シナリオ詳細
<泡渦の舞踏>廃都に嫉妬の声は響いて
オープニング
●嫉み
ねたましい。ねたましい。
ねたましいねたましいねたましいねたましい!
何故我らは此処にいるのか。
光差さぬ海原の底、暗き廃都に我らは捕らわれた。
体は腐り、魚に啄まれ、暖かき大地を踏むことすらかなわぬ。
それは罰であるのか。贖罪であるのか。
否、我らに罪なし。
故にこれは、正当な怒りぞ!
我らを捨て、我らを忘れ、日の光の下を謳歌する、地上のものよ!
我らが怒りを畏れよ! 我らが嫉みを称えよ!
我らこれより千の群れを成し、地上に凱旋するものなり。
称えよ、畏れよ、敬えよ――我ら、正当なる報復者(アベンジャー)なり!
「……こわぁい」
眼下にうごめくアンデッドたちを眺めながら、人魚、『メリュゥ』はくすくすと笑った。
皆底に沈む廃都。
魔に堕した人魚の歌声が静かに響き渡り、死者たちはごうごうと、怨嗟と嫉妬の雄たけびを上げる――。
●『ウェルテクス』襲撃
海洋、ネオ・フロンティア近海に、突如として巨大な大渦が発生した。
その原因は、幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の残党、魔種『チェネレントラ』である。その目的は、騒ぎを起こすことで、自身の討伐隊を生み出すこと。そして『気持ちよく殺されること』。
ある種壮大な無理心中である。被害が発生しなければ、どうぞ勝手にと言ったところであるが、海洋に発生した大渦、そして狂気に当てられ狂暴化した魔物や被害者たちによる被害は、決して看過できるものではない。
イレギュラーズ達による挙兵が、チェネレントラの目論見通りだったとしても――いや、目論見通りであるからこそ、あえて火中の栗を拾う必要があった。
この因縁に決着をつけることができるのは、ほかならぬイレギュラーズ達だけなのだから。
「大渦の底には、『ウェルテクス』と呼ばれる、海洋の伝説の古都が存在します。この都が滅亡した理由は私にはよくわかんないんですが、どうやら連中は内部に残っていた『死者』や、流れ着いた水死者を利用し、アンデッドの群れを作り上げ、このウェルテクスに展開しているようですね」
と、『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)はイレギュラーズ達へと告げる。
「皆さんにお願いしたいのは、この広大な都の一区画を占拠する魔種――『メリュゥ』の討伐です。メリュゥは嫉妬の魔種。その呼び声で『水死者たちの無念、生者への嫉妬』を増幅させて強化。操っている様子ですね」
ウェルテクスの一区画とはいえ、その範囲は数キロほどと目される。充分広く、またそこに無数のアンデッドたちがうごめいているため、正面切って突っ込めば、数の暴力で返り討ちになることは目に見えている。
そこで可能な限り隠密行動で潜入し、メリュゥを討伐する必要があるだろう。メリュゥは区画中央、教会の鐘付き堂で狂気を増幅させるような歌を歌っている。
「ある程度の戦闘は免れないでしょうが、可能な限り雑魚との戦闘は避けて、メリュゥを狙ってください。メリュゥを倒せれば、この区画のアンデッドは消滅するはずです。というわけで、無事生き延びて、しっかり稼いできてくださいね」
そういって、ファーリナはイレギュラーズ達を送り出すのだった。
- <泡渦の舞踏>廃都に嫉妬の声は響いてLv:10以上完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年02月07日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●水底へ
海洋へと到着したイレギュラーズ達は、大型船に搭載されたボートを利用し、さらに大渦へ接近していく。その後は海へと入り、敵地へと向かうのだ。
「……で、何この、何とも言えないスーツは」
自分の体を見やりながら、『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は呟いた。イレギュラーズ達の身を包むのは、練達により開発、提供された『海洋戦闘用スーツ・ナウス』だ。そのスーツは、ある程度の水圧・低水温からイレギュラーズ達の体を守り、水中にて地上とそん色のない活動を可能にするという優れものである。
だが、秋奈の好みからは、些かかけ離れていた様子だ。
「練達が自信満々に提供してきたものだ。性能は折り紙付きなのだろう」
『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)が言った。
「戦場は海の底。加えて相手は魔種だ。使えるものは、しっかりと使わなければな」
慎重を期して、警戒しすぎるという事はないだろう。あらゆる手段を講じて、ようやく相対できるか、という敵が相手なのだ。
「……そうね。私を戦場へと導いてくれるのなら、まぁ、我慢するわ」
秋奈はそう言って、嘆息した。そのまま、眼前に広がる大渦を見やる。
渦巻く大渦は、イレギュラーズ達を戦禍へと導く巨大な案内板である。無意識のうちに、秋奈は鼻歌を歌っていた。
ああ、大渦よ、私をあの場所へ、我が魂の在る場所へ誘ってくれ。
「準備が終わったなら、行きましょうか」
『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)が声をあげるのへ、イレギュラーズ達は頷いた。しっかりとスーツを装着したイレギュラーズ達は、次々と海へ飛び込んでいく。季節外れの海水浴となったわけだが、体力と体温を奪うだろうはずの水温はほとんど感じられない。謳われた性能通り、という事なのだろう。
鶫は水中でも問題なく呼吸ができることを確認してから、仲間たちへと目くばせをした。仲間たち全員の準備が完了したことを確認して、鶫は一気に、水中へと潜った。仲間たちも、それに続く。
深く、深く潜っていくにつれて、ボートの底面も、水面の明かりも遠くなっていく。それと入れ替わるように、眼下には広大な『都』が見え始めた。
(「あれが廃都……ウェルテクス。歌姫の舞台か」)
『駆け出し』コラバポス 夏子(p3p000808)が、胸中で呟いた。かつては栄華を極めていたであろうその都は、今は瓦礫の山と化して、かつての姿を思い起こさせるものはない。
(「正当なる報復……嫉妬の魔種。彼らの言い分が正しいのか、それを決めるのは俺じゃない。それでも――僕は、嫌だ」)
夏子は想う。眼下に蠢くであろう、嫉妬に駆られた報復者たちの事を。彼らが何を嫉むのか、それはもたらされた情報により、ある程度は把握している。しかし彼らがどのような境遇にあろうとも、今の彼らは間違っている、と夏子は思うのだ。
イレギュラーズ達は、ゆっくりと、海底にその足をつけた。破損した石畳。崩れた建築物が、イレギュラーズ達を出迎える。
そして、其処は海底であったのに、奇妙なことに、歌声が響いていたのだ。穏やかな旋律ではあったが、それは聞くものに、どこかチリチリとした焦燥感のようなものを覚えさせる。その感覚は、とりわけ、夏子、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)、『渡鈴鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381)、『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)。この四名に強く、働きかける。
「この想いは……」
Lumiliaが呟いて、顔をしかめた。少しだけ、覚えがある。自身も音楽を嗜むが故に覚えるもの。自らと同等、あるいは格上の音楽を紡ぐものに対する、感嘆。それがすこしずつ、ねじ曲がっていく。憧憬――対抗心――挫折――届かない――ねたましい――うらやましい――憎い、憎い、憎い――!
「大丈夫?」
アレクシアが、声をかけた。アレクシアもまた、表情をゆがめている。原罪の呼び声は、人の心をかき乱す。特に純種であるアレクシア達には、その影響も少しばかり、大きい。
「ええ、大丈夫……すこし、ビックリしただけです。アレクシアさんも、無理はしないでください」
Lumiliaの言葉に、アレクシアは頷いた。
「うん……大丈夫だよ。誰かを妬んだって、何にもならないってわかってるんだから。私はこんな声に、負けたりしない」
そういって、笑った。そうだとも、こんな声に、膝を屈するわけにはいかない。イレギュラーズ達の決意は、嫉妬への堕落に誘われることはないのだ。
「ふん……強烈だな。しかし、それゆえに醜く、愚かしい」
ライハが言った。嫉妬を掻き立てる歌声――その歌声の主に向けて。
「負の感情、とは言うが、嫉妬を抱くこともまた、健全な精神活動の一つだろう。しかしそれ故に手段を違える事は、愚かであると言わざるをえまい」
だが、とライハは続ける。
「常人には振る舞えぬ行いをするのならば、それは物語の華である。登場人物として相応しい――醜悪、劣悪、愚鈍なる歌姫を討つ物語のな」
「自分に才能がなくて絶望するなんて。それだと僕は、毎日絶望しなきゃならないね」
『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は、そう言って肩をすくめる。あははは! おかしいとばかりに、笑い声をあげた。
「まったく、まったく馬鹿馬鹿しい。今日でリサイタルはおしまいにしようか」
ランドウェラが言う。嫉妬に堕ちた歌姫が、なおも絶望をまき散らすのであれば、イレギュラーズ達はそれを止めなければならない。
イレギュラーズ達は確かな決意を胸に、廃都への一歩を踏み出した。
●嫉妬の海
「ははっ。これは凄いね。そこら中嫉妬でいっぱいだよ」
ランドウェラが声をあげた。スキルによる嫉妬の感情の探知は、その感情の発生源をランドウェラへと伝える。結果は、探査範囲内に文字通りの『無数』。もし紙の地図上に赤く点を打つのだとしたら、点を打つより塗りつぶした方が早いだろう。
「常に気を張っていてください」
夏子が言った。自身は保護結界を展開した。これは、不意による瓦礫の破壊、それによって発生する音を防ぐ目的がある。
「私たちの責任は重大。上手い事潜んで進まなきゃならないからね」
と、夏子。秋奈はその言葉に頷いて、
「お願いね。その代わり、目標の排除には全力を尽くすから」
そう言って、あたりを見やりつつ、鼻歌を歌う。
「大群の中の目標を仕留める――中々に困難な仕事だけれど」
鶫がエネミーサーチにより、不意打ちを警戒しながら、言った。
「私達ならば、全力で臨めば、きっと。行きましょう」
鶫が先導し、一行は進んで行く。可能な限り、戦闘は避けた。周囲を埋め尽くすアンデッドたち、そのすべてを撃破するのは不可能だ。目標は、魔種、『メリュゥ』だ。遭遇するまでの消耗は避けたい。
とはいえ、ルート上、どうしても避けられない敵は存在する。イレギュラーズ達はそう言った敵は、迷わず撃退していった。
「さて……少しはかく乱になるといいが」
ラルフは呟きながら、録音した『戦闘音』を、自分たちのはるか後方にて再生させる。アンデッドたちの知能は高くないらしい。これならば、ある程度敵を、音の方へと引き寄せることができるだろう。
また、ラルフはトリモチを利用して、簡単なトラップも設定している。これは、ある程度の時間差で瓦礫が倒れるというものであるが、これも音の発生によるアンデッドたちのコントロールを狙ったものである。
「助かります……」
Lumiliaが言うのへ、ラルフは頭を振った。
「いや、これも私の役割だよ。君の結界にも助けられている」
Lumiliaもまた、保護結界による不意の音の発生を抑制しているのだ。Lumiliaはゆっくりと微笑んだ。
「ありがとうございます。私たちが力を合わせれば、この状況も突破できる……そんな気がします」
「もちろんだよ」
答えたのは、アレクシアだ。
「さぁ、急ごう。距離的に、もうすぐ鐘付き塔のハズだよ」
その言葉に、イレギュラーズ達は頷く。
「さて、まもなく愚かな歌姫との遭遇か」
ライハが静かに呟いた。
イレギュラーズ達は、危なげなく奥地へと進んで行く。進むにつれて、廃都に流れる歌声ははっきりと、大きく聞こえるようになっていった。やがて少し開けた場所へと到着したイレギュラーズ達が様子を窺えば、広場の中心、巨大な鐘が転がる瓦礫の山に腰掛けるように漂う、一人のローレライの姿が見える。
響く歌声は、確かに彼女の唇から漏れている。彼女こそが、魔種――メリュゥだ!
「……あたりにアンデッドの姿はない、な」
ラルフが周囲を油断なく見渡しながら、告げる。道中のイレギュラーズ達の活躍により、ある程度はかく乱されているのだろう。
「けど、ここに集まってくるのは時間の問題ね」
鶫の言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。すでに鶫の頭には、こちらへと敵意を抱くアンデッドの姿が浮かんでいる。となれば、迷っている時間はないのだ。
「行きましょうか」
夏子の宣言に、イレギュラーズ達は意を決し、一気に広場へとなだれ込んだ。その様子に、メリュゥは一瞬、驚いたような表情を見せ、それからうっすらと笑った。
「ほんとに来たのね。すごぉい」
そういって、笑い声をあげる。
「ええ、メリュゥさん。これ以上貴方が好きだった歌で、世界の破滅を導かせるわけにはいきません。いち演奏家として、ローレットとして、止めさせていただきます」
Lumiliaの言葉に、イレギュラーズ達は応じるように、各々武器を構えた。しかしメリュゥは笑みを崩さない。
「あなた達に、私の歌は止められないわ」
ゆったりと、メリュゥは泳ぐ。脳裏に響く呼び声が一層、強くなるのを、イレギュラーズ達は感じていた。
「誘いに乗ってくれるのならば、コーラス隊位にはしてあげようと思ったけれど」
「残念だけど、私達を勧誘しても無駄だよ」
アレクシアが言うのへ、ランドウェラが続けた。
「その程度で絶望とは馬鹿馬鹿しいね。僕はそのくらい間に合ってるんだよ」
「愚鈍な歌姫よ。今日よりは、我が物語にて謳われる存在となるがいい」
戦意を衰えさせぬライハ、そしてイレギュラーズ達。メリュゥは余裕を見せつけつつ、
「――そう。なら一度死んでもらって、その身体を使わせてもらうわね」
「なるほど。つくづく、説得不要。ただ打ち倒せばいいだけの敵を用意してくれるなんて、死神には感謝ね」
秋奈が言った。『戦神制式装備第九四号緋月』を抜き放ち、
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
高々と宣言する。もはや言葉は不要だ。あとは双方、どちらかが潰えるのみ。
深き海の底、忘れられた都市で、イレギュラーズ達の戦いが始まった。
●『幸せな歌姫』
両者の激突が、海を震わせる。魔種とイレギュラーズ、双方の放つ攻撃が衝撃波を生み出し、周囲に高らかと響き渡るようであった。
魔種より発せられる原罪の呼び声はが、イレギュラーズ達の脳裏をかき乱す。植えつけられるは嫉妬! 妬み! 嫉み! 内側から殴りつけるように胸を叩く衝動が、イレギュラーズ達の活力を奪おうとも、しかしイレギュラーズ達は敢然と立ち向かう。
「魔を退ける力を……! 勝利の紫花《アクイレギア》!」
アレクシアの両手に輝くブレスレット、『トリテレイア』と『クロランサス』が輝き、紫花を刻んだ結界が、アレクシアの周囲へと展開される。それは、魔に抗する力を与える結界である。
「可愛らしいのね……そんな結界で、私の声は!」
響くメリュゥの歌声が、アレクシアを襲う。その歌声は、文字通りに『痺れる』歌声だ。聞いたものの鼓膜を打ち、神経を蝕むそれを、アレクシアは結界の力ものせて、耐えきる。
「そんな歌声……誰かを妬んでも、何にもならないんだよ!」
アレクシアが叫ぶ。
「勝ちたかった君は足搔いた。然し諦めて結局声を受け入れた。それはただの逃避だ」
ラルフが手にした『魔導拳銃「アウトレイジ」』より放たれる、『仇花の蠍』。かつて仇敵より受けた毒は、今はラルフの内にて、敵を蝕む猛毒の弾丸と変わる。毒の銃弾は、擦過しただけでも強烈な毒性を付与する。メリュゥは、己の肌より噴き出す血を、無感動に見つめた。
「こういってくれないかしら。『別のステージを見つけたの』って」
告げるメリュゥへと、迫るのは弾丸である。超遠距離より狙撃された銃弾が、メリュゥの喉笛を狙う。メリュゥはとっさに身をひねってそれを避けた。首筋を銃弾がかすめる。走る衝撃と痛みに、メリュゥは顔をしかめた。
「ひどいのね。喉は歌姫の命よ」
非難の声をあげるメリュゥへ、
「――結構。私達は、あなたの生命を奪いに来たのだから」
『慣性制御式高初速狙撃銃『白鷺』』を構えた銃弾の主、鶫が答えた。
「それで、見つけたステージが……ここが、あなたの魂の在る場所?」
秋奈がそういって、大きく息を吸い込んだ。途端、吐き出されるは、あたり全体を震わせんばかりの巨大なる『喝』の声だ。それは物理的な衝撃波となって、メリュゥを打ち据える。
「乱暴な歌声ね……!」
メリュゥが言うのへ、秋奈は鼻を鳴らした。
「ここに花は咲かない……あなたにはお似合いね」
「余裕を言っていられるのも今の内よ。あたりを見て見たら? 歌声にひかれて、観客たちがやってくるわよ」
メリュゥの声にあたりへと視線をやれば、ついに周囲のアンデッドたちが戦闘音を聞き付け、やってくるのが見える。アンデッドたちが口々にがなり立てるのは、嫉妬の声。生者への嫉妬、生への嫉妬。おぞましく海底を震わせる、怨嗟の声!
その声に負けぬように、Lumiliaは『白銀のフルート』を高らかに歌わせた。奏でるは『神の剣の英雄のバラッド』。偉大なる英雄の詩曲があたりに響く。聞くものに加護を与えるその曲は、演奏者への負担も大きい。額に汗をにじませながらも、Lumiliaは演奏をつづける。アンデッドたちは、そんなLumiliaをターゲットにとらえた。
「……予定通り、アンデッドはこちらで抑えます!」
Lumiliaが仲間たちへと告げる。
「怒れる君達が畏ろしい! 自信溢れ正当性を唱える君達は素晴らしい!」
一方で、大声を張り上げて、迫るアンデッドの群れの注意をひいたのは、夏子だ。
「だからこそ……勇者を面白半分に扱う歌姫を討つ! こい、正当なる報復者を自称する者たち! その嫉妬、僕に届くと思うな!」
「さて、時間はないからね。惜しみなくやらせてもらうよ」
ランドウェラは言って、メリュゥを見やる。それだけで、充分。『呪詛:紅目』は、見るだけで呪をかけることを完了する。
「く……う……!」
メリュゥは呻き、
「無駄な抵抗だわ……!」
吠えた。
「だが、それは諦めていないという事だ、醜悪な歌姫よ。お前は諦めた」
ライハが言った。放つ精神の弾丸が、メリュゥを穿つ。
「故に――お前は謳われども、英雄にはなれない。お前はその権利を、放棄したのだから」
怒りの形相で、メリュゥはライハを睨みつける。イレギュラーズ達の脳裏を殴りつける歌声が響く。少しづつ、気力は失われていく。だが、屈するわけにはいかない。
「さぁ、こっちだよ! 私たちは、絶対にあきらめないんだから!」
アレクシアは、『誘争の赤花』を撃ち、アンデッドを迎え撃つ。倒れた端から、その死骸を乗り越えて、次々とアンデッドたちがやってくる。このままでは、決壊も時間の問題だ。だが、イレギュラーズ達の瞳に、諦めの色はない。
絶望的な状況。誰もが嘆き、神を呪うであろうその場で、彼らは決して、膝を折らない。
その姿がメリュゥを――『かつての敗者』の心を、激しくかき乱した。
「なによ……! さっさと、諦めて――」
「俺たちは、諦めんよ」
その言葉を遮ったのは、ラルフだった。
「だから――そんな君に、俺たちが負ける道理はない」
放たれる弾丸が、メリュゥの体を貫いた。メリュゥが痛みに顔をしかめ、すぐさまその顔が、嫉妬へと彩られた。
生者への嫉妬。
――諦めず、戦い続ける。それができる者たちへの嫉妬。
メリュゥは大きく口を開いた。呪歌を紡ぐ――だが、その瞳が驚愕に見開かれた。
鶫の狙撃だった。
放たれた銃弾は今度こそ、メリュゥの喉を貫いて、その声帯を破壊した。がぼ、とメリュゥが血の混じった泡を吐く。無意識に手を伸ばした。海面へ。光のある場所へ。
「やっぱり。君は、幸せなんかじゃなかったんだよ」
アンデッドを抑えながら、夏子が静かに、呟いた。その呟きを聞いたLumiliaは、悲し気な瞳を見せた。
メリュゥが海面へと伸ばした手を、掴む者はいない。
「――さようなら」
秋奈は、その刃を鋭くメリュゥへと突き出した。『桜花の刀』が、その心臓を貫く。命を奪う一撃が突き刺さり、メリュゥの体が泡と消えゆく。
「ただの寂しがりやめ」
ランドウェラが呟いた。メリュゥの体は、わずかな時間で泡となって消滅した。途端、あたりのアンデッド達もその活動を停止して、動かなくなる。
「かくて歌姫は泡と消え。廃都は静寂の内に――」
ライハが静かに、そう謳った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様の活躍により魔種は撃退され、嫉妬に操られた死者たちも、また静かな眠りへとつきました。
ウェルテクスは静けさを、取り戻すことでしょう。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
古都ウェルテクスに布陣したアンデッドの群れ。
これを突破し、魔種メリュゥを撃退しましょう。
●成功条件
『幸せな歌姫の』メリュゥの撃退
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●原罪の呼び声
純種のキャラクターには、原罪の呼び声の影響を受ける危険性が発生します。
その属性は嫉妬。とりわけ生者への嫉妬、光ある生への嫉妬が強いようです。
●状況
海洋は大渦の底、水中にある廃都『ウェルテクス』。その一区画が舞台です。
一区画とは言いますが、範囲は数キロほどあると思われます。建築物の材質は、主に石やレンガなどが多いようですが、ほとんど崩壊しており、原形をとどめているものは少ないです。
目標であるメリュゥは、区画中心、教会の鐘付き堂にいます。とはいえ、建物の原形はとどめていませんので、大きな鐘が転がっている瓦礫の上にいるイメージです。
舞台は水中となりますが、皆さんには練達より『海洋戦闘用スーツ・ナウス』が提供されています。そのため、特別な対処をとらなくても、水中行動によるペナルティなどは一切存在しないものとし、すべてのアイテムやスキルなども問題なく使える(ように工夫されている)ものとします。
●エネミーデータ
アンデッドの群れ 無数
特徴
ゾンビ、スケルトンで構成されるアンデッドの群れです。
『山ほど居ます』。くれぐれも、全滅させようとは思わないでください。
視覚と聴覚、頭の回転は些か鈍いですが、戦闘音などが発生した場合などは、その方へと向かう傾向があります。
至近距離~中距離の物理単体攻撃を行います。BSの付与などはしません。
『幸せな歌姫の』メリュゥ ×1
特徴
元海種、人魚の魔種です。元々は歌姫を目指していましたが、数多の才能ある同僚に自分の限界を思い知らされ、嫉妬と絶望に鬱屈した毎日を送っていました。
呼び声に当てられ、嫉妬と破滅を謳うローレライになった今は、とても幸せで充実した毎日を送っています。
至近距離~近距離をカバーする『歌声』による神秘単攻撃と、中距離~超遠距離を狙う『叫び』による神秘範攻撃を使用。
『歌声』による攻撃では『麻痺』が、『叫び』による攻撃では『混乱』が付与されます。
また、以下の特殊スキルを持ちます。
『原罪の呼び声:嫉妬』
毎ターン開始時に自動発動する。
戦場内のすべてのイレギュラーズを対象とする。対象は特殊抵抗判定を行う。判定に失敗した対象は『懊悩』を受ける。
以上となります。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
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