な形状をしていないようだった。だが、追手を避けるためか、いくつか大回りになるルートなどが存在するようだ。
「なるほどー。敵の位置を探りながら、子供達に負担にならないルートを選ばないといけませんね」
 地図を覗きながら、『契約済み』獄ヶ原 醍醐(p3p004510)……改め、鳴海ほのかが言った。
「……あの子が、噂の子かしら」
 『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)が、子供達の中の一人、声を殺して泣いている少女を見つけた。
「……ええ。ひどく落ち込んでしまって……」
 年若いシスターが、目を伏せながら答える。
「……でも、責められている様子はないわね。むしろみんな、心配してあげているみたい」
 エンヴィの言うとおりだった。とくに仲の良い友達と思わしき女の子たちが、件の少女を慰めていたし、男の子たちは、そんな彼女たちを守る様子すら見える。
「ええ……皆、この孤児院で育った、きょうだいのようなものですから」
 そこは救いであった、と言う様に、年若いシスターが少しだけ微笑んだ。
「ふふ、なるほど。皆いい子たちね。とても妬ましいわ」
 嬉し気に、エンヴィはくすりと笑うと、
「じゃあ、私達がしっかりと守ってあげなくちゃね。ええ、こんな妬ましい子たちを、危険な目に晒すなんて。いけない事だわ」
 そう告げた。エンヴィにとって、妬ましい、とは誉め言葉である。
「さて、皆、準備は良いか!?」
 あえてお道化て。皆を安心させるように、貴道が言った。
「これからちょっとしたピクニックだ! ミー達についてくれば、危険な事なんて一つもない、夜のお散歩だ」
 その言葉に、イレギュラーズ達は、子供達を守るように配置についた。貴道は頷くと、
「心配ない、ミー達に任せときな。必ず守ると約束しよう! じゃぁ、楽しんでいこうぜ、キッズたち!」
 その言葉を合図に、イレギュラーズ達の脱出行が始まった。
 脱出路の入り口には、鉄製の扉と、大きな錠前がかけられている。それを、シスターから渡された鍵で開けて、扉を開く。
 ひんやりとした空気が、漂っていた。暗い通路をカンテラで照らしながら、イレギュラーズ達は進んだ。
 イレギュラーズ達は、前衛と後衛にわかれ、その中央に子供達とシスターを置いて、護衛する形で進んでいく。
「どうだい? 何か聞こえたかい?」
 先行し、偵察を買って出たレイヴンが、同じく先行するエンヴィに尋ねる。
「カタカタと言う音と……うめき声。情報通り、スケルトンとグールがいるみたいだわ」
 エンヴィが答える。慎重に、レイヴンが先行し、先を窺った。数体のスケルトンとグールが、うろついているのが見て取れる。レイヴンは気づかれないように仲間のもとに戻ると、
「数自体は少ないみたいだけど……極力戦闘は避けたいね」
 子供達とシスターたちを見やりながら、言う。
 戦闘に陥った際、子供達やシスターにもストレスや不安に襲われることになる。特に子供達はパニックになってしまうかもしれない。
「……少し遠回りになるけれど、ルートは変えられるわ」
「なら、先行して、偵察してくるよ。状況を確認してから、どうするか決めよう」
「いえ……そういう事、でしたら、私が、霊魂に、呼びかけて、みます」
 スリーが言って、精神を集中する。アンデッドが彷徨う場所である。かつて貴族同士の小競り合いがあったという事もあり、何らかの死者は出ているのであろう。であれば、彷徨える魂との交信が可能かもしれない。
「……こちらのルートなら、ひとまず、安全そうです。その先は、わかりませんが……」
 スリーが言うのへ、
「一寸先は闇、と言う状況だからね。一寸先が見えるだけでもありがたい。なら、ルートを変更して先に進もう」
 レイヴンが言うと、本隊へ伝言を告げに向かった。
 さて、イレギュラーズ達の脱出行は、開始からそれなりの時間が経過していた。
 気のせいか、それとも緊張のせいか、空気にどこか、暑い物が混ざっているような気がする。果たして、孤児院に火がつけられ、その熱気が流れてきているのだろうか。それは分からなかったが、なんにしても、脱出は急がねばなるまい。
 可能な限り戦闘を避けて行ったイレギュラーズ達ではあったが、それでも、どうしても、避けられない戦闘と言うものは発生してしまう。
「よっと、コイツでラストだ!」
 ライネルが拳をスケルトンの頭に叩き込むと、倒れたスケルトンの身体がバラバラになり、動かなくなる。
「これで……何体目だったかな。まだ十はこえてないはずだが」
 拳をひらひらと振りながら、ライネルがぼやく。
「8体目にあたる」
 リジアが答える。
「となると、大体、全体の半分近く、って所か。ファッキンアンデッド共が、安らかに眠ってろってんだ」
 貴道が肩をすくめながら言った。
 情報によれば、概ね20のアンデッドが、この通路を徘徊しているはずである。とは言え、その全てと戦う必要はないし、そんな余力も存在しない。
「はいはい! 毒とか食らってないわね!? レンゲさんが癒しに来たわよ!」
 ぱたぱたと、レンゲが飛んでくる。敵のアンデッドには、その腐った爪で毒を付与してくるものもいた。長丁場の依頼である、体力を温存するためにも、極力素早い治療が求められるのだ。
「良いわね、皆。戦闘の華は前衛職かもしれないけれど、戦闘をコントロールするのは、あたしみたいなヒーラーなの。皆は、あたしみたいに世の中をコントロールできる大人になるのよ!」
 なにやらドヤ顔で、レンゲが子供達に胸を張る。子供達の緊張をほぐすためなのかもしれないが、ちょっとドヤ顔が過ぎる気もする。
「皆も頑張ってね。ここを出たら、皆でご飯を食べようね。美味しいごはんのお店、知ってるんだから!」
 醍醐も子供たちを元気づける。醍醐をはじめとしたイレギュラーズ達にも、疲労と緊張はそれなりに蓄積していたが、それを子供達に悟られては意味がない。
「地図によると、出口はもうすぐだからね」
 醍醐が言った。全行程の内、半分以上をすでに踏破したらしい。
「なるほどね! じゃあ皆、もう少し頑張るのよ! あたしも頑張るから!」
 と、言って、レンゲがむむむ、と唸り、意識を集中し、エネミーサーチを行う。エネミーサーチは周囲の「こちらに敵対意識を持つ存在」を検知するスキルであるが、それは裏返せば、「こちらに敵対意識を持って居ない」、つまり「徘徊している敵はこちらを認識していない、敵に見つかっていない」という事であり、その本来の役目は果たせずとも、奇襲への対策にはなっていたのだ。
「行こう。この子供達の……生き物の心はよく分からないが、疲労の色を見せていることくらいは分かる」
 リジアの言葉に、
「ええ、最後まで気を抜かず……皆を守ってあげようね!」
 と、醍醐は頷いた。
 それからほどなくして、一行は外の空気を吸う事となった。
 草原の岩に隠れるように、出口は存在していた。
 とは言え、まだ油断はできない。不確定要素、と言う意味でのイレギュラーの存在を、イレギュラーズは事前に示唆されていたからだ。
 まず先行組が外に出て、周囲の偵察を行った。出口からは、遠く離れた所で赤々と燃える炎が確認できた。何が燃えているかは、言うまでもない。あまり子供達には見せたくない光景だ。
 そんな時、エンヴィの超聴力が、馬の鳴き声を聞いた。
 近くに馬でもいるのか? 野生か、旅馬車か、或いは、件の野盗崩れだろうか。そこまでは分からない。
 先行組は、馬の鳴き声のする方へと偵察に向かった。果たしてそこでは、武装したガラの悪い集団が、辺りを窺っているようだった。
 件の野盗崩れの可能性は高い。いっそ奇襲を仕掛けるか。
 出口へと戻ったイレギュラーズ達は相談の上、奇襲を選択した。念のため、シスターと子供達を出口付近へと隠れさせ、イレギュラーズは慎重に、野盗崩れたちの元へと向かう。
 こちらにはまだ気づかれていないようだ。イレギュラーズ達はタイミングを合わせ、一斉に攻撃を開始する。
 スリーが一気に距離を詰め、野盗崩れの一人に斬りかかった。
「ヘイ、悪党ども! 何かお探しかい!?」
 貴道が言いながら、手近に居た野盗崩れに殴り掛かる。
「なんだテメェら!? 野盗狩りか……!?」
 突然の襲撃に驚いた男達が怒号をあげる。どうやら向こうは、こちらが何者か認識してないようである。となれば、それに乗っかるのもいい。こちらが何者かなど、詳しく知らせてやる必要はないし、寧ろこちらの素性を知られる事による弊害の方が大きいだろう。
「まぁ、そんな所だね……さ、さっさと片付けさせてもらうよ。シュート!」
 レイヴンが術式をうち放ち、
「正義の一撃、行きます! 魔力装填……ファイア!」
 醍醐もそれに続く。
「罪には罰を……ってなぁ、誰かが言ってたな。お前らも、罰とやら、しっかり受けてもらう」
 ライネルが野盗に殴り掛かり、リジアが魔力を放出し撃ち放つ。エンヴィは死霊弓で射撃を行い、
「さぁ、これで最後! 一気にやっちゃうのよ!」
 と、レンゲが叫び、術式を起動した。
 さて、結論から言えば、戦闘はイレギュラーズたちの圧勝であった。
 先手を取られ、奇襲を仕掛けられた野盗崩れたちは、態勢を立て直すのに時間をとられてしまったからだ。もとより、イレギュラーズ達より、実力面でかなり劣る連中だ。となれば、後は一方的。イレギュラーズ達にも疲労は残っていたが、これが今回最後の戦いであったし、何より悪徳貴族直属の手下という事もあってか、士気も高い。
 野盗崩れたちは、瞬く間に制圧されたのである。
 さて、野盗崩れたちを制圧したイレギュラーズ達は、彼らを拘束した。その後、メンバーの半数を、脱出路出口へと向かわせ、子供達と合流、待機させる。
「……クソ、テメェ、俺達が誰だかわかってんのか!?」
「クソッタレな盗人野郎だろう?」
 貴道が言う。
「と言うか、お前さん方、自分の心配しなくていいのか?」
 ライネルが、言った。
「何で、わざわざ俺達が仲間をどっかにやったと思う? 決まってるだろ? 女子供には見せられないようなことが、これから始まるからだよ」
 あえて凄むように、ライネルがそう告げた。

●罪と、対処
「で、えーと。いわゆる、始末、しちゃったの?」
 レンゲが恐る恐る尋ねるのへ、
「まさか。適当に脅して、縛り上げて、連中の馬車の中に放り投げておいたよ」
 ライネルが肩をすくめる。
 馬車の中には、油や燃料、マッチなど、「今火をつけてきました」と言わんばかりの証拠が出そろっていたようだ。となると、火付けの主犯格はこいつらなのだろう。朝を待って行政に通報し、引き取ってもらえばそれで終わりだ。モース伯も、まさか放火の犯人を庇うような真似はするまい。と言うか、もしかしたら、この野盗崩れたちも、そう言ったためのスケープゴートなのかもしれないが。
「と言うわけで、今日のピクニックは終わりだぜ! 皆、よく頑張ったな!」
 貴道が、子供達に向けて言う。その言葉にはしゃぐ子供達を眺めながら、
「ふふ。本当に、妬ましい子たち」
 エンヴィが、嬉しげに笑った。
「やれやれ、やっぱり子供達って言うのは財産だ。それが分からない貴族って言うのはね」
 レイヴンも苦笑を浮かべつつ、しかし無事な子供達を嬉しげに見つめる。
「あなたの子供達は守られた。どうか、安らかに……」
 リジアが、今はくすぶる炎を上げる、孤児院を見つめながら、呟く。
「そう、ですね。彼……彼女、でしょうか。兎に角、頑張ったのですから」
 スリーも、孤児院を見つめ、祈りをささげた。
「それじゃあ、皆! 約束通りご飯を食べに行きましょう!」
 醍醐が元気よく言うと、子供達も、たのし気に返事を返したのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 この後、子供達とシスターは、ひそかに別の孤児院へと所属を移したようです。
 「この後は、こちらの仕事。皆さんが守ってくださったものは、必ず守り通します」
 皆さんの報告を聞いたイレーヌは、そう答えてくれたそうです。

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