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シナリオ詳細

いざゆけゲルマ温泉街

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●戦士たちの湯治場
 声勇ましく湯もみ板を振る和服の女たち。
 『げるま』と趣深い文字のかかれた板は、足下の熱湯をかき混ぜるために振られていた。
 地元に伝わる民謡を口ずさみ、ヨイトサノサのかけ声で規則正しくかき混ぜられていく湯。
 源泉から吹き出しかなりの高熱をもつ湯を人が入浴できる程度の温度にまで下げるこの動作を湯もみといい、ゲルマ温泉街の名物として知られていた。
 風流。
 されど、そればかりでは生きていけない。
 ここゲルマ温泉街に、悪の影がさしていた。

 軍事国家であり闘技場商売も盛んなゼシュテル鉄帝国。
 傷を負った戦士たちの湯治場として古くから有名な温泉街がいくつかあり、そのひとつがゲルマ温泉街である。
 重い傷をじんわり癒やし傷跡ものこさないと評判のゲルマ温泉はゼシュテルが戦争の際偶然見つけた泉を拓いたことに始まり、今では無数の温泉宿や娯楽を提供する店が建ち並ぶ賑やかな風景に囲まれている。
 そこへ。
「この温泉街をワイのもんにするんや」
 はげ上がった小太りな男、ヤポンスキー将軍。鉄帝国の中では珍しく財力でのし上がったタイプの男である。
 彼はゲルマ温泉街女将衆の会議場に乗り込み、金貨の袋を放り投げてそう言い放ったのだ。
「金はこの通り出したる。ここを若いオネーチャンとカジノでいっぱいにしたらぎょうさん儲かるで。でかいホテルも建てたらええ。あんたらバーサンは……ハッ、田舎にでも引っ込んで野菜でも育ててればよろしいがな」
「なんじゃと?」
「あんたジョーシキというもんを……!」
 ヤポンスキーはげらげらと笑い、吐き捨てるように言った。
「この国は力が全てや。せやから、金で腕利きを揃えられるワイが勝つ。あんたらが揃えられんのは精々下働きの若い衆くらいやろ。金が貰えるうちに引き下がっといたほうが、賢いんやないのォ?」
 葉巻きに火をつけ、綺麗に掃除された床に灰を落としていくヤポンスキー。
「お断わりです」
 部屋の奥。誰よりも長くこの温泉街を見守ってきた女将たちのリーダー、蒼紫会長はドスの聞いた声で言い放った。
「ここは由緒正しき戦士の湯治場。あんたら金の亡者にくれてやるモンはひとつもない。欲しかったら、力尽くで取りに来るんだ」
 その気迫に押されたヤポンスキーは、葉巻きを床に放り捨てて部屋を出て行った。
 身を乗り出す女将たち。
「出て行ってはくれましたが……」
「どうしましょう。きっと明日にでも街を襲ってきますよ」
「ウチコワシだわ。そんなことになったら……」
「狼狽えるものではありません」
 青紫会長はペンをとり、さらさらと羊皮紙に依頼書をかきつけた。
「あちらが力尽くなら、こちらも力尽くで行けばいい。それだけのこと」

●世界のピンチヒッター、ローレット
「ゲルマ温泉街の女将助会から助けを求める依頼がきたのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は依頼書をかかげ、ギルドがよく利用する酒場へと駆け込んできた。
「相手はヤポンスキーという富豪で、お金で雇った腕利きをつれて温泉街を襲撃しにくるはずなのです。
 先回りして待ち構えて、彼らを撃退するための戦力が必要だそうなのです!」

 と、ここまででは終わらないのが情報屋。
 ユリーカは特殊な情報網をたどって集めてきた『ヤポンスキーの雇った傭兵たち』の情報を開示していった。
「傭兵チーム『ヤマカシ』。主に獣種で構成された8人組で、バランスの良さと連携のうまさ。そして身体能力の高さが売りなのです」
 こういう連中は搦め手が通じないことが多い。その一方で経歴に傷がつくのを恐れる。
 温泉街へ行く道で堂々と待ち構え、勝負を挑み、撃退するのが一番効果的だろう。彼らは挑まれた勝負から逃げることはしづらく、堂々とした手段で負ければそれ以上醜くごねたりはしないはずだ。
「主力メンバーは特にアクロバティックな格闘能力を持っていて、とても素早いことでも有名なのです。戦う時は気をつけてくださいね!」
 ユリーカはそこまで説明すると、まとめた情報を束にしてイレギュラーズへと突きつけた。
「あとは、あなたたち次第! なのです!」

GMコメント

【オーダー】
 ヤポンスキーの雇った傭兵『ヤマカシ』を撃退すること。

【エネミーデータ】
●傭兵チーム『ヤマカシ』
 全員が非戦スキルにアクロバットを持っているのが地味に特徴。
 近接格闘能力が高く、個人によりややばらつきはあるもののスペックがある程度そろっている。
 戦闘メンバーは8人。スペックの基準は以下の通り。

 機動力:やや高い
 回避:高い
 AP:豊富
 HP:ふつう
 EXA:やや高め
 ファンブル:とても低い

【おまけ】
 戦闘に勝利し、傭兵チームを追い返すことができた場合、高級な温泉宿への宿泊チケットがプレゼントされます。
 温泉につかって戦いの疲れを癒やしたり、料理に舌鼓を打ったり、娯楽施設で遊んだりしてみましょう。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • いざゆけゲルマ温泉街完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月07日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
猫崎・桜(p3p000109)
魅せたがり・蛸賊の天敵
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
アトリ・メンダシウム・ケラスス(p3p001096)
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
イージア・フローウェン(p3p006080)
白き鳳焔に護られし紫晶竜
白薊 小夜(p3p006668)
永夜

リプレイ

●げるまのゆ
 香る湯煙岩湯の煙。
 つやぬりの赤い煉瓦屋根がならぶここはゲルマ温泉街の玄関口。
 土産屋や馬車駅や、まんじゅう屋台がたちならぶことで来る者に非日常感を与えてくれる。その象徴とも言うべきはゲート。『ようこそゲルマ温泉街』と書かれたゲートの下に、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は腕組みをして立っていた。
「温泉が出る場所にカジノだのホテルだの建てる意味あんのかね。金持ちってのはわからんなあ」
「だいたい、歴史の深い湯治場をなくすなんて見過ごせませんよ! いくら力の強さが尊重されるからってあんまりです」
 『ロストシールド』イージア・フローウェン(p3p006080)は立腹した様子で頬を膨らませている。
「まあまあ、力が強い方が勝つってんなら、その流儀に乗ってやろうじゃねえか。勝てばいいんだ、勝てば」
「本当に無粋な輩と言うのはどこにでもいるものだし、ね。それに、勝てば温泉にも入れるというし、やる気も出ようというものよ」
 白杖をついて、『優心のアンティーク・グレイ』白薊 小夜(p3p006668)はほんのりと笑った。
「同感だ」
 『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)が屈強そうに腕組みをし、ゲートを守るようにずんと立った。
「由緒ある温泉街を我欲のために潰そうという腐ったヤツは、性根からたたき直してやる。でもって、これからも温泉に来られるように依頼された役目を果たす!」

 煉瓦の屋根に腰を下ろし、手の甲に顎を乗せる『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)。
 土地がやや小高い位置にあるからか、ここから温泉街がよく見える。
 馬車でこのゲートを潜ったり、空を飛んでここを通る時、きっとこの豊かな光景にわくわくすることだろう。
「いいわねェ、温泉。暖かくって力が抜けて、スキよ。長湯はのぼせちゃうけど……肌も潤ってキレイになるし」
 腕を中指でなぞっていくリノ。
「そうだね。折角の温泉を潰そうとするのはよくない。温泉のためにちゃんと守らないと!」
 アトリ・メンダシウム・ケラスス(p3p001096)もうんうんと同意したように頷いている。
「そうそう、皆考えることは一緒だよね!」
 『魅せたがり・蛸賊の天敵』猫崎・桜(p3p000109)はばかでかいライフルを屋根に設置すると、スコープを覗き込んでにやりと笑った。
「大好きな温泉を独り占めさせるわけにはいかないからね♪ 僕が温泉に入るための餌になーれ♪ なんちゃって♪」
 そんな中、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が声をあげた。
「皆さん、来たようですの」

 ヤポンスキー将軍の雇った傭兵チーム『ヤマカシ』。
 狼や山羊、蛇やシカといった多様な獣頭をしているが、そのどれもがプロの目をしていた。
 ドーベルマン獣種の男が、眼帯をした片目に手を当てる。
「ゲルマ温泉か。俺は、ここに来たことが、ある……?」
「去年忘年会で来ましたでしょ。あなた、そういうとこですよ」
「なんだまた中二病ムーブしてやがんのかい」
「いや、忘れっぽいだけではござらんか」
「フシュー」
「ねーねー。ゲートの所に武装した人たちがいるよ。温泉の若衆かな?」
「それにしては場慣れしてないかしら? あぁらあの豚ちゃん好み」
「迂遠だわ……リーダー、仕事よ」
「うむ!」
 かなり行儀良く並ぶ八人。
 その先頭に立ったドーベルマンの男は片腕を水平に伸ばし片手を片目の前に翳す謎のポーズをとった。
「聞け! 我らは地獄の業火より出でし残酷なる――」
「傭兵チーム『ヤマカシ』でーす! ここのウチコワシを依頼されてきましたー! できれば抵抗はしないでくださーい!」
「えっ」
 振り返るドーベルマン。
 対して、ノリアがばっと両腕を広げて前に出た。
「恋人の、ゴリョウさんと一緒の、大事なお仕事ですの!」
「えっ」
 振り返るドーベルマン。
「ここは、とおしませんの!」
 襲撃。
 反撃。
 迎撃。
 一秒間で、その場の全員がそれぞれの反応をし、それぞれに動き、それぞれに戦いだした。
 もはや言葉はいらぬとばかりに。

●即席ゲルマ温泉防衛隊VSヤマカシ傭兵団
「ここは月の隠れた女神の星。義を破るは今。我が罪深き剣にて――」
「あらやだ豚ちゃん近くで見るとイケメン!」
「えっ」
 拳銃を振りかざすドーベルマンを無視して山羊の男(?)が猛ダッシュでゴリョウへ突進していった。
 どっしり構えて腕を広げるゴリョウ。はいここす○ざんまい!
「さぁ、俺に膝を突かせる猛者は居るかぁッ!」
「そういうの、嫌いじゃ無いわ!」
 ふんぬうと叫んでタックルを繰り出す山羊。あまりのパワーに押されそうになるが、ゴリョウは相手を両手でつかむことでこらえた。
「はいはーい、こっちむいてー。ハイチーズ!」
 ポメラニアンの少年がそんなことを言いながらマジックライフルをぶっ放した。
「だめですのー! はうっ!?」
 両手を広げて庇いにはいったノリアの脳天に魔術弾が直撃。
 跳ね返った魔術弾のかけらがポメラニアンの脳天にも直撃。
「はう!?」
「いや何やってんだ」
「ゴリョウさんを庇おうかと……」
「直撃してんじゃねえか」
 みつきは絆創膏をばってんにしてノリアの額にはってやった。
「あいつら、ふざけたノリだが動きは本物だ。見ろ」
 性別の分からない蛇の傭兵がフシューと言いながら謎の煙を発生させている。
 味方を支援し敵を攪乱するのが目的だろう。
「搦め手はすぐに対応されるはずだ。こっちも力を合わせて正攻法でいくぞ!」

「さて私のお相手は誰かしら? 別に一対一でなくてもいいのだけれど」
 白杖をついて顎をあげる小夜。
 シカの男が刀をすらりと抜いた。
「良かろう。では拙者がタイマンを申し込むでござる」
「いや申し込んじゃだめでしょう。あなたそういうとこですよ」
 スッと横に並ぶロバの男。
「二対一でも構いませんね? どうやらあなた、『みえて』いらっしゃるようだ」
「あら」
 ロバの男が拳銃を撃つと、小夜は飛来する弾丸を抜刀と共に切り裂いた。
「ああっ、それ拙者もやりたい!」
「一発芸大会じゃないんですよ。あなたそういうとこですよ!」
 ロバが拳銃を水平に構え正確に連射。
 小夜はそれを刀で次々に切り裂いて弾いていく。
 シカが鋭く走り込み、そして刀をふりきった姿勢のまま大胆に通り過ぎた。
 直後、小夜の脇腹から血が吹き出す。
「…………」
 私を斬れるなんてね、と表情の奥で密かに笑う小夜。
「小夜さん! 平気ですか!?」
 イージアが開いた手の上に光る玉を出現させ、スポットライトのように小夜を照らした。
 治癒効果が凝縮された光が小夜の傷口に照射され、流れ出ていた血が止まる。
「相手もなかなかバランスがいい。そういうとこですよ」
 ロバはちらりとだけイージアに目をやって、そして小夜へと銃撃を再開した。

「さっさと撃退して温泉を楽しませて貰うんだよ♪」
「ナニィ!? 温泉を楽しむのは俺だぁ!」
 アンチマテリアルライフルの発射で熊の男を狙う桜。
 一方熊は鋼の鎧に身を包み、担いだガトリングガンを桜めがけて乱射した。
「うわわわわ!? 撃ってきた撃ってきた! ……ん?」
 瓦屋根の向こう側に身を伏せ、そしてふと眉をあげる。
「温泉壊したら入れないんじゃない?」
「……そうだった!」
 熊はショックを受けた顔をしたが、それでも乱射は続く。
「アレは私がなんとかするしかなさそうねェ」
 リノは屋根からするりと下りると、物陰をつたって熊のもとへと接近した。
 暗殺は一瞬。素早く現われ素早く刺す。
 が、打ち込んだナイフが平たいフォーク状の物体に止められた。
「迂遠だわ」
 黒羊のようにもこもことした髪と毛皮を纏った美女が、リノのナイフをとめている。
 もこもこの中から抜いた鉄のかんざしが、リノの喉を襲った。
 のけぞって回避。
 と同時に上げた膝から別のナイフを抜いて斬撃を繰り出すリノ。
 更にアトリが飛び込み、オーラソードの斬撃を加えた。
 飛び退き、跳躍と回転をもって着地。かんざしとフォーク状の物体……つまりは櫛を構える黒羊。
「随分、すばしっこいみたいだね」
 剣を構えじりじりと間合いをはかるアトリ。
 一方でリノは己の喉、もとい首に巻いたチョーカーを撫でた。
「女の喉を狙うものじゃないのよ」
「あら、ごめんなさい」
 黒羊は左右非対称に笑った。
「綺麗な声だったものだから、つい」

●使命と使命
「わわわっ、僕に近寄るのは禁止! 近づいたら訴えるよ! 訴えて勝つんだよ!」
「筋肉裁判なら負けん!」
 ぬおーと言いながら突進してくる熊獣種。
 桜は対物ライフルを急いで担ぎ上げると、瓦屋根から飛び降りて一目散に走り始めた。
 障害物を次々に飛び越えながら走る桜。対して障害物を次々に破壊しながらまっすぐ突撃してくる熊。
「こっちくるなー! なんだよ!」
 桜は走りながらライフルを担ぎ、無理矢理に乱射した。直撃を受けて転倒する熊。
 その上、というより屋根の上を飛ぶように走って行くリノ。
 足場の悪い細い煉瓦を、リノは側転からの後方宙返りをかけて素早く駆け抜け、飛来する鉄串を回避。
 一方で黒羊は大きなジャンプと宙返りをかけて無理矢理リノの先へ回り込むと、コマのように回転しながら斬りかかった。
 ナイフを翳してギリギリ受け止めるリノ。
 その先ではイージアがタクトを振って紫水晶龍の呪いを展開。
「一人、こっちで引き受けます!」
 打ち込まれたロバ獣種は拳銃をリロードしながら振り返る。
「そういうところですよ、あなた!」
 走って距離をつめながら銃を構えるロバ。
 アトリが間に割り込み斬撃を繰り出し、ロバはそれを銃で受け止める。
「本当に一対一になったようね」
「是非も無し」
 シカ獣種はギラリと目を光らせ、小夜へ接近し高速斬撃を開始。
 対する小夜はそれを次々と打ち払い、隙間を縫うように反撃を繰り出す。
 一方のシカも反撃を紙一重でかわしながら執拗に連続攻撃を打ち込んできた。
「ううむ……なかなかの手練れ!」
「そうかしら?」
 勝負は簡単には、つきそうにない。
 しかしどこかひとつでも決着がつけば、ファスナーを開くかのように連鎖的に勝負がついていくことだろう。
 そのひとつになったのが。
「ぶははっ、まだまだ来るか!?」
「情熱的だわ! 嫌いじゃ無いわ!」
 ゴリョウと山羊獣種が相撲をとっていた。
 いや、つかみ合ってお互い譲らない状況なのでもう相手を転倒させたほうが勝ちじゃねみたいな、意地の張り合いになっているのである。将棋で言うと長期戦からの両者入玉。
 その状況に異を唱える者が、ひとり。
「それは、なんというか……よくないですの!」
 うわーと言いながら捨て身の抱きつきタックルを繰り出すノリア。
「あんっ!? 情熱!?」
 前からの衝撃に備えようとしている人間は、横から腰にタックルを食らうと大抵くてっとなる。
 ゴリョウのずっしりとしたパワーと張り合っていた山羊は例に漏れずくてっとなり、縁石に側頭部をしたたかにぶつけた。
「あ゛っ!?」
「あっ」
 ころしてない? ころしてないよね?
 という顔で山羊の顔を覗き込むゴリョウとノリア。

 先に一人倒した方が勝つ。
 とは限らないが、少なくとも今回はそうなった。
 お互いに多少の犠牲を出しつつも、三人ほどが倒れた所で負けを察したヤマカシ傭兵団は撤退姿勢をとりはじめた。
 最後の一人まで戦わないというのが、彼らの潔さである。
「貴公らの武勇、恐れ入った。しかし我が漆黒の銃弾は止まる事なき闇の――あっ」
「ほら、お前も帰れ帰れ」
 みつきがすかさず糾ノ蔦。ドーベルマン獣種はたちまち魔蔦に絡まれおかしなポーズのまま固定された。
「今更こんなこと言うのも変だけどさ……お前、戦いが始まってからずっとその銃撃ってないよな? ちゃんと弾入ってるのか?」
「愚問」
 変なポーズのまま目力をきかせるドーベルマン。
「我が漆黒の獣は罪深き――」
「こいつ銃撃つの苦手なんだよ」
「えっ」
「発砲恐怖症なんだよね」
「けどこの子が格好つけてるとなんかやる気出るのよねぇ」
「フシュー」
 なにその立ち位置。みつきはどことなく哀れになって蔦を解いてやった。
「まあ帰れよ。これに懲りたら……」
「いや、待った」
 ゴリョウが手を出した。手にマジックで『待った』と書いてある。
「考えてみろ。こいつらはヤポンスキーに雇われた傭兵だ。別に温泉破壊運動賛成派ってわけじゃない。これで追い返してもまた仕事として請け負って襲ってくることになる」
「まあ……そうねぇ」
 リノが『だから普通は殺しちゃうんだけど』という目をしたが、そういう空気じゃないので黙っておいた。
 ぽんと腹を叩くゴリョウ。
「なので俺は提案したい。こいつらにも温泉に入って貰おう。そして、ヤポンスキーにもな!」

●強い奴を倒すな。友達になれ。
「運動の後の温泉は格別だね♪ はふ、疲れが取れていくんだよー」
 湯煙。流れる湯の音。
 岩で囲まれた露天風呂に、イージアと桜はほっこりと浸かっていた。
「私、温泉って苦手なのよね。毛皮が濡れるから」
 そう言いながら湯船につかる黒羊獣種。
 毛皮で隠れていたボディラインが露わになり、その暴力的な豊満さに桜とイージアが二度見した。
「でもくつろぐわ。ね?」
「え、あ、はい」

 一方こちらはみつき、みつき、山羊獣種。
「俺は男だが首から下が女なんだ」
「僕は女だけどギフトのせいでどうしても男性に見えるんだ」
「アタシは心も魂も前世も乙女よ!」
 三人は他二人の言葉に一旦首を傾げてから、『あー』と納得したように頷いた。
 ジェンダーマイノリティはその希少さゆえに世界で自分だけこんな感じなんじゃと思うものだが、混沌にはそういう人は山ほどいて、そのたびに特別対応が必要になるので、温泉のプロは大体女湯男湯の他に『特湯』を用意することが多いのである。

 とかやってる間に。
「温泉街といえば、やっぱりこれよね……」
 衣服を脱いでうつ伏せになったリノが、うっとりした表情でオイルマッサージをうけていた。
「ンン……ほぐれるわァ」
「フシュー」
 ハッとして振り返ると、蛇獣種が同じくうつ伏せになってうっとりしていた。女だったんだ、この人。

「カジノやホテルを建てれば儲かるって考えはナシじゃねえが、伝統ある温泉街のメリットを捨てすぎる。そこで俺は考えた。ヤポンスキーって、実は温泉知らねえんじゃないかってな」
「なるほど……」
 鉄帝という実力主義社会で、財力でのし上がったというヤポンスキー将軍。
 彼ほどの人間となれば、実力行使が一度破れた段階で次の手を考えるもの。
「つっかえして延々喧嘩するくらいなら、スポンサーにして仲良く協議したほうが建設的じゃねえ?」
「なるほど……!」
 浴衣姿で廊下を歩くゴリョウ。その斜め後ろには女将が頷きながらついていた。
 スッと足早に前へ出て、襖に手をかける。
「旦那様、こちらの部屋になります」
「おう。しかし個室風呂とは随分贅沢な……」
 開いた部屋。
 桐作りの円形風呂の縁に、ノリアが腰掛けていた。
 湯気ではりつくシャツ。
 振り返るノリア。
「えっ」
「ごゆっくり」
 背後で締まる襖。
「えっ」
 ゴリョウは三頭身になって、つぶらな目をぱちくりさせた。
「ゴリョウさん。お背中、おながししますの」
「……えっ」

 温泉街の夜は、美しく過ぎていく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お帰りなさいませ。温泉街へ旅行に行かれた……とか……?
 噂に聞く限りですと、騒ぎらしい騒ぎも起きず不穏な話もございませんでしたが、どうやら皆様、八方丸くお収めになったご様子ですね。
 ただ敵を倒すばかりがローレットではございません。大変ご立派でございます。
 温泉街からはお土産を沢山もらったようですし、先日ヤマカシ傭兵団からも広告のチラシが入ってきたところです。彼らとも、また何か縁がありそうでごじざいますね。

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