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シナリオ詳細

癒えざる呪詛の咆哮
癒えざる呪詛の咆哮

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●呪わしく愛しき世界について
 憎悪、という感情に触れたのは幼いころだった。
 ただの両親の喧嘩だ。珍しいものではない。
 父と母は互いを罵りあっていた。父が手を上げ、頬を打たれた母が倒れる。声に涙を混じらせながら、母がなにかを叫んだ。父がそれに怒声を返す。
 僕は隣の部屋で、薄く開いた扉越しに見聞きする。

 かりそめの仲良し家族ごっこはそれから間もなく終わりを告げた。
 母に手を引かれて村を出た僕は、母の実家でさらにさまざまな感情に触れる。
 
 祖母の憐憫。
 祖父の嫌悪。
 母の悪意。
 近隣の子どもたちの嘲弄。
 その親たちの同情と侮蔑。

 この世は汚泥のような心で満ちていた。誰もが誰かを呪っていた。
 人々の精神に巣食う病のようなそれに僕は早くに気がついて、だからだろう。
 いつの間にか、扱い方を覚えていた。

 怨嗟を集める。憎悪を集める。呪詛を集める。一度、自分の身体に宿して、イメージする。
 色も形も持たないそれが、丸くまとまるところを。
 うまくできたら透明な丸に不可視の刃を入れていく。粘土でなにかを作るのに似ていると思う。
 ひょろりと細長いイタチの体。無機質な狐の顔。必ずこの二つを選んでしまうのは、きっと初めて見た死体だったからだろう。
 猟師に撃たれたイタチとキツネ。僕は恐らく永遠に忘れられない。血の赤さを。その身からあふれる呪いを。
 いつもは形を整えた感情を、再び僕の中に仕舞う。だけどこの日は違った。

 森の中でそれらを放つ。
 数軒隣に住んでいる男が、散歩なのかやってきた。
 呪いでできた獣たちが男に殺到する。びくりと彼の体が跳ねる、倒れる、起き上がる。
 その瞳に生気はない。獣たちは彼という器を得て、不格好に歩いていく。
 人のふりをして、負の感情の塊は災いをまき散らす。

「ああ」
 僕は生まれて初めて、心の底から歓喜した。
 同時に男を羨ましく思った。僕もそうなりたいと思った。
 人が持つあたり前の負の感情を、集めて食らってまとめて形作って。あたり前だからこそ美しいその心に、僕もいつか呑まれたい。

 だから僕は、もっと呪われようと思いました。

●猫曰く
「ちょっと真面目に探したんですよ」
 言葉のわりに赤茶色の猫のブルーブラッドの青年、ウェストリス・カトゥスは自慢げではなかった。
 むしろ傍らの『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)と同じくらい、強張った顔をしている。
「クダギツネ――呪獣って命名されたんだっけ。あれの親元が見つかりました。ああ、知らない人もいるかな。怨嗟の化身みたいな、イタチっぽい狐っぽいのがいたんです。まぁそっちは解決しましたが」
 その親元がいると分かって。
 事件に首を突っこんでいたウェストリスが見つけたのだ。
「もうちょっーっと調べたかったんですけどねぇ。でもほら、好奇心は死なない程度、って約束しちゃったから」
「いえいえ、結構な情報をいただいたのです」
 ふるふるとユリーカが首を左右に振り、持っていた書類をテーブルに出した。
「呪獣を作ったのはダミットという少年なのです。幻想のある村の出身で――前回のクダギツネの件で被害に遭われた男性と、同じ村で暮らしていた方なのです」
「俺が見たのはこのあたり。今はたぶん、ここ」
 地図の一点を指さしたウェストリスが指先をすっと移動させる。示されたのは山間の小さな村だった。
「手遅れになっている可能性もあるのです。資料は道すがら読んでほしいのです。大急ぎで行ってきてください!」
 その少年は呪いを束ね、振りまく。
 放っておけば被害は広がり続けるだろう。

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 憎悪を食らい怨嗟をまとい、呪いを振りまく者。

●目標
 呪獣たちの討伐。
 ダミットの討伐。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 皆様が現場に到着するのは夕方ごろです。

 山間にある小さな村。ダミットが生まれ育った村でも、祖母の家があった村でもありません。
 村人たちはすでにダミットにより始末されています。探せば生き残りがいるかもしれませんが、期待はしない方がいいと思います。
 ダミットはその力を使い、村人たちに互いに互いを憎ませあって殺しあわせました。
 よって村内の民家や畑などはそれなりに被害を受けた状態です。

 村に建つ建物はたいてい平屋です。あまり背の高い建築物はありません。
 ダミットは次の場所に向かおうとしています。

●敵
『呪獣』×6
 イタチのように細長い体に、狐のような顔をした半透明の生き物。
 大きさは1メートルほど。甲高い声で鳴く。
 クダギツネの仮称をつけられていたが、この度、呪獣に名を改めることになった。

 負の感情をためこんだ怨霊の一種。
 回避、機動力、反応に優れるが、防御技術は低い。
 先にダミットを狙った場合、ダミットを守るように立ちまわる。

・風刃:神近単…邪悪な感情がこめられた不可視の刃【連】【出血】
・拘束:神近単…怨嗟の体を対象にまとわりつかせる【暗闇】
・絶叫:神遠範…命ある者への呪詛【混乱】【呪殺】
・道ずれ:神特特…消滅する寸前、周囲にいる者すべてを傷つける【中範、他の呪獣とダミット以外】【呪殺】

『ダミット』×1
 憎悪に魅せられ怨嗟を愛し悲鳴を天樂とした17歳の少年。
 穏やかそうな見た目をしている。
 負を宿し呪いを振りまく存在。

・修復:神中単…呪われし生物にとって、呪いはすなわち癒しになる【治癒】
・荊棘:神中単…黒きいばらを操って対象を拘束する【足止】【出血】
・呪詛:神近範…その言葉はあらゆる生命を汚染する【混乱】【呪い】
・???:体力が――%以下で発動。

●他
 ウェストリス・カトゥスは戦力にならないため、ローレットで待機しています。
 彼から聞き出せる情報は上記以上にありません。

 ダミットの【???】にご注意ください。なにが起こるか分かりません。
 ただ、急に魔種として覚醒したり、原罪が呼んできたり、パンドラ残量によらない死亡が発生したりはしません。

 当依頼は「見えざる刃の彷徨」の最終決戦編となっていますが、前作に参加していなくても問題ありません。
 前作を読んでおく必要もありません。

 以上、皆様のご参加をお待ちしています!

  • 癒えざる呪詛の咆哮完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月27日 01時20分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ジェイク・太刀川(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈る暴走特急
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
玲瓏の壁
藤野 蛍(p3p003861)
学級委員の方
桜咲 珠緒(p3p004426)
吐血の方
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
さいわいの魔法
タマモ(p3p007012)
荒ぶる燐火

リプレイ

●黄昏の村
 軽やかな足どりで村内を歩いていた少年が振り返る。
 穏やかそうな風貌の彼の周囲には、イタチに似た細長い体に、狐じみた顔を持つ半透明の生物が六体、浮遊していた。
「どこに行くつもりだ」
 冷ややかな『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)の声は、問いの形を成さない。
 ここに至るまでの、かつてはのどかだっただろう道々で見た凄惨な死体の数々が、そして以前にかかわった少年の悪意により生み出された事件が、ここで仕留めるという決意を生み出していた。
「く……っ!」
 少年が応えるより早く、ジェイクは砲弾の雨を降らせた。黄昏色に包まれた静かすぎる村がにわかに騒々しくなる。
「挨拶もなしに、ひどいね。はは、でもいいよ、君たちも呪いあおうね?」
「そんなことしないよ!」
 少年の合図で空を駆けた呪獣たちの間を縫うように、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が走る。
「どうして村をこんなにしたの!」
「僕は人々に美しい心を教えてあげただけだよ」
 甘く囁く少年の声を聞いていると、思考を掻き乱されるような感覚に陥る。彼に肉薄するアレクシアは、顔をしかめながらそれに耐えた。
「美しい心、のォ」
 青い狐火を浮かせた『荒ぶる燐火』タマモ(p3p007012)は、双眸に憐憫を宿して手を打ち鳴らす。呪獣たちを霧が包んだ。
「悲しい事情があるのかもしれないけど」
 曲刀を抜いた『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)が前に出る。刀身が白く淡い光を帯びた。
「ボクは、人を呪うことを美しいとは思わないわ!」
 放たれた神聖な光が、まだ炎をまとっている呪獣とダミットを襲う。アレクシアの周囲には花の形をした障壁が現れ、ダメージを軽減した。
 味方から攻撃を受けることは織りこみずみの作戦だ。この程度でアレクシアは倒れない。それでも、あとで謝る、と蛍は真剣に誓った。
「憎悪と悲劇の連鎖は、ここで断ち切るわ……!」
 叫んだ蛍に呪獣が殺到する。
「もはや彼をとめることはできないのでしょうか」
 事前に仲間たちの体の一部に呪印を描き、蛍が突撃する前に彼女に祝福をかけた『要救護者』桜咲 珠緒(p3p004426)が呟く。
「聞く耳を持ってくれれば、いいのだが……」
 回復のタイミングをはかる『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)は、少年を見据える。現状、彼が呪獣を撤退させる気配はなかった。
「救う道を探すべきなのかもしれません。ですが」
 そこに至るまでの犠牲を、『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は決して見逃せない。
 ゆえに司祭は魔術戦用メイスを握り締めた。朗々と聖歌の一節を歌い、得物を振り下ろす。
 メイスから吹き上がった炎の濁流は、呪獣たちをさらに焼いた。
「人とは、人同士が殺しあうさまを悦に入り、見るものではないでしょう」
 滑るように呪獣に接近した『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)が魔刀を抜く。
「今の貴方は人より、鬼に近く見えまする」
 ちらりと少年を一瞥し、雪之丞は呪獣の体を縦に斬った。甲高い悲鳴が上がる。

 イレギュラーズを妨害しようにも、アレクシアが阻むためうまくいかない。
 それでもなお、少年はその状況すら楽しむように、薄く笑みを浮かべていた。
「誰かを呪うのはやめよう! 呪ってばかりじゃ、それしか見えなくなる!」
 綺麗ごとですむ世の中ではない。目をそむけたくなるようなことも、つらいことも、汚いことも、たくさんある。
 しかしそれだけではないと、宝石より美しい瞬間があるのだと、アレクシアは知っている。
 地面を割って現れた黒いいばらがアレクシアの足を拘束する。棘が食いこむ痛みに顔をしかめながら、攻撃をやめる気配がない少年に叫んだ。
「どうしてもって言うなら、今ここで、全部出しなさい!」
「……全部?」
「そうだよ! 君が抱えた呪いのすべてを、感情の全部を吐き出すんだ。私が全部受けとめる!」
 初めて、少年の瞳が動揺するように揺らいだ。
「それでいつか、一緒に優しい世界を見に行こう!」
 彼はまだ引き返せる。
 そう信じて、アレクシアは少年に声をかけ続けた。

 不可視の刃が蛍を襲う。
 痛みをかみ殺し、蛍はさり気なく体をずらした。一定範囲の攻撃技を持つ仲間たちが心置きなく技を発動できるよう、位置を調節する。
「代わりますか?」
「まだまだぁ!」
 緩く瞬いて了承した雪之丞が一閃。蛍に気をとられている呪獣を斬るなど造作もない。
 反撃のつもりか、呪獣の一体が雪之丞に急接近しようとした。
「どっせええい!」
 その脇腹にヴァレーリヤの炎をまとうメイスが直撃する。
「キイイイ!」
「下がるのじゃ!」
 タマモの号令で雪之丞とヴァレーリヤが後退した。蛍の体を温かな光が包み、傷を癒す。肩越しに振り返った彼女に、珠緒が浅く頷いた。
「仕置きの時間じゃ」
 ダメージが蓄積していた個体を中心に、タマモが霧を発生させる。殺傷能力を持ったそれは、呪獣をさらに瀕死に追いこんだ。
 霧が晴れるより早く、ジェイクが弾丸の雨を降らせる。
「気をつけろ!」
「誰も連れて行かせない」
 消滅の寸前になにが起こるのか、イレギュラーズは情報を獲得している。
 ポテトが適切な距離をとった前衛の面々を次々と回復していく。
 誰を道連れにすることもなく、呪獣が一体、消滅した。

「奇妙です」
 ぽつりと珠緒が呟く。ポテトは横目で彼女を見て、続きを促した。
「あの少年、ダメージを受けるごとにもやが増えてはいませんか?」
「もや……」
 言われてみればそうかもしれない。初めから黒々とした煙霧のようなものを薄くまとっていたが、それが徐々に濃くなっている気がする。
「ダミットの奥の手か」
「可能性は高いと思います」
 珠緒が、誇り少なくなった呪獣を引きつける蛍を癒した。

 周囲を燃やすほどの勢いで、炎が縦横無尽に走る。
 焦げた空気の中に死肉のにおいが混じっている気がして、ジェイクは顔をしかめた。
「ちっ……!」
 不快感を押し殺し、今は冷静さを保つ。
 呪獣の数は残り三体。
 少年はアレクシアに動きを阻害され、半透明の生き物たちの回復すらままならない。
「恐れるなかれ。神は我らとともにあり、ですわっ」
 ごう、とヴァレーリヤのメイスが炎を放つ。二体の呪獣が焼かれた。
 逃れたもう一体が蛍に絡みつく。
「うわっ」
「そのままで」
 短く指示を出すが早いか、雪之丞が刀を振るった。痛みのあまり離れかけた呪獣の眉間をジェイクの弾丸が穿つ。
「キイイイ!」
「うぅ、この声……!」
「頭が痛くなります」
 耳をつんざく鳴き声に蛍は額に手をあて、珠緒が足をふらつかせた。
「やかましいのォ!」
 絶叫する呪獣をタマモが炎上させる。
「あと二体。もう少しだ」
 頭を振ってポテトは前を見つめた。
 仲間たちからの情報を受信している珠緒が状況を把握、端的に伝達していく。
 戦場に歌が響き、炎の合間で治癒の光がきらめいた。
「ダミット……」
 ジェイクの視線の先には少年がいる。
 呪獣の絶叫を受け、苦鳴を上げたアレクシアを少年が押しのけようとする。しかしすぐに治癒を受けたアレクシアが立ち塞がった。
「てめえはここでとめる」
 銃口が火を噴く。直撃を受けた呪獣が耳障りに鳴いた。

 呪獣はすべて消滅した。
 以前もこれと戦ったことがあるジェイクとタマモが感じたのは、違和感だ。
「弱いのォ……?」
 目を細めながらもタマモは少年を燃やした。疑問を脇に置いたジェイクも銃を構える。
「てめえの憎悪とともに朽ちて逝け」
 捕縛を視野に入れていたアレクシアが制止するより早く、銃声が夜を迎えようとしている村の大気を震わせる。弾丸は少年の肩を撃ち抜いた。
 揺らぎ倒れかけた細い体を、アレクシアはとっさに支えようとする。手が彼に触れる直前、気づいた。
 同時にジェイクの本能が警鐘を鳴らす。
「来るぞ!」
「なに、これ……!」
 彼からあふれ出ていた漆黒が、アレクシアの眼前で彼を呑んだ。
「あはは! そうか、こうすればよかったんだ!」
 黒の塊となったそれは見る間に体積を増していく。
「あははハハハ!」
 哄笑は初め、少年のものだった。
 だがじきにガラスを引っ掻くような耳障りな音に変わり、まるで多くの生き物が同時に高低のある音を発しているかのような、不協和音へと変貌する。
 黒塊を中心に発生した旋風が、戦場に立つイレギュラーズたちの髪や服を激しく煽った。
「皆の傷を癒すぞ……!」
「なにが生まれようとしていますの!?」
 ポテト、ヴァレーリヤ、珠緒が手分けして仲間たちを回復する。
「離れるんだ、アレクシア君!」
「く、う……!」
 蛍の叫びにアレクシアは首を左右に振り、黒の塊の中に触れた。冷たい。無数の針に突き刺されるように痛い。
「ダミット君……!」
 音は悲鳴のようだった。彼の悲鳴のようだった。
「戻ってくるんだ!」
 苦痛のすべてを受けとめる覚悟でアレクシアは訴える。
 刹那、塊が弾けた。
 衝撃でアレクシアが転がる。
「……なるほど」
 呆然とする一同の中、真っ先に動いたのは雪之丞だった。
 アレクシアを襲おうとしていた触手を斬り飛ばし、返す刀でさらに一本、切断する。宙を舞った細長い触手は、空気に溶けるように消えた。
「妖魔でございましたか」
「アアアアア!」
 新たに登場した四体の呪獣を従え、それが吼える。
 無数の触手を翼のように背から生やした、人間の形の闇が。
 少年だったとき双眸だった位置からは、絶えず漆黒のもやが流れ出ている。口だった場所からは意味をなさない音がこぼれた。
「おかわりまで出てくるとはのォ!」
「どうなっていますの!?」
「自ら呪いに身を捧げた、ようです」
 解析があっているのか自信はなかったが、珠緒は仲間たちに報告する。
「それって、できるものなの!?」
「不可能ではないじゃろ」
 頬を引きつらせた蛍に、苦い顔でタマモが応じる。あり得てほしくないが、彼が呪詛を身に宿し、それを操る術を心得ていた以上、不可能ではない。
 ただし、命と引き換えだ。
「あれはダミット、なのか?」
 投げられたポテトの問いは、答えを得られない。
「こいつを野放しにしておけねぇ! 倒すぞ!」
「っ、そうね! 何度だって倒してあげるわ、きなさい!」
 ジェイクの怒号でイレギュラーズが我に返った。蛍が呪獣の気を引く。
「どうしてもだめだって言うなら……。私は、もう君に傷つけさせないよ」
 立ち上がったアレクシアは異形と化した少年を見据えた。
 多くを傷つけ、きっと自分さえ傷つけてきた彼を、ここで終わらせる。

「主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみたまえ」
 聖句を口早に唱えたヴァレーリヤのメイスから炎が吹き上がる。
「はぁぁっ!」
 メイスがまとう炎が濁流の如く放たれ、蛍に向かおうとしていた呪い獣たちを呑みこんだ。
「キイイ!」
「先ほどより効いていますわ!」
 異形と対峙するアレクシアを気にしながらヴァレーリヤが言う。雪之丞の刀が呪獣を一閃した。
「質が落ちた、ということでございますか」
「力の大半を自分に使ったということじゃろうなぁ」
 タマモを中心として、突如、彼岸花が狂い咲く。身の内のなにかを吸われている感覚に、炎上する呪獣たちが身をよじった。
「逃がさぬ」
「纏めてくたばれ」
 妖しくも美しい花畑に、ジェイクが放った銃弾の雨が降り注ぐ。

 怖い、とは思わなかった。
「う……!」
 触手がアレクシアの体を打ち据える。何度目かの殴打、頭の中が混乱するような感覚。
 しかし、その不快感も傷も、背後から響いた歌声が温かく塗り消してくれる。
「君は、その道を選んだんだね……」
 声が届かなかったわけではない。現に少年は何度か、動揺を見せていた。
 その上で、彼は呪いに呑まれる方法を発見し、実行したのだ。
「いいよ。それなら私は、その憎しみも、痛みも、全部引き受けよう」
「ボクも引き受けるよ」
 鞭のように振るわれた触手を、蛍が受けた。アレクシアは小さく目を見開く。
 蛍は異形をしっかりと見て、声を張った。
「痛みを癒してくれる仲間がいるから、これくらいなんともないわ!」
「あちらは終わりました」
 雪之丞が触手を受け流し、素早く斬り捨てる。
「あとは彼だけですわ」
「覚悟するのじゃ」
 突撃しようとしたヴァレーリヤの行く手を塞ぐように、棘のついた蔦が生える。タマモが燃やし、道を作った。
「無辜の人間を巻きこんで、殺したんだ。てめぇにかける慈悲はねぇ」
 鋭い視線でジェイクは異形を睨む。
「終わりにしましょう」
「これ以上の被害は、出させない」
 珠緒は情報の取得に異常がないことを確認する。ポテトは杖を強く握った。
きっとこれが最後の戦いだ。
「アアア!」
 異形が吼えた。多重に聞こえる声がイレギュラーズの精神を裂こうとする。
「皆のことは私たちが癒し支える。全員で帰るぞ……!」
 凛とポテトの声が響く。超分析による治癒が行き渡った。

 集中砲火を浴びる異形が悲鳴を上げ、触手を振るい、いばらを出現させる。呪獣の再々召喚は行われなかった。
「アアア!」
 異形の絶叫は呪獣のそれを数倍にしたような不快感があった。しかし、すぐにポテトやヴァレーリヤが対応する。
「もはや堕ちるところまで堕ちたじゃろうが。これ以上があるというなら、そこに堕ちる前に眠れ」
 タマモのパイロキネシスが瀕死の異形を炎上させ、
「終いだ」
 ジェイクの銃口から放たれた光の柱が異形を穿つ。
「アア……!」
 倒れたそれは人の姿に戻ることも、消え去ることも、復活することもなく。
 亡骸として、そこにあった。
 
●終幕
 夜の帳が下りた村で、イレギュラーズは死者の埋葬と生存者の捜索を行っていた。
「こっちもか……」
 這いずるように生存者を探すジェイクは、民家の裏手で奥歯を噛む。
 農具で互いを殴りあったのだろう、まだ若い男二人が並ぶように倒れている。
「いましたか?」
「いや、だめだ」
 念のために脈を確認したジェイクは、歩み寄ってきた雪之丞に短く返す。
 雪之丞は遺体を見て微かに目蓋を伏せてから、村の外れにある墓地の方角に視線を向けた。
「運びましょう」
「ああ」
 見開かれたままだった遺体の目を、ジェイクはそっと閉じさせる。

「ダミット君にも、呪いや怨霊じゃなく、寄り添ってくれるお友だちがいてくれたら、こんなことにはならなかったのかしら」
 村人たちが使用していた猫の額ほどの墓所で、幼子の亡骸を埋葬した蛍が拳を握った。珠緒は口を開き、一度閉じてから返す。
「桜咲には、分かりません。……ですが、もし時間があったなら、生きる幸福と喜びを、桜咲がこの世界で得てきた情報を、語って差し上げられたかもしれないと、思います」
 もっと早くに出会えていたなら。
 彼が負の感情に魅入られる前にその手をとれていたなら。
「……憎しみに染まるのは、知らない世界を見てからでも、遅くなかったよ」
 アレクシアは天を仰ぎ見る。
 星の瞬く夜だった。

 少年の――もはや少年とすら呼べなくなった異形の亡骸を、タマモは見下ろしていた。
「悪鬼外道の類に堕ちた、人でなしよ」
 この世界は確かに、悪意や理不尽に満ちている。だが、それに呑まれてはならない。
 人はそれに抗う力を、その中でなお他者を愛し慈しむ心を、持っているはずだ。
 タマモはゆえに『人間』を好いた。
「狐への風評被害も含めて許しがたいが。そなたは妾の同類じゃからのォ」
 皮肉気に口の端を上げて、ぱん、と手を打ち鳴らす。亡骸が炎に包まれた。
「そなたへの手向けじゃ、同類」
 狐火を引き連れて、タマモは灰に変わりゆく異形に背を向ける。
 生き残りを探し出し、保護するために。

 民家のひとつで、ヴァレーリヤは祈る。
「主よ、貴方の元へと旅立つ魂にどうか慈悲を。彼らの魂に安息をお与えください」
 おびただしい量の血で床を汚しているのは、母と娘だった。包丁が床に落ちている。
「……どうか、その魂が救われますように」
 胸の痛みを押し殺したヴァレーリヤの横顔が、明るく照らされた。
 顔を上げると、南瓜ランタンを持ったポテトが目を伏せている。
「今、精霊たちにも力を借りて、生存者を探している」
 感情が薄い声の中に、それでも悼む心がこめられているのを感じとり、司祭は頷いた。
「彼女たちを埋葬し……」
「っ、ヴァレーリヤ……!」
「え、はいっ?」
 はっとしたポテトが走り出す。うろたえたヴァレーリヤは必ず戻ってくるという意思をこめて死者に祈ってから、ポテトを追った。
「なんですの!?」
「いた」
「いた、ってまさか」
 数メートル先の古い納屋の扉を、ポテトが破壊しそうな勢いで開く。崩れた大量の藁の下から、一本の手が見えていた。
「生きていますの!?」
 ぴくりと手が弱々しく反応する。
「誰か、手が空いているなら手伝ってくださいませ!」
「もう大丈夫だ、すぐに助ける」
 藁を退かしながらヴァレーリヤが叫び、ポテトは今にも息絶えそうな生存者の手を握って、治癒を施す。
 通りかかったイレギュラーズが力をあわせ、十歳ほどの少女を助け出した。
「よかった、かような理不尽から救えたのじゃな……!」
 藁にまみれて気を失っている少女を抱き締め、タマモが生存を喜ぶ。
 彼女が惨劇を生き延びた、唯一の生存者となった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

呪獣にまつわる事件は解決されました。
少なくともこの少年が――異形に堕ちた彼が、世に現れることは二度とありません。
ローレットに保護された少女は、心に大きな傷を負っていました。
ですが彼女が次の『ダミット』になることは、きっとないのでしょう。
ええ、きっと。

ご参加ありがとうございました!

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