PandoraPartyProject

シナリオ詳細

錆色の星

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●スターテクノクラート
 彼は満たされない男だった。
 人並みより裕福な家に育ち、人並みより優れた才能と優れた容姿を持ち。
 物事を如才なくこなす要領の良さを持っている。
 だが、彼は何時も嘆いてばかりだった。
「自分は何と不運なのだろう。『周り』は自分よりずっと『ツイているのに』」
 空を飛ぶ鳥が飛べる事を疑わないのと同じように、彼は自身がいるその立ち位置を当然と考えていた。
 遥か眼窩で泥と戯れる『他』は視界に無く、自分より高く飛べる鳥だけを見て――時に空に浮かぶ月さえ眺めて。その境遇を『不運』と嘆くのだ。
 彼は満ちながらに満たされない男だった。
 さて、簡単なクイズを出そう。
 その馬鹿馬鹿しく人間らしい望みを叶える最適解は?

●錆色の星(バッドエンドラッキースター)
「もう、その名前からしてディム・グレイの見本だわ。
 憂鬱過ぎて、触れるのも嫌になるようなラッキーチャームね」
 突然の言葉に首を傾げたイレギュラーズにプルー・ビビットカラー(p3n000004)は溜息混じりの「ごめんなさい」を吐き出した。
「勿論、仕事のお話よ。今回の仕事は或る魔法道具(アーティファクト)の破壊。
 いい? 回収ではなく破壊よ。あれはあってはいけないものだから」
「……どんな道具なんだ?」
 奇跡を引き起こす魔術的な道具はこの世界に多数転がっている。その力の大小は兎も角、厳格に破壊だけを求められる類の品物はそれなりに珍しい。
「練達の勢力圏の何処かに鬼才が住んでいる、とされているわ。
 シュペル・M・ウィリー。彼の作品群はシュペルシリーズと呼ばれていて、物好きのお金持ちは蒐集をしていたりもするみたいだけど。今回破壊して貰いたいのはその彼の作品『錆色の星(バッドエンドラッキースター)』。
 どれも多かれ少なかれ最悪なんだけど――結論から言えば、これは最悪の品よ。
 さっきも言ったけど、その性質は限りなく唯のブラックに近い、ディム・グレイ。
『錆色の星』は所有者の近くに存在する、存在し得た全ての幸運を吸い尽くす。
 何も生み出さず、唯消滅させるのよ。
 その上、それは力を増す。吸う量を、吸う範囲を吸う程に大きくする。
 長く近くにいる程に、被る影響は大きくなるのよ」
「……は?」
 イレギュラーズは思わず聞き返した。
 因果律を歪めるようなその効果もさる事ながら、そんな品物を誰が望むのか……
「残念ながらね。幸福を相対的に考える人もいるのよ。
 貴方もたまには他人を羨んだ事はあるでしょう? 行き過ぎれば、毒なのだけど」
 プルーの言葉にイレギュラーズは合点した。
 成る程、『錆色の星』は所有者を『一番』幸福にするのだ。所有者を高める事ではなく、周囲を無理矢理に引き下げ尽くす事によって。あたかも『本当にそうであるかのように』。
「そんな呪いのアイテム、持っていたい奴居ないだろ」
「そうだといいのだけど、世の中そんなものではないわ。
『錆色の星』は周りに誰も居なくなれば、所有者のそれを喰い始める。
 結局勝者はいないのだけれど――『幸運な人』は簡単にそれを手放さないでしょうね」
 プルーは「方法は任せるから、兎に角壊して頂戴」と話を結んだ。
 人を呪わば穴二つ――禍福門なし唯人の招く所。

 ――成る程、製作者の仕事は碌でもない。

GMコメント

 YAMIDEITEIです。
 相談五日なのでご注意を。
 以下詳細。

●依頼達成条件
・『錆色の星(バッドエンドラッキースター)』の破壊

●舞台
 片田舎の街。人口は数百人程度。
 最近、街中の人があらゆる不幸に襲われ、街を去る人も増えています。

●依頼人
『不運で』幼い娘が事故死してしまった父親。
 街中で立て続けに起きる『不幸な事件』に疑問を感じ、縋る想いでローレットに依頼を出しました。『錆色の星』の存在を関知したのはローレットです。なので情報精度はAです。

●ディムロ
『錆色の星』の現所有者。三十歳の人間種の男で不良冒険者(自称)。
 ナイフ使いで腕前の方は圧倒的ではありませんが、そこそこです。
 小器用で色々な能力が中途半端に優れています。逃げ足は早いです。
 封印されていたそれの機能を偶然から開放してしまった普通の男です。
 中肉中背、口癖は「ツイてない」。(今は「ツイてるぜ!」)
 努力は嫌いで、他人を羨んだり妬んだりしがちな性格です。
 つまり、『錆色の星』と波長はバッチリです。

●『錆色の星(バッドエンドラッキースター)』
 星型のペンダント。所有者を『一番幸運』にするアイテム。
 意志と会話能力を持つインテリジェンスアイテム。自律動作は出来ません。
 実は所有者が特別幸運になる訳ではありませんが、周囲は兎に角不運になります。
 本作判定においては、イレギュラーズ達に常時『不運』のバッドステータスを付与した上で、毎ターン10~40のファンブル値を付与します。(乱数判定します)
 又、様々な不運・不利な状況が生じたりする場合もあります。

 ディムロが根城にしているのは裏路地の寂れた酒場です。
 又、イレギュラーズに比べて土地勘はあります。
 以上、宜しければご参加下さい。

  • 錆色の星完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月07日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リオネル=シュトロゼック(p3p000019)
拳力者
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
トート・T・セクト(p3p001270)
幻獣の魔物
黒杣・牛王(p3p001351)
月下黒牛
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ

リプレイ

●眠る街
 片田舎のその街は、元々然程沢山の住民が住んでいる訳では無い。
 都会に比べれば物が集まる訳でも、人が集まる訳でも無い。どちらかと言えば静かな場所だったのは間違いないのだが――
「これは……とても放っておけないな」
 ――思わず言葉を漏らした『拳力者』リオネル=シュトロゼック(p3p000019)の言う通り、とても正常な状態とは言えなかった。
 通りには人も疎らで、たまに通りかかる誰かを見てもその顔は一様に暗い。
 商店は多くが閉まっており、子供の声も聞こえない。閉塞感としか表現の出来ない、重い重い空気が街全体を包み込んでいるようだった。
 正義感の強いリオネルは、胸を突くような苛立ちを禁じ得なかった。何とかその激情を噛み殺し、冷たい空気を肺一杯に吸い込んだ。
(今回逃したら、クズのために泣く人が増える――アツくなるのは、拳が届く位置まで追い詰めてからだ)
 彼をはじめとしたイレギュラーズ達がこの街を訪れたのはローレットの仕事を請けてである。練達に住むと言われる鬼才シュペル・M・ウィリーの生み出した魔法道具(アーティファクト)<錆色の星(バッドエンドラッキースター)>の破壊――それが八人のイレギュラーズの目的だった。
「他人様の運勢を奪うアイテムなぁ」
「……何か嫌だよねぇ。怖いって言うか、気持ち悪いって言うか」
 呆れたように溜息を吐いた『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)に、愛らしい顔立ちに渋顔を作った『幻獣の魔物』トート・T・セクト(p3p001270)が応じた。
 この街が活気を失い、死んだように眠っている事と<錆色の星>は強い因果関係で結ばれている。
 <錆色の星>は、効果範囲に存在する幸運を消滅させ、持ち主を擬似的に『一番幸運』にする品物である。それは持ち主に運を還元するどころか、無意味に幸運を消失させるだけだ。更に言えば幸運を奪う先を無くした日には持ち主のそれすら消失させるという謂わば『誰も幸せにならない』アイテムであるが、不幸な事にこの品物の魔力は絶大だった。徐々に強化されるというこのアイテムの効果範囲は既にこの街一つにも及び――つまり、トートが「気持ち悪い」と称したのも当然である。この場所にある以上、イレギュラーズ達もその効果を受けているのは間違いのない事実なのだから。
「やれやれ……自身の手中にない運命に頼るなんて、ミーには理解できないな」
『幸運』を失えば、不運が常に襲い来るのか――?
 何れにせよそれは見えない不定形であり。『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401)に知れる気では無かった。
「『百害あって一利なし』とはこのことですね。早急に破壊してしまいたいものです」
 いざ目の当たりにすれば話以上に実感する状況に『白き旅人』Lumilia=Sherwood(p3p000381)が苦笑した。
 線の細い少女の端正な顔立ちは幾らか憂いを帯びていた。彼女やルウは己が生業で短絡的に襲ってくる不吉を阻む事が出来るが、街の人間はそうはいくまい。
 娘を失った父親がローレットを頼ったその時から貴道の言う所の運命は動き出している。
 恐らくは偶然からだろうが――街を不幸の底に陥れてしまった冒険者ディムロから<錆色の星>を奪い、破壊せしめなければならない。
 少なくともこの場に居るイレギュラーズは『惨状』を放置しておく心算は無かった。
「手筈を確認しておこう」
 切り出した『太陽の勇者様』アラン・アークライト(p3p000365)に面々が頷く。
「まず、俺達は街の人達に今回の事件を説明する。土地勘のあるディムロを逃がさないように――可能な範囲で協力して貰う」
「ああ。ローレットの掴んだ情報を話して、協力を仰ぐんだ。
 一時的にでも避難して貰うか――出来れば、土地勘のあるヤツが使いそうな狭い路地の情報も欲しいな」
「オレが今からできるのは、イカレた物壊して、バカを皆の前に引きずり出すくらいだからよ」とリオネル。
 人々からすれば突飛な話にも聞こえるかも知れない。
 しかし、パーティは自身等が特異運命座標である事から、ある程度の勝算は感じている。
「それから、ディネロが根城にしているっていう酒場の主人に――」
「――場を借りる許可を得る、と。それはオレの役目だな」
 アランの言葉を途中で継ぐようにした『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta(p3p002861)は、「酒場って聞いたから飲めると思ったのによ……終わったら絶対に飲む。それまでは……我慢、だなァ」と小さくぼやいた。
「土地勘のある所有者を自由に走らせてしまえば、例え数に差があっても逃げられてしまうというもの。
『誘い込み』、逃げ場をなくした上で『破壊する』必要がありますね」
 理知的に述べたLumiliaの言葉は道理である。
 元々の情報からしてディムロは逃げ足が早いという話である。
 総じた時の戦闘力はさて置いて、戦う以前の段階ではあちらに分があると考えた方が適切だろう。
 パーティの作戦は、まず街の人々に協力を願い、土地勘に優れたディムロの逃走経路を塞ぐ事。
 次にBrigaが首尾良く酒場を舞台に借り受けた後に、そこでちょっとした『舞台』を作り出すというものである。
「これにはミー以上の適役はいないからな」
「違いねぇ。リアリティってのは重要だぜ」
 豪語した貴道の肩をルウがバン、と叩いた。
 重量級の二人は――今回の『舞台』の主演二人である。
 ギャンブルに『99・9%負けられる』ギフトを持つ貴道はルウを相手に大敗を見せ、
「いいよ、『儚き花』でも上目遣いでも何でもやっちゃうからね」
 舞台に花を添えるもう一人――このトートを幸運の『女』神と見せかける。
 射幸心が非常に強く、運気に興味を示す可能性が高いディムロにトートが接近し、密かに追跡調査(ギフト)を仕掛ける。
 演者の三人に注目を引く為の楽器演奏をするLumilia。残りの四人も中々忙しない役割がある。
「何れも責任重大ですね。勿論『裏方』になる私達も」
 その間に『月下黒牛』黒杣・牛王(p3p001351)、リオネル、アラン、Brigaが酒場の出入り口の封鎖を進める、という訳だ。
 一筋縄で行くかは分からないが、賽は投げられた。
 一つ頷きあった面々に不意に牛王が声を掛けた。
「これは気休めかも知れませんが――」
 淡い微笑みと共に彼が面々に差し出したのは、木片に守護の言葉を刻みつけた手製のお守りだった。
 唯の『おまじない』は確かに鬼才のエンチャンターのそれに比べれば玩具に過ぎまいが……
「どうか『錆色の星』の不幸の犠牲になりませぬように……」
「周りを不運にするってか……剣振り回してる時にスッ転ばないように足元の警戒ぐらいは必要か」
「いや」と自分の言葉を自分で否定して――アランは笑った。
「このお守りがあるから、大丈夫かね」
「ええ、効果覿面ですよ――きっと」
 一瞬瞑目してそう言う牛王の穏やかさは、不思議と周囲の空気が少しだけ和らいだような――そんな気にさせてくれた。

●舞台劇

 ――不運の元凶はあの不良冒険者よ。信じてもらえねぇかも知んねぇが……事実だ――

 アランの言葉を受けた住民の一人は「おお」と崩れ落ち、又別の一人は憤慨した。
 突然訪れた不幸な日々が終わるかも知れない――その福音をもたらしたパーティに『多くの住民は協力的だった』。
 街の人全体を囲いに使おうと考えたパーティはそれに確かな手応えを感じたのは言うまでもない。
 さて。かくて作戦は『本題』へと移る。
 寂れた裏路地の酒場に美しく少女の奏でるリュートの音色が響いている。
 目を閉じ、演奏するLumiliaの姿は可憐で繊細だったが――その繊細さをぶち壊す大声が今もまた響いていた。
「かーっ! またミーの負けかよ!」
 不機嫌そうな顔の店主がカウンターの奥からジロリと大声の主をねめつける。
 テーブルの上にカードを放り投げ大仰に嘆いてみせる貴道に、ルウは「悪いな」と笑う。

 ……オレのこンな見かけじゃ信用されねェかもしれねェけどよ……この店、アンタごと貸してくれ……お願い、します……

 不器用そうでいながら意外にもソツの無い交渉術を披露したBrigaに不精ながらに同意した店主はイレギュラーズの作戦に同意している。
 但し、彼が認めたのは『黙認する』までである。ディムロは常連であるし「トラブルに巻き込まれるのは絶対にゴメンだ」との事であった。
 酒場には表の入り口の他に裏口もある。外の四人は表と裏口、それから窓を塞ぐ必要がある。これにはそれなりの時間が掛かるだろう。
「……」
 ディムロはと言えばグラスを傾けながら見ない顔達の騒がしい様を横目でちらりと確認していた。
「また勝っちまったな!」
 酒に見せかけたジュースをグビリと呷り、ルウが煽る。
 熱くなった『フリ』をした貴道はもう一勝負だ! と声を荒げた。
 ルウのギフト――『発奮する猛牛』は交渉相手を勝負事に引き込みやすくする能力を持っている。
 こうしてたっぷりと勝つ所を見せつけておけば、自分の運に自信があるディムロをギャンブルに引き込める――と考えていた。
「今日の俺は最強だ! 誰にも負ける気しねーな! まぁ、お前が居るしな!」
 勝利の『女』神役のトートの肩を抱き、豪快にルウが笑う。
 場を暖めるように勝負を続ける二人。当然ながらに貴道の負けっぷりは余りにも凄まじい。
「おい、アンタ」
 頭を抱える案外演技派の貴道に見切りをつけたようにカウンターのディムロに歩み寄ったルウは言う。
「羽振りよさそうじゃねーか。一勝負どうだい?」
「『今日のアンタは最強』なのにかい?」
「だからだよ。アンタも強いんじゃないのかい?」
 ニヤリと笑うルウにディムロは冷笑した。
 如何せん、街中の運気を消滅し尽している男である。
 まったく自分に挑む等、どれだけ無謀で愚かか――そう言わんばかりの態度であった。
「後悔しても知らねぇぜ」
 そう言ったディムロはパーティの狙い通り、ルウとの勝負に応じてくる。
 当然と言うべきか何と言うべきか。
 不吉な事態への耐性を持つルウではあったが、この勝負は中々に分の悪いものになっていた。
 ディムロは確かに『ツイていて』。イカサマ無しの平目の勝負では、ちょっと太刀打ち出来るものでは無い――とは、言え。
「お兄さん、すごい……っ!」
 大きな瞳を輝かせるトートが『ノセる』その通り――パーティの作戦としてはむしろディムロにその気になって貰った方が好都合というものだった。
 トートが勝利の『女』神であるという設定は十分に押し付けてある。向かう所敵なし(だと思っている)ディムロが、余計な欲をかいてくれた方が上手いのだ。
「幸運の秘密は何?」
『仇を取ってもらった』貴道がディムロを煽てた。
「また勝った!」
 きゃあと黄色い声を上げるトートがディムロに抱きついた。
 トートの白く細い指先が彼の胸元をくすぐる。指先が硬質な感触を捉え、一瞬目を細めた『彼』は己が異能(ギフト)を発動した。
『どう見ても美少女にしか見えない』トートはその容貌自体がこの場における武器だったと言える。
「私はトート。吟遊詩人なの。この街には旅で来たのよ。こんなに強運な人初めて見たわ」
「そうかい」
「もっと、仲良くなりたいなぁ。ぜひごちそうさせて。それに――その豪運の秘密も知りたいかも、なんて」
 大抵の男はトートにこうも言い寄られれば悪い気はすまい。
 然程誘惑に強そうな――そんなキャラクターをしていないディムロが『釣れる』のは極自然な話で。
「いいや」
 ……極自然な話だったから、そう首を振った彼の返事は余りにも意外過ぎた。
「……へ?」
 渾身の上目遣いが空振りに終わったトートが思わず間の抜けた声を出したのと、ディムロがばっと身を翻したのはほぼ同時だった。
「アンタ達、トラブルはゴメンだぜ!?」
 事態を見守っていた酒場の店主が声を張る。
 状況は分からないが、ディムロは素早く腰のナイフを抜いていた。
「――!」
「――チッ!?」
 Lumiliaの目が見開かれる。
 不測の事態の訪れを理解した貴道が舌を打ち、ボクサーの反応速度で床を蹴るが、ディムロはそれより早く酒場の裏手の扉を蹴破った。
 予想以上に早く、突然動き出した事態はパーティの思惑の外にあった。封鎖はまだ終わって終わらず、ディムロは外へ逃れ得た。
「……っ、逃がすか!?」
 突然現れたディムロに封鎖作業中だったアランが赤い炎を放つ。
 間合いを伸びた火焔の舌は空気を焦がし、ディムロを襲うが――彼を幾らか焦がしたまで。
 素早い動きで身を翻した彼は細い路地を駆け抜けようと走り出す。
「追うぞ――!」
 駆けつけたBrigaの声に飛び出した彼を追う面々が応じた。
 生来の能力で牛に化けていた牛王は予定外の事態に思案を巡らせる。
(しかし――何故……?)

 ――何故、ディムロはパーティの作戦を看破し、逃れ得たのか――

「――チョロチョロ逃げてんなよ三下ァ!」
 追うリオネルの怒号が路地裏に響き渡る。

●論理的帰結
 何故、か。
 結論から言えば答えは簡単であり、至極当然の話だった。
「お前達、派手にやり過ぎなんだよ」
 逃げるディムロは追うイレギュラーズに冷笑を向けながら言う。
「ここは俺の街だぞ? 『住民の皆さん』に協力を仰げば、俺のダチの耳にだって入るさ。
 ……確かに碌な連中じゃねえがよ。まぁ、街から出て行けとは言われたがよ?
 そうでなくても俺は『ツイて』んだぜ? 『運悪く』網にかからねぇ何て有り得るかよ」
 ディムロは別に幸運では無いが、不特定多数に声を掛ければ彼の言う通りの結末になる可能性は高い。
『運良く』住民の誰もがディムロに敵対的であり、彼に力を貸しかねない誰かの耳に情報が届かない『幸運』があれば話は別だが。
 この事件はそういった『幸運』を絶対的に否定している。『ディムロ以外については都合の良い事は絶対に起こらない』。

 ――だから言ったでしょ! アンタが一番ツイてるって!

 性悪な女の声がディムロの胸元から響いた。
 強烈な不快さを煽ってくるようなキンキン声は恐らくは<錆色の星>のものなのだろう。
 声だけで分かる。絶対に性格が悪い――
「――それは、良くないものです!」
 追跡の中でLumiliaは声を張った。
「それは周りを破滅させ、貴方自身をも不幸にする偽物です。だから――」
「――アンタはきっと良い奴なんだろうな」
 追跡の中でディムロは苦笑交じりにそう言った。
「アンタからは殺気を全く感じねぇし、きっと本気で言ってるんだろう。
 ひょっとしたら俺の身さえ案じてくれてるかも知れねぇ。
 だがな、もうそれは遅ぇよ。俺はコイツを拾って、売れるかと思って磨いただけ。
 だが、アンタ等の言う通り――この街がこうなった原因は俺なんだろ? だったら話は簡単だ。
 それを街の連中が知っちまった以上、俺はここには居れねぇし。コイツを手放すなんてバカそのものだぜ。
 ええ? 俺が一体何をした。生真面目に生きちゃいないがね。罵られて私刑(リンチ)食らう程の悪党かよ?」
「――」
 Lumiliaは言葉を失った。まるでこの事件は<錆色の星>そのものだ。
 何もかもが上手くいっていない。丁寧に積み上げた作戦の最初の土台が、余りにも致命的過ぎたのだ。
 ローレットは『ディムロの身の上等どうでもいい』が本人は別だ。
「私のような畜生で恐縮ですが……特別幸運な人間もいなければ、特別不幸な人間もいないのかと思われます。
 今回のことで犠牲になった方々と、自分のことをよく考えてください。
 あなたの人生に幸をもたらすのは、その首飾りではないのです」
 全くそれはその通りなのに――それでも、牛王の言葉が届かない。
 逃れるには<錆色の星>が役に立つ。
 そしてディムロ自身には先の言葉通り、何ら罪の意識が無い。少なくともこれまでの分は。性格も含めて殊勝に裁かれるようなタイプでも無い。
 幸いと言うべきかトートの隠し玉(ギフト)はディムロの関知の外だった。
 彼のギフトで粘り強くディムロを追うパーティは、ならばと乾坤一擲の攻撃を仕掛けるしかなかった。
「――その、薄っぺらいツキごとブチ砕いたらぁ!」
 リオネルの渾身の一撃が『不運にも』空を切る。
「オレもオマエもツイてねェからな、しゃーねェさ」
 Brigaの斧がディムロの服の端を引っ掛けた。破けた服の向こうに星のペンダントが揺れている。
 魔性の光を湛え、ケタケタと笑い声を上げながら震えていた。
 長い追いかけっこの末に――ディムロは街の外れに辿り着いた。
 そこには貧相ながら馬が居た。
「時間を稼いでたのは同じだぜ」
 それは恐らく彼の『友人』が用意したものだろう。
 彼を街から追い出せば、その連中の望みは叶う――両者にどういう取引があったかは知れないが、つまりはこういう事だった。

 ――嗚呼、<錆色の星>は今日瞬きを止める事は無い。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ゲームである以上、時にこういう事もあります。
 決して頑張っていないとかそういう事でなくアドベンチャーの怖さという事で一つ。

 これは明確に御納得頂けるものと思います。
 二点述べておくなら、オープニングにそうと提示されていない限り仲間(PC)以外の存在は余り頼れるものでは無いという事、ギフトは必要な時に使う手段の一つでしかない、という部分です。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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