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シナリオ詳細

さよならのあわい

冒険中

参加者 : 8 人

冒険中です。結果をお待ちください。

オープニング

●間
 嘗ておとことおんながひとつであったように。
 こころなど、其処に存在していなければ良かったのかもしれない。
 雪融けの芽吹きは未だ遠く。蕾の儘、凋む事となる想いの片でも績げた為れば。
 まほらに霞むあなたに愛していると伝えることができたのでしょうか。
 わたくしは『わたくし』であることを望んではいません。
 わたくしは、その手を取って今にでも走り去りたいと願って已まないのです。
 民衆の願いと民衆の希望と民衆の欲で蝋の如く塗り固められたこの体。
 あなたはそんなわたくしを見ても綺麗だと笑ってくださったのに。
 わたくしは不甲斐なく、ひとりきりであったのです。
 嘗てわたくしがひとりのおんなであったように。
 嘗てあなたがただのおとこであったように。
 嘗て――……


 ぱちり、と薪の弾ける音を聞きながら『聖女の殻』エルピス(p3n000080)は頬を擽る金糸を僅かに指先弄り、文字の羅列を追い掛ける。
 ちらちらと散る雪は当分止む事はないだろうと誰かが言っていた。
「確かに、あいしていたのかもしれません」
 人はどうして、愛だの恋だのと口にするのだろう。エルピスの赤い唇がそう、紡ぐ。
「愛とは、神がわたしたちに与えた一つの奇跡であり、そして、不幸です。
 神はわたしたちに人を愛することを教えると同時に、人を憎む事を教えたのだから」
 こころというのは不便なものだ。だから、考えてしまうのだろう。
 ――どうして、と。
「……天義に、フォン・トネールと呼ばれる山間の、地域があるのです。
 神託の聖女『アナベル』。彼女から、ローレットへの依頼……なのですが」
 歯切れ悪く、エルピスは慣れぬ言葉を並べながら不安げに目を伏せる。
 神託の聖女『アナベル』。人々の為に祈りを捧げ、飢えより救うに至ったとされる妙齢のおんな。
 きっと、彼女が『完璧なる聖女』であったならばローレットに依頼することはなかっただろう。聖女と言えど、ただのひとりのおんなであったのだと、エルピスは睫を震わせそう言った。
「パトリスと、言う男性の殺害を――彼女は願いました」
 私欲に満ちた殺害とひとは云うだろうか。あるいは、死を願うおんなを悪魔と罵るのだろうか。
 だからこそ、『誰からの依頼』であるかは悟られてはならぬ。知られてはならぬ。彼女が聖女であるために、彼女が生きるために、彼女が――『アナベル』であるために。
「聖女が人殺しを望む?」
「はい」
「聖女が」
「アナベル様がおんなで、パトリス様がおとこであったからこそ」
 エルピスは刹那気に瞳を揺らし、唇を震わせた。
 パトリスはフォン・トネールの商家の三男坊であった。
 誠実を絵に描いたような男で、敬虔なる神の徒であった――あったのだ。彼はある容疑をかけられ、聖騎士団へ連行され、断罪されるだろうとエルピスは云う。
 フォン・トネールで起こった重罪。ある旅人一家が身包みや金品を盗まれ、山に捨てられていた。その被害者には幼いこどもが居た事で民衆は心を痛め、神の慈愛に背く大罪人を探したのだ。
 その容疑者というのがパトリス・アルチュセールその人だ。
「『彼ではない』と、聖女は云います」
「聖女が言ったなら――」
「わたしも、きっと、彼ではないのだとアナベル様の話を聞いて思いました」
 けれど、とエルピスは続ける。
「『我が国は疑わしき人に寛容ではありません』」
 パトリスが犯人であるかないかはこの際は問題なく、聖騎士団は彼を連行し、犯人と断定するだろう。不憫な男であった、と天義を識る人ならば切なげに目を伏せて全てから目を背け終わる話だ。しかし、本件はそうはならなかった、『そうしない』人がいたからだ。
「聖女アナベル。彼女は聖堂で敬虔なる神の徒として祈りを捧げるパトリス様をひとりのおとことして愛していました。そうして彼も同様に聖女アナベルを愛していました」
 おとことおんなとして。
「罪を着て処刑されることを知り、アナベル様はわたしたちに願いました。
『罪人ではなく、ひとりのおとことして死にたい』彼を、殺してほしい」
 密やかな、誰も知ることのなかったふたりの愛のかたち。
 聖女の嫋やかな指先はナイフの重みも、人の命を奪う感覚も知らぬのだろう。
 けれど。
 けれど、知らぬ場所で罪人として死ぬのではなく、ひとりのおとことして死にたい。
「……しかし、彼は罪人であり、聖騎士団に連行される事となる身です。
 わたしたちが行うは悪しきこと。聖騎士団の監視を潜り、彼を殺さなくてはなりません」
 聖騎士団は生きた彼を聖都へ連行することを使命としている。天義の聖騎士団とは『敵対』することになることは明確だ。
「どうか……ころして、ください」

●聖女
 あなたを愛したことが罪なのだとしたら。
 あなたが死することがわたくしへの罰なのでしょうか。
 清廉なるあなたの手が血で汚れたと誹られるのは、
 わたくしがあなたを愛してしまったからなのでしょうか。
 神はわたくしがあなたを愛すべきでないと仰っているのでしょう。
 だから、あなたが『罪人』として死する未来を与えたのでしょうか。
 わたくしは、清廉なるあなたの願いを叶えたい。
 聖女としてではなく、ひとりの、アナベルとして。

 ――生きて欲しかった――

 泥を啜りながらでも、罪人としてでも。
 けれど、神は御赦しにならず、断頭台が貴方の前にあるのでしょう。
 為ればあなたの願いをわたくしは叶えたい。
 ひとりのおとことして、あなたを殺すためのひとつの手段。
 この手を汚す事なき狡いおんなとしてわたくしは神を裏切るのでしょう。
 我がすべての神よりも、あなたを――愛してしまった莫迦なおんなとして。

GMコメント

 日下部です。それは、救いと呼べるのでしょうか。

●達成条件:『パトリス』の死亡
 その『死亡』の意味はお任せいたします。天義で彼が死ねばいいのです。
 意味によっては困難を極めるでしょう。 

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『天義』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●フォン・トネール
 聖都より離れた山間の地域。雪がちらつき、凍える様な寒さを感じさせます。
 白雪よりも尚、白い聖堂には祈りで人々を救ったとされる神託の聖女『アナベル』が一人、祈りを捧げ続けています。その風土は田舎らしく、非常に鬱屈した村人が多いようです。

●パトリス・アルチュセール
 フォン・トネールの商家『アルチュセール』の三男坊。誠実を絵に描いたような優し気な青年です。
 フォン・トネールで起こった強盗殺人の重要容疑者として検挙され、断罪が待ち受けています。彼自身はフォン・トネールの聖堂近くにある小屋にて聖騎士団の監視のもと、聖都への輸送を待つ事となって居ます。
 聖女アナベルを一人のおんなとして、愛し、想いを酌み交わし、『アナベルを愛した男』として死ぬことを彼自身は望んでいます。

●聖騎士団*10名
 パトリスを聖都へと輸送する任を担っています。彼らの目的はパトリスが生存した状態での輸送であるため、彼を殺す為に現れる特異運命座標とは明確に敵対します。
 また、大罪人であるために彼への面会は誰一人として許さず、小屋にはパトリスと見張り役の4名。他6名は小屋周辺の警備を行っているようです。

●聖女『アナベル』
 祈りで人々を救った女。ファミリーネームは聖女となった日に神の所有物となる為に捨てました。ただ、虚であったこころを満たしたのは愛しいひとりのおとこ。
 生きて欲しいと願い、彼の手を取り逃げてしまえばと考えど、己にはその力がないためにローレットに『彼の殺害』を依頼しました。
 アナベルには聖堂にて会う事が出来ます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 どうぞ、よろしくおねがいします。

  • さよならのあわい 冒険中
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 出発日時2019年01月10日 23時59分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険中です。結果をお待ちください。

参加者一覧(8人)

レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
秋宮・史之(p3p002233)
女王忠節
メルナ(p3p002292)
兄の影を纏う者
リア・クォーツ(p3p004937)
旋律を知る者
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
寄り添う風
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)
信仰者

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