PandoraPartyProject

シナリオ詳細

機械仕掛けの冬

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●未だ冬は終わらず
 混沌南部、小さな島。
 一応は国家として認定されているここは、その実とても小さくて、せいぜいひとつの都市程度の規模しかないことは、私でなくとも知っている。
 練達。正式には『探求都市国家アデプト』。元の世界に戻ることを目的とする、学者や研究者たちが集ってできた旅人の国。
 中央制御システムの恩恵を受ける首都セフィロトから遠く、しかしかろうじて住所は練達になる微妙な場所に、私は研究所を構えた。
 本拠、ではない。
 ここでしかできないと思った研究があったから、わざわざ、とても嫌だったけど、首都から出てきたのだ。たくさんの機材とともに。

 話は変わって。

 私は雪を見た。
 この世界にやってきて二週間目。とても寒い冬の日だった。場所は幻想のどこかだったと思う。
寒くて凍りそうで、お布団から出たくなくて、それでもどうにか窓まで這って行って、カーテンをそっと開いて、見た。
 積もる白。
 ひらひらと舞い散る白。
 寒さは感動の熱に溶けた。
 雪が降ったのはその日だけで、翌日は気温も上がって快晴になったので積もったのもその日だけだった。その年はそれから雪が降らなくて、気づけば暖かい春がきていた。
 私は悲しかった。
 ずっと雪を見ていたかった。
 そもそも春なんて憂鬱だ。その向こうに夏がいる。暑い夏は嫌いだ。

 冬をつくろう。
 永遠の雪をつくろう。

 そう決めて、私は練達に向かった。
 それだけの技術は、持っているつもりだったから。
 好きなだけ雪を見て、満足したら元の世界に帰ろうと思った。

 快適と安全が約束されたセフィロトで、どれほど研究を続けたことだろう。
 年の瀬にようやく試作機が完成し、さらに改良を重ねて、やっぱりここで起動しようかなという心を押し殺して、ようやくこの研究所に運びこんだのだ。
 練達の隅につくった研究所で、ずっと冬に包まれるために。
 私は今日まで雪を見ずにすごした。見たい、と思い焦がれるほどに、私がつくり出す雪は美しいものになると信じていたからだ。

「……よし」

 機材を組み立てる。研究所とは名ばかりの、巨大な倉庫に機械仕掛けの女が立つ。
 雪の女王。
 冬をもたらし永遠に雪を降らせる装置を、私はそう名づけた。

「起きて、私のクイーン。きたる春など、凍らせてしまいましょう」

 キュイン、と起動の音。
 雪の女王が冷えた空気を鋼鉄のスカートの裾部分から排出する。寒い。瞳の部分に赤い光が灯る。私を見る。金属の髪に無数の小さな穴が開き、天井に向かって風を吹かせる。
 やがて雪が降る。
 確信した私はその前に、雪の女王の周囲に配置した十一体の人型の機械の電源を入れていく。
 女王に騎士はつきものだ、というのは建前で、さらに雪を降らせるために用意した、雪の女王の簡易版の装置だった。
 心臓が高鳴っている。ああ、わくわくする。これでずっと雪を見ていられる。夏の暑さに嘆くことなく、冷たくて静かな冬の中にいられる。
 私は雪が好きだ。冬が好きだ。白くて静かな世界が好きだ。
 女王と騎士たちが雪を降らせる。私が吐く息は、片端から白く染まって解けていく。手足の先の感覚がない。寒さで肌が粟立つが、体の中だけが興奮の熱を持っている。
 外の春など意に介さず、この研究所には冬がきていた。

「……ん?」

 雪の女王がこちらを見る。すべての動きをとめて私を見る。
 手をあげた。おろした。委細承知とばかりに騎士たちが頷く。私を見る。

「えっ、うそちょっ、まっ」

 氷雪を含んだ風が私に襲いかかった。

●機械仕掛けの冬
「練達から大至急の依頼なのです。でもたぶんそんなに急がなくてもいいのです」
 さっさと解決してほしいと言われただけで、それほど事件性は高くないのだと『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はテーブルに依頼を記した紙と地図を広げながら説明する。
「練達のここに小さな研究所があったのです。そこが吹き飛んだのです」
 そういうこともあるか、練達だし、という反応のイレギュラーズに、ユリーカも焦った風はなく、少し困った顔のまま続けた。
「中では雪を発生させる装置? が研究されていたらしく、周囲がとても寒くなってしまったのです。近隣に研究所を構える研究者さんが迷惑しているのです」
「だから大至急」
「そうなのです。さっさと解決しろということなのです」
「降った雪はすぐに溶けないか? もう春だぞ?」
「春の陽気を吹き飛ばすくらい寒さを放っているのです。装置の周辺は現在、真冬になっているのです」
 そもそも練達の研究者学者たちは引きこもっていることが多いので、外の気温など大して関係ないだろうが、近所で迷惑行為が行われているのはとにかく嫌なのだ。
「それと、そこで研究していた方が雪の中に埋もれている可能性が高いのです。掘り起こしてあげてほしいのです!」
 自業自得とはいえ、本人にも悪気はなかっただろう。
 ただちょっと雪と冬を愛して、つくろうとして――盛大に失敗しただけで。

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 永遠の冬を求め、限りない雪に焦がれ。

●目標
 雪の女王及び11体の冬の騎士の討伐。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 皆様が現場に到着するのは昼頃です。

 練達にも春が訪れていますが、現場周辺はとても寒く、雪が積もっています。
 戦闘に支障が出るほどではありませんが、寒さに弱い方はご注意ください。
 また、積もった雪のどこかに白衣姿の研究者セッカが倒れています。

 研究所は騎士たちにより爆破されており、残骸があちらこちらに散らばっています。
 うまく使えば身を隠すことができます。
 少し離れたところに別の研修者の研究所がありますので、戦域の拡大はお勧めしません。苦情がきます。

●敵
『雪の女王』×1
 冬の騎士たちの指揮をとっている、鋼鉄のドレスをまとった女性型の機械。女王らしさを出すために長めの杖を持っている。
「研究所内に永遠の冬をもたらし、無限に雪を降らせる」はずだったが、どこかでエラーが出ているらしく、「世界のすべて、あらゆる生命を凍らせる」という目的にすり替わっている。

・凍息:神近範【凍結】【足止】
・殴打:物近単
・縛雪:神遠単【麻痺】
・激励:神遠単(冬の騎士1体を回復)

『冬の騎士』×11
 身を挺して雪の女王を守る騎士型の機械。7体が剣を、4体が弓を持つ。

『剣』×7
・格闘:物近単
・冷息:物近単【凍結】
・反撃行動:物近単
・雪爆弾:物中単【凍結】

『弓』×4
・格闘:物中単
・冷矢:物中単【凍結】
・雪爆弾:物中単【凍結】

●他
『セッカ』
 雪の女王と冬の騎士たちをつくった研究者の女性。
 静かで美しい冬と雪を愛している。
 今回は盛大に失敗し、なすすべもなく倒れることになった。

 皆様のご参加、お待ちしています。

  • 機械仕掛けの冬完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月27日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ナーガ(p3p000225)
『アイ』する決別
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ハイゼル=フォージ(p3p001642)
機械狂
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
Melting・Emma・Love(p3p006309)
溶融する普遍的な愛
ニーナ・ヘルヘイム(p3p006782)
Spica's Satellite

リプレイ

●春をもたらす者たち
 研究所だった残骸が散らばる雪原で、『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は白い息を細く吐く。
「――行くぞ」
 声は残骸の陰に隠れた仲間たちにかけたものだ。すらりと妖刀を抜く。前進。
 雪の女王を守るように立つ、騎士らしい格好の機械たちの中で、最も前に出ていた一体が汰磨羈の姿に気づいた。
「さて。まずはお前から片づけようか!」
 相手が動くより早く、かじかむ指先などものともせずに汰磨羈が得物を振るう。斬撃ははらはらと白い地に落ちる雪花を細切れにしながら、騎士の右腕に命中した。
「……!」
 甲高い機械音が騎士の頭部から放たれる。他の機械たちも侵入者に気づき、臨戦態勢に入った。仲間たちの盾になるべく、汰磨羈が駆ける。
「さて、どこまで響くかな?」
 彼女の背後で、『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は握った銃の先を女王と騎士たちに向けていた。
「氷は氷でも、私のは呪いだからね」
「……!」
 機械たちの真上からも降り注いでいた雪に、氷の花が混じる。幻想的な光景はしかし、それに触れた者を呪い、痛苦の宴へといざなった。
 それでもなお前進した騎士の足元から、積もった雪を割って氷の鎖が伸び、爪先から膝まで絡みついて拘束する。
 言葉を持たない機械の騎士が軋んだ音を上げた。
「……我は『氷結』の権能を有する神、『ヘルヘイム』……」
 フロストチェインで騎士を縛る『Spica's Satellite』ニーナ・ヘルヘイム(p3p006782)は、感情の薄い声を放ち、伸ばした手をぐっと握る。氷の鎖はますます拘束力を高めた。
「貴方の『冬』とどちらが強いか……勝負しよう」
 宣戦布告は、騎士たちに守られる女王へ。
「……!」
 冬を繰り返させる女王は杖の先で地を叩く。弓を持つ機械たちが矢をつがえ、剣を持つ機械たちは痺れや視界不良を負いながらも突進してきた。
「ナーちゃんが、アイしてあげるねっ!」
 無理やり氷の鎖を引きちぎろうとしていた騎士に『矛盾一体』ナーガ(p3p000225)が無邪気な宣言とともに拳を振るう。
 騎士はとっさに剣を用いて身を守ろうとしたが、あまりの衝撃にその凶器が半ばから折れた。
「……!」
 装甲が歪む一撃に騎士は膝を折り、吹き飛んだ剣の半身が雪原に突き刺さる。
「剣はこうなっているのか」
 体が隠れる大きさの、壁かなにかだったと思われる残骸から顔をのぞかせた『機械狂』ハイゼル=フォージ(p3p001642)が興味深くそれを観察した。
 すぐに瀕死の騎士に視線を移し、ハイゼルはフフフ、と楽しげに笑う。
「ドジは踏んだようだが、出来は悪くない。今からあれをバラすのが楽しみだ」
 心を躍らせながら小さな機械翼を持つ爆弾を召喚、騎士に突撃させる。弓を持つ騎士が矢を射てきたため、素早くその場から移動した。盾にした残骸の一部が凍る。
「小癪な……!」
 身を翻して騎士を討とうとした汰磨羈の足に雪が絡みついた。身動きがとれなくなったところに凍結の効果を持つ矢が立て続けに迫る。
「それくらいの術なら、解けるよ」
「ああ!」
 風に煽られるようにマルク・シリング(p3p001309)の魔導書が捲れ、かすかな輝きを放つ。
 一本目の矢を妖刀で叩き折り、二本目を盾で受けた汰磨羈は縛雪を蹴散らし、立ち上がろうとしていた冬の騎士の首を刎ねた。
「ん、Love、無理はしないようにね」
『ティアもなの』
 こちらに向かってくる騎士の一体に四種の効果を混ぜた魔法を放ち、『穢翼の回復術師』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は近くで雪景色に紛れていた『溶融する普遍的な愛』Melting・Emma・Love(p3p006309)に声をかける。
 はにかんで返したMeltingの手を勇気づけるように軽く握ってから、ティアは可能な限り敵を巻きこめるよう調整し、ロベリアの花を咲かせた。
『怪我をしているの。Loveが愛してあげるの』
「わーっ!?」
 小さなMeltingの分身がナーガの傷口にぺたぺたと触れ、溶けるように同化する。
 不思議な感覚と驚きにナーガは無邪気にはしゃいだ声を上げながら、騎士の剣をこぶしで弾き返した。
「おっと、そろそろお休みの時間だよ」
 首を飛ばされてなお、不格好な動きで立ち上がろうとした騎士にルーキスがとどめを刺す。漆黒の翼狼の爪に内部の重要な機関を引き裂かれ、ついに一体の騎士が絶命した。
「ひとつひとつ、確実に。なんだろうが容赦なく噛み砕くのが悪魔さ」
 血霧纏う黒翼狼は一度消滅し、最前線に立つナーガと汰磨羈が次の標的に定めた騎士の真後ろに再出現、白い装甲に覆われた肩に牙を立てた。

『Loveが溶かして愛してあげるの。Loveの愛は気持ちいいはずなの』
「ナーちゃんもアイしてあげるっ」
 剣を持つ騎士にMeltingが粘液を放つ。動きが一瞬とまった騎士をナーガが全力で殴り、さらにニーナの茨が拘束した。
「んー」
 油断なく戦いながら、ナーガはざっと周囲を見回す。この研究所で、この機械たちをつくった研究者を探していた。
「あっ!」
 温度感知を行っていたナーガの目が、不自然な位置で赤、すなわち温度を持つ物体を捕らえた。大急ぎで近づき、雪の中から掘り起こす。
「そこにいたのか」
 同じく研究者を探しながら移動していたハイゼルが、気絶する白衣の女性を見て浅く頷いた。死んではいないようだ。
「えいっ!」
「投げ……っ?」
『あそこは戦いの只中だからな』
 無造作にナーガが研究者を投げた。ティアが思わず瞠目する。彼女の内の神が冷静にナーガの行動を分析した。
「で、こっちにくると」
「待って、受けとめないと……!」
 こちらならどうにかなるだろうかと、ルーキスは羽毛に覆われた左腕を伸ばしてみる。鋭い爪が研究者を裂かなければいいが。
 隣のマルクは慌てて、女性の落下地点あたりを右往左往した。
「私が」
「うん、任せるよ」
 滑るように現れた汰磨羈にルーキスとマルクは場を譲る。
 ちょうど背中から落ちてきた彼女を、汰磨羈は華奢ながら筋肉のついた両腕で、しっかりと抱きとめた。
「無事……、みたいだね」
 ほっとマルクは胸を撫でおろす。汰磨羈は研究者を後衛に預けて、納めていた妖刀を抜き再び前線に戻った。

 真横を汰磨羈が駆けて抜ける。刹那だけ視線が交わった。
 大丈夫、という意思をこめてニーナは顎を引く。汰磨羈の背や女性研究者に冷矢があたらないよう、ニーナが前に立っていたのだ。
 肩に突き立った矢を引き抜く。
「ありがとう」
 柔らかなマルクの声とともに、温かい光が傷口を覆い、癒した。
「……ん、平気」
 頭を左右に振ったニーナは騎士が振り下ろした剣をかわす。間髪容れずに冷ややかな吐息のような空気が騎士からこぼれたが、彼女に効果はなかった。
「……ん、私にそれは効かない……。なんたって、神だから」
 氷の権能を持つがゆえに、決してニーナ自身が凍ることはない。
「……『ヘルヘイム』の名において……、『死』の秩序を、執行する……」
「……!」
 近距離用の術式が発動、騎士が無音で絶叫する。

「冬もいいけれど、やっぱり生命の芽吹く春がきてほしいな」
『随分と珍しいことを言うな?』
 白い息を伴って呟くティアに、揶揄交じりの声が応じた。
『季節なぞ気にしないと思っていたぞ』
「そう? 私は春、好きだよ」
 雪を降らせる鈍色の雲の下、ティアの翼の先がかすかに光を帯びる。直後、ナーガに剣を振り下ろそうとしていた騎士が動きをとめた。
 その隙に集中砲火を受けた騎士が倒れる。あと何体だろう、と汰磨羈に賦活術をかけながらティアは周囲を見回す。
 各個撃破の作戦は功を奏しているようで、十一体の騎士たちは着実に数を減らし、杖を振る雪の女王の動きにも焦りが見えるようだった。
「きゃっ!」
 ティアの体が引っ張られるように右に跳ぶ。驚いたものの、少女の体を借りて動く魂が唐突に主導権を握ったのだと、理解するのは簡単だった。
 先ほどまでティアがいた場所に剣が振り下ろされる。前線を抜けてきた騎士が、目も口もないつるりとした機械の顔をティアに向けた。
 近接戦は得意ではない。じり、とティアの足が下がる。
「……!」
『ティアを傷つけちゃ駄目なの』
 横薙ぎに剣を振ろうとした騎士に式符で作られた白鴉が襲いかかった。Love、と彼女の名を安堵とともに呼ぶ寸前、敵がMeltingの元に行くのでは、とティアは焦る。
 危惧の通り、冬の騎士はMeltingに標的を変えた。金属でできた足が雪を踏みしめる。
 直後、Meltingと騎士のちょうど間にニーナが割って入った。
「……!」
「……!」
 女王が杖を打ち鳴らし、甲高い音を上げる。騎士が急転換、術を編もうとしていたルーキスに向かった。
「おっと」
 後方に飛び退いてルーキスは一閃をかわし、続いて左手で騎士の右手を押さえる。
「はぁい残念、遠距離戦しか脳がないとでも?」
 邪悪に、酷薄に、美しく、半魔の魔術師は微笑んだ。
「……!」
「銃のグリップって、結構な狂気だよ」
 殴打の音は重く、相応のダメージにより騎士の頭部が一部、陥没した。
 ひらりとルーキスがその場から退く。彼女の背後で機会をうかがっていたハイゼルがニィと口の端を吊り上げる。
「悪いが一旦、壊させてもらおうか!」
 ハイゼルの疑似神秘発生装置が紫電を帯び、放出。迸る一条の雷撃はその騎士だけでなく、直線状にいたすべての騎士と女王を貫いた。
「……!」
「もしやこの程度で爆発四散か?」
 ライトニングを受けた機械たちの動きは、明らかにぎこちない。女王に至っては上半身をがくりと折って、痙攣していた。
「そうだとすれば少しばかり期待外れだが」
「まぁ、心配ないみたいだよ」
「いいぞ。そうこなくてはな!」
 悲鳴じみた音とともに女王が復活する。騎士たちはまだ痺れているようだが、ひとまずハイゼルの落胆は拭われた。
「……!」
「あとでしっかりバラしてやるから、今はおとなしくしてるといい」
「……!」
 動こうとした騎士にハイゼルの機械仕掛けの爆弾が炸裂する。
 倒れた騎士には目もくれず、ハイゼルは雪の女王に視線を向けた。
「春という季節に逆らい、一定範囲の気温を下げ、雪を降らせる機械か」
 興味深い、とハイゼルは笑う。

 膝をついたナーガを汰磨羈が庇った。
「危なくなったら、私を盾に使え。無理はするなよ」
「うぅー。……ありがとー……」
 一度後退することにしたナーガを剣を持つ騎士が追おうとする。汰磨羈は雪を力強く踏みしめ、声を上げた。
「腕に覚えがある者は私の元にくるといい!」
 残る冬の騎士は、剣を持つ者が二体と弓を持つ者が一体。範囲攻撃に巻きこまれ続けた雪の女王は騎士の回復を優先したため、すでに深手を負っていた。
 勝てる、と汰磨羈は油断なく確信する。
「大丈夫、すぐに癒えるよ」
 マルクのハイ・ヒールがナーガの負傷を消していく。
「貴重な戦力だからね。ストラス、あっちよろしく」
 ルーキスは冷矢を叩き落とし、汰磨羈の頭上に天球儀を召喚した。宝珠から零れ落ちる光が、敵をひきつける汰磨羈を治癒する。
「ナーちゃん、ふっかつー!」
「……!」
 はしゃぎながらナーガは近くにあった身の丈近い瓦礫を掴み、投げた。汰磨羈が素早く後退する。
 一体の騎士がほとんど砲弾と化した瓦礫の直撃を受け、もう一体も尖った部分が掠めて装甲に傷を負った。
「……!」
 今にも機能を停止しそうな騎士を、女王が言葉なき音で激励する。しかしすでに手遅れだ。
「あと三体か」
 ハイゼルのライトニングが瀕死の騎士一体と弓を持つ騎士一体をまとめて刺す。剣を持つ冬の騎士が雪原に倒れた。
「飛べ!」
 再び前進した汰磨羈が大喝。物理的な破壊力さえ伴うそれは、残る剣持ちの騎士を雪の女王とその側に立つ弓持ちの騎士の元へと飛ばした。
「花よ」
 すかさずティアがロベリアの花を発動させる。
「そろそろ終わりかな」
 ルーキスの雹嵐の青玉が氷の花弁で機械仕掛けの冬の創造者たちを呪う。
『最後までたくさん愛してあげるの』
「つめたくするより、アイしたほうがステキだよっ」
 Meltingの光をまとう白鴉が飛び、ナーガが瓦礫を投擲した。
「春がくるからこその冬、だと思うんだけどね」
 少し困ったような笑みを浮かべ、マルクは遠距離術式を発動させる。
「仕上げだ!」
 降り続ける雪花を掻き乱し、積もった柔らかな雪の表面を焼きながら、ハイゼルの雷撃が空を疾走する。
「……!」
 冬の騎士たちが断末魔の音を上げた。汰磨羈とニーナが雪の女王との距離を一息でつめる。
「……!」
「しぶといな」
 女王が激高したように杖を地に打ちつけ、首から冷たい空気を大量に放出する。汰磨羈が急停止、ニーナが先行する。
 身を凍らせる空気を、ニーナは涼風のように受け流す。
 凍息が放出し終わると同時に汰磨羈とニーナが位置を入れ替えた。盾を前に構え、女王を威圧する。
「……!」
「ナーちゃんだよ!」
 後退しようとした雪の女王を、ナーガが背後から殴った。
「……ん、おとなしくして……」
 振り返った女王が反撃するようにナーガに杖を振るおうとするが、その腕にニーナの氷の鎖が絡みつき、動きを阻害する。
「……!」
「一個体ではこの程度か。戦闘機能はもっと改良できたな」
「偶然戦えるようになっただけ、みたいだからね……」
 肩を竦めて残念がるハイゼルにマルクが眉尻を下げて微笑む。
「あの人、そろそろ起きるかな?」
『雪の中で寝ているの、寒いと思うの』
「そのうち起きるよ」
 ティアとMelting、ルーキスも最後の一撃を雪の女王に放つ。
 冬をつくろうとした研究者は、直接雪の上に寝かせるよりはいいだろう、ということで後方の瓦礫の上に横たえられていた。
「終いだ」
「……!」
 珠樹の瑠璃色の双眸が女王を見据え、妖刀が素早く振られる。
 雪の女王の体から力が抜け、杖とともに雪上に伏した。

●いつかの雪、今いずこ
 はぁ、とティアは深く息をつく。全員が全くの無傷で終わったわけではないが、致命的なことにはならなくて本当によかった。
『お疲れ様なの、ティア』
「Love……」
 冬をつくる装置がすべて機能を失ったためだろう、この真上だけ曇って雪を降らせていた空は他の部分と同じように晴れ始め、春風に撫でられた積雪は次々と溶けていた。
 じきにここは、周囲と同じく春になる。
「お疲れ様、Love」
 微笑むMeltingに、ティアはぎゅっと抱き着いた。柔らかくて気持ちがよくて、自然と安堵の息が出る。
「また一緒できるときはよろしくね?」
『ん、ティアがいると安心するの。また目いっぱい、愛してほしいの』
 ティアを抱き締めるMeltingの体は、ぷよぷよと沈む。雪色だったその体は今、春らしい薄桃色に染まっていた。
 その様子を横目に、ニーナは倒れた冬の騎士たちと雪の女王を、一体一体見ていく。
「……ん」
 偶然の産物により生まれた装置。そこにあったのは意思ではなく、ゆがめられた命令だったのかもしれない。
 それでも、少女は魂があったと信じることにした。ここに散らばるのはただの破壊ではなく、死だ。ならば死後の安らぎを与えようと――そう、思った。
「――、――――」
 ニーナが有する権能は氷結だけにとどまらない。死と月もその内であり、鎮魂歌は得手とするところだった。
 透き通った優しい歌声が春を受け入れた研究所跡に響き、雪の女王と冬の騎士たちの魂を慰める。
 研究者の様子を見に行っていたマルクが柔和に笑んだ。
「綺麗な歌だね」
「う……」
 小さく呻き、ぼんやりと目を開いた研究者にナーガが元気に挨拶する。
「おはよう!」
「おはようございます……。えっと……」
「まったく。研究とて、命あっての物種だろう? 今回のことは、教訓とすることだ」
 腕を組んだ汰磨羈に言われ、彼女はようやく事態を把握した。
 うろたえながら瓦礫の上で居住まいを正し、イレギュラーズに一礼する。Melting、ティア、鎮魂歌を歌い終えたニーナも彼女の元に集まった。
「あの、私、セッカと申します……。あの、すみませんでした」
「ナーちゃん、さむかった!」
「う……」
「冬が好きって気持ちも、分かるけどね。人の温もりを一番感じさせる季節だから」
 やんわりとマルクがフォローする。
 うなだれながらもちらちらと自分がつくった機械の残骸を見ていたセッカは、ハイゼルに名を呼ばれて顔を上げた。
「もしや、へこたれたか?」
 返答に窮したセッカが視線をさまよわせる。ハイゼルは両手を広げ、声を張った。
「この現象を引き起こすのにロボットである必要性は感じられなかったが、そこにこだわりを感じた。悪くない!」
「えっ?」
 褒められたセッカが瞬く。
「へこたれてる暇があるなら、失敗の原因を検証するんだ! たかが一回、運用に失敗しただけじゃないか!」
「失敗は成功の元でしょう? また作ればいい、次は制御できるものをね」
 方向性はともかくとして、セッカが研究熱心であることはよいことだと、ルーキスも頷く。
 ハイゼルは首を大きく縦に振った。
「春も悪くないという奴もいるだろうが、ずっと雪を見たいという情熱も素晴らしいと思うぞ。まして少しは形にしたんだ、あとは完璧を目指すだけだ。完璧な冬の世界を!」
「そう、でしょうか?」
「そうだ! さぁ記録をとれ! 原因を検証しろ! ケチつける奴の妄言に耳を貸すな! 情熱のままに突き進め!」
 口を半分開き、瞬きを忘れてハイゼルの激励を聞いていたセッカは、やがて意を決したように立ち上がる。
 不安定な足場にふらついた体を、厄介ごとが増えそうな予感を覚えてやや苦い顔をしていた汰磨羈が支えた。
「わ、私、やめないです!」
 足を肩幅に開き、セッカは宣言する。
「冬をつくって、あの日の雪を見るんです!」
「そうだ、諦めるな! 進もうとしない奴に失敗はないが、成功もあり得ない!」
「はい! ありがとうございます!」
 瓦礫から大げさに飛んで下りたセッカがイレギュラーズに深く頭を下げ、雪の女王の元に走る。
 ハイゼルがそれを追い、ナーガが楽しそうに笑い、汰磨羈が腕を組んだ。ルーキスとマルク、ニーナは雪解けを眺め、Meltingとティアは笑みをかわす。
 暖かな風が吹き抜けた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

雪の女王と冬の騎士が破壊されたことで、範囲的な冬は終わりを告げました。
セッカはさっそく、次の研究に取り掛かりました。今度こそ成功させるのだと目の奥に炎を宿していました。
次は成功――するのでしょうか?

ともあれ、ご参加ありがとうございました。
お疲れさまでした!

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