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シナリオ詳細

砂地より這いよる大蠍

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――『ラサ』傭兵商会連合。
 照りつける太陽と、熱砂、美しいオアシスが印象的な西の大国である。
 北方の大国『鉄帝』とはまた異なる意味で過酷な環境が国土の大半を占める国である。
 
 じっとりとした汗が肌に浮かび、服を少しずつ重くする。
 男は額に滲む汗をそっと拭い、照りつける日差しに視線を細めた。
 後ろにいる一団に向けて、男は休憩の合図を送り、砂漠に布を敷いてそっと座る。
 ゆるやかに丘陵の様になった砂地の上辺りだ。ここならば景色がいい。何かが来ても接近すればすぐ気づけるだろう。
「おい、傭兵。なんでこんなにも遅いんだよ」
 傭兵と呼ばれた男は後ろから掛けられた声に振り返る。声をかけたであろう商人風の男に、傭兵は舌打ちしたい気持ちを堪えて近づいていく。
「いいか、あんたが直線距離が良いと言うからこちらはわざわざ直線距離で行ってるんだよ。これ以上の加速は出来ん」
「だからそれが何故だと言っている」
「何度言わせる? ここら一帯は危険生物の分布域だ。下手に進みすぎれば、彼らを刺激することになる。ゆっくりいかなくてはならないんだよ」
「ふざけやがって! これじゃあ遠回りしていけばよかった!」
 叫ぶ商人に、傭兵は額に手を置いてため息を吐く。
「騒ぐな。刺激したらどうする……」
「何がいるってんだ! 一面の砂景色じゃねえか!! この景色に何がいるってんだ。このくそ役立たずが!! さっさと速――お、おい、なんだよこれ」
 商人が恐る恐る視線を下に向ける。
 地面の砂は、内側に崩れるような流れを作り、徐々に落ちている。それはぱらぱらと丘陵の下へと落ちていく。
 上から下へ、なんということもない自然な動きだ。問題があるとすれば、風向きが逆であること。
「……てめえら!! 後退だ!! 後退するぞ!」
 傭兵が叫び、混乱する商人の懐に拳を叩きつけて黙らせて走り出す。
「来るぞ!! アレが!!」
 傭兵は跳ぶように走り抜け、バザールに合流すると、そのまま引き返すように指示を出す。
 背後、バサッという音が、爆発したような規模の大きな砂塵が、背後からバザールへ襲い掛かる。
 砂を浴びた傭兵は舌打ちしながら振り返る。
「チッ――デスサイズデザートスコーピオン。やべえな……こいつってことは、っつかやべえ、まだ射程か!」
 傭兵は砂の丘陵から姿を現わした尋常じゃなくでかい蠍を見上げて頬を引きつらせ、転げるように足場の悪い砂地を走り出す。
 その背後、酷くゆっくりと蠍が右の触肢を振りかざし、クパッと広げ――薙ぐように振るう。
 男が最後に感じたのは腰辺りから感じた激痛と浮遊感、そして砂へと移り変わっていく自分の視界だった。


「あんたらがイレギュラーズか。頼みたいことがある。まぁ、とりあえずは何か頼んでくれや。飲みながら話そう」
 傭兵風の男が渋々といった様子で声を出す。男はそういうと君達にドリンクメニューを差し出す。
 多少なりの傷はあるが、それでも元気に活動できそうな彼は、腹立たしそうに頭を掻いて。
「ネフェレストから奥地に向かっていく経路がある。その経路では直線距離で行くと危険生物がうじゃうじゃいやがる場所があってな。俺達は新米の商人に雇われてそこを行く羽目になっちっまった。そんで案の定、危険生物にぶち当たってよ」
 男はギリギリと手を握って悔しさを隠さずにそこまで言うと、落ち着きたいのか珈琲を飲む。
「んで、うちの団長やらベテラン層が殿務めて逃げ延びてきてよ。でも、このままじゃ終わらせられねえ。だからお願いだイレギュラーズ。俺達の代わりに、アレをぶちのめしてくれ」
 そう言って傭兵は頭を下げ、君達に資料を差し出す。
「こいつが、今回の敵だ。デスサイズデザートスコーピオン。馬鹿でけえサイズの馬鹿でけえ猛毒蠍だ。雌雄一対で行動するらしい。俺も初めて見たからわかんねえ。すまねえ」
 そう言って男はうなだれた。
 テーブルにはぺらりと資料が一つ。

GMコメント

こんばんは、イレギュラーズ。
砂漠といえば蠍という自分の中の王道がある春野紅葉です。
なんで砂漠といえば蠍なのかは私もよくわからない。

さて、それでは敵の詳細をば。

・オーダー
デスサイズデザートスコーピオンを二匹討伐する。

・敵の情報
<共通>
身体が10m、尻尾が25mの巨大毒サソリ。
内反りの鎌のような強靭な切れ味の触肢と頑丈な顎、砂地でも平気で颯爽と走れる足、毒針が特徴。
雌雄で一対に狩りをすることが知られています。
普段は砂の中に潜って獲物の到来を待っているようです。
砂に潜っている状態からは奇襲になるかもしれません。

<雄>
雌に比して非常に強力な触肢と頑丈な装甲を有します。
【毒針】物中単 威力中 猛毒 致死毒
【鎌鋏】物近単 威力大 失血 致命
【鋏突】物近貫 威力大 万能 失血 致命

<雌>
雄に比してHPが高く、また身体が大きいです。また、毒には致死性がない代わり、麻痺効果があり、毒の自然治癒を阻害する効果があります。
【毒針】物中単 威力小 麻痺 呪縛 呪い
【毒霧】物近範 威力小 麻痺 呪縛 呪い
【鎌鋏】物近単 威力大 失血 致命

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 砂地より這いよる大蠍完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月31日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥

リプレイ


 吹きすさぶ熱砂の中、依頼を受けた8人は依頼人が襲われたという辺りにまで移動してきていた。
(蠍退治ね……こっちが縄張りを荒らしてるわけだから、悪いといえば悪いのだけどね……まあでもいつ他の人も被害に遭うか分からないわけだし、いつまでもそこに居るとは限らないし討伐するのも仕方がないかしらね)
 銀色の髪を流して、じっとりとした汗を爽やかに流す『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)は、一つ息を吐く。
(まあ、やられた分はやり返すという気持ちは分からないでもないし、少し頑張るとするかしら)
 依頼人が言っていたバザールの残骸だろうか。硬いもので打ち据えられたような痕跡やら、切り刻まれたような痕跡やらを残す、荷車であっただろう何かが散見される。
(蠍は以前、砂蠍っていう盗賊団の連中とやりあったっけ)
 持ってきた丸太や、残骸の一部から引っ張り出してきた木材でバリケードを作るのは『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)である。
 蠍というキーワードで、今のイレギュラーズが思い至るのはやはり本物ではなく、綺羅星を落とさんと生き抜いた大悪党であった。
 ジェイクの準備を手伝う『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)はその一方で絶えずエネミーサーチを張り巡らせる。
(砂漠の蠍ねぇ……)
「俺たちはこんなデカイだけの蠍よりもっとヤバい化け物を倒してんだ――臆せず行くぞ、お前ら!」
 応じるような声を聞きながら丸太を担ぐ『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)はジェイクの陣地構築を手伝っていた。
(今回の仕事はラサの砂漠に住む大蠍を倒す事か……しかしまあ、滅茶苦茶な大きさだ。俺が知っている蠍の大きさじゃねぇな。)
 尻尾だけで25m、身体は10mだという目標となる蠍の大きさに『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)はもはや何度目かも分からないことを改めて思う。
(砂蠍を倒したかと思えば今度は大蠍か。傭兵共には災難だろうが、話を聞かない物売りがいたことに感謝しておこう。たまには魔物を斬るのも悪くはない)
 黙考する『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)は斬り甲斐のありそうな、文字通りの大物を想像して鞘に納めた愛刀に手をそえる。
(蠍って微妙にトラウマかも……)
 ラサを拠点としていた頃を思い出して『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)はストールの位置を直して演奏の準備を整えると、アンティークギターを奏でながら、舞踏する。
(迂闊な行動が無駄な恨みを作って仕舞ったようですが……もはや事が起こっては『何方が悪い』ではなく『何方が意を通すか』なのです)
 照りつける太陽と、吹き付ける砂塵を避けるためにフード付きのマントを羽織る『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は静かに思考する。
 砂丘を遮蔽物にしたヘイゼルの位置取りは囮であるミルヴィが襲われた時に一手で対応できる場所。
 瞳とほぼ同色の輝きを保つ軍用踏空魔紋の淡い輝きも含めて、息を殺す彼女の姿は、不思議と捉われない。


 ソレはミルヴィが演奏を始めてから程なくのこと。
 足場の悪い中、砂漠で始まった演奏会の中、ミルヴィの耳は微妙な振動を感じ取った。
 それは何かが掘り進むような、或いは何かが崩れていくような不思議な音。
「来る、皆離れて準備して!」
 目を閉じて集中していたミルヴィは目を開く中で仲間達へと叫び――直後、ミルヴィは跳んだ。
 それまで足場だったところが、アリ地獄のそれのようにぽっかりとへこみ始め、その奥から真っすぐに、長い物が飛んでくる。
 反り返った毒々しい切っ先を最小限の動きで躱せば、関節の多い尻尾に足を突いて蹴り飛ばす。
 回避行動をしながら、視界の端でもう一つ、崩れる砂を見た。砂を天へと衝きながら、現れたもう一匹。二つを比較すれば、後から出てきた方が随分と大きい。二匹がイレギュラーズを囲うようにして近づいてくる。
 尻尾を突っ込んできた方へと視線を巡らせたミルヴィはもう一匹から離れるような動きを取る。
 ミルヴィが意識的に情欲を込めた視線を雄に向ける。
 ――おいで、抱きしめてあげる。
 言葉に出さぬままに込められた意思が蠍の衝動を絡めとり、強制的に一つへとしぼっていく。
 蠍が内反りの鎌のような巨大な触肢を掲げて突っ込んでくる。それをミルヴィはどことなくつやっぽい笑みを見せながら、応対する。
 味方の動きを信じて。

 ヘイゼルは少しばかり大きく間合いを取りながら雌であろう後から出てきた蠍の死角へ走り抜けた。
 対象の足に赤い糸を括り付けて、相手の動きと反対に向かって思いっきり走る。
 がくんと衝撃が走り、蠍がこちらに顔を向ける。
「私達は砂蠍の王を踏み越えて来たのです。申し訳ないですがただ大きいだけの蠍に負けてあげるわけには参りません」
 敵意を向ける蠍に少女はいつも通りに、コレよりも遥かに凶悪だった男を脳裏に掠めながら構えた。

 ここに集った8人の中ではずば抜けて速い一晃は目標をみるや、爆ぜるように走り抜けた。砂漠の地を物ともせぬ尋常ならざる疾走である。
 そんな一晃が雄へ到達するよりも先に連鎖行動によって辿り着いていたサンディが、雄へとWSSを打ち込んだ。嵐神の権能が如き暴風が蠍を強かに打ち据える。
 激しい一撃に、蠍の動きが一瞬だけ完全に停止し、続くように蠍へと到達した一晃の血蛭が閃く。
 音速にも到達する一撃は、真っすぐに蠍が構える鋏へと走り、鋭利なソレに大きくひびを入れた。
 狼牙を構えるジェイクは大きく間合いを取ると一晃が打ち込んだ鋏辺りに向けて弾丸を打ち込んだ。
 死を告げる魔性の弾丸が、蠍に更なる傷を加えていく。
「――コキュートス」
 ユウは味方の猛攻を受ける雄を視界に収めながら、溢すように呟く。
 直後、不意に蠍の周囲の気温が一気に低下する。夜でもないのに低下した気温の中、パキパキと音を立てて、砂地が凍てつき、蠍の身体を蝕んでいく。
 氷精霊の権能が蠍を絡めとり、氷は防御性能を意に介さず身体の芯ごと凍り付かせていく。
「ご自慢の尻尾と俺の剣、どっちが強いか勝負しようぜ! なぁ!」
 異国の勇者は凍てついた蠍に向かって不遜と言わんばかり言葉を向け走り出す。
 身動きのとれぬ蠍の上を走り抜ければ、そのまま背後へと舞い上がる。
 みしりと甲殻が少しのヒビを作る。しなり、真っすぐに向かってきた尻尾と真っ向からぶつかるように放たれた神速の突きが、ガリっと音を立てて毒針の切っ先を僅かに砕いた。
 我流にして極地に至った攻撃は甲殻を撃ち抜き、柔らかい身を明確に破壊していく。痛みからか、尻尾が縦横に動き回る中、アランは大きく跳んだ。
 アランに代わるようにして義弘は蠍の頭部辺りに向かって突貫、8つある目のど真ん中、義弘の拳が蠍を傷つける。
 人、獣、超常現象――ありとあらゆる何かとの戦いで培った経験は、それだけで充分な武器となる。

 猛烈な一撃を受けた蠍が、反撃とばかりに大きな鎌状の鋏を細く合わせ、近距離にいたミルヴィに振るう。躱したミルヴィだったが、片腕が浅く裂け、血飛沫が砂漠にぽつぽつと散った。
 しかし、ミルヴィは蠍の動きの鈍さを見て取ると、今度は前に一歩進む。黎明の名を冠する美しき儀礼曲刀を振るい、剣舞を踊る。
 哀しい妖剣の一撃が、雄に強烈な負荷をもたらしていく。対するミルヴィの傷は、ユウが放った高度な治癒魔術によって癒えていく。
 鈍くこそなれどまるで健在な蠍に対して、サンディは再び嵐神の暴威を打ち込む。強烈な圧を受けて、蠍の身体が砂地に落ちる。
 続くように一晃が再び音速の剣を閃かせた。剣はボロボロになりつつある尻尾に奔り、ぱっくりと二つに割った。ゆらゆらと揺れた尻尾が、やがて力なく砂漠へ落ちていく。バフンという音と、大きな砂塵が舞い上がった。
 怒りか、反射か、蠍が腕を一晃へと振り抜いた。彼が放った一撃にも似た、鋭利な刃が一晃の肩を大きく薙ぎ払う。
「そこだ!」
 ジェイクは弾丸にため込んでいた気力を無茶苦茶に振るわれる鋏へ向けて打ち込んだ。
 光線と化した弾丸は、鋏へと照射される。じゅうじゅうと音を立てた鋏の下半分がぼろりと溶けて落ちた。
「ついでだ、もう一本も落としてやるぜ!」
 走りこんだアランが、砂塵を打ち上げて踏み込み、突きを放つ。上半分だけとなった鋏に吸い込まれた霊樹の剣は、生身をぶちりと引きちぎって落としていく。
 蠍の身体が、震え、健在のもう片方の鋏が動く。鋏が閃き、思いっきり横になぎ、義弘の肉体を裂く。
 しかし、漢の双眸には気力がまだみなぎっていた。反撃とばかりに打ち込まれた正拳が、蠍の鋏にひびを入れた。

 赤い糸は常に雌の身体に纏わり続ける。ヘイゼルは意識的に蠍の上空を動き回る。時折、動きの鈍った様子は雌へのアピールだ。
 高高度になりすぎないように調整しながらではあるものの、鋏の攻撃を完全に防ごうとすれば、多少のペナルティは免れ得ない。
 とはいえ、低空飛行による選択肢を絞る作戦は今のところは上手くいっていた。
 止血し、相手の行動を更に分析していく。
 運命の赤い糸を結びなおすまであと少しだ。

 戦闘は進む。腕、尻尾と自らの武器を削り落とされた雄は、残るはただ突っ込んでくるだけの単調な攻撃だけ。最早そうなってはイレギュラーズの敵ではなかった。
 ミルヴィが三度目の眼差しを蠍に向けた直後、サンディの嵐神の暴威が振るわれ、ユウのコキュートスが再び零下へ誘い、アランの突きが蠍の頭部を真っ二つに断ち切って――一匹目は遂に堕ちた。


 雌への対処を続けていたヘイゼルは不意に動きを止める。
「ありがと! 後は任せて!」
 ミルヴィからそう声をかけられたヘイゼルは、高度を下げて着地すると、ユウのハイヒールを受ける。
 サンディは雌との間合いを調整すると、小型の球体を取り出して、思いっきり投擲する。ソレは蠍へとぶちまけられると、無数の刃と共に業火が爆ぜる。傷口からは血が流れ、毒性が染みていく。
 いつの日か、きっとまた立ち塞がってくる奴との戦いに向けてありったけのコネとなりふり構わぬ殺意を以って編み出した切り札だ。
 義弘は片手に雄が落とした鋏を握っていた。雌に近づくと、それを頭上に掲げ、ぶんぶんと振り回す。
 小さな暴風域が砂を巻き込んで竜巻を作り上げ、戦場に産み出され、蠍を巻き込んで暴れまわる。
 アランは大きく踏み込み砂を舞い上げ、神速の突きを放つ。雄と同様に尻尾目掛けて放たれた一撃は、雌の大きな身体をきしませる。
 しかし、装甲こそそれほどではないのに対して生命力が多いためか、雄ほどには効いてるように見えない。
 それに続くように遠距離からジェイクが放つ弾丸が、蠍の肉体に打ち込まれていく。魔弾は雌のやや柔らかい装甲に狼の牙が如き傷痕を残していく。
 蠍が身体を震わせ、尻尾を元気に振り回し――その直後、水のような飛沫が近くにいた義弘、サンディ、ミルヴィへと降り注ぐ。
 ヘイゼルは毒を受けた義弘達に超分析に導き出された対処方法を伝えていく。

 雄に比べれば、雌の対処はそれほど難しくはなかった。
 鋏による攻撃を受けた義弘は、拳を握り、思いっきり関節に突き立てる。ブチッという音と共に、だらりと一本が垂れて千切れる。
 ユウはハイヒールを飛ばそうとしたところで気付いた。義弘の身体が微動だにしていないのだ。
「ヘイゼル、お願いできる?」
「大丈夫です」
 ユウは隣にいるヘイゼルと言葉を交わすと、再び権能を引きずり出す。瞬く間に氷が蠍を凍てつかせ、その動きを引き留めていく。
 蠍の動きが鈍った瞬間、走りこんだヘイゼルは義弘を回収する。大きく身体に鎌で切り開かれた痕を残す漢は、意識を飛ばしてしまっている。
 しかし、そんな漢を、ただ立ち位置的に邪魔だっただけなのか、蠍はミルヴィに向かって動き出している。
「逃がすかよ」
 静かな声と共に、異界の勇者が剣を構える。霊樹がソレとは思えぬほどの濃い憎悪が満ちる大剣を、ひどくゆっくりにも思える動きで動かし、駆ける。
「体がデカイだけの蠍に、この勇者(オレ)が倒せないことを教えてやる……」
 至近、相手はもちろん、自らも攻撃を受けるしかない完全な零距離にまで詰め寄ると、踏み込みと共に剣を振り下ろした。
 オーラさえ滲む強烈な憎悪による蹂躙が、蠍の垂れ下がった鎌を完全に抉り取り、その余波で触肢をまるまる削り取っていく。
 毒針がアランに向けて振り下ろされる。しかしそれはアランに打ち込まれるよりも前にジェイクの放った光の柱によって肝心の針部分から焼き切れた。ミルヴィは剣舞を舞う。妖剣が閃き、まだ健在の鎌と鎌の間に突き立っていく。
 サンディが再び嵐神による権能を打ち込んでいく。圧迫を受けた蠍の動きが止まったその時だった。
 身体ごと倒れるように前へ進み、重心ごと振り上げる。二度目の蹂躙が、真っ向から蠍へとぶちまけられた。
「この一撃で砕け散れ……!」
 肉を裂き、神経を削り取り、頭部から尾の先まで、裂けていく。砂が舞い、血が滲んでいく。


 ネフェレストに帰還したイレギュラーズは報告を終えて一息ついていた。
「すまないな。あの商人はもういないんだよ」
「そうなのか?」
「まぁ、ポカやらかしたしな。損害は俺たち以上に酷かったみたいだ」
 依頼人は飲み物をイレギュラーズへ奢りながら告げる。
 せっかくなら頂きたいと思っていたジェイクとしては残念だったが、それもそうだろうという気もする。
「俺達は信用第一だ。商人もだ。互いに信用できない奴に護衛もへったくれもないだろ?」
 彼らの傭兵団を崩壊させたことで商人は商品は台無し、傭兵団の遺族からは多数の損害賠償を請求され、違う傭兵に頼もうにも他の傭兵達は依頼を受けてくれない、なんていうことになったらしい。
「貰ったとしても本当に大したもんにならないと思うぞ」
 そう言って傭兵は口をつぐんだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

大変遅くなり申し訳ございません。

そういえば盗賊王達って砂蠍だったな、ということをオープニングを公開した後に気づきました。

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