シナリオ詳細
Love fed fat soon turns to boredom.
オープニング
●
――うざってェ。
死の香りは消えない。擦っても擦っても擦っても擦っても擦っても。
死体繰りで死体遊び。死を冒涜すると謗られて尚、笑うあの女も。
死んでも必要としてくれるから『イイヒト』だと笑ったあの女も。
あの愛しき景色の中で死体喰いと罵る声の中、笑ってられた『妹』も。
うざってェ、妬ましい――チェネレントラを除けば皆死んだ、死んだはずだった。
「ねえ、ヴィマルちゃん」
チェネレントラが笑う。
「あなたの『妹』が生きてたってェ話なんだけど」
ころころと笑ったチェネレントラ。どうして、知っていると乾いた声が出た。
「だってェ、チェネレントラ、戦ったんだもん」
あなたの妹と。
乾いた笑いが漏れた。
魔種。
気狂いシンデレラ――彼女と戦ったのか、とヴィマルの表情が僅かに歪んだ。
「……心配しないでェ? キヒヒヒッ――あなたのね、あなたのね。
だいじな、だいじな、だいじぃーーな、妹ちゃんはチェネレントラの玩具じゃないわァ」
そんなことしたら、アナタ、怒るでしょ。
整った唇がそう笑った。
「ねぇ、ねぇ、ヴィマルちゃん。――『イイヒト』してらっしゃいな?」
海洋の、そのどこか。
死した魔種の死骸を集める疫病神。
そう呼ばれ、妬ましいと声に誘われ、堕ちたその先で彼は嗤っていたのだ。
――ねぇ、集めて頂戴よ?
死体をたくさん。満たされない嫉妬(あたし)達の為に――
どうして?
――やぁね。他人の不幸を見て、安心していたいのよ。
嫉妬(あたし)達の為に。嫉妬(あたし)達の事を思って。
妬ましいでしょう、幸福なひとが。
妬ましいでしょう、満足げなひとが。
妬ましいでしょう? 『普通』であることが――
ゆっくりと、開いた瞳の色は緑。
隠れ里であったあの郷に茂った草木と同じ、鮮やかなその色。
「アタシ、あなたのねェ――その瞳の色、好きよォ」
「チェネレントラ、一つ。良い事を教えてやろうか」
「キヒヒッ――なぁに?」
「『与えられるばかりの愛情じゃ、胃もたれして飽きちまう』んだとよ」
乙女は笑った。
ええ、だって、アタシ、今、退屈してるもの? だから、遊びにノったのよ。
●
囂々と音立てる大渦。その外に飛び出す様にその男は居た。
襤褸になった外套と、異形に化したその下半身は蛇の様にぞろりと動く。ネオ・フロンティア海洋王国が中央島『リッツ・パーク』の浜で笑ったその魔種は詰まらなそうに月を見上げる少年にげらげらと下品な笑いを浮かべて見せる。
「『スカベンジャー』。コンニチハ。
今日も相変わらず、死体(ゴチソウ)探しか? 飽きないこった」
「……うるせェ」
毒吐いたは『スカベンジャー』ヴィマル。
彼は嫉妬を冠する魔種にして、チェネレントラと呼ばれた魔種と『やむを得ず』行動を共にしている。何故、と問われれば彼が自身の雇い主にそう命じられたからだ。
「相変わらずお父様――お母様のがいいのか?――のオツカイに勤しんでんのかよ」
「言われた事だけやってりゃいいんだよ……。
テメェみたいにぐだぐだ管巻きながら暇してる蛇ヤローには関係ないだろ」
口が悪いと笑った蛇男はヴィマルの事を見遣りくつくつと喉を鳴らす。
「で? 今日は俺でも『拾いに来た』のか?」
「さぁな」
ふい、と視線を逸らしたヴィマル。
彼の性根を知っているからか蛇男は「やさしいヴィマルちゃんに聞く事じゃなかったな」と冗談めかしてげらげらと笑った。
「ローレットに興味があんだよ」
「だから?」
「だから、呼んだんだよ。『俺ら』を喰いに来いよって。
だから、手伝ってくれって頼んだんだよ。死体繰りは楽しいだろって」
「あの『お姫様』は喜んだろうな」
「退屈してやがるからな。海の底でお化粧直ししてる間は表に出れねぇだろしな」
「ハッ――なにが化粧直しだ。ただの死体(エキストラ)集めだろ」
「違いない。
けどな、興味位持つだろ? 『スカベンジャー』そっくりさんもいるあの妬ましい集団に」
その言葉に、つい、と顔を上げる。
『スカベンジャー』は唇を釣り上げて、けらけらと笑って見せた。
「俺に似ている奴を知っている?
じゃあそいつには近づかねぇことだ、ろくな目に合わねぇぞ……俺みたいにな」
●
深い海に情愛を。海には縁深い種族たる『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)は言った。
――海洋が首都リッツパークに複数の魔種が現れました。
至急、至急。『ローレット』を誘うために一般人に手を出しています――
- Love fed fat soon turns to boredom.完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年01月14日 22時45分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
生涯は旅だという言葉はあったけれど。
長い長い旅を進んで、その先に――きっと、行く先は同じなのだと思っていた。
『俺』がそう思うように『アイツ』だってそう思っていたはずだ。
どこから、間違えたのか。
どこから、違っていたのか。
今は、もう分からない。
分かるのは、ただ――『妬ましい』ぜ。バカヤロウ。
●
囂々と。音立てる大渦の存在は、遠く――リッツパークへと不安を与え続けていた。
大渦の容疑者――いや、もはや重要人物と呼ぶに相応しい――である魔種チェネレントラは特異運命座標を大渦の下に眠る古都へと一度誘った後、舞踏会(たたかい)に備え、息を潜めている。乙女にはお色直しも必要なのよ、と、甘く囁いたであろう声音は彼女と戦った事のある特異運命座標ならば脳内でリピートすることも簡単だ。
――とんとんからりん とんからりん
うらみ うらやみ うらめしみ
たていと よこいと はたおってみりゃあ
はじめの いとは どこじゃろな♪――
口遊み、『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)は昏い街を行く。
スピーカーボムで響かせる歌声。その声音は苦痛やダメージを与えることはないが、避難中の人々には『特異運命座標』の存在を知らしめ、そして音の反響でカタラァナは周辺の状況を判別せんとしていた。
「くそ、」
毒吐いて『特異運命座標』シラス(p3p004421)は走る。
輝かんばかりに、彼は光を纏い、逸る気持ちを抑えるように唇を噛み締める。本当ならば人々を救うために仲間達とは別行動に――全員が別々の行動をして――誘導や対応に当たりたい。そして、魔種を倒し尽くしたいという気持ちは大きいが一人では勝ち目がないのだとシラスは知っている。
魔種とは、どのような存在であれど絶対的な力を持ち、強敵であることは想像に易い。彼らは10人揃って戦う事で『倒せる』存在なのだと――此度の作戦で与えられたオーダーが二体の魔種とチェネレントラの絲で雁字搦めになった屍骸の討伐である時点で、それ以上を求めればより作戦遂行が難しい――分からされている。
「あいつら好き放題しやがって」
敵を集めるように、発光し死骸を集めるシラスの傍らでカッティングマントを翻した『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の踵がかつりと音鳴らす。
「何故、会う魔種会う魔種詰らない奴らばかりなのかと考えましたが……。
要は一色だけになってしまったモノなど直ぐに飽きざるを得ないからですね。全く、益体も無いのです」
ヘイゼルが詰まらなそうに唇を尖らせる。【RedMagic】で結わえた髪が長くゆらりと揺れる。
感情を探索し、『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が求めるのは『嫉妬』の念。そこに微かに交る『色欲』はチェネレントラという魔種が手繰る死骸の気配からであろうか。
(……感情が凄い、沢山――濁流みたいなの……)
より強い感情を探し求めるように。ココロの表情が僅かに歪む。
死骸をひきつけ自身らの許へと誘う事を目的とした動きは闇雲に探し回る事での消耗を防ぎ、そして、相手に見つけて貰うという時間短縮の術として上々だ。
嫉妬。七つの大罪に数えられ、煉獄で身を焦がす人間を人間足らしめる感情のひとつひとつ。
「妬ましいって嫉妬するのは勝手だ。
俺だって嫉妬するんで気持ちは良く分かるからなぁ〜」
頬を掻き、嫉妬の魔種について考えれど、『幸運と勇気』プラック・クラケーン(p3p006804)はその気持ちは否定できないのだと肩を竦める。
それは『考え』や『気持ち』という面でだ。
「……けどよぉ、だからって人様に迷惑かけて良いわけねぇだろうがボケェ!
元が良い奴でもよぉ、悲しいけど殴り倒すぜ、ゴラ」
地面を踏み締め、掌に力を込めたプラックは溢れ返る屍骸の中を掻く様に走る。
彼の意識にはチェネレントラと呼ばれる魔種の存在が――お色直しと息を潜める彼女の介入が――過る。顔を出すのかどうか……未知数ではあるが、ココロの感情探査には反応してはいない。
「シットだか何だか知らないケド、ねぇ。
生きるのシンドそう、ソンナ辛いならトットト死んだ方がイイんじゃナイ?」
「ワタシはさ、それでも、笑ってると思ってたんだ。
兄(あいつ)はお人よしだから――兄(あいつ)は、それでもワタシの片割れだから、さ」
吐き捨てるようにそう言って、白い死神を構えた『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)は肩を竦める。彼女に『いつもより、何所か真面目な空気を纏って』笑った『スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)はギィンと鈴の音よりも低く響く最杖・恩温棒を揺らした。
「『兄』であることは大いに理解する」
「うん、でも魔種だ」
「ああ、嫉妬に狂った魔種共が、自らの嫉妬を満たす為にことを起こすとは……。
ふん、貴様らの狂気なぞ常人では何人たりとも理解などできまいよ」
ヴィマラが嫉妬の魔種『ヴィマル』と兄妹であれど――
魔種であり、そして人々を脅かすのであれば『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)は容赦はしない。
「『狂人』って安易に決めつけてくれちゃ困んな?」
くつくつと、どこからか聞こえる笑い声がする。ヘイゼルが顔を上げ、警戒した様に『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が身構える。
(あの姿――ヤングシュガールじゃな……?)
屋根を飛行していた『生誕の刻天使』リジア(p3p002864) はヤングシュガールを相手取るヘイゼルを視線の端に映し、何かに気付いた様に息を飲んだ。
――魔種2体。アリアディアは何処だ……?
●
音の反響は周囲の物体の位置を理解し、シラスや一晃を支援するのに適している。
そして、感情は『生者』を探すことには優れるが、生憎、死者には何の感情も宿されていない為か索敵には間に合わない。
(……屍骸の位置を探すギフトもあるけれど、これだけ多いと雲隠れね……)
カタラァナは癒しを送りながら奇襲が来ぬようにと警戒する面々を見て小さく毒づいた。
布陣と言えば屍骸の群れを相手取るシラス、アリアディアとヴィマルを探す一晃。
抑え役として回るヘイゼルと、ペルーダの位置を気にする素振りを見せヘイゼルを支えるリジア。支援しながら感情を探査するココロにペルーダを狙うそぶりを見せるデイジーの姿。
回復役とし特化したカタラァナは、奇襲に備えて屍骸を漁るヴィマラと彼女の指示を待ち攻撃を仕掛けんとしたジェックの姿を探す様に周囲を見回した。
(全力でブッ飛ばしてやりてェが……まずは魔種2体ってか?)
プラックが両の脚に力を籠め、一気にペルーダへと肉薄する。放つ攻撃一打の重みに「ギャンッ」と鋭く声を上げたペルーダが怒りをその瞳に乗せて拗ねた様に唇を尖らせた。
「ちょっと!」
「で? アリアディアとヴィマルは?」
「はあ? お姫様の死体人形とスカベンジャー?
そっちばっか意識してても、アタシらは待ってはくれないんですわ!」
生きてるからね、とけらけら笑ったペルーダが癒しを送る。その言葉に小さく舌を打ったプラック。耳障りだと毒吐けど、饒舌に語る事を辞めぬ嫉妬の魔種たちは何処までも楽し気だ。
「妬ましいでしょー―?」
「あ"あ"? 嫉妬? んなもん持ってんのが当たり前だろうがよぉ。
羨ましいって思うのは当然だぜ、オイ」
呼び声に誘われぬように、強欲と傲慢、そして怠惰に憤怒。様々な罪を抱えし特異運命座標への呼びかけはプラックの声によって拒絶されて往く。
「嫉ましい、だから努力する。妬ましい、だから成長する。
行き過ぎる理屈も理由も理解は出来るが成果が出ねぇからって人様の足を引っ張る程、俺は馬鹿じゃねぇぞ、クソが」
噛み付く様にそう言って。ヤングシュガールが其方へ向かわんとしたその視線を独占するようにヘイゼルが手を伸ばす。
「他人が楽し気な事が妬ましいとは奇異なことを仰る方ですね……
人生なんて生きているだけで楽しいですのに」
「ああ?」
「まあ、劇的なことが起った方がより楽しいと云う意見にも頷けますが……
ですので感謝させて頂きましょう。刺激的な事件を起して頂いて有難う、と。
――そして楽しませて頂きましょう、貴方方の最期を!」
魔力の赤い糸を手繰る様に生命力を啜り、継続的な戦闘を可能とするヘイゼル。
彼女を支えるべく鎧を与えたココロは2つの嫉妬の気持ちをその眼前に捕らえ乍ら、ヘイゼルとリジアのダメージ蓄積を気にする素振りを見せた。
「皆で平凡に仲良く生きてるこの街にまでやってきて何がしたいの!」
「平凡が妬ましいんだよ」
畜生、と毒吐いた魔種。ダウナーな気配を感じさせながらも渦巻く泥の様な想いの中、リジアがヘイゼルと一度、後退する。
そのダメージをカタラァナが癒し、視線は少し離れた位置で懸命に死者を受け止めるシラスへと向けられていた。
(弄ぶ者だらけ……一人、いや、二人で死者を受け止めても何時まで続くかは解らない……)
10名に一人で殴られ続ければ、その体力も何処までも柄は解らない。そして、光に反応したという事は――
「アリアディア」
ヴィマラが小さく呟く。シラスへとアリアディアが向かった事をリジアはそこで判断した。
「オッケー」
に、と唇が釣りあがる。ジェックがゆっくりと銃を構え、その標的に狙うは――
「難儀なセイカクしてるね、カワイソウ――だったらアタシ達が、コロしてあげる」
打ち出された弾丸が、アリアディアを穿つ。その身がバウンドし、痛みを感じる事無く起き上がった様子に「うわ」と静かにペルーダが声を出した。
夢見る呼び声で屍骸を狙うカタラァナ。その位置取りを気遣わなければ範囲攻撃ではシラスや一晃をも巻き込みかねない。範囲内の全ての対象に蓄積した攻撃。無論、掃討するには適した動きだがシラスの「おっと」の声に「申し訳ない」とカタラァナが声を荒げる。
「いや? 手加減してちゃ意味ないだろ?
……今から俺らが楽しむ側だからな、手前らをブチ殺してよォ!」
アリアディアが光を帯びたシラスに向けて突進していく。その動き防ぐ様に前進し、一撃を放った一晃は「好機」と小さく呟いた。
「貴様らのような魔種を斬る機会に恵まれた。
依頼が最優先とはいえ、貴様らと刃を交えることができるのは幸運でしかあるまいよ! 墨染烏、黒星一晃。一筋の光と成りて、嫉妬に狂う者共を斬り捨てる!」
「先ずは嫉妬に狂った可哀想な女の子を切り捨てるってぇー」
からからと笑うペルーダは煽る様に誘っている。回復手である彼女が落ちたならばヤングシュガールの体力も持たないだろうが、どうかと視線を蠢かせればその癒しはアリアディアまでにも届いている様だ。
「あまり距離も開かずに『近くに居た』ってのはそう言う事かい?」
「頭いいって褒めてくれる?」
「バカ野郎、敵を褒めてホイホイご褒美やるわけ――ねぇだろ!」
アリアディアへと肉薄し、一撃を浴びせるプラックに「やぁん」とペルーダが笑う。
「随分軽口を叩くのでせうね?」
「性分なの。昏い場所でずっとうじうじしてたから――詰まんなくって、妬ましいもの」
囁くように、そう言った。その声音を聴きながらヘイゼルはリジアと交代しヤングシュガールの抑えへと回る。
魔種と相対し、後退しながらもその攻撃を受け止め続ける二人の体力は限界にも近いだろう。
(弄ぶ糸の先――チェネレントラはここにはいないのか……)
ココロが色欲を感じないように。恐らくはここに居ないのだとリジアは判断していた。HPを保つように、走るリジアが向かうはアリアディアの許。
雑魚と言えど初手で10体を集め続け、大部分を魔種の抑えに裂いていた事により体力の残量も減り続けるシラスががくりと膝をつく。数を減らしたその場所に元より気配を殺し、ぽん、と楽し気に躍るアリアディアが現れれば、その負担も大きくなるというものか。
リジアが支えに入り、アリアディアを集中的に狙う攻撃が降り注ぐ。抑えになる人数が少ないことから、持久戦を求められると回復の質量が物をいう。回復に手を裂き続ければそれだけ『時間がかかる』という事だ。
持久戦を取るか、短期決戦をとるか――ジリ貧になるのは確かな事だ。
回復手である魔種を狙いそのHPを減らすに至ったとしても、アリアディアが途中で参戦したならば、回復の機会を与えてしまうだけだ。
(タイミングよくアリアディアを投入して、ペルーダを生かす……。
成程ね? 一般人もそこに参戦してくるってなりゃ『最悪』だぜ?)
不殺を使用したプラックはシラスと共に呼声に堕ちた彼らの対応を求められていた。
「チェネレントラってかなり意地悪でしょ。
わざと分断しようとしたり、わざと魔種(わたし)達を先にあんたらに合わせたり、わざと――」
わざと――わたしを殺そうとしたり。
回復手であれば、その先に待ち受けてるのは死であるとわかるかのように。
だから、彼女は『あがく』のだと。
妬ましい、妬ましい妬ましい。市街地の一般人対応が不完全であるために呼声に誘われた者たちが『戦闘範囲』に姿を現すのも織り込み済みだという様に『意地悪』が続いている。
ヤングシュガールを受け止めるヘイゼルが唇を噛み締め、腕が捥げても動くアリアディアに弾丸放つジェックが顔を上げる。
「ッ――! 誰かイル!」
警戒するジェックにココロが嫉妬の念が近いと声を荒げた。
「ヴィマラ……」
「ワタシだね?」
「……に似てる――ヴィマル?」
軽口を交えたヴィマラがからからと笑う。ジェックはこの現場に向かう前にその会話をどこかで見たなと小さく笑みを溢し緊張に引金をアリアディアへと引いた。
ばん、と鈍い音たて倒れるアリアディア。その許へと近寄らんとするヴィマルを抑えるように走るプラックとリジア。後方よりその死骸に向けて近寄ったデイジーがにこりと笑う。
「妾の力はこの壺の聖水をかける事により死体を消滅させるのじゃ」
ちょん、とタコ足で触れて壺に水をなみなみ注いでいた彼女にペルーダが「はあー!?」と声を荒げる。
「ちょっと、スカベンジャー!?」
「うるせぇ……」
ぎゃんぎゃんと暴れるペルーダ。ヴィマルは仕掛けてはこないようで、彼は『遠方』より見下ろすだけだ。攻撃を届ける事が出来るジェックが狙いを定めれば、消えたアリアディアをだるそうに見つめていたヴィマラが肩を竦める。
「結構友達いるんじゃねーか、ヴィマル」
確かめるように笑ったヴィマラにヴィマルは「たった今消滅したみたいだけどな」と興味もなさそうに呟いた。
●
傷だらけになりながらも回復手であるペルーダの生存で継続銭湯を行えていたヤングシュガールは格好つけるように「敗因を教えてやろうか」と下衆の笑みを浮かべている。
「一応、聞いてやらんことはない」
その死骸を飲み込んだデイジーは警戒するようにじっとりと青年を見遣り、抑え役として戦い続けたことで消耗が激しいヘイゼルとリジアに視線を送る。
「『俺ら』のこと雑魚扱いしたことだろ」
くつくつと喉鳴らして笑ったヤングシュガールが苛立ったようデイジーの手にした彼女の壺を見遣り引いていく屍骸の波と共に海へ海へと戻ってゆく。
「……逃げないのカイ?」
「逃げるさ」
ジェックの言葉にヴィマルが小さく笑う。脅威のある敵として認識され、攻撃の優先順位をアリアディアの次に据えられていた彼は『ペルーダが死する危機』までは姿を現すことがなかった。
「遅い登場だネ」
「屍骸だけ『欲しい』んだ。元からお前らと戦う理由がねぇだろ……めんどくせぇ……」
肩を竦め、毒吐いて。面倒そうにそう言ったヴィマルに「お人好しなのは変わってないなあ」とヴィマラがころころと笑う。
「なぁ、ヴィマル」
対照的な表情に、似通った傷だらけのからだ。
「幸せかい? 幸せだぜ、ロックンロール――はは、そう笑ってると、思ってたんだ」
囂々と音立てた渦。吸い込まれそうな程に、大きな存在はあんぐりと口を開け、深い闇を作り出している。
「……ンなわけねェだろ」
肩を竦め、息を吐きだし目を伏せたヴィマルはヴィマラを見下ろしている。
唇が僅かに震え、引いていく屍骸の群れ達に埋もれる様に立っているスカベンジャーにカタラァナはぎり、と奥歯を噛み締めた。
「その感情は、本当にあなたのものなの?」
「……さぁな」
「あなたが感情から生まれたみたい。深い、泥みたいで――」
それが、魔種になるということなの? と彼女はただ、静かに聞いた。
これ以上の戦いは無用だろうと特異運命座標達を見遣ってからヴィマルは曖昧に、ヴィマラにだけわかる様な薄い笑みを浮かべる。
「……ヴィマル」
長い、長い旅をした。
死んだ皆と一緒の、傍から見れば一人ぼっちの放浪旅、
それでも世界は救いに満ちていて、わたしがいることを許してくれた。
それは、あんたも一緒でしょ? きっと、笑ってくれてると思ってた。
「魔種――」
カタラァナの呟きに、妹は兄の後ろ姿を両眼に映し込み掌に力を籠める。
なぁヴィマル。
それでもあんたは、私の知らない顔で、きっと笑ってるんでしょう?
そうじゃないなら――
「ヴィマル」
そうじゃ、ないなら―――救いがない。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。
魔種というのは一筋縄ではいかない強敵です。
それ故に、戦闘に関してしっかりとした立ち回りを求められる。それが魔種との戦闘、そしてHardです。
MVPは辛抱強く戦った貴方へ。
それでは、また、深い海の底にて。
GMコメント
夏です。閑話休題。お姫様はお色直しです。
●成功条件
・魔種『ヤングシュガール』『ペルーダ』の死亡及び『アリアディアの屍骸』の撃破
・『スカベンジャー』に魔種の死体を回収させない。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●状況
首都リッツパークの市街地。王宮からは少しばかり離れています。
複数の魔種(ヤングシュガール、ペルーダ、ヴィマル)、そしてチェネレントラの繰る死体(アリアディアとその他一般人の屍骸)が群れとして存在しています。
チェネレントラの姿が見えませんが――どこかで死体を操作しているようです。アリアディア(屍骸)は腕がもげようと動き回る為、特に強力な個体です。屍骸は一定ダメージを与えることで操作が途切れ無力かできます。
住居が存在するため視認性は悪く、一般人の避難は始まっていますが、不完全です。
魔種たちは特異運命座標が妬ましく、遊ぶために『わざと』呼び出しました。一般人は皆さんを呼び出すための駒。殺したり、呼声で堕としたり、魔種らしく遊びます。
●『スカベンジャー』ヴィマル
嫉妬に寄った死体拾いの青年です。その姿はとある特異運命座標にも酷似しており、ローレットに関係者としての情報が寄せられています。
ヌタウナギのディープシーであり、チェネレントラには惰性と共に嫉妬(アルバニア)に指示されて付き合っています。
アルバニアからのオーダーで死体拾いに現れました。危険を感じると真っ先に逃走します。
●ヤングシュガール
下半身が蛇に化した青年。襤褸を纏い、ずるずると地を這います。
楽し気な事が妬ましく、それ故にローレットに興味を持ちました。
近接攻撃に優れ、相方であるペルーダとの連携を得意としています。
●ペルーダ
上半身に様々な鱗を持ち変化で人間形態を保つ妙齢の女。
何事も楽しくてたまらないために飽きると言う事が出来る人々が妬ましいのです。
遠距離攻撃、回復に優れています。
●アリアディア(屍骸)
その姿を分裂させる影を使う魔種です。チェネレントラに操作されています。
死者となってもなお、『気配遮断』と呼ぶに相応しいほどに相手に存在を察知させません。非戦スキルなどでの対処が必要です。一定ダメージで体が『バラバラ』になり操作不能となります。
●屍骸たち
数10体程いる屍骸です。基本は生者の気配に反応します。無秩序、無尽蔵。簡単に倒せますが、簡単に動き出します。
普段は昏い海の底に存在しているがゆえに光に興味がある動きを見せます。
●呼び声に関して
当依頼に存在する魔種は『道化師』チェネレントラ以外は皆、嫉妬に属しています。
・楽し気なのが妬ましい
・幸せなのが妬ましい
・飽きられるのが妬ましい
・――『生きててくれて有難う、けど、お前がしあわせなのが妬ましい』
そんな彼らの呼び声は常に響きます。純種の皆さんはお気を付けを。
どうぞ、ご武運を。
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