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シナリオ詳細

ゼシュテルゾンビ紀行

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ゾンビは走るもの
「「ヴァアアアヴ!!」」
 片目の腐り落ちた老若男女が両腕を振り上げたまま全力疾走してくるさまを、どうか想像してみて欲しい。
 彼らは発掘された古代兵器群に含まれていたハイブリッド細菌兵器Zによって引き起こされた病気に感染した哀れなる人々である。
 Zに感染した人間は数十時間で死に至り、骨格の強制的な増強、筋肉の増幅、それによる皮膚をはじめとする体表組織と一部毛細血管の破壊、必要としない感覚器官の壊死などがおこり、最終的に『走る植物』へと変化する。
 彼ら――厳密には彼らの中に繁殖した細菌は増殖と接続によって骨髄経由でツタや鎖のようなものを形成し、感染身体を支えている。
 そのうえ脳に直結し飢餓感や焦燥感を増幅させることで強制的に与えられた対象物を求めて走り回ることになる。
 感覚器官は身体死亡時点で機能しておらず、寄生した細菌が魔力感知を用いて周囲の生物や非生物の位置を把握しているという。
 さて、理屈の詰まった説明はこのくらいでいいだろう。
 要約するに。
 このゾンビは、走るし増える!
「「ヴァアアアヴ!!」」

 ゼシュテル鉄帝国の西端。川沿いに位置するメロメ村でZパンデミックが巻き起こった。
 幸い遺跡発掘を主産業とする村であるためか周囲の村々と離れており被害の拡大こそなく、ほどなくして編成される軍の投入によって事態は鎮圧すると思われていた。
 しかし、急を要する依頼が、ローレットへと舞い込んだのだ。
「たいへんなのですたいへんなのです!
 メロメ村で発生したZパンデミックの際に、取り残された人々がいるのです!
 それは、村の老人ホームのご老人たちなのです!」
 酒場へジャンピングでんぐりがえしで飛び込んできた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、勢いよく依頼書を掲げた。
「村の軍人や青年団が避難をよびかけて、生存者はみんな避難しきったと思った矢先のことなのです。
 おじいちゃんやおばあちゃんたちは……耳が遠くて聞こえてなかったのです!」
 ぐう! と歯を食いしばって叫ぶユリーカ。
 えっじゃあやばいじゃん。ゾンビ(?)だらけの村で老人ホームが取り囲まれたら今頃全滅じゃん。
 と思ったそこの君に嬉しいお知らせだ。
「あとこの老人ホームは軍のもので、入っているのはみな退役軍人なのです。ガチクソ屈強なゴリラジジイや瞬足百人斬りババアが余生を過ごしているのです」
 なにそれゾンビかわいそう。
 が、避難できなきゃどのみち死にかねない。
 第一老人ホームに武器らしい武器なんてない。
「一応緊急用の武器庫はあるらしいんですけど、鍵と一緒に避難してきちゃったらしいのです。空から見た様子だと係員の人もゾンビさんの仲間入りしてるみたいだし……この鍵は持って行っていいので、かわいそうな(?)おじいちゃんおばあちゃんたちを助けてきて欲しいのです! だ、そうです!」

GMコメント

 走るゾンビはスリルがあっていいぜ! ヒュー!
 オーダーはいたってシンプル。老人ホームにガーッと突っ込んで老人たちをバーッと連れ出してぐわーっと避難する。それだけだ!
 重要な部分は主に三つだから、それ以外の所にプレイングを割きすぎないようにだけ注意してくれ。君の登場シーンの9割が馬車に油さす場面だったら寂しいだろう!?

●1:老人ホームに突っ込む
 老人ホームは今現在ゾンビにばりくそ囲まれている。
 そりゃそうだ残った人間全員ここにいるんだもの。
 ここへとにかく突っ込んで老人ホーム内に突入するのが皆のお仕事だ。
 突っ込み方は好きに選んでくれ。馬車で窓から突っ込んでもいいしライフル乱射しながら突撃してもいいしなんなら腹にダイナマイト巻き付けて突っ込んでもらってもいい。
 強いて言うなら絵面が楽しい方がお勧めだ。
 念のため説明しておくがゾンビはいわゆる寄生虫タイプのゾンビだから元宿主の能力は引き継いでいないと思っていい。元飛行種は飛べないだろうし元海種も泳げないはずだ。

●2:老人たちを避難させる
 老人たちがなぜ避難の呼びかけに応えなかったのか。
 それは耳が遠くて半数くらいはボケてたからだ。
 誰を見てもミチコさんだと思うジジイや自分を17歳の乙女だと思ってる可愛いババアが人の話を聞いてくれるはずはないのだ。
 そんな彼らをどうにかこうにかして連れ出さねばならない。
 もしかしたら今回の依頼で一番大変かもしれない部分だ。誰か一人に任せたりせず。スキルの有無にかかわらず皆何かしらトライしてみよう。
 手数が多ければ多いほど、早ければ早いほどいい。

●3:包囲網を突破しよう
 鍵を使って地下倉庫(老人ホーム屋内)を開け、ジジババを武装。
 アーミージジババと化した保護対象者(?)と一緒にゾンビの群れを蹴散らしながら脱出だ。
 脱出路として船が用意してある。船までたどり着けば勝利。成功だ!

【注意事項】
 大体のことはやってもいいが、やらないほうが良いこともいくつかある。
 そのいくつかを紹介する
・飛ばない方がいい
 Z(感染するとそのうちゾンビになるやつ)は空気中に滞留しているが、今現在は高いところに残っている。高く空を飛ぶんでもない限りはこれに触れることはないから気にしなくてもいいが、もし君が飛行種で『空から助け出せば完封じゃない?』と思ったならやめたほうがいい。しぬ。
・倉庫から出した武器は返す
 特例として今回だけは倉庫から出してきた武器弾薬は使用してもいいが、このあと必ず返すこと。システム的な話をするとアイテム化ないしゴールド化してお持ち帰りはできない。
・ゾンビを食べない
 なんでも拾い食いしちゃだめっていったでしょ! ぺっしなさいぺっ!

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • ゼシュテルゾンビ紀行完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月21日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
レッド(p3p000395)
赤々靴
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ガーグムド(p3p001606)
爆走爆炎爆砕流
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
フィーゼ・クロイツ(p3p004320)
穿天の魔槍姫
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風

リプレイ

●ゾンビなんてわーっとでてがーっと潰してぶわーっと逃げればええんじゃい!
「ぜしゅてりいいいいいいいっく――」
 高く掲げた鋼の拳。
 黒鉄のごとき素肌を僅かに見せて、『捲土鎧う』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は琥珀色の目を光らせた。
「まーべらす、デス!」
 走る馬車の振動と、流れる景色と暴風と。
 なびくマントを引き寄せて、リュカシスは荒れた町並みを横目に見た。
 古代の細菌兵器Zによって走る死体が蔓延。メロメ村はたちまち閉鎖区域となり、生き残った住民は洗浄作業終了まで避難と隔離を済ませている。
 ゆえにここは無人の村。と、思われたが。
「まだ取り残されてる人たちがいるっす!」
 『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は馬車の御者席から身を乗り出し、借り物の馬に強く鞭を打った。
「今から助けに行くっすよ! じいちゃんばあちゃーん!」
 がらくたの転がった路面をわずかにはねながら、馬車は一路老人ホームへと走った。

「軍の老人ホームか。流石に軍事国家だけあって老後のケアもしてるんだね」
「まあ、誰だって老いて死ぬし、な」
 別の馬車を走らせる『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)と、その上を飛行して周囲を観察する『空歌う笛の音』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)。
 アクセルは馬車へと降り立つと、威降とレッドへと声をかけた。
「老人ホームが見えてきたよ。そこを右に曲がって」
「了解、っと」
 手綱を引き、馬を上手に曲がらせる威降。
 『爆走爆炎爆砕流』ガーグムド(p3p001606)は馬車の天幕を引っぺがして捨てると、衛生マスクを口に装着した。
 つけなきゃZに感染するというわけではないだろうが、少なくともばっちいものなのでつければ少しは安心するものである。
 馬車から顔を出すと、老人ホーム……というかゾンビだらけの建物が見えてくる。
「あそこが歴戦の猛者どもが集う伝説のハウスであるか! いつか一戦挑む為にも全員助け出したい所であるな!」
「ううむ、確かにゼシュテリックにまーべらすであるな! 今からあそこに突っ込むのであるか? 燃えるのである!」

「ふむ、詰まる所、大事なのはノリと勢いという事だな。任せろ。得意分野だ」
 同じく馬車の天幕を引っぺがした『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は、縁に足をかけると武装を展開。自らを包むように円形の霊力刃を発生させた。
「さてと、まずはあの中に入ってお爺ちゃん達をエスコートしないとね。こんな所で人生終えるなんてあんまりだし。それに……」
 同じ馬車から柱をつかんで身を乗り出す『焼滅の魔人』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)。
「見てみたいじゃない、老兵達の武勇をね」
「突っ込むッスよ!」
 レッドの声が響く。迫るゾンビたち。
 一部がこちらに振り返り、走り出す。
 だが、馬車を止めなどしない。
 それがお約束というやつなんだろうから。
「ロックンロールッ!!!!」

●ゾンビの殺し方? 轢け、撥ねろ、発破しろ!
 全力で走る老若男女の死体。ゾンビ。断裂した皮膚から赤黒い血を流し役目を失った眼球を垂らす走行死体。
 その全てを視界にとらえ、レッドはアクリルゴーグルを装着した。
 御者席から飛び、馬へと跨がる。
「蹴散らすっす、ハンス!」
 馬に鞭を打つと、鉄帝軍人御用達の暴れ馬は目を剥いてゾンビたちを撥ね飛ばした。
 レッド式馬上ショルダータックルである。
 ボーリングのピンよろしく吹き飛ばされていくゾンビたち。
 砕け散る肉体と飛び散る血肉。
 ゾンビというフィールドを馬によって掘削すれば、当然ゾンビに囲まれる。左右から跳躍するゾンビたち。
 Zによって強化された肉体は押さない子供や小太りな初老男性すらアスリートのごとき格闘能力を可能にした。その目的は眼前の生者を抹殺し、感染を拡大すること。
「そう思い通りにいくものか――!」
 自ら背に通した如意棍棒型霊力兵器から円形霊力刃を強力に放出。具足よりの霊力噴射による高速スピンで飛びかかるゾンビたちを回転のこぎりさながらに切断していくと、棍棒の霊力刃を一端直線上に変更展開。クロスランスモードに切り替え頭上より飛びかかるゾンビを突き刺した。
 突き刺し、反対側へ投げ飛ばす。
 飛びかかるゾンビにぶつかって落ち、ドミノ倒しになった所へフィーゼが魔弓・黒翼月姫に魔力の矢をつがえた。連続で発射。弓から放たれた矢が空気摩擦と空気中の魔力吸収によって鉄の槍さながらのサイズへ変化。ゾンビたちの胸や腹を貫き、地面へ強制的にピン留めしていく。
「後ろはどう?」
「心配ご無用デス!」
 ハンマーの腹を拳で叩くリュカシス。
 長い柄の中央を両手で掴み、頭上でぐるぐると高速回転させる。
 老人ゾンビがスプリンターのごとき豪快なダッシュで馬車に追いつき、走り幅跳びの要領で馬車に飛び乗ろうとしてくる。
 が、それをリュカシスは横からハンマーを叩き込むことでスマッシュ。
 上半身を粉砕し、下半身が回転しながら明後日の方向へ飛んでいく。
 返す刀ならぬ返すハンマーで更に飛び込んでくる別のゾンビを正面からゴルフスマッシュ。
 今度は上下くっついたまま縦回転し、ゾンビが群れの中へと跳ね返されていく。
 ちらりと振り返ると、もう一台の馬車でアクセルが魔砲を放射していた。
 まるで馬車に搭載された大砲である。
 進路上のゾンビを突き刺すように吹き払ったアクセルはスナミナ切れ覚悟で魔砲を連続発射。
「ゴーゴー! つきすすめー!」
 そんな馬車に左右から飛びかかる青年隊ゾンビ。
 両手を振りかざし掴みかかろうとする彼らへ、ボルカノとガーグムドが馬車両サイドに立って咆哮した。
 炎の吐息が馬車の左右へ翼の如く広がっていく。
「やはりブレスと言えばファイアブレスであるな!」
「気分最高であるな!」
「であるなあ!」
 振り返って豪快にハイタッチするガーグムドとボルカノ。
 なんだか気が合うようである。であるなあ!
「へえ、派手にやるじゃないか。俺も走らせがいあがあるってものだ――ね!」
 御者席から日本刀を引き抜き、這い上がってくるゾンビを右へ左へ切り払う。
 手首から先だけで必死に馬車にしがみつこうとするゾンビ(?)を蹴り落とすと、威降はベルトに刺していたポテトマッシャー(M24柄付手榴弾)を投擲。
 ゾンビの群れと老人ホームの壁を一緒に吹き飛ばすと、馬に鞭を打って加速させた。
「目的地に到着。『駐車』するね」
「「オーケーである!」」
 馬車に這い上がってきたゾンビをアッパーカットで吹き飛ばすガーグムド。
 同じく這い上がってきたゾンビの頭をアイアンクロウで握りつぶすボルカノ。
 アクセルがおまけの火炎瓶を放り投げ、馬車は老人ホームに駐車(強行突入)した。

●鉄帝軍人は生涯現役
 突っ込んだ馬車をそのままバリケードにして屋内へ転がり込んだガーグムドたち。
「もう馬車は使えないか。つまり……」
 むくりと起き上がり、燃えるような足で立ち上がり、『ひよこちゃん清掃代行社』のエプロンを装着すると……。
「自分の足で進めば問題は無い、ということであるな!」
 老人ホームの個室をがらりと開き、モップとバケツを手に取る。
「清掃員である! 本日は大掃除の日! 部屋から出ていただこう!」
「ナァーニィー!?」
 左右非対称のにらみをきかせて振り返るスキンヘッドの老軍人。
「大掃除(そうとうせん)じゃと!? こうしちゃおれん、ワシのMG42をもってこい!」
 ベッド脇にかけられた軍服を秒で着込むと、老軍人はハンガーをライフルのように構えた。
 至近距離に顔を近づけ大声で叫ぶ老軍人。軍服の胸には、『アーベル』。
「敵はどこじゃ! 貴様かァ!?」
「我ではない! 外だァ!」
 同じく至近距離で叫ぶガーグムド。

 一方。
「ミチコさんミチコさん。タンドリーチキンはまだかのう」
「はーい、ミチコさんだよー」
「おおミチコさん」
 ニコニコしながらサングラスじーちゃんの前に現われるアクセル。
「……貴様、まさか偽物? 西側のスパイではあるまいな」
「えっなんで!?」
「ミニスカートをはいておらん!」
 くっそ真面目に言う老人。襟の名札には『バルドゥィーン』とある。
「いやでもオイラ……」
「エッチなスリットが入ったミニスカートをはけないということは……やはり西側の」
「はきます! はくから! あとなんでハードルあげたの!?」
 恥じらいながらスカートをはくアクセル。
「ふむ……女装飛行種も乙だな」
「だましたァ!?」
 スカートをソッコー脱いで地面に叩き付けるアクセルであった。

 急いでベッドや棚を総動員してバリケードを厚くしていく威降。
「貴様、何をしている」
 ドスの利いた声と共に、後頭部に何かが押し当てられた。
 その瞬間まで気配を感じなかった。威降ですら、である。
「バリケードだよ。分かるよね?」
「敵襲だとでも? 貴様が西側のスパイでないとどう証明できる」
 トリガーらしきものに指をかける気配を察した威降は、素早く振り向き相手の腕を天井へと押し上げた、天井に向けて発射される殺虫スプレー。
 ドレッドヘアの老人はニヤリと笑って殺虫スプレー缶から手を離した。
 からんと音を立てて床をはねる。
「で、アンタは誰だね」
「夢見る何でも屋だよ。鉄帝軍人は老いて尚格好いいって夢を、さ」
「フ……」
 ニヤリと笑う老人。彼の服には『カール』という名前が刺繍されていた。
「おい、ダミアン! ダミアンいるか!」
 振り返ってさけぶカール。
 歩行器を掴んだままぷるぷるとやってくる白髪の老人ダミアン。
「ミチコさんがきたんか」
「威降は小さく笑って首を振った。おじいちゃん。再びその筋肉が輝く時が来ましたよ」
「……そうか。赤い星が、輝く時が」
 ダミアンはそう言うと、金属製の歩行器を握りつぶして拉げさせた。
「ならば、地獄までお供しましょう。師団長はいずこに」

「久しぶりね。以前、現役時代の武勇伝を聞かせてくれたでしょ?」
「なんだぁ? 俺の現役時代なんて聞いてどうする」
 金髪に黒い軍服をきた……外見年齢10歳前後の少女が白いベッドの上で膝を抱えて座っていた。
 フィーゼがちらりとネームプレートを見ると、『ハンナ・フォン・マントイフェル』と書いてあるのがわかる。年齢は122歳、とある。
 普通ではありえないが、フィーゼからすればそう珍しいことでもない。自分もある意味、同じようなものだ。第一、ハンナの目が、とてもではないが10年や20年でつくような枯れ方をしていなかった。
「実力も見せてくれるって言ったじゃない。今日は友人達も来てるのよ。外の暴徒相手に、見せてくれないかな?」
「友……暴徒……」
「そう。見せてくれる?」
「殺せばいいのか。全部」
「……うん」
 枯れきった目で振り返り、ハンナはポケットから黒い腕章を取り出した。刺繍がかすれてよく読めなかったが、頭のところにグロースドと書かれているのは認識できた。
「分かった。殺す。俺のワルサーを持ってこい。師団を招集しろ。殺してやる。望み通り。全員」
 フィーゼはハンナの異様な迫力に何かを感じたが、しかし追求はしなかった。
「うん。お願いね。銃をとってくる」

「おばあさま、ご無沙汰しております!」
「……ゲニ坊やかい?」
 人の良さそうな老婆が、安楽椅子にゆられながら編み物をしていた。
 服についたネームプレートには『ガブリエラ』と書いてある。
「ボクです、孫のリュカシスです!」
「リュカシ……ス……?」
 小首を傾げるガブリエラだが、リュカシスは勢いで行った。
「武器の取り扱いを教えてくださる約束、したでしょう。今日がその日! デス!」
「そう。そんな約束をしていたんだね」
「今こそ鉄帝軍人の卓越したスキルを若者に見せつける時。何卒ご教示願いたく!」
 手を取って熱心に言うリュカシスに、ガブリエラはこっくりと頷いた。
「ごめんなさいね。おばあちゃん、手榴弾の投げ方くらいしか教えられないけど」
「充分デス!」

「エッバおばあちゃん。ミチコですよー」
「あらーみちこさん」
 美しく口紅を塗ったおしとやかな老婆が、窓際で振り返る。
 強化ガラスには大量のゾンビが張り付きばんばんと叩いているが、まるで気にしてない様子だった。
 腰の後ろで手を組んでにっこり笑う汰磨羈。
「お散歩の時間ですよー」
「あら、もうそんな時間なの。時が経つのは早いわねえ」
「敵を倒しながらお散歩しましょうか」
「あら、敵を倒しながらなの。軍刀(サーベル)はあるかしら」
 おっとりと笑うエッバに、汰磨羈は本能的に身震いした。いつでも人を殺せる。そんな余裕に、どうしても見えたのだ。

 ゴリラとかわらない老婆、フィーネ。
 どこかの国の民族衣装を纏い、美しく装飾したフィーネはモノクロの写真をじっと見つめて、うっとり微笑んでいた。
「フィーネ殿! ローレットの、イレギュラーである! ゾンビが侵略してきたので! 友軍と合流して迎撃するのである!」
「なに……?」
 写真を手に持ったまま、目だけでボルカノの方を見るフィーネ。
「そのために! 武器庫で武装を整えて! ゼシュテリックに! まーべらすに! ゾンビを薙ぎ払うのである!」
「竜は」
「ぬ?」
「私の乗る竜は、あるか」
 困っていると、扉をがらりと開けてレッドが現われた。
 ボルカノの顔を両手ではさんでフィーネの方に向けるレッド。
「あるっす! これがそうっす!」
「えっ」
「『塊鬼将』ザーバ・ザンザがお前達の戦力を再び必要とする時が来たのだ! っす!
 今ここに南下作戦に逆らう幻想兵達、我ら鉄帝の敵が迫っている! っす!
 俺達の底力今こそ見せつけるとき!この窮地を脱して我が主力軍に合流する時だ! っす!!!!」
 まくし立てるように言うと、フィーネはゆっくりと立ち上がり、写真を懐へとしまった。
「いいだろう。竜をひけ、露払いくらいはしてやろう」
「っす!!!!!」
「え……」

●勝ち確
「えっ……?」
 ボルカノは、老婆フィーネを肩車していた。
「走れ! ティーガー!」
「ええええええええええええええ!!」
 フィーネのよく分からないがなぜか効く戦意高揚効果を受け、ボルカノは爆弾のごとき炎を吐いた。
 ゾンビがまとめて消し飛んでいく。
 そこへ、ハンナが冗談みたいに巨大な高射砲を担いで乱射。
 ゾンビが更にまとめて消し飛んでいく。
「それで、何千人殺せばいい」
「そこまで殺さなくていいわ」
 フィーゼは弓を構えると、矢を巨大な魔槍へと変化。混沌に循環する魔力を吸収して完成した槍を、魔力推進によって発射する。
 刀を抜いて突撃していく威降と、火炎瓶を振りかざして突撃するアクセル。
「おじいちゃん! 大丈夫? 怪我とかして――」
 アクセルが振り返ると、パンプアップしたダミアンが電柱を振り回してゾンビをまとめて薙ぎ払っていた。
 そこへ軍刀を手にバレエダンスを舞い踊るエッバがゾンビを冗談みたいにすぱすぱ切り裂いていく。
「楽しいお散歩ねえ」
「え!? あ、そ、そうっすね!」
 レッドは巻き添えをくわないように若干離れつつ、ついでに借りてきた軍刀でゾンビの首をはね飛ばした。
「貴様の実力を見せてみよ! 返り血は浴びるでないぞ!」
「無論!」
 ガトリングガンのような炎の連続パンチでゾンビをめこめこにしていくガーグムド。老軍人アーベルはその隣で本来地面において使う筈の機関銃を立ったまま乱射していく。
「お前達が手にしているモノはなんだ?
 鉄の肉だ! 鋼の血潮だ! ゾンビなど消し飛ばすゼシュテル魂だ!
 お前達は、あのゾンビ共に知らしめねばならぬ。この国で老いるまで生きてこれた事の意味を! 強さの意味を!」
 ゾンビを切り捨て、汰磨羈はぐるぐると棍棒を頭上で回した。
「行くぞ野郎共! ヒァウィーゴォ!」
「「ウオオオオオオオオ!!!!」」
 バルドゥイーンとカールがアサルトライフルを機械のように連射して的確にゾンビを蹴散らしていく。
「いきマス! グレネーーーーーード!!」
 リュカシスが手榴弾のピンを抜くと、ゾンビの群れへとぽんぽんぶっ放していく。
 こう投げるのよと非人間的精度と速度で手榴弾を投げていくガブリエラおばあちゃん。
 あれだけ大量にいたゾンビがまるで冗談のように殲滅され、イレギュラーズと老軍人たちは火薬と鉄と血肉の臭いを纏って悠々とメロメ村を脱出したのだった。
「ナイスガッツだ。さあ、次の戦場へ行くぞ!」
 アーベルが機関銃を持ち上げて勝ち鬨の声を上げる。
 後片付けが大変そうだなあと思ったが、そこは鉄帝軍人に任せておくイレギュラーズたちであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ゾンビどもは皆殺しだ! ハッハー!

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