PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ジスクナスの焔

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●立ち入っては行けない場所
 その日、幻想南部のヌリカ村に住む三人の少年少女、ロカとグエイン、そしてクリアは探検と称して村の裏山を昇っていた。
 小高い丘程度の山だ。子供の足でもそう時間はかからず昇る事ができた。
 山頂で休憩を取った三人は、午後の時間に目一杯遊び、日が暮れる前に下山を始めた。
 その途中、ロカが声を上げた。
「見てみろ! なんかこっちに道があるぞ!」
 それは侵入の跡を人為的に消した獣道。
「そっちは村とは逆方向ですね。何があるんでしょうか?」
 グエインの言葉に好奇心を湧き上げられたロカは「行ってみよう!」と先に進み始めた。
「えぇ~、日が暮れちゃうよ。帰ろうよ~」
 クリアの引き留める声はか細く、一人で居残る事もできないクリアは二人の後をつける。
 そうして巧妙に隠された獣道を進んでいくと、瞬間、視界が開ける。
「うわ! なんだこれ!」
「すごいですよ! 図鑑でも見た事のない花だ!」
 三人の目の前には紅く細い花が咲き乱れる。
 どこか甘い匂いが鼻を突き、三人は誘われるように花畑の中へと進んでいった。
「すごく綺麗な花……なんて名前なんだろう?」
「ジスクナスだよ、お嬢ちゃん」
 疑問を口にしたクリアは、突如掛けられた言葉にはっ、と後ろを振り返った。
 そこには、三人を睨めつけるように鋭い眼光を見せる男が二人。
「どこから入り込みやがった、クソガキども」
「まあどこからでもいいさ。全員始末するだけだしな」
 三人に瞬間的に恐怖が立ち上る。
 このままここにいてはまずい。殺される。
 本能的に悟った三人は一斉に逃げ出した。
「待ちな!」
「逃がさねぇぞ!」
 全速力で逃げるが子供の足だ。瞬く間にグエインとクリアが捕まった。
「ロカ逃げて下さい!」
「逃げて! ロカだけでも!」
 自らの命を省みず、友達一人を逃がすためにバタバタと暴れる二人。
 ロカは涙を溜めながら、必死に走った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 そうして、無我夢中に走り続けて、どうやって戻ったのかわからないほど記憶が混濁する中、ロカは自身の住むヌリカ村へと戻った。
 事情はすぐに村長から領主へと伝わり、事態は急転する。


「新年早々だけれど、急ぎの依頼が入ったわ」
 『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が依頼書を手にやってくる。
 話を聞いてみれば幻想南部のある領主からの依頼らしい。
「幻想南部ヌリカ村の裏の山間にジスクナスの花が栽培されていることがわかったわ」
「ジスクナス? なんでしょうそれは?」
 聞き慣れない言葉に『星翡翠』ラーシア・フェリル(p3n000012)が言葉を返すと、リリィは一つ頷いて説明をした。
「ジスクナスの花。紅くか細い花なのだけれど、これを精製して吸引すると、脳に一定の障害をもたらすことがわかっているわ。
 思考の混濁、記憶喪失、意志薄弱などの症状ね。所謂、麻薬という奴よ」
 麻薬。どこの世界でも裏で取引される人にとって有害たり得る危険な薬物だ。
 その元となる花が大量に栽培されている。
「栽培していたのは、グラス・ゴルドという集団のようね。盗賊団とも言えるけれど、その性質はマフィアのような存在に近いようだわ。
 人から奪うだけではなく、自ら金になる木を育てている……というところかしら」
「資金調達の一環なのでしょうけど、麻薬を扱うなんて非道ですね」
 グラス・ゴルドの連中は人の入らない山間に狙いをつけて、長く秘密裏にジスクナスの花を栽培していたようだ。
 それをヌリカ村の少年少女が見つけてしまった、ということだ。
「領主もすぐに動き出すつもりだったようだけれど、大きく軍を動かせば先んじて逃亡されてしまう恐れがありそうなの。
 そのために、先行で潜入しグラス・ゴルドの連中を抑えられる要員が必要というわけね」
 領主からローレットへ回ってきたお鉢。潜入と殲滅が兼ね備えられるカードだ。
「オーダーは存在が確認出来ているグラス・ゴルド関係者の処分。生死は問わないわ。そしてジスクナスの花の焼却ね。山間だから山火事にはならないようにして欲しいようだけど、方法はお任せするわ」
「捕まっている少年達はいいのですか?」
 ラーシアの疑問に少し浮かない顔をしたリリィが答える。
「そっちはオプションになるわね。
 グラス・ゴルドの連中がたむろしている施設が花畑の傍に見つかっているけれど、そこにいまも少年達が残されているか……不明だわ。
 グラス・ゴルドと戦闘しながら、施設内を調べれば或いは……」
 リスクの高まる判断なだけに、リリィからは強制できないということだろう。
「――とにかく、依頼としてでた以上、対応しなくちゃね」
「私も手伝わせて頂きます。一緒にグラス・ゴルドを潰しましょう!」
 イレギュラーズへと依頼書は手渡され、麻薬密売組織の壊滅作戦が始まった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 人々を陥れる危険な薬物が作られようとしています。
 少数精鋭のイレギュラーズが先行し、この組織を壊滅してください。

●依頼達成条件
 グラス・ゴルド組織員十五名の処分(生死は問わず)
 ジスクナスの花畑の焼却

■オプション
 グエインとクリアの救出

●情報確度
 情報確度はBです。
 提示されている情報は把握できている範囲のものです。
 想定外の事態も考慮にいれましょう。

●グラス・ゴルドについて
 盗賊団からマフィアに近しい性質へと変質した組織。
 現在、ジスクナスの花畑周辺にいることが確認された組織員は十五名。
 全員が、片手剣、銃器などで武装しており、戦闘行動に長けていることがわかっています。
 砂蠍にも恭順していなかったことから、それなりに規模の巨大な組織と思われるが、詳細は闇の中です。
 連携力が高く、EXA、防御技術がやや高め。それなりに戦闘経験を積んでいる連中です。油断は禁物でしょう。

●ジスクナスの花について
 紅い花弁を六枚咲かせる魔性の花。
 花に突くほどの甘い香りを漂わせており、花の蜜は毒性もあるようだ。
 発火しやすい性質をもっていて、燃えるとすぐに周囲を延焼をさせていく火種。燃やす際は山火事に注意しましょう。
 精製し吸引すると、依存度の高い危険な薬物へと変貌する。
 紅い粉でレッド・パラノイアと呼ばれているようだ。

●隣接する施設について
 花畑傍には組織員が寝泊まりする家屋が建っています。
 内部の様子は不明。窓から察するに部屋数は五部屋程度と思われます。
 捕まったグエインとクリアがいるとすれば、この家屋の中だと考えられます。

●同行NPC
 ラーシア・フェリルが同行します。
 薬物を悪用する連中を許せないと義憤に駆られています。
 指示がなければ邪魔にならないように動き回ります。

●戦闘地域
 幻想南部、ヌリカ村の裏山の山間になります。
 ジスクナスの花畑の傍には二階建ての家屋が建っており、そこで組織員が寝泊まりしているようです。
 時刻は十七時。若干暗がりに包まれ始めています。
 障害物はなく視界も良好でしょう。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • ジスクナスの焔完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年01月24日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
シラス(p3p004421)
超える者
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ

リプレイ

●誘い出す
 ヌリカ村の裏山、その道程にその道はあった。
 道案内をしたロカは涙目になりながらグエインとクリアの無事を願う。
「お願いだ。どうか二人を助けておくれよ」
 そう言葉を零すロカの頭を撫でて、イレギュラーズは獣道へと進んだ。
 麻薬となりジスクナスの花を栽培する大規模盗賊団グラス・ゴルド。それだけでも厄介だが、捕まった二人の子供が人質となっている。
 二人の子供の安否は依頼に含まれていない。それはつまり、到着時点で二人の子供の命は保障されていないことに他ならない。
 間に合うかどうかは神のみぞ知る事だが、それでもイレギュラーズは子供達を救うことを念頭においた救出プランを立てた。
「両方を熟さなければ為らない厄介な案件ですが――まあ、それもいつもの事」
 ゆるりと、平静に依頼を熟して参りましょう、と『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は生い茂る木々の中を進む。
「あの子達もこの道を通ったときはわくわくしたんだろうね。
 冒険。楽しいよね。今回はそれが困った事になっちゃったけど」
 道無き道を進むとき、人は未知への探究心を擽られるものだろう。その結果が今回はたまたま悪かっただけだ。冒険心を持つ子供達が大人になったとき、今日の出来事を笑い話にできるように、必ず助けるのだと『命の重さを知る小さき勇者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は決意する。
 獣道を藪こぎ進むと、瞬間視界が開ける。一面の紅。夕日を受けるジスクナスの花畑は血のように赤い色を反射する。
 隠密しながら、周囲の様子を確認する。
「周囲の状況、あなた達がわかること、教えて欲しいな」
 『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が植物たちと意思を交わし情報を収集する。
 グラス・ゴルド構成員の巡回ルート、そして交代時間がもうすぐだと言う事がわかる。連れ去られた子供達の居場所については判明しなかったが、近くにある建物に連れて行かれたことは断片的な情報から察することができた。
 花畑を覗けば五名の見張りが巡回しているのがわかる。その巡回ルートはスティアが得た情報通りと言うのがわかる。その奥、この山間には似つかわしくない人工的な建物が一つ。子供達が連れて行かれたという建物に他ならない。様子を窺えば、建物から五名の男達が武器を片手にでてくるのが見えた。
「交代の時間か。しかし警戒しているのが見て取れるね。”いかにも”な武器を手にしている」
 『世界の広さを識る者』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)の言葉に『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が頷いて、
「判明している人数は十五名、五名が見張りで残り十名は建物の中ですか。タイミングを見て仕掛けたいところですね」
 リースリットの提案に一同は頷いて、様子を窺う。交代に現れた五名が、見張り五名と交代し、今まで見張りに立っていた男達が建物の中へと戻っていった。
 必要最低限の会話しかしない辺り、かなり意識が高い集団にも思える。練度も合わせて高いだろうことは見て取れた。
「組織的なのが見て取れるね。
 まったく、自分達の利益を得る事しか考えてないんだから……本当にもう! 治療に関わるものとしては許せないよ!」
 『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)は治療士として薬物の副作用を考えずに売りさばく連中に憤慨する。そうして怒りを燃やしながら、見張りに気づかれぬように保護結界を周囲へと張り巡らせる。
 今回の作戦ではジスクナスの花を燃やす必要がある。山への延焼を防ぐために保護結界を使えるセシリアの役目は重要だ。
「未だ畑を手放さず、逃げる気配もない。
 欲を掻いているのか、それとも腕によっぽど自信があるのか。
 どちらにせよ、手を抜ける相手じゃないね。腕が鳴るぜ」
 愛杖を構え、襲撃のタイミングを図る『特異運命座標』シラス(p3p004421)が口の端を釣り上げる。
「砂蠍といい、コイツらといい……なんで盗賊団っていうのは表の世界に迷惑かけるのかね。それはアウトなんだよ!」
 ぷぅーと頬を膨らます『エアーコンバット』ティスル ティル(p3p006151)にラーシア・フェリルが「その通りです!」とうんうん頷いた。
「さあ、さっさとやっちゃいますか!」
 ティスルの言葉に頷いて、イレギュラーズは一斉に動き出した。
 巡回に気づかれないルートを通りながら、敵の背後を取るように動いていく。
 先行するルアナが、静かに合図を出す。全員がそれを確認すると、ルアナが一歩ジスクナスの花畑から飛び出した。
「あぁ? またクソガキだと――?」
「ねぇねぇ。おじちゃんここどこかな……」
「ちっ、だからここはもう終わりだって言ったのに……うるせぇ、ガキ”てめぇも一緒に処分”だ」
 その言葉は、先に連れ去られた子供達の安否を確認出来るものか。一縷の希望を見いだしたイレギュラーズが行動を開始する。
「どう処分するのか教えて貰おうかな――!」
 強気に微笑むルアナが挑発めいた言葉を発すれば、それは見張りの敵視を稼ぐ事になる。
「クソガキが! 待て!」
 見張りの声に反応し、他の見張りも動き出す。ルアナはそうして見張り達に追われながら、周囲の建物などの死角へと誘い出した。
「てめぇ、ただのガキじゃねぇな……!」
 手慣れた誘い出しに、勘の良いグラス・ゴルド構成員が表情を変える。それは多くの戦場を戦い抜いた冷たい表情だ。
「軍……いや、冒険者かなにかか。いずれにせよ囲まれてる可能性もあるな。
 全員でコイツを処分したら急いでここを引き払うぞ」
「そうはいかない。君達にはここで今まで味を占めていた分の対価を払って貰う」
「全員覚悟してください。逃げられるとは思わない事です」
 イシュトカとヘイゼルが背後から奇襲を掛けて、構成員の二人がたまらず転げた。
「……緊急事態だな。全員プランDに以降する。覚悟を決めろ」
 構成員達の表情が変わると同時、一人の男が懐に手を入れた。スティアが気づいて攻撃するも一歩遅かった。通信機のボタンを押されたようだった。
「鏡の杯に血を注げ。……全員殲滅だ」
 武器を構えたグラス・ゴルド構成員達が、イレギュラーズに襲いかかる!

●見せ掛けの強襲
 イレギュラーズに取り囲まれているにもかかわらず、構成員達の士気は高く、また攻撃も鋭い。
 話に聞いていたとおり、戦闘能力に自信があるようで、一撃一撃が重く、数的優位を取っていたとしても油断のならない相手であるのは間違いがなかった。
 一つ状況的に不可解だったのは、戦闘開始前に押された通信機のボタン。あれで建物から増援が来るのかと思いきや、その兆候がなかったことだ。
 中で何をしているのか、杳として知れないが今はこの五名の構成員を倒す方が先と判断した。
「戦闘経験に自信がありそうだが、それならばこちらも同じ事でね。思うようにやらせはしないさ」
 響く勇壮のマーチが仲間を鼓舞し、続くイシュトカの動きは自らの集中力を高めるオーラの展開。そうしてその特徴的な瞳で狙い澄ませば、獣の如き動きを見せる黒煙の塊を放つ。『呪』の依代たる狂飢の産物が、構成員達に不運不吉な苦鳴を与える事になる。
 構成員達との戦闘の最中、リースリットは判断に迷っていた。
 見張りを撃破、或いは家屋に走る者が居た時点で、花畑に火を付ける。そう心づもりをつけていたが、先の通信機あれをどう取るべきか悩んでいた。
 この構成員達の動きを見るに、無駄な事は一切しないだろう。で、あれば家屋の中に残っている者達が何をしているか。
(ただの詰め所ではなく、何かを行っていたとすれば……証拠隠滅の可能性――)
 そこまで思い至れば、今するべきことはハッキリとする。証拠隠滅の中に人質の処分だって含まれているだろう。ならば――
 ごめんなさい。内心で小さく謝りリースリットがジスクナスの花に火を付ける。小さく火を付けたジスクナスの花は、その火を紅い花弁へと燃え移らせると、途端に力強く燃え上がった。それは花の特性ともいえるものだろう。
「野郎ッ! 花に火を付けやがった!」
「さて――急いで消火すれば間に合うかもしれませんよ」
「馬鹿が! この辺一体の山を燃やし尽くす気か! ジスクナスは引火すると爆発的に燃え広がって一晩中は燃え続ける成分を出すんだ! てめぇら花と心中するつもりか!?」
 慌てふためく構成員達が、火に巻かれないように遠ざかる。こうなってしまえばいくら莫大な利益を齎す花であろうと手を出せる者はいない。
 浮き足だつ構成員の動きは、見るからに悪くなっていく。その好機を当然イレギュラーズは逃しはしない。
「まずは貴方達から退場してもらうよ――!」
 スティアの放つ不思議な魔法が、ハエトリグサを思わせる巨大植物を呼び出す。蔓草の触手が居並ぶ構成員達を噛み貫いていく。
 スティアは攻守のバランスよく立ち回る。ヒーラーであるセシリアをフォローし、仲間が倒れないようにすることを意識していた。
「セシリアさん、結界は――」
「有効範囲内は大丈夫だけど、思った以上に火の手が強いね。延焼コントロールするのは結構大変かも……!」
 保護結界による延焼範囲の決定は十分機能しているが、セシリア一人でコントロールしていることもあり、効果範囲から外れれば即座に延焼が始まってしまう。シラスの提案で一部周囲の花を薙ぎ倒してはいたが、火の手が思いの外強いのが問題だ。
 保護結界を維持するのは中々に難しく、セシリアは動くに動けない状況となっていた。
 花畑を全て燃やすときは、なにか別の方法を考えないとダメだろう、と言う事が分かる。
 イレギュラーズの策は十分に効果を発揮したと言って良いだろう。
 浮き足だった見張り達は、その隙を突かれ、一人、また一人と倒れ伏す。生かして捉える事も出来たので上出来だ。
 またジスクナスの花に火を付けたことで、家屋にいた者達が慌てて出てくるのがわかった。数は十名で事前情報と一致している。
 出てきた構成員達はジスクナスの花畑の様子を確認しながら、何か叫いて居たが、すぐに逃げ出す算段をつけるように、家屋から荷物を引っ張りだしてきていた。
「ラーシアさんは、ルアナ達と一緒に戦ってくれる? 悪い人達にお仕置きしなきゃ」
「ええ、許してはおけませんから。行きましょう」
 先行するのはやはりルアナだ。防御に集中しながら名乗りを上げて構成員達の注意を引く。
 仲間がやられていることに気づいた構成員達は苦虫を噛み潰したような表情になりながら、イレギュラーズに対して武器を抜いた。隙を見つけて逃げ出そうという心算なのは見え透いている。イレギュラーズは先行したルアナとラーシアを中心に、構成員を取り囲むように展開していく。
 そうしてイレギュラーズ”五人”とラーシアが注意を引きつけている中、ヘイゼル、シラス、ティスルの三人が気づかれぬように家屋の裏手へと回った。
 人質となっている二人の子供を救うため、侵入を開始する。

●人質の行方
「さーて。どうか、ザル警備でありますように……!」
 ティスルが祈るように裏口の窓を覗き見る。中に人が居ないのを確認すると、シラスが解錠スキルを用いて鍵を開け、窓から侵入する。
 ステルスと共に空中歩行を行うヘイゼルを先頭に、三人は建物の中を進む。中は外からは想像出来ないほど多種多様な器具が並んでいて――そう、これはまるで精選工場のようにも見える。
「ここで持ち運びやすいように精選していたのでしょうか。
 不快な甘い臭いが充満していますね」
 良く目を向ければ、器具の一部が破壊されている。破壊跡は新しい。恐らく通信機の信号を受け取ってから今までの間に壊されたものだろう。グラス・ゴルドに繋がる証拠の隠滅が行われていたのだ。
 一階の探索はすぐに終えた。そのほとんどが精選に使う部屋と思われ、人質がいる気配はなかった。
 二階へと上がる階段がある。慎重に音を殺しながら二階へと上がっていくと、すぐに人の声がした。
「ちっ、後始末なんて面倒なもの押しつけやがって……悪く思うなよガキ共、こんなところに来ちまった自分達を恨むんだな」
「んーっ! んんーっ!!」
 後に聞こえてきた声は、幼い女の子の声だ。
 咄嗟にヘイゼルが駆ける。軍用踏空魔紋【Ventus】がレールのように生み出されそこを無音のままにヘイゼルが疾駆する。
 ナイフ持つ構成員が子供達へとその凶刃を振り下ろす前に、ヘイゼルの生み出した魔力糸がその腕を絡め取った。
「させません――!」
「な、なんだてめぇ、どこから――!?」
 縺れるように室内に転んだ二人。倒れ伏す子供達の元へティスルとシラスが駆け寄った。
「大丈夫か、いま轡をとってやる」
 シラスが女の子――クリアの轡を取ると、クリアは泣くように言葉を走らせた。
「グエインが! グエインが注射されて!」
「――ッ! ティスル、すぐにこの子をセシリアの所へ連れて行け!」
「オッケー任せて!」
 グエインを抱えたティスルが窓から飛び降り、セシリアの元へと向かう。
 その様子を見ていた構成員が下卑た笑いを浮かべた。
「へ、へへ。無駄だぜ。レッド・パラノイアを溶かした濃厚なヤクを打ってやったんだ。ありゃぁ助からねぇよ。お手上げって奴だ。くくく、女を守ろうとしたナイト気取りのクソガキには良い薬だぜ」
「グエインは私を庇って……それで――」
 構成員の話を裏付けるようにクリアが涙を零す。
「この外道め――」
「思っていた以上に屑の集まりのようですね」
 シラスとヘイゼルが鋭い怒りを込めて構成員を睨めつける。今、このときばかりは怒りのままに技を振るっても構わないだろう。
「ちっ、とんだ貧乏くじだぜ……!」
 恨みがましく言う構成員がヘイゼルに向けて走り出す。同時シラスがその背を追うように走り、ヘイゼルは突撃する構成員、これを向かい打つ。
 突き出されたナイフがヘイゼルの腕を切り裂く。続けて首を狙うように横薙ぎに振るわれるのを紙一重で避ける。
 側面へと回り込んだシラスが衝術を唱える。生み出せれた魔力の衝撃が構成員を吹き飛ばし壁に叩きつけた。
「――ッ!」
 止めへと走ったヘイゼルが培われた勘で天井へと飛び上がる。仕込みナイフによる投擲を躱した形だ。
 空中に浮かび上がる魔紋を蹴って浴びせかけるように魔力を振りまく。それは毒であり、肌を焼いては血管を破る。
 苦しむ構成員がのたうち回り――最後はシラスが研ぎ澄まされた呪力宿す指先で、その命を掠め取った。
 ヘイゼルは怯え竦むクリアを安心させるように抱くと、その足で建物から脱出する。
 あとには血生臭く、不快な甘い臭いが残るだけだ。

●ジスクナスの焔
「これで終わりだよ――!」
 スティアの一撃が、最後まで立っていた構成員に止めを刺す。かなりしつこい相手で命を取らずに倒すのは難しかった。
 前衛として多くの敵の注意を引いていたルアナや、途中から前衛として仲間の危機を庇っていたイシュトカの両名は多くの傷を受けたが、なんとかこのグラス・ゴルド構成員達を無力化することに成功したのだ。
 その時建物からティスルがグエイン少年を抱えてセシリアの元へ文字通り飛んできた。
「どうかな? かなり危なそうだけど――」
「かなり良くないね……とりあえずやれるだけのことはしてみる」
 治癒の魔術を持ってしても、麻薬に犯された人間を救うことはできない。必死に治療を試みるイレギュラーズを、倒され捕まった構成員が鼻で笑いながら見ていた。
「はっ、無駄だ。仮に命を繋ぎ止めても待ってるのは禁断症状に苦しむ廃人人生だろうよ。大人しく殺してやったほうがそのボウズの為だぜ」
「こんのぉ! よくもヌケヌケと!」
 怒るティスルが構成員の顎を蹴り上げ黙らせる。
 そうしてヘイゼルとシラスも合流し、一同はグエインの容態を確かめながら後始末へとかかった。
「とりあえずは一命は取り留めたよ! 後は大きな街の医者に診せるしかなさそう……」
 ふーっと一息ついたセシリアだが彼女にはまだ仕事が残っている。
「それではこの花畑を燃やしてしまいましょう」
「そうだね。花に悪意はなくても、またこれを利用するものはきっと出てくるしね」
 リースリットとスティアの言葉に皆が頷く。
 そうしてイレギュラーズは、山への延焼を防ぎながら、ジスクナスの花畑を燃やしていく。
 暗がり始めた世界に紅い花が最後の光を輝かせる。
 紅い紅いジスクナスの焔は、いつまで経っても消える様子を見せなかった。
 同時に、甘く脳を溶かすような匂いが鼻にこびり付き、いつまでも不快な臭いを感じさせるのだった。

 後日、グエイン少年の意識が戻った事が知らされる。だがその後遺症は重い。満足に動けるようになるまでしばらくの時間を要し、日常が戻るには数年の月日が必要とのことだった。
 捕まったグラス・ゴルドの構成員の口は固く、未だグラス・ゴルドの全容を掴める情報は手に入ってないという。
 麻薬という危険な薬物を流通させる悪しき組織は未だ闇の中。
 しかし、イレギュラーズは思う。
 その尻尾を見せた巨大組織との戦いは、また近しい時に行われるに違いないと。

成否

成功

MVP

セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。

 作戦自体はとても良く、戦闘と救出のバランスが取れていたと思います。惜しむべきは若干速度が足らなかった所でしょうか。惜しかったです。
 とはいえ子供達も命を失わずに済み、構成員も捕まえる事が出来ました。お見事です。

MVPは保護結界から治癒にと忙しかったセシリアさんへ送ります。

依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

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