PandoraPartyProject

シナリオ詳細

クセモノはニセモノ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある昼下がり
 ローレットの拠点でゆったりとした午後を過ごしていると、一人の中年男性が血相を変えて、なにやら切迫した様子で飛び込んできた。
「た、助けてくれ! 私は殺されてしまう!」
 穏やかではない台詞を口走っている。
 なにやらただ事ではなさそうなので、耳を貸してみることに。
「……げほっ、げほっ。す、すまない、慌てていたもので」
 イレギュラーズになだめられ、落ち着きを取り戻してから男性は語り始める。
「私はこの近隣に住んでいる者でして。実は今朝、玄関の扉に一輪の薔薇が差し込まれていたのを発見したのです」
 それが『殺される』などという物騒な発言とどう繋がりがあるのか尋ねると。
「なにをおっしゃる! 薔薇といえば悪名高いアーベントロート家の象徴。これが暗殺の知らせじゃないとしたらなんだというのでしょう!」
 男性はまた興奮した様子で年甲斐もなくわめき始めた。
 今にも泣き出しそうなくらいに、だ。
「その上、ご丁寧に執行する日付まで添えて! しかもこの日は息子夫婦が仕事の都合で出払っている時なのだ。ああ、私は前々から付け狙われていたに違いない……身辺の調査までされていただなんて……」
 口にしたことで恐怖が増してきたのか、ガタガタと震えだす男性。
 特異点たちは顔を見合わせる。どうやら、冗談の類ではないことは確からしい。
「……とっ、とにかく、この日私を警護してもらいたいのだ」
 そう頼み込みながら、一枚の紙片を差し出してくる。
 自宅までの道筋が事細かに記された手書きの地図だ。几帳面……というか神経質な性格がつぶさに伝わってくる。
「もし依頼を受けてくれるのであれば、当日この場所に来てくれ! 私はこの日は一歩も外出しないと決めているから、家の中で守ってほしいのだ。どうか、この通り!」
 見ていて気の毒になるくらい懸命に、深々と頭を下げられる。
「私もそれなりの年月を生きたとはいえ、まだまだ命は惜しい。妻に先立たれた今、孫の顔を見るまでは平穏無事に生きていたいんだ……頼んだぞ!」
 早口でそう心情を吐露すると、依頼者はびくびくとしながらギルドを去っていった。

●その十数分後
 若々しい男がきょろきょろとあたりを見渡しながら入ってきた。
「すみません。先程こちらに年配の男の人が来なかったでしょうか?」
 その場にいた全員が頷いたのを見て、男は「ああ、やっぱり」と、安心したような、あるいは呆れたかのような言葉をぽつりと呟き。
 そして。
「私はその者の息子です」
 身分を明かしてから。
「急に飛び出したので追いかけてきたんです。おそらく、父は皆様に危うげなことを言って回ったでしょうが……ご安心ください。まったくのデタラメですから」
 そんな事実などない、という、古に伝わる伝説の家具『チャブダイ』をどんがらがっしゃんとひっくり返すようなことを言ってきた。
 詳しく尋ねてみると。
「恥ずかしながら、まったくもって大した話ではないんですよ。薔薇は近々オープンする花屋が宣伝にと置いていったものです。日付は単なる開店予定日。少し調べたらすぐに判明したことでした。なにせ付近の家屋全部に薔薇の花が届いていたのですから」
 ずっこけるような真相だった。
 まあ冷静に考えてみれば違和感しかない話ではあったけれども。
「大体そんな分かりやすい予告なんてするわけがありませんし、そもそも、私たちのような政治に関わらない平民がどうして貴族の恨みを買うことがありましょうか」
 ですが、と男は困った様子で続ける。
「会話をしたのでしたらなんとなくお分かりかと思いますが、父はどうにも思い込みが激しい性格でして……何度そう説明しても聞かないのです。自分のことを一度『暗殺者から命を狙われている要人』だと思い込んでしまったら、中々態度を曲げてくれません」
 話しているうちに頭が痛くなってきたのか、青年は額を抑えて「はぁ」と溜め息を吐く。その仕草を眺めるだけで、父親のことで幾度となく苦労してきたであろう様子が見て取れる。
「……ええと、それでですね」
 一分ほど思案した後、やや言いにくそうではあるものの口を開く。
「私がここに来たのは誤解を解くためだけではありません。今更何を言い出すんだと思われるかも知れませんが、どうか父の頼みを引き受けてやってはくれないでしょうか」
 どうしてまた、とイレギュラーズは不思議がる。
 ただの勘違いだとたった今説明されたばかりだというのに。
「仮に当日何事もなかったとしても、あの父のことですから、きっと疑心暗鬼を強めるだけに違いありません。この日私と妻はどうしても外せない商談で家を空けなければなりませんから、是非とも皆様の手をお借りしたいのです」
 とはいえ、存在しない魔の手から身を守れ、と言われても、それこそ絵空事だ。
「そこなのですが、皆様のうちの何人かに、暗殺者のフリをしていただきたい」
 男はそう切り出した。
「父は大変単純ですから、危惧していたとおりの出来事が起こると、仕組まれた嘘だとは疑いもしないでしょう。そこを残りの方々に警護してもらえれば、と。自分が助かったことを実感できれば父も安堵するはずです。なにせ、単純ですので」
 つまりは、不安解消のために一芝居打ってほしい、という申し出だ。
 しかしそこまでする必要はあるのだろうか。別に命が無事なことに変わりはないのに。
 そんな疑問をぶつけると、新たに依頼者となった男は微塵の照れもなく言う。
「私は彼に眠れぬ夜を過ごしてほしくないのです。たった一人の父親なのですから」
 だからお願いします、と頭を低くする男性。
 その所作は先刻のお騒がせな人物のそれに似て、とても真剣なものだった。

GMコメント

 OPをご覧いただきありがとうございます。
 戦うようで戦わない依頼です。以下詳細。

●目的
 一芝居打って、依頼者の父親を安心&納得させる!

●やること
 このシナリオではボディガード役と暗殺者役に分かれていただきます。
 人数の配分は自由です。
 ただし「どちらかが0人」という極端な偏りになると難易度が上がります。
 ボディガード役は、必ずしも最初から警備対象に付き添う必要はありません。暗殺者役も、必ずしも全員同時に侵入する必要はありません。
 立ち回り含めて、どう演出するかは皆さま次第です。
 いずれにせよ、今後怯えなくて済むようなハッピーな結末にできれば成功です。

 ……ここだけの話、むしろ暗殺者側が勝つというシナリオもありです。
 その展開で納得させられるだけの十分な理由があれば。

●ロケーション
 『民家』 
 
 特別広くもなく狭くもない、二階建ての一軒家です。
 一階はリビングとダイニング、二階は家族それぞれの寝室となっています。
 玄関と窓の両方に鍵がかかっています。各寝室の扉にも鍵があります。
 なお多少家の中が荒れるくらいのことは依頼者が許してくれます。OP中にちらっと出ていた商談で相当儲かるらしいので。
 ターゲットのおじさんは一日中リビングの片隅でぷるぷる震えながら過ごします。

 PCの初期配置は自由です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ヒント
 攻略の秘訣は、なりきることです。
 どちらの役であってもなりきることが重要です。
 おじさんは思い込みが激しいので、大抵のことは信じます。
 劇的であればあるほど効果は高いでしょう。


 以上になります。
 ご参加お待ちしております!

  • クセモノはニセモノ!完了
  • GM名深鷹
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年01月17日 20時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
サイモン レクター(p3p006329)
パイセン
真菜(p3p006826)
脱兎の逃げ足

リプレイ

●内心
 ぶっちゃけた話、めちゃくちゃ不安だった。
 リビングの片隅で、依頼者の中年男性はそう思う。
 ローレットが要請を引き受けてくれたのはありがたかったが、いざやってきた面々を見てみると、正義の味方感はどうにも薄かった。
 ことあるごとに「ぶははっ!」と笑う巨漢の男は頼りがいはありそうなものの、風体が完全に悪役のソレである。
 太刀を差した小柄なカエルの男はひたすらに寡黙で、底知れぬ雰囲気を漂わせているし、小柄といえばドレスを着こんだお嬢様もだが、こっちはこっちで色々と常人離れしているためある意味一番得体の知れない存在だった。
「まぁまぁ。怯えたところで仕方ないって。お茶でも飲んで一息ついたらどうだ?」
 ふと、湯気の立ったティーカップを差し伸べられる。
「けどまぁ、不幸中の幸いみたいな? なんか、みんな強そうだし、俺の出番とかなさそうじゃん。俺もキミもついてるな」
 自らも紅茶をすすりつつニヤリと笑うその人物の口元からは、ノコギリの刃のような歯が覗いていた。
 自称・悪魔。どうやらマジくさい。
 おじさんは今一度、ギルドの手違いじゃないかどうかを再確認した。
 その時。
「な、なんだ!?」
 市街ではまず耳にすることのない、爆発音が突如鳴り渡った。
 依頼者の動転を落ち着かせる代わりに大男は檄を飛ばす。
「来やがったみてぇだな。ちょいと行ってくるぜ! 河津! 念のため一緒に来てもらえるか! そっちの二人はオッサンを頼んだぜ!」
 言い切るや否や、巨体は鋼鉄の鎧に覆われていった。刀の鯉口を緩めた武士と共に玄関口から表へと出て。
 そしてリビングにまで届く胴間声で吠える。
「おう、随分と無口な野郎どもだなぁ! ぶはははっ、こっから先には――」

●はじまりはじまり
「――行かせねぇぞッ!」
 と言い放った『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の前には、拍子抜けするくらい何もなかった。
 それもそのはずで、先程の爆発は気を引くためのダミー。
 つまり計画してきた演劇の幕開けを告げる鐘とでも呼ぶべき代物だ。
 そしてこの舞台に、ゴリョウは迫真の演技をもって応える。
「どいつからかかってきやがるんだ? 生憎俺は一歩も下がる気はねぇぜ!」
 挑発し、愛器の警棒をズガンと地面に打ち立てる。
 誰もいない虚空に向かって、その不在を感じさせないほど貫禄たっぷりに見栄を切る姿はさながら混沌世界に蘇った勧進帳である。
 が、しかし、ここは閑静な住宅街。
 ご近所さんのヤバい奴を見るような目が気になるところではあった。
(お、思ったよりきちぃぞこれ!? 次の展開早くしてくれい!)
 善良なオークの願いが通じたのか、窓を破る音が聞こえてきた。
 それを確認した『褌派!』河津 下呂左衛門(p3p001569)は声量を絞って伝える。
「どうやら始まったようでござるな。今のうちに屋敷の裏手に回る準備を」
「おっ、頃合いってか。あっちはあっちでうまくやってもらわねぇとな!」
 保護結界をあらかじめ張っておいたゴリョウは、仲間の大立ち回りを期待する。
「でも思ったんだけどよぉ、この場面だと無口キャラ演じるのって得してねぇか?」
「……気のせいでござる。さぁさ、時間が惜しい。いざ裏口に参るでござる」
 二人はそそくさと移動していった。

 さて室内はというと。
 事態は急転換していた。
「お主に恨みはないが、とあるお方の命により死んでもらう」
 窓から侵入するなり剥き出しの刃を突きつけ、脅しめいた文句を吐いたその男は、とんでもなくでかかった。
 そして、サメだった。
 何を言っているか意味不明かも知れないが、暗殺者役を買って出た『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)の外見的特徴を端的に述べるとそうなってしまう。
 潮は白い装束に身を包み、能面をかぶっている。
 見たまんまを言うと、平べったいシャークヘッドなのでほとんど顔が隠れておらずツッコミ待ちの格好なのだが、逆にそれが異様な雰囲気を演出していると言えなくもない。
 一方で、合わせて登場した『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は然程風変わりではない。
「アーッハッハァ! 始末しに参りましたわっ!」
 けどテンションがやたらと高かった。
 あとめっちゃ光ってる。
 とはいえそうした『意味とか考えずとにかく目立つ』という分野においては、この業界の第一人者である『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)も黙ってはいない。
「やはり貴女でしたのね、ヴァレーリヤ!」
「クックック、出ましたわねタント! 今宵、真に煌くのはこの私……今日こそ跪かせて差し上げますわっ!」
 もう十分煌いてるじゃん、と茶々を入れるのも無粋なくらいピカピカ光ってる者同士で言い合っているので、とんでもなく派手だった。
 ちなみにタントのほうはキャラを演じているつもりはないので、ほぼ地である。
 そして満を持して指を鳴らす。
「何度貴女が立ち塞がろうとも! このわたくしっ!」

      \きらめけ!/\ぼくらの!/

       \\\タント様!///

「……の瞳が煌いている間は! 絶対に好きにはさせませんわー!」
 タント様専用書式をフル活用した後、シュバッ、と人差し指を突き出した。
 普通にギルドが手配した人数以上の声が聞こえてきたので、やはりなんらかの手違いがあったのではないかと依頼人は訝しむのだが、それよりも二人の因縁めいた口ぶりが気にかかったらしく。
「誰なのか知っているのか?」
「わたくしの歴戦のライバル……とでも言っておきましょうか。今日こそ裁いてみせますわよ!」
 招かれざる客に敵意を向けているのは、もう一人。
「荒っぽいことすんなぁ。ヤバそうなもんどかしておいてよかったぜ」
 薄ら笑いを浮かべた『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は、つい先程まで茶を飲み交わしていた相手を、その背中に隠すようにして立つ。
「暗殺にしては派手すぎるんじゃねぇの? まぁこっちとしちゃやりやすくていいけどな。それに二対二ってのも都合がいいぜ」
「あら、私達もこんな少人数で来たわけではなくてよ。パーティーは大勢で楽しまないとね?」
 その愉快そうな台詞に、依頼人は嫌な予感がする。
「もしや家の外では……」
「うふふ、その通りですわ。あれだけの数……果たしていつまで持つことかしらね」
 それにしてもこの聖女ノリノリである。
「じゃがまずは、わしらの邪魔をする者から片付けていかねばな」
 前兆もなく潮は斬りかかった。
 ひたすらに大振りの、簡単に避けられる攻撃。
「ひぃっ!」
 悲鳴を上げたのは依頼者である。見せかけでも、何も知らない一般人からしてみれば存分に恐怖心を煽られるものだった。
「させるかよ。そこら中ぶっ壊されたんじゃたまったもんじゃねぇぜ!」
 プロレスに応じたペッカートは潮が握る得物へ不可視の糸を射出。
 刀身に巻きつけて動きを阻害する。
「ううむ、これでは気ままに暴れられんのう。手こずらせおるわい」
 なんとなくそんな台詞を口にしてみた潮だが、元より損害を出す気はさらさらない。
 両者の思惑が一致した形といえる。
「おどきなさい、タント!」
「例え命に代えてでも! 必ず守りきりますわ!」
 ライバル設定の二人もバチバチにやりあっていた。
 まあやってることは威嚇とウィンクなのでほとんど口喧嘩に近いのだが、単純なおじさんは喋ってる内容だけですっかり騙されていた。
 そんな彼の元に――いよいよ魔の手が迫る。
「むぐっ!?」
 不意に伸びてきた腕に引き寄せられる男性。
「誰だ、どこから入ってきたんだ!?」
 壁からだ、と律義に返答してもらえるはずもなく。
「大人しくしてもらおうか」
 『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p006329)は速やかに対象をホールドした。
 サングラスをかけた黒づくめの男。これまでにない『圧倒的刺客感』に依頼人の恐怖はピークへと達する。
「私を人質に取ってどうする! 私が狙いではないのか!?」
「悪いな。本当に用があるのは、おびき出されてきた連中のほうだ」
「おびき出されただと? そうか、先程あの二人は宿縁があると語っていたが……私は利用されたのか……」
「……あー、うん、まあそういうことだ」
 勝手に理解してくれたので、サイモンは適当に相槌を打った。
 それより、と目線をスライドさせる。
「見ての通りだ。依頼者の死亡だけはアンタらも回避したいところだろう。解放してほしけりゃ武器を捨てて投降することだな」
 言って、羽交い絞めにした男性の姿を見せつける。
 真に迫るような所作である。悪役っぷりを見せつけてやろうとは思っていたが、腕の中で怯えるターゲットの様子を見る限り上出来のようだ。
 ヴァレーリヤが「オーッホッホッ!」と、タントのお株を奪うような高笑いを響かせる。
「さあ、跪いて降伏なさいな! そこの男、命くらいは助かるかも知れませんわよ?」
「ずりーぞ。人質とか卑怯だろ。そうやって弱い奴を盾に取るなんて、楽し……じゃなかった、人として最低だと思わないワケ?」
「減らず口は閉じてもらおうか。あまり時間の猶予があると思うなよ」
 睨みを利かせる吸血鬼。
「はっ、お手上げってことかい」
 ペッカートは文字通りに両手を上げ、持っていた呪符を床へと落とす。
「タント! あなたもでしてよ!」
「くっ、仕方ありませんわ。要求を呑みましょう……」
 従う姿に、悪女が「いい気味ね」と嘲弄しようとした瞬間。
「……だけどそんなのは、スペシャルでグロリアスなわたくしには一切の関係がないのですわーッ!」
 タントは手ぶらのまま、腰の入ったきらびやかなポーズを取った。
 ただそれだけの動作で理屈を超えた衝撃波が発生する。矛先は当然――
「なんですってえええええええええええ!?」
 素っ頓狂な叫び声を上げながら、勢いよく吹き飛ばされていくヴァレーリヤ。
 そもそもタント様の武器は全身から溢れ出るキラキラした物質という非科学的なナニカなので、丸腰でも特に問題はないのだった。

●九人いる!
(……あっ、かなり進行してるみたいですね)
 庭の方角からの騒がしい音を耳にして、建物の外でひっそりと身を隠していた『脱兎の逃げ足』真菜(p3p006826)は作戦が佳境に入ったことを察した。
 暗殺者役を志願したはいいものの、今の今まで隠れるしかできなかったことに、真菜は「そんなに甘くありませんでしたか」と胸の内で呟く。
 何分厄介なギフトがある以上、下手に動くと大変なことになる。
 とはいえ予想できていたことではある。
「つまり私が活躍するためには……うう、やっぱりやるしかなさそうです」
 少女は両頬を軽く打って、一人決意を固めていた。

 タントは追撃をかけるべく庭へと飛び出て、潮もそれを追っていった。
 居間に残されたのは人質を抱えたサイモンと、武器を捨てたペッカートのみ。
「だ、大丈夫なのかこれ? 不利すぎるけど私は助かるのか!?」
「その心配はござらん」
 狼狽する言葉を遮って、リビングに入ってくるなり一気に距離を詰めてきたのは――裏手から再び屋内へと戻ってきた下呂左衛門である。
「天誅、お覚悟を!」
 露に濡れた太刀を手に迫りくる武者。だが、サイモンにはまったく臆する気配がない。
「馬鹿か? 人質の近くで刃物なんぞ振れるはずがねぇだろう」
「貴殿の言う通りでござる。すなわち拙者は虚仮脅しの囮。気を引けただけで十分でござる」
 そう言い終わるが早いか、サイモンの背後から。
「おらァ! 一発でかいのくらっとけぇいッ!」
 これまた密かに戻ってきていたゴリョウが、自慢の体重を活かした――ようにおじさんの目には見えた――ヘヴィ級のタックルをぶちかました。
 その衝撃で、突き飛ばされたサイモンの拘束の手が緩む。
 まあ半分自ら緩めたのではあるが。
 その隙を逃すことなく、ペッカートがすかさず依頼人の身の安全を確保。
 形勢は一気に逆転した。
「チッ……仕方ねぇ。まあいい。ハナから俺の目的はアンタらじゃないからな。ここは退却させてもらうぞ!」
 劣勢を悟ったふうにサイモンは捨て台詞を残し、壁をすり抜けて去っていった。
 解き放たれた男性は、全身の力が抜けたようにへたりこむ。
「ぶはははっ! 無事みたいでなによりだぜ!」
「な、なんとか。礼を言おう。だが追わなくていいのか?」
 その質問にゴリョウは「まずは手の届くとこからよ!」と返す。
 現に、下呂左衛門は早くも庭に戦場を移していた。
 自身と同じく刀を握った潮と激しく斬り合っている。お互いの技をあえて真っ向から受け止める、見栄え重視の殺陣。
「くっ、ここまでの手練れを準備するとは……!」
 足を引きずる潮の腹部からは血が流れ出ている。
 無論本物のわけがない。迫力を増すために用意していた血糊だ。
 その状況下でもなおタントと対峙し続けていたヴァレーリヤだったが、護衛全員が合流したことで敗勢は確固たるものへと変わる。
「そこまでだァッ! 悪ぃが表のヤツらは撃退させてもらった。後はテメェらだけだぜ!」
 その宣告に、わざとらしくリアクションを取るヴァレーリヤ。
「ハァー!? 本気ですの!? 表にどれだけ配置したと……」
「仕方あるまい、こやつらはお主には手に余る相手じゃからもう手を出すな」
「……クッ、引き上げますわよ!」
 サイモンから遅れること数十秒。残る二人も撤退していった。

 この一部始終は依頼人も窓から見ていたわけで。
「本当に私は助かったんだな? 夢じゃないんだよな?」
 リビングに再集結した一行から暗殺者は一人残らず撃退したと聞かされ、ほっと胸を撫で下ろそうとする。
 ただ、唇を弧にしたペッカートはこの期に及んでも不吉な台詞を口にする。
「でもさぁ、本気で殺しにかかってるなら、最後にジョーカー切ってきそうだけどな。ほら、俺って悪人面じゃん? だから結構悪い奴の気持ちって分かるんだよねぇ」
「ま、まさか。ハハハ」
 男は冗談として受け取ろうとする――が。
「……素晴らしい読みですね。おみそれしました」
 ここまで聞いたことのない声音が、突然部屋の中に反響した。
 全員の目が声の出所の一点に注がれる。
 そこには、舞台のクライマックスを飾るべく登壇した隠しヒロイン、真菜が立っていた。
 閉幕寸前になって、お約束を打ち破るかのように現れた彼女の姿は、ほぼ裸である。
 ほぼ、と冠をつけているのは、セーラーリボンやハイソックスなど、ツボを押さえたアイテムだけは残っているためである。
 ここだけの話この部分の描写に800字ほど割くことも検討したが、ぱんぱーぷは全年齢対象の健全PBWなので『あられもない姿』としか記すことができない。
 これぞまさに正しく捨て身。
「……他の仲間は失敗したようですね。私自身、このまま帰っても命の保障はありません……かくなる上は刺し違える覚悟で挑むまでです! 」
 格好の時点で他を寄せつけないレベルの覚悟を示しているが、実際に取った行動もその気迫溢れる言葉を裏切るようなものではなかった。
 驚くべきはその健脚。獲物へと疾駆するスピードは桁違いの速さだった。
「なんという韋駄天! だがさせぬでござる!」
 下呂左衛門はとっさに太刀を構え、全霊をもって行く手を阻もうとする――それでも真菜はその先を超えていく!
 それでも依頼者に危害が及ぶことはなかった。
 それは真菜自身の行動が、あくまで身柄の拘束を目的としたものに過ぎないというだけの話ではない。
「……準備は、できていましたか」
「悪魔の世界じゃ、契約ってすげー大事みたいでさぁ」
 ラストの一歩が、標的の目前で阻まれたことを真菜は知る。
「まあ俺も悪魔なわけだし? 受けた任務は最後までやってやんねぇとな」
 なぜならば最初から、真菜と男性を結ぶ進路上にペッカートが待ち構えていたからだ。

●エンドロールは楽屋裏で
 真菜もお縄について騒乱が過ぎ去り、やっと現場は平穏を取り戻し始めていた。
「ヴァレーリヤは一度失敗した相手には二度と近寄りません……そういう女ですわ」
 したり顔で語るタント。
 ライバル関係にその設定を生やすとこれまでは全敗だったということになるのだが、なんとなく格好いい台詞だったのでおじさんは納得してしまった。
「とにかく、キミが狙いじゃないって分かったんだから、これで一安心できるってもんだろ。生き残れてよかったな」
 ペッカートの言葉に依頼人は大いに頷き。
「ああ。正直、最初は少し不安に思っていたが……私が間違っていたようだ。勇敢で心優しい君たちのおかげで私は救われた! 本当にありがとう!」
 おじさんの顔からは怯えは消え、晴れやかな笑みが代わりに宿っていた。

 少し離れた場所で、先に離脱していた三人が皆の帰りを待っていた。
 ついさっきまで敵と味方に別れて乱戦を繰り広げていたというのに、顔を合わせた八人の間に流れる空気は和やかの一言。
「それにしてもあの者は親思いの息子さんを持って幸せじゃな。はてさて、うちの子はどんなふうにわしのことを思ってくれてるんじゃろうな」
 待たせていたペットのポチを拾い上げながら、潮はしみじみと呟く。
 仮面を脱ぎ捨てたその表情は、もう既に普段の好々爺のものへと移り変わっていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。当依頼は成功となります。
様になるようなプレイングを多数いただけたので、大変楽しく執筆させていただきました。

ご参加ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM