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シナリオ詳細

Killing Dolls

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●回る、回る
 くるくる、くるくる。

 歯車は止まらない。

 くるくる、くるくる。

 少女たちもまた、止まらない。──止まれない。


●Killing Dolls
「皆さん、大変なのです!」
 飛び込んできた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は肩で息をしながらイレギュラーズを見渡した。
「依頼人さんが血で真っ赤に……じゃないのです、依頼なのです!」
 アワアワとしたユリーカの様子に1人が水を渡せば、それをゴクゴクと飲みほしてひと息。それを見つめるイレギュラーズたちの視線にユリーカははっと我に返る。
「ご、ごめんなさいなのです。ちゃんと順を追って説明しますね。
 依頼人の方は人形師なのです。小さなお人形からボクたちみたいな大きさまで、沢山のお人形を作る人でした。その人は町の人たちをモンスターの脅威から守るために、4体のお人形を作ったのです」
 依頼人が丹精込めて作った自立型戦闘人形。パーツは頑丈に、かつ動きの妨げがないように。視界センサーはエネミーを素早く認識し、その息の根を止める最速の手段を取れるように。
 何を命じられたからでもなく、依頼人の思いによってつくられた人形たちはつい先日完成した。本日はちょうど、人形たちの稼働実験を行っていたそうだ。
「人形たちはモンスターを認識して、依頼人の望み通り倒してみせたのです。そこまでは良かったのですが……」
 ユリーカが言葉を濁す。それは起こるべきでないことが起こったのだろうと、イレギュラーズたちへ伝えるのに十分だった。
「止まらなかったのです。モンスターを倒しても、人形たちは次の獲物を探しました」
 足元には動かなくなったモンスターの死骸。それを離れて見る──依頼人。あとは各々の想像する通りだ。
「勿論、緊急停止装置は用意してあったのです。おかげで依頼人さんは腕1本と引き換えに、命からがら町へ戻って来れました」
 人形師は医者の元へ運ばれる間、ずっと「ローレットへ」と叫んでいた。そこへ偶々ユリーカが通りがかったのである。
 未だ人形は町の外。緊急停止装置は作動したが、望んだ働きではなかったそうだ。
「あの子たちはまた動き出す、って言ってました。急がないと町に来る人たちが被害を受けてしまうのです! どうか……お人形たちを止めてください!」

GMコメント

●成功条件
 自立型戦闘人形4体の破壊

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●敵
 魔物が憑りついたのか、内蔵されたプログラムがいかれたのかは不明です。しかし一刻も早い破壊が求められます。
 4体は総じて表情を変える事は無く、言葉に応答することもありません。

『ハート』
 10歳程度の外見をした幼女。怒りの形相を浮かべている。
 両腕とも途中から鎌のようになっている。
 物理攻撃力、回避に優れる。防御技術はやや低め。

『ダイヤ』
 10代後半を思わせる少女。貼り付けたような笑顔を浮かべている。
 両腕の途中からそれぞれハンマーが生えている。
 物理攻撃力がとても高いが、反応と回避は低め。

『クローバー』
 10代前半を思わせる少女。べそをかいた顔。
 外見は完全に人間だが、両手の指先が銃口になっている。
 EXAと命中に優れるが、他の人形に比べて物理攻撃力は低め。

『スペード』
 20代前半ほどの女。穏やかな笑みを浮かべている。
 背は他の人形より頭1つ飛びぬけており、籠手を着けている。
 反応とHPに優れ、特殊抵抗がやや低め。

●ロケーション
 町のすぐ外に広がる草原です。時間帯は昼。見晴らしは良く、隠れる場所もありません。
 イレギュラーズ到着時にちょうど動き出しますが、向かう時間を遅らせる場合はその限りではありません。
 周囲にモンスターの気配はありません。

●ご挨拶
 愁です。
 人形たちは互いとの意思疎通もしませんが、素早く臨機応変に対応するため連携しているように見える可能性はあります。いずれも、戦う際は十分にお気を付けください。
 ご縁がございましたらよろしくお願い致します。

  • Killing Dolls完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月19日 21時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
アミ―リア(p3p001474)
「冒険者」
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
フィーゼ・クロイツ(p3p004320)
穿天の魔槍姫
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)
水葬の誘い手

リプレイ

●進むは迷わず
「現場にさっさと直行していこウ」
「ええ。下手に時間をかけて間に合いませんでしたでは、信頼問題に関わるからね」
 『水葬の誘い手』イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)と『焼滅の魔人』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)の言葉に仲間たちからの否やはなく。彼らはすぐさま町の外へ走り出していた。向かうのはすぐ外に広がる草原。そこに件の人形たちがいる。
「想定の通りに稼働するのであれば、とても役に立つものなのでしょうけど……」
 『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は自らも経験があるのか、視線を駆ける足元へと落とした。
(魔法具も然り……)
「……完成に至るまでには危険な失敗が多いものですね」
 人形師が起こした失敗の代償が腕1本、というのは果たして不幸中の幸いと言えるのか。それは依頼人と話してみなければわからぬことだろう。
 リースリットの言葉に『夢見る狐子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は眉尻を下げた。
「でも、町の人たちを守りたいっていう願いと熱意が……こんな形になっちゃうなんて」
 『危険な失敗が多い』というのは事実の1つだろう。けれど、誰だって成功させたい思いはあって──失敗し、人形たちを壊さなければいけなくなった人形師の悲しみは如何ほどか。人形師の思いから外れてしまった、みなしごな人形たちも悲しみを感じているかもしれない。
「……にしたって、ナンデ一気に4体も動かしチャッタんだろうね」
 時折調子はずれな口調の混じる『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)は肩を竦める。ガスマスクで顔は見えぬものの、その言葉に含まれた色からは呆れの感情が表れていた。
 最初から思い通りの動きをすることなど殆どない。そんな状態の人形を4体も同時に動かしてしまえば何が起こるか──予測はできなくとも、何か起こるかもしれないという予想はできたはずだ。
「何事も予測しないコトはあるものだからネ。そのために緊急停止装置を作っておいたのだろうサ」
 その装置のおかげでこうしてイレギュラーズが向かう時間稼ぎができ、被害の拡大を防ぐことができているのだ──その思いと同時に、イーフォはその人形たちが作られた理由を思い出す。
(町の人たちのモンスター対策もここまできたのカ)
 幻想に降りかかった脅威と、それを跳ね除けて道を切り開くイレギュラーズ。その姿を見たためか、幻想の住民が自分たちで町や村を守ろうという姿勢が散見されるようになっている。今回はアクシデントに見舞われたが、幻想国全体で見ればほんの小さな出来事。そのうちイーフォたち──イレギュラーズよりも強い者が表れる可能性だってあるだろう。
 広がる緑、風に草がざわめく──その中に人影が4つ。彫像のように固まっているかと思われたそれは、イレギュラーズが到着したと同時にギギ、と動き出した。それはぎこちなさをすぐに捨て、滑らかな動きでイレギュラーズへ向かってくる。その姿が少女から女性──どれも女であることに『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は信念の鎧を纏いながら目を細めた。
(戦う為だけの人形をこの様な外見に作るとは、依頼者の人形師の方も中々に業が深いですね)
 戦闘に特化させるというのなら女でなくとも──言ってしまえば人型である必要すらない。それでも人形師が女型の人形を作ったのは『戦う為だけではない』ということだろうか。
 ここにその問いへ答えを持つ者はいないが──。
「どちらにしても、これを以って最後の戦いとさせて頂くのです」
 言葉とほぼ同時。イレギュラーズたちもまた、人形たちへと動き出した。


●人形たちのラストダンス
 先手を取ったのは僅かの差で4人のイレギュラーズ。元々反応力に優れた面々が多かったが、彼らはほぼ同時に動き出して各自の決めた相手へ対峙した。
 ヘイゼルは穏やかな笑みを浮かべた女性人形──スペードと対峙し、躱させる間もなくその手で人形と接触する。瞬間、1人と1体を赤い糸が結んだ。にこり、とスペードへ向かって笑みを浮かべる。
「はてさて、その笑顔は何時迄保てるのでせうか?」
 挑発するような視線と、注意を向けさせる魔力糸。簡単に引きつけられたスペードの1撃をヘイゼルはひらりと躱してみせた。
 『「冒険者」』アミーリア(p3p001474)は幼女の姿をした人形と向き合いながら、素早く視線を周囲へ走らせた。どうやら無事、1対1で押さえ込めたらしい。もしこのプランで抑えられなくなるならばヒィロへ声をかけるつもりだったが──今のところは、その必要もなさそうだ。
 視線を正面へ戻せば人形がこちらを見ながら鎌を構えている。どうやら彼女は自分と変わらない年頃で作られたらしい。ただしビックリするくらい怖い怒り顔で、ぺったんだが。何とは言わない。
 そんな彼女、ハートに張り付いているのがアミーリアの役割である。長剣を構え、彼女もまたハートを見据えた。彼女らを視界に収めながら、リースリットもまたクローバーと呼ばれる泣き顔人形と対峙する。
(依頼人が片腕を失った、と言っていましたが……恐らくあの鎌の個体ですか。よく片腕で済んだと言うべきか──)
 視線を滑らせたリースリットはハートの傍らに血まみれのナニカを見てそっと目を逸らした。嗚呼、あれはきっと。
 けれども今、それを気にしている場合ではない。リースリットがすべきはクローバーを後ろへ通さないこと。そしてかの人形を破壊することだ。
(射撃ならば、あまり進路を遮っても意味がなさそうですね)
 ならば初手から全力で。リースリットは地を蹴り、魔術と格闘を織り交ぜた技を放った。
 一方、ヒィロはリジェネートをかけながら残っていたダイヤと相対する。彼女は大装甲を纏いながら武器は構えず、防御へ意識を向けながらダイヤの進路を妨害した。
(ボクには敵を倒せる力強さは無いけど、その分気合と根性と耐える力で粘り強く戦って、どんな強敵相手でも絶対に引かない! 怯まない! 行かせない!)
 その思いは仲間を守り──そして、これ以上の悲しみを生まないために。
「狂ったとは言え、敵を倒すという目的を果たしている人形には悪いが──これ以上被害を出す前にここで止まって貰おう」
 人形たちとの中距離に立った『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)は自らへ祝福を贈り、その親和性を高めて彼らへ対峙する。戦いとはただ傷つけ、傷つけられるだけではない。守り、癒すことも戦いであり──皆が無事で帰るために、ポテトはその戦いへ身を投じるのだ。
 4体とも仲間が接触したのをみて中後衛の3名が動き出す。最初に仕留めるのはリースリットが対峙しているクローバー。フィーゼは自らへスイッチマニューバをかけながらにやりと笑みを浮かべた。
「どんな要因で暴走したのかは分からないけど、こっちとしては好都合ね」
 フィーゼの手に闇が形どったような、魔力で形成する漆黒の槍が現れる。
 混沌肯定『レベル1』により、フィーゼの力は大半を失った。試行錯誤し、術式の再構成によってようやく失った力の一端を取り戻すことが叶ったのだ。けれど以前と同じだけの威力が出るかは定かでない──故に、この依頼を通して実験をする。
 投擲される黒き槍に続き、クローバーの足元から土塊がぐわりと持ち上がった。大海の色を宿す瞳が人形を見つめ、その唇が薄く開く。
「──きれいさっぱり、徹底的に破壊して差し上げようじゃないカ」
 クローバーは殴りつけられ、その勢いに倒れかけながらも受け身を取って立ち上がる。その左胸に突如として穴が開いた。クローバーは一瞬だけ動きを止め、後ろを見遣る。
 草原の中、ガスマスクが異様な雰囲気を漂わせる少女。その髪と近い色をしたライフルが真っすぐに、クローバーへ向けられていた。
「ありゃ、動力はナカったか」
 人と同じナリをしているから、動力部は心臓に当たる部位かと思ったが。クローバーの動きを見るに違ったようだ。耳を澄ませてみるが、あまりにも離れた距離では動力の音も掻き消されてしまうらしい。
(止め止め。ムダなことはしない主義ナンダ、仕事デハね)
 仕事でないならその限りではないが──それは今、関係のないことだ。
「ジャア、次はアタマだね」
 すぐさま切り替えるジェック、白き死神のライフルをクローバーの頭部へ向ける。その視線の先で、クローバーは徐に指差した。
「──攻撃ダ!」
「っ、」
 イーフォの声にポテトが体を捻り──それでも回避しきれず体に朱が滲む。足を踏ん張ったポテトは酷い傷でないことを確認すると、自らの傷はそのままに仲間を回復し始めた。自らの力があればそう時間もかからず治癒できる。
(人形を全滅させることが目的だが、その前に全員無事で帰ることが目標だからな)
 帰りを待つ大切な人たちがいる。仲間の中にもそういった者がいるだろう。だから、全員で──自らの足でローレットへ帰るために。
 リースリットの名乗り口上が響き、クローバーの注意がそちらへ向けられる。イーフォとジェックは戦況を見極めるべく視線を戦場へ走らせた。
 まだ盾役もポテトも余裕があり、イーフォが回復を手伝う必要はなさそうか。──けれど、まだ戦いは始まったばかり。人形たちをいつまでも押し留められることはなく、どこかが瓦解する危険性は時間が経過するほど高まっていく。
(1体1体にかけるジカンはなるべく短くシタイところダネ)
 ガスマスク越しに、桃色の瞳が細められた。

 一気に畳みかけてクローバーが地に沈むと同時、一同は攻撃の手をヒィロが押さえるダイヤへ向ける。ヒィロは仲間へ敵意を逃さぬよう、声を張り上げた。
「皆の元へは行かせない、ボクの相手をしてもらうよ!」
 ダイヤが振りかざすハンマーを確りと受け止め、その間に回復と攻撃が飛ぶ。ヒィロは笑顔を浮かべる少女の顔を──瞳をじっと見つめた。
 その笑顔の中に、敵意や怒りがあるのかわからない。人形師の思いから外れてしまったことに対する悲しみも、戦闘人形らしく戦える楽しさも。
(目の奥を見つめたらわかるかな?)
 ──けれども、そこにあるのはガラスのような瞳で。
「ヒィロ、上だヨ!」
 咄嗟に横へ跳ぶと、今まで立っていた地面がハンマーで叩きつけられた。多少の陥没が見られるそこから視線を再びダイヤへ向け、ヒィロは闘志を燃やす。
 瞳から感情の色は分からない。なら、できることは──ここで止めて、人形師の元へ返してあげることのみ。
 全身全霊でダイヤを押し留めるヒィロ。そのそばで土が盛り上がり、拳となってダイヤを殴りつけ──片腕がちぎれ飛んだ。
「アミーリア!」
 ポテトがハートを押し留めるアミーリアへ回復をかける。思っている以上にハートの1撃は重たいが、アミーリアもこのままやられるだけではなかった。
 ハートの傍らから巨大な土塊を起こし、頭上から振りかぶる。人形の表情が変わらずとも、その余裕を削るには十分な威力で地面が抉れた。
 イーフォも回復手へ回り、やがてリースリットが声をあげて引き付け役を代わる。けれど彼女もまた、長くは押し留められないだろう。いち早く敵の頭数を減らすべく、攻撃は再びダイヤへと集中した。
 銃声。次いでダイヤの脳天に穴が開く。
「タカめの命中がアタシの売りだからネ……狙ったトコには当てるサ」
 ジェックの狙撃を受けても動く人形は、けれども確実に大きなダメージを内外ともに与えられた。そこへ畳みこむようにフィーゼの槍が投擲され、その体を貫き地面へ刺さる。ポテトはその姿を見て小さく目を細めた。小さく呟かれた『お疲れさま』の言葉は風に乗って消えていく。
(役目を果たして敵を倒す時間はもうおしまいだ。ゆっくりとお休み)
 動かなくなった人形を見て、しかしフィーゼは小さく唸った。
「んー……もう少し、術式の改良や改善が必要かな?」
 自身の力不足も否めず、術式に対する課題は山積みと言えるだろう。
(……だけど、何時もの事ね)
 改善の余地が有るからこそ成長する、強くなれるのだと思えば──。
「──うん、実に楽しいわ」
 これからに対する高揚感。フィーゼの口元が小さく上がった。
「代わるよっ!」
「お願いします!」
 ヒィロが盾役を交代し、傷だらけになったリースリットをポテトが回復する。進路を妨害される中でハートはひらり、ひらりと攻撃を躱していた。──だが当たれば確実に、ここにいたどの人形より脆いのは押し留めていたアミーリアの攻撃が証明している。
「ポテト、ヘイゼルが危ないヨ!」
 イーフォの声かけにポテトが視線を走らせ、そしてこちらの状況を確認した。相手は攻撃力の高いハート。運悪ければポテトがヘイゼルの元へ向かった瞬間、こちらが窮地に立たされる可能性もある。けれど──。
「イーフォ、一瞬だけ任せて構わないだろうか」
 引き込まれてしまいそうな瞳へ視線を合わせれば、イーフォは頷いて「行ってきテ」と告げる。ポテトも首肯すると、ヘイゼルを回復射程に入れるために駆けだした。

(もう少し、でせうか)
 ヘイゼルはスペードの肩越しに戦況を見遣る。向こうは既に2体を撃破し、残り1体。こちらも含めればあと2体。赤い糸が瞬間的にヘイゼルの生命力を回復させ、同時にスペードを引きつけるようその注意を向ける。頑丈でなくとも耐久性の高いスペードとは、もはや持久戦となっていた。先程までは魔術で精製した四悪趣の酒を浴びせかけていたが、その余裕もやがてなくなる。
 躱し、受けて。赤い糸で繋いで結び、スペードの耐久力を奪うと同時に自らを回復する。あとはそれらをやってのける精神力がいつまで持つか。
(同じ相手に、同じ目的で相対し続けるなら動きは画一化していくもの)
 ならば把握できる。把握して、抑えきって見せる。
 スペードが放った1撃はヘイゼルに直撃する──ことなく、宙をきった。自らの運命力を以って継戦を選び、ヘイゼルは続いて向かってきた拳を半身捻って躱す。
「ヘイゼル!」
 名を呼ばれると共に、癒しの力がヘイゼルへと降り注いだ。視線を滑らせるとスペードとヘイゼルの横合いにポテトが立っている。
「まだ大丈夫か?」
「はい、今の回復のおかげで大丈夫でせう。少なくとも皆さんが来るまでなら」
 わかった、とポテトが再びハートと仲間たちの元へ戻って行く。ヘイゼルは再びスペードへ視線を向けた。かの人形は未だ笑みを湛えながらも、少しずつ──けれど確かに傷を負っている。ヘイゼルは四悪趣の酒を再び精製し、スペードへと放った。
 毒の苦しみ、肌を焼かれる痛覚、血管が破れる感触。それを人形が感じるのか定かではない。しかしその身を確実に蝕み、耐久性を落としていく。
 不意にスペードの後ろから声が近づいて来た。ヘイゼルの知る者たちの声。イレギュラーズたちの攻撃がスペードへと集中し、そして──銃声と共に戦いは終わりを告げた。


●残った骸を拾い
 平穏の戻った草原に転がるのは、人形であった残骸たち。ガスマスク越しの視線はそれらから仲間たちへ移される。
「スクラップはせめて、制作者のトコに持って行ってアゲよう」
「そうだな。私も人形たちを人形師に返してやりたい」
 ジェックの言葉にポテトは視線を落とし、最後まで表情を変えることのなかった人形たちへそれを向けた。行動をプログラムされた、自我なき人形──それでも、野ざらしではゆっくり休むことはできないだろう。
「それに、暴走した原因も知りたいしな」
「原因調査のためにも、依頼者の処へ持ち帰るのが最適でせうね」
 ヘイゼルは人形の腕を肩に回し、その反対側をフィーゼが支えにかかる。突然人形が動き出して首を掻かれないか──などとフィーゼは人形の様子を窺ってみたが、完全に機能を停止しているようだった。ヒィロも手伝おうと他の人形たちへ手を伸ばす。千切り飛んだ四肢も回収し、その両腕に抱えた。
(人形師さんの『町の人たちを守りたい』って思いに変わりが無いなら、原因解明の手掛かりになるかもしれないよね)
 そうして人形たちの残骸を集めて──こうも思うのだ。
(……最後は、お父さんの手で弔ってあげてほしいな)
 人と人形であっても、きっと彼らは『父』と『娘たち』だったのだろうから。

 イレギュラーズが依頼を解決して暫し──かの人形師から手紙が届いた。そこには先日の礼と設計ミスが見つかった旨が記されていたという。

成否

成功

MVP

ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。無事4体とも破壊となりました。
 余談ですが、人形師は義肢で仕事を続けるそうです。戦闘人形を作るのであれば、今回のようなことが起きないよう肝に銘じることでしょう。

 ガスマスクガールの貴女へ。高命中で放つ1撃は重く、急所を考察して狙い撃つというプレイングも大変良かったと思います。前述の理由により、今回のMVPに選出致しました。

 それではまたお目にかかることができましたら、どうぞよろしくお願い致します。

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