シナリオ詳細
<XEOIX>ARISTOCREATER
オープニング
●吠え群れの飢え
思わず目を潜めたくなるような装飾過多の城内も、ようやっと見られるようにはなってきた。壁面まで金銀宝石が散りばめられた成金趣味には、頼むからこれが伝統でなどあってくれるなと、天を仰いだものだった。
張り替えさせた絨毯は、城下町一番と聞いた専門店から既製品を取り寄せさせたものだ。「次はどちら様のお顔を描きましょう」などと言われた時には目眩がした。足下に自分の顔があるというのは、どういう誇張主義から来ているものなのか。
「これで、少しは住みやすくなればいいけれど」
螺旋状になっている階段を降りて広い部屋に出れば、そこで見知った顔が時間を潰していた。そのうちのひとり、爪の手入れをしている姉に声をかける。
「あれ、兄さん達は?」
真剣に爪を睨んでマニキュアの塗り具合を確かめていた姉はこちらを見上げると、嫌な顔せずに答えてくれる。
「何を言っとる。今日が飯の日じゃろう。忘れたか?」
口調に合わず小柄で童顔な姉は、こちらを精一杯見上げなければ目線を合わすことができない。
それが申し訳なくて、しゃがみ視線を合わせた。
「え、もう行っちゃったの? 声をかけて欲しかったなぁ」
「ジェームズが城の飾りの見栄えなんぞに気を取られておるからじゃろう。声はかけたと言っとったぞ」
そこで、部屋にいたもうひとりの姉がこちらの手の届く距離まで這いずってきた。
「ふしゅぶしゅ、ふしゅうるるるる」
「……ごめんオスカー姉さん。上姉さんはなんて?」
長姉のゴールドバッハは幼体の頃の姿を色濃く残している。大きな体に魚卵のような無数の瞳が重なり、節足の代わりに人間の女性のような手が不規則にならんでいる。
兄姉の中でも屈指の戦闘能力を持つ姉は、代わりに弟妹達のような言語能力を持っていなかった。
「『私も一緒に行きたかったわジェームズ。だって、とってもお腹が空いているんですもの』じゃと」
「よくわかるよね……」
「慣れじゃよ。で、大事な装飾はもうええのかえ?」
「ああ、それだ。姉さん、バルファレナ知らない?」
「……誰じゃそれは?」
「生かしておいたメイドだよ。ほら、メガネの」
「名前なんぞ覚えておらぬ。情が湧いたらどうするんじゃ」
「いや、変な愛着なんかないけどさ。で、知らない?」
「あー、それなんじゃがな……」
姉は申し訳なさそうに腹をさする。
「ここ、じゃの」
「……えー、またつまみ食いしたの? ちゃんと数と相手を決めようって話したじゃない」
「は、腹が減っておったんじゃ! 仕方がなかろう!」
「ふしゅう、ぶしゅ、ぶしゅう」
「ええい五月蝿いぞ姉様! ああそうじゃ儂が食いました! ごめんなさいでした!」
「え、上姉さんはなんて?」
「言いたくない!」
「えー……」
●飢えへの貢ぎ物
レギオニーター。
非常に食欲旺盛な人間型・芋虫頭という特徴を持つモンスターを総じてそう呼ぶ。
各地で散発的に発生し、周辺を平らげようとする本能的な行動を見せていたのだが、ここ数日で事態が急変する。
幻想内にて、とある領主の住む城がまるごと乗っ取られたのである。
レギオニーターの群れを指揮し、膂力をもって城内を血の海に変えて見せたのが九体の特異種。
ゴールドバッハ
スティーヴン
ソフス
バースカラ
ギュスターヴ
オスカー
フワーリズミー
イディオ
ジェームズ
それぞれの容姿の特異さ、個別の能力を持つことからローレットはこれらをレギオニーターの上位種、アリストクリエイターと定めた。
「現在、スティーヴン・ギュスターヴ・イディオの三体は城下町内で『食事』を行ってるッス。よって、これら城外の三体を討伐するグループと、城内のアリストクリエイターを殲滅、城を奪還するグループに分けるッス」
『可愛い狂信者』 青雀 (p3n000014)は言う。ここに集められたのは城を奪還するグループのひとつであると。
「先輩方は城のこっち側から内部に侵入、速やかに指定された三体を殲滅することを求められるッス。これらは非常に強力な個体で、能力を十分に発揮されると非常につらい戦いになるのは間違いないッス。危険だけど、ここで倒さないと一大勢力になる危険もあるッス。お願いするッスよ」
- <XEOIX>ARISTOCREATER完了
- GM名yakigote
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年01月20日 21時35分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●飢①
一番先に生まれただけで姉だと呼ばれることを、苦痛に思ったことはない。寧ろ、より家族の情が湧いたというものだ。私は進化と言えるものかはわからないけれど、私は知性と呼べるものがあるのかはわからないけれど。それでも兄弟姉妹の、一番上であろうと――おなかすいたわね。
荘厳な城の中も、人がなければ妙に不気味なものだ。
それが廃屋であるのならまだしも、趣味の良い調度品がおかれ、生活感を帯びているのだから、余計に気味が悪い。
靴裏から伝わる、絨毯の心地。これが観光やパーティのたぐいであればどれだけよかったろうかと思う。
だが、鼻につくそれは消せていない。わざとなのか、それとも気づいていないのか。
悲しくも慣れ親しんだ、死臭がずっと、つき纏っている。
脳に痛覚神経は存在していないと、誰かが言っていた。
だがそれならば、『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)の大脳皮質にマチ針を突き刺していくかの如きこれは、一体なんであるのだろうか。
「破滅、破滅、破滅! 全部、全部、全部滅べ! 俺の目の前に立ちふさがるな、俺の魂を煩わすな! 塵芥の一片まで滅び去れ!」
「進化したレギオニーターだと……? 流石にもう楽観視はできないな」
ただ食うだけの生き物だった芋虫が、僅かな時間で急速に変化していく。
四肢を得た。言葉を得た。知性を得た。『風来の名門貴族』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)はそれを早すぎると、内心で舌打ちする。
「これも生存戦争の常、我らが種の災厄に成る前に、この場にて、刈る」
「ハッ、芋虫どもが一丁前なルックス決めたじゃねえか。ま、害虫は害虫だ、速やかに駆除してやるよHAHAHA!」
『リローテッド・マグナム』郷田 貴道(p3p000401)が口の端を吊り上げ、犬歯を見せる。
彼はもう一歩先を見ているのだ。近づいていると感じているのだ。
その先にいるのだろう。大口を開けて、けして相容れぬ怪物が。
「アリストクリエーターか……あいつの子供なのかな」
七鳥・天十里(p3p001668)もまた、知性を得た化物の向こうにそれを見ている。食らい尽くし、食らい尽くし、増大を重ねていった巨大な虫。
「……今は、あのときほど未熟なままじゃないよ」
グリップを握る手に、自然と力が入る。
「芋虫め、今回は絶対に始末してみせる」
「……殲滅作戦」
ぽつりと呟いた『狼少女』神埼 衣(p3p004263)は、加えていた紙巻きを口から離すと、ほうっと灰色の煙を吐き出した。
品の良い絨毯と、磨かれた調度品の置かれた廊下に、紫煙というのは些か不釣り合いだ。見る目のある物がいれば、憤慨していたに違いない。
しかし、文句を言われることはないだろう。
流石の副流煙も、墓の下には無害なのだから。
『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は手にしたそれを掲げ、燭台の炎越しに照らし見た。
脆い材質でできた球体。中身は強力なトリモチだ。以前の報告で、飢餓感から我を失ったレギオニーターにはこれが有効だったと聞いている。
試すだけの価値はあるはずだ。
「粘性を高めた特別性だ、君に託す」
受け取った『茜色の恐怖』天之空・ミーナ(p3p005003)が、感触を確かめるかのようにその表面を指で小突いた。
「気色悪い虫共が……進化までしやがるとは想定以上だな」
言葉を話せるということは、知性を持ったということは、協調性を得たということだ。徒党を組み始めているということだ。
「こいつらだけでも、ぜってぇここで倒すぞ!」
「虫が化け物に進化した、とな。だが虫ならば、燃やせばよかろうて」
『鳳凰』エリシア(p3p006057)の言にあるように、炎に耐えられる生物というのは極めて少ない。
それが燃え盛る火炎の中で生きていく必要があるものでもない限り、進化の過程で火への対抗性能を獲得することなどまずないのだ。
焼き尽くせば死ぬ。それは道理だった。
どんなものでも食らう化物。
それは人でも関係がなく、有機無機の違いに顔をしかめもせず、明らかに自分の容量よりも大きなものを食う。食らう。食らっていく。
言うなれば、全生物の、全世界の敵なのだ。生かしておく余地のない、生きているという最低限を譲歩しあえない相手なのだ。
「ここから先には進ませない、ここで君たちを止める!」
『圧倒的順応力』藤堂 夕(p3p006645)は決意を固めた。
ここじゃの、と。
『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が扉の前で立ち止まった。
他よりも一際目立つ彫刻がなされた一枚扉。
両開きになったそれは僅かに開いており、そこから対面せずとも分かる瘴気が漂っている。
知っている。これは知っている。
城内に染み込み、全体に蔓延しているが、それでもこの部屋よりはマシだ。
肉の匂い、血の匂い、悲鳴の匂い。
喉の奥がひりつくのを感じながら、それでも扉を開け放った。
●飢②
私は家族に拘っている。口五月蝿い姉さまも、奇妙なことに拘る弟も、他の家族も、そして母さまも大好きだ。だからこれを奪おうとするな。奪おうとしてくれるな。それを思うだけで、内側から漏れ出すようなこのふつふつとした感情は――しかし腹が減ったのう。
「ようこそ、と言っておこうかの。我々にとって招かれざる客という者はおらんからの。ひの、ふの……嗚呼、皆うまそうじゃ」
「姉さん、彼らに失礼だよ。まずは名前を名乗らなきゃ。僕はジェームズ。君たちは――嗚呼、ごめん。君たちがあまりに美味しそうで」
「ふしゅう、ぶしゅうふ」
「……ごめん、なんて?」
「『仕方ないわ。私もお腹が空いているもの』じゃと」
「気が抜けるなあ。まあいいや。それじゃあ、殺したり殺したりしよう。遠慮せず、食べられたり食べられたりしてくれ」
●飢③
兄姉を尊敬している。実のところ、それほど年が離れているわけではないけれど。先に生まれた姉さんや兄さんを素直に尊敬することが出来た。僕たちはきっと、足りないものを補い合っている。自分にしか出来ないことで、自分に出来ないことを――お腹がすいたね。
視覚的にも、思考的にも、最も厄介なのは間違いなくゴールドバッハであるというのが、全員の一致した見解だった。
集団戦を行う場合、『まず狙うべき』という基準はひとによって異なるかも知れないが、今回のケースにおいては明白だ。
継戦能力。この一点を持って、放置して良い相手ではない。
「滅べ、滅べ、滅べ、滅べ! 破滅風情が我が物顔で世界に居座るな!」
知性を持った。理性を得た。そのようなことはルインに関係がない。
ゴールドバッハよりももっと大きかった、あの化物。あれを逃してしまってから、ルインにしか分からない感覚が、ずっと脳の片隅で警鐘を鳴らし続けている。
「ふしゅう、ぶしゅ、ぐしゅるう」
術式が眼球のひとつに滅びを与える。飛び散った黒い粘液がとても醜かった。
「破滅でも喰らって滅んでいやがれ!破滅どもに命を喰らう権利など呉れてやるものか!」
「先に行かせてくれんかのう。か弱い儂はひとりでは不安で、不安で」
「そういうわけにはいかねえな。目を離したら、アンタが一番面倒だ」
貴道はオスカーの抑えに回っていた。
集団戦において、どれだけ相手を孤立させるのか、逆にどれだけ自分たちは協調できるのか、その面は非常に重要だ。
ゴールドバッハを倒すまで、残り二体を引き離す。
互いを補助し合える貴族種達に対抗するには、連携を取らせない作戦が何より重要だった。
「ああ、なるほどの。知っておるわけじゃ。せいぜい、姉様が早く倒せると良いのう?」
間合いを詰め、自分よりも小さい化物に連撃を繰り出していく。
分かっている。ゴールドバッハかオスカー。そのどちらかを早々に打倒さねば、戦力差は広がるだけだ。
だが拳に迷いはない。戦いの鍵は協調性の差だ。仲間を信じることが、武器になる。
「チャージおしまい。それじゃあ撃つわよ。逃げてねー」
普通はふしゅる、ぶしゅうとしか聞こえないゴールドバッハの声。だが、細かな言語意志の持たない動物とも意思疎通できる夕には、その意味が理解できていた。
そうして、その意味を反芻し、全身が総毛立つ。
視界を巡らせた。貴道が抑えているオスカーが距離を開けている。
判断は一瞬だ。細かく支持している時間はない。
逃げろ、逃げろと、それだけが口をついて出ていた。
瞬間、光条が部屋中を裂いた。
高熱に焼かれた感触と、何かをごそりと奪われた喪失感が同時にのしかかる。
食われたと、理解した。
膝をついている時間はない。これを何度も撃たせてなるものか。
呼び出したねこをゴールドバッハへとけしかける。
食事を行い、再生したばかりの眼球を、狩猟者の爪が薙いだ。
呼び出した死骸の影に隠れてゴールドバッハの光線をやり過ごしながら、ミーナは内心で舌を打った。
掠めただけで感じた喪失感。ダメージを受けたのではない。生命力を食われたのだと直感する。
あと三十秒。情報屋の仕事に間違いがなければ、次に芋虫が光線を放つまでの猶予はそれだけだ。
崩れていく死骸を軸に体を反転させ、指先に感覚を集中させる。眼の前の巨体を見据え――見据え、驚愕の声は胸中だけで留めてみせた。
大きくなっている。成長したのだ。急激に、自分たちを食らって。糧として。
嫌な未来が脳裏をよぎるのは、戦闘に慣れた者のサガだろうか。
それでも体は動きを止めていない。攻撃の予備動作から、流れるように一撃を放っている。
触れた指先に、酷烈の殺意。刺すような痛み。神経を喪失したかのような低温。絶望のかけらを埋め込んでやれ。
食べられた。
食べられた。食べられた。食べられた。
肉を根こそぎにされたのではない。骨をしゃぶられたのではない。それでも、衣の脳裏に焼き付いたのは明確な捕食のイメージだ。
「またあのでかいのが来るぞ!」
誰かが叫んでいる。またあれが来る。それまでの僅かな時間。震えて縮こまるか。諦めて許しを請うか。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。噛み締めて牙を剥く。腹の底から咆哮をあげる。
衣の姿がゴールドバッハの無数の視界から消えた。いいや、消えたように映ったのだ。
紙巻きの先端。その小さな灯りが軌跡を描き、衣の動いた後だけを教えてくれる。
突き刺せ。引き裂け。抉り出せ。脳が悲鳴を上げている。神経が警告を鳴らしている。筋肉がどんどん断裂していく。
構わない。未来を消費してもいい。それは矜持だ。
こちらが食う側だ。狼こそが捕食者なのだと。
地を低く走り、デイジーの呼び出した獣がゴールドバッハに食らいつく。
不規則に生えた腕を、剥き出しの眼球を、噛み砕き、千切り、残骸に仕立て上げていく。
戦いながらも、頭の中で焦燥感を生むカウントダウン。
一秒一秒が惜しい。まだ倒れぬか、まだ倒れぬかと刹那すらもどかしく感じてしまう。
既に化物は、黒いタールのような血液を体のあちこちから流し、醜い呻き声をあげている。
獣の一匹が食われた。だが、目玉をまたひとつ潰した。
脳内の時計は正確ではない。あと十秒。それがどれほど充てになるだろう。
ゴールドバッハが上体を起こした。次いで眼球が輝きを始める。
思わず伏せろと叫んだが、間に合ったかどうか。
これが化物の食事でなければ見惚れていたかも知れない、無数の光線。
ごっそりと抜け落ちたかのような喪失感も二度目。そしてまた、脳内でタイマーが動き始めた。
「これ、でっ……!」
レイヴンの呼び出した大きなカニのハサミが、ぐちゅりと嫌な音を立てて眼球の塊を叩き潰した。
頭を抑え、ずきずきとした痛みを堪えながら、今や見上げる程の巨体に成長したゴールドバッハを睨んでいる。
肩での呼吸。可能ならば膝をついてしまいたい程の疲労感。自分だけではない、誰もがそのような状態だ。三度目を受ける余裕はない。
思いが届いたか。ようやっと掴み取ったのか。ゴールドバッハの身体が大きく揺れる。
ぐらりと。そて震動を伝えながら地に倒れ――ようやっと、動かなくなった。
沈黙。
荒い呼吸だけが、時が止まっているのではないと教えてくれる。
「姉さん、姉さん!!」
沈黙を破った男の声。見れば、今や巨大な双角を持つにまで成長したジェームズが、姉に呼びかけている。
あと二匹。
「それを儂に向ける意味を、わかっていようの?」
ラルフは肩で呼吸をしながら、オスカーに拳銃を突きつけている。
ゴールドバッハの成長を共有したオスカーはもう、少女の姿ではなくなっていた。
背丈は伸び、人間で言う成人の手前くらいまで成長を遂げている。
「理解はしているさ。これは賭けだ。だが、危ない橋を渡らなきゃいけない時もある」
知っている。分かっている。この銃弾には無数の悪毒が込められている。慎重な戦いを選ぶのならば、それをオスカーにだけは撃つべきでない。
オスカーは快活に笑う。それはまるでヒトのようだったが、そうではないという理解が嫌悪感を掻き立てた。
「命を賭けよるか、面白いのう。良いぞ、撃て。よう狙え?」
額をとんとんと指で示し、避ける素振りもない。
気づけば呼吸も落ち着いていて。
妙に静かな心地のまま、ラルフは引き金を絞る。
「痛い。痛いな。ははは、恨めしい。恨めしいぞ!」
血管が破裂し、流れ出た血液は止まらず、身の内側を焼かれ、毒に侵される。
ラルフが撃ち込んだ死毒とは、そういうものだ。オスカーが嬉々としてその苦痛を受入れ、イレギュラーズらを怨み、重ね合わせたのもまた、そういうものだ。
まっとうな呼吸すらままならぬ中で、エリシアは予めキャストしていた術式の展開文を口ずさむ。
幾分か立っているのが楽になる。快癒はしていない。全ては覚悟の上だ。オスカーの能力はそういうものだと、知っていたのだから。
深い呼吸を終えて、次の術式を編み始める。オスカーの能力は不調の常時共有ではない。
ならば治療してしまえばと、唱えようとした矢先。頬を両手でそっと、包まれた。
「痛い、痛い。苦しいのじゃ。苦しゅうて敵わん。のう――うまそうじゃな?」
「よぉく僕の光を焼き付けろ」
大口を開けたオスカーのこめかみを、天十里の銃弾が撃ち抜いた。
崩れ落ちるオスカー。口を開いたところで殺せたのは、丁度良かったかもしれない。
人間のようであったなら、忌避感と嫌悪感を多少は感じていたかも知れないから。
オスカーは小さな痙攣を続けているが、神経反応によるものだろう。頬が裂けるほど大きく口を開けて痙攣をするサマは、ここにきて初めて虫らしいと思えた。
傷口が痛む。疲労感で腕が鉛のようだ。集中力のピークはとっくに過ぎて、へたりこめば意識ごと起き上がっては来れないだろう。
だがそれでも、銃を構える。
双角を持ち、精悍な体つきをしたジェームズ。
姉の死を嘆くのをやめ、殺意を込めた視線を送ってくる彼に、初めのような余裕はなく、本当に悪魔のようだった。
さあ、あと一匹。
●飢④
美味しい。これも美味しい。
ジェームズの首が落ちる。
虫であるからという理由で、身体だけになっても動くことを警戒していたが、どうやらその心配は必要なかったようだ。
誰も、勝利を喜ぶ声を出せないでいた。それほどに疲労が嵩み、怪我をし、体力が底の底に達している。
沈黙。沈黙。
それを破ったのは、耳につく音だった。
ざ、っく。ざ、っく。
初め、それを時計の音かと思った。壁にかけられた時計が、改めて耳に入ってきたのかと。
だが、時計など戦闘の余波でとっくに壊れている。
ではなんの、そう思い視線を巡らせて。
違和感に気づいた。
縮んでいる。あれだけ大きくなっていたゴールドバッハの身体が小さくなっている。
いいや、よく見れば小さくなったのではない。減っているのだ。
それは今も、次々に、その体積を減らし、しまいにはそれの中に消えてしまった。
ゴールドバッハを食べ尽くしたそれは、満足そうに腹を撫でる。
そして笑みを浮かべると、優しい声でこういった。
「あーぽーかりぷーす」
崩れた城からイレギュラーズ達が救出されたのは、翌日のことだった。
了。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
あと一戦。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
レギオニーターの集団が幻想のとある領主城を襲撃。これを占領しました。
これらを取り返すため、城内部にて以下の敵を殲滅してください。
≪エネミーデータ≫
■アリストクリエイター
・レギオニーターの上位種。
・それぞれが兄弟姉妹であるかのように振舞い、一部を除き会話が可能である。
●ジェームズ
・長身で引き締まった肉体を持ち、眼鏡をかけている。
・右側頭部から縦に長い片角が生えている。
・命中・回避が高い。
・分析面で羽化。以下の能力を持つ。
【高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応せよ】
・スキルによる攻撃を受けると発動。
・受けたスキルと同種の性能を持つスキルによる攻撃を再度受ける場合、そのスキルの威力・命中補正が50%下がる。
・3ターン後の自分の手番まで持続する。
●ゴールドバッハ
・標準的な男性の何倍もの体躯を持つ巨大な芋虫。動物と会話が可能でなければ、彼女が何を言っているのか理解できない。
・集まった魚卵のような無数の目と、不規則に生えた女性の手を持つ。
・反応値と回避が低く、そのかわりに攻撃力がとても高い。またHPも多い。
・ブロック・マークに2人前以上を必要とする。
・食事面で羽化。以下の能力を持つ。
【みんなはわたしのために】
・全ての攻撃に【捕食】と同じ効果が付随する。
・【捕食】によるステータスの上昇を倍増する。
【あーぽーかりぷーす】
・眼球全てから放つ無数のレーザーで周囲を薙ぎ払う。
・R0~R4の範囲で敵味方ランダムに5~6回攻撃する。
・3ターンに1度使用する。
・非常に命中が高いが、使用前に必ず予備動作を行う。
●オスカー
・小柄な少女の姿をした個体。
・R3~4の攻撃を中心に戦う。
・愛憎面で羽化。以下の能力を持つ。
【恨み骨髄】
・自分がバッドステータスを受けた際に自動発動。
・敵全体を同じバッドステータスにする。
【染まる苦花】
・味方のステータスが上昇した際や、スキルによる特殊な効果が発生した際に発動。その効果を味方全体で共有する。これに【飢餓感】は含まれない。
☆全てのアリストクリエイターは以下の能力を持つ。
【飢餓感】
・レギオニーター及びアリストクリエイターが戦闘開始からある程度のターン経過、ないしダメージを負うことで陥る特殊ステータス。
・主行動に追加で【捕食】を行う。
・一定回数の【捕食】を行うことでのみ解除される。
【捕食】
・周辺の木々、石、肉、その他口に入れば何でも食べようとする。
・HPが回復する。
・アリストクリエイターがこれを行った場合、追加でHP最大値、物理攻撃力、防御技術、命中が上昇する。
・肉を食べた場合、この上昇値が増加する。
≪シチュエーションデータ≫
・城内の広間。
・質の良い絨毯や統制の取れた調度品が高級な場所であることを教えてくれる。
・死体や血のりは全く残っていない。
※注意
・同一タグのシナリオには同時参加できません。
・予約は可能です。ご注意ください。
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