PandoraPartyProject

シナリオ詳細

鍋パーティしようぜ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔術師マフユの野望
 幻想のとある村の、倉庫。
「どっこいしょー!」
 組み上げた薪の上に巨大な壺型の鍋を置く。ぐらりと倒れてきそうになったので、慌てて支えなおした。
「よーしよし。固定!」
 杖を振って壺型の鍋の位置を固定する。試しに強く押してみたが、びくともしない。
 自分の魔術の才能に心の中で拍手をして、短い梯子を鍋にたてかけた。片手に水瓶を持ち、慎重に上る。
 ざば、と鍋の中に水を入れた。これを四回、繰り返す。鍋の中の水位がちょうどよくなったところで、持ちこんだ食材をどんどん放りこんでいく。
「調理の必要なし。そう、全自動水炊き鍋ならね!」
 誰もいない倉庫に男の明るい声がむなしく響いた。
 ちょっと泣きそうになったが、これから賑やかになるのだと自らを鼓舞する。
 放浪の魔術師を自称する男、マフユがこの村に住み始めて早三か月。農業も家事も苦手で、実は魔術もあまり得意ではないマフユを、村人たちは呆れながらも置いてくれていた。
 ここで越冬してもいいと言ってくれた村人たちに、なにか恩返しをしたい。
 三日三晩考えて、ひねり出した結論がこの壺型の鍋、名づけて全自動水炊き鍋だ。
「水と食材を入れるだけでおいしい水炊きが出来上がる……。食材は適切な大きさにカットされ、味つけもいい感じにされる……。我ながらすさまじい発明、えげつない魔術だ……!」
 魔力をこめながら焼き上げた壺型の鍋の縁を撫でる。形はちょっといびつだが、水漏れしないならそれでいい。
「あとは火をつけてー待つだけー」
 梯子から降り、ふんふんふーん、と調子はずれの鼻歌を奏でながら、薪に火を放つ。

 ギョア。

「……ん?」
 自分しかいないはずの倉庫で、奇妙な声がした。
 それもたぶん、鍋の中から。
「……気のせいかな?」
 およそ二十人分の水炊きが作れる壺型の鍋。
 村人全員に水炊きを振舞うには、大きさも食材の量も足りないが、そこは入れ代わり立ち代わりということで、という思いで作ったマフユの最高傑作。
 まさかそれが失敗作なんて、そんなそんな。

「なぁ、騒がしくないか?」
 村に住み着いてしまった情けない魔術師に昼食を差し入れてやろうと、倉庫に向かっていた村人が首を傾ける。
「なーんか、音がするな?」
 彼の隣で二本の隙を持つ男も、首を傾けた。
「なにしてんだ、あのばか」
 半分笑いながら、最初の男が倉庫の窓を覗く。
 力もなくて体力もなくて挙句に不器用な魔術師は、なんとなく愛嬌があるため、村人たちにちょっとだけ好かれていた。
 越冬を許されるくらいに。食事と寝床を適当に与えられるくらいに。
「……なんだあれ?」
「ニンジンが……立ってる?」
「なにしてんだあいつ!?」
 だが、倉庫内の地獄絵図はさすがにちょっと許しがたかった。

●食材たちの反逆なのです。
「ニンジンとネギとシイタケと鶏肉と白菜が、倉庫で暴れているそうなのです! たぶん、鍋の材料なのです」
 言った『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)も、自らの発言の意味がよく分かっていないような顔をしていた。
「犯人らしき方は気絶しているそうなのです」
 えぇ……、と困惑が特異運命座標たちの顔に広がる。
 気持ちは分かるのです、とユリーカは複雑な表情で首を大きく縦に振った。
「とにかく! 村が食材に襲われたら大変なのです。食材を退治してほしいのです!」
「お、おー」
 なにをどうしてそうなったのかは不明だが、村が危うい、ということだけは伝わってくる。ユリーカの勢いにおされる形で、特異運命座標たちは片手を振り上げた。

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 鍋料理がおいしい季節になりました。

●目標
 食材たちの討伐。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 現場に到着するのは昼頃です。
 4人くらいで使えそうな長机が5卓、椅子が20脚置かれた広い倉庫です。食材が脱走できそうな、長方形の窓が左右の壁に2枚ずつあります。
 長机と椅子はいつでも食事会ができるように、きちんと並べられています。

 出入り口と反対側の壁際に、20人前の水炊きが作れそうな壺型の鍋が置かれています。火はついていません。
 また、食材たちが気絶したマフユを鍋に押しこもうとしています。

 家具は破壊しても構いませんが、食材を外に出すと村人に被害が及ぶ可能性があります。
 鍋を破壊しても食材たちの動きはとまりません。

●敵
 ニンジン、ネギ、シイタケ、丸ごと鶏、白菜です。
 それぞれ巨大化しており、凶暴になっています。
 倒すと元の大きさの食材(加熱済み)に戻ります。

『ニンジン』×4
 1メートルほどのニンジン。防御力は低いです。
 手足らしき部位がありますが、倒すと消えます。
・キャロットアタック(物・遠・単):ものすごい勢いで突っこんできます【飛】
・頭突き(物・至・単):頭(?)をぶつけてきます

『ネギ』×3
 1メートルほどのネギ。体力は低いです。
 手足らしき部位がありますが、倒すと消えます。
・ネギダンス(神・中・単):対象の体力を少し回復します
・大逃走:すごい勢いで逃げます

『シイタケ』×4
 1メートルほどのシイタケ。体力がありあまっています。
 手足らしき部位がありますが、倒すと消えます。
・頭突き(物・至・単):なぜか痛いです
・ネギを振る(物・近・列):手近なネギを掴んで振り回します【ネギに反動】
・大暴れ(物・近・範):なりふり構いません【反動】

『丸ごと鶏』×2
 2メートル近い若鶏丸ごと。体力が有り余っています。
 手足らしき部位がありますが、倒すと消えます。
・骨殴り(物・至・単):握り締めた骨で殴ってきます
・蹴撃(物・至・単):強く蹴ります

『白菜』×2
 1メートルほどの丸ごと白菜。防御力に優れています。
 手足らしき部位がありますが、倒すと消えます。
・かばう:基本行動です。近くにいる食材をかばいます。
・葉を投げる(物・遠・単):自分の一部をめくって投げてきます。斬撃並みの攻撃です。【反動】
・突撃(物・至・単):ぶつかってきます【飛】

●他
『魔術師マフユ』×1
 可もなく不可もない顔立ちの、二十代半ばの男性。
 倉庫にこもって全自動水炊き鍋を作っていたため、村人たちから「怪しい奴」として扱われている。友だちはいない。
 違うんです……みんなで鍋パーティしたいって思っただけなんです……。

 マフユは助けても助けなくても大丈夫です。
 しぶといので意識をとり戻して自力で復活を遂げるかもしれません。
 ただし、戦闘中はずっと気絶しています。
 よろしくお願いします!

  • 鍋パーティしようぜ!完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月14日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
Suvia=Westbury(p3p000114)
子連れ紅茶マイスター
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
パーシャ・トラフキン(p3p006384)
召剣士
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女

リプレイ

●下ごしらえ
 倉庫の扉を開き、特異運命座標たちが乗りこむ。元凶である魔術師マフユは、巨大化したニンジンにより頭から鍋に突っこまれかけていた。
 状況を素早く認識した食材たちが臨戦態勢に入る。ほとんど同時に、視線をさっと交わらせて道中で練った作戦の確認をしあった特異運命座標たちが、自らの役目を果たすために駆け出した。
「集める手間を考えていたけど、好都合だ」
 ナイフとフォークを模した片手槍を左右の手に持ち、『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は凄惨に笑む。自身に暗黒への贈り物を付与。
 二体の丸ごと鶏の前で急停止し、悪魔は高らかに声を放つ。
「おいで、私と宴を楽しもうじゃないか!」
 凛とした声音には、しかし絶望的なまでの残虐さと悪意が含まれている。対象の獣性を呼び覚ます狂宴への招待に、丸ごと鶏たちは抗えなかった。
 口の端を吊り上げて嗤うマルベートは、誘いに乗った二体を倉庫の隅の方へ導いていく。長机と椅子を破壊せずにすみそうで、かつ他の面々の戦闘の範囲に入らない位置を探した。
「野菜の下ごしらえは任せたよ」
 気負う様子もなく、マルベートはごく自然体に凶器を手に持ち、自身の唇をぺろりと舐めた。

 小屋と家具を守るため、『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)は保護結界を張る。「あとで鍋パーティだからな」
 倉庫内の状況を見れば、それこそがマフユの望みだったことは分かった。ならば、叶えてやりたい。
 左右で戦闘やその用意が行われているのを横目に、ポテトは走りつつ自らに祝福を施す。目下の目的はすでに上半身が鍋の中に消えているマフユの保護だ。
「こちらに渡してもらおう」
 立ち塞がるシイタケにマジックフラワー。鮮やかな火花が巨大なシイタケを燃やす。

 ここにくる前に、綺麗な水で体を洗ってきた。
 覚悟は決めている。これはきっと、自分にしかできないことだ。
 空中を泳ぐように『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は移動する。集中力を高め、動作の精度を際立たせていく。
 そして、壺型の鍋の前で、全力で隙だらけになった。
「怖くなんて、ありませんの」
 つるんとしたゼラチン質のしっぽを優雅に振り、彼女は自ら鍋の中に入る。火が消えているとはいえ、湯気を上らせる鍋の中は物凄く熱かったが、なんでもない顔でぱしゃりと浮上した。
 大丈夫だ。おさしみボディは火を通しても過熱されないし、もういたくないくすりだって効いている。
「このとおり……、お料理されるのも、食べてもらうのも、怖くありませんの」
 食材適性を持つ者として、彼女は食材たちと精神で語りあう。
 どこが目なのかも分からないが、呆然としたように食材たちは彼女を見ていた。
 その隙に、シイタケの脇を抜けたポテトがマフユに手を伸ばす。

 マフユに向かって駆けて行く仲間たちの背を見送る形で、『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)は倉庫の中央部、最も目立つところで声を張る。
「かかってこい! よーく煮こんで、食べてやる!」
 向かってきたネギ二体とシイタケ一体と白菜一体に武器を向けていると、ニンジンが一体、突っこんでくるのが見えた。
「うわっとぉ!」
 間一髪のところで回避する。
「まずはネギから!」
「ギョア!」
「この……! 邪魔だよ!」
 白菜がネギをかばう。チャロロが苦々しく口許をゆがめているうちに、シイタケがネギを掴んだ。
「ギョアー」
 ちょっと喜んでいるようにも聞こえるネギの悲鳴。シイタケがネギを振り回す。
「いたっ、痛いけど……っ」 
 鴨がネギを背負ってくる、なんてことわざがある。
 ちょこまかと動き回りそうなネギは、シイタケに捕まれている今、逃げられない。挙句にシイタケが振り回すたびに少しずつ損傷している気がする。
 白菜はブロッキングバッシュを食らって痺れていた。
「シイタケもネギも、まとめていただきだ!」

「貴重な食材に攻撃なんて、もったいない限りですが」
 憂えるように片手を頬に添え、『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)は魔力増幅装置をつけた手を白菜に向ける。
 倉庫中央部の戦いに参戦しようとしていた食材に、ぞろりと魔性の茨が絡みついた。
「ギョア!」
「そちらの邪魔はさせませんの」
 討伐する順番は事前に決めている。白菜の優先度は低かったが、あまりチャロロに背負わせるわけにはいかない。
「マフユさんを助けるまで、そこでおとなしくしていてくださいね?」
 回復の補助役も務めるため、SuviaはSPDの用意もする。
「倒したあとはしっかり料理してあげますから、安心して成仏してくださいませ」
 優雅な口調と艶美な微笑みを、裸足の派遣メイドは身をよじる白菜に向けた。

 倉庫の角を陣取った『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)は、愛用の狙撃中、白鷲に弾を装填する。ジャキッ、というこの音が心地よい。
「食材は食材らしく、鍋の中に入りましょうね?」
 にこりと笑みながら狙うのは、チャロロに向かって突進したばかりのニンジンだ。方向を転換しようとしているが、遅い。
「減速せずに方向転換は、さすがに無理でしょう?」
 一瞬でもとまるなら。
 十分にあてられる。
 放たれた弾丸がニンジンに命中する。よろめいたところにチャロロの追撃が入った。マフユの救助がもうすぐ終わることと、マルベートの様子をちらりと確認し、さらに発射。
「では、少し移動しましょうか」
 広いとはいえ、密室の中。
 まだほとんどの食材が健在であるなら、あの手が使える。

「さて、どういうことかしらね」
 呪い師の家系に生まれた『特異運命座標』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は、気になるけどひとまずいいわ、と疑問を頭の片隅に置いて長机に手をつく。
「よい、しょっ!」
 保護結界は意図的な破壊を範囲限定で防ぐが、逆に言えば意図的な破壊には効果が望めない。
 ゆえに窓を使って倉庫内から出られないようにするため、彼女はこうして椅子と長机を使って簡易的な防壁を築いていた。
「って言っても、重労働ね、これ!」
 塞ぐべき窓は四枚。机を立て椅子を重ね、ガラスができるだけ見えないようにしていく。窓から差しこんでいた真昼の日差しが遠ざかり、倉庫内は心持ち薄暗くなった。
 とはいえ、天井に光源があるので大した問題ではない。
「ぐ……っ」
 二枚目の窓をどうにか封じ、反対側の壁に行こうとしたところで、射出されたように飛んできたニンジンが脇腹に直撃した。
 せっかく組み上げた椅子に背中から直撃しそうになったアルメリアだったが、連れてきた野ロリババアのシロネが間に入ってくれたことで大事には至らない。
「いったいわね!」
「ギョアッ!」
 杖から放った衝術でニンジンを吹き飛ばす。痛む脇腹を抑え、軽くむせながら周囲を見回した。
 ヒーラーであるアルメリアは、前衛に向かない。

「召剣、ウルサ・マヨル!」
 倉庫の扉を閉めた『召剣士』パーシャ・トラフキン(p3p006384)が蒼星剣を呼び出す。美しい剣は少女を守るように、その傍らに浮遊していた。
「まずはネギでしたね」
 特異運命座標たちは散開している。パーシャはマルベートが引きつけた二体の丸ごと鳥について行こうとしていたネギに、攻撃をしかけた。
「行かせません……!」
 少女が放った無数の糸が、ネギを絡めとる。拘束し切り裂く不可視の糸に、ネギが悲鳴を上げた。
「ギョア!」
「もうしばらくそのままで。ええ、そのくらいの距離なら、強引にあてられますよ?」
 背後から声。鶫のクリティカルスナイプがネギを撃ち抜く。さらにSuviaの茨がネギを絡めとった。
「では、とどめをどうぞ」
「はい!」
 ウルサ・マヨルがネギを真っ二つに切る。元の大きさに戻ったネギを、走ってきた鶫が受けとめた。
「セーフですね。ではキャッチアンドリリースで」
 マルベートにSPDを投げるSuviaと、鍋に視線を向ける鶫。パーシャははっとして後ろを見る。
「ウルサ・マヨル!」
 叫ぶと同時に駆け出した。

 再び突進してこようとしたニンジンが、背後から刺される。剣が引き抜かれたと思ったら、今度は狙撃されて、さらに糸で絡めとられたようになって、もとの大きさに戻った。
 床に落ちかけたニンジンを、アルメリアは反射的に腕を伸ばして受けとめる。
「大丈夫ですか!?」
「なんとかね」
 駆け寄ってきたパーシャに応じ、自身にライトヒールを行ったものの、息をつく間はない。
「パーシャ、受けとってくれ!」
「はいっ!?」
 上半身が湯で濡れたマフユを引きずり出したポテトの声。彼女は妖精の力を借り、元凶である間抜けな魔術師を投げた。
「わ、わ!?」
 慌ててパーシャが浮遊する剣の柄でマフユの服を引っ掻け、床に叩きつけられる前に救助する。
「それ、預かるわ」
「お願いします」
 忙しないわね、と胸の奥でため息をつき、アルメリアはマフユを受けとった。さすがに重いので、すぐに野ロリババア、シロネの背にかけておく。
 入手したニンジンは、もう一体の野ロリババア、チシャの背に置いた。
「食べないでね」
 老婆の声で小さく鳴かれた。

 ネギを掴んだシイタケ、ついでに丸ごと鶏を一体。射程に収めて小さく深呼吸。
「バァン」
 白鷺は静謐なる狙撃銃だ。そんな音は出さないので、自分で言ってみる。
 長大な射程と貫通力を併せ持つ魔弾が放たれ、対象をことごとく貫き走る。ハイロングピアサー。食らった食材たちが凍結した。
 特に、チャロロの善戦もあって瀕死だったネギが元の大きさに戻る。シイタケがネギを投げ捨てた。
「はいキャーッチ」
 疾走した鶫がそれを受けとめ、きゅっと床を鳴らして急停止。鍋に向き直り、
「アンドリリース!」
 ばちゃん、とお湯が張られている鍋に投入する。

 これくらいの覚悟はしていたとも、とマルベートは残虐に笑う。
 そもそも、彼女が目指したのは持久戦だ。すべての野菜が無力化するまで、丸ごと鶏を引きつける。できるだけ相手を損耗させつつ、ここから動かさない。
 戦いの邪魔をさせない。私の食事になってもらう。
「はは……っ」
 骨で強かに殴られる。それ、誰の骨なの? と笑いながら問いかけたのはいつだったか。
 膝をつきながらもマルベートは得物を振るう。食事のためのナイフとフォークを。
「大丈夫。私は君たちを愛しているからね」
 丸ごと鶏の蹴撃。頭が揺れて意識が一瞬だけ遠のいた。
「マルベートさん!」
「ふふ……、大丈夫、殺戮の遊戯はまだ、これからだ」
 SuviaのSDPとアルメリアのライトヒールが、傷を癒していく。
 口の端の血を拭い、悪魔は陶然と唇を三日月の形にゆがめた。

 瀕死の野菜をノリアは抱き締め、そのまま鍋の中に入る。
「自分から食材扱いされに行くなんて、豪快な囮よね……」
 いっそ感心しながら、アルメリアは湯の中から出てきたノリアにライトヒールをかけた。
 アルメリアがあまり標的にされないよう、戦闘手段も持つSuviaがさり気なく前に立っている。
「すごい根性ですわ……」
「怖くありませんの怖くありませんの怖くありませんの……!」
 心なしかノリアの目から精彩が欠け始めていた。

「はぁ……っ、は……っ!」
 残る野菜を数える。シイタケ一体、白菜一体。ニンジンも一体。
 ノリアが沈めている野菜たちは、そのまま湯の中で食材に戻るだろう。袋叩きにする予定の丸ごと鶏は、マルベートが引き受けてくれている。
「これで、終わらせる!」
 全身の力を右手に集中。放つのは、爆裂の一撃。
「焦がしたらごめんね!」
「ギョア!」
 バーンアウトにより野菜たちが燃えた。白菜が元の大きさに戻る。
「いい火力だ」
「あとは鶏さんだけですね」
 ポテトの毒撃がニンジンを、パーシャのマリオネットダンスがシイタケをそれぞれ仕留めた。

 マルベートを襲おうとしていた丸ごと鶏の一体に茨が絡みつき、もう一体が不可視の糸で締め上げられる。
 さらに弾丸と毒が放たれた。アルメリアとSuviaの治癒が行き渡っていく。
 敵が増えたことを察した二体の丸ごと鶏の視線が、空中浮遊するおさしみボディに釘づけになった。
「こっちだよ!」
 反撃の手を緩めた敵のうち、一体にチャロロのブロッキングバッシュが決まる。
 消耗していた丸ごと鶏の一体が、ついに元の大きさに戻った。
「さぁ、いよいよ大詰めだ」
 自らの負傷など顧みず、マルベートは残虐に笑う。

●鍋パ、しようぜ!
「う、うぅ……」
「起きたわね」
 マフユにライトヒールをかけていたアルメリアが小さく息をつく。青年の目蓋がゆるゆると持ち上がった。
「ここは……、君たちは……」
「ローレットの者だ」
「なにがどうなってこうなったのか、説明してもらえるかな?」
 ポテトとチャロロの返答に、マフユは状況を理解してうなだれた。
「村のみんなと水炊きを食べたくて……。鍋から作ったんだけど、それがよくなかったのか、食材たちが暴れ始めて」
「普通に作れなかったの?」
「普通にちょっと便利な大鍋を作って、普通に食材を入れたつもりだったんです」
 ますます小さくなるマフユを見て、アルメリアは自身の額に指を添える。マフユは無自覚の内に、食材を巨大かつ狂暴化させる魔術を発動させていたらしい。
「あの、鍋パーティ、しませんか?」
 小さく挙手したパーシャは、目を見開くマフユに優しい笑みを向けた。
「村の方々も招いて。できれば、私たちも参加させてほしいです」
 少女はすぐ近くを浮遊する、エンジェルいわしのウォランスの頭を撫でる。参加を許されるなら、この可愛らしいペットにもたくさん食べさせてあげたかった。
「そうだな。村の者たちにはマフユに悪気はなかったと伝えよう」
「え、名前」
「ローレットに救援を要請したのは、村の方々でしたの。マフユさんが大変だと、慌てていらしたのですよ」
 内緒話をするように伝えたノリアは、ちらりと窓に目を向ける。マフユもつられてそちらを見た。
 窓を塞ぐ椅子や机の隙間から、村の者たちが倉庫内をうかがっている。マフユと目があった者たちは、仕方なさそうに肩をすくめ、後ろの村人たちになにかを言っていた。
「みんな、マフユさんが無事なことに安心してるんだ」
「う……っ」
 ぽん、とマフユの右肩をチャロロが叩く。マフユの目に涙がにじんだ。
「泣いてる場合じゃないぞ。用意をしなくては。鍋パーティ、したかったんだろう?」
「食材、ここにある分だけじゃ足りないよね。私も調理を手伝うから、持ってくるといいよ。特に鶏の処理は慣れてるから、任せてもらえると嬉しいな」
 ポテトが励まし、ナイフとフォークを構えたマルベートが八重歯を覗かせて笑む。鶫はテーブルに置いてあった白菜を手にとった。
「私も手伝います。せっかくですから、この食材も洗って使いましょう。……マフユさん、いい機会です。村人との交流をしっかりと初めてみては?」
 倉庫に引きこもり、村の人々のためになにかしたいと思いながらも、肝心な村人との交流をおろそかにしていた魔術師の胸に、彼女の言葉は深く刺さった。
「わたしも手伝いますの!」
「オイラも。だから今度は魔術に頼らずに、ちゃんとした手順で作ろうよ。想定外の事故だったって、きちんと説明したら、村の人たちも分かってくれるよ」
「小屋の中も片づけないとな」
「……まぁ、私も手伝うわよ。乗りかかった船だし」
 ひとまず椅子と長机の位置を整えるため、立ち上がろうとしたアルメリアは、鼻先をくすぐったいい香りに首をめぐらせる。
 どこからとり出したのか、お茶の用意を整えたSuviaがすぐ後ろで微笑んでいた。
「話に入ってこないと思ったら……」
「ふふ、みなさんお疲れさまでしたー。マフユさんも大変でしたね。ということで、お茶を一杯飲んで、疲れを癒してからお鍋の用意をしませんか?」
 ささっとSuviaがティーカップを配って回る。立ち上る湯気は、思わずほっとしてしまうほどいい香りを含んでいた。
「もちろんわたしも手伝います。わたしはお鍋にあうお茶を用意させていただきますね。緑茶は渋くなりますから、ほうじ茶あたりがいいかもしれません」
「おいしい鍋においしいお茶かぁ。いいね」
「このお茶もおいしいな」
 目元を和ませるチャロロに、ポテトが顎を引く。
「騒動を収めてもらっただけじゃなく、手伝いまで……」
「気にすることはないさ」
 軽い口調で言ったマルベートに、パーシャが同意する。
「そうですよ。みんなでおいしい水炊きを作りましょう」
 しばらくうつむいていたマフユは、服の袖で目元を乱暴に拭い、勢いよく立ち上がった。
「みなさん、水炊きの用意を手伝ってください! あと、たくさん食べて行ってください!」
「もちろんです」
「お任せくださいですの!」
 笑みを深めた鶫とノリアが大きく首を上下に振る。
「素晴らしい場を設けるきっかけをくれたマフユに、乾杯」
 ティーカップを掲げたマルベートがお茶を飲み干した。チャロロは跳ねるように立ち上がる。
「よーし、さっそく用意にとりかかろう!」
「はい、頑張りましょう」
 エンジェルイワシを従えるパーシャは、気合を入れるようにこぶしを握った。
「お水は……、外ですね」
 食材を持てるだけ持った鶫は、倉庫の出入り口に向かう。
「鍋、あれをそのまま使っても大丈夫なの?」
「少し調べてみるか」
 ポテトは訝しそうなアルメリアとともに、壺型の鍋の様子を見に行く。
「素敵なお鍋に相応しい、素敵なお茶をご用意します」
 優雅な笑みを浮かべたSuviaは、使用ずみのカップを素早く回収して回った。
 特異運命座標たちがそれぞれ動き始める。食材を洗いに行った鶫の手伝いをしようとしたノリアは、視線を感じて首を傾けた。
 彼女のゼラチン質のしっぽを見つめていたマフユは、真剣な表情で一言。
「おいしそう」
 さぁっとノリアの顔から血の気が引いた。
「たとえ乞われたとしても、もう、食材には、なりませんの!」
「あ、違うんだよごめん! でも美味しそうだなって思います!」
 叫んで空中を疾走していったノリアにマフユが手を伸ばす。鶫が開いた倉庫の扉から中を覗きこんでいた村人たちが、穏やかな表情でそれを見ていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。

 このあと村人たちも入れ代わり立ち代わり混ざりつつ、楽しい鍋パーティを開催していただきました。
 せっかく作ったのだから使いたいとマフユが強く主張したため、この鍋を使用しましたが、特に問題は起こらなかったようです。
 もっとも、次いつ投入した食材の暴走が起こるか分かりませんので、鍋パーティのあとでマフユが泣く泣く処分したようですが。
 おっちょこちょいな魔術師マフユはそのあとも、村で暮らしています。今は農業を覚えつつ、体力作りに励んでいるそうです。
 もちろん、魔術も研鑽中なのだとか。

 後日談はここまでにして。
 ご参加いただきありがとうございました!

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