PandoraPartyProject

シナリオ詳細

紅に佇む者たち

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●この世界は美しい
 そう囁く男の、静けさの中に漂う血の臭いがイレギュラーズを警戒させる。

「……移動方法に不満アリ。という顔だなぁ」
 スマートなスーツと対照的に派手な仮面を着けた男は苦笑した。
 ローレットへ仕事を依頼したこの男。イレギュラーズに特定の場所で待たせ、黒塗りの馬車で迎えに来た彼の配下に館までの道程を一切知られる事無く連れて来させていた。
 あからさまに怪しい移動、名も知らぬような男が貴族さながらに豪奢な屋敷で大勢の兵士と暮らしている。
 少なくとも依頼を受理されるだけの信用をローレットから得ているのだろうが、イレギュラーズは目の前の男に気を許す筈も無かった。
「安心してよ、俺達はアンタ方からしたら有象無象の雑魚さ。いつぞやの盗賊王騒ぎで集まって来た連中に比べたらナメクジだからさぁ
 と、いうわけでアンタ方に依頼したい。とっても簡単だから一度しか言わない、よく聞いててね?」
 男は名乗らない。
 豪奢な屋敷に似合わぬ古びた円卓の中央に放った数枚の写真とカードをイレギュラーズへ見る様に告げた。
 それらを手に取る。
 写真に写っていたのは修道女らしきプラチナブロンドの女だった。インディゴの瞳が写真を撮ったであろう人物に気付いて捉えていた事が分かる。
 彼女は依頼人が敵対する『悪い組織』の抱える暗殺者なのだという。
「分かり易く、そして俺達に不利益の無い言い方をしよう。
 その女暗殺者と女が飼っている密偵達は非道な事に”俺達”の弱味を握った。その弱味を次の三日月の夜に女が飼い主の所へ持って行くんだ。
 分かるかな。彼女は悪人だ、それに付き従う密偵に至っては人を陥れる事を喜びとする屑さ」

 あくまで静かに、囁くように。
 男は派手な仮面の下で赤い瞳を瞬かせた。
「アンタ方は何を気負う事も無い、第一目標はただ女とガキを『何故か誰も通らない夜道で』二度と悪事を働けなくするだけ。
 ……第二に、悪の親玉をとっちめる。町は平和、俺達は怯える事も無くなる。イイ事尽くめって奴だねぇ」
 と、そこでイレギュラーズの一人が挙手した。
「なんだい」
「その『弱味』とやらで脅しをかけられたらどうすればいい?」
「脅されたら従ってあげよう。ひと思いに楽にしてやれば喜ぶよ、フフフ」
 仮面の男は「傑作だ」と言って拍手する。

「それで、この依頼を受けてくれるなら俺達は嬉しいんだけど……どうするんだぃ?」


 その日、幻想王都近郊に位置する『サンドバーヴィットの町』に雨が降った。
 サンドバーヴィットは都市部に近いだけあって活気があるが、その反面陰の多い町でもあった。
 複雑に入り組んだ路地裏。
 一見するとスラムを思わせる様な荒んだ空気を孕んでいるものの、その実此処には表と変わらぬ秩序と法が存在した。
 修道女の格好をした女はその ”法” を示す側の人間である。
「お姉ちゃん!」
 入り組んだ路地裏には細い脇道も多い。突如横道から飛び出して抱き着いて来た少女に、修道女らしき女が怯む。
 胸元から提げている、花を模ったペンダントが揺れる。
「……こんな所で何をしているの」
「お姉ちゃんの『ごしゅじんさま』が頼んだ物、遂に見つけたんだ! こっち来て! お兄さん達やルロー達集まってるよ!」
 少女は嬉しそうに修道女の手を引くと雨降る路地裏を進んで行く。

「これで悪い人をやっつけられるんだよね!」
「……ええ」
「町の人を困らせてる人達はいなくなるんだよね!」
「……そうね」
「これで、お姉ちゃんが人を傷付けなくていいんだよね!」
「…………」

 路地裏を抜けた先で修道女達を迎えたのは、数人の男女の姿だった。
 彼等は一様に年齢はバラバラで共通点も無い。
 衣服の下に残された痛々しい傷痕以外は。
「……」
「行こう、お姉ちゃん!」
 修道女は少女の首筋に見える火傷の痕に視線を向ける。

「ええ。これが最後の仕事ですね」

GMコメント

 悪属性依頼となりますのでご注意を。

 以下情報。

●依頼達成条件
 路地裏にいる人間を全て殺害する

●ロケーション
 入り組んだ路地裏が広がるサンドバーヴィットの町の裏側とも言える領域。
 依頼開始時(リプレイ開始時)、この路地裏には依頼人の根回しによって無関係な人間は一人もいない状況です。また雨が降っている為、回避にマイナスの補正が掛かります。
 内部は狭く、並べても二人が限界です。
 イレギュラーズ各位はそれぞれ不意打ちに注意して殲滅に当たって下さい。

●標的
 依頼人の弱味を握る非道な輩だとの事。容赦なく彼等に引導を渡してあげましょう!
 件の女暗殺者含め標的の能力武装等は不明です。
 しかし依頼人が差し出した情報によれば過去に彼等が関わった事件において、常に火災が起きていたそうです。
 最低でも10人以上が相手、路地裏に散らばっていると考えて下さい。

●情報精度C
 あまりにも情報量が乏しく、『どちら』が行っているにせよ意図的な情報操作がされている可能性があります。
 断片的かつ曖昧な情報を基に油断すると不測の事態が起きる可能性があります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • 紅に佇む者たち完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月08日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
美音部 絵里(p3p004291)
たーのしー
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
酒々井 千歳(p3p006382)
行く先知らず
ネージュ・クラウベル(p3p006837)
雪原狼
リュンクス(p3p006839)
白山猫

リプレイ

●狩り立てる。
 頬を濡らす雫が雨粒ばかりとは限らない。
 赤い飛沫を片手で拭い、『Code187』梯・芒(p3p004532)はフードの下で、
「――いやいや、依頼人も相手もどちらも胡散臭いね」
 既に息絶えた男の側頭部に突き立てられていたナイフを引き抜く。
 崩れ落ちた亡骸が水溜りへ落ち、紅い飛沫が上がる。
「今回のお相手は悪い人なのです? 大丈夫、どんな人でもお友達なのです。たくさん増えるといいなー……ふふふー」
 一方で。
「ッ、っ、っ……」
 バタバタ、と。背中の急所を切り裂かれた所為か。水溜りに顔を沈めたまま女が手足を動かす事も出来ずに痙攣していた。
 さも『たーのしー』美音部 絵里(p3p004291)は嬉しそうに黒い瘴気に包まれた短刀を振る。
 その瘴気はたった今彼女が殺害した老婆の残留思念である。
「……でも、芒さんは的にはそこらへんはどうでもいいんだよ。そういうお題目なんて所詮は名目の為だけのもの
 だけど、名目が立つっていうのは重要なんだよね」

 ――――ガタタンッ
 二人の視線が音源へ向く。

「――こういうことを続けて行くにはね」
 狭い路地裏。
 ただでさえ薄暗い細道に差す影は今、空を覆う雨雲によって濃さを増していた。

 一刻前。
 風が無いのがせめてもの救いか、『ハーフメタルジャケット』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は文字通り雨天の中で目を細めた。
 眼下に広がる、無数に枝分かれして伸びている町の裏路地。その盤面を彼は睨む。
「そういえばこの街はゾンビ事件も発生してたね」
 妙に闇の深い町の様相に「ふむ」と零して。
 ルチアーノは路地裏へと続く『入り口』に黒服の男達が張っているのを見つける。恐らくは、あれが【根回し】なのだろう。
 視線を巡らせれば、彼が今回共に行動する予定の『雪原狼』ネージュ・クラウベル(p3p006837)が眼下をうろついていた。
「どうにも……上からは見え難い位置が多いね。人影も少ない、人気を避けるのに慣れてるのは間違いないだろうね」
 首を傾げ呟いたのは独り言というわけではない。
 上空のルチアーノが視線を巡らせる、路地裏の端を囲むように四ヶ所に散らばった仲間達へ念話で報せているのだ。
 一部不明な点を伝えたルチアーノは最後に補足するように、
「まぁ、慣れた人は言うまでもないんだろうけど。逆に言えば影が濃い位置を意図して通る奴がいる、今から近い人達に声をかけるからよく聞いて欲しい」
 幾つかのポイントを指定する。そこを意識して四方から中央へ追い込みをかけるようにする作戦だった。
 暫しの念話の後。彼は雨天の中で濡れた黒いコートを重くしながら、地上へと降りて行く。
 近付いて見た路地裏の景色は、彼にとって見慣れた光景だった。

●紅い雨。
 滴る雨粒が水溜りを、トタン板を、毛先を跳ねる。
「見つけた、そこの路地を言った先だね」
「では先に行かせて貰いましょう」
 耳をすませ、『行く先知らず』酒々井 千歳(p3p006382)の示した路地へ駆ける『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はそれまで差していた長傘を瞬時に閉じる。
 パン、と傘を持ち替えた彼は細いL字型の道を小走りで移動していた男達を発見する。
「……は? 誰だおま……グゥ!?」
 背中から『見られている違和感』を感じ振り向いた、壮年の男の視界へ飛び込む小型の爆発物。直後爆散したそれによって3人の男達が薙ぎ倒される。
 飛び起き、返す様に。漂う煙幕の向こうから寛治を狙って銃撃が幾重にも撒かれる。
「く、当たらない……! 何者だッ」
 雨の中点滅するマズルフラッシュ。壁沿いを流れる鉄パイプに傘の柄を掛けて身を翻した寛治が回避と同時に
「さて、何者かはご想像にお任せしましょう」
 宙返りから強かに着地した寛治が長傘を構え、身を僅かに低くする。
「っ……!?」
 引き金に掛けた指先すら動かず、思わず息を呑む。
 狭い裏路地の向こうから一気に駆け抜けて来た千歳が寛治の頭上を飛び越え、彼等の眼前へと降り立ったのだ。
「ひ……ッ」
「────」
 悲鳴も、鯉口を切った音すら響かせず。
 両脇から薙がれた二振りの刃は数多の雫を切り裂き、銃口が千歳を捉えた時には胸元三寸。肋骨の隙間へ滑らされた太刀が脈動する臓を両断する。
 瞬く間に身を翻し後退した千歳の後方から怒涛の弾幕が男達を薙ぎ倒して行った。
「ぐぁああっ……ッ!」
「引き受けた以上は依頼は完遂する、それが”ギルド”のルール。此処にいる以上は全て殺すよ、勿論──例外なくね」
 最早虫の息、ルローと呼ばれていた初老の男を千歳の刀がその切先で捉える。
「……っま、待ってくれ……こいつをしかるべき場へ持って行けば……」
「千歳様」
「ああ」
 粘つく赤い水溜りが雨に流されて行くのを見下ろしながら、寛治の待ったの言葉に刀を納める。
「その本には何があるのかお聞きしても?」
「ああ……何者なんだアンタ達」
「それを聞いても、貴方の末路は変わりないという事ならお教え出来ますが」
 眉一つ動かさず放った言葉にルローは戦慄し、同時に彼の目に諦観のそれが映る。
「……っ、この本に記されているのは……ゼリクリエルという貴族の執事が残した日誌だ、この町を蠢く、悪党どもを討つ……ゴホゴホッ、証拠……」
 ルローという男は喉の奥から溢れる血液に喘ぎながら答えていく。
 最期の時が迫る最中、彼は告白する──



 ───入り組んだ裏路地を巡る。
 寛治と千歳達が進攻する位置より対角線上。狭い路地に散乱するゴミを飛び越え、疾駆する姿が一つ。
 雨音に混ざり何処からともなく響いて来る足音を追う。
「近いが……このまま放置されないよな?」
 腰元で揺れるカンテラが足元を照らす。
 囮をしていたネージュは標的が近くに居るのを察知し、意図して水溜りや障害物を避けていく。
 じきに接敵するという時になっても、彼の相方からのアクションは無い。
「……?」
 視界が開けた瞬間。不意に立ち止まる。
(……足音が消えたという事は)
「やぁー!!」
 威勢の良い怒鳴り声と共に振り下ろされた鉄パイプをネージュは反射的に得物で受け止める。
 奇襲の主は子供。次いで駆けて来た少年が振るった手斧を片手で受けた彼は、拳を容赦なく叩き込んで薙ぎ倒した。
「うぎゃ……!」
「ショーン! うわぁああ!!」
 更に現れた木の棒を振り回す少年を軽くあしらうかの如くネージュが得物を振り抜く。強烈な一撃が鼻先を掠め、少年達の悲鳴が再び重なる。
 その瞬間。
「お待たせ」
 ネージュの側へ突如降り立ったルチアーノが一言。直後、雨粒さえ散弾の様に弾く程の速度で繰り出された拳打が少年達を殴り飛ばした。
 壁に叩き付けられた姿にルチアーノは表情を変えず、瞬時に懐から抜いた短刀をマスケット銃へ変じさせ。逃走に移ろうとしていた少年の背中を凶弾が射抜き鮮血が散った。
「ぅぅう……! た、助け……」
「ゲホッゲホッ!!」
「君達に聞きたい事があるんだ」
 既に動ける様な状態ではない様子の少年達にルチアーノが近付く。
「……ルチアーノ。こっちに誰か近付いて来てるが」
「少し任せてもいいかい」
「ああ」
 去り際、怯えた瞳を揺らして見上げて来る少年達へネージュは一瞥し。
「悪く思うなよ。これも仕事でな」
 路地の先へ駆け、直ぐに狭い脇道へと彼は消えて行く。
 それを見送ったルチアーノ達は再び向き合う。息も絶え絶えに胸元を抑える子供達は、或いは助かるかもしれないといった希望を持って彼の続きを待っていた。
「君達は悪人だって聞いてるけど、本当なのかな? 無念を晴らすことができる機会もあるかもしれない。だから教えて」
「……や、嫌だぁあ!! 死にたくない! 殺さないで……!」
 少年達は口々に命乞いを繰り返す。
「ぐぁああっ……!! ひ、ひぃ……! おいガキども、助けろ……たすけッ」
「……!?」
 その最中ネージュが消えて行った方向から幾度と怒声と罵声が響き。発砲音が連続する。
 突如路地の奥から吹き飛んで来た大柄な男が少年達に助けを乞うも、直後にドリルが振り下ろされ強烈な一撃が男の命を奪う。
 それを目の当たりにした少年達の顔から更に一層血の気が引いて行く。
 今度は、少年達は知っている事を話し始めた。
「……俺達はあの、頼まれたんだ」
「誰に?」
「バゼラート・ルロー……お、俺達『火厄同盟』の……雇い主」
「火厄同盟というのは?」
「あぅ……俺達は……」

●紅に佇む者。
 先のルチアーノから指示された位置を探りながら、『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)が湿気た煙草を傍らに放り捨てる。
「皆殺したァ景気が良いな! 老若男女容赦なし、っつーのも好みだ。差別はいけねェよ差別は」
「……わからん事だらけだがまあ、なる様になるだろう」
 屋根上を行く『白山猫』リュンクス(p3p006839)は雨の勢いが弱まりつつあるのを感じ、ふるりと頭を振る。
 その様子を見たことほぎが肩を竦めて。
「雨降ってんのが鬱陶しいが……まー文句言っても晴れるワケじゃねーしなァ」
「……猫の事なら、別に雨を疎ましくは思っていないぞ。足音も気配も消し易いからな」
「オレは煙草吸えねーのがネックだな」
 ”表”が精肉店だからか、腐った肉片が散らばっているのを避けながらことほぎは目を細めて言った。
「そういやァ……」

 ――――ガタタンッ
 ……リュンクスに見過ごした場所は無いか尋ねようとした時、すぐ近くで物音が響いた。

 警戒する様にツインエッジを抜いたリュンクスに、ことほぎが「あー、あれは違う」と走り出した。
「オレが放った式神だ。あっちに居るみてェだな」
「なるほど。さて、やっと仕事の時間だ……さっさと片付けるとしよう」
 地上から回り込む様に駆けることほぎより先に、屋根上を行くリュンクスが音源へ向かう。
 軽やかに足を滑らせる事も無く。タン、タン、と跳んで行く白猫の眼下に黒い頭巾がチラついた。
(あれは……例の暗殺者、か)
 修道服。降り注ぐ雫と同じ、透明な印象を与えるプラチナブロンドがベールから見える。
 依頼人が特に殺せと念押していた女暗殺者である。
 リュンクスは追いながら黒い刃を揺らす。獲物は既に真下をうろついているのだ、その中でも最も一刀で致命たらしめる対象を彼女は目算で選び抜く。
「ひが……ッ、ぁ!?」
 一度決めれば行動に移すのに数秒も要らない。
 白猫が宙に身を躍らせた直後、劇物を塗り込んだ刃は無慈悲にシスターの背を追いかけていた少女の急所を貫き絶命させた。
「……む……ッ」
 瞬間、突如轟く空気の悲鳴。
 彼女の前方から狭い路地を埋め尽くす火炎の渦が押し寄せ、肌を焦がす。
「シレーヌ……! 妨害が来るとは思っていましたが、子供を手にかけるなんて……!」
「こちらも仕事でな。精々恨むが良いさ」
 ”暗殺者”らしからぬ威力の範囲魔術。回避の遅れたリュンクスの片腕が痛む。
「よくもシレーヌをぉ!!」
 横振りの一撃。通路奥から狙う杖。
 二刀で初撃を受け止めたリュンクスは、微かに香る魔術の匂いを察知し。壁を蹴り屋根上へと飛び退いた。
 シスターの背後から繰り出された魔弾が雨に濡れた地面を吹き飛ばし土砂を撒き上げる。
「ここは私達に任せて、先に行ってルロー達と合流を!」
「敵は一人……三人がかりなら!」
 鉈を構える青年へ言葉は返さず、応じる様にシスターが二人の魔法使いの間を駆け抜けて行く。

「「―――逃がさない(ねェ)よ」」

「なっ……」
 魔法使い達を淡い光が包んで染み憑く様に消える。リュンクスを追って来たことほぎの放った呪いが一瞬にして女達をその場に縫い付ける。
 シスターの向かった先から血に染めたナイフを揺らして現れたのは、ことほぎの式神に誘われて来た芒である。
「こっちに向かって来るなら、お友達になってくれるってことですよね?
 ――嬉しいな! 直ぐにお友達にするのです!」
 死の気配を纏う少女が躍り出る。
 絵里は、新たな出会いに心底嬉しそうに――女の子のお友達が増える事がとても嬉しくて――何度も短刀を振り回して笑顔を見せつけて。
 二度、三度と火炎が渦巻き。絵里とシスターが一度衝突してから互いに弾かれる。
「はあ、はあ……っ、あなた達……は、あの時の……」
 シスターの脳裏を過ぎる。屋敷を包む紅蓮の炎を背にして佇む者達の姿。
「……誰だっけ?」
 しかし、芒や他の者達は憶えていないし知らないだろう。イレギュラーズと直接会ったのも一度だけなのだから。
 仮に過去ローレットを通して依頼をした事があろうと、ここで逃す筈も無いのだが。
「イレギュラーズ……ぁ、あなた方は何を依頼されてここに……」
 震える唇とは裏腹に手慣れた動きで屋根上へ駆け上がり。袖の中から紅い粉末が舞う。
 ことほぎが彼女の問いに答えた。
「お前と、さっきのガキ。『弱味』を握った連中を殺すのがオレたちの受けた依頼だ……どっかで見た顔だが、まァ、関係ねェ。ここで景気良く逝っとけ」
「女の子のお友達、嬉しいなー」
 囁く様に、怠惰なる祝宴がシスターの加勢に向かおうとした青年を包む。
 そうして彼等はボンヤリとした緩やかな意識の片隅で、激しい感情を滾らせながら。飛び掛かって来たリュンクスと絵里に為す術も無く蹂躙されて逝った。

 降り注いでいた雨が再び強まる。
「ローレット……弱味、孤児……そういう事ですか」
 ジュウ、と鳴る。シスターの袖から吹き上がる紅蓮の渦は、彼女自身にも焼かれる痛みを反動として与えながら。静かに雨粒を蒸発させていく。
「……全ては私達を謀る為の……これだから、貴族は……ッ!」
 足元を爆散させた反作用でその場から一気に跳躍する女暗殺者。
 イレギュラーズに向けて開く業火の掌。
 トリガーさえ引けば鉄をも溶かす火炎の熱波が殺到し、彼等は例外なく痛手を受けるだろう。
 しかし彼女は次の瞬間。恐るべき速度で追って来た芒が投じたナイフが己の胸元に突き立ったのを見た。
「はッ……あっ――」
 致命的な一撃。
 濡れた屋根上を転がった彼女へ続いて飛来した殺人者の刃は、ただ逃すまいとして更なる一撃を突き立てた。
 何か言うわけでも、死に際の無念を晴らそうと語るわけでもなく。
 胸元から零れ落ちた花を模ったペンダントを追う事も無く。シスターはその一刺しで呆気無く死んだ。


「一人じゃないって素晴らしいのです。皆、みーんな一緒なのですよ。ふふふー」
 自身の周囲を見上げながら絵里が喜んでいる声が聞こえて来る。
 路地裏のあちこちを逃げ回っていた標的の全てを狩り尽くしたイレギュラーズは、『表』へと出る前に集まっていた。
 再び上空から周辺を索敵したルチアーノが一同の下へ帰還する。
「人影無し。それに……裏路地を見張っていた黒服達も帰ったみたいだ」
「帰った? 俺達はまだ報告もしていないぞ」
「では我々の依頼遂行を見届ける手段が在ったという事なのでしょう」
 ネージュが訝し気に路地の外へ視線を向けると、丁度その視界を塞ぐように寛治が彼の前に現れた。
 寛治の背後では見知らぬ男が手を振っている。

「結局、弱味とは何だったんだ?」
 ネージュ以外の仲間達の視線が集まる。
 結局、それらしい証拠品を遺体から発見したのは寛治達が始末したルローの物だけだったのだ。
「例のシスターの仲間に僕が聞き出した話では、サンドバーヴィットを支配する貴族の弱味だと言っていたよ──でもそれは真実じゃないんだろう」
「ええ。この日誌はそんな物ではありません」
 寛治は雨天を仰ぐ。
 先の男、寛治が独自のコネクションで接触したサンドバーヴィットを知る男に調べさせた情報はルチアーノの予想を裏付けていた。

「ここ半年程、この町で放火による火災が相次いでいたのは一部ご存知でしょう。
 被害者はいずれも貴族だったにも関わらず憲兵による捜査の手は伸びず、その事件の犯人は未だ捕まっていなかった。
 ルチアーノ様は既に聞いたのではありませんか? 子供達は『火厄同盟』という少年ギャングとして、依頼された貴族の邸宅に火を放っていたと」
「……! そうなのか? ルチアーノ」
「少年ギャング、かは知らないけれど。彼等はそう言っていたよ」
 だが、とルチアーノは静かに頭を振る。
「彼等は自分達を正義の味方だと信じていた、僕にはそれが分からない。何故彼等はそんな事を?」
「ガキっつーのは思い込みで何でも信じるモンだろ」
 湿気った煙草に火を点けようとしながら、ことほぎが言った。
 それを、寛治は肯定した。
「彼等はある組織抗争に利用されていた。
 時は同じく半年程前、幻想のとある貴族が葬られた時からこれらは始まり……
 火厄同盟に虚実の正義を植え付ける役目を任された、あのシスターと。彼女が手懐けた協力者達の死によって全ては幕を閉ざしたのでしょう。
 私達はあの仮面の男を動かす黒幕に手を貸したが、あくまでこの町の怪物を消したに過ぎない」
 雨の音が強まる。

「……お前達は、あの男をどうしたいんだ?」
 ネージュの問いに誰も答えない。
 雨に打たれる死者に問うも、この場では分からなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

戦闘、逃走者を追い詰める策、考察。どれもシナリオ上とても良かったです。
描写として、今回は戦闘貢献と情報収集に対するリプレイになっているかと思います。

依頼は成功、お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。

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