シナリオ詳細
≪BLOOD WING≫義憤の章
オープニング
●発狂へ至る道
善きことをせよ。
善きことをせよ。
悪を断罪し、善きこととせよ。
我らは同胞。
――『赤翼教団』。
●異端審問官スナーフよりの依頼
荘厳な部屋で、白と金で整えられたテーブルにつく。
三角形の覆面の内側からイレギュラーズたちを血走った目で見つめる彼らが、異端審問官であることをあなたは知っている。
その中央に立ち、同様の覆面を被り金色の杖を握る男が『スナーフ』という異端審問官であることも、あなたは知っていた。
あなたは聖教国ネメシス――通称天義に招かれ、邪教徒排斥の業務を依頼されたところだった。
スナーフは威厳あふれる声で、どこか威圧的に責務を述べ、神のため聖なる行ないをせよと告げた。
暫くして周囲の審問官たちは退室し、スナーフはあなたと同じテーブルにつく。
そうすることで、ふっと仲間の肩の力が抜けたのを感じるだろう。
だが空気とは裏腹に、覆面を外したスナーフの、傷だらけの顔に驚くかもしれない。
「高圧的な態度をとってすまない。彼らの前では形式こそが優先されるのだ。
どうか姿勢を崩してくれ。
改めて、対等なビジネスの話をしよう」
彼は異端審問官スナーフ。
ローレットをはじめ他国との仲介を行なうことの多い、いわゆる常識人であった。
「『赤翼教団』のことは知っているだろうか。
直接依頼に関わって覚えている者も、過去の資料に目を通した者もいると思うが、改めて説明しておこう」
スナーフがボードに貼り付けていったのは『赤翼教団』に関する写真やスケッチなどの資料である。
人間を針のついた籠に詰め血を流させ、神像に浴びせることをもって断罪とする。
彼らはこれを全くの善意で行なっており、罪悪感を消すためにこっそりと薬品を投与したり、罪の浅い者に極端な罰を与えることが多く、その行ないがエスカレートしたことでスナーフは彼らを邪教徒と認定。排除に動いた。
しかし使命に忠実でかつたいへんきまじめな異端審問官たちがとりかかっては、教団幹部を抹殺するのは勿論のこと、そそのかされて間接的に荷担してしまった一般市民たちを大勢抹殺してしまいかねない。
「私もそうだ。我々はひどく無学で、浅慮で、そして愚かしいと思う。己の罪を認めることができず傲慢に罪をぬぐおうとする者。それを排除することを正義だと信じて傲慢にも新たな罪を働こうとする者。広義に魔種のたぐいと私は述べるが……その理由を考える者は少ない」
あるときにも述べた同じ文句を、スナーフは改めて述べた。
「これでも皆生きている。国として結束している。この結束を、私は壊すわけにはいかぬのだ」
責任ある者の使命として、スナーフは、イレギュラーズに……あなたに、この仕事を任せることにしたのだ。
●赤翼教団とブラッドゾーン
さて、ここからが重要な部分だ。
「以前に君たちが調査した地下迷宮。あの先に広がっていた異空間に、彼らが崇拝しているという『赤い巨人』の存在を改めて確認した。
異空間に直接侵入する方法は私が確保しよう。
君たちに依頼するのは、この『赤い巨人』の討伐。
……より厳密に言うなら、奴の右目に封じられているという『赤い宝玉』の獲得だ。これが信者たちを駆り立てているものの正体で間違いない。
だが恐らく巨人の周囲には魔物たちが守りをかため、君たちを排除しようとする筈だ。
魔物たちを突破し、巨人を倒すのだ」
巨人と異空間に関するデータは既に粗方そろっている。
異空間『ブラッドゾーン』は血を固めて作ったような樹木がまばらに並び、空は赤黒く染まっているという場所だ。
巨人は10メートル近い身長をもち、全身が鮮血のように真っ赤なエネルギー体で構成されている。
その攻撃力は絶大で、まともにうければ恐らくただでは済まないだろう。
また、巨人を一度倒すと『真の姿』へ変化するとも言われている。
そして更には、巨人に到達するまで、無数のモンスターを蹴散らして進まねばならない。
無理に突破しようとすれば巨人とモンスター群の両方を一度に相手にせねばならず、かなりの苦戦を強いられるはずだ。
スナーフは資料をテーブルに揃え、席を立った。
「君たちが生きて帰ることを神に……いや、君たち自身に祈っている」
覆面を被り直し、スナーフは部屋を出て行った。
- ≪BLOOD WING≫義憤の章完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年02月08日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●前略
異空間接続扉より降下した豪華客船ビッグドリーム号。
その頂点に立った女、『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)は摩訶不思議な書籍リトルリトル写本を振りかざし――。
「挨拶! がわりじゃ!」
全力投球のディスペアー・ブルーを叩き込んだ。
球形のエネルギー体がシンカーの回転をもって真っ赤な草と枯れ木の生え広がる大地へ直撃、爆発、土を引っぺがし周囲をあてもなくうろうろとしていた無数のモンスターたちをひといきに消滅させた。
着地。もとい不時着。
かろうじて生き残ったブラッドスケルトンが踏みつぶされ、デイジーはひゅうと息をついた。
「挨拶にしては盛大にぶっ放しすぎたのう。後は頼んだっ!」
船から飛び降りるデイジー。アンド、仲間たち。
『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)と『繊麗たるホワイト・レド』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)はそれぞれ帽子を押さえながら赤黒い砂地に降り、立ち止まること無く走り出す。
爆発を聞きつけたモンスターがあちこちから集合してくる。
血のようなスライム。血のような骨。血のような球体。そして、血のような空。
一面真っ赤に染まったような光景に、クローネは左目だけで嫌悪を示した。
(何です? 彼等は神を吸血鬼か何かと勘違いしているので?)
「せっかく人には意志ってものがあるのに、どうして思考を自動化しちゃうのかなぁ。もったいない」
モンスターの群れから赤翼教団の信者たちを連想したのだろうか。グレイは帽子のつばをつまんで跳躍、反転。禍津奔流の魔術を展開した。
「あーあ、やだやだ。偶像崇拝なんて碌なもんじゃない。さっさと壊しちゃおう」
弧を描いて飛ぶ赤い魔力の波が接近するモンスターの群れ、その中心へと着弾。五メートル程度の広がりを持って爆発した。
爆発範囲内を魔力の嵐が吹き荒れ、ブラッドスライムたちがかき混ぜられるようにすりきれていく。
範囲におさめきれなかったモンスターたちが犬のように走り、グレイに飛びかかってきた。
素早く割り込む『ド根性ヒューマン』銀城 黒羽(p3p000505)。
「資料を読んだが録でもねぇ連中だな。んで、その原因になってるのが赤い巨人の持ってる宝石と。ったく、面倒臭ぇ」
全身からオーラのトゲをはやすと、噛みついてきたモンスターたちを自動迎撃していく。
「だがまぁ、依頼は依頼だ。それに、放っておいたら犠牲者も増えるだろうしよ。そんじゃま、いつも通り不遜に不敵に気張っていきますかね!」
飛来する血色の球体を掴んで放り投げると、仲間たちを伴って走り始める。
耳に手を当てる『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)。
「敵接近。全方位」
「また全方位か。この一方向に走って一塊にする作戦、早くも破綻しかけてないか!?」
「効率的だと思ったんだけどな」
「効率的は効率的ですが、この場合素早くはありませんでしたね」
鶫、ブレーキアンドターン。背負っていた単発装填式電磁噴射砲を構え、スタングレネードをセット。
アフターバーナーをふかせて発射した弾は回転し、モンスターたちのすぐ頭上で炸裂した。
拡散した自由電子がモンスターたちを強制的にしびれさせ、動きをとめる。
「まあ、言われてみれば」
『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)は時計のダイヤルを回し、エネルギーシールドを展開。
「一方向に逃げ続ければそのうち集団は収束するけど、半径5メートル範囲内にぴったり収まるまで逃げ続けるのはちょっと手間かな」
前方へ回り込み立ち塞がろうとするモンスターを、斥力発生状態のシールドで殴りつける。
自らを中心に広がった半球形のプラズマフィールドがモンスターたちを薙ぎ払う。
「けど、倒しきることはできそうだよ! もう一息、頑張って!」
『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は聖域発生器に念をこめながら振り込むと、至近距離まで迫った血色のスケルトンモンスターへと叩き付けた。接触と共に即座に聖別され、人骨と呪われた血が分離破壊されていく。
「それにしても……」
七鳥・天十里(p3p001668)は拳銃を二丁引き抜くと、駆け寄ってくるモンスターへと連射していく。
弾倉の中身を全て打ちつくし、開放。ばらばらと落ちる空薬莢。
腰に仕込んだカスタムスピードローダーで弾込めを行なうと、周囲の気配を探った。
「真っ赤な世界。ブラッドゾーン……この場所も、巨人も、そして右目に封じられてるっていう宝玉もきっとよくないものだよね。必ず――」
しっかりと警戒していた筈の天十里。彼の感覚にわずかな異常。
ほぼ同時に鶫がはっと顔を上げた。
「敵接近、8字方こ――」
瞬間。血色の霧を抜けて真っ赤な巨人が現われた。
距離にして2メートル半。
しかも既に巨人の攻撃は始まっていた。
蹴りがヒット。ギリギリで直撃を免れた鶫は回転しながら吹き飛んでいく。
「早い!」
振り返り、走り出す史之。
巨人もまた吹き飛ぶ鶫を追って拳を振り上げた。
黒羽、跳躍。
直撃する拳。
しかし黒羽が鶫を突き飛ばすことでダメージを肩代わりし、かわりに黒羽が派手に吹き飛ぶことになった。
血色の枯れ木にぶつかり、へし折り、大きくバウンドしてから砂の上を転がる黒羽。
「さっそくおでましじゃな! ものども、かかれぃ!」
デイジーは腕まくりをして魔術構築を開始。
ダッシュアンドジャンプで飛びかかった史之が、巨人の背を殴りつける。
時計にアクセス。プラズマ発生機能のウィンドウを開く。
「斥力――」
発生をオンにする直前、視界に黒羽が映った。
「やめろ史之!」
「……っとお!」
直前でキャンセル。反撃をさけるべく飛び退く史之。
「ごめん! 巻き込むつもりは」
「分かってる。だが間違っても俺に【不吉】だけはかけてくれるなよ。控えめに言って死んじまうおおおおお!?」
巨人の蹴りが再び黒羽に直撃した。
吹き飛んでいく黒羽。
体力はとっくに零を下回っていた筈だが、黒羽は気合いで立ち上がった。
埋もれた砂を振り払い、首を振る黒羽。
「悪いが、アンタの弱点はお見通しだ。俺から6パーセントの奇跡か3パーセントの奇跡、どっちか引けなきゃ倒れねえぞ」
「頼もしいね
グレイは黒羽が巨人の攻撃で吹き飛んでいったタイミングを狙って封印縛鎖の魔術を連発していく。
ファンブル割合と命中値が不安ではあるが【封印】状態に持ち込めればかなり有利になるだろう。
「僕はられれば二発と耐えられない。黒羽くん、頼んだよ」
「ったく、俺ばっかりかよ。仕方ねえ!」
振り返り、グレイに掴みかかろうとする巨人。黒羽が割り込みをかけ、巨人の指を押さえつけた。
いや、逆に握って掴み上げられている状態なのだが。
「このままだと巻き込んじゃいそうッスね……」
クローネは狂心象の魔術を打ち込もうと構えたが、黒羽やグレイたちが敵のすぐそばにいることでそれをキャンセル。ファントムチェイサーを代わりに発射した。
悪意の魔術弾がミサイルのような軌道を描き、巨人へと次々に打ち込まれ炸裂していく。
「ん、んー」
天十里は笑顔のまま眉を歪めた。
「今はとにかく打ち込んでいくしかない、か!」
巨人の足下を中心にして半径20メートル周回軌道を描いて走って行く。
「しばらくもだもだしてて!」
銃弾に不運の光を纏わせ、巨人へと打ち込んでいく。
直撃をくらった巨人は大きくよろめき、黒羽を手放した。
「ほれ、この隙に回復じゃ回復!」
先程蹴り飛ばされた鶫を抱えおこし、デイジーは治療を施してやった。
「しかしマズいのう。特殊抵抗が低いというからBS山盛りにしてやるつもりじゃったのに……ああも味方が近くにおると範囲攻撃がろくに打ち込めん」
「確かに……困りましたね」
鶫も投げ込むはずだったグレネードを見つめた。
当たればかなりの確率で弱体化をはかれる武器だが、味方がそれに巻き込まれると非常に厄介だ。
特に今回のメンバーは黒羽のEXFカバーで保っているようなもの。もし黒羽が行動不能にでもなったらチームは瞬く間に壊滅していくだろう。
加えて、史之も近接攻撃を仕掛け続けているのでかなりの頻度で範囲に巻き込んでしまうだろう。
巨人の頭にでもピンポイントで当てれば足下の味方には届かないのではとおもわなくもないが、そんな器用なことをさせてくれるほど巨人も愚かではないしトロくもないようだ。
「とりあえず『衝撃の青』は準備してきたが、どうする?」
「打ち込み続けてください」
クリーンヒットを引けば、巨人とてはじき飛ばすことができる。
そうやって黒羽たちから引き離し、範囲攻撃を打ち込む隙を作るのだ。
近接攻撃を頻繁に行なう巨人単体に対して範囲攻撃を主体にした作戦を組んだのはまずかったかもしれない。が、今は今できることをしなければならない。
巨人は攻撃を分散させるのをやめ、黒羽への徹底的な攻撃にシフトしはじめた。
対する黒羽も88パーセントの根性で対抗し続けている。シャドウステップの上乗せ分がはがれているのは巨人が【ブレイク】性の攻撃に集中しているからだ。
「これは……回復をした方がいいんだよねっ!?」
スティアはハイ・ヒールの魔術を詠唱。
黒羽に体力を送り込んでいく。
この場合よいか悪いかの判断を特につけていたわけではなかったので、自分で決めた優先順位に従って行動したまでである。直後、黒羽は巨人のスタンピングによって踏みつけられていく。そして再び立ち上がる黒羽。
「な、なんだかすごいことになってきちゃったかも……」
だが、BSの付与状態はともかく一方的に攻撃できる状況が生まれたのは事実。
「こうなったら、どしどし叩き込んじゃおう!」
「いえ、この一発で充分です」
鶫は量子数変換式対消滅弾『迦具土』をセット、チャージ、錬金術式弾を勢いよく発射。
直撃した弾が連鎖爆発を起こし、巨人の膝を崩壊させた。
「天十里さん!」
「まっかせて!」
天十里は思わず膝を突いた巨人を勢いよく駆け上がり、跳躍。右目に銃弾を撃ち込みまくり、こぼれ落ちた目……もとい宝玉をキャッチした。
子供の拳ほどある宝玉を、ぎゅっと握りしめる。
「この先は!?」
「とりあえず……倒すまでやる!」
史之はシールドの出力を上げた。
「事前に『巨人を一度倒すと『真の姿』へ変化するとも言われている』ってスナーフ神父は話してたろ。それを見てから……」
「その真の姿とやらも討伐してやるのじゃ!」
デイジーが、衝撃の青を乱射した。
●赤翼の堕天使
巨人を倒すまでの間にあったことを細かく語るのは野暮だ。
黒羽が恐ろしく耐え、巨人が彼に執着するかのように殴り続け、その間他のメンバーはしこたま攻撃を打ち込み続けた。たまに範囲攻撃を打ち込めるチャンスが訪れればこれ幸いと大きな持ち玉を投入していく。特に【呪殺】のついた攻撃は効果が大きい印象があった。
こうして、やや遠回しな玉入れ合戦のような戦闘が続き、やがて終わる。
ざっくりと計算して巨人との遭遇から150秒を過ぎた程度の頃だろうか。
グレイやデイジー、天十里、クローネ、史之、鶫のAPが枯渇し、これ以上は通常攻撃を連発するかスティアからアウェイニングを連発してもらって数ターンだけ粘るかのどっちかだと思い始めた頃、巨人は音を立てて倒れた。
「やったか?」
ぜーぜーと荒い息を整え、デイジーは胸に手を当てた。
「しかし『真の姿』というのはなんじゃろう? もっと大きくなるとか、トゲやツノがはえるとかかの?」
「いえ――そういう次元ではなさそうです」
誰よりも、鶫は状況を素早く察知した。
仰向けに倒れた巨人の左目から、真っ赤な手が飛び出したのをクローネは見た。
巨人の頭を、鳥が殻を破るかのように砕いて何かが飛び出すのをグレイは見た。
それが、血まみれの女の姿だと、間近で見ていた黒羽は気づいた。
「コンニチワ!」
にっこりと、そして朗らかに、血まみれの女は言った。
「お――」
「そしてサヨウナラ! 永遠に! ネバー!」
黒羽が何かを言う前に、女の腕が黒羽の腹を貫通していた。
内蔵を握って突き破り、引き抜くと同時に背骨をもぎ取っていった。
「あ……あ?」
気合いでこらえようとした黒羽だが、不思議と力が入らない。
意識はすぐにブラックアウトした。
「【必殺】性の攻撃です。彼を引き離してください!」
鶫は鎮圧用自由電子放射擲弾『雷公』をセット。
「ええい仕方ない!」
デイジーは思い切って走り出し、倒れた黒羽を抱えて更に走り抜けた。
その後方で巻き起こる爆発。
あのモンスターたちを一発で沈黙させた鶫のグレネード弾が直撃した……筈だが。
「ンーッ、気分爽快! ファイン! アイーム、ファイー……ン!」
血まみれの女は背伸びをして、真っ赤な翼を大きく広げ、超高速で距離を詰めてきた。
「うわうわうわうわムリ!」
史之は咄嗟にシールドを最大展開。
シールドを突き破って顔面を掴んだ『血まみれの女』は、彼の頭蓋骨を粉砕するのではという勢いで握り込んで、史之をまるごと振り上げた。
「センキュウ!」
至近距離で打ち出される魔術杭が、史之の右目を打ち抜いていった。
「ガッ……!?」
「ふざけた奴ッスね……!」
史之を相手から奪い取り、クローネは走って距離を取る。
振り向き、魔力銃を連射。
当たりはするようだが、女はケラケラと笑っていた。
「みんなー! 今日も元気ですかー!? 元気すぎて反吐がでますかー!? カーワイーデスネー!」
身体を大きく傾けて、両目を見開いて笑う女。
「まじ全員死んでくれないかな!」
「引き時だ!」
右目を貫かれてもなお倒れていなかった史之が、抱えたクローネの腕から飛び降りた。
「ひい!?」
「天十里さん、宝玉を持って逃げて!」
「え、でも、計画じゃあ最後までやるって……」
天十里はそう答えながら、手の中で宝玉が熱く光るのを感じた。
「あーれー? ソレ、壊してなかったんだ? 国のみんなそろいもそろってクソバカだからきっと壊しちゃうと思ったのに。案外物持ちいいのかにゃあ? エコロジーの精神なのかー……にゃ!」
跳躍、と同時に天十里に距離を詰めていく女。
本能的に命の危機を感じた天十里は牽制射撃をばらまきながら逃走した。
「まだ逃げるには速いんじゃない? 手の内を知るくらいはしておきたいよね」
グレイは消費のない貪欲の蛇の魔術を乱射。叩き込んでいく。
女の側頭部に一発が命中したが、女は頬を片方ぷくうと膨らませるだけだった。
「なんかムカつく。あー、いらいらするー! 死んでくれないかなー!? なー!?」
瞬間のことだった。グレイの腕がもぎ取られていく。
肉体ごと崩壊しなかったのは咄嗟に展開した防御魔術のおかげだが、それでも重傷を負うほどのダメージだ。
「今の編成では勝てません。逃げましょう」
鶫が走りながら呼びかけてくる。
「巨人に存在していた明確な弱点。【必殺】攻撃がないこと。特殊抵抗の低さ。少なくともその二つが消えています。この弱点をついたことで勝てていた以上……」
力尽きた黒羽をちらりと見てから、鶫は小さく唇を噛んだ。
「ダメージを増やすだけです」
「えーっと……賛成! 今は『逃げるが勝ち』の時だよ!」
こくこくと頷くスティア。
チーム全体の損失が深刻化する前にその判断がついたのは、鶫が『真の姿』の能力を(大雑把にではあるが)素早く察知できたからだ。
「情報と宝玉が手に入っただけで充分です。むしろ、これを持ち帰らなくては」
「逃げる? ナーイス判断!」
言いながら、女が真横追いついてきた。
今のところ逃げ切っているのは機動力でちょっとだけ勝る天十里だけだ。
「問題デース! ワタシはみんなを逃がしてあげるよい子ちゃんでしょうか? マルかバツか――バツゥ!」
デイジーの腹に直撃する回し蹴り。
「んぎゃ!?」
抱えていた黒羽が転げ落ちそうになるが、それをスティアが素早くキャッチ。
デイジーも引っ張りおこして、一緒に全力で逃げ始める。
はじめにモンスターの群れを『一方向に走り続けて引きつける』という作戦をとっていた分出入り口が遠いのだ。
が、走るほかない。
走る以外に、生き残る方法はない。
走って。
走って。
走って。
走って。
走って。
気づいた時には、ゲートのこちら側へと飛び出していた。
「全員無事か! ゲートを閉じろ、急げ!」
待ち構えていたスナーフたちが彼らを保護し、そしてゲートの封鎖処理を施していく。
その先で、血まみれの女が笑ったのを、彼らは見た。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
とても大変なものを発見されたそうですね。それでもここまでのダメージで済んでいるのは、判断力の高さゆえのことでしょうか。それとも黒羽さんがひたすらに攻撃を耐え続けた結果でしょうか。
ともあれ、ゲートは一度閉じられたそうです。あの『血まみれの女』がゲートをこじ開けて暴れ出すのは、最低でも数ヶ月先のことになるでしょう。今はゆっくりとお休みくださいませ。
GMコメント
【オーダー】
成功条件:『赤い宝玉』の獲得
オプションA:『赤い巨人』の討伐
オプションB:真の姿を表わした『赤い巨人』の討伐
異空間へのアクセス方法は既に用意されているため、プレイングで注意すべきはモンスター群を効率よく倒し突破することと、赤い巨人との戦闘方法のみです。
またオーダー内容からも分かるとおり、必ずしも巨人を戦闘不能にする必要はありません。
ある程度までダメージを与えることで『赤い宝玉』獲得のチャンスが訪れ、その判定に成功すると宝玉を獲得できます。
この時点で最低成功条件は達成できるので、メンバーの実力次第ではここで撤退しても構いません。
その場合は追跡する巨人から身を守りながら空間を脱出するプレイングが必要になるので、メンバー間でよく話し合い、『着地点』を決定して置いてください。
なお、依頼参加メンバーの総合戦力のうち7割以上を喪失した場合自動で行動終了となり、スナーフは異端審問官の軍勢を送り込み強制的に皆さんを退避させます。
このときまでに『赤い宝玉』を獲得していた場合依頼は成功判定になりますが、大きなダメージを受けることは覚悟しておいてください。
【エネミーデータ】
●魔物の群れ
空間に入ってすぐに襲いかかってくる魔物の群れです。
しかし戦闘力はイレギュラーズの方が圧倒的に高く、直接戦っている限りはたいして勝負になりません。
ただし巨人との戦闘中に介入されると庇われたりブロックされたりと致命的な不利が生じるため、ここで倒しておかねばなりません。
目的は『効率的な撃破』と『素早い突破』。
敵が沢山集まってきてしまうと厄介なので、できるだけ早く、そして巨人との戦闘にエネルギーを沢山のこしたまま突破することが重要です。
●赤い巨人
攻撃力:すさまじく高い
命中:とても高い
EXA:やや高い
HP:とても豊富
特殊抵抗:やや低い
機動力:やや高い
クリティカル:やや高い
パッシブ能力:出血無効、怒り無効、マーク・ブロックに3人分必要
・暴れる(物近範【弱点】【ブレイク】):きわめて攻撃力の高い格闘
・暴虐(物中単【防無】【飛】【連】)一人を徹底的に攻撃する
・自己修復:自身を500回復する。よほど暇でない限り使わない。
●赤い巨人の真の姿
詳細不明。
ただし勝利した場合きわめて高い成果が得られる。
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