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シナリオ詳細

わがまま娘の最後のお願い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●娘のお願い
「お願い、お父様!」
 金の美しい巻き毛の少女が、豪奢なドレスが汚れるのも構わず、床に頭をこすりつけ懇願していた。
 彼女の名前は、フランシーヌ。
 エヴァン子爵の一人娘である。
 父親であるエヴァン子爵は、困り切った様子で客人として招いていた、『蛍火』ソルト・ラヴクラフト(p3n000022)へと視線をやった。
「ソルト殿、何とか娘を説得してください!」
 禿げあがった頭に冷や汗をかき、エヴァン子爵がソルトに詰め寄るように接近するのを、嫌そうに手で押しのけながら、ソルトがため息交じりの声をあげる。
「近すぎるのだよ、汝は。我は既婚者を寝取る趣味はないので、接近しすぎないでくれ」
「迫っているわけではありません! と言うか、貴殿、私でも口説くって本当節操がないな!」
「だから、既婚者は口説かないと言っているだろう!」
 まるでコントのように軽快に会話を楽しんでいるように見えるが、エヴァン子爵にとっては、由々しき事態が、実は今起こっていた。
。フランシーヌは、御年21歳。
 エヴァン子爵の子供の中で、跡取りの長男を除くと、唯一結婚していない。
 容姿は整っているし、正確に大きな難があるわけではない。
 活発な性格で、社交性もあるし、友人も多い。
 当然、引く手あまただったのだが、彼女は言い寄ってくる貴族たちを退け、今まで一度として求婚に応じたことは無かった。
 活発過ぎるがゆえに、フランシーヌの夢は昔から、冒険者と結婚する事だったからだ。
 結婚するならば、強い相手が良いと言い続けた彼女がアタックするのは、貴族とは無縁のいかつい男ばかりだった。
 そこそこ冒険者として名が知れている相手ばかりなのもあり、年もだいぶ上で、一番若くて37歳と言う状態。
 有力な貴族や商人ならばともかく、そんな相手に娘を嫁に出したくないのは親心として当然だろう。
 しかし、親の心子知らずとはよく言ったもので……。
 金目当ての冒険者たちは、皆エヴァン伯爵によって潰されており、今までフランシーヌは無事だったのだが、さすがに全員を退けるのは不可能であり、なんと最近フランシーヌには恋人が出来たのである。
 相手の男の名前は、エリック。
 31歳のアーチャーで、精悍な顔立ちをした屈強な男である。
 やや無口ではあるものの、評判は悪くない模様で、冒険者としてはそこそこの知名度を誇る人物だ。
 二人は順調に愛を育み、当然ながら結婚を望むようになったが、貴族の娘が冒険者と一緒になるのはハードルが高い。
 しかし、フランシーヌはすでに男を深く愛しており、どうしても結婚がしたかった。
 だからこそ、こうして土下座までして父親へと頼み込んでいるのだ。
「お父様、彼との結婚を認めてください! わたくしは彼でなくては駄目なのです」
 ここ3か月ほど、彼女は諦めずに、常に父親との対話を望んでいたが、父親は首を縦に振らない。
 しかも、二人になると絶対に娘が泣きついてくるため、客人を招いたりして、対話できない様にしていたのだが……。
「認めぬ!」
「わたくしは絶対にあきらめません!」
 ついに我慢できなくなったフランシーヌが、ソルトとの仕事の話に乱入し、現在の状態となった。
「……はぁ、汝たち。そういうのは、家族内で話し合うべきだ。なぜ、我を巻き込むのだ」
 出されたワインを飲みながら、ソルトの眉間には深い皺が寄っていた。
 面白い事は好きなソルトだが、親子喧嘩と夫婦喧嘩には巻き込まれたくないと、常日頃から思っている彼にとっては、今の状況は頭が痛い。
「ソルト様、貴方も冒険者の括りの人間でしょう? わたくしは戦うあの方を本当に愛していますの。家は兄様が継いでいて御子もいます。他の兄弟も皆、結婚しているわ。幸運な事に、皆夫婦円満です。です。わたくし一人くらい……!」
「フランシーヌ、お前は分かっていない。今まで何の苦労もしてこなかったお前が、あの男を支えられるわけがない。それに、あの男がお前を守ってくれるほどの実力者とは思えぬ!」
 知名度は悪くはないが、一流かと言われると、それは残念ながらまだ及ばないのが現実だった。
 何より、娘が冒険者についていくと言い出せば、それは反対もするだろう。
 愛情がないから反対しているわけではないないのだ。

 ソルトは二人の様子を見て、二人それぞれの意見に耳を傾けると、仕方ない、と折衷案を出すことに決めたのだった。


●ローレットへの依頼
「という訳で、だ。娘のフランシーヌの結婚を親に認めさせる作戦の開始なのだよ」
 一連の流れを聞き、イレギュラーズたちは思わず、どういうことだよ! と突っ込んだ。
 何せ、折衷案と言うのであれば、どちらへ転んでも良いような風な条件を提示するのが普通だ。
 その言葉に、ソルトがゆるりと首を振った。
「いや、無駄なのだよ。娘を説得するなんて。絶対無理」
 ソルトは断言した。
「意志の弱そうな女ならともかく、ああいう性格の女は折れぬよ。父親の気持ちは分からなくはないがな、相手の男はまぁまぁ条件が良い。年は離れてはいるが、聞いている限り今までで一番若いし、性格は申し分ない。無理矢理引き裂いた先にあるのは不幸だけだ。勿論苦労はするだろうがな。しかし、そんなのはどこも同じだ。愛せない男に嫁いで幸せになれるとは思えないし、どちらにせよ嫌な事は付きまとうのだよ」
 金持ちに嫁いだからと言って幸せになれるとは限らないのだから、土下座までする娘の願いを聞いてやるべきだ、とソルトは言う。
 今回、エヴァン子爵とフランシーヌの間で取り交わされたのは、所謂賭けである。
「ここから北へと行った先にあるダンジョンの中に、珍しいスライムがいる。3メートルほどある身体の中に、珍しい宝石の核があって、皆それを狙っているが、普通のスライムより大分強いらしく、未だ討伐は果たせていない。まぁ、倒せないと言っても、普通の冒険者には、だがな」
 にやり、と笑うソルトに、なるほど、と皆は頷いた。
 鍛え抜かれたイレギュラーズたちからすれば、討伐出来ないモンスターではないと言う事だ。
「今回、エヴァン子爵は、このスライムの核をエリックが手に入れる事が出来れば、結婚を認めると言っている。汝たちには、エリックと共にダンジョンへと向かい、この核を手にいれてほしいのだよ。……実は我は、最近エヴァン子爵と出会ったのだが、どうも我の事をそのあたりにいる、並の冒険者だと思っているらしく、我の知り合いはたいしたことがないと失礼にも思っているみたいでな。我らがエリックを助けてもいい事になったのだよ。まぁ、我自身が並であるのは間違ってはいないのだが、汝たちは違うのだから、この依頼は勝ったも同然なのだよ」
 そう言いながら、ソルトはダンジョンの地図とモンスターの特徴などを記載した紙を配る。
「我がダンジョン前までは送るからな。我は戦えないが、検討を祈るのだよ」
 にっこりと笑うソルトに、皆は頷き、それぞれの準備へと向かって行った。

●真実
「もう、良いのだよ」
 イレギュラーズを見送った後、柱の陰からエヴァン子爵が顔を出したのを見て、ソルトが肩をすくめた。
「すまないな、ソルト殿」
「構わぬよ。しかし、こんな猿芝居必要なのかは疑問だ。普通に認めてやればいいだろう。こんなエリックとフランシーヌに有利な賭けは必要ないのでは?」
 ソルトの言葉に、エリックは苦く笑い、ゆるりと首を左右へと振る。
「いいえ、これは重要な事ですよ。あのダンジョンでスライムを倒し、核を手に入れれば、あのエリックと言う冒険者がフランシーヌと並ぶのはおかしくはない話になる。建前は大事なのです」
 エヴァン子爵にとって娘は何よりも大切な宝だった。
 本音を言えば、もっと安全な男と結婚して平和に暮らしてほしいが、あそこまで男を愛していると土下座までする娘を邪険にし続ける事は、出来なかったのだ。
 だからこそ、一芝居をうった。
「ただ、イレギュラーズの方には、ご迷惑をおかけしてしまうことになり、それについては申し訳なく思っています」
 申し訳なさそうなエヴァン子爵に、ソルトはひらひらと片手を振った。
「いんや、問題はないのだよ。それにきっと、あれらは気づいているからな。というか、こんな杜撰なシナリオ構成の台本じゃばれるのだよ。ローレットを軽んじるのは無理がある。エヴァン子爵は、頭は良くても文才はないのだな」
 ソルトの言葉に、エヴァン子爵は苦く笑い呟いた。

 ――手厳しい、と。

GMコメント

お久しぶりです。
ましゅまろさんです。
お金があっても幸せになれるかどうかは分かりません。
父親もそれは分かっていますが、複雑な親心です。
二人を結婚させてあげましょう。

今回の目的は、北のダンジョンへ向かい、そこに生息する強いスライムを討伐後、核を持ち帰ると言う依頼になります。
ダンジョンはシンプルなつくりで、一応罠もありますが、罠については多くの探索者が残した情報で、殆ど回避することが可能ですので、特別な対策は不要です。
成功条件はスライムを討伐し、核を持ち帰ること、です。

●同行者
エリックが同行します。
アーチャーですが、短剣による近接戦闘をこなし、罠の設置も可能です。
弱くはありませんが、あくまで普通の冒険者ですので、皆さんと比べると実力は劣りますので、サポートをしてあげないと下手すると戦闘不能になりますので、ご注意ください。

●スライム
 虹色の身体をしたスライムです。
 3メートルくらいの大きなスライムで、酸を吐き、体当たりをしかけてきます。
 2匹いて、心臓にあたる部分が体の中心にあります。
 知能は高くはないですが、本能で捕食しようとし、時に強引な手段を取ることもあります。

※注意※

相談期間が4日しかありませんので、ご注意ください。

  • わがまま娘の最後のお願い完了
  • GM名ましゅまろさん
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月15日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
ポワニャール・リューシュ(p3p004625)
特異運命座標
酒々井 千歳(p3p006382)
行く先知らず
空木・遥(p3p006507)
接待作戦の立案者

リプレイ

●出発
「それじゃソルトちゃん、行ってきまぁす!」
 手をぶんぶんと、『ビューティーのおともだち』レスト・リゾート(p3p003959)が振り、ソルトが冗談めかして、お土産よろしく~!と手を振り返していた。
 さすがにダンジョンの中にはソルトは入れない。
「身分の差、歳の差を乗り越えての結婚……。これはエモい」
 レストの横を、少し悶えながら、『特異運命座標』ポワニャール・リューシュ(p3p004625)が歩く。
「なんとしてもお仕事を成功させて、お二人の幸せな門出を祝福してあげなくっちゃね!」
「宝石を持って帰れたら2人は結ばれる……!何だかロマンチックなお話ね~」
 タイプは違えど、この二人はこの恋愛劇に一際興味があるらしい。
「二人の門出を祝う為にも、頑張らなきゃね」
 『行く先知らず』酒々井 千歳(p3p006382)は、隣を歩くエリックに、そう言い、イレギュラーズたちの能力について説明をはじめた。
 作戦を練るには、まずは互いの力を知る必要があるからだ。
 エリックは聡い男で、千歳の話に理解をすぐに示しながら、己の事を話した。
「俺は、両親を魔物に殺されて冒険者になった。弓には自信があるが、近接戦は、あんたたちと比べれば、格段に実力が落ちるはずだ」
 基本的にエリックは待つタイプの冒険者だという事が判明した。
「新しい門出、か。俺には安住や安定は縁が無いものだが、結婚を好ましいと思う気持ちはある。せめてもの餞となるように手伝わせてもらおうか」
 『接待作戦の立案者』空木・遥(p3p006507)が、場の雰囲気を和ませるように、快活にエリックへと声をかけると、エリックが少し戸惑った様子で頷いた。
 そこからは、遥の独壇場である。
 気さくな性格ゆえ、エリックとは性質的には反対のようなタイプではあったが、話し込むうちに次第にエリックは心を開いていった。
「エヴァン子爵の首を縦に振らせるほどの決意を見せなければな?」
「ああ、そのつもりだ」
 罠を解除しながら、エリックも軽快に応えていく。
「そこまで惚れ込むとなるとさぞやフランシーヌは佳い女性なのだろうな」
 フランシーヌを褒めると、エリックは嬉しそうに笑った。
 そんな中、ばっさばっさと翼をはためかせながら、『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)が周囲を警戒しながら、サイバーゴーグルの力を借りて、探索をする。
この冒険がエリックにとってもいい糧になるといいんだが。箔がついて有名になっちまったら更に面倒な依頼が舞い込んでくるようになるぞ? 死なないように回避の方法を鍛えないとな!と言っても俺のは説明しづらいし、見て盗んでもらうしかねーな?」
 カイトの明るい言葉に、エリックは少し楽しそうに頷いた。
「そういや、エリックはフランシーヌとどこで出会ったんだ? 本気で好きなのか?」
 けれど、続いた言葉には、言葉を詰まらせた。
 勿論、愛しているのは本当だったが、二人の出会いは全くもってロマンティックとはかけ離れていたからだ。
 なおも聞こうとする、カイトを、レストが笑顔で止める。
「駄目よ~? そこは二人の秘密なの」 
 レストの助け舟に、エリックはほっと息をついた。
 現在は、エリックを囲むような配置で、イレギュラーズたちが進んでいるのが現状だ。
「まぁ、お前に惚れた女が覚悟見せたんだ。アンタもそれなりの所見せようぜ」
 内心、他人の色恋沙汰が依頼とはまた愉快なものを、と思いながら、『夜刀一閃』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)がエリックへと言う。
「ああ、そのつもりだ」
 遠目に見えた雑魚モンスターを弓で射って、エリックが答える。
 徐々にではあるが、打ち解けてきているようだ。
「愛があればそれでいい、なんて言う人も多いだろうか。だが貴族と平民の結婚なんて両家にとっての大事。貴族の事情ばかりが聞こえるが、彼にも彼の苦労があるだろう。なんて、一回り以上違う私が言うと失礼かな?」
 エリックは、真摯な声で告げた『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)の言葉に、ゆるりと首を左右へと振った。
「いや、あの方を恨んだことなどないし、俺は娘を盗っていく男だ。父親として反対をするのは当然だ」
 エリックは、年齢に見合った落ち着きを持った男だった。
 だから、領主の苦悩もすべて理解していて、それでも愛するフランシーヌの願いを叶えてやりたいと、自身を愛してくれる彼女と共に生きたいのだ。
「エリック様、この冒険が成功すれば、愛する人との運命も決するでしょう。
僕達が支援しますから、エリック様はご自分のベストを尽くして下さい。……ですが、あくまで主体はエリック様ご本人であることをゆめゆめ忘れないで下さいね」
 弓を引く姿を見ている限り、エリックに油断は無いだろうが、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が、忠告するように言った。
「肝に銘じよう」
 幻の言葉に、真っすぐな想いを見たエリックが僅かに微笑んだ。
 幻もまた、エリックに対して僅かに微笑むと言葉を続けた。
「運命を自ら切り開く。それは困難で、その結果が幸せとは限らないもので御座います。ですが、僕には運命を変えようとする人間の足掻く様がとても愛おしい。運命を唯々諾々と受け入れ、人から押し付けられた使命をただ果たすような人よりもずっと。……この結婚話、必ず実現させてみせましょう」
 イレギュラーズの思いは一緒だ。
 メンバー全員が、エリックへと視線を送ると、エリックはもう一度力強く頷いた。

●戦い
 雑魚モンスターを弾きながら、イレギュラーズたちとエリックが、ダンジョンの奥へどんどん進んでいく。
 罠はやはり殆ど看破されており、殆どが純粋な魔物たちとの戦闘となった。
 雑魚は難なくクリアし、殆ど迷うことなく、その場所へとたどり着くと、そこには巨大なカラフルなスライムが居た。
 キラキラと光る宝石のような核が、その存在感を放っている。
「弱点はあの核か……当然、そう容易くは倒させてくれないんだろうけど──斬らせて貰うよ」
 研ぎ澄まされた千歳の殺意が、スライムの一体へと向けて放たれるのと同時、戦いは始まった。
「行こうか、阿修羅、武御雷!」
 己の愛刀の名前を呼び、その身体へと切りつけると、鈍い感触を感じた。
「なるほど、さすがはスライム。頑丈らしいな」
 遥が、クイックアップで底上げした俊敏な動きで、もう一体のスライムの体液をかわしながら、軽く口笛を吹いた。
 攻撃の主体は他のメンバーに任せながら、防御に集中した遥は、器用に二体を引き付けている。
「微力だけど失礼するね」
 ポワニャールが、生み出した毒を使いスライムたちの動きを鈍らせる。
「核が二つあるなら、一つ貰ってペアの装身具にしてみたらどうかな?」
 綺麗な核に、ポワニャールがそう言った。
 確かに高価なものであるため、特別な贈り物にはなりそうである。
 その間に、エリックが己の弓を連射し、スライムの身体を貫く。
 事前に設置した罠の方角へと、エリックはレストと共に誘導をする。
「ふふ、いらっしゃい?」
 知性の無いスライムにとっては、あからさまな誘いが効果的だった。
 飛び散り、降りかかるスライムの酸に、ややメンバーたちは苦戦しながらも、バッドステータスはすぐさまレストの超解析によって解除されていく。
「……なんかジリジリと俺に寄られてるよーな」
 スライムの一体が、さりげなく(?)カイトを狙っていた。
「ま、一匹は俺が受け持つつもりだったからいいんだけどな。ただ食らったらすごくヤバそうな気がする。全力で避けるぜ!」
 食材適性の香りがするが、今はそれを気にしてはいられない。
 スカーレットフェザーで敵をかく乱しながら、緋色の大翼で己へと惹きつける様は、華やかで美しい姿だった。
 素早く鷹爪でスライムを切りつけ、エリックが動きやすい様に、援護をする。
「エリック、狙いを定めるぞ。右側のスライムからだ、合図をする。遅れるなよ」
 エリックと共に、後方からラダが射撃でスライムの身体を的確に撃ち抜くと、クロバが前線を駆け抜け、強力な一撃で切りつける。
 エリックの動きは悪くは無いが、しかしやはりスライムとの力は中々に開いているようだ。
 前衛型ではないからもあるだろうが、やや変な逃げ癖があるのだ。
 本人には逃げているつもりはないのだろう。
 性格も逃げるような弱気のタイプではない事は、先ほどまでのやり取りでわかっている。
 だからこそ、クロバは、あえてキツイ言葉で発破をかける。
「言ったろ。アンタに惚れた女の覚悟に応えろ、と。アンタがフランシーヌの事を想ってないというのなら別に構わんが。だが、逆にアンタもフランシーヌの事を想っているならオレたちからスライムの首を奪ってやるくらいの覚悟は見せろ。それが、あの女と”対等でいられる”って事じゃないのか? 他人に与えられた成果に甘えるな、アンタは自分の手でフランシーヌに報いろ!!!!」
 倒すだけなら、イレギュラーズたちならばそれほど難しくはないが、この戦いはエリックが活躍できなければ何の意味もないのだ。
 クロバの言葉に呼応し、幻によって生み出された生命体が、スライムの身体を覆い、その肉体を食らおうと迫る。
「エリック様、今です」
 幻の言葉に、エリックが一際、大きな矢を放つと、蓄積されたダメージで弱っていたスライムの身体が崩れ、美しい宝石がころりと地面へと転がった。
 一体のスライムが討伐され、残るは一体。
 しかし、もはやエリックは戸惑う事は無かった。
 この戦いで学んだ知識を生かし、己の持てる技術のすべてを、最後の一体へと費やしたエリックは、このダンジョンへと入った時と比べ、随分と大きく見えた。
「――あ、おい逃げるな、その回避は教えてねーぞ! 」
 それでも反射的に、変な避け方をしてしまうのはご愛敬だ。
 カイトの言葉に表情を引き締めながら、スライムへと再び向き合うエリックに、カイトが仕方ねぇな、と笑った。
 この戦いの中で、吸収してくれればいい。
 そしてもっと強くなってほしい。
 それが、イレギュラーズたちの願いだ。
「ごめん遊ばせ」
 レストの攻撃がスライムの足元を抄う。
 そして、続いた遥のノーギルティが、スライムを徐々に弱らせて行き、スライムの動きは、既に殆ど停止ししかけていた。
 頑丈な身体も、累積するダメージには耐える事はできない。
 千歳の刀が器用に、スライムを守っている外郭を切り捨てると同時、再びエリックがその弓をスライムへと狙いを定めた。
「もう、君なら大丈夫だ」
 千歳の言葉を裏付ける様に、力いっぱい引き絞られたその矢は、真っすぐにスライムへと射られた。

 エリックの弓が最後の一体の肉体を砕いたのを見届けて、イレギュラーズたちは安堵の息を吐きながら、互いに顔を見合わせ、笑った。
 仕事は完遂されたのだ。

●それは、きっと皆の幸せになる
「はい、エリックちゃん。核よ」
 大切に回収した核を、レストがエリックと渡す。
「エリック様、女は愛する男からのプロポーズを心待ちにしているもので御座います。もう何も言わずともすべきことはお分かりですね。いってらっしゃいませ」
 幻の言葉に、エリックは頷き、フランシーヌの元へと向かった。
 領主の元で、エリックの帰りを待っていたフランシーヌは、エリックがスライムの核である宝石を手にしているのを見て、エリックに勢いよく抱き着いた。
「エリック! やったのね!」
「ああ」
 フランシーヌの身体を、その力強い腕で受け止めながら、エリックは妻となる女の父親へと、じっと真剣な視線を送った。
 真摯だが、鋭いその瞳に、父親は静かに瞳を伏せて頷いた。

 ――二人の結婚を認めよう。娘を頼む、エリック。

 父親である彼の脳裏に浮かぶのは、フランシーヌと過ごした日々だ。
 辛いことも楽しい事もたくさんあった。
(だが、これからは私ではなく、この男がお前と共に生きるのだ)
 フランシーヌもまた、聡い娘だった。
 父親の願いも思いも、彼女は正しく理解していたのだから。
「ありがとう、お父様」
 だから、多くは語らない。
 幸せになること、それがたった一つの恩返しなのだ。
 たとえ、遠く離れたとしても、親子の絆は切れることは無い。

 そう、永遠に。

●旅立ちの日
「皆さん、本当にお世話になりました」
 嫁入りの日、フランシーヌが、化粧っ気のない顔で明るく笑った。
 正確には、まだ挙式を上げるわけではないが、実質家を離れる今日は、嫁入りの日に違いないだろう。
 父親との別れは、昨夜ゆっくりと出来た、とフランシーヌは微笑んだ。
 貴族だった頃の名残は、その上品な仕草にまだ残っていたものの、冒険者の衣装に身を包んだフランシーヌは、かけだしの女冒険者と言った風貌だ。
「その恰好似合っているな。やはり、元が良いからか、化粧が薄くても美女だ」
「遥様ってば、お上手なんだから!」
 遥が、フランシーヌを褒めると、彼女が遥の背中を恥ずかしそうにバンバン叩いた。
「いや、俺はお世辞は言わない……が、はは、力が強い」
 僅かに咳き込みながら、遥が言うと、皆が面白そうに笑った。
「今後、大変な時もあるかも知れないけれど、二人で相談してちゃんと乗り越えられる様にね」
 千歳が、エリックと硬く握手を交わした。
「……でも、二人で無理そうだったら、ちゃんと家族にも相談するようにね? 順風満帆な人生何て、殆どありはしないから、二人がそれを乗り越えられる様に応援してるよ? これは、俺の父さんと母さんの薫陶だよ。もう亡くなってしまったけど、二人ともいつも幸せそうだったから」
「ああ、あんたのその言葉を俺は忘れんよ」
 エリックは、千歳の事情は勿論知らない。
 しかし、千歳の持つ雰囲気に自身と似た何かを感じていたのだろう。
 エリックは力強く頷いた。
「気張れよ。フランシーヌは強い女だ。対等以上でい続けるのも大変そうだぜ?」
 クロバの言葉に、エリックは目を瞬いて、心得ておく、と冗談を言った。
 
●ここからがはじまり
 別れの時間は、もうそこまで来ていた。
 さすがにこれ以上遅くなれば、馬車で旅をするには危険な時間帯だ。
 日が落ちるまでに、安全な街へと移らなければいけない。
 別れ難い空気だったが、ポワニャールが明るく、その場を和ませると、自然にさよならの言葉が互いに出る。
「どうか、皆さもお元気で」
 そう言うと、フランシーヌとエリックは、最後に深くお辞儀をし、仲良く手を繋いで、冒険へと出発していく。
「さてはて、これから先二人はどうなっていくやら」
 去っていく二人の背中に、クロバが肩を竦めて言った。
「冒険家業は続けるのだろうし、またどこかで一緒になるかもな」
 せっかくの縁だ。
 次回会う時には、フランシーヌも立派な冒険者になっているだろうか、と思いをはせて、ラダが、まだ時折、後ろを振り返りながら手を振り続けるフランシーヌに応える様に、ひらりと手を振った。
「どうするよ。次回会う時にエリックより、フランシーヌの方が強くなってたら」
「ありえない話ではございませんよ。女性だから強くなれないなんて事はありません。それもまた、立派な道に御座います」
 冗談めかしてカイトの言葉に、幻が良く通る声で続く。
 フランシーヌが強くなること望むのであれば、その道を止める権利など誰にもないのだから。
「彼女は粋な方ですから」
「でも、フランシーヌさんなら、いつの日か歴戦の戦士になってもおかしくないと私は本当に思うよ?」
 ポワニャールが、屈強な戦士になったフランシーヌを想像して、少しの沈黙の後、出来ればムキムキにならない方向で頑張ってほしいかな、と唸った。
「ふふ、二人が幸せならいいのよ~?」
 そんなやり取りを、レストが、楽しそうに手を振りながら、隣の幻にウインクをして言う。
 レストの働きかけによって、領民たちの間では、フランシーヌたちは概ね好意的に受け入れられており、それはフランシーヌたちの荷物の中に入っている珍しいアイテムが示している。
「若い子たちの幸せは、私の願いだわ」
 スライムを軽々と倒した武勇伝と、フランシーヌたちの深い繋がりは、領民の女性の心をぐっと掴んだと言う。

 二人の道は、ここから始まる。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
皆様の援護のおかげで二人は無事に、夫婦として生きていく事になりました。
また、どこかで会えると信じ、二人は旅立ちます。

ありがとございました!

また、今回私の体調不良の関係でリプレイが遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。

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