PandoraPartyProject

シナリオ詳細

瓶詰妖精を知っている?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヘルミーヘルミー
 その泣き声で、こんな夜中に目が覚めた。
 虫の音も、鳥の声も聞こえない。そんな静寂の時間なのだから、きっと両親も寝静まっているに違いない。
 自室を出ると、父と母を起こさないよう板張りの廊下を慎重に進んでいった。
 泣き声の主に検討はついている。
 母が昼間、市場で買ってきたという瓶詰妖精だろう。
 可愛いインテリアでしょうと笑っていたものだが、小さな瓶に閉じ込められたその可憐な彼女が不憫で、気になっていたのだ。
 妖精の纏う鱗粉で、淡く幻想的に光る透明な瓶を手に取った。
 中で、小さな女の子が泣いている。
「帰りたい。帰りたいよう」と泣いている。
 だから蓋を開けてやったのだ。これでもう自由だ。何処へなりとお行きと言ってやったのだ。
 妖精は喜び、部屋を飛び回った。そして小さな手で僕の腕を引き、お礼をしたいから、是非自分の里まで来てほしいと言う。
 ふたつ返事で承諾した。自分は正しいことをしたのだという実感があったし、妖精の里というのにも興味があった。
 そうして、連れられていった先は想像通りのものだった。月の光も届かぬ森の奥で、それでも空気中の鱗粉が光り、一度だけ入った魔法店のような煌めきで満たされている。
 小さな家々が建てられており、それが彼女らの住まいなのだという。
 妖精がそこかしこに飛び回り、誰もが優しかった。「星のハーブで出来たお茶はいかが? 大きなカップはないの、ごめんなさいね」「良いスノウシュガーが手に入ったからクッキーを焼いたの、食べていってね」――だから、時間を忘れてしまった。忘れさせられてしまったのだ。
「もう、帰らないと」
 どれ程経った後だったろう。
 ふと家が恋しくなってそれを口にした。そうすると、妖精の返事はこんなものだった。
「何を言っているの。もうここが帰る家でしょう?」
 わけがわからなかった。ただ、急に怖くなって駆け出したが、妖精に言われるままついてきた彼には、帰り道がわからなかった。
 走ったはずなのに、いつの間にかすぐ後ろにいる妖精が言う。
「もう遅いわ。一晩経ったから、チタニアで一晩経ったから、あなたももう私たちと同じものよ」
 嘘だ、嘘だ。そんなはずはない。自分は瓶詰妖精ではない。
「じゃあ何処へ帰るというの? ほら、言ってごらんなさいよ」
 そんなもの決まっている。家だ。両親が待つあの家に――何処に?
 わからなかった。家はおろか、父母の顔も、名前も、嗚呼もう自分のものだって、何も思い出せない。
 景色が遠い。違う、小さくなっている。縮んでいる。縮小されている。
 瓶詰妖精になっていく。瓶詰妖精にされていく。違う。そうじゃない。
 元からそうだったじゃないか、そうだろ?

●君が僕で、僕は僕だ
「秋の中頃に売り子を見つけたので警戒はしていたのだが、小規模なチタニアが発生したようなのでこれの駆除をお願いしたい 」
 ギルド所属の男が君たちに告げた依頼の概要というのはそのようなものだった。
 チタニアというのは瓶詰妖精の棲み処のことを指している。これが不定期に発生するため発見次第対処しなければならないのだ。
 その理由は瓶詰妖精の特性にある。
「瓶詰妖精――正式な名称はもっとややこしいんだけどね。実利的には問題がないから、俗称のままで覚えてもらって構わないよ。学者さんらはうるさいけどさ」
 瓶詰妖精というのは妖精の一種のことではあるが、その繁殖方法が極めて危険であるために社会的な接触が不可能な種族だとされている。
 彼らはもっぱら侵食交配という手段をもってその数を増やしている。自分たちのチタニアに他種族を誘い込んでは、取り込み、自分たちと同じ瓶詰妖精に変えてしまうのだ。
 チタニアが発生する兆候として、売り子、と呼ばれる存在が確認される。
 この売り子が文字通り、瓶に入った妖精をインテリアとして一般に販売し、その妖精が、買い取られた先で家人をかどわかし、チタニアに引き込むのである。
「売り子から買わなきゃ、それで問題ないんだけどね。どうやら魅了の類も発しているようなんだ」
 そうであれば売り子をどうにかすれば、と考えるものだが、売り子自身に危害を加えてもその場ではあっさりと消滅するだけでまた街中で再発するのだとか。
 一般市民もいる中で武器を構えるリスクを考えると、ただの徒労に等しいものだ。
 よって、行われるのが瓶詰妖精の棲み処、チタニアの駆除である。
「駆除自体は簡単だ。こちらで用意した特殊な香水をチタニアの出入り口に置いてくるだけでいい。どうせだから観光気分で行ってきておくれよ。妖精の里なんてそうそう見られるもんじゃない。大丈夫大丈夫、繁殖期には遠い。そうそう襲われたりはしないよ。帰還率だって九割を越えているんだ、今年に入ってからはね」

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

瓶詰妖精の棲み家:チタニアが発生したため、これの駆除をお願いします。
瓶詰妖精はその特殊な繁殖手段のために一般社会へと害を及ぼします。
繁殖期ではないので動きはそこまで活発ではありませんが、放置していいものではありません。

一晩を明かさないことを前提に、ある程度チタニアを観光しても問題ありません。
瓶詰妖精は基本的に話したがり、聞きたがりでコミュニケーションを取ることに支障はなく、里の食べ物を口にしたことで何らかのトラブルが生じることもありません。

【当シナリオにて使用可能なギルドからの提供アイテム】
●瓶詰妖精*1
・文字通り、瓶に詰まった妖精です。
・夜間に開放すると繁殖のためにチタニアまで誘導します。
・この習性を利用し、チタニアまでたどり着いてください。
・チタニアまでの道は記憶頼りでは非常に迷いやすいため、帰り道の把握手段などは予め定めておいたほうが良いでしょう。

●特殊な香水*1
・これをチタニアの入り口に設置すると二晩でチタニアは消滅します。
・非常に強烈な匂いを発するので、設置するまでの間蓋を開けないほうが無難です。
・人体に害はありません。

【用語集】
●瓶詰妖精
・妖精の一種ではありますが、繁殖手段に社会的な問題があり、交流の図れる種族ではありません。
・サイズは一般的な人間種男性の掌程度。
・売り子を介してヒトを誑かし、チタニアに誘い込みます。

●売り子
・瓶詰妖精を販売する売り子です。
・フードとマフラーで顔を隠しているので、どのような顔立ちであるかは不明です。
・攻撃するとあっさりと消滅しますが、同時に別の地点で発生します。

●チタニア
・瓶詰妖精の棲み家をこのように呼称します。
・ここで一晩を明かすごとに判定が行われ、これに失敗するとヒトは瓶詰妖精に変質します。
・特殊な香水で消滅させることが可能ですが、不定期かつ不特定な場所で再発するため、一時的な手段に過ぎません。

  • 瓶詰妖精を知っている?完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月25日 23時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レンジー(p3p000130)
帽子の中に夢が詰まってる
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
武器商人(p3p001107)
闇之雲
リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)
咎狼の牙
マヘル・シャラル・ハシバス(p3p001278)
トレジャーハンター志望
プティ エ ミニョン(p3p001913)
chérie
アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)
α・Belle=Etoile
ス(p3p004318)
混じらぬ水

リプレイ

●仄暗い闇の中で
 直感的な問題から悪として捉えがちだが、厳密にはそのどちらでもなく『相容れない』というものが存在する。それに敵意を持つか諦念を抱くか存在せぬと決め込むかは受け取り手の自由だが、諍いというものは大抵そういうところから始まっていたりする。

「やあ、チタニアにわたし達を連れて行ってもらえないかな?」
 瓶の蓋を開けて、『大賢者』レンジー(p3p000130)が妖精に話しかけた。
 初めから里への先導を頼む相手というのは想定外のはずだが、それでも妖精は慌てた様子などなく、礼を言って彼らの先を行く。
 試行錯誤された行動ではなく、本能や風習に沿ったものなのだろう。
 蜂が蜜を集めるように。鮭が成長して川に戻るように。瓶詰妖精はそういう生き物なのだろう。
 薄暗い獣道を歩いている。
 妖精の発する光がなければ前も後も正しく認識するのは困難だ。
 月の光も届かぬ闇。薄寒さに二の腕を擦り、先導する小さな彼女についていく。
 がさがさと、がさがさと、落ち葉を踏み鳴らしながら。
 がざがさと、がさがさと、虫の声が聞こえぬことに違和感を覚えながら。
「今晩は妖精さん、私はベラと申します。貴方のお名前は?」
『風花之雫』アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)の言葉に、妖精は可愛らしく小首を傾げた。
 聞き取れなかったのではない。意味を理解していないという風だ。
 なるほどと胸中で頷いて、それ以上を問うのはやめておく。
 個というものの捉え方が自分たちとは異なるのだろう。
 風習が違うのではない。種族が違うのだ。
 それが確認できたからこそ、無理にすり合わせたりはしなかった。
「妖精! まさにファンタジーだな!」
『楽花光雲』清水 洸汰(p3p000845)の居た世界に、妖精は存在しなかったのだろうか。
 いや、存在していたとしても、ここほどの多種多様ではあるまい。
「だけどかわいい妖精かと思ったら、神隠し、っつーか侵食交配! ファンタジー怖ぇ!!」
 ころころと表情を変えて、思ったままを口にしているようだ。実際に、思ったままを口にしているのだろう。
「飾りとしては売れそうなのにね」
 既に閉じ込めているものの居なくなった空き瓶の中を覗き込みながら、『トレジャーハンター志望』マヘル・シャラル・ハシバス(p3p001278)。
 実際に、瓶に詰められた妖精というのはその幻想的な様から心惹かれるものがあった。
 生きている標本、とでも言おうか。残酷な要素も取り込んで、ひとつの工芸品のようでもあったのだ。
「インテリアも私の商材の一つだからね、売れ行き確保のためにもしっかり解決しましょう」
「ス、あっちいく? わかったー」
 皆が同じ方向に進むというものだから、ス(p3p004318)は逆らわずそちらへと流れていく。
 妖精としても、異色の生命体が珍しいのだろう。
 不思議そうな顔で、何度もそちらに目線を向けていた。
「ようせい? なーに?」
「ス、なーに?」
 尋ねたスに対して、妖精も気になったのか同じことを聞き返した。
 シュールではあるが、誰も上手く答えられない奇妙な空気が流れる。
 人間ってなんだっけ。
「瓶詰妖精の繁殖は随分と悍ましいものなのですね……存在を書き換える、といったところでしょうか」
 瓶詰妖精の特殊な繁殖手段に率直な感想を述べる『咎狗の牙』リュグナート・ヴェクサシオン。
 瓶詰妖精の存在は災害のカテゴリで話される。
 本来なら駆逐すべきだ。瓶詰妖精への対処が一時的なものに留まっているのは、手段が存在しないからに他ならない。
「元は同じヒトだとしても、救えぬのなら処分する……それだけの話です」
「瓶詰妖精になるのは怖いけど、それ以外はなんかかわいいし面白そう!」
 妖精の里、『cherie』プティ エ ミニョン(p3p001913)でなくとも、ファンタジーの世界をイメージすれば誰もが心惹かれるワードのひとつだろう。無論、世界観次第でいわゆる『妖精の悪戯』はその範囲が多岐にわたるものではあるが。
 だが、少なくとも瓶詰妖精の姿は愛らしい。
「いろんなものを見たり聞いたり食べたり持ち帰ったりできると良いなっ♪」
 
●薄い膜で隔てた世界
 愛らしい見た目。美しい色。良い香り。心地よい音。一般的にそれが好まれるということを知っている。それによって彼らが自分たちを手に取り、惑わされ、仲間だと思いこむというのを知っている。

 木々に傷を与え、色を付け、森の中を進んでいく。
 これまでの被害者が帰り道を見つけられないのも道理だと感じた。
 こんなにも暗い中で木々を見分け、自然の道標を記憶しておくのは至難の業だ。
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が何度目かの矢印を幹に刻む。森そのものに不可思議な効力はない。これでトレントか何かの棲み家であれば、流石にどうにもならない。
「お前、名前なんて言うの? あっ、オレは、清水洸汰! オレの事はコータでも、コーちゃんでも、カッコイイコータでも良いからな!」
 洸汰が自分たちを案内する妖精に話しかける。
 恐ろしい、恐ろしい生き物だが、外観までがそうではない。
 彼の居た世界には存在しなかったのだ。それだけで興味深い。
 だが、名前を問われれば、やはり妖精は首をかしげるばかりだ。名乗るという概念を持っていないのだろう。
 洸汰はそれでも構わずとばかり、次々に質問を投げつけた。
「なー、お前の家ってどんな感じなの? オレ達、妖精の家に入れるのかな?」
「大丈夫、私たちの家は小さいけれど、ひとが入れるくらいには大きいの。きっと気に入るわ」
「なあなあ、妖精の里ってカレーあるの? ラーメンは? とんかつはー?」
 妖精が首を傾げる。
 食べ物だと説明してやった。
「ごめんね、それはない。でも、美味しいものはいっぱいあるから、きっと気に入るわ」
 不意に、色が変わった。
 これまでの暗緑色が嘘のように、綺羅びやかな世界。
 光の玉が無数に飛び交い、目を凝らせばそれらがすべて妖精なのだと分かる。
「ようこそ、私たちの里へ」

●虹の上を歩こう
 毒はいらない。仲間に毒を盛るものなどいないのだから。悪意など無い。仲間に悪意を持って接する必要がまるでないのだから。だから大丈夫、君たちは仲間なんだから。いずれね。

 ベラは妖精の家でお茶を頂いていた。
 星のハーブで淹れたものだと言っていたが、そのような香草の名前を聞いたことはなかった。
 こういった時、飲み食いしたそれが肉体変質の元になるという話はよく耳にするものの、ギルドから問題ないとは聞いている。その為、口にすることに抵抗はなかった。
「それにしても、チタニアはどこもかしこも可愛らしいですね」
 人間が入れるくらいには大きい、と案内した妖精は言っていたが。
 どうにも、ミニサイズ感は否めなかった。
 大柄な人間が立てば頭がついてしまうのではないかというくらいには低い天井。
 腰掛けている椅子は潰れてしまわないか少しだけ不安だ。
 手にしたティーカップはなみなみそそがれても少し物足りない。
 ひとが来ることを想定はしているが、行き届いては居ない。そんな印象を受けた。
 お茶と、お菓子と、妖精と。
 これだけならば、本当に可愛らしいのに。

「折角だし、景色のいい場所を教えてくれない?」
 マヘルがそう伝えると、妖精は少しだけ悩んだ表情を見せたが、すぐに顔を明るくして彼女の手を引いた。
 夢羊のバタークッキーを薦められたので遠慮なく頂いた。
 口いっぱいに広がる甘さがたまらなかったが、夢羊が何かは最後までわからなかった。
 ついたと、妖精が言う。
 見やれば妖精たちが手を取り、円になり、踊っていた。
 円の真ん中で花輪を頭に載せた妖精が微笑んでいる。
「ここはね、新しい仲間を祝福しているの」
 仲間。
 つまりは、元人間。
 助けは、求めていない。つまりはもう、完全に妖精になっている。
「あなたたちも、明日には祝福されるかしら」
 その言葉に驚いた。
 隠したりはしないのだなと。
 他の生き物を侵食し、自分たちが増えていることを秘匿しようとはしないのだなと。
 妖精が首を傾げている。
 まるでなんでもないことに、どうしたのかと尋ねるように。

 頂いた食べ物のお返しにと、武器商人が蜂蜜の入った瓶を妖精に渡している。
「やァ、ありがとーぅ。対価に蜂蜜をあげようね。女王様にも渡すものだから質は保証するよぅ。ヒヒッ!」
「ありがとう! これでまた美味しいお菓子がつくれるわ!」
 喜んでいる妖精に手を振りながら、ちらりと時計を確認する。
 まだ問題はない。懸念はしていたが、ズレてもいなければ針の進みに違和感を感じたりもしない。
 奇妙なものだ。
 妖精たちの反応に、敵意や害意と言ったものが見られない。
 せっかく、月明かりでは判断の出来ぬ場所であるというのに、他に何か惑わそうという意志が見受けられないのだ。
 チタニアの中では時間が異なるいうわけではない。食物に健康を害するものは含まれていない。そもそも、侵食交配がある事実を隠そうともしていない。
 思考の基準が違いすぎるのだろうか。
 興味は湧くが、ゆっくりと調べていい程の時間はなかった。

「いくー」
 みんなが一緒に行くというのなら、スはそれについていく。
 水は流れに逆らわないのだ。
 じゃあ里で一晩明かしたら流れに沿って無抵抗に妖精化しそうでとても怖い。
「あれ、なーに?」
「私たちのお家だよ。お茶もお菓子もあるし、入ってく?」
「チイサイ? なんで?」
「私たちには十分大きいんだけどね。未仲間のみんなは大きすぎるよう」
「ミナカマ? なーに?」
「まだ仲間になってないから未仲間。明日にはきっと仲間よね」
 妖精が生き物を自分たちとそうでないものとでしか分別していないような物言いだが、スがそれに違和感や不快感を覚えることはなかった。
「たべる。なんで?」
「美味しいと幸せになるから。仲間も未仲間も美味しいものは大好きだよね」
「オイシイ? おいしいなに?」
「美味しいは……美味しい?」
 続けると哲学問答になりそうなのでカット。

 リュグナートが妖精にブラウニーのレシピを聞いている。
 べたつかず、甘すぎず、出されたお菓子はどれも美味であったが、リュグナートにとって、このブラウニーが格別であったのだ。
 問題は、材料である。
 妖精は快くレシピを教えてくれたのだが、生憎と、日の出カカオや三ツ足鳥の卵、スノウシュガーっといった材料にピンとこない為、まったく同じものを作るのは難しそうだ。
 人間に一般的な材料で代用するしかないだろう。似た味になるかどうかは、帰って作ってみなければわからない。
「ふふ、ご主人様への良い土産が出来ますね」
 妖精は「どうやって帰るの?」と聞いてきたが、適当にごまかしておいた。
 先程から、何が何でも妖精にしてやろう、というような意志は見受けられないが、それでも目印を消されないという保証はない。
 残り時間を確認する。
 まだ少し余裕がありそうだ。
 可能な限りの情報を得るべく、観察と質問を繰り返した。

「なるほど、ここがチタニアなんだね。とても興味深いよ!」
「ちたにあ? あー、テイターニャ?」
 レンジーの言葉を、妖精が修正する。
 間違いというよりも、言語圏の違いによる発音の差、程度のものなのだろう。妖精がそれで気分を害したというふうもなかった。
 客人が多いのでと、小さなテーブルをいくつもひっつけてお菓子が振る舞われた。
 クッキーやマフィンなど、人里でも見たことのあるものばかりだが、材料を聞いてもどういうものかはピンとこない。星空で取れた蜜とはどうやって採取するのだろう。
「初めて呑むお茶だね! とても美味しいよ」
「ありがとう。おかわりもたくさんあるから、遠慮なく飲んでね」
「わたしが作ったハーブティも持ってきたんだけれど、どうかな?」
「嬉しい。他の仲間も呼んできていいかしら?」
 質問はつきない。だが、妖精たちはにこにこしながら答えてくれる。
 その様だけは、夢物語の妖精そのままだった。

 プティは妖精に衣服を借り、自身の能力で身につけていた。
 装備に合わせ、背中には羽が生え、妖精を名乗っても通じそうな外観に変わる。
「似合う。似合うよー」
 まさか着られるとは思っていなかったのか、衣服を用意した妖精は拍手をして喜んだ。
 褒められて悪い気はしない。
 新たに生えた跳ねを動かして見せたり、その場でくるりと回ってみたり。
 他の妖精たちと一緒にポーズを取ってみたり。
「これでいつでも仲間になれるよ」
「瓶詰はいやあ!」
 妖精は褒めたつもりだったかもしれないが、プティにすれば殺人鬼の舌舐めずりに等しいものだ。
 持ってきた時計を確認する。
 夜明けまで、もう少し。
 夜更かしと言っていい時間だ。少しだけ瞼が重いが、ここで眠ると明日は本当に瓶の中だろう。
 そう言えば、里に時計らしいものはなかった。
 月の明かりも届かぬ場所で、どうやって時間を計っているのだろうか。

●残酷な幸せの、それも極めて狡猾な
 感情にも種族差がある。濃度の話ではなく、ロジカルの話として。

「ス、かえるー」
 仲間に時間だと言われ、返したそれにぎょっとしたが、妖精たちが気にした様子はない。
 夜明けまで足止めをするつもりもないようだ。
 少し拍子抜けしたが、妖精に礼を言い、道標に沿って帰ることにする。
 眠くはあったが、里の入り口でギルドから渡された香水瓶の蓋を開けると、あまりの臭いに眠気も吹き飛んだ。
 これだけ目立つものが置いてあれば排除されはしないだろうか。
 懸念したものの、ギルドは置いてくるだけでいいと言っていた。ならば問題はないのだろう。
 ひとつのびをして家路につく。
 暗闇の戻った森の中を歩くのが、少しだけ怖かった。

 我が子を失った悲しみにくれている私へと、夫がプレゼントを買ってきた。
 けしてそのような気分ではなかったが、せっかくのそれを捨て置くわけにもいかず、封を開ける。
 中身は瓶だった。その中に妖精が入っている。
 可愛らしい。そうは思うが、心は晴れない。
 だが、その妖精に見覚えがあった。
 愛らしい顔。目鼻立ちは夫にとても良く似ている。唇の横にある黒子は私と同じ、嗚呼、まさか、まさか!
 
 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

今日帰ってきて玄関に瓶があったらお外へフルスイング。

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