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シナリオ詳細

幸せの町

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●福音の鐘は止まぬ
 旅の行商人は語った。
「二週間前の事だったよ。そうそう……雪が降っていた、視界も足場も悪くなるような雪じゃなかったからよく覚えてる」
 二週間前。
 天義の北東部を転々としながら各地で稼ぎ、特産品を蒐集する彼は地図にも載っていないような小さな村に辿り着いたという。
「そこへ着く前、まあ、ちょいと山賊をシメてやりましてねぇ。近くに村はあるかって聞いてやったら地図をぽいっと渡されたんだ
 で……あのリンゴンうるさい村というか連中いわく『幸せの町』ってのに辿り着いたわけだ。町の人? そりゃーもう、面白かったよ。
 なんせどいつもこいつも、頭がおかしいんじゃないかってくらい笑ってるんだから」
 行商の男は記憶を遡る上で一度身震いをした。
 最初こそ親切な出迎えと幸運にも宿にありつけた事で喜んでいたが、それも束の間だった。
 頭に響くような鐘の音はいつまでたっても止まず。出会う者全員が口が裂けんばかりに笑っていたのだ。
 商い事も一切せず。町の住人達は当たり前の様な顔をして食事を分け合っていた。
「天義に限らずその土地の人間ともちょっと違う空気を出していたら『わかる』モンでしょうさ。
 ……ここは多分、厄い臭いしかしない場所だってね」
 行商の男はその晩の間に水と食料を積んで村を出る事にしたと首を振った。
 雪は止んでいた。不気味な夜だったとも。
 村の正面には守衛らしき者達が立っていた事もあり、彼は村の奥に広がる森へ入り。遠回りして元来た道を戻ろうとしていた。
「そこで、ですよ。見ちまったんだ……町の連中が森の奥の方でやってることを」
 行商の男は震える肩を抱いて、絞り出すように告げる。
「……あいつら。蛾みたいな女に自分を喰わせてたんだ、笑顔で、笑いながら生きたまま腕や頭を差し出して……ビスケットみてぇに齧られていた」

●調査依頼
 パタン、と扉を後ろ手に閉じた修道女は改めて顔を上げた。
「わ、分かっている事はこれだけです……かわいそうに。彼は怯えていますわ……」
 シスター。ランバー・ジャークと名乗る彼女は長い袖に手元を隠しながらイレギュラーズを見渡した。
 彼女からの依頼である。
「この辺りはとても静かで、土地も比較的マシな部分もあって人々は平穏な日々を過ごしております。
 しかし、先日ここへ駆け込んで来た行商人の彼が……これ以上騒ぎを起こして聖騎士を呼ばれでもすれば火の粉は此処へも降りかかる事でしょう……
 現在この町を含めて近辺に神父以上の教会責任者は不在です……どうにかして行商人の彼の心へ安息をもたらすと共に問題を解決するには皆様のお力が必要ですわ」
 ああ、と。目元を抑えて嘆く仕草をするシスター・ランバーはいつの間にか取り出した空の小瓶を取り出した。

「幸福の町には女性の姿をした蛾のモンスターがいるとのこと。
 ローレットの方々には……その、討伐のあと……モンスターの一部を持ち帰っていただいて、町の人々の様子を見て来ていただければと思います。
 そうすれば、後は私が聖都へ報告して……それから、近隣の集落や町は無関係であると説明します」
 不安気、或いは自信の無い様な姿。
 しかしそれが依頼であるならばローレットに断る理由は無く。シスターとてこうして独りでも依頼をするだけのコネクションはあるのだろう。
 問題はない筈ですと頷く彼女に、イレギュラーズもまた了解したと頷いた。
「……地図には載っていない町。私も初めて聞く所です、もしも何か不測の事態で討伐や調査が難しくなったなら……全て燃やしても問題は無いと言えば無いですが……」
 長い袖を揺らすシスターの暗い呟きは直後の「よろしくお願いします」という声で掻き消された。

GMコメント

 ちくわブレードです。今年もあと僅かとなりましたが、よろしくお願いします。
 今回は討伐と調査を兼ねた依頼になります。

 以下情報

●依頼成功条件
 女性型モンスターの討伐
 幸せの町の調査

●情報精度B
 情報は断片的です。失敗に繋がる程の不測の事態は発生しませんが、町の住人達には警戒が必要でしょう。

●女の姿? 蛾の姿?
 蛾のような、女性のようなモンスターが人を貪っている。行商人の言が真実ならば恐ろしい事です。
 紫に光る鱗粉を纏う長身のそれは、鋭利な牙や紫紺の爪で人間をバターの様に切り裂いていたとか。
 運動性能に基づく戦闘能力や、纏う鱗粉に対する情報はありませんが油断できない怪物でしょう。
 これを討伐すると共に、皆様にはモンスターの一部を持ち帰っていただきます。

●幸せ? 幸福? 村? 町?
 行商人の話によれば、人口約80の町との事。
 とはいえ木々に囲まれた中で点々と建てられた家屋以外には教会が一軒あるのみ。一見すれば村の様な光景です。
 町の奥には深い森が小規模ながら広がっており、夜間に進行する場合は何らかの照明が無いと戦闘時に不意を打たれる危険があります。
 彼等は常に幸福に包まれ、福音の鐘を鳴らし続け、幸せに暮らしていると信じて疑いません。
 依頼人に報告する調査上で最低限必要なのは『町のなりたち』『信仰に関して』とされています、これは依頼人が事を大きくしない為に聖都へ報せる際に用いるようです。
 少なくとも他者へ危害を加えるようには見えない人々のようですが、怪しいです。

 『田舎町のシスター』ランバー・ジャーク
 幸せの町から南下した位置にある、名も無き小さな田舎町唯一の聖職者。事前または事後に彼女と接触して話す事が可能です。
 今回、依頼をするにあたり極力イレギュラーズ側に被害が出ない事を祈っている様子。
 よって本件に限り事前準備含め【調査期間は最大二日間とする】事になっています。

※本件に関しての注意
 モンスター討伐、調査、この二件まとめて【調査期間】と定義。
 調査に関しては各種有効スキルや、その他スキルギフトの応用によって判定します。

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • 幸せの町 完了
  • GM名ちくわブレード
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年01月16日 21時25分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

銀城 黒羽(p3p000505)
暇人
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
カースドデストラクション
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
繊麗たるホワイト・レド
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
アマリリス(p3p004731)
天義の守護騎士
アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)
黒鴉の花姫
真菜(p3p006826)
脱兎の逃げ足

リプレイ

●『問い』
 礼拝堂。
 シスター・ランバーは自身を呼ぶ声に振り向く。
「まあ……どうされました?」
「仕事中に引き止めてごめんなさい。町へ行く前に聞いておきたい事があって」
 長過ぎる袖を隠す様に教典を抱くシスターに話を持ち出したのは『カースドデストラクション』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)だった。
 視線を巡らせ、思考の後に頷いたシスターは「座りましょう」と礼拝堂の片隅に腰を下ろした。
「──それで」
 シスターに促されてアンナは幾つか問いを投げ、返される。
 緩やかな時間の流れは直ぐに終わった。

 『闇之雲』武器商人(p3p001107)は小さな写本を手に取り、中を見てから懐に入れる。
「頻度はさておき、昔からあるものなら地域単位で広まっていそうなものだが……さて」
 先日の依頼人から聞いた話を思い出す。
 常に鳴り響いていたという鐘に興味を示した彼は、件の村へ行く前に鐘を鳴らす習慣があるか、鐘にまつわる文献を調べていた。
 といっても、人伝による物を除くならそういった資料は町村における蔵書家を訪ねる他無かったのだが。
「見た所、鐘を鳴らす風習はないねぇ。となると……」
 室内に並べられ、四方の棚に収められた書物を見回す。
 やがて武器商人は数冊手に取りその場を後にした。
 ──
 ────
 ──────
 本来ならば福音か、警報を意味する荘厳な鐘の音色。それが背景音楽のように打ち鳴らされていた。
 美しくも鳴り止まぬこの鐘が何を指しているにせよ、壊れている。──正気でいられるはずがない。
「なんだか……前にも見た事があるような村でした」
「蛾の魔物。どうやら前にもこんな魔物が関係した依頼があったらしいな。
 悪いが一足先に森を見させて貰ったぜ、教会から北上した森の奥には【血の痕跡があった】。血痕は消せても臭いは残るってな」
 『幸せの町』へと足を踏み入れて暫しの時間の後。
 イレギュラーズは町から離れた所で集まり最初の二時間で得た情報をそれぞれ共有し合っていた。
 『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)が過去の依頼で確認されていた妖蝶の名を挙げた。
「もう……鱗粉は?」
 危険な行為だと咎めるより先に、【妖蝶】が有する最大の特徴について『銀凛の騎士』アマリリス(p3p004731)は気にかかる。
「見つからなかった。だがそもそも魔物が血を拭う筈がない、ここの連中が隠してるのは間違いないだろうな」
 やはりこの村には何かある。いつかの神父の姿が不穏な物を感じさせた。
「守衛の配置は特別変わった物ではありませんが、主に森への経路を遠巻きに見れる動きだったように思います……恐らくは黒羽さんの事も見ていた事でしょうね」
 慎ましやかな仕草でアマリリスに追従する『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)が頭を振った。
「……皆、気の良い人達に見えますが……幸せ、幸福……信仰……何もかもが嘘くさい……」
 村のどこからともなく笑い声が鐘の音と共に聴こえて来る。
 二羽の鴉が舞う下、『傷だらけのコンダクター』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)は村の様子に疑問を抱いていた。
「嘘を見抜けるわけじゃないから、本当は分からないけど……この村の人達はおかしい、と思う。
 ここに移住しようって、思ったら……できるのかって聞いたら、凄い剣幕で追いかけられた」
 疲れた様子を見せる『黒鴉の花姫』アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)にアンナが「私も同じだったわ」と頷く。
「これ以上近づきたくないけれど……だからこそ、放置するわけにもいかないわ。
 ──あぁ、そういえば此処へ来る前。依頼人のシスターさんに最近町の存在を匂わせる出来事がなかったか話を聞いたわ。何も知らなかったようだけどね」
「我(アタシ)はこの辺りの土地について少し調べ物をしてね、ヒヒ、ここの鐘が何故鳴り続けているか興味が湧いて来たさね。
 カランカランやかましいだろう? あれは【よくない者の声に支配されない為】に鳴らしているようだ……まァ、詳しい事はこの後直接見に行ってみるとしようカナ」
 武器商人の明かした情報にその場の数人が頷く。
 行商の男が見たという蛾のモンスターと『妖蝶ギルドース』、これら二つが同種である疑いは強い。
 だとすれば、狂気に陥った者へ影響の出る音波が鐘と関係しているかもしれない。或いは既に狂気に陥った者達を鐘で操っている可能性もある。
「正体、能力不明の怪物ですか……不気味です……この町も、人も。
 だっておかしいです、私は村の人達の話を聞いていただけですが……ずっと笑ってるばかりで会話が殆どないんです。無いのに、笑っていたんです……」
 村の外に広がる森を見ながら『脱兎の逃げ足』真菜(p3p006826)は肩を小さく抱く。
「では……それぞれ、ある程度様子は見たことです。そろそろ本腰を入れて話を聞きに参りましょうか」
 ならば聞けばいい。自身の手で探り、問いかけて答えを得ればいい。
 一同は互いに陽の傾きを、或いは懐中の時計を確認し合ってから頷き合った。
「────では改めて二時間後。各々気をつけて」
 村人へ近付いて行くアマリリスを追いながら、鶫は仲間達へ手を振る。
 疑惑渦巻く町へとイレギュラーズは再び繰り出して行った。

●『忘却』
 残雪を撫でる冷たい風がメイド服を揺らす。
 アマリリスは手の中にある草臥れた名刺を見やり、村の中央に見える教会へ視線が揺れる。
(ブロイラー神父……貴方が関わっていないことを願いたいのですが)
 村人を見つけては声をかけ、とある神父について尋ねて行く度それは降り積もっていく。
 異様な盲信というほどの物でも無ければ、狂気じみた儀式や風習があるわけでもない。
 声をかけて回る最中に見えて来るのは『何も無い』という事だけだ。
(しかし、この土地にこれほど特色が無い村などあるものでしょうか)
 次第に鶫も首を傾げる。
 控えめに言って田舎の森に面する村。もっと言うならば辺境地である。
 そんな土地で何も育まれず広まらず、何て事があるのだろうか。
「ウフフフフフ……おや、旅の人かな。なんでしょう」
「この村でブロイラー神父という方を見なかったでしょうか、特徴は長身の痩せ型で金髪の……──! あなたは!」
 声をかけた老父の顔を見た瞬間。そこに知る顔があった。
 多少の月日が経っても記憶にも残る一場面がアマリリスの中で急浮上し、その事実に言葉を失う。
「まさか……この町は」
 ──
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 ──────
「……そうなんだ、ありがとう」
 揺らぐ蒼白の焔は霞となって消える。
 木陰に背を預けながら手を伸ばすアイリスの周囲には、霊魂の類がポツポツと集まり、訪れていた。
 霊魂だけでなく、鴉や樹木とも意思を疎通させている彼女に興味を抱いた浮遊霊だ。
「次は……君、かな。この町はいつから、みんな幸せになったのか知ってるなら……教えてくれるかな」
 揺らぐ紫紺の焔。
 彼女の周囲で渦巻く、木の葉混じる風。
 会話を遮らんばかりに降り立つ鴉。
(少し聞き取りにくい……けど)
 これだけの浮遊霊が近くに来ていた、その事自体に違和感を覚えながらもアイリスは真剣に耳を傾け、意識を集中させた。
 鳴り響く鐘の音が遠くに感じる程に。
(陽が落ちて来たからかな……数が、多い……でも調べないと、神様の名を騙るなら……天義の民として、放っておけない)
 件の魔物が妖蝶ならば。また何かが繰り返されているというのなら、彼女はそれを否定しなくてはならない。
 アイリスは鴉を一撫ですると頭上の樹木へ再び語りかけていく。

 鐘の音がそろそろ頭の奥を揺さぶり始めた頃。
 教会前に並ぶテーブルの一席に着いて紅茶を啜るアンナは年若い娘達と短い談笑を交わしていた。
「皆様幸せそうで素晴らしい街ですわね。何か秘訣はあるのかしら?」
 そっと視線を俯かせながら彼女は問う。
「秘訣だなんて、まさか。私達は己の罪と向き合い、互いを憎まず愛し、愛される事を受け入れた身ですもの」
 笑顔が絶える瞬間は無い。
 アンナに応えている間も娘達は互いを尊ぶ姉妹のように撫で合い、慈しみの瞳を向け合って紅茶を注ぎ合っては飲み干していた。
「ずっとこの町に住んでいるのですか?」
「ええ、私達は此処へ来てからずっと」
「……ジェニファー」
 アンナの問いに答えようとした娘にピシャリと冷ややかな声が浴びせられる。
「──ごめんなさい、旅の人。話してはいけない事になっているの」
「いいえ、そんな事もあるでしょう。私の方こそ謝りますわ」
 空気が一変した。
 席を反射的に立ち上がったアンナは「ありがとう楽しかったわ」とだけ礼を述べると、その場から速やかに立ち去って行った。
(……答えられない事。『時期』と『場所』……そこに何かある)
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 ──
「「 あっ 」」
 静寂の中、浮いた声が礼拝堂に木霊した。
「奇遇だねぇ、二人も何か此処に感じる物があったのかい」
「私は教会にいる方にお話を聞いてみようと思って……」
「……この教会に聖職者は皆無っスよ。内部を探り易いのは良いですが、あくまでそれだけ……何か特別な物も無ければ文献もありませんでした」
 頭上を見上げるクローネの視線の先には蝙蝠が舞っている。
 恐らく彼女のファミリアーだろう。
「ヒヒ。日頃の感謝を捧げに来ている村人以外は誰もいない、か……だがその様子ではそれだけじゃなかったのかナ」
 礼拝堂の上を右往左往しているファミリアーの姿を武器商人は見逃さなかった。
「その通りっス、二人共こちらへ」
 ついて来る二人へ視線を向けながら「……真菜さんなら行けるかもしれないっスね」と零す。
 何の事かと思いながら真菜も後を追い、礼拝堂奥の扉を抜けクローネの導きに従って階段を行く。
 教会内部を傍目に観察する武器商人が足元へ目を落とす。
(……へェ)
 小さな教会とはいえ、天義の民が造り上げた信仰を捧げる場である。礼拝堂の上に作られた各部屋の内装は、微かに埃が被っていようと貴やかだった。
「ここは?」
「……どういう部屋かは知らないっス、ただこの先に隠し部屋があるのは間違いないようでして」
 クローネが後ろ手に部屋の壁を何度か叩く。
 鳴った軽い音は確かに壁の向こうで空間が存在する事を示していた。
「真菜さんなら壁を壊さずに向こう側へ入れるかと」
「確かにこれなら私のギフトで向こう側に抜けられるでしょうが……でも」
「でも?」
 クローネと武器商人へ真菜が視線を向け、何とも曖昧な表情を浮かべて言った。
「す、少しだけ……部屋の外で待っていて貰えますか……」
 暫くして壁の手前に所持品を置いて真菜は壁の向こうへと放り出される事となる。
 それ自体に問題は無いが、彼女は失念していた。
 ……隠し扉を作動させる仕組みを中々発見できず、真菜が隠し部屋から出られたのは結局二時間程した後だった。

●『報告』
 一人を除き、イレギュラーズは町から離れた位置に集まっていた。
「……全員、何か分かった事があるようですね」
 鶫が仲間の表情を見回した後、それぞれが思う所がある顔になっているのに気付く。
「ヒヒ。町の鐘に関してなら大体わかったよ、依頼人に報告するには丁度良いだろうとも」
「町の人達が何処から来たのかも……」
「では皆の情報をすり合わせていきましょう」
 一人ずつ彼等は得た情報を告げていく。
「我(アタシ)は教会の鐘を調べて見てきたよ、ヒヒ、予想通りあれには音響の……」
 その最中、アマリリスは姿の見えない黒羽に訝し気な表情を浮かべていた。
(もう陽も落ちて暫く経つというのに、未だ戻らないということは……)
「アマリリスさん?」
 何かあったのでは。そう思い至った彼女は直ぐ助けに向かおうとする。
 しかし、鶫達の方が先に気が付いた。
「よォ……ちょっと挨拶して来たぜ」
「黒羽さん……!?」
 暗がりをわざと選ぶようにして現れた黒羽の姿に一同は騒然とする。
 駆け寄ったアマリリスは彼の背中に刻まれた爪痕を見つけた。
「貴方は──ギルドースと戦ったのですか!」
 ────────
 ────
 ──



 夜闇が深まる時刻。
 幸せの町に響き渡っていた鐘の音が止まった。
 誰も彼も眠りに就いている時間である。僅かな間ならば誰も気付きはしないだろう、これが本来あるべき静寂なのだから。
 鐘の音響が木霊していた森に虫の声が戻る。
 守衛の数人が何事かと駆け回り始めているが、いずれも事を終える時に間に合う事は無い。
「なんだ……何故鐘が止んでいる?」
「幸福の鐘が止んだ……災いが頭の中に聴こえて来る……」
「”彼女” は!? あぁっ! 我が君……ひぃいッ!? なんだこれは、うわぁああぁっ」
「聖女様!? せ、聖女様が化け物に……!!」
 深夜の森へ訪れていた村人達の悲鳴が挙がる。
 足元に広がる血液の臭いが鼻を突いて冷静さを奪う中。彼等に襲い掛かろうと翅を広げた蛾の形状を帯びた女が奇声を轟かせた。

【── !! ──】

 だが、その声が辺りを震え上がらせる間も無く。
 木々の合間を一呼吸の刹那に駆け抜けて飛来した、小柄な少女が怪物の懐へ突き刺さった。
「ッ……はッ!」
 覇気が漏れる。
 真菜の全身が一瞬縮こまった直後、像がブレたのと同時に炸裂音が響く。ミサイルキックの形である。
 衝撃波を散らして音速の壁を越えた一撃に吹き飛んだ怪物を前に、少女は「ふあぁ」と安堵の息を吐き出した。
「な、な……あんた達は……」
「話は後で伺います! ここは! 私達にお任せを!!」
 真菜の先制の不意打ちが成功した事で一斉に姿を現したイレギュラーズ、アマリリスが恐慌状態となっていた村人達を下がらせる。
「ヒヒ。『どっちか』とは考えていたけれど、どうやら鐘は文字通り役目を果たしていたんだねぇ?」
「……姿も正常に認識させない効果があった辺り、どうにもキナ臭い所ですが」
「洗脳を洗脳する……幸福さえも、どこまでも他人の掌の上……そんなの生き地獄じゃねぇか、こいつは見逃すわけにはいかねぇ!」
 木々を倒し体勢を崩している怪物は未だ混乱している。或いは、真菜の一撃によるダメージで麻痺しているのか。
 笑う武器商人が囁く。
 次いで、クローネは対照的に憂いな瞳を向けて指先を揺らして詠唱を紡いだ。
 彼等から飛び出すは雪が降り積もっていた森を更なる冷気で蹂躙する、氷結の化身である。

【── ……ッ!? ……!? ──】

 咄嗟に飛び立とうとするが、既に遅い。刹那に鶫が投擲した擲弾が雷光と共に爆ぜ、感電させたのだ。
 周囲を覆う氷結の大蛇。全身を蝕む冷気溢れる鎖が怪物を拘束し、その場に縫い付けた。
「一体どこの誰が用意した蟲か知らないけど、生憎そんな安上がりな幸福は要らないの」
 徹底的な拘束。先制。最早動く事もままならない姿となった女型の蛾を前にアンナは黒羽と並んで囲み、見下ろして言った。
「"神よ罪深き彼女に贖罪の機会を与え給え"……! このまま、畳みかける!」
「そう、あれにターンなど与えません──魔物を討ち、再び村の人々が犠牲となるのを食い止める!!」
 アイリスとアマリリスの二人がその手のアーティファクトを起動させ、閃光を放った。
 怪物の巨躯が鞠の様に弾かれた瞬間、白光に混ざる漆黒の残滓が怪物の全身を飲み込んで喰らい尽くす。
「では────」
 怪物の肉体に亀裂が入った刹那、無音の狙撃が巨大な翅の根元を穿った。
 直後。音も無く、ただ一度の『声』も挙げる事無く。紫の鱗粉すら雪結晶に覆われていた怪物は静かに破砕するのだった。
「きたねえ花火だ」
 爆ぜるかのように降り注いできた肉塊の一部を黒羽は手に取る。
 彼は鱗粉がサラサラと零れ落ちる翅を懐の小瓶に入れた。

●『消失』
 数日後。
 名も無き田舎町の教会にイレギュラーズは再び訪れる事となる。
「こちらが調査報告書ですね」
「ええ、シスター」
 アマリリス達から渡された報告書と、小瓶を手にした依頼人のランバーは感嘆の声を漏らした。
「素晴らしい……」
 それまでの不安気な気配が消え、歓喜と羨望の眼差しでイレギュラーズを見つめる彼女に黒羽が近付く。
「仮に使った場合、次に消えるのはアンタかも知れねぇぜ……その事は肝に命じておいてくれ」
「えぇ……私の矮小な魂に刻み付けておきますわ!」
 口の端が吊り上がり、歪んだ笑みを向けるシスター。
 これで依頼は完了したと告げる彼女。

「シスター、お話があります。既にそちらの報告書にも記されていますが……今回私達が調査したあの町は、
 住人が過去にテッド村という地から連行された村人達だった事が分かりました。そして、そこにはブロイラー神父という人物が関わっている事も」
 彼女は数日前の夜にアイリスから聞かされた事を思い出す。
 住人は僅か二ヶ月前に連れて来られた事。
 そして彼女が『とある迷惑な探偵』に調べさせて分かった──それ以前に黒服の男達が来ていた事。
 そして、その中にアマリリスの言う特徴と合致した神父が居た事。
「ブロイラー神父? ────
 ……では、後は私にお任せください。きっと事件を解決へと導いて見せますわ」
 シスターはアマリリスの手を取った後、他のイレギュラーズとも握手をしに行った。
 満面の笑顔で。とても嬉しそうに。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

───その後、シスター・ランバーと共に幸せの町が姿を消した事を風の噂で貴方は聞く事になる。

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