シナリオ詳細
砂上の楼閣
オープニング
●煌々と燃え上がる×××
天義首都フォン・ルーベルグの一角で大規模な火災が発生した。火元については不明だが、その被害のほどを考えれば犠牲者は相当なものになるだろう、というのは誰の目にも明らかだった。教会のあった地点を中心に、なんせ10棟にもおよぶ建物が燃え落ちたのだ。その絶望感たるや相当なものであっただろう。
だが、まったくもって奇跡的なことに、報告された犠牲者数はゼロであった。……報告者は教会の神父である。その言葉の真偽など疑う余地はどこにもない。
かくして、教会を中心としてその教区が順調に復興への道を歩み始めた……と、いうのが表向きに知られている『首都北側第33教区』のここ数ヶ月の状況である。
神父であるアニーチェ・ブランは博愛主義を形にしたような人物であり、虫も殺さぬ気性の緩やかさと万人を労る態度で周囲から愛され、彼も人々を大いに愛していたのだという。
懸念点があるとするならば、教区の人間たちの間にどこか後ろめたいものを隠す空気が蔓延していることぐらいだが、それでも人々が立ち上がろうと尽くす姿は大いに称賛されるべきものである。
そんな人々ですら「黄泉帰り」の疑いをかけられることは、恨むべきはその空気なのか、怪しい事実そのものなのか。
「天義としては神父の言葉を恨む、なんて論外だと考えていることは間違いないでしょう。でも、火災にともなう一連の流れで犠牲ゼロは少々できすぎている、というのも確かです」
情報屋はまとめた資料を一瞥して、イレギュラーズに視線を向けた。ぽつぽつと報告されるようになった噂。表向き「何も起きていない」ことが求められるこの国の裏で蠢動する禁忌は、しかし博愛の精神に則れば信仰心を蕩けさせるほどには魅力的な輝きを持っていることは間違いない。
「当然、状況証拠だけで疑いをかけているわけではありません。火災が起きてからこれまでの間に、神父は教会と無事だった一角を開放して焼け出された人々を保護しています。それだけではなく、家族の別なく『20名ほどの人々を教会内に留め置いている』。老若男女問わず、です。労働力が要る状況で外に出すこともなく」
博愛を旨とする神父の、あまりに不自然な行動。間違いなくどこかで歪んだ歯車が回っている、そんな印象を受けた。
働き盛りの者すらも内部に閉じ込める理由……そんなものがあるのか? と聞かれれば理由は多くない。
「仮に教会内に留められている者が全員『黄泉帰り』だったとしたら多勢に無勢、要する時間も長くなることでしょう。できれば人々が教会周辺に集まる夜間は逆に避けたい。白昼堂々、正体を隠して、教会に乗り込み皆殺しにする」
できますか? と、情報屋は有無を言わさぬ口調で一同に問いかけた。
- 砂上の楼閣完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年04月22日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●時計の針は戻らない
黒く濁った床は、まるで心中に蟠った闇を地面にぶちまけたようだ。『旅人』辻岡 真(p3p004665)のままならぬ現実に対する、暗澹たる心持ちそのまま……いや、それ以上に悲惨な状況を呈していた。実際のところ、彼が見たのは黒い地面ではなく赤く燃え上がる教会だったのだが。
「俺は何か間違った……? いや、間違ってるのは……そんな……」
「私達は依頼者からのデマンドに最大限コミットした。それは間違いありません。何も間違えておりませんよ」
虚ろな目で自問する真の言葉を拾い、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は淡々と返す。依頼人の希望を反映させた、『正しい』結末。イレギュラーズに求められたミッションは、寛治らのソリューションによって達成された。誰憚ることなき成功だ。
『本当に守りたいものを説く少女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は2人のやり取りをよそに、小さく祈りを捧げた。ほどなくして、証拠隠滅を期してこの教会は炎に巻かれることだろう。鼻の奥からこみ上げたものを押し留め、仲間達に視線を投げかけた。
「最善だったのだろう、このやり方が。こんなおぞましいものが真実なら尚更だ」
『切り裂きキール』キール・ザ・リッパー(p3p007076)は槍を振って静かに肯定する。善悪の概念は主観だけでは測れないのだ、と強引に自分に言い聞かせ。
そう、彼らの正義は、誰も担保してはくれない。手を下した自分達が、互いに肯定することしか、今はできない。
刻限を遡り、依頼決行の刻限より僅かに前。真は、1人で教会に赴いていた。目的は言うまでもなく、神父との接触。彼は数日かけて神父との信頼関係を築くことを進言したが、その要望はすげなく却下された。天義側は、看過できぬ不正義を必要以上にのさばらせることを良しとしないのだ。
「俺は旅人、真=クロイツェフです。神父、アニーチェ・ブランさんの評判を聞き、神の御教えを賜りに参りました」
「私のような若輩者に評判、ですか。面白い子だ。ご用向きは?」
アニーチェは多少なり訝りこそしたが、求める者を無碍にできるほど非常ではない。必然、彼は真を迎え入れた。誤算こそあれ、修正の利く筋書きだ。……そのはずだ。
「わたしには、どうするのがほんとうに“正しい”のかは、わかりませんけれど…皆が、こうして人々の命を奪うことが「正しい」とおっしゃるのなら、きっと、そうなのですの」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は自分にそう言い聞かせ、教区へ向けて歩みを進める。正義の本質を見極めることは、彼女ほどの経験があっても未だ為しえないことだ。ならば、今は目の前に提示された正義に従おう。それが如何に悩ましいものであっても。
「清廉潔白を謳う天義もなかなか、業の深そうなところだね?」
「全く、ルーキスの言う通りだ。ま、オーダー内容がどうであれ仕事は仕事。 私情は大体邪魔になるだけ、俺は淡々と仕事をこなすだけさ」
『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)の笑みを含んだ声に、『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)は鷹揚に頷いた。先んじて使い魔の『ソラス』を放ったルーキスの足取りに迷いはなく、潜入ルートの策定も順調そのもの。真が『いかに脱出を阻むか』を肝心とするなら、彼女は『いかにスマートに潜入するか』を肝とする。
「依頼は依頼。迷いはしない」
『蒼銀のヴェンデッタ』アレックス=E=フォルカス(p3p002810)は淡々と告げ、仲間と歩調を合わせ天義首都を往く。首都に蔓延する空気ゆえか、ただ普通に進むだけで気もそぞろな魂と意思を通わせ、或いは指揮下に置いてしまう。その状況に、ほかならぬ彼が僅かに驚きを覚えていた。
問題の教区が近付いても、忌避感を訴えない魂達。それどころか、首都の教会などにも『そういった』情を示さない。天義の神聖性は、どれほど穢れているものか。
「教会の外縁部に集団墓地がありますね。空きも多い。教会の内部の者を全て埋葬してもおつりが来ることでしょう。後腐れもなくよいことです」
寛治は油を片手に、教会見取り図を開きながら告げる。天義内部の人々との繋がりを駆使して得た情報と道具は、彼の顔の広さに比例して確実性を増している。用途がどうあれ、目指すものが『天義における正義』である以上、人々は彼に快く協力するだろう。そういう国なのだ。
(今はまだわからないだけで、何か良くない事の前兆の気がする……)
スティアは、天義に渦巻くこの気配に似たものを知っている。違和感を知っている。幻想にサーカスが訪れ、人々が次第に我欲と狂暴性を露わにしたあの時と同じなのだ。
だとすれば間違いなく、黄泉帰りは人々を狂わせる。狂気が蔓延する前に、手を汚す覚悟は必要であった。彼女のみならず、全てのイレギュラーズが、だ。
●賽の目は変わらない
「大火事があったと聞いたけど、皆……活気に溢れているね」
「ええ。神の思し召しにより、皆が死を免れたが故に、人心は乱れず各々が出来ることを以て明日を切り拓こうとしています。素晴らしき事です」
太陽が中天に上った頃、真はどこか感心したような声音でアニーチェに問いかけた。相手はといえば、穏やかな笑みを以て彼の言葉を肯定し、『神の思し召し』が今朝方来たばかりの青年にも伝わっている事実に感慨を深くする。
その感慨がまさか幻想であるとは思うまいが。少なくとも、アニーチェは振る舞いから言葉の端に至るまで、全く悪意というものを感じさせなかった。
真が惜しむべきは、情報収集を先んじて行っても、いち早く伝達する手段に欠けること。単独で飛び込む意気は買うが、身一つで持ち出す以外に術がないなら、成果にはなりえない。
「……ねえ、神父様?」
真はどこか冗談めかした口調で神父に語りかける。その実、表情に偽りは見えなかったが。
「……なんでもないや。これから視察でしょう? ゆっくり回ってこられた方がいいと思うよ」
「ええ、君もあまり背負い込むことのないよう」
笑顔で出口に向かう神父の背を見て、真は喉まで出かかった『冗談』を飲み下す。口にするにはタイミングが最悪すぎる。
「逃げられるとしたら、ここからですの。よじ登ってまで逃げるとも思えませんが」
ノリアはステンドグラスを眺め、ギフトを使って宙に浮く。仲間の突入から僅かにタイミングをずらし、唐突に現れる手はずだ。
「それでは、イレギュラーズにしか出来ないソリューションで、ビジネスライクに事を済ませましょう。ASAP(なるべく早く)で」
寛治の言葉を合図に、複数の入り口に散った面々が次々と教会へと飛び込んでいく。真は、予め内部の人間を礼拝堂へと集めている。
「…さて、仕事だ仕事」
ルナールが冷静に長刀を抜き放つと、切っ先の延長線めがけてルーキスの魔術が光芒を引いて飛んでいく。まともな人間であればそれだけで動けなくなるだろうが、その場にいた者達は『まともではない』のだろう。受けてなお、息のある者がいる。
「い、いきなり……何を……」
「ご愁傷様、国に睨まれた己の不運を嘆きなさいな」
喉から絞り出すように非難を向ける男に、首を振ってルーキスは応じる。当然、抗弁しようとした相手はルナールの長刀から飛ばされた飛沫に貫かれ絶命する。そして、黒い泥へと変わった。
「……恨んでくれても構わない。だが黄泉帰りが悪行ならば、俺は殺さなければならない」
「なっ、っが――」
キールの槍は正確無比に1人の心臓を貫くと、返答を聞く間もなく大きく飛び退る。彼の視界の隅では、寛治がアタッシュケースの中から爆弾を放り出したところだった。
泥に変わる死体を脇目に、爆弾は複数名を巻き込んで吹き飛ばす。痛みに悶える者は不幸であった。多くの者は、爆風に混じって放たれたアレックスの魔術の追撃で、痛みも感じず泥に帰したのだから。
「……許せとは言わぬ。ただ恨め。そして……恨みのままに死ぬるが良い」
侍らせた霊魂とともに前進したアレックスは、周囲の死者、その魂の所在を探るが反応はなかった。魂そのものがここにあらず、なのか。反応することもない、のか。何れにせよ、生きていようと死んでしまおうと、黄泉帰りから何かを得るのは難しいということか。
混乱の坩堝に放り込まれた教会内で、逃げようとする者は当然多い。だが、我先にと動けば当然、折り重なるようにして動きを阻まれ、畢竟、スティアの千変万化の魔術を目にして命を落とすこととなる。
そして、何人かは呆然とステンドグラスを、否、その下から生えてきたノリアを幽霊と誤認し、混乱する。
だが悲しいかな、彼らは恐怖よりも先に身の保身を優先するし、ノリアから放散された隙の気配を敏感に感じ取り、じりじりと間合いを詰めようともする。犠牲者たる彼らは、より弱い者を敏感に感じ取り、新たな犠牲者として吊るし上げようとする。哀れだが、道理に適う心理だ。
「皆様の命はプライスレスです、尊重せねば」
尤も、『無価値』という意味でだが。寛治はその言葉を飲み込んで、傘の石突を生き残りへと向ける。ノリアに襲いかかり、殴りつけた反動で手が痺れた男は、手元を眺めようとした姿勢のままに崩れ落ち、泥に変わっていく。銃弾の衝撃すら、気付けたか怪しいところだ。
「……許せとは言わぬ。ただ恨め。そして……恨みのままに死ぬるが良い」
アレックスは魔弾を撒き散らし、的確に人々を撃ち抜いていく。狙いは彼らの装飾品。命ごと砕き、誰かがいたという確証を奪う腹づもりだ。結果として、遺留品ごと泥に帰したのだが。
「大体、これで全員か。相変わらず燃費の悪さには困ったものだ」
ルナールは魔力の消耗を感じ取り、深く息を吐く。ルーキスを含め仲間が十全な働きを見せてくれたから楽に進められたが、長期戦になったら辛いのは相変わらず。
さて、残されたのは後始末と神父の処遇だが。いつの間にか姿を消した真と、彼が向かった方へふよふよと飛んでいくノリアが何とかしてくれるだろう。……そうでなくては、誰かの手が汚れる。
●そして誰も間違ってない
「神父、教会へは戻っちゃダメだ」
「ならば、真。君に聞いておきたい」
教会外縁部、正面にて。真と対峙した神父は、穏やかな声音で彼に問いかける。真はいくつかの質問と、それに対する答えを模索した。だが神父の質問はどれでもなく。
「君は、教会の中に居る人々が間違った存在に見えたかな? 間違っていると聞かされている、間違った存在だと知っている。そうではなく、『間違って見えたか』を聞きたいんだ」
思いがけぬ質問に硬直した真を一瞥し、神父は深く息を吐いた。答えを聞くことは叶わぬだろうという諦念と、聞いたところで何かを得られるのか、という疑念と。
「教会が……逃げて……!」
彼の横を抜けて神父が進もうとした時、人の姿で現れたノリアが慌てて2人へと駆け寄ってくる。彼女の背後では、今まさに炎がステンドグラスを舐め融かすところだった。
「さ、お仕事終了。我が家に帰ろうかルナール」
「うむ、そうだな。仕事も終わったんだ、家に帰ろうルーキス」
ルナールとルーキスは、互いに手を取りあうと教会の裏口から外へと出ていく。2人は人数のカウントと殲滅任務に手を尽くした。それ以上を無理に手出しするより、早々に場を離れた方が良い、という判断を下したのだろう。懸命である。
「こうして泥になってしまうと人数確認もままなりませんね。命を奪った数をあらかじめ確認しておかなかったら、逃げられても文句を言えませんでした」
寛治は礼拝堂の椅子を次々と破壊し、燃えやすい瓦礫にしながらそんなことを嘯く。最初から逃す気など微塵もなかったし、死体が残れば適切に処理する気でいたが。泥になろうがなるまいが、教会ごと燃え落ちるだけである。
(……嗚呼、だが本当に黄泉帰りは悪なのだろうか)
悪と断罪し、容赦なく痛みを与えず殺し回り、それでもなおキールは自分に問う。故郷の……天義の正義に則れば紛うことなき悪。道理を嗤い、不条理に叩き落とす許しがたい不道徳である。
だが、死した者に再会したいと思う者の心がわからぬ彼ではない。彼もまた、「或いは」という不条理な問答を続ける者なのだから。
寛治の合図に合わせ、スティアはカンテラを瓦礫に落とす。油に浸された瓦礫は驚くほどあっという間に燃えさかり、床を舐め、天井へと這い上がる。悠然と出口へ歩いていく寛治と、ゆっくりと踏みしめるようにその場を後にするアレックスとキール。そして最後に、泥を囲う炎に向かってスティアは一瞥し、小さく祈りを捧げた。
彼らは誰にも見られぬうちにその場を後にするだろう。少なくとも、『口さがない者の目には』留まるまい。
「……神は、己の正しさを示される為だけに、ご自身の安息地をも失う覚悟を示された。あの者達は、真なる安息を得ることでしょう」
誰に告げるでもなく、イレギュラーズとすれ違った神父はそう口にする。数歩だけ教会に近づき、燃え落ちる様を眺めていた彼の判断は。
誰を糺すでなく誰を責めるでなく、神父は。
恐らく自身の居場所を以て神の居場所を築き上げ、この悲劇を糧に人々を導くだろう。真なる復興への第一歩へと。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。詳細な判定その他はリプレイを御覧ください。概ねにおいて成功です。神父は無事ですし、二度目の火事の後も復興に尽力してくれるでしょう。今回のことの真相は薄々気づいていても口にしない様子です。
躊躇しなかったのが逆によかったのかもしれません。用意周到でした。
(村とか孤児院じゃなくて教会が燃えるなんてテストに出ないよお……)
GMコメント
三度目まして、封三紅葉です。
天義のなんやかんやは相変わらずのようです。
●成功条件
・教会内の一般人?(神父除く)の全討伐
・教会内に人がいた痕跡を隠蔽する
以上を侵入から撤退まで、到着から夕刻の鐘がなるまでの間(長くても1時間あるかどうか)の間に遂行する
●神父アニーチェ・ブラン
首都北側第33教区の教会に務める神父で、教区の人間を深く愛している。神に対する信仰は篤く、最悪の展開が訪れれば信教を優先するタイプ。
任務遂行時に教会内にはいないものの、途中で姿を見せる可能性は高い。
●教徒達(教会内)
教会内に匿われた人々で、20人いる。
一人ひとりに取り立てて強力ではないが、数の暴力で挑みかかってくる。武器は農具や道具各種。教会内での立ち回りは彼らに一日の長がある。
●教会
教区の北端にあり、一般の人々が避難している外部区画と一部住民を匿っている教会本棟が存在する。
潜入自体はさほど苦労はしないだろうが、本棟内部の生活痕跡の排除は手間だろう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
スニーキングよりも殲滅と後片付けが大変そうな依頼です。
よろしくお願いします。
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