PandoraPartyProject

シナリオ詳細

招かれざる酔客

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●泥酔の語源という説もある
 幻想の片隅。海洋寄りにミルゴの村はある。
 ありふれた田舎の村落だ。交易の要というわけでもない。
 ただ、この村のワインは少しばかり有名だった。それも幻想の貴族たちにというわけではなく、海洋の船乗りたちにという話だが。
 村人たちの住居をすべてあわせた面積より、ワインのための葡萄農園の面積の方が広い。そんなのどかで平和な村の、寒い冬の最中に事件は起こった。

 最初に気づいたのは村に住む子どもだった。
 深夜。なにか大きなものがズルズルと動くような音を夢うつつの中で聞いて、ぼんやりと目覚める。
 カーテンの向こう、窓の外になにかがいる気がした。
「誰……?」
 ベッドから抜け出してカーテンを捲る。なにもいなかった。
 そりゃあそうか、とちょっとがっかりしたような、納得したような気持ちになって、少年はぶるりと体を震わせる。
「さむっ!」
 慌ててベッドに戻り、ほっとしているうちに眠ってしまった。

 次に気づいたのはかくしゃくとした老婆だった。
 早朝六時。花に水やりをするために鼻歌交じりに外に出て、視界の端になにかが映った気がし、周囲を見回す。
「んん?」
 村の誰かなら、必ず「おはよう」と声をかけてくる。
 旅人だろうかと疑った。珍しいが、全く見かけないわけでもない。ときどきこの村のワインの噂を聞いたといって、やってくる者がいるのだ。
 例えば、そう。一昨日もきた。
 フードを目深にかぶった若い男で、数時間だけ村に滞在して夜遅くに出立したのだ。
「そういえばどうして村にきたんだろうねぇ」
 どうしても一瞬見えたなにかが気になって、きょろきょろとあたりを見回しながら老婆は考える。
 あの男はなんだったのだろう。ワインを買いつけにきた風でもなかった。ふらりと立ち寄って、村中を散策して、一泊もせずに出て行った、奇妙な客人。
 顔はよく見えなかった。決して見せようとはしなかった。
「……あ」
 老婆の思考はそこで断ち切られる。
 家と家の間から、のそりとそれが現れたのだ。
「あ、あ……」
 半透明のナメクジに似た生物。体長は一メートルといったところか。
 その姿は、この村で代々語り継がれている異形のそれに酷似していた。
 凶暴で、酒を好み、かつては村内すべての酒蔵を壊滅させたといわれている魔物。
 遠い祖先らが苦労して倒し、その亡骸は「大酒飲みの骸は酒をうまくするだろうから」とどこかの蔵の地下に埋められたといわれている、伝承上の生物。

「デイ……」

 する、老婆の手からじょうろが落ちる。
 デイの目のない顔が老婆の方を向く。
 甲高い声で老婆は叫んだ。

「デイだ! デイが出た! 酒蔵に鍵をかけな! 一滴たりとも飲ませるんじゃないよ!」

●美味なる酒を求めて
「ミルゴ村の地下深くに埋められていた魔物の死体が復活して、村に居座っているのです!」
 赤い丸をつけた地図を広げ、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が依頼の内容を端的に説明する。
「ナメクジっぽい半透明の生き物なのです。お酒が大好きなのです」
「ミルゴって、ワインの産地じゃなかったか?」
 その場にいたイレギュラーズのひとりが頬を引きつらせる。ユリーカが困ったように頷いた。
「そうなのです。お酒を飲ませると強くなるといわれているそうなのです」
「村人の避難は?」
「完了しているのです。ナメクジ……デイは、酒蔵を襲っているそうなのです」
「まずいじゃないか!」
「まずいのです」
 ローレットに連絡が入るまでに間があったのは、村人たちが避難に手間取ったためだった。
 初めて見るデイの姿に腰を抜かしたり、酒気を帯びていたためにデイに追い回されるものがいたりと、とにかく大変だったのだ。
 ひと段落したところで、ようやく村人のひとりがローレットへの討伐依頼を提案した。
「でもどうして、死体が復活したんだ?」
「酒蔵の床に落ちた酒が少しずつ地面に染みこんで、死体がそれを吸収して、とか?」
「理由はどうあれ、生き返っても出てこられないように封印されていたそうなのです」
「……つまり」
 誰かが封印そのものを破った。
 地中で分解されていなかった死体を再生するのにも一役買ったかもしれない。
「犯人についての調査はこちらで進めておくのです。怪しい客人の姿があったという話もあったのです。とにかく皆さんはデイを退治してほしいのです!」

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 酒は飲んでも飲まれるな。

●目標
 デイの討伐。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 現場に到着するのは昼頃です。

 ミルゴ村内。
 ワインを主に作っているが、現在は米や麦を原料とした酒類の研究開発にも力を注いでいる。
 村民たちは避難ずみ。

 素朴な一軒家がぽつぽつと並び、ワインの原料となる葡萄の農園や醸造のための大きな蔵の姿も散見される。
 村人たちは酒蔵にはしっかりと鍵をかけてきたが、村に散らばるデイたちは扉や壁を壊して中に入ろうとしている。
 それほど広い村ではないため、1つの酒蔵に数匹のデイが群がっていることもある。

●敵
 体長1メートルほどのナメクジに似た半透明の生き物。この村では「デイ」と呼ばれる。
 最大の特徴は口のような器官から放たれる霧状の息。これを受けると酔っぱらったようになってしまう。(BS:泥酔)
 ぶにょぶにょした体は高い防御力を誇る。
 あらゆる酒を非常に好む魔物。どのように酒の気配を察知しているのかは不明だが、なにせ酒にはものすごく反応する。
 また、酒を飲むと強くなる。

・デイ×12体
泥酔息:物近単【泥酔】
泥酔大息:物遠範【泥酔】【反動】(各個体1回ずつ)
自己再生:物自単(わずかに治癒)
体当たり:物至単
巻きつき:物至単
超音波:物遠単

●他
 プレイングにはぜひ「泥酔したらどうなるか」もご記載ください。
 泣き上戸に笑い上戸、熟睡、バーサーカー、デイに対して絡み酒。いろいろあるかと思います。
 お酒に強い体質の方や毒素の分解が早いギフト等をお持ちの方は泥酔に対してボーナスが入るかもしれません。
 翌日はみなさま揃って二日酔い(のような症状)になる可能性があります。

 以上、みなさまのご参加お待ちしています。よろしくお願いします!

  • 招かれざる酔客完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月14日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ヴィマラ(p3p005079)
ラスト・スカベンジャー
カナデ・ノイエステラ・キサラギ(p3p006915)
帰ってきたベテラン

リプレイ

●酔っ払いたちの戦い
 ミルゴ村に到着したイレギュラーズは、避難していた村人たちに四つのものを用意してもらった。
 ひとつはデイを呼び寄せるための安酒。もうひとつは酒気を避けるためのマスク。三つめはマッチ。
 そして三つめは、『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)が酒蔵や貯蔵されている酒の種類を記した地図を作るための、村内の情報だ。
「できました!」
 四人ずつの二組に分かれたイレギュラーズは、それぞれノースポールが作成した地図を持って村に入った。

「ここから一番近いデイの場所を教えてくれないかな?」
 実体を持たない精霊に『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)は穏やかな声で願う。
「対価は……、お酒をお供えしようと思うが、どうかな?」
 迷っている様子だった精霊たちが、一気に協力態勢になるのが分かった。酒の村の精霊たちだ、酒を嫌うはずはない。
 微かに笑み、行人はさらに注文を追加する。
「あと、デイが近づいてきたら教えてほしいな。ブドウ農園にデイが向かっているならそれも」
「どうでしょうか?」
 地図を行人に渡したノースポールが心配そうに問う。両手で地図を広げた行人は顎を引いた。
「いいよって」
「助かるわぁ」
 おっとりと『宵越しのパンドラは持たない』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が微笑む。
「敵をおびき寄せる策はあるわ。精霊、場所は感知できたかしら?」
 白銀の大型犬を側に座らせた『不屈の紫銀』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)の問いに、行人は地図に目をやる。
 ここからすぐ近く、酒蔵と民家のちょうど中間ほどの位置に小さな波紋が生じ、消えた。
「向こうだね。酒蔵に向かってるようだよ」
「じゃあ、こっちに引き寄せるわよ」
 言うが早いか、ルーミニスは村人からもらった白ワイン入りの小瓶を一本、素早く開封する。
 そして、間髪いれずに自身の犬にかけた。
「えっ」
「え……?」
「あらぁ」
 仲間たちは突然のことにそれぞれ驚き、当の犬は唖然とする。ルーミニスは堂々と命令を放った。
「いつものアレよ。行きなさい」
「ワ……」
 我に返った犬が命令を理解し、心の底から嫌そうな顔をする。
「酒蔵に向かわれたら厄介じゃない」
「ワウゥ」
 次会ったら覚えていろと言いたそうな唸り声を残し、勇敢な大型犬は行人が示していた方角へ走り出した。
「よかったのでしょうか!?」
「大丈夫よ。それより戦闘準備!」
「ふふ、きたわねぇ」
「まずは……二体」
 行人は地図を収め、代わりに魔刀を抜く。
 地を素早く這いずる音に追われながら、ルーミニスの大型犬が姿を現した。巨大なナメクジに似た半透明の魔物、デイに食われる寸前に、消滅する。
「他のデイが近づいてきたら、教えてね」
 精霊に頼み、行人は唐突に消えた酒の気配に戸惑うデイに斬撃を飛ばした。

「いたぞ」
 非常に優れた聴覚を生かし、『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)がデイの移動音を聞きとる。
「お、向こうは始まったみてーだぞ」
 カラスとハイテレパスを駆使した報告をアーリアから受けた『ラスト・スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)は、うずうずと体を揺らす。
「デイの行き先は?」
 白ワインを服に少し染みこませ、ついでにひと口飲んだ『夜刀一閃』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)に、義弘がノースポールお手製の地図と方角を見比べて応じた。
「酒蔵だな」
「到着されると厄介ね」
 美貌に憂いの色をのせた『特異運命座標』カナデ・ノイエステラ・キサラギ(p3p006915)に頷き、義弘は地図を畳んだ。
「今なら後ろから殴れそうだしな」
「よっしゃ、行くぞー!」
 ずるずると這う音を追って四人は進む。数分もしないうちに二体の半透明のナメクジに似た魔物が見えた。
 近づく酒の匂いに反応した二体が振り返る。そのころにはもう、四人は先制攻撃に移っていた。
「食らえ!」
「挨拶代わりにお花をあげちゃうぜ! イエー!」
 自律自走式の爆弾をクロバが放ち、ヴィマラがエレキギターを掻き鳴らして霧を生む。
 爆音と霧がやむか否かのタイミングで義弘がその渦中に突っこんだ。
「ッラァ!」
 暴風域を作り上げるのは刃でも棒でもなく、鍛え抜かれたその肉体、その拳だ。半透明のぶにょぶにょした体に、鉄拳がめりこむ。
「その心、絶望に染まれ……!」
 一瞬だけ帯状の鮮烈な光に包まれたカナデは、次の瞬間、ビキニアーマー姿のニンジャ、すなわちビキニンジャに変身していた。
 蠱惑的なウィンクをひとつ。なにかの血のような染みのついた杖を、霧と煙が晴れ始めた地点に向ける。
「マ、ギ、シュート!」
 遠距離術式が発動、攻撃を受けたデイの体がぶるぶると震えた。
 接敵前にぬかりなく保護結界を張っていたクロバが、黒刀を二体のデイに向ける。
「この酒が欲しいか? オレごと飲んでみろ」
「オオオオオ!」
 挑発に対しデイは耳障りな咆哮を上げ、クロバを強襲。ぶわりと霧状の息を吐きかけた。
「酒くせぇ!」
 悪酔いに似た不快感を押し殺し、クロバはデイ二体だけがうまく範囲に入るよう、威力を考慮して爆弾を投げる。
「オオオ!」
「寝てろ」
 こぶしを固めた義弘が苦しむデイの側で地面が沈みそうなほど強く踏みこみ、突撃した。
 一メートルに及ぶ巨大なナメクジを二体まとめて薙ぎ倒す。起き上がろうとした一体のデイの頭部を叩き割る勢いで殴った。暴れるデイの反撃を、しかし義弘はものともしない。
「ヒュウ! ロックだなァ!」
「狙い撃つ!」
 ヴィマラが囃し立て、カナデはデイの腹部を遠距離術式で打ち据えた。

「うむうむ、次はあちらとな。よい子じゃのう精霊らよ」
「……とりあえず行ってきなさい」
「ウゥ」
「いたっ!?」
 べし、とルーミニスのすねを前足で叩き、酒をかけられた二匹目の犬が走り出す。
「伏見さんのこの状態は、治るのでしょうか……?」
「だいぶ雰囲気違うわよ」
「大丈夫じゃないかしらぁ?」
「儂か? カッカッカ、この通りピンピンしておるわ!」
 デイの霧状の息を受けて以来、行人の口調と様子が初めと異なっているのだが、元気であることに変わりはなさそうだった。精霊たちとの意思疎通も問題なくこなしている。
「ワウ!」
「釣れたわね」
「行くわよぉ」
 近くの酒蔵を襲おうとしていた二体のデイを、ルーミニスの大型犬が引き寄せてきた。アーリアが間合いをはかる。ノースポールが保護結界を張りなおした。
「ごめんなさいねぇ」
 飼い主の許可は得ているとはいえ、申しわけなく思いながらアーリアは指先を唇にあて、投げキスをする。
 見惚れるほど美しい赤い花吹雪が放たれ、犬ごとデイを襲って消えた。
「どこを向いておる、なめくじら!」
「オオオ!」
 酔っていても行人の剣技は冴えている。
「ほーら、ここにもお酒がいっぱいあるよ!」
「あるわよぉ」
 声を張ったノースポールの後ろで、アーリアが開封した赤ワイン入りの小瓶を開ける。
「オオオ!」
「ふふー、あげないわよぉ?」
 突進してくるナメクジに怯えもせず、アーリアは堂々と赤いワインを飲み干した。美しい髪が先の方から徐々に赤く色づいていく。
「オオオ!」
「ハッ!」
 悔しそうに身をよじるデイの腹に行人が音速に等しい速度で斬りこむ。
「土の下で寝てなさい!」
 ルーミニスの己の限界を超える一撃は、衝撃波となって二体のデイを貫いた。
「オオオ!」
「だぁめよぉ」
「げほっ」
 デイが例の息を吐く。
 どうやらノースポールは酔わせるとまずいらしい、と聞いていたアーリアは、彼女とすっと位置を変わった。そもそも日ごろからだいたい酔っているのだ、今さら酒臭い息で酔わされてもどうということはない。
 もう一体のデイに息を吐きかけられたルーミニスは、濃すぎるアルコールの匂いにむせた。
「こんなんじゃまだまだ足りないわよぉ、もっとお酒ちょうだぁい!」
「ハハッ! 今度こそおいしいお酒のために地面の下でおとなしく寝てなさいな! めりこめ!」
「カッカッカ! 生きのいいなめくじじゃのぅ!」
「ひえぇ、ぬるぬるするぅ……!」
 仲間たちの状況を案じつつもデイを殴ったノースポールは、何度経験しても慣れそうにない独特の感触に顔をしかめた。

 酒蔵に群がっていた三体のデイが、近づいてくる酒の匂いに反応して頭と思われる部分をめぐらせる。
「食らいなさい!」
「オオオ!」
 クロバの保護結界で酒蔵が守られたことを確認してから、カナデが無数の魔力弾をデイたちに放つ。弾幕が途切れると同時に、義弘が敵の群れに突撃した。
「退け」
 デイの一体に全身のばねを生かしたアッパーカットを叩きこむ。
「お仲間だぜアクターズ! ジュルジュル絡んでいきな!」
 吹き飛んだデイにヴィマラが召喚した半透明のジェル状の塊がまとわりついた。
 保護結界で酒蔵を守ったクロバにデイが巻きつき、酒臭い息を吹きかける。さらに別のデイが大きく空気を吸いこんだ。
 ぶわ、と最後尾にいるカナデにまで届く、濃厚な酒気を帯びた吐息。しかしこれまでの人生から酒に慣れており、かつ鼻と口を布で隠したビキニンジャはこの程度で酔わない。
「ヒャッハー!」
 一方でエレキギターから地獄めいた音を出したヴィマラのテンションは、最高潮に達した。
「神も匙を投げるレベルの、史上最高の地獄を見せてやるぜ、野郎ども!」
 泥酔し暴走行動に走り、出入りを禁じられた店は数知れず。しかしその記憶すら吹き飛んでいるヴィマラに、怖いものはない。
「お酒飲みてー!」
 掻き鳴らされる音と独特の踊りが一条の暗い光となり、射出される。半透明のジェル状の塊に苦戦するデイに直撃した。
「オオオ!」
「うっせぇな! あぁ、これ耳鳴りだ!」
 締め上げてくるデイをクロバはカウンターの要領で地面に叩きつける。デイの声、死霊の絶叫、鳴り響くでたらめな演奏、耳鳴り。もうどれがうるさいのかとっさに判断できない。
 とはいえ体が戦い方を忘れることはなく、デイの力が緩くなったところで脱し、さらに一撃を食らわせた。
「酒の飲み方なら俺たちの方が上等だな」
 少し眠気を感じ始めている義弘が衝撃波を帯びるほど鋭い拳を放つ。
「あっちもやってんねぇ! イェェェイ!」
 カラスを通しアーリアから報告を受け、ヴィマラが叫んだ。同時に解放された、彼女の体の内に宿る死霊たちも呪詛交じりの大声を放つ。
「収拾つくのかしら、これ」
 一抹の不安を抱きながらも、カナデは的確にマギシュートを打ちこんだ。
「ぬるぬるベタベタしやがって!」
 デイたちを引きつけているクロバがナメクジの胴を斬りつける。あくびをかみ殺した義弘の拳は、デイの体に穴が開きそうなほど強烈だった。
「オオオ!」
「打ち砕け!」
 瀕死のデイにカナデの遠距離術式が炸裂する。半透明のナメクジに似た魔物が一体、倒れた。

 吐きかけられた息をノースポールは飛翔してかわす。
「お酒が好きみたいだけれど……。飲んだくれのお酒魔術はお好きかしらぁ?」
「オオオ!」
 ヘビの形を成した怨嗟がアーリアの持つ瓶から這い出し、デイに絡みつく。
「ハハハハ!」
 哄笑とともにルーミニスが衝撃波を放つ。限界突破の一撃による反動は気にしなかった。
「はぁっ!」
 空中で一回転したノースポールが白雪の翼を畳み落下、デイを踏みつけさらに別のデイを蹴り上げる。
「もう仕舞かのう!?」
 旋風のようにデイを蹴り殴っていたノースポールが退くと同時に、行人が目にもとまらぬ剣捌きで半透明の体を切り裂く。
 現状、家屋はもちろんのこと、酒蔵やブドウ畑も無事だ。全員無傷というわけではないが、善戦しているといっていいだろう。

「立てる?」
 道の真ん中に仰向けで寝転がっていたヴィマラは、降り注いだ声にぱちりと目を開ける。
「もっちろん」
「そう。よかった」
 差し出されていたカナデの手をしっかり握り、ヴィマラはニッと笑って体を起こした。
 視界の端でそれを確認したクロバは、視線で義弘にデイの位置を問う。
「右に一体、左側にも一体だ」
「おびき寄せるか。カナデ、酒はあるか?」
「幻想の店で買った、日常飲み用のやつならまだあるわよ」
「ああ、むしろそれでいい」
 カナデから酒の小瓶を受けとったクロバは、封を切って中身を地面に撒いた。風が酒の匂いを運んでいく。
「寄ってきたぞ」
「きたきたァ!」
 ヴィマラが武器を構え、カナデはいつでもエーテルガトリングを撃てるよう、準備を整えた。義弘も拳を固める。
 保護結界を張りなおし、クロバは点火したマッチ棒を酒に落とす。酒豪が日常飲み用としているだけあって、度数の高かった酒は燃えた。
「なるほどね」
「オオオ!」
 目の前でアルコールを飛ばされたデイが怒りに吼える。左右からの突進を四人は回避。カナデが杖を振って無数の魔力弾を幕状に射出する。
「ナメクジに飲ませる酒はない」
「オオオ!」
 ただ染みが残っただけの地面を踏み荒らし、デイがクロバに殺到した。

 デイの完全討伐を確認してから、八人はある蔵の前で集合することにした。
「立派な蔵ねぇ」
 目を細めてアーリアが見上げるのは、デイが封印されていた蔵だ。
「扉はデイが壊したのか」
 木片に変わった大扉の欠片をクロバが拾う。
「だだっ広いだけで、なんにもねぇなぁ?」
 臆せず中に入ったヴィマラは、薄暗い蔵内をざっと見回した。
「デイが封印されていたのはこのあたりか」
「穴、深そうですね」
 箱ひとつない蔵内の、ちょうど真ん中あたりに大きな穴が開いている。義弘とノースポールが、黒々とした穴を覗きこんだ。
「数日前に妙な男がきて、封印を破ってしまったそうだよ」
 出入り口近くで、行人は精霊に教えてもらったことを報告する。戦闘を終え、移動する最中にそれぞれ酔いに似た異変は解消していた。
 ただなんとなく、明日は二日酔いになるのだろうな、という予感がある。
「これが封印の残骸みたいね」
「絵……、みたいだけど、なんの絵よ、これ」
 土に埋もれていた紙片をカナデがつまんだ。破れた紙の一部であるそれが、封印の役目を果たしていたことは間違いないだろう。
「ここは元々、酒蔵で、デイを封印した際に中のものを撤去した。以来、村の酒をおいしくする、一種の守り神様みたいな感じで、デイは封じられていた、と」
「あのナメクジがねぇ」
 行人を通して精霊が教えてくれた情報に、ルーミニスが胡乱な目になった。
「ひとまず絵を探して持ち帰り、再封印をお願いしましょうか」
「また封印が破られる危険もあるが」
「一種の守り神と言われるとな」
 心配そうなノースポールの提案に、義弘とクロバが少し苦い顔をする。
 デイの死体を村から排した方がいい、ということは全員が分かっていた。しかし、村人にとってそれが最善とは限らない。
「今度はもっと厳重にしてもらえばいいわ」
「専門家を使ってな」
 一枚目の紙片をカナデが丁寧に折り、ヴィマラは肩をすくめて紙片探しに加わる。
「絵を探したら酒盛りねぇ」
「は?」
 聞き返したクロバに、アーリアは満面の笑みを浮かべた。
「ここのワインは絶品なのよぉ」

●乾杯!
 村内で一番広い道に、次々と酒樽や料理が運びこまれる。村人たちはデイの討伐を記念して、大宴会を開いていた。
 その片隅で小さめのジョッキを手に、ノースポールは固まっている。
 注いでもらったワインはおよそ三口分。
「気に病むでないぞ、のぉすぽぉる」
「伏見さん」
 いつの間にか傍からいなくなっていた仲間のひとりに声をかけられ、ノースポールは肩の力を少し抜く。
「呑めずとも、ソレ以外にも楽しみはいーっぱいあるんじゃ。無理に呑むこたぁない」
「……はい。ありがとうございます」
「伏見さーん! 新しいの開けましたよー!」
「おお、おお! 儂は飯(まま)ほど呑むぞ! ではな、のぉすぽぉる」
 ひらりと手を振って伏見は村人たちの方に向かう。
 酔っぱらっていた仲間の背を見送り、ノースポールは再び酒に視線を落とした。
「……でも」
 ひと口くらいなら。
「うぐぅ」
 飲んだ直後、視界が回った。おいしい、と思った気もするが、一瞬で感想が飛んだので定かではない。
「おっと」
「あらぁ、無理はだめよぉ、ポーちゃん」
「カナデさん……アーリアさん……」
 ふらついたノースポールを片腕ずつで支えたカナデとアーリアは、大男用かと思うほど巨大なジョッキを持っていた。
「私は……ギブ……です」
「あらぁ」
「あっちで休ませる?」
「そうねぇ」
 ぱたりと気を失ったノースポールを、二人の酒豪は木陰まで運んだ。
 その様子を視界の端に収めながら、義弘は村人たちから新しい酒について聞いていた。
「米と麦か。俺の故郷にもあったな」
「本当かい? まだ完成してないんだが、よかったら味見してくれねぇか?」
「ああ」
「話は聞かせてもらったわ」
「そのお酒、こっちにもちょうだぁい」
「どういう聴覚してやがる……。あっちに移動してもいいか?」
 ノースポールの頭を膝にのせたカナデと、空になったジョッキを振るアーリアを見て、義弘は呆れ半分、感心半分の表情を浮かべた。
「祭りはこれからだぜ! ロックンロール!」
「よいぞー! いえーい!」
 空いた酒樽にヴィマラが仁王立ちになり、エレキギターを掻き鳴らす。村人たちに混じって行人が酒杯を掲げ、絶賛した。叫んで跳んでの大騒ぎだ。
 騒々しい宴会を少し離れた位置から見つつ、クロバはゆったりとワインを飲んでいた。なるほど悪くない味だ。
 先ほどまで入れ代わり立ち代わりで村人たちが酒を片手にきていたが、今は落ち着いている。
「ほらほらもっと飲みなさいよ~!」
「あぁ!? 自分のペースで飲ませろ!?」
 なみなみとクロバのジョッキにワインを注いだルーミニスが、笑いながら隣に座った。
「どうせ明日は二日酔いよ! じゃんじゃん飲みなさい!」
「自分のペースで飲んで……はぁ」
 ヴィマラの演奏は最高潮、行人のあいの手に村人たちの雄叫びじみた声が重なる。ノースポールは熟睡し、カナデとアーリアは酒蔵を潰しそうな勢いで飲んでいた。義弘は真剣に村人と話しこんでいる。
「悪くない……か……」
「あれ? 寝てる?」
「寝てない」
「いや今絶対寝てたでしょ」
「寝てない。ほら飲め」
「酒場で三十杯くらい飲んだアタシに挑戦しようってのね。いいわ!」
 そうじゃないのだが、もうそれでもいい気がして、クロバはジョッキに口をつけた。

成否

成功

MVP

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

デイは無事に討伐、死体は再び蔵に埋められ、派遣された術者たちの手で封印されました。
犯人もじきに捕らえられるかと思います。
……抵抗された際にはイレギュラーズの皆様の出動をお願いするかもしれませんが。

ミルゴ村では引き続き、米や麦を使った酒の研究開発が進められています。
もちろんワインも真心こめて生産中です。ぜひまた飲みに行ってください。

お疲れさまでした。
お酒は楽しく、ほどほどに飲みましょう!

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