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シナリオ詳細

ブリキット盗賊団と呪いのナイフ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある盗賊の自慢話
 美しい黒檀のテーブルに一本のナイフが転がされた。
 アンティーク家具にはナイフなど不釣り合いもきわまる筈だが、不思議とそのナイフは芸術品のごとく場になじんでいた。
 持ち手に施された竜の彫刻。先端にはめ込まれた石。柄の付け根まで伸びる炎のような装飾。
 そしてなんといっても刃にはしる不思議な模様。
 白く透明感のあるそれは、いわく人間の魂を対価にして鍛造されたという。
 そしてその魂の持ち主とは……。
「伝説の大盗賊さ。オレたちブリキット盗賊団は奴を殺して財を奪い、魂までも奪い取った。
 その証がこのナイフってわけさ」
 黒い髭で顔半分を覆った大柄な男は、そう言うとラム酒入りの木製カップを豪快に飲み干した。
 試しにナイフを触ろうと手を伸ばすと、カップをテーブルに叩き付けて牽制した。
「やめときな。こいつは選ばれた奴にしか扱えねえ。アンタが持っても棒きれ代わりにもならねえだろう。そういう呪いがかかってんのさ」

●盗むか、戦うか、二者択一
「ブリキット・ナイフを知ってるかい? 一部じゃ有名だと思うんだけど……」
 所変わってギルド・ローレット。小さな酒瓶を端に寄せ、『黒猫の』ショウ(p3n000005)はあなたへ耳打ちするように言った。
「それを盗んで来て欲しいって依頼が、あるコレクターから来てるんだ」

 ブリキット盗賊団は幻想北部にアジトを構える地下ギルドの一つだ。
 活動は主に貴族からの窃盗、商人キャラバンからの略奪や人身売買、その他人には言えないあれこれ……。
「つまりは犯罪組織さ。『匿名希望の貴族様』は彼らが消えることをお望みらしいんだけど、八人幹部っていうのが厄介でね。
 大盗賊の魂を宿した八本のナイフを所持していて、なかなかに手強いんだ。
 けど他人の魂をバラバラにして持っていてノーリスクなんてことはないよね。
 あるんだよ。最大にして最悪の弱点が」
 ショウはグラスの縁を指でピンとはじくと、世にも悪そうに笑った。
「ナイフを奪われた時。持ち主は死ぬんだ」

「『匿名希望の貴族様』は盗賊団八人幹部の抹殺を求めてる。そのためであれば、窃盗や殺しの罪をもみ消す用意もあるようだ。
 といってもそうそう頼るわけにはいかないからね。やるならどちらか一方さ。
 つまり『盗む』か『戦うか』かだ」

 八人幹部は隠れアジトで集会を行なうという情報を掴んでいる。
 それまでに各幹部の『ブリキット・ナイフ』を盗みだし、幹部の数を減らしてしまおう。
「盗みによってゼロにしたって構わないし、極端にいえば一つも盗まず武力行使で全員倒して奪ってもいい。メンバーの技能だとか性格だとか……あとは、趣味で選ぶのがいいかな」
 ショウは依頼書と八人幹部それぞれの情報を書いた束をテーブルに置いた。
「『匿名希望の貴族様』はギルドに期待してるみたいだよ。よろしく」

GMコメント

 お帰りなさいませ、プレイヤーの皆様。
 依頼の支度が調ってございます。
 今回は『盗み』か『戦い』かの二択。
 参加PCの個性に合わせて、個別にご選択くださいませ。

【依頼内容】
 ブリキット・ナイフを八本全て手に入れること。
 ひいてはブリキット盗賊団八人幹部の抹殺。
 そのためにとれる手段は『盗み』か『戦い』。
 幹部勢を一気に処理してしまえば残りの盗賊団はクリーンにできると伺ってございます。

【スタイル選択】
 この依頼にあたりましては、スタイルをABどちらかからご選択くださいませ。
A:幹部から個別にナイフを盗み出すシーフスタイル
B:隠しアジトに集まった所をまとめて倒しナイフを奪うバトルスタイル

→A:幹部から個別にナイフを盗み出すシーフスタイル
 八人幹部のセキュリティは三種類にわかれています。
甲:大勢のとりまき
 スラム街のひとつに居を構え、部下を沢山飼っています。
 ナイフは普段奪われないように自宅の宝箱にしまい込んでいますが、
 自宅内外を部下たちに見張りや見回りをさせて守っています。
 人目をかいくぐる技術が必要になるでしょう。

乙:沢山のトラップ
 大きな家を構え、ごく最低限の見張りをつけています。
 そのかわり家のあちこちには無数の警報トラップを仕込み、
 ナイフを奪おうとする侵入者を警戒しています。
 中には発動することで暫く足止めをくらったりおおきなダメージを受けるものもあるでしょう。
 ここを攻めるなら、罠に対する技術があるととってもステキです。

丙:肌身離さず持っている
 非常に用心深く、ナイフを手放すタイミングがありません。
 しかしこの幹部はギャンブルマニアで好色だと知られており、
 ギャンブルで追い詰めたり色仕掛けで近づいたりといった方法で奪い取ることが可能でしょう。
 この場合、ナイフを手に取っただけでなく相手に奪い返されない状況まで持っていかないと呪いが発動しません。
 相手の懐まで潜り込める心理的技術や、スリなどの技術があるとステキです。

(※少々メタですがダブりを防ぐために種類分けをしています。
 例として丙種を八人が選んだ場合、ブリキット幹部は八人全員丙種だった扱いになります)

→B:隠しアジトに集まった所をまとめて倒しナイフを奪うバトルスタイル
 こちらはシンプルなバトルで決着をつけます。
 幹部たちを倒し、ナイフを奪いましょう。
 既にナイフを盗まれている盗賊幹部は当然ながら集会に出席せず、
 シーフスタイルを選んだイレギュラーズもオーダーの都合上こちらに参加できないため、
 必然的にバトルスタイルはそれを選んだイレギュラーズと盗賊幹部の同数バトルとなります。
 戦闘相手となるのは場にいる幹部のみ。彼らを倒せば終了となります。
・盗賊幹部の使用スキル(予想)
 格闘、肉薄戦、多段牽制を使用するところが過去に目撃されています。
 このうち1~2種を使うものと予想されます。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • ブリキット盗賊団と呪いのナイフ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月10日 20時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
オクト・クラケーン(p3p000658)
三賊【蛸髭】
縹 あんず(p3p001228)
唐桃
ファリス・リーン(p3p002532)
戦乙女
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
アニエル=トレボール=ザインノーン(p3p004377)
解き明かす者
両極 優樹(p3p004629)
天邪鬼七変化
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊

リプレイ

●少女の挑戦
 イレギュラーになってから、本当に驚くことばかりなのよ。
 ブリキット・ナイフに、ブリキット盗賊団に、匿名希望の貴族様。
 こんな世界があったなんて、わたし、知らなかったわ……!

 スラム街を進むには度胸が居る。
 路上に寝転ぶひげもじゃのおじさんや、信じられない薄着で人を誘惑するお姉さんや、ローブで顔を隠して薄暗い場所にいる人が沢山いるからだ。
 まして『唐桃』縹 あんず(p3p001228)のように暮らしてきた身からすれば別世界だったのだろう。
 あんずはきょろきょろとしながら周囲の目を伺っていた。
 話に聞いたターゲットの家はこの先だ。
 言われたとおりにやってくると、そこは多くの人が出入りするお屋敷だった。
 スラム街にもこんな大きな家があるんだな、という気持ち以上に集まる人たちのガラの悪さが目に付いた。
 お世辞にもまっとうに生きては居なさそうな、あんず基準でいう悪い人の家だ。
 ここで引っ込んではだめだ。
 あんずは変装とアノニマスでしっかり特徴を消したことを確認すると、あえて堂々と家の中へと入っていった。

 家の中ではパーティが開かれていた。
 といってもなかなかにアウトローなパーティーだったので、あんずは出来るだけ関わらないようにしておいた。
 目的はただ一つ。家に保管されているというナイフだ。
「ここかな……」
 人目を盗んでプライベートルームへと侵入していく。気配を殺し、いくつかのドアを開く。
 すると、ガラスケースに入った美しいナイフを発見した。
 話に聞いていたナイフだ。
「盗賊さんは悪い人だけれど、やっぱり、命を奪ってしまうのは気が引けるわ……」
 このナイフを奪えば、盗賊は死んでしまうのだという。けれど。
「それでもわたしは、わたしにしかできない何かを見つけたいの。だから、頑張るのよ……」
 あんずは思い切ってナイフをケースから取り出すと、窓からえいやと逃げ出した。
 見回りにきた部下がナイフの不在に気づき、あたりが一気に騒がしくなる。
 見つかればおしまいだ。あんずは冷や汗を流しながら街から逃げ出した。
 みんなは無事にでに入れられたかしら、なんて思いつつ。

●人間なんて
 強い風が吹いていた。
 『落ちぶれ吸血鬼』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)の煙のような長く白いウェーブヘアが大きく靡く。
 長い睫をさげ、クローネは薄茶色の町並みを眺めていた。
 粗末な家々。家かどうかも怪しい箱形住居群。ドラム缶から登る火と煙。ぼろきれたローブを纏った人々が火に手を翳して集まるさまには、貧困層特有のしめっぽさがあった。
 幻想北部のスラム街が全てこうというわけではないだろう。特に、ここは酷い。
 クローネの視界にはいるのは、ゴロツキと呼ぶに相応しい盗賊の下っ端連中だ。
「本当に多いっスね……いっそ伝染病かなんかで全員死ねばいいのに」
 深く息をついて、クローネは高い煙突の縁から飛んだ。

 ブリキット盗賊団のひとりアノヌエラはここ一体の主だ。
 ゴロツキたちがたむろするストリートを仕切り、彼の気分ひとつで人が死ぬという。
 クローネはそんな連中の中を歩いていた。
 深く被ったフードの下から観察する。ギフトの効果ゆえか、周りは自分に注視していないようだ。
 だがよそ者の自分が入り込んでいると知れれば……。
「考えるのは止めよう……」
 クローネはまっすぐ、アノヌエラ宅へと向かった。

 アノヌエラの住居は周囲の富を吸い上げたかのように立派だった。
 家の周りには手下らしいゴロツキがうろうろしていて、中にはおかしな目をして地面に座り込んでいる者もいる。
 急に家へ入れば注目されるは必至。ではどうするか。クローネはローブの裾を掴んで顔を隠すと、家の裏口へと回った。

 窓を壊して無理矢理家に入る。時間は一秒だって待てない。
 音を聞きつけたゴロツキたちがやってくる前に、クローネは手近な扉を開けた。
 透明な箱に入れられたナイフがある。間違いない。
 クローネはそれを掴むと――。
「動くな! 誰だ!」
 部屋に飛び込んできた部下に衝術を打ち込んだ。
 もう一人がマジックロープの魔術を放つが、クローネはそれを打ち払ってそのまま窓へ飛んだ。
 窓ガラスをフレームごと破壊し、空へと逃げるためだ。
 早く手下から逃げ切って、ナイフを提出せねば。
「ずっと持ってて自分が所有者にでもされたら冗談じゃないッス」

●死に至る色仕掛け
 『七変化の天邪鬼』両極 優樹(p3p004629)がゆっくりとスラム街を歩いて行く。
 ここはスラムとはいえ整った町で、あちこちにゴミが落ちている以外は割と綺麗だ。
 夜になれば賑わう酒場があり、商店も普通に開いている。
 優樹は夜になると道ばたに出て営業をしかけるセクシーなお姉様方を参考に、露出の多い服ややや挑発的な化粧を施した。うまく変装するための工夫である。
「まぁスッピンやとあとで男なったとき万が一悟られるかもしれへんしなぁ」
 とは、優樹の弁である。
 おかげで随分と扇情的な美女ができあがり、工夫のかいもあって優樹の存在を疑う者も少なかった。
 流れ者が多い町だからか、見慣れぬ優樹の姿が特に気にならなかったのだろう。扇情的な格好で男性を誘惑していても、それが珍しいものには見えないはずだ。

 ブリキット盗賊団のひとりジャクソンは女好きだ。
 今日も夜の町へ繰り出しては新しい女選びに興じていた。
 そんな彼が目をつけたのが……優樹であった。
「そこの御方あーしと遊びはらんけ?」
 町では初めてみる美女だ。こんな美女を見逃していたとは。ジャクソンはそんな風ににやけつつ、彼女の誘惑に応じた。
 美女にまず酒をたらふく飲ませようという男がいたら、下心を疑うもの。少なくともジャクソンは下心が満載だったし、なにより相手から誘ってきたのだからと遠慮無く酒のペースを上げた。
「なんやろか、えらい物騒な雰囲気がそそるんやけど。強い男好きやよ」
 そう語る優樹に気をよくして、ジャクソンはこんな風に語った。
「大盗賊のブリキットを知ってるか? キングスコルピオにも認められたビッグな盗賊さ。見なよ、このナイフはそいつの魂で錬成してるって話なんだぜ。こいつを持っていれば、俺たちにだってキングからお声がかかるかもしれねえのさ」
 自慢話をし始めたらこっちのものだ。
 優樹は彼がナイフをしっかりと懐にしまったのを確認すると、流れるようにそれをスリとった。

 ジャクソンが失敗に気づいたのはすぐ後のことだ。
 優樹がお手洗いに立った時、ナイフが無いことに気づいたのだ。
 スリとられたのだと気づいてトイレへ駆け込むもその姿は無い。
 知らない男とすれ違ったが、女の姿は無かった。
 優樹はどこへ行ったのか?
 それは、皆もご存じの通り。先程すれ違った男こそが、ギフト能力で性別を変えた優樹本人だったのだ。
「しかし、短刀の保持者あーしに移ったりしとらへんよなぁ。念仏でも唱えとこうかいなぁ」

●ブリキット盗賊団の最後
「貴族様に言われようがなんだろうが、盗賊団なんてろくなものじゃないから潰すのは構わないけど……」
 『特異運命座標』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は仲間の手伝いをしながら、そんな話をしていた。
「殺すのかあ……まあ抵抗はあるよね……やるけどさ。放っとくと他の被害も出そうだし」
 それにしてもなぜ呪いのナイフなんて欲しがったんだろうね?
 そう語るアレクシアに、車いすに座った『特異運命座標』アニエル=トレボール=ザインノーン(p3p004377)が無表情に語った。
「肉体の不法改造、全身義体化、力のために逸脱する犯罪者は何人もいた。あれは身体を損なわずに力を得られるナイフだ。自分の命がチップだとしても欲しがる輩はいるだろうね」
「そうかな」
「個々人の自由だ。かけた天秤の傾きも。それよりも……」
 今し方紙に書かれたアジト周辺の情報を見つめて、アニエルは目を細めた。
「個人宅に窃盗に入る事が公有財産としての職責の範囲を逸脱するかという点に関しては、検討を要するな」
 それでどうしてこの選択を?
 アニエルはその質問を待っていたかのように、片方の眉だけを上げた。
「なに、当機は単独行動に向いていないのだよ」

 一方。
「ブリキット・ナイフってのは、聞いたことのあるお宝だな。海賊としちゃあコレクトしたいところだが、仕事は仕事だ」
 『蛸髭』オクト・クラケーン(p3p000658)がアニエルの捜査を手伝う形でメモを書いていた。ちらりと仲間に視線を向ける。
「相手を殺しちまうのが可哀想かい?」
 『輝きのシリウス・グリーン』シエラ バレスティ(p3p000604)が、ぐっと拳を握りしめた。
「酷い事してる人達には同情はしないよ! それよりも、私は皆を守らなきゃ!!」
 シエラのきっぱりとした物言いに、小さく頷く『銀翼の歌姫』ファリス・リーン(p3p002532)。
「それに、魂で錬成したというお話がいけません。魂とは心に宿り、子々孫々受け継がれてゆくもの。殺して奪っただなんて……」
 一度目を閉じ、ファリスは自分の心にぽっと炎をともした。
「妄想にすぎないことを教えてやろう。そして、偉大な祖霊を宿した我が身の力を……」
 本当の魂というものを見せてやる、とファリスは武器を握りしめた。

 アニエルたちによって行なわれた調査は相応の効果をもたらした。具体的には、ブリキット盗賊団の隠しアジトには正面入り口の他に普段使われていない裏口が存在することと、使われなさ過ぎて立て付けが悪くなっていることが分かった。
 ただ調べただけではこうは行かなかったろう。アニエルの専門性があっての発見である。
 かくして、あらためて、ブリキット盗賊団残り5名を相手にした襲撃作戦が始まった。

●襲撃
 ブリキット盗賊団の集会は険悪なムードで始まった。
 いつのまにか3名もの幹部が死亡し、集会に欠席していたからだ。
 その理由というのが呪いのナイフが何者かに奪われたことによるものらしい。
「呪いのことが外に漏れたか?」
「元々有名な話だ。それより、奪われるようなヘマをしたことが問題だ」
「まずはナイフを取り返す算段をつけよう。幹部は後で選出すればいい」
「せやなあ、ウチらだけでも生きていればブリキット盗賊団は――」
 と、話したところで、部屋の扉が内向きに吹き飛んだ。
「盗賊さん、あーそびましょー」
 大砲をかついだオクトが、銃口から煙をあげながらのっそりと部屋に入ってきた。
 ナイフを抜く幹部たち。
「テメェ、どうやってここを――!」
「緊急特番、突撃、隣の盗賊団! のお時間だんじゃ、レポーターのシエラ嬢、続きはよろしくー」
 話を最後まで聞くこと無く、場の主導権を握ったままオクトはその権利をパスした。
 ダガーを抜き、ずいっと前に出るシエラ。
「おはようございます大悪党の皆さん! 年貢収めの準備はOK? 涙を拭くハンカチの準備は? 来世への想像は膨らんでる?」
「ぬかせ!」
 シエラの挑発にのった一部の幹部たちが一斉に斬りかかる。
 対するシエラは盾を翳してそれを打ち払っていく。
「ふふふ、怒って女の子を大勢で痛めつけようだなんてとんだ変態盗賊さん達だね!」
 2対5では幹部たちが圧倒的に有利だ。まずは女を取り囲め。……といった具合にシエラに攻撃を集中しはじめる幹部たち。
 アレクシアはここぞとばかりに戦線に加わり、自らにミスティックロアをかけた。
「さあ、派手に行くぞ!」
 中距離から魔力放出を連発。アレクシアの魔力放出を受けた盗賊たちは戦力差を見誤ったことを早速悟ることになった。
 なぜなら、ファリスとアニエルがたてつけの悪い裏口から直接乗り込んできたからだ。
「畜生、挟まれた!」
「なんてこたぁねえ、このナイフさえあれば!」
 幹部がナイフを翳して襲いかかってくる。
 ファリスは彼らのナイフ信仰とでもいうべき態度を吹き飛ばすかのように、堂々と勇壮のマーチを歌い始めた。
 彼女の歌をやめさせようと幹部たちが殴りかかるが、ファリスはハルバードによる力強いスイングで薙ぎ払う。
 ファリスの薙ぎ払いによってよろめいた幹部めがけ、アニエルは車いす(正確には車椅子型移動デバイス)を走らせた。
 思い切り撥ねられ、回転しながら飛んでいく幹部。奥にあった棚に激突し、酒瓶の中身を大量にまき散らした。
 ぶん、とハルバートで風をきるファリス。
「お前たちがナイフに宿した魂など、所詮妄想に過ぎん。そのことを今から教えてやる」

 死を覚悟した幹部たちは死にものぐるいで抵抗し、戦いは激化した。
 アレクシアは距離をとりながら魔力放出を打ち込んでいく。
 逃走の危険もあるかもと、裏口に立ち塞がるように位置取った。
 同数の戦いではあったが、シエラが前に出て敵を引きつけてくれたのは助かった。おかげでアレクシアに張り付く敵はなく、安心して得意な距離を維持できた。
 あとは攻撃に集中するだけだ。
「まずは一人、だね!」
 アレクシアの魔力放出が幹部の一人にヒット。幹部はその場にあった椅子をなぎ倒すようにして自らも転倒し、その手からナイフをころりと落とした。
「サクド! やられたのか!?」
「てめぇ、よくも――!」
 アレクシアに恨みを抱き、ナイフを振りかざす二人の男。
 彼らがテーブルに飛び乗り、襲いかかってくる。
 だがそんな彼らをかっさらうかのように、室内で大胆に飛行したファリスが横から二人を殴り飛ばした。
 一人はハルバートに引っかかる形で壁に押しつけられ、言って首を押しつぶされた。
 もうひとりはテーブルから落ちた所にアニエルが車いすごと突撃し、壁へとサンドした。
「さて、こんなところか」
「らしいな」
 自分だけは逃げだそうと仲間を見捨てて走り出した幹部を、オクトは大砲によるぶん殴りで転倒させた。
「後悔するなら地獄でな、それじゃ、いつかまた会おうぜ、盗賊」
 かかっ、と笑うとオクトは至近距離で大砲をぶっ放した。
 もちろん、盗賊が無事でいられるはずはない。
「た、たのむ、殺さないでくれ。他のナイフはやる。だから俺のだけは……」
 壁に背をつけ命乞いをする幹部。
 シエラが自らの髪をサッと払うと、ヘアカラーが落ちたのか、真っ白く美しい髪が広がった。
「今まで酷い事をして来た事を、後悔して逝くといい」
 ダガーを振り上げる。
 悲鳴が、部屋の外まで響いた。

●呪い
「然るべき機関に引き渡せないのは残念だが、よしとしよう」
 アニエルはそう言って一足先にアジトを出て行った。
「魂を盗まれたのは大盗賊とやらではなく、むしろ盗賊達の方だったのだろうか」
 部屋に残ったファリスは、テーブルに並べた五本のナイフを見て目を細めた。
 その横で複雑そうな顔をするアレクシア。
「こんなの処分してしまったほうが良いと思うんだがなあ。所持してる事自体があまりにもリスキーすぎるだろう」
 その一方、オクトとシエラは部屋の奥へと入っていく。
「盗賊団なんだ、他のお宝でも保管されてねぇかな」
「お宝探しだね! 私も手伝うよ~、ワクワク!」
「ん、なんだこりゃあ」
 入ってみると、そこにあったのは沢山の酒と食料だった。
「お宝全然ないね。ガッカリ」
「ま、自慢するほどの盗賊じゃあなかったってことかもな。今はこいつで我慢してやる」
 オクトは手近なウィスキー瓶を手に取ると『いい酒じゃねえか』といって笑った。

 こうして、ブリキット盗賊団は壊滅した。
 彼らが自慢にしていた呪いのナイフは『匿名希望の貴族様』のコレクションに加わり、今もどこかにあるという。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 荒くれどものすみかに飛び込みナイフを盗みだす勇敢さも、正面から戦う勇ましさも、とても素敵でございました。
 また次の機会を、こころよりお待ち申し上げております。

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