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シナリオ詳細

熱砂と巨蟲と激闘と

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●砂漠の巨蟲
 大陸中央部、砂漠地帯。
 ラサ傭兵商会連合の首都ネフェルストから出発した商人グレコ・マントールの一団は強烈な熱波が降り注ぐこの砂漠を行進していた。
 商人であるグレコは幾つもの国をこうし渡り歩き、交易を行っていた。各国の様々な品を売り歩くグレコの評判は上々で、各国の貴族達からも贔屓にされているようだった。
 今回はネフェルストで仕入れた品々――砂漠の遺跡より発掘した土器や壺などの工芸品を目玉としている。レア物を求める貴族達のお眼鏡に適うと期待が持たれていた。
 砂漠の道程が半ば程進んだ頃、不意に風が止んだ。
「……この気配は……なにか嫌な予感がするぞ……!」
 長年、各国を旅するグレコが胸騒ぎを感じて声をあげる。
「出番かもしれん、準備をしてくれ!」
 荷馬車を止め、雇っていた傭兵達に声を掛ける。この傭兵達はネフェルストで雇った傭兵達だが――その中にはラサから依頼を受けてこの護衛に参加していたイレギュラーズの姿もあった。
 不毛の大地。砂塵吹き荒れる砂漠において、どのような危機が迫っているのか。
 訳知らず、周囲の警戒へと動き出したラサの傭兵とイレギュラーズは、僅かに大地が揺れていることに気づいた。
「――地震?」
 漏らした声は、次の瞬間には衝撃と共に掻き消える。
 轟音と共に、砂漠が噴き上がる――!
 天高く待った砂塵の中に、聳え立つ揺れ動く影が躍り出た。
 巨大、あまりにも巨大。
「あ、あれは……! クォウスウォームか……!」
 グレコが目を見開き悲鳴のような声を上げた。
 それは巨大な蟲だ。
 手も足も、顔すらない紐状の巨大な蟲。その先端には幾つもの牙を持ち獲物を丸呑みする為の巨大な口が開いていた。
「厄介な相手だが、そう攻撃性の高い魔物ではない、取り囲んで撃退すれば――」
 そう指示を出してきたグレコの声が止まる。
 それは、絶望へと追いやるような地響きだった。
 既視感を感じるように、砂漠が膨れあがる。爆発するように砂の柱が二本噴き上がった。
 新たに現れるクォウスウォームが二体。
「ぐっ……三体だと……」
 揺らめく巨蟲を前にグレコが青ざめた。
 だが、挫けぬ心を持つ物もいる。イレギュラーズとラサの傭兵達だ。
「手分けして潰すぞ――! 一体ずつ引き受けて、残り一体は……」
 どうにか注意をとって商人達を守るしか無い――!
 武器を手にしたイレギュラーズ、傭兵達が一斉に蟲へと向かって走る。
 熱砂降り注ぐ砂漠で、突如遭遇した巨大蟲との戦いが始まった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 ラサからの紹介で参加した商人の護衛。
 現れた巨蟲クォウスウォームを退治しましょう。

●依頼達成条件
 商人、及び積み荷が無事であること。
 クォウスウォーム三体の撃破。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は起きません。

●クォウスウォームについて
 推定十五メートルはあろう巨大な紐状の蟲。数は三体。
 先端の口のようにも見える部分には鋭い牙が円上に並び、中央には巨大な口腔が空いている。
 巨大さゆえに高い耐久力を誇るが、防御技術、特殊抵抗は見かけによらず低い。
 しかし、その巨体から考えられない高い反応と機動力を持ち、後手に回る事が多くなる事でしょう。
 巨躯を震った薙ぎ払いは崩れ・体勢不利をもたらし、その牙による噛み付きからの丸呑みは出血と流血をもたらすでしょう。
 巨大さ故に、ブロック・マークは一人では難しいでしょう。二人以上でしっかり押さえましょう。
  
●戦闘地域
 大陸中央部の砂漠になります。
 時刻は昼。熱砂がジリジリと体力を奪っていくようです。
 戦闘地域は、砂漠が広がり障害物等ない地形です。やや足が砂に取られますが、自由に立ち回れるでしょう。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 熱砂と巨蟲と激闘と完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月28日 23時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
刀根・白盾・灰(p3p001260)
煙草二十本男
七鳥・天十里(p3p001668)
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
リナリナ(p3p006258)
酒々井 千歳(p3p006382)
行く先知らず

リプレイ

●立ち向かう者
 熱砂の砂漠に聳え立つ、三柱の影。
 白砂の大地を根城にする、巨蟲クォウスウォームが獲物を見つけ歓喜にその巨大な身体を揺らした。
「お互い出番といった所かな? 後で無事なら酒の一杯でも終わったらどうです?」
 ギフトによって殺気を感知していた『行く先知らず』酒々井 千歳(p3p006382)が飄々と傭兵達に話しかける。その余裕の態度に傭兵達は「心強いもんだぜ」と笑った。
 彼我の距離は、十分にあった。この距離ならば、商人と積み荷を逃がすことも可能に思えた。
「私達が先手を取って全て押さえますので、傭兵の皆さんはもしもの時の為に商隊の護衛をお願いできますか」
 フード付きのマントを靡かせて『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149) がそう言うと、イレギュラーズ達は、すぐにクォウスウォームへと向けて走り出した。
「さぁさぁお早く。命あっての物種ですわよー」
 『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)に促されると商隊は急ぎ動き出す。傭兵達は一瞬戸惑うが、
「だ、大丈夫なのか!? ――くっ、すぐに商隊を逃がして援護に行くからそれまで耐えろよ!!」
 余計な言い合いは無用と判断したのか、すぐに踵を返して商隊と共に距離を取っていく。
「お、俺も逃げるぞ! ……えっ、皆さん戦うんですか?」
 よもやこんなことになるとは。『煙草二十本男』刀根・白盾・灰(p3p001260)は周りの雰囲気に押し流されて、戦々恐々としながら、定まらない覚悟を横に置き仲間の後を追いかける。
 巨蟲達も向かってくる相手を目視(目があるかは不明だが)すると、その巨体に似合わぬ速度で移動を開始する。
 巨体を砂に潜らせ、地中を走る。震動が大地を揺らした。
「おー! 大ミミズ!
 ヤツラのクセわかる! 音に敏感!」
 野生の勘と言うものだろうか。クォウスウォームの持つサーチ能力を察する『原始力』リナリナ(p3p006258)は、巨蟲達が砂中に潜ったのを確認すると、それが獲物をサーチする習性だと勘づいた。
 であれば、それを妨害しなければ商隊が狙われる可能性がある。リナリナは即座に飛び上がると、一回転、急降下による爆発伴う蹴りを広大な砂漠に放った。
 轟音と共に熱砂が噴き上がる。地中を往く巨蟲達が、震動に驚き顔を出した。気づけば彼我の距離はもう手が届く位置だ。
 このリナリナの対応がなければ、商隊へと抜かれていた可能性もあり、見事な対応だったと言えよう。
「へっ、でかいミミズが俺に勝てると思うなよ!」
 緋色の大翼を広げて鳥人型に変化、格好良く武器防具を装備した『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)が巨蟲達にその存在をアピールする。
 砂漠に足を取られまいと低空飛行によって砂に影を落とすカイトが、巨蟲達の周囲をぐるりと旋回すると、巨蟲達が涎を垂らして食らい付こうと、その首を振るった。
 薙ぎ払うような一撃にその身が空に舞う。巨体からの一撃は重く体勢を崩すにたるものだったが、目論見通り注意を引く事はできたようだ。
「カイトくん、手伝うよ!!」
 声を上げ、七鳥・天十里(p3p001668)が砂漠を蹴って空に舞う。靴に装着された小型の飛翔装置が起動し、天十里の身体を空中に留まらせる。
 身を捻り、アクロバティックな回転を見せながら、カイトの押さえられなかった巨蟲へ向けて手にした黒く煤けたアンダーバレルリボルバーを構える。込められた暗く輝く銃弾が、乾いた銃声と共に放たれる。
 柔らかな巨蟲の肌を穿つ銃弾が、巨蟲の肉体と精神を蝕み掻き乱す。恨みがましく天十里を睨み付ける巨蟲が体内の空気を吐き出し咆哮を上げた。
「この大きさですと、抑えるのも限度がありますがー。
 やれるだけ、やってみましょうかー」
「ゆるりと参りませうか」
 カイトと天十里が巨蟲達の注意を完全に引くまで、ユゥリアリアとヘイゼルが見上げる巨蟲を足止める。
 巨大さ故に一人では押さえられない巨蟲だが、二人がかりでならば、その前進を食いとめる事ができた。
 そうして動きが止まったところに千歳が走り込む。
 霊刀と妖刀を手に巨蟲へと迫れば、研ぎ澄まされた殺意の斬気を繰り出した。
 柔らかな巨蟲の肌は易々と切り裂かれ、青黒い体液を撒き散らす。二撃、三撃と刀を振るえば、巨蟲が反撃に身体を振るう。弾き飛ばされながら空中で回転しバランスをとると、砂埃あげながら着地した。
「カブトムシの幼虫のような姿。
 小さくてもあまり気分のよくないもので御座いますのに、こう大きいとおぞましいもので御座いますね」
 目を細め僅かな嫌悪を表した、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が治癒魔術を操りながら言葉を続ける。
「僕の道を阻むものは、すべからく消失して頂きましょう。
 まるで奇術のように、ね」
 聳え立つ三柱の巨蟲を消せたのならば――それは確かな奇術に違いない、と商人達は思うだろう。
 イレギュラーズ達の見事な役割分担、対応はこの巨蟲達の動きを釘づける事に成功し、商隊が避難する時間を確実に稼ぎ出した。
 商隊の護衛に回った傭兵達が、遅れて戦場へと戻ってくる。
「三体とも抑えるなんて、やるじゃねぇか!
 ここからは一体は任せな、このクソ蟲共に目に物見せてやろうぜ!」
 ワイルドにそう叫んだ傭兵達。やる気は十分と言ったところか。であれば水を差すのも悪いというものだ。
「では、私達は左のから行きましょうか。順当に倒していけば一体は残りますが……それは早い者勝ちですね」
「おう!!」
 暑苦しい気合いの入った返事に苦笑しつつ、イレギュラーズは首元のマントの布を持ち上げ狙いを定めた。
 熱砂吹き荒れる砂漠で、巨蟲クォウスウォームとの戦いが始まった――

●激闘
 砂漠の砂を巻き上げて、巨蟲達が轟音立てながら砂漠の海を泳ぐ。
 巨体を捻りその場にいるもの全てを巻き込むような勢いで身体を振るえば、砂嵐でも起きたかのように乾いた砂粒が空を舞う。
 圧倒的なスケール感の前に、普通の人間ならば絶望してしまうような状況にありながら、しかしこの場で武器を振るう者達は一歩も引く気配を持ってはいなかった。
 我が物顔で砂漠を占拠するこの蟲どもに、強者はどちらであるか、それを知らしめるのだ。
「体勢を崩してくるのは厄介ですが――当たらなければどうということはありませんね」
 巨蟲の薙ぎ払いを踏空魔紋を用いて回避するヘイゼル。そのまま、巨蟲の頭上をとれば、忌まわしき液体を精製する魔術的術式を起動する。
 砂漠の空に赤黒の液体が生まれ零れる。夥しい量のそれは巨蟲を溺れさせるのではないかと思うほどに巨蟲の口に流れ込む。どのように強靱な耐性をもっていようと、その毒は肌を焼き、血管を破り、恢復を妨げるのだ。
 身体の内部を食い破られる感覚に巨蟲が暴れ、のたうち回った。
 ヘイゼルは執拗にその”酒”を浴びせかけ、重度の状態異常に陥るように仕向ける。巨蟲もまた反撃を加えようとするが、空を縦横無尽に駆け巡るヘイゼルを捕らえる事ができず、為すがままに酒に溺れていった。
「視覚があるかはわかりませんが、僕の奇術で翻弄してみせましょう」
 幻がしなやかなに手を突き出す。魔力が駆け抜けて、巨蟲の周囲に無数の煌めきを生み出した。
 刹那に生きる疑似生命が創鍛されれば、幻の手繰るままに巨蟲へと走って行く。
 身体中を駆け抜ける無数の痛みに巨蟲の神経は狂いだし、幻惑の園へと誘われる。
「無粋なお客様には仕置きが必要ですからね。大人しくして頂きましょう」
 幻の手繰る無数の見えない糸が、その巨大な巨蟲の身体を絡め取る。拘束され自由に身動きの取れなくなった巨蟲が体内の空気を吐き出して苦しそうに咆哮を上げた。
 呪縛による行動抑制は、必要十分な効果を上げ、イレギュラーズの戦いを優位なものに変えていく。こうなればその巨体さはただの当てやすい的でしかない。
 天十里が、空中へと跳ね上がり巨蟲の上空を奪う。
「巨体が強みなんだろうけど、狙いやすいだけだよ!」
 心の光を銃弾に宿して、力強く引き金を引く。放たれる光輝の弾丸が、確かな手応えとともに巨蟲の身体を貫いていく。
 天十里の射撃は、まさに全天周から行われる。
 砂漠を駆けながら弾丸を装填、飲み込もうと迫る巨蟲の口目がけて発砲、同時に飛び上がると、さらに高度稼ぐために中空を蹴り上げて二段ジャンプ。伸身宙返りの要領で身体を回転させながら、その瞳は巨蟲を射貫いている。二発、三発と引き金が引かれ、ふわふわした癖のある黒髪が空で靡いた。
 天十里の攻め手に呼応して、千歳が砂塵吹き荒れる海を疾駆する。
「良いねえ、これだけ的が大きければ──俺も斬り甲斐があるってものさ。
 行くよ、阿修羅、武御雷」
 二対の刀身を煌めかせ、自在なるままに斬撃を放つ。
 剣士としての矜持を胸に秘め、このような場所で足踏みしてなるものか、と鬼神の如く巨蟲の身体を切り裂いていく。
 周囲の立ち位置を確認すれば奥義の間合いと心得た。刹那の呼吸で放つは櫻火真陰流、外伝。発勁を操り殺意を刃と変えるこの業が、目の前でのたうち回る巨蟲を貫き、奥で暴れる巨蟲を貫き大きくのけぞらせる。
「止めだ――ッ!」
 阿修羅による横の斬撃が大きく巨蟲の腹を引き裂き、体液を溢れさせる。止まる事知らず、千歳は巨蟲の頭部へと肉薄すれば、武御雷上段から振り下ろす。月下に舞い散る桜の如き華麗な剣閃によってその凶悪な口を縦に切り裂かれた巨蟲は、ついに絶命しその巨体を大地に横たえた。
 イレギュラーズが一体の巨蟲を倒すことから遅れて、傭兵達もなんとか巨蟲を仕留めたようだ。
 残る一体に向けて加勢に出てくる。それなりに傷を負ってはいるが、戦意は落ちていないようだ。
 手が増えるのは助かる、とイレギュラーズも共闘の体制に入った。互いに回復し合いながら体勢を整えると、残る一体へと向けて業を振るう。
「てめぇは餌だ、猛禽類舐めんなよ!」
 猛禽類特有の鋭い眼で睨み付け、威嚇とともに巨蟲を震え上がらせるカイト。
 巨蟲の周囲を旋回し、幻で作った緋色の羽根を舞わせば、その狙いを絞らせない。
 こうしたカイトの回避戦術の効果は高く、巨大な巨蟲の攻撃、その多くを避ける事に成功していた。
 だが当然回避しきれないことも稀にある。
 大きく身体を振った巨蟲が鞭のように身体を撓らせて、その巨大な口を広げた。カイトを丸呑みにする心算だ。
 回避しきれない――そう判断したカイトは瞬時に腰に差していた短刀を引き抜いた。迫る巨蟲の口がカイトを丸呑みにしU字を描くようにして飲み込もうとする。
「喰われるものか!!」
 全力の抵抗を見せるカイトは、口内の牙を掴んで丸呑みを拒否する。手にした短刀で口内の浅黒い肌を滅多刺しにする。
 痛みに巨蟲が揺れた。カイトは閉じようとする牙に肌を傷つけられながらも、揺れる勢いを使って空中へと身を躍らせた。
 獲物を捕らえられなかった巨蟲がその身を砂漠の中へと沈めていく。
「おー、消えた、消えた! 注意!」
 周囲をぐるっと見回すリナリナ。どこから巨蟲が迫るのか、その動きを予測し考え……、
「おー、これ真下からくるパターン!!」
 気がつくと同時、足下の砂漠が一瞬沈み込んだかと思うと、噴火の様に噴き上がった。勢いに飲まれリナリナは天高く飛ぶ。中空から地上を見やれば、巨蟲が口を開けて獲物(リナリナ)を喰おうとしていた。
「大ミミズ、リナリナ、喰う、違う!
 リナリナ、大ミミズ、喰う! ……美味いのか?」
 こんなゲテモノを食べるとすればリナリナくらいだが……本当に食べる気なのか? それはともかく喰らうのは自分だと主張するリナリナは装備しているジェットパックを操ると空中で一回転しつつ体勢を整えた。
「るら~! ダイナマイトキック!!」
 勢いままに急降下キックを放つリナリナ。獲物たるリナリナの落下角度が変わり丸呑みすることのできなかった巨蟲は、回避する事も叶わず爆発する蹴りの直撃を受け、大きく身体を傾けた。
「お、押している……! いける、いけるぞぉ!!」
 高い防御力を誇る灰が、仲間の後押しを受けて気合いを入れた。僅かに及び腰なれど、巨大な怪物相手に一歩も引けを取らず、盾役としての役目を十全に果たしていた。
 振るう曲刀には仕込んでいた毒が塗られている。切れ味もさることながらこの毒が巨蟲達に多くのダメージを与えていた。
「神の洗礼を受けろォォー!」
 今もまた振るった刃が、巨蟲の身体を傷つけて、青黒い体液を大量に吐き出させると、そこを基点に毒が巨大な巨蟲の身体を犯していく。
 灰はのたうち回る巨蟲の薙ぎ払いに吹き飛ばされ体勢を崩しながらも、身体を捻って強打を叩き込む。強烈なカウンターとなった一撃に、巨蟲の身体は痺れにも似た影響を覚えた。
 敵視を稼いでいる仲間を庇うように立ち回るユゥリアリア。巨蟲の薙ぎ払いに吹き飛ばされながらも、気丈に振る舞う。
「ちょーっと腕が痺れますが、問題ありませんわー」
 手を突き出せば、まるで鏡のように磨き上げられた氷の盾が生み出される。それは映したものに持ち手の傷を呪いのように移し替えるという。相手の体力を奪い取るその業をもって傷の回復を図ると、大きく息を吸い込み喉を震わせた。
 砂漠の海に、絶望の海を歌う声が響き渡る。冷たい呪いを帯びたその旋律が、巨蟲を魅了し、呪殺へと導いていく。
「さぁさ、終わりに致しましょうー」
 ユゥリアリアが手を振るう。空気が凍え一本の氷剣を生み出すと、それを手に取り一気に距離を詰める。
 巨蟲がやられまいと身体を震わせその口を大きく開けて迫った。一歩横へ飛んだユゥリアリア。側面を走る巨蟲のその肌を舞い踊るようにして刺突する。猛烈なスピードの巨蟲が突き刺されたのをきっかけにもんどり打って砂漠へと顔を突っ込んだ。
 びくびくと震えるその巨大な身体は、やがて痙攣すらもなくなって、砂漠に横たわる醜悪な亡骸へと姿を変えた。
「さすがだな! 特異運命座標達!」
 勝利を喜ぶ傭兵達が、共に戦った戦友を誇らしげに讃えるのだった。

●傭兵達の祝杯
 巨蟲クォウスウォームを退けたイレギュラーズと傭兵達は傷の手当てを行いながら祝杯を挙げていた。
 商人達が商売に使う予定だったボトルを開けてくれたのだ。無事に商隊を守ってくれた者達へのお礼だという。
「んー、んまい。それに良い風だ。これはしばらく荒れる事もないかな?」
 カイトはグラスを傾けながら読み切った風をその身体に受け気持ちよさそうに目を細めた。
 砂嵐が来るようならば警戒することも考えたが、どうやらその心配はいらなそうだ。
「傷の手当ては十分なようですね。これでゆっくりと勝利の美酒を楽しめるというものです」
 巨蟲によってつけられた鋭く深い傷を超分析によって見通し手当したヘイゼルが、漸く一息ついてグラスを手に取る。
 鮮やかな紫色の液体を太陽に翳して目を細める。そのままグラスに口づけて喉の奥へと流し込む。冷たい感触が喉を、そして身体の熱を奪っていく。熱砂においてこれほど生き返る瞬間はないだろう。ホッと一息吐き出して、一つの勝利に微笑んだ。
「ボトル以外には……見事な壺や絵画ですね。
 ――では、ここで一つご覧下さい。はい」
 積み荷を興味深げに見ていた幻は、持ち前の瞬間記憶とギフトで積み荷のお宝を複製してみせる。レプリカながら精巧なそれに、商人達は唸るように拍手する。
 貴重な品物もこうしてレプリカとして見せれるならば、なにか商機になるかもしれない。商人達の鋭い視線の変化に、幻は薄く微笑んだ。
「か、勝った……? 生きててよかった!」
 大分ダメージを負いながらも盾役としての務めを果たした灰は、緊張が抜けると同時力が抜けて砂漠に倒れ込んだ。
 あまりに綺麗に倒れ込んだものだから、周囲の傭兵達が慌てて担架を持ち出したりして一時騒然となったが、何のことはない。ただ腰が抜けただけなのだ。
 受け取ったグラスを傾けながら、巨大な蟲との戦いを思い出し、灰は一つ身震いした。
「まあなにはなくとも、みんな無事でよかったね。お疲れ様!」
「無事に終わってよかったですわー」
 傭兵達と和やかに話しながらグラスを重ねる天十里とユゥリアリア。並び立つ二人の容姿は男臭い傭兵達の眼を引くが、片方は男の子である。
 そんな二人の側ではリナリナが禁断の果実へと手をだそうとしていた。
「肉! 肉! ……ブヨブヨ?」
 切り取った巨蟲の肉を前に、涎を拭う。本当に食べるのか? 大丈夫なのか? 一部始終を観察している傭兵達は固唾を呑んでいた。そのお味は――想像にお任せしよう。
「商隊が無事でなによりです。
 こういった魔物に襲われるのは危険かもしれないけれど、また商売に来てね」
 千歳の言葉に商人達は「もちろんさ」と応える。
 どんな危険な道のりだろうと、必要な物を届けるのが商人さ、と語る。そして付け加えるように、もちろん代価は戴くけどね、と笑った。
 ――繰り交わすグラスに注がれた勝利の美酒は、身体に籠もる熱を奪っていく。
 次なる国への道のりはあと僅か。一つの山は乗り越えたが、仕事はまだ続くのだ。
 気を入れ直したイレギュラーズは、砂漠の海に足跡を刻むべく歩み出した。

成否

成功

MVP

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。

 皆さんのおかげで無事に商人達は次の国へとたどり着けたようです。
 巨大な蟲との戦いお疲れ様でした。
 回避型な方が多かった印象で、被害は少なく済んだんじゃないかなと思います。

 MVPは混乱を初めとする行動阻害で損害を減らした幻さんに贈ります。

 依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

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