PandoraPartyProject

シナリオ詳細

すり抜ける砂粒を掴むように

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ──異変に気付かなかったのは、信じたくないからだ。

「ハァッ、ハァッ……」

 襲い来る、冬季によって眠りについていた獣達。
 その全てを躱し、斬り捨て、牙と爪を彼女は掻い潜った。

「なんだよ……ッどうなってんだよこれ!!」

 忌々しい魔物はいない。ただの獣ならば一人でも退けられる。
 その通り彼女は暗闇の奥にあった筈の、墓碑の間へとたった一人で辿り着いた。
 ”あった筈の”……である。

「地盤……沈下?
 ──嘘だろ、花は!? あれが無いと……あの子達は、アタシの村は、故郷は……!!」

 『元村勇者』セレス。
 彼女は小さな洞窟の奥に突如現れた大穴を前に崩れ落ちていく。
 底の見えない大穴に滴り落ちた涙は音も無く、ただ暗く黒い世界へ飲み込まれるだけだった。

●作戦コード名【お花摘み】
 ギルドの一角に並ぶ卓に着いたイレギュラーズは『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)と共に座っている、右腕と右目を帯で巻いた褐色の女へと視線を向けた。
「おはようございます皆様。こちらは今回の依頼主、セレス様になります」
「宜しくな! なんつーか、また世話になるよ」
 首を傾げるイレギュラーズの一人にミリタリアがコホン、と咳払い。
「彼女は以前にローレットを利用した事があるようです。此度も我々が依頼を遂行して見せましょう」
「その依頼って?」
「今回、皆様にはとある花を蒐集していただきたいのです」
 ミリタリアとセレスが交互に説明する。
 二ヶ月と少し前。セレスの故郷で起きた『寄生型モンスター』による惨事からイレギュラーズが村の子供達を救助し保護した後。
 保護者となったセレスが都市の医術関係者、或いは悪魔祓いを生業とするその道のプロ達に子供達を診せた結果。よくない事を知る所となったのである。
 何世代も前から村の人間に食物を通じ寄生して来た、ブロブの影響は生半な術法では除去する事が叶わない。そして少なくとも治療法を見つける前に、彼等を生き長らえさせていた『花』が子供達の人数分新たに調達しなくては二週間も経たずに『発作』を起こして絶命してしまうというのだ。
 そこで依頼人セレスは故郷の近くにある洞窟で『花』の種か土壌を採取しようと向かったのだが……

「……地崩れ、それか地盤の沈下かな。詳しい事はわからないけどそのせいで花の咲いていた墓碑が丸ごと落ちていたよ。
 アタシの体はいま”こんなん”だからさ、一人じゃどうにもならないんだ。
 それに時間をかけ過ぎた……村の生き残り、子供達も日に日に体調を崩し始めててどうなるかわからない状況なんだ」
 俯く彼女が紅茶のカップをゆっくりと握る、力無いその姿は今にも折れそうな印象を与えて来る。
 無理もない。彼女の言葉通りならば恐らく地下へ落ちた時点で花自体が損失している可能性があるのだ。とても人数分も花を回収できるとは思えないだろう。
「そこで、我々ローレットの出番と言うわけです。聞いての通り緊急性の高い任務となりますが、やる事は比較的単純です
 花が無いなら────花を摘みに行けば良いのですから!」
 真顔で大変元気の良い声を挙げたミリタリアにその場の視線が集まる。
「希少な花じゃなかったのか……?」
「その通りです。七枚の花弁を持つ紅い花、『アグラフォーティス』は元々がウォーカーが持ち込んだ種である上。性質上広域に生息するような物でもありません
 しかし、この花が咲いている地は他にもあるのです、たった……一ヵ所だけではありますが先日ローレットが依頼で採取に向かった花の町ぺダニウス付近の花畑でならば少なくとも数本は探し出せる筈です。
 加えて依頼人が最初に向かった洞窟奥の空洞に潜れば、かの子供達に必要な数が入手出来るでしょう」

 卓に並べられた資料は2つ。
 依頼成功条件は11本の花を見つけ出す事。

「この依頼、受けてくれますね?」

GMコメント

 ちくわフラワーです、よろしくお願いします。
 二手に分かれる系、伝統のお花探し依頼です。

 以下情報。

●依頼成功条件
 『アグラフォーティス』11本を入手する
 (もしくは11本相当の残骸を採取する)

●紅い花『アグラフォーティス』
 七枚の紅い花弁を持つ花。
 魔除けの効果に加え、燃焼した際に出る煙を吸引する事で体内の寄生生物の活性化を抑制する効能を持つ。
 しかしその存在自体が稀である。土壌によって左右される性質の為、群生地はほぼ在り得ない。
 今回のシナリオではこの花を探し出さねばならない。

●採取ポイント『地下空洞』
 とある森の中にあった小さな洞窟の奥から伸びる地下空間。
 内部の情報は少ないが調査の結果その高さは50m程度、周辺の環境からして洞窟内で野生のクマ等の猛獣に遭遇する可能性がある。
 前述の通り高さはそれなりにあるのでイレギュラーズに求められるのは【不測の事態に備えつつ慎重に地下空洞へ降りる】事だろう。
 ここに本来咲いていた花の多くを既に使い切ってしまったようだが、6輪は残っていたと子供達が言っていた。
 元々あった墓碑に、土砂や岩盤で花が埋もれている筈である。残骸だけでも花は全て回収したい。

●採取ポイント『神聖な花畑』(※
 花の町ぺダニウスの近くに広がる花畑。
 400mという広域が大量の花が咲き乱れている幻想的な空間であるが、それ故にただでさえ数の少ない『アグラフォーティス』を探し出すのは難度が高い。
 ……しかし、今回はローレットが向かった先で協力者が共に探す事を手伝ってくれる為。彼女とうまく協力する事で数本は見つかるかもしれない。
 花畑のあちこちで機械の残骸が散乱しており、また犬や猫、知能の高い精霊が徘徊している。

●協力者
 『セレス』
 元村勇者とされる依頼人。洞窟の地下での探索に協力してくれる。
 半身に重傷を負っている為、50m下に降ろす用意が無い場合は上でイレギュラーズの帰りを待つ。

 『シャーネイ』
 花畑の管理者を名乗るハーモニアの少女。今回事情を聞いた彼女は花畑での探索に協力してくれる。
 また彼女は植物と疎通できる他、瞬間的に記憶する術を持っている。
 万一精霊と揉めたり、花探しに不安があるようならば直ぐに彼女を呼び出す準備があるといいかもしれない。

※判定・プレイングについて
 必ず二手に分かれて下さい。一ヵ所における人数の指定はありませんが、依頼の性質上は一度の探索に数日かける事は不可能とします。
 洞窟・花畑の探索において【1~20】の数字を2つ選び、プレイング冒頭に書いておく必要があります。
 それ以外の判定は各種スキルの応用やギフトの使用、プレイングをGM判定する事になります。

●情報精度B
 一部不明な情報があります。不測の事態に注意して下さい。

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • すり抜ける砂粒を掴むように 完了
  • GM名ちくわブレード
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年01月27日 22時25分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
タント様FC会長
亘理 義弘(p3p000398)
義に篤く
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
七鳥・天十里(p3p001668)
ガンスリンガー
藤野 蛍(p3p003861)
学級委員の方
ウィートラント・エマ(p3p005065)
Enigma
湖宝 卵丸(p3p006737)
湖賊

リプレイ


 朝露が草花を濡らす頃。冷気を含む風に揺られてハーモニアの少女が姿を見せる。

「お待ちしていたわ、ローレットの皆様……お話は聞いています。
 皆様のお手伝いをさせていただくシャーネイと申します。こうして改めてお会いできて光栄ですわ」
 幼い容姿とは異なる物静かな声音。
 彼女の差し出した小さな手を取った『いいんちょ』藤野 蛍(p3p003861)を始めとした、各々が彼女と自己紹介を交える。
「わぁ、綺麗……って、べっ別に見惚れてたわけじゃないんだからなっ」
「それ誰に対するツッコミなんでごぜーます?」
 一方で朝露を帯びた花々が陽の光を浴びて風に揺られる度、その煌めく様を見た『湖賊』湖宝 卵丸(p3p006737)が『Enigma』ウィートラント・エマ(p3p005065)と共に目を輝かせる。
「くすくす、宜しくね皆様」
「探索に協力してくれてありがとう。貴方のような管理者さんがいるからこその、この美しい風景なのね」
「そうかしら? お花は誰にでも寄り添ってくれるものよ、独り占めしてるみたいで実はちょっぴり恥ずかしいの」
 くすり、と蛍の目を真っ直ぐに見上げて。
「お役に立てて嬉しい、『みんな』もよろしくって言っていたわ」
「ええ、ここの皆さんに迷惑をかけないように、無闇に花畑を踏み荒らさないように気を付けるわ」
 蛍の言葉に頷いたシャーネイは「そんなに警戒しなくても大丈夫よ」と笑う。
 そうは言っても高位の精霊が立ち寄るような場所なのも事実。
(どこにいるかはわからないでありんすが、好かねえことをすればトラブルになりかねないでごぜーますからねぇ)
 足元に咲き乱れている花々の中から一輪の赤い花を観察しながらウィートラントは頭を振る。
「シャーネイさん、アグラフォーティスを探す前に少し聞いても良いかな?」
「何かしら?」
 『青き鼓動』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が呼び止める。
「今回は魔除けの花を是非にでも見つけてやりたい。以前関わった仕事で救助した子供らに必要だそうだしよ。だから、予めな」
 蛍やエマ、そしてそれまで静観していた『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)も揃って腕を捲って見せた。
 シャーネイは小さく首を傾げて。
「聞かせてくださいな」

●やるべきこと
 軋むロープの音が不穏な反響と共に木霊する。
 地底を舞う蛍の光。
 湿り気を帯びた地面で滑らぬよう、足元の接地面に気を遣いつつ『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)がロープを慎重に手繰り寄せていく。
「花さえあれば、一時的であっても病気は助かるのですね?」
「──ああ。呪い師と医者からのお墨付きだよ」
 暗い空洞を幾つかのカンテラに照らされる中で複数のロープが向かう。
 洞窟の奥に開いた大穴へ釣瓶式に吊るされ、降りて行く先端。
 ズルズルと降りる度に揺れる古い絨毯に包まる彼女。依頼人のセレスは震える片腕でしかと頭上のロープを掴み応えていた。
「──アタシがグズグズしていたばかりに、猶予が殆ど無くなっちまった……そこは、アンタ達にも悪いと思ってるよ」
「いいえ。知れず、手遅れになっていたと言われるよりもずっとマシです。
 僕のすべき事は一つ。花を集めれるだけ集めてあの時助けた少女達を再び救う事です」
 ロープを手繰り寄せ、丸くなった絨毯が降りては止まる。
「何というか、良くないことって立て続けに起きるんだね」
 洞窟に木霊する滑車の軋みと共に二人の会話を聞いていた七鳥・天十里(p3p001668)が頷く。
「子供達の命がかかっていると思うと、責任重大なのです」
「何というか、良くないことって立て続けに起きるんだね。でも、不幸を続けさせないためにもとにかくここは凌がないとね」
 その度に頭上で同じくセレスを降ろす作業を手伝う『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)がロープを流していく。
 それらの作業をする事、繰り返し。暫しの後にセレス包む絨毯は穴の底へと着いたのだった。
 ────────
 ────
 ──
「さって! 何としても花を見つけてみせるよ!」
 範囲にして直径20mと少し。土塊が敷き詰められただけの地下へ降り立った天十里は地下を飛び回っていた蛍を自壊させた。
 次いで彼は背負っていた円匙で土砂を隅へ集め、一纏めにしていく。
「それは?」
「怪我人込みで4人しかいないからね、すこーし手伝って貰おうかなってさ」
「なるほど、式かい」
 セレスの答えに親指を立てた天十里が自身の作業に入る。
(では僕は少しお話を聞いてみましょうか)
 その間にカンテラや松明といった光源を周囲に置いた幻が足元へ手を触れる。
 土砂だけではない、地下へと落ちたのは本来洞窟を形成する上で基となっていた岩盤や鉱物が含まれているのだ。
 自然と共に在る土や草花とは異なる、或いは鉱物の類ならば彼女の『声』も届くかもしれないと考えての行為だった。
「七枚の花弁を持つ紅い花、『アグラフォーティス』はどちらにありますか」
 静かに、暗く冷たい洞窟の肌に合わせるように囁く。
 背にする蝶の翅がゆっくりと開いていく最中。幻の周囲から微かに何者かの情報が流れ込んで来る。
 古い時を緩やかに生きて来た無機の者達、その断片が彼女への答えとなる。
「……では…………つまり、此処は……」
 囁く声を紡ぎ、”彼等”の『声』に耳を傾けて行く幻。
 一方……幻から離れた位置で座り込んでいたセレスの隣にエリスタリスが屈みこんだ。
「……ん。ここに何かあるのかい」
「いえ、大丈夫かなと思って来たのです」
「はは、アタシは全然平気だよ。ユメさんに『無理するような真似したら、置いていきますよ』って言われちゃってさ、
 アタシに出来る事は……ここでアンタ達が花を見つけた時に答え合わせする事ぐらいしか出来ない」
 申し訳なさそうな。しかし悔やんだ表情を見せる。
 エリスタリスはその様子に小首を傾げた後、静かに近場の地面を軽く掘ってからザッと撒いた。
 丁度その時、微かな息吹が地下空洞を撫でた事でサラサラと土が横へ広がる。
「……」
「植物疎通、か」
 無言でエリスタリスは肯定の意を示す。
 彼女が思うに。元々の洞窟の環境からして植物の類は少なく、件の墓碑を中心としたアグラフォーティスの群生地ならば何らかの反応が返って来るかも知れない。
 そういう意図の彼女にとって、天十里が式神に今こうしている間も足元の土砂を掘らせてくれている事は良かったと言える。
 戦闘の危険が当面無い事は既に道中確認済み。ならば後は各々が自身の作業に集中できるというもの。
(……でも)
 感心しながらも足元を片手円匙で掘るセレスから離れていくエリスタリス。
 彼女は頭上を見上げてから、今度は足元を見下ろした。
(……確かに獣の気配は無いけど。何かがいたのですよね……ここに?)
 エリスタリスが視線を巡らせた先で、幻と天十里が小さく頷く。
 彼女達も既に、何らかの手段で得た情報によって『未知の存在』に気付いていた。今はただ、それがこの場にいないだけである。
 暫しの空白を深呼吸して埋める。それでもやるべき事はやってのけなくてはならない。
 仲間の安全。見知らぬ子達の為にこの暗い底で花を見つけ出すのだ。

●――【思い出の陰に咲く】
 ……それは出発前。ギルドのロビーで卵丸が依頼人セレスに聞いた事。
「花がなければ子供達が死んでしまう、ですか。なんともまあ、厄介な事になっているでごぜーますね?
 必要な花の数は11本でしたか? 見つかるといいでごぜーますね」
「あはは、ありがとうな。こんな無茶な依頼を受けてくれてさ」
「苦しんでる子供達が居るというなら、卵丸力になってあげたい、これも海の男の務めなんだからなっ!」
 洞窟と花畑。残り猶予の無い今となってはじっくりと時間をかけてはいられないといった理由から、イレギュラーズは依頼人を交えて二手に分かれる事となっていた。
 その為、卵丸は他の仲間達と共に改めて『紅い花』についてその特徴を聞きに来ていたのだ。
「花の見た目は分かったけど、咲いてた場所はどうかな?
 似たような地形とか土壌の特徴で、花畑でも探す手がかりになるかもしれないから聞いておきたいかも」
「場所の……? あの洞窟は、そうだな……」
 セレスは卵丸の目から視線を逸らすと、それから何事か考えてから。
「……湿った空気は年中漂ってたなぁ、暗いし、苔っぽい。けどあそこにはアタシの思い出が眠ってるんだ」
「思い出?」
 隣で話を聞いていた幻が「ふむ」と首を傾げる。情報屋も知らない事だった筈だからだ。

「あぁ、あの洞窟ってアタシの両親が埋まってたんだよね」


「こんな綺麗な花畑だから、間違えても踏んだりしない様に注意注意と」
 ガチャリガラリ。機械の残骸を運ぼうと、卵丸は半ば摺り足で花と花の間を抜ける様に移動する。
 それでもやはり一面に敷き詰められた花は避け切れるものではないのだがそこはそれ。何らかの力が作用しているのか、意識して踏みでもしない限りは折れはしなかった。
 今こうして彼が花畑のあちこちに散見していた残骸を片付けているのは、イレギュラーズがそれとなく提案した事だからである。
 さわりと花畑を歩きながらそれらの様子を見守っていたシャーネイからはどう見えるのか。
 恐らく、それまで触れる事をしなかった残骸が次々に運び出されて行く事が何を意味しているのか。それは彼女にしか分からないのだろう。
 ”ありがとう” ……それしか言わないのだから。
「よっと……しかし話には聞いていたが、相当広いな。こりゃあ特定の花を探すにゃ苦労するぜ」
 薔薇園や花園の類と比べて見れば分かり易い。
 あれらはあくまで人が管理し美しい配列を組んでの作品である。しかし400mという広域を数多の種の花々が咲き乱れている中から一種を見つける、その一点が難度を押し上げていた。
 片手ずつ巨大な鉄の箱を義弘が持ち上げ、花畑の外にある森に作った穴へ軽々と放り投げていく。
「それでも希望は絶対に繋がなきゃ……絶対に花を見つけて、子供たちを助けよう!」
 同じく、背丈を上回る壊れた機材を抱えたシャルレィスも駆けて来ると一息にそれを投げ降ろした。
 400m一面に散らばっていた、錆びて植物の絡んだ――或いは花が咲いていた。機械の残骸は彼等の奔走によって瞬く間に片付いて行った。

「よっこいしょ、わぁ……こんな所にも花……が…………あれ?」

 そんな時。
 数も少なくなって来た残骸を持ち上げた卵丸がその下に花の姿を見た。
 赤い、紅い七枚の花弁が風に揺れて淡い光を散らしていたのだ。
「これ……!」
 二輪の紅い花。それらは、写真や依頼人からの話で何度も確認していたアグラフォーティスに他ならなかった。
 すぐさま花を優しく採った彼は二輪の花をシャーネイの下へと持って行った。
「まあ……! その子は確かにアグラフォーティスよ」
「やった!」
「やったじゃねえか、何処に咲いてたんだ?」
 吉報に集まる仲間達。
 そしてそこには当然、他の良い報せも舞い込んで来るもの。
「あのー、向こうでシャルレィス様が精霊に絡まれてたでありんすが……如何したでやんすか皆様して。なぜわっちを見て……」
「その手にあるの、何処で見つけた?」
「さっきどかした金属のバケツの中で咲いてたでごぜーますが」
「……アグラフォーティスですわ」
 ウィートラントの言葉を聞いて、それまで微笑んでいたシャーネイの穏やかな表情が固まる。
 その後、彼等は残骸を全て片付ける間に更に紅い花弁を見つける事となる。

●暗い『ソコ』で
 風が吹いても、それは肌を撫でる事も叶わぬ程度である。
 多少のうねりと高低差のある洞窟内。そしてそこから地下深くの地中か何処か。
 そんな中で幻達空洞内部を探索していた三人は額を伝う汗を拭う事もせず掘り進めていた。
「確かにここですね!? ここに、花が埋まって……!」
「潰れているかもしれないですけど、でも確かに落ちて行く時の『イメージ』がここを指していましたっ」
「だったら全力で掘るのみ! 岩盤だろうがなんだろうが、全部吹き飛ばしてやる!」
「花は吹き飛ばさないで下さいね……!」
 思えば彼女達三人の組み合わせは必然だったように思えるだろう。
 天十里の有する超感覚による索敵は頭上から降って来た熊を直ぐに捉えたし、同時に元々地上である洞窟内に染み付いていた『花を燻した香り』は特徴的だった。
 つまり、近づけば近づく程に花の香りを示す瓦礫や土の匂いを彼は探知できていたのだ。
 加えて幻とエリスタリスの二人が別視点から花の行方を追っていけば……
「今、直ぐ傍で声が聴こえたような気がします」
「セレスさんに教えて貰った香り……もう少しか!」
 円匙を弾かれた瞬間、天十里のリボルバーが火を噴いて岩や土塊の瓦礫を粉砕する。
 三人が掘り起こす度に出る土砂を土人形の式神が横合いにどかしていく最中、彼等の後方から見守っていたセレスが片手にシャベルを握り締める。
「……アタシも!」
「大人しくしてて下さい!」
「はい……」
 よろよろと近付いて来た依頼人を一蹴する幻。速やかに依頼人は下がって行った。
「っ! エリスタリス様、もうすぐその辺りが崩れるかもしれません!」
「はいなのです……っ」
 既に相当な深度まで土砂を取り除いた所で、作業合間に『声』に耳を傾けた幻に断片的に何かが崩落する光景が入り込んで来たのだ。
 咄嗟にエリスタリスと式神が後退する。
 直後、幻が示していた通り足元が一気に地中へ沈んで行った。間一髪の差である。

「お、おいっ! 三人とも無事かよ!?」

「問題ありません! けど、危険なのは変わりないのでセレス様はそこで休んで……」
「あー!! 見つけた! 花、あったよ!」

●枯れぬ花の在処
 瞼の裏で思い起こされる言葉。
『ただでさえ大変な事があったばかりの村の子供たちに更なる悲劇だなんて……そんなの、絶対駄目だよ!!』
『絶対に花を見つけて、子供たちを助けよう!』
『子供たちを助けるのにどうしても必要なんだ』
 【 …… 】は不思議に思う。
 人間というのは有限の時を生きる身であるが故に、多かれ少なかれ負の感情が付き纏う物だ。
 特に『時間』と『数』といった有限の概念に縛られてしまえば尚の事。不満の一つでも漏らしてもおかしくない。

【 ──……溜め息を吐くのはこれで何度目でしょうね……── 】

 しかし。
 心の内を読めば読むほどに、それ以上の何かがあるとも思えない、見つからない連中を相手に人ならざる者は困惑する。
 目の前に差し出された菓子やキャンディの数々。
 精霊として知られる存在の彼女は訝し気な表情を浮かべながらも、目を閉じたまま呟いた。
「こ、これ……くれるの?」
 呆然と立ち尽くしていたシャルレィスに苛立ちを浮かべながら精霊は手の中の紅い花を差し出す。
 精霊の声は、その手の上位存在と会話を得手とする者以外には聞こえない。
 だから「欲しいと言ったのはあなたたちよ」と不貞腐れたように呟いても、シャルレィスとその様子を見守っていた蛍の二人には微かな囁きしか聞こえない。
 聴こえても、鈴の音の様な音しか拾えないだろう。
「二本……凄い、これで八本目。これだけあればきっと必要数揃うわ! ありがとう精霊さん!
 貴方達のおかげで救われる命があるの……どうもありがとう!」
「私からも……この花を探す事を頼んだ人に代わって、ありがとう……これでこの花を待ってる子供達が助かるんだ」

【 ──も……行き……さい── 】

 その声が聴こえたかどうか、それは二人にしか分からない。
 ただ、白い衣を纏った精霊は刹那の風に掻き消される様に。
 過去に彼女と遭遇した、とある獣人の従者を連れたイレギュラーズの時と同じく。差し出された菓子や飴と共に消えたのだった。


 その翌日。ギルドの一室にてイレギュラーズは集めた花を出した。
「3……4……8……9……10……11、13本! は、ははっ……あははは!
 やった、やったぁ!! アタシの故郷を、あの子達をこれで救える! 可能性を掴み取る事が出来る!」
 椅子から転げ落ちながらアグラフォーティスを掻き集めた依頼人、セレスはその目から溢れ出す涙を拭いもせずに叫んだ。
 内心、気が気でなかったのだろう。結局あの洞窟の地下で見つけた花は何故か4本だけだったのだから。
 かくなる上は自身の命さえも投げ出すとまで語っていた彼女だが、完全に緊張の糸が切れたのだろう。
 次いで、花を背嚢へ詰めようとしてそのまま足の力が抜けて崩れ落ちてしまった。

「あははははっ……はははぁぁ……っ! みんな、みんなありがとな……アンタ達がいなかったら本当にどうなってたか……」

「泣くには早過ぎる。まだ本命を救ったわけじゃねぇんだろ? 先ずはその花を届けてからにしな」
「その通りでありんす、安心するのは一幕閉じてからでごぜーますから」
「きっと治療法も見つかるよ! ここまで、みんなが希望を紡いだんだから!」
 泣き崩れるセレスを義弘が立たせる。
 彼等は一様に、やるべき事を成したのだ。後は依頼人である彼女の役目という物だろう。
 頷いた彼女はイレギュラーズ達にそれぞれ深々と頭を下げた後に、部屋を飛び出して行った。


 ───報せは、直ぐに届いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

……『情報屋からあなたに届いた手紙』

「子供達の治療法、体内の魔物の除去手段が見つかりました事を依頼人に代わりご報告します。
 此度の皆様の活躍により尊ぶべき幼い命が救われた事、お見事でした。
 いずれまたどこかで、きっとあなた方の紡いだ希望が繋がっていく事でしょう」


 ……依頼成功。

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