PandoraPartyProject

シナリオ詳細

焼き鳥は嫌です助けて下さい!!!!!!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●連れ去られるヒヨコ
「ねえ、そろそろ戻った方が……」
「なーに言ってんだ」
「むしろこれからが本番だろ?」
 青年たちは1番小柄な少年の言葉を笑って受け流す。ブラウは困ったように眉尻を下げた。
(嫌な予感がするんだよなぁ……)
 鈍重に空を埋める雲が、ブラウの不安な心を表すかのようだ。
「行くぞー!」
「は、はぁい……」
 何にせよ、ブラウ自身に拒否権はない。

 ──そう、なかったから。もうこの状況って仕方ないと思うんだ。

●囚われのヒヨコ
「ブルーブラッドの男の子が連れ去られてしまったのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がばさっと地図を広げる。
「元々はお兄さん達と遊びに、惑いの森という場所へ行っていたのです」
 きゅ、とペンで幻想にある森を丸く囲うユリーカ。だいぶ大きい。
 それはちょっとした肝試しだったそうだ。兄2人と件の少年で、惑いの森に入ってこようと。大人たちは信じてくれないだろうから──そう、奥に住まうというゴブリンたちの持ち物を取ってこようなんて。
「ちょっとばかり──いえ、だいぶ気の大きいお兄さん達だったのです。そんなことしたらどんなことが起こるか……」
 それは容易に想像できるだろう。実際、末の弟は捕まり兄達は命からがら逃げてきた。救いは弟にちゃんと情があったことだろうか。
「逃げてきたお兄さん達は真っ先に親へ泣きついたそうなのです。それで、依頼がローレットへ。早くしないと食べられてしまうかもしれません。なのでその前に、ゴブリンを倒して助けてあげて欲しいのです。ゴブリンのリーダーはボクも見つける事ができなくて……でもヤバいやつって聞いてるのです! 逃げるが勝ち、だと思うのです」
 ふるふると震えるユリーカ。それはいけない。早く救助しなければ──。
 ──あれ、と首を傾げた者がいた。
「男の子だよね」
 どう考えたって一般的には食料じゃない。いや、モンスターだから一般に該当しないのか。それとも食人趣味のあるゴブリンだろうか。
「男の子なのです。"ブルーブラッド"の」
 ユリーカも頷く。至極真面目な顔をして。
「その男の子は、ふわっふわのぬいぐるみみたいなヒヨコなのですよ。ニワトリになることがあるのかわかりませんが……とにかく、焼き鳥になる前に助けてあげないと、なのです!」

GMコメント

●成功条件
 ブルーブラッドの少年『ブラウ』の保護

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブラウ
 この依頼での保護対象。ブルーブラッド。
 人型なら14歳程度の少年姿。変化前の姿は30cm程度のぬいぐるみのようなヒヨコ。なぜか成長してもヒヨコ。人型は華奢なのにヒヨコ姿はむっちりしている。ふわふわもふもふ。
 臆病な性格。何かあるとすぐヒヨコ姿になってしまう。というよりは、ヒヨコ姿の方が安心するのでよほどのことがなければ人型を取らない。
 危険なことには敏感だが、動き出しが遅い。動きも遅い。運動神経も悪く戦闘もできない。そして何より『運が悪く事件や事故に巻き込まれやすい』。

●エネミー
・手下ゴブリン×15体
 緑色の肌をしたモンスター。棍棒や片手剣を装備しています。
 弱そうな感じのPCから殴ってきます。反応は遅いですが数の暴力と物理攻撃力特化タイプです。単発攻撃にも注意していきましょう。

・ゴブリンリーダー
 ゴブリンたちのリーダー。基本的に森のどこかを徘徊している圧倒的強者。
 たまに巣へ戻ってきているようですが、その姿を見た者はごく僅か。
 とてもとても大きく、その1撃は石をも砕くということです。動きが遅く、逃げるのは容易。しかし観察でもしようものなら大怪我は免れないでしょう。

●ロケーション(惑いの森)
 昼間の森です。曇り空。
 木々が大きく枝や葉を広げており、じっと目をこらさなければ標的を見逃してしまう可能性があります。方向感覚を狂わせるような雰囲気に呑み込まれないよう気をつけましょう。
 奥にゴブリンが巣とする洞窟があります。広々としており、洞窟の奥にブラウがいます。動けないよう地面から生えた岩に括りつけられているようです。

●ご挨拶
 愁と申します。ふわふわもふもふは好きです。だからそういったシナリオが多くなるのだと思います。
 今回はそんなもふもふヒヨコを助けに行く依頼です。ボスは見つけたらさっさと逃げるが吉だと思います。はい回れ右。ダッシュで逃げろ。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • 焼き鳥は嫌です助けて下さい!!!!!!完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月27日 01時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
リナリナ(p3p006258)
矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール

リプレイ

●揺れる木のなか、黄を捜す
 木の枝にリボンが巻かれる。キュ、とそれを軽く縛った『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は、リボンがほどけないことを確認して仲間たちのもとへ戻った。
「おー、もう大丈夫? 出発前の確認するゾッ!」
 『原始力』リナリナ(p3p006258)が戻ってきたリュカシスに気付き、持っていた羊皮紙をぶんぶんと振る。その羊皮紙──地図は、追加の情報が無いかと情報屋に問うた結果であった。
 今回の目的地はゴブリンの住まう洞窟だ。洞窟というのはゴブリンたちにとって住みやすいものなのか、追い払っても別の集団が住み着くことがある。もし過去にもゴブリン退治の依頼などが出ていたのなら、その時の資料に森や洞窟の地図が残っているはずだと踏んだのだ。
 そうして地図はリナリナの手へ。『惑いの森』と称されるだけあって地図も曖昧にならざるを得なかったようだが、あるのとないのとでは動き方も変わるだろう。
「今回はスピード重視がいいね」
「ハイ。このような形で弟君を失わせては、兄上方にも大きな傷を残してしまいますから」
 広げた地図を覗き込む『特異運命座標』ティスル ティル(p3p006151)にリュカシスが頷く。目の前で弟が連れて行かれ、心の傷は如何ほどか。その傷を酷くしない為にも、癒す為にも早くブラウを助けねばならない。
「焼き鳥ネタはネタだから許されるものだしね。さっさと助けて笑い話にでもしちゃおう!」
「うん! 救出頑張るぞー!」
 おー! と『命の重さを知る小さき勇者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が力強く拳を振り上げる。それに反して『空歌う笛の音』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)はぶるりと体を震わせた。
(おかしいな……オイラ、飛行種で獣種じゃないのに共感が……)
 飛行種、獣種と種族は分かれているものの、鳥の姿であることは似通っている。連れ去ったというゴブリンたちが鳥の姿をしていれば何でもよい、なんて考えなら──アクセルもまた、被捕食者になりかねないのであった。
「誰かに、食べられそうになるおそろしさは、わたしには、よくわかりますの……」
 胸の前で両手を握り締める『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は眉尻を下げて頷く。かくいう彼女も、弱肉強食なら前者であるが故に。
 けれど、だからこそ知っていることもある。
「弱いわたしたちも……力を合わせれば、助かりますの」
 1人ではなく、皆で。ここにいるメンバーでブラウを助けるのだ。
「ヒヨコの子、助ける! 助ける! 出発だゾッ!」
 意気揚々と足を踏み出したリナリナは──しかし「あれ?」とすぐに足を止めた。
「これ、あっち? こっち? リナリナ、合ってる?」
 真っすぐ奥の方へと進んでいるはずなのに、どうしてだか曲がってきたようにも思えて。
「なるほど……惑いの森って呼ばれるわけがわかるね」
 アクセルもまた、洞窟を捜しながらも方向感覚の狂いに苦いものを感じるようだ。そんな中、1人元気に突き進むのはティスルである。
「たぶんこっちで合ってるはず! ……合ってるよね?」
 若干自身なさげだが、今の彼女は人間コンパス。ティスルが感じるままに進めばそれは正確な方角だ。
(運が悪くて巻き込まれやすい……なんだか他人とは思えないので何とかして助けたいですね)
 身に降りかかったギフトと親近感を湧かせる『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)は、ティスルの先導に従いつつ耳を澄ませた。耳が拾うのは自然に紛れる反響音。
 そして、その最中に森へ向かう前のことが脳裏をよぎる。
『どんなところ……森、森の茂みで目があったんだ。やばいって逃げてたら後ろ走ってたあいつがこけて、』
『すぐ後ろを追いかけてたゴブリンが取り囲んで連れてったんだ! 目が金色に光ってて、俺らは引き止める事もできなくて……!』
 助けてやってほしい、と言い募ってきたブラウの兄たち。逃げることに、そして助けを求めるために必死で仔細まで覚えているわけではなかったようだが、それでも多少の情報は手に入った。目が金色に光って見えたのなら、洞窟の中でも──或いは。
 途中途中でリボンを枝へと結びつけ、小走りに仲間たちへ合流するリュカシスはファミリアーを通して森を見渡す──だが。
「洞窟は見えなさそうデスネ」
 木々が葉を広げ、こうして歩いていても薄暗さを感じるほどだ。洞窟もまた木々に隠されてしまっているのかもしれない。ゴブリンのリーダーも恐らくは同様に。
 しかし、リュカシスは目ざとく木々が大きく揺れる箇所を見つけた。姿は見えずとも、枝に体が触れてしまうくらい大きいらしい。どこかへ向かっているのか、或いは当てなく彷徨っているのか。時折方向転換するものの、その存在はイレギュラーズより遠い場所にある。
 これならまだ警戒しなくても良さそうだろうか──注意しておこうと心に留め置くリュカシスの耳へ、洞窟が見つかったという言葉が届いた。
「一応、周辺の偵察してもいい?」
「ハイ。ゴブリンリーダーらしき気配は遠くにいますから、もし近づいて来たらお知らせしマス」
 ティスルは頷くと、洞窟の入り口から岩肌を沿って進み始めた。暫しして別の入り口が見えてくると、ティスルは後ろに続く仲間を振り返る。
「あれ、同じ道に繋がってるかな?」
「可能性はあると思うよ」
 そんなに離れていないから、とアクセル。その先にも進んでみたが、この周辺にある洞窟の入り口はこの2つだけのようだ。
「どっちから進もうか」
「メンドいし、見えてるそっちから入ればいーんじゃないかなぁ……」
「近い方、賛成! 賛成! 巣穴突入!」
 気だるげに2つ目の入り口を指差す『壺焼きにすると美味そう』矢都花 リリー(p3p006541)。そこへリナリナも力一杯頷いて。
 それじゃあ、とティスルはランタンに火を灯した。

 皆が息を潜め、最低限の音のみで進んでいく。途中まではティスルのランタンのみで事足りたものの、途中からはリュカシスも布を被せたランタンを持って足元を照らし、一同を誘導していた。
(どうやら、全体的に広い空間のようですね)
 微かな足音の反響から弥恵は洞窟内の広さを感じ取った。それは横にも縦にも、そして奥にも広く。先頭を進むルアナもまだゴブリンの姿は見つけられずにいた。
 それはアクセルも同様で、感情探知に驚きの感情は引っかからない。もっと奥に潜んでいるのだろう。
 ランタンを掲げながら気を張るティスルの傍らで、リリーはどこまでも自然体。強いて言うのなら驚くほどに無表情であったが、これは意図的に感情を封じているのだ。鋭い聴覚で敵の気配を捜しながら、しかしついついぽろりと感情が漏れ出す。
(はぁ……なんでメンドーなことするかなぁ……)
 面倒なことはしたくない。面倒事はやり過ごしたい。けれどもブラウが捕まったからローレットへ依頼が舞い込み、それを受けてしまったから助けるしかない。
(ギルティ……ブラウっち、ギルティ……)
 見た事も無いヒヨコへ有罪判決を心の中で下し、けれどとリリーは再び考えた。そもそもゴブリンたちが純種であるブラウを食べようとしたのが発端である、と。
「…………」
 沈黙暫し──いや、これまでも心で呟いていただけだけれど。
(……無いよねぇ……)
 すんっとリリーの顔から表情が抜け落ちる。つい怒りの感情が出そうになり、再び感情封印をかけたのだ。
 けれども思ったことがなかったことになるわけではない。
(ありえないし……ゴブリン、モアギルティ……)
 救助対象より敵のほうが有罪度が上がったところで、先頭を行くルアナが静かにするよう合図して前方を指差した。ゆらりと揺らめく橙色。伸びる影。
 どうやらゴブリンたちは火を使っているらしい。そこそこの知能を持っているのか。そして火を使っているという事は──もしや。
 イレギュラーズたちの間に嫌な予感が浮かぶ。
「……ルアナが引きつけるから、ブラウさんの救出をお願い」
 近くにあるものしか聞こえぬような声量でルアナが囁く。どんな状態にあったとしても、まずはこちらで保護しなければ。
 カンテラがそっと消えると、ルアナがふらりと火の見える位置へ足を踏み入れた。
「あれ、ここどこかな。ルアナ迷子になっちゃったかな?」
 きょろきょろと辺りを見回し、迷い込んだ子どものフリをして。そうしてゴブリンと焚火を視界に収め、その奥の黄色いもふもふともばっちり目があった。
(いた! 本当にふわふわっぽいなぁ……じゃなかった、助けないと!)
 唐突な乱入者に驚き、そして捕まえんと戦闘態勢を取るゴブリンたち。その感情を確りと感じ取ったアクセルは「15体いる」と仲間に告げ、一同はルアナに続いて灯りの元へ躍り出た。初手でアクセルが打ち放った魔砲により、何体かのゴブリンが巻き添えとなる。アクセルが視界に収めるは岩に括り付けられた丸っこいひよこ。
(最初からひよこ型じゃ、脱出は難しいか)
 人型で捕まっているのなら、ひよこ型へ変化すれば或いはと思っていたのだが。縄を解くなり切るなりしなければならなそうだ。
「おー、黄色の物体! ヒヨコの子居たゾッ! まだ調理前! セーフ! セーフ!」
「ぴぃっ、調理は困るんですけどっ!?」
 リナリナの声に言い返すブラウ。どうやらこの状況においてもそこそこ元気らしい。
 ルアナが大半を引きつけたとはいえ、そこからイレギュラーズたちへ注意を向けたゴブリンたちもいる。各個撃破をとリュカシスは注意の離れたゴブリンへ鋭く肉薄した。その瞳は敵を捉えつつ、仲間がブラウへ向かう様子も確りと把握している。
「ゴブリンさんは全部で15体……出来るだけ倒さずにすませたいね」
「こっちはブラウ君連れて逃げれば勝ちなんだからね。無理に構う必要ないよ!」
 信念の鎧を身にまとうルアナに応えながらティスルは鋭く敵へ肉薄する。腕輪へ満たされた特殊鋼の液体が姿を変え、武器となったそれをティスルは確りと握った。
 剣が縦に空気を薙ぎ、そこへリナリナが拳を握りしめて接近する。
「るら〜!」
 仲間が交戦する中、ブラウを助けにいく面々は奥へ突き進む。そこへゴブリン2体が立ちはだかった。リリーが心底ダルそうに敵を見る。
「……メンドい……さっさとひきこもりたい……」
 ゆらぁ、とリリーの体が揺れて。次の瞬間、バールを持った彼女が道を開かんと敵へ向かっていった。
 しかし、ゴブリンたちもただ一方的にやられるわけではない。彼らが標的に定めたのは──美しき舞姫、弥恵。踊るようなステップで華麗に避けるものの、間隔を狭めてくるゴブリンたちに表情が歪む。
「まだまだ……私の踊りは始まったばかりです!」
 その足が力強くしなやかに、直撃かと思われた敵の攻撃を躱す。それと同時、小柄な影が弥恵の前へと滑り込んだ。
「弥恵様、ノリア様!」
 リュカシスがいち早く気づいて加勢に入る。ノリアはゴブリンたちの攻撃に耐えながら、気丈に敵を睨みつけた。
「持久戦なら、負けませんの!」
 弱いことは知っている。けれど相手が強いなら──その強さこそが、相手自身を傷つけるのだ。


●逃げろ!!!!!
 仲間たちが必死に敵を引き寄せ、耐え、道を拓く。その隙をついてアクセルとリナリナがブラウの元へと駆け寄った。
 アクセルのフォトン・シュリケンが縄を切り、ブラウは小さく羽根を広げる。その姿と解いたロープをリナリナは順に見て、何かを思いついたようだった。
 リナリナはブラウを背負い、解いたロープで自分とブラウを固定する。これで何があっても落ちない──はずだ。
 ブラウを守るように立ち回る弥恵は素早く周囲を見渡す。奥に知らぬ道が1つ。だが、そこまでたどり着くにはやや距離があるか。
「元来た道を戻った方が良さそうですね」
「救出できたらここは用なし! 撤収しよ!」
 洞窟内に響くような声はルアナのもの。彼女の体力的にも、そしてオーダーとしても引き際だ。
 ルアナの言葉に頷き、踵を返す一同。それを追おうとするゴブリンたちの前に弥恵が立ちはだかる。
「捕まえるのはあなたたちではなく──私です」
 その魅せて酔わせるような舞に、見えぬ糸がひらりと伸びて。それらはゴブリンを絡めとらんと飛んでいく。
 それより少し離れた場所では、リリーが血染めのバールへさらに血を浴びせていた。
「そんなに食べたいなら、嫌というほど食らわせるから……」
 ──このバールを。
 ゴブリンの頭上から思い切り振り下ろし、敵をノックダウンさせるリリー。そろそろ、とその足は仲間たちを追うために返された。

 ブラウを背負ったリナリナが先頭を。ティスルはいつでもブラウを庇えるようにとその後ろを駆け、さらにその後方に仲間たちが続く。
 必死に駆けて、徐々に光が近づいてきた──そう思った時だった。
「皆サン! ゴブリンリーダーが近いデス! 気をつけて!」
 リュカシスがファミリアーを通してゴブリンリーダーの接近を伝える。しかし、森へ出たと同時。
「……っ!」
 誰かが、息を呑んだ。皆が立ち止まったのにつられ、足を止めるつもりのなかったアクセルもつい止まってしまう。
「おー、デカい! 強そう!」
 思わず見上げるリナリナの背中でブラウが「ぴよぉぉぉっ!?」と震えた声を上げる。その隣で強く地面を蹴ったリリーは、血染めのバールを手に跳躍して。
「──メンドいから会いたくなかったんだけどなぁ……」
 気だるげに呟きながら、顔面へバールを振り下ろした。驚くほど硬い感触がバール越しにリリーへ伝わる。痛がっている節も──ない。
 逃げよう。一同の見解は一瞬でまとまった。逃げるが勝ち。少なくとも今、正面から向き合えばオーダークリアが危ぶまれる。
 けれど、逃げ切れるだろうか?
「皆様、わたしがひきつけますの!」
 そこへ躍り出るは自らを弱いと言っていたノリア。その隙だらけな様子にゴブリンリーダーの視線が向き、強く握った拳がノリアへ向かって振り下ろされる。
「ノリア様!」
 リュカシスが声を上げる中、ノリアはよろめいて──けれども倒れず。自己回復に身を任せ、仲間たちが向かうのとは反対方向へと全力で進み始めた。それを追うようにゴブリンリーダーが背を向ける。
「行きましょう」
 弥恵が促し一同は迷いそうな森の中、リュカシスの付けた目印を元に森の外へ引き返していった。ゴブリンも、ゴブリンリーダーもやってこない場所へ──。

「ここまで来れば、もう大丈夫なハズですよ」
 ファミリアーで周囲を見渡したリュカシスが告げる。でも、とリリーは気だるげな瞳を森へ向けて。
「ノリアっち、戻って来られるかなぁ……」
 一同が思い浮かべるのは巨体に向かって行く小柄な姿。彼女もイレギュラーズ、そう簡単にやられるなんて思いたくはないがもしもということもある。
 不意にガサリ、と草が揺れた。純粋な興味の視線、じとりとした視線、警戒心を宿した視線──様々な想いを秘め、幾つもの視線が揺れた草むらへ向けられる。
 それはひと際大きくなって──。
「──見つけましたの!」
 そこから飛び出してきたのは半透明の尾を持つ少女──ノリアだった。痛々しい怪我は彼女の回復力でも治りきっていないが、無事に帰って来たのである。
「なぁんだ、ノリアっちかぁ」
「あっ! その手に持っているのは、ボクが結んだリボンでしょうか」
 敵ではないと知るや否やふぅ、と瞳を逸らしたリリー。その隣でリュカシスが声を上げた。ノリアが手に持っている幾つかのリボンは、往路でリュカシスが目印にと木の枝へ結んだもの。
 リュカシスにノリアは頷いた。
「はい。逃げて、帰り道がわからなくなりましたの。でも、これのおかげで、道がわかりましたの!」
 にっこりと微笑むノリア。ブラウを背中に縛り付けたままのリナリナが「皆揃った! 帰る! 帰る!」と皆を出口へ誘う。
 ──その背中で。もふもふふわふわのヒヨコは何やら真剣に──ヒヨコでは真剣な表情は分かりづらいが──考え事をしていたようだった。

成否

成功

MVP

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚

状態異常

ノリア・ソーリア(p3p000062)[重傷]
半透明の人魚

あとがき

 お疲れさまでした。無事にブラウを救出することができました。

 透き通った尾を持つ貴女へ。自らを弱いと思いながらも、能力不明な相手を必死に引きつけたその勇気に。今回のMVPをお贈り致します。

 またのご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

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