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シナリオ詳細

空に揺蕩う雲に似て

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 大抵の子供からすれば、ふかふかしている、というイメージ。
 それが空一杯に浮かんでいるのだから、夢見る子供達からすれば一度は乗ってみたいと考えるものだろう。
 無論、現実はそう甘くない。魔術なり技術なりで一度でも空に向かえば、真白く、小さく見えるそれらはひどく茫洋として、手で掴むことは愚か
触れることさえままならない。
 実際にそれを体験するまでには至らぬとも、子供達は成長と共にそれを自覚し、夢を振り切りながら前へ進んでいくのである――と言う美談が。
「よーし、いけいけー! どんどん飛べー!」
 まあ、無辜なる混沌で通用するはずもなく。
 眼下には豆粒のように小さくなった村の姿。巨大な真白の『それ』に乗ってきゃあきゃあと叫ぶ子供達は、自分達が住む村の遥か上空で大騒ぎしていた。
「ね、ねえ。本当に大丈夫なのかな、その……」
 総勢五名。年端もいかない少年少女達の内、一人の少年が怯えた様子で問い掛ける。
 しかし、応える側は気にも留めない。
「気にする必要ないって! 父ちゃんも母ちゃんも『コイツ』には乗れないなんて、嘘ばっかりじゃないか!
 コイツに乗って、何処までも進んでさ! 日が沈んだら帰ってくれば良いんだ!」
「う、ううん……」
 所詮は普通の農民の子供である。疑問を呈しても、ここまであっさりと返されれば反論も難しい。
 漠然とした不安を拭えない少年に対して、残る子供達は明るい表情で声を上げ続けた。
「どんどん進めー! 邪魔する『霧』は全部吸い込んで、お日様を取り戻すんだ!」
 それに応えるように、巨大な雲……の、形をした羊は、子供達を乗せながら、ふよふよと次なる『雲』へと向かったのである。


「……『雨食い羊』?」
「なのです」
 知ったばかりの単語を鸚鵡返しに尋ねる特異運命座標達に、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ (p3n000003)がこっくりと頷く。
 ローレットの一卓。心配そうな顔をしている一人の村人の横で、情報屋の彼女は特異運命座標達に依頼の説明を始めていた。
「この子は一部の地域、それもごくごく特定の時期にだけ現れる魔物なのです。
 外見はとっても大きな、ぬいぐるみみたいな羊さん。特徴として空を飛ぶことと、雲を食べるという性質が上げられるのです」
 曰く、この羊が現れるのは、酷く強い雨期が訪れている場所に限定されるらしい。
 農作物や交通の拠点、それらに被害が及ぶレベルで天候が悪いとき、何処からか現れるこの魔物は、周りの雲をすべて食べ尽くしては何処かに行ってしまうのだとか。
「現れるタイミングも併せて、一部では人里を天災から守る一種の神様としても崇められてるようなのです。
 ……で、ですが。今回もその羊さんがとある村に現れたのですよ」 
 時期も例によって雨期。連日降り続ける雨に作物がまいってきた頃現れた『雨食い羊』は、その日も同じように雨を降らせる雲を一通り食べて何処かへ去ろうとした。が。
「……うちの息子が、その、非常に馬鹿なことを」
 ぽつり、呟いたのは依頼人である初老の男性だった。
 たっぷりと雲を食べて身体が重たくなったのだろうか、現れたときよりも低空飛行で去っていく『雨食い羊』に対して、その村人の子供は友達を引き連れ、かなり強引な手法――具体的には村で一番高い風車に昇って、かぎ爪を使い無理矢理ひっついていったとのこと――で、その魔物に乗りこんだのだとか。
「……それじゃあ、そいつらを連れ戻すのが依頼か?」
「と、もう一つ。件の『雨食い羊』を、村の上空から追い払って欲しいのです」
「……は?」
 聞いた話では。
『雨食い羊』は現在居る村の雲を殆ど食べ終え、本来は既に何処か遠くへと飛び立っている筈である。
 が、何があってか。子供達を乗せて以降の『雨食い羊』は村の上空を漂っては、現れる雲を次々と食べていってしまうとのことだ。
「作物からすれば、降りすぎる雨も困りものですが、一切雨が降らないのも困りものです。
 あの魔物には申し訳ありませんが、皆さんのお力でどうかお退きさせていただきたく……」
 と、言っても。
 村一つ分の雲を食べきる巨大なサイズの魔物を相手に、少数の特異運命座標が何処まで立ち向かえるかという話である。
「……状況を判断するに、あの羊さんは自分に乗っかった人達の言うことに従ってる気配があるのです」
 遥か上空とは言え、子供達が指差した雲を食べる『雨食い羊』の様子は、村人を通してユリーカにも伝わっていた。
 それがあの子供達だから従っているのか、それとも自分に乗るものならば誰でも良いのか、は不明だが。
「無理だったら……申し訳ないですけど、実力行使になると思うのです。
 まあ、あのサイズの魔物だと針でちくちくされるレベルかもしれないのですが、それはそれで嫌がって何処かへ行くかも知れないですし」
 肝心の解決方法が若干投げっぱなし気味になってることに頭を抱えつつも、特異運命座標達は致し方無しと席を立ち――ふと、最後に問うた。
「……空を飛んでる魔物に乗るって事は、飛行能力持ち限定か? この依頼」
「いえ。そうした方々はローレットで管理、或いは接収した射出……じゃなくて飛行装置でお送りするのです。
 降りる際の為に落下傘の用意も完璧なのですよ!」
 ――一部、途切れた不穏な単語に、参加者の何名かが表情を硬くしたのは、此処だけの話。

GMコメント

 GMの田辺です。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
『雨食い羊』を村の上空から移動させること(殺害、戦闘不能等は厳禁)
『子供達』の保護

●場所
 幻想の某所、貴族の管轄下にあるのどかな村です。規模は中程度。
 年間に於ける二毛作を行っており、現在は収穫期を終えて間もない頃。
 丁度上空を下記『雨食い羊』が漂い、若干日光が届きづらい状況です。

●対象
『雨食い羊』
 小さな人里を軽々と覆う、巨大な空飛ぶ羊です。
 災害レベルの天候が発生した場所に現れ、雨を降らせる雲を食べ尽くしては何処かに去っていく不思議な魔物。
 シナリオ開始時点では、下記『子供達』を乗せて、村の上空を漂っています。
 戦闘に於けるポテンシャルですが、攻撃、回避能力一切無し。代わりに防御性能と体力が尋常じゃないレベルで高いです。

●その他
『子供達』
 上記『雨食い羊』に乗り込み、命令している子供達です。数は女の子が二人、男の子が三人。
『雨食い羊』を雲と勘違いして乗り込んだ夢見がちな子供。この先どうなるかの不安は一人を除いて全くなく、日が暮れるまで遊べばいいやと考えているようです。実際の所どうなるかは不明。
 皆さんがプレイングに明記すれば、労せずして捕まえることが出来るでしょう。その後どうするかは皆さん次第。少なくともそれぞれの親に説教されるのは確定ですが。

『参加条件等について』
 対象の位置から飛行スキルを有する人向けと思われるかも知れませんが、非所有者でも問題なくご参加いただけます。
 その場合はローレットから落下傘を支給の上、何の用途か解らない『高々度射出装置』にて『雨食い羊』の背中にお送りするとのこと。乗り心地はお察し下さい。



 それでは、参加をお待ちしております。

  • 空に揺蕩う雲に似てLv:1以下完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月25日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

朱・夕陽(p3p000312)
渡烏は泣いてない
ルーティエ・ルリム(p3p000467)
ブルーヘイズ
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
根古屋 アンネ(p3p004471)
ヨダカ=アドリ(p3p004604)
星目指し墜ちる鳥は
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
城之崎・遼人(p3p004667)
自称・埋め立てゴミ
スティリカ=フォルクロール(p3p004676)
ねこ

リプレイ


 羊が高く空を舞う。
 ……言葉にすればひどく荒唐無稽にも見えるが、事実なのだからしょうがない。
 村に大きな影を落として空を漂い続けるこの魔物は、本来何処かへ旅立つところを、未だにそうする気配は見られない。
「……今回の仕事は空高くに飛んだ『雨食い羊を村の外へ追いやる事と子供達の保護』との事だけれど」
 その原因と、対処依頼を任された特異運命座標の一人。根古屋 アンネ(p3p004471)が淡々と呟く。
 実際、多少なりとも視力の良い者には見えるだろうか。巨大な羊の上から身を乗り出し、近くの雲がある方角を指差す子供達の姿が。
「懐かしかねぇ、俺も小さい頃は雲の上、海の向こうの世界に憧れたもんでした」
『渡烏は泣いてない』朱・夕陽(p3p000312)が、瞳を眇めて上空を見遣る。
 その表情には、思い切った行動を取る子供達への苦笑いと、過去を思い出す感傷と――確かな心配とが。
「やけど、子供たちだけで村が豆粒に見えるほどの高高度まで行くげな、危なかけん」
「あの子達も間違えただけ……なのかな。
 何にせよ、きちんと説得して村に降ろしてあげないとね」
 応えるように頷いたのは『星目指し墜ちる鳥』ヨダカ=アドリ(p3p004604)。
 好奇心と冒険心と。子供特有の向こう見ずを発揮して空飛ぶ羊に乗った彼らに対する特異運命座標達に、少なくとも悪態じみた感情は誰も抱いていない。
 同様に、それは『天食い羊』に対しても。
「……あの羊さんが本気でぶるぶる身を震うだけで子ども達も私達も全滅しちゃうですし、風車の羽なんかも折れちゃうと思うです。
 だから、わたしはあの羊さんが、きっといい羊さんと思うです」
「うん。魔物に罪はなく、子供たちも少し好奇心が逸っただけだ
手荒なことはしたくない」
 冒険は心躍るものだしね。そう続けた『特異運命座標』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は、密かに用意した角笛を抱える『ねこ』スティリカ=フォルクロール(p3p004676)の言葉に然りと頷く。
 人の害にならない行いを続けていただけの『天食い羊』。それも今は村の雨雲を次々と食べる困った存在に成りつつあるが、それとて追い払えば良いだけのこと。
 それが実際に可能かどうかは、まさに特異運命座標たちの双腕に掛かっていると言うことなのだが――
「……ところでこの高々度射出装置とかいうもの本当に大丈夫なんだろうな?  安全なんだよな?」
 ……表情は笑顔のまま、汗を一筋頬に伝わせるアレクシアの表情には、見た目以上に余裕が無いことが直ぐに解る。
 お解りのことと思うが、件の魔物ははるか上空を漂い、降りてくる気配もない以上、特異運命座標達の側から魔物の上まで辿り着くしかない。
 空を飛べるスカイウェザーならまだしも、そうでない面々の為に移動手段として用意されたのが、ローレットが管理する高々度射出装置である。
「いいですね、この大砲……ウチの船にも実装したいかもしれません……」
 呟き、装置にぺたぺたと触れるのは『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)。
 彼女は大砲と呼んでいるが、実際の装置の仕組みはY字型となっている土台の先端部分に魔術で加工されたゴムを取り付け、そこに射出する対象を乗せてからゴムを限界まで引っ張って離す――という仕組みだ。
 ……まあ、言ってしまえば、巨大なスリングショットである。
 マリナ同様、しげしげと装置を眺めていたルーティエ・ルリム(p3p0004679)は、素人目にも存外しっかりしている構造に事故の危険がないことを確認すれば、あまり躊躇無く射出部分に身を預けた。
「わたしは結構こういうの平気な方だが、これ一体なんのための装置なんだ……空中庭園にでも行く気なのか」
 そんな危険な方法でしか行けない空中庭園って、何か嫌です。
 事前に情報屋をして「まさか一人しか飛ぶ人がいないとは思わなかったのです」と目を逸らし気味に言われたこの射出装置に対する一同の心境は、何の感情も抱かぬ者や恐怖している者等々、正しく人それぞれと言ったものであり。
「……面倒だけど、頑張りますか」
『自称・埋め立てゴミ』城之崎・遼人(p3p004667)が、若干青ざめた表情でそれらを纏め上げる。
 元々は只の一般人であった彼が生活のためとは言え、このような依頼を受けに来るというのも中々ない。
 それが彼の来歴から来る自暴自棄か、或いは子供達に対して思うところが在るのか否かは、彼自身のみが知る話だが。
 時刻は正午を過ぎ、太陽はこれより傾き始めるだろう。
 未だ寒さが残るこの季節、子供達が夜に凍えるよりも前に。
 ――がしゃん! という大きな音が、まず一度、地上より響いた。


 子供達からすれば、驚いたことこの上ないだろう。
 大人達が辿り着きそうもない遥か上空で、村での面識もなかった赤の他人がいきなり自分達の乗る『雲』の上に飛び乗ってきたのだ。
 まず一人。続いて二人、三人と、一定の間隔を置いて次々と『雲』にトンできた数は、合計で七つ。
 後から遅れて、スカイウェザーの青年――夕陽が降り立ち、落下の衝撃に震える仲間達と子供達を交互に見遣っている。
「つ、着いた……けど、高い……」
「まあ私達なら兎も角……その年ですげー行動力だなきみら……」
 口々に話す遼人とルーティエに対して、子供達が抱くのは困惑と警戒だった。
「……お兄さん達、誰?」
「うむ、紹介が遅れて済まなかった。私はアレクシアという。君たちは?」
 応え、子供達の前に現れたアレクシアは目線を合わせながら笑顔で言う。
 子供達はおどおどとした表情で――先ず一言。
「おねーさん、顔色、凄く青いよ?」
「飛んできたときも凄い大声だったし、大丈夫?」
「……朱君」
「あ、はい」
 微妙に自尊心を傷つけられながらも、流石に子供達の心配を無碍にすることも出来ず、回復を頼むアレクシア。
 その後しっかりと自己紹介を済ませた双方は、まずアレクシアの『お願い』から入った。
 ……無論、お願いの理由――子供達の親から依頼されたという話を聞いたときは、流石に表情を曇らせたが。
「……嫌かと?」
「お父さんも、お母さんも、雲には乗れないって言って聞いてくれなかったんだもん」
「だから、こうやって証明したけど……どうせ僕らが戻ってそう言っても、『そんなことより』って、僕らが無茶したことだけ怒るんだ」
 行動原理は子供のそれである割に、自身の――或いは自身の周囲に対してのみ聡くなるのは、こういう悪戯好きな子供達の特徴と言うべきか。
 ふむ、と一息ついた幾名かが、自身等の立つ柔らかい羊毛に触りながら言う。
「この貴方達が今乗っているこの……雲っぽいのなのですが。
 実はこれ、生き物でして……雨食い羊って言います。雲とはまた違うものでごぜーます」
「……え」
「で、目の前の霧って実は地面から見ると雲で、雨食い羊はそれを食べ続けてたんだ。
 君たちに悪気はなかっただろうけど、こうなると困る。雲がないと雨は降らないし、そうすると作物が育たなくなるからね」
 マリナとヨダカが口々に説明する内容に、子供達は恥じらい混じりに混乱していた。
「で、も……それは、ほんとうなの?」
「そ、そうよ! お兄さん達が言う事だって、嘘かも知れないじゃない!」
 上目遣いで、或いは剥きになって。
 反論する子供達に、困った表情の遼人が視線を横に向ける。
「……どうだ?」
「まだ、時間が掛かると思うのです。
 手応えは感じられるのですが、やっぱり根幹からして『違う』存在みたいなので……」
 返したのはスティリカ。動物会話を介して雨食い羊と会話を試みる彼女ではあったが、どれだけ見た目が動物らしくとも、やはりこの存在は魔物であるらしく、功を奏するとは言い難い。
 で、あれば。遼人はもう一人の側に視線を向けて、対する夕陽はそれに快く頷いた。
「疑うの、誰だって当然だと思うけん。
 ばってん、俺達も本当のこと喋っとるたい、それを信じてほしかと」
 自身の故郷の訛りが聞き取りにくい事を理解している夕陽は、積極的に会話に参加しようとはしなかったが、この役目ばかりは彼にしかできない。
 言葉の内容は何とか理解し、しかし意図を掴み損ねる子供達に対して、夕陽は屈託無い笑顔を浮かべながら言った。
「一人ずつちゃけど、今乗ってるのがちゃんとした羊さんだってこと、みんなに教えてあげるとよ」


 ――地面に広がる海は、空を飛ぶおひさまをいつもうらやましがっていました。
 それを知ったおひさまは、自分の温かさで海の子供をひっぱりあげて、雲へと変えてあげたのです。
 雲は空を飛ぶ楽しさをたくさん味わったあと、日照りで困っている地上の人々のもとへと、自分の身体を雨に変えて降りていきました。
 雨は作物をうるおした後、残った自分のからだを川に溶かして、また母である海の元へと帰って行くのです。

 ……持ってきた本の朗読を終えたアンネは、ちらりとその視線を本の頁から子供達へと移す。
 対する子供たちはというと、本を介して雲が出来るまでの流れという者を教えられて後、いずれもその表情は暗いものばかりだった。
「……どうだった、かしら」
 表情は平坦。しかし機械の耳は少し萎れ、尻尾は所在なげにゆらゆらと揺れている。
 それも――この子供達の表情を見れば、当たり前と言えようか。
 夕陽が提案したように、子供達は彼に一人ずつ抱えられ、遠くから自分達の乗っている『雲』の全貌を確認した。
 それが一個の魔物なのだと、また、近くからは霧としか確認できなかったそれらが、距離を取るにつれ雲として視界に捉えられるのを知る度、彼らは徐々に表情を暗いものへと変えていった。
「……君たちを力づくで下ろそうというつもりはないよ」
 口火を切ったのは、アレクシア。
「ただ、他の人の言うように、こいつは雲じゃなくて生物なんだ。
 つまり、君らと同じように帰る場所があるということだ」
 ……だから、この子をそろそろ、お家に返してあげて欲しい。
 言外にそう告げて、アレクシア自身も頭を下げる。
 子供達は、それに頷いて……しかし、表情は暗いまま。
 これには、アレクシアも困惑を隠せない。
 諫めるつもりはなかった。ただ単純に説得をした後、『お友達』とお別れをして、村に返すつもりであった。
 それが、こうして沈んだ表情ばかりとなってしまったことに、彼女は自信に「何故」と問いを浮かべる。
 ……この辺りの部分で、少しばかり特異運命座標達は失敗している。
 彼らからすれば現状について当たり前のことを説明し、「このままだと村にも魔物にも迷惑が掛かってしまう」から「だから地上に降りよう」と説得を繋げるまでが一連した流れであった、が。
「……じゃ、じゃあ。僕たち」
「お父さんや、お母さんの事も信じないで……村にも、この羊さんにも迷惑かけた、だけなの?」
 ――実際、そういうことである。
『両親の言うことを信じず』、『空飛ぶ魔物に飛び乗るという危険を冒し』、『村の作物に害を与え』、『雨食い羊を村に閉じこめた』。
 こと結果だけを見るなら、子供達の行動に利点というものはまったく無く、それ故に。
「私たちのやったことって、全部、駄目なことだったの……?」
 罪の意識だけが、子供に残る。
 無論、其処までをすべて正確に把握できるほど、彼らは成長していないが……それでもここまで大きくなった事態を考えれば、自分達がしたことは何となくでも、『よくないことばかりだった』という感覚は掴めてしまうのだ。
 一瞬、言葉に詰まる特異運命座標達。
 こと依頼目的を達成することだけを考えて、その後、或いはその周囲に於けるアフターフォローを忘れたミスに焦りが広がる……が。
「……誰がそんなこと言ったんだよ」
 びし、とデコピンを弾いたルーティエが、歎息を交えてそう零す。
「痛っ!?」と額を抑えた子供の頭を今度は優しく撫でつつ、彼女は訥々と、しかし確かに言葉を返す。
「きみらは確かに大勢に迷惑をかけたかもしれないけどな。だが話を鵜呑みにしないで自分で確かめるのは良いことだぞ。
 それにそれに乗れる雲もどっかにはあると思う。そういうのある世界から来た旅人もいそうだしな」
「……本当に?」
「雲みたいな羊が居るんだ。羊みたいな雲が居たっていいだろう」
「羊雲ってよく言うもんねェ……」
 苦笑を浮かべ、言葉を継いだのはヨダカ。
「けど……うん。君たちは悪くない。ただ、方法を間違えただけだ。
 大人達が知らないだけで、こうして乗ることの出来る本物の雲が在るかも知れない」
 ――この子達も間違えたのかな。そう最初に言った自身を思い出しながら、だから、とヨダカは言って。
「危険な事をしたこと、村に迷惑を掛けたこと、それは謝らなきゃ行けないかも知れないけど。
 これだけは大人達に言ってご覧。何時か本当に、触ることの出来る雲を見つけてみせるってね」
「その意見で怒られるようだったら、私もうまくフォローするのでごぜーます」
 マリナも言葉に続き、その言葉に子供達は少しだけ押し黙る。
「……うん!」
 そして、また頷いた。今度は力強く。
 その様子に、漸く特異運命座標達が安心すると、その背後から声が一つ。
「皆さん、雨食い羊さんとお話が出来たのです!
 此方の合図で、村を離れることも、村に迷惑をかけない高さまで降りることも出来ると言ってるのですよ!」
 そう言った彼女に、彼らは頷いて――反し、子供達は少しだけ、寂しげな顔をした。
 それに気付いた数少ない一人が……遼人が、頬を掻きながら、ぶっきらぼうな口調で提案をする。
「……まあ、タイムリミットまでには時間があるし、僕らの中にも楽しみたい奴が結構いるからさ。
 日暮れまでにはお別れして帰る、でどう?」
「はい。別れが惜しいのは解ります……私もこのモフモフは惜しいです。
 親御さん達も心配してますし、夕刻までには降りる、ということでどうでごぜーますか」
 それに、表情を明るくした子供達。
「じゃあ僕、もう一回空飛びたい!」
「おねーさん、またご本読んで!」
 口々に喋り、動き回る子供達に、アンネが機械の耳をぴんと立てて先ほどの本の準備をする。
 夕陽もそれに頷いて、子供達にこう告げる。
「たくさん遊んで、お日様が沈む頃になって。
 羊さんも、皆が雨に困ったらきっと来てくれるけん。また来年、雨季に会おうねって、約束してサヨナラしよう」

 ――夕暮れを迎えるまで、魔物の上での歓声が止むことはなかった。
 やがて迎える別れにも、子供達は哀しげな、寂しげな表情を浮かべつつ、しかし涙だけは浮かべることなく。
 何時か必ずまた会うことを、害無き魔物に約束して。


 ――名前は? と聞かれて、考える。
 ぼくに名前はない。つけてくれる仲間もいなかったし、その必要もなかったから。
 空を飛んで、おいしい雲をたべて、またおいしい雲がある方へ。ただそれだけ。
 ……だから。
 言葉はわからなくても、ぼくに話しかけてくれるあの子たちはには、ちょっとおどろいたけれど。

 ――じゃあ、雨食い羊さん。
 ――この辺りの雲を食べすぎちゃうと、子ども達の村の人達が困っちゃうから、どうかここから移動して欲しいのです。
 ――それに、子ども達の親御さんが心配しているので、どうかあの子達を村に下ろしても欲しいのですよ。

 いいよ、と言って。でも少しだけ、残念だなあ、とも思った。
 ずっと一人だったから。
 地面からだれかが手を振ることがあっても、ぼくにはあまりに遠すぎて、お話しすることはできなかったから。
 それを、察してくれた話し相手は……スティリカというひとは、それから、もう一つと。

 ――最後に、もう一つ。
 ――来年も、あの子達に会いに来て欲しいのです。

 子ども達に渡した角笛が、ぼくを呼ぶ合図になるからと、そう言って。
 ……一方的なお願いですけど、と言うそのひとに、ぼくはそんなことないよ、と言った。
 今まで、ずっとひとりだった。
 話し相手もいなくて、空を飛んで、雲を食べるだけの毎日だった。
 そんなぼくに、やくそくをしてくれた。一年に一度でも、お話をしてくれる約束を。
 ぼくの背中に乗ることは、もうできないかもしれないけど。
 その日だけは、できるだけこの村に近づいて、あの子達のおしゃべりを聞かせてくれるんだと。
 ありがとう。そう言ったら、その人はくすぐったそうに言葉をかえした。

 ――村の人達にも、その日は労ってあげるよう、きちんと言っておくです。
 ――それじゃあ、お礼のブラッシングをしてあげるのですよ。

 そうして訪れる、はじめての、くすぐったいその感覚に、ぼくは身をまかせていた。
 少しずつ落ちるお日様に、どうか沈まないでほしいと、そう願いつづけながら。

成否

成功

MVP

ルーティエ・ルリム(p3p000467)
ブルーヘイズ

状態異常

なし

あとがき

子供達の心情もケアして下さったルーティエ・ルリム(p3p000467)様に、MVPを差し上げます。
ご参加、ありがとうございました。

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