PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ジーニアス・ゲイム>ならば、愛し子を灼かれた恨みを

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「うおおおおおおぉぉぉぉっ!!」
 戦乱の最中、男の叫声がその場を満たす。
 二百に満ちるか否かの数が混じり合う戦場に響き渡るそれは、故に男の有する激情がどれだけのものかを示す一つの物差しにもなっていた。
「幻想共……許さねえぜ。
 手前らの所為で、ただでさえ貧しいウチの食糧が燃え尽きちまった!」
 ──ゼシュテル鉄帝国の領土、スチールグラードを近郊に置く穀物庫が何者かによって襲撃されたことは記憶に新しい。
 加え、現場には幻想のものと見られる痕跡が多数存在していた。あくまで今回の件の表層だけを見るならば、今現在行われている戦闘……鉄帝国側から幻想への侵略行為は報復として理に適っていると言える。
 が、対する幻想側の兵士は、これに対して(凡そ聞き入れられないだろうと理解はしていても)反論の声を上げた。
「誤解だ! 少なくとも現在、我が国が鉄帝国に侵攻を行うお触れは出ていない!」
 ……要は、『そう言うこと』である。
 此度の穀物庫の襲撃に対して、幻想側は──少なくとも北部戦線に駐屯する兵士達には──何の心当たりもなかったのだ。
 無論、元々が敵対する国同士である。例えどう声を荒げたところで双方があっさり刃を収めるような都合の良い展開にはなりはしない。
 それでも、謂われない報復から成る相手の戦意をこれで削ぐことが出来ればと言う計算はあった。が。
「黙りやがれ! 多くのガキ共の命を燃やしやがって!」
「は!?」
「ジェレミーの天高く伸びる稲穂も、ベスの日に照り返した美しい実も無くなっちまった! クラッグなんて病弱な身体をおして、俺達のために必死で細い苗に実を付けてくれたのに!」
 ……激情で言うことを聞かない、というのはまだ理解できた。
 が、その怒りの方向性が若干斜め上に突き抜けているなどと、流石に幻想側の兵士にも予想できなかっただろう。
「野郎共、一人残らずぶっ飛ばせ!
 焼かれた穀物庫の稲穂の数だけ、奴らを倒せ! じゃなきゃ容赦しねえぞ!」
 実はリーダー格であったらしい男の命令に続いて、鬨の声が上がると共に勢いづいた鉄帝国兵。
 若干常軌を逸した熱気に圧されたこともあって、幻想側の兵達は一時撤退を余儀なくされたのである。


「……ま、そう言うことだ。
『何とも間の悪いタイミング』で、遂に鉄帝国側がこっちに侵攻を開始しちまったってことだな」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)の言葉に、対する特異運命座標達は苦い表情を浮かべた。
 ラサ傭兵連合から幻想へと勢力を復活させた『盗賊王』キング・スコルピオによって、現在、首都メフ・メティートは彼による国盗りの憂き目に遭っている。
 陥落させた幻想南部を橋頭堡に、首都への侵攻を計る『新生・砂蠍』の対策に十全を期しておきたかった現在に於いて──先ほどショウが言った厄介事が起きてしまった、と言うわけだ。
「……依頼内容は、侵攻してきた鉄帝国の連中を迎撃することか?」
「お前達に限って言えばYES、ローレット全体として言えばNOだ。
 何故と言って今回、鉄帝国側も幻想への侵攻に助力するよう依頼が出されたからな」
「……!!」
 ギルド『ローレット』の拠点は幻想に位置するため、所属する者にとっては誤解を受けるかも知れないが、そもそもローレットは各国に対して中立な立場を貫いている。
 存続の要であるギルド条約に抵触する事項である以上、鉄帝国側の要請に否やと言えるはずもない。所属する特異運命座標同士が直接的に戦うことが無いようにとは言え、彼らは両国からの依頼を同時にこなすことを余儀なくされているのだ。
「複雑な状況ではあるが、お前達がするべきことは常にシンプルだ。
『受けた依頼を成功させる』。何時もと変わりはしないさ」
 苦笑した特異運命座標に、ショウは改めて今回の依頼の説明に移る。
「敵は鉄帝国から侵攻してきた中隊だ。その数は歩兵が約200名。
 対する味方、幻想側もこれに等しい駐屯兵で迎撃しているらしいが、戦況は幻想側に不利な状態らしい」
「何故だ?」
 問うた特異運命座標に、今度はショウの側が苦笑を浮かべた。
「理由は二つ。一つめは隊長格が味方全体を鼓舞する特殊な能力を有しているらしい。
 で、もう一つだが……復讐心、かな」
「……うん?」
 歯切れの悪い解答に特異運命座標達が首を傾げると、対するショウはお手上げのポーズで説明を続ける。
「先ほど敵を『兵士』とは言ったが、この辺り正確には違ってな。
 彼らは元々、兵站となる家畜や農産物を自分達の手で育てている農家が召集された、所謂民兵なんだ」
 はい? と疑問を浮かべる特異運命座標。
 当然のことではあるが、職業軍人である国軍兵と短期的な軍事訓練しか受けていない民兵ではその練度に大きな差がある。
 それがほぼ同数である幻想兵に対して有利を取っているのは、ちょっと納得のいかない展開と言える。
「だから、それを覆す理由が復讐心だ。
 今回の侵攻の発端である穀物庫の襲撃、元々過酷な気候の鉄帝国にとっては大きな痛手だろうが、それに何よりも衝撃を受けている人種は誰か、って話さ」
「……。あー」
 痩せた土地と、植苗に優しくない気候。
 育てるには難しい国で、それでも必死に作物を育て、収穫した農家達からすれば、確かに今回起きた事件は怒り心頭とも言えるだろうが。
「その怒りから成る勢いも時間が過ぎれば収まるだろうが、今現在に於いてはその『時間』こそが何よりも重要なんだ。
 今回、お前達には其処を意地でも攻略して貰うぜ」
 ショウ曰く、敵方の隊長格である鉄騎種の男は植物全般に関する造詣が深く、戦闘中は希少な植物から作り上げた薬品を拡散させることで超広範囲を賦活する特殊なスキルを有しているらしい。
 逆を言えば、其処を突けば敵の勢いは削がれる。そうすれば現在は劣勢の幻想兵達も、凡そ互角以上の戦いが出来るであろうとの目算だ。
「その、肝心の隊長格の男の位置は?」
「敵軍側の最後方。一応言っておくが、背後から襲撃は出来ないぜ。
 相手も友軍と敵軍の配置を考慮しないほど、頭に血が上ってはいないからな」
 じゃあどうすれば、と困惑した特異運命座標達に、ショウはにやりと笑って、いっそ清々しく言ったものだ。
「簡単だ。突っ切ればいい。敵軍のド真ん中をな」
 提案されたプランはこうだ。
 事前に幻想兵達が用意した大型の輜重車に特異運命座標達が乗って、戦闘開始から一定時間の後、全軍が交戦状態となったタイミングを見計らって飛び出す。
 意図に気づいた鉄帝国兵達が輜重車を破壊しないよう行動を取りつつ、隊長格の男の元に辿り着き次第彼と交戦、撃破すればいいと言うことだ。
「一応、吶喊するお前達にも幾らかの護衛はつくが、あまり期待しない方が良い。
 交戦中でも200もの敵軍の最中を駆け抜ける以上、相当な攻撃を喰らうことは覚悟した方が良いだろうな」
 難しい表情を浮かべた特異運命座標達に、ショウは小さく笑った後、一つ呟いてその場を後にした。
「消えるには惜しいと思う程度には、俺もこの国に愛着がある。
 頼むぜ、イレギュラー。どうかこの国を守ってやってくれ」

GMコメント

 GMの田辺です。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
・戦闘開始から一定時間以内に於ける『中隊長』の撃破

●場所
 幻想国領の北部戦線です。時間帯は昼。
 柵を立てた陣営を背後に置き、シナリオ開始時に於いては既に歩兵同士による交戦が開始されております。
 参加者の皆さんはこの戦場を駆け抜けると言う、若干特殊な戦闘を行っていただきます。

●レギュレーション
・シナリオ開始時、皆さんは既に幻想兵士が御者を務める輜重車に乗っており、ターン開始時に自動的に『中隊長』へ向けて一定距離を移動することとなります(行動回数等は消費しません)。
・輜重車の範囲は端から端でギリギリ『範』攻撃の対象が重ならない程度です。
・輜重車、御者は共有したHPを持ち、且つ防御・抵抗力を有しておりません。これらに与えられたダメージは回復スキル等で治すことは出来ません。(『かばう』ことは可能です)
・輜重車での移動中に敵は配置されませんが、代わりに各ターン開始時、『輜重車に鉄帝国兵が行う攻撃回数』をランダムで決定します。この回数はターン経過と共に大幅な補正が入り、尚かつ中確率で『範』、低確率で『域』の攻撃が行われます。
・これに対し、PC側はターン中に攻撃を行うことで「算出された最終ダメージ数」に比例し、そのターン中鉄帝国兵が行う攻撃回数を減少させることが可能です。
・攻撃に因って与えられるダメージはクリーンヒット相当。『範』『域』『状態異常』などの攻撃は最終ダメージに更に補正が入ります。
・上記『中隊長』との交戦可能距離(20m以内)に至った場合、参加者の皆さんは自動的に輜重車を下車、半径10m以内に於いて各PCを自由に配置することが出来ます。
・『中隊長』との交戦に入る前に輜重車が破壊された場合、シナリオは自動的に失敗となります。

●敵
『中隊長』
 ゼシュテル鉄帝国民兵兵団の隊長格。元は農家の出で、植物に対する造詣と愛情が極めて深い(特に後者)のが特徴。
 種族は鉄騎種。超広範囲への回復、援護を得手としており、そのスキル傾向もあってか能力値は非常に防御・抵抗に特化されています。

『中隊兵』
 ゼシュテル鉄帝国民兵兵団の一般兵。数は8名。
 上記『中隊長』の護衛を主な役目としており、この交戦状態に於いてもリソースは極めて潤沢に保たれております。
 内訳は前衛が6名、後衛が2名。シナリオ開始時においての戦況は鉄帝国側に有利なため、彼らは無理に打倒するより、あくまでも時間稼ぎに徹するようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●戦果につきまして
 このシナリオは成功失敗の他に『戦果』を数字判定します。
 これは幻想側と鉄帝側の有利にイレギュラーズがどれだけ貢献したかを示す数値であり、各GMが判定を行います。
 全ての対応シナリオで積み上げられた数字によって北部戦線の最終戦闘結果に影響が出る場合があります。



 それでは、参加をお待ちしております。

  • <ジーニアス・ゲイム>ならば、愛し子を灼かれた恨みを完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月15日 22時45分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
ムスティおじーちゃん
天之空・ミーナ(p3p005003)
ディザスター
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
鴉羽・九鬼(p3p006158)
Life is fragile

リプレイ


 剣戟は止まない。
 謂われ無き罪を糾弾する鉄帝の兵士と、その常軌を逸した攻勢に押され始めている幻想の兵士は、この戦いの行く末へと着実に向かいつつあった。
「やれやれ……心優しい農夫がキレるとこうなるか……」
 呆れと感嘆を半々に。『望の剣士』天之空・ミーナ(p3p005003)が呟いた一意見に追従するように、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)も然りと頷いた。
「まったく、食べ物の恨みは恐ろしいといいますが、これは度を越している」
 無論、その情動こそが鉄帝の鉄帝足る所以と言えようが。特異運命座標達にとって『それ』は看過せざる状況ではあった。
「灼かれた恨み、なんて考える時間をさ、新しい喜びのために他の事をするって考えはないの? 彼らは」
「聖人なら赦すでしょう。戦う者ならその負の連鎖の不毛を知っていたでしょう。
 けれど、彼らはただの農夫で、故に自らを律する術を、復讐の果ての未来を知らない」
 書物、『知識の砦』を片手に、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が嘆息混じりの『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)へと解答した。
「彼らの怒りはもっともよ。だからこそ、その火の粉は払うわ」
「ま、『僕達』としては別にどっちでも良いけど」
 苦笑を浮かべたランドウェラに、いかにもとばかりに頷くのは『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)。
『立場、思想、戦場に立つ理由など個々によって違おうが、我らが今この場に立っているのはあくまで依頼のため』
「やることは何ら変わらない。準備は良いかしら?」
 言葉の後半、スペルヴィアが問うたのは、特異運命座標達が今現在乗っている輜重車の御者である。
「はい。尤も、この修羅場です。自分一人では到底敵将の元までたどり着けません。
 力不足をお詫びしますが、どうか道中の援護をお願いいたします」
「勿論です! ちょっと……いえ少しばかり重責が気に掛からなくもないですが……!」
 自身の相棒である霊刀【因業断】を握る両手が若干震えたまま、『Life is fragile』鴉羽・九鬼(p3p006158)は語気だけでもハッキリと御者の兵士に返した。
(失った怒りも、復讐心も。その全てを利用している外道が居る。
 その思惑通り、間違った相手と刃を交え続けるのはあんまりではないですか……!)
 止めてみせる。口の中でそれを呟く九鬼と同じく、『世界の広さを識る者』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)もまた、眇めた瞳で鉄帝の兵士達を見て、僅か、臍を噛んだ。
(事が既に始まってしまった以上、どちらかの側に立つことが可及的速やかに愚行を終わらせるための最適解であるかも知っている。しかし……)
 ――しかし、それにしてもだよ。歯がゆいものだね。
 そもそも、この戦い自体の無益を知る男は、頭を振って雑念を、慚愧の念を、振り払う。
「……僕達に出来ることは、何時だって依頼の範疇に限られる。
 それでも、だから、その『可能な限り』、彼らの憎しみを払う手伝いをしてあげたい」
 突如、戦場の中心部で青の光が花火のように打ち上がった。
 幻想の兵士による合図である。敵味方の後衛まで含めた混戦状態を指し示すそれは、即ち特異運命座標達が動き始める準備が整ったということ。
 御者が手綱を引き、応えた軍馬が嘶きと共に戦場の直中へと突進していく中、『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は。
「大切なものが奪われた気持ちはよくわかる、きっと君も生きてる限り憎み続けるよね。
 ……だから、その命の炎ごと復讐の炎を消して、楽にしてあげるよ」
 微か、羨むような語調を含めて呟き。
 集中した敵軍の視線に真っ向から抗うように、その口腔から緑の閃光を吐き出した。


 膠着し掛かった戦況に於いて、突如乱入した輜重車の存在は敵も、事前に知らされていた味方側の兵士にとっても度肝を抜かされた。
 何より、それが戦いに加勢するのではなく、『ある一方向』へと直進し続けるのであれば、鉄帝側の兵士はこれを全力で迎え撃つこととなる。
 物理、魔術、近距離も遠距離も問わず、輜重車へと襲い来る攻撃の全てを捌くのは、庇い手を担当する寛治とランドウェラの二名。
「『幻想側のローレット』だ!」
「敵であるならば所属など構わん、邪魔な馬車ごと圧し潰せ!」
「生憎だが、そのどちらも叶えてやるわけにはいかないな!」
 全身と精神、その両者に痛苦を与えることで稼働する『残生の黒白』を励起させ、右腕に刻まれた呪印から死霊の盾を呼び出すランドウェラ。
 無論、数百に至る数を前にしてはその護手も微々たるものであろう。
 輜重車の目的地である敵軍の隊長格に辿り着く時まで、如何に相手方の攻手を凌ぎきるかは──
『さて、此度は沢山斬れそうだな』
「斬れないよ……!」
 逆接、此方を狙う攻撃手を対処する迎撃班に掛かっている。
 視界に映る敵のこと如くを切り伏せようと期待する相棒を前に、九鬼は戦慄を覚えつつも細やかな動作で刀を振るった。
 夢想剣【花吹雪】。高速で振るう刀身の軌道は残さず、切っ先が反射する光のみを中空に浮かべるそれは、見る者にとって銀の花弁が舞うようにすら映る。
 輜重車を睨み、今にも攻めかからんとしていた鉄帝兵の数名がその攻撃で倒れる。その時々に放たれる攻撃のほぼ全てを『その場しのぎ』で対処せざるを得ない現況は、特異運命座標達にとっては懸念の一つだ。
 何よりのストレスは、作戦目標である敵の隊長格、其処に辿り着くまでに掛かる時間が予測できないこと。
 この不足した情報が後々彼らを苦しめる要因たり得るのだが、少なくとも今現在に於いて彼らの挙動に迷いはない。
「頃合いか――」
 計算した距離にして凡そ半分。それ故に一層苛烈さを増した敵の攻撃を前に、小さく呟いたイーリンが、担う『紅い依代の剣』の色彩を更に密にする。
 瞳が、髪が、肌が、その色を変えて。急激な魔力の推移から生じる身体の変化を気にも留めず、イーリンが放った術技──グラディウスが、正しく戦場に『穴』を開けた。
「……幾らかは休めそうですかね?」
「まったく、ワンマンヒーラーには羨ましい話ね……!」
 ライトフォースを介して尚、その身に夥しい傷を負った寛治の言葉に、回復を飛ばすスペルヴィアが割合本気で返事をした。
 実際、戦闘……と言うより輜重車による進軍が始まってから現在、スペルヴィアが休むタイミングは序盤を除いて殆ど存在していない。
 寛治だけなら兎も角、自身の負傷時に備えて自前の回復スキルを都合したランドウェラすら治癒が必要な状況が続きすぎているためだ。それ故、中盤以降になって漸く放たれた『魔砲』によるインターバル──敵からの攻撃頻度の減少はひどく有難い。
 無論、失ったリソースも少なくない。消耗の大きい術技に、僅か呼気を荒げたイーリンは、再び鉄帝兵が集まってきたタイミングを見て更に一撃を加える。
「ムスティラーフ!」
「うん、交代だ!」
『砲台』役を交代したムスティラーフもまた、自身のむっち砲で敵を薙いでいく。
 防御集中と通常攻撃。他の中も含め、要所を除いての体力、気力の温存を目的とした堅実なスタイルもあって、他に比べて殊に防御能力が低いムスティラーフも顕著と癒える傷は何一つ負っていない。
 同時に、予想以上に傷を負っていない輜重車の状態を確かめたミーナが、小さく、そして不敵に笑って叫んだ。
「悪い、皆。少し反対側に寄ってくれ。……本気で行くぜっ!」
 返事を待つまでもない。戦鬼暴風陣。双手にそれぞれ握る剣が暴威の嵐を振りまけば、後に残るのは命ではなく、その破壊の爪痕のみ。
「……! 前方だ、見えたぞ!」
 恐らくこの戦闘に置いて九鬼と並んでリソースの温存に成功していたイシュトカが、其処で声を上げた。
 敵軍の向こう側、小さいながらも確かに存在する陣幕を囲う鉄帝兵に、舌打ちしたイシュトカが、手にした携行銃から直接魔力を打ち放つ。
 衝撃に拉いだ兵を軍馬が蹄でなぎ倒し、陣幕へと突入した輜重車の面々が、遂に『交戦距離』に入った。
 即座に輜重車から飛び降りた特異運命座標が陣形を構築するとほぼ同時に、陣幕の中央にいた鉄騎種の男が叫ぶ。
「ローレット! 俺の子ども達を殺した奴らに味方するかよ!
 上等だ、弔いは手前らの血で贖って貰うぜ!」


 戦場の構築は上手く行った。
 中隊長の男が座す位置を基点に、一定距離を挟んで扇状に展開した特異運命座標らは、闖入者の出現に虚を突かれた敵を叩きに掛かる。
「……構えなさい。此方は既に彼岸よ」
 告げたイーリンが放つ三度目のグラディウス。隊長格とその護衛達からすれば初めて見るその威力と範囲に、堪らず敵の陣形が揺らぐ。
 それを、見逃さじと。
「続きます、イン!」
『無論』
 追うた九鬼による、幾度目かの夢想剣【花吹雪】と、
「私の前に立ち塞がるってんなら、手加減はしねぇ! ぶっ飛びなぁっ!!」
 獰猛に笑う、ミーナの戦鬼烈風陣が。
 特に、味方を巻き込むことを恐れないミーナの範囲攻撃は敵に対して奏功する。短期決戦を目標とした特異運命座標らの初動は実に効果的と言えた、が。
「……上等だ、加減はしねえぞクソガキ共!」
 敵も、やられてばかりではない。
 隊長格の男が二、三言を呟けば、地の活力を抽出した独自の癒術で護衛者たちの体力を一気に回復させていく。
「……口調の割に、自分の仕事を分かってるのよね」
『激情を押さえ込まず、使命との折り合いを付けるタイプか、面倒な』
 事前に支援特化と言われたその能力は伊達ではない。癒し手の一角を担うスペルヴィアがその性能と効率性に、僅かばかり悪態をつく程度には。
 同様に、護衛者たちも。
 前衛陣が一挙に前に出ると同時、特異運命座標らをブロック。それらを確認次第、敵後衛の護衛が頷いて、双方の被害を問わない広範囲攻撃を降り注がせた。
「これは、ちょっとマズいかな……!!」
 呟くムスティラーフ。返す刀と再びむっち砲を撃つ彼自身、その身が瞬く間に血に塗れていくことに少なからず焦りを覚えた。
 理解もしていようが、特異運命座標らが後衛方である隊長格を狙える位置をキープしたのであれば、逆に敵の後衛陣も特異運命座標らの後衛を射程に収めていると言うことでもある。
 先ほども言ったように、短期決戦を念頭とした特異運命座標らはその挙動
のほぼ全てを攻撃に割いている。
 足止めを目的とした些少のダメージにしても、此処に至るまでの輜重車での戦闘で軋む身体には十分に堪えた。庇い手を担当していた二人には、特に。
「……此処までだね。後は任せる」
 護衛者に範囲攻撃使いが極めて多かったのも、このメンバーに於いては辛いところだった。
 スペルヴィアの単体回復が追いつかない場面がどうしても出てくる。それ故にメンバーのほぼ全員は戦闘不能時、パンドラによる再起を選択したが、可能性ばかりに賭けるにも限度が存在した。
 気力の消費量と回復量、その双方を見極めたランドウェラが、せめてもの助けにと寛治に緑の抱擁を施す中、護衛者による剣の一閃がその首を狙う。
 軋んだ身体が、此処に来て最後の精彩を見せた。二次行動、衝撃の青を以て敵前衛との距離を作ったランドウェラに、しかし降り注ぐ矢の雨が意識を奪っていく。
 その健闘を、一瞬の瞑目でもって称えつつ、寛治も最後のハニーコムガトリングを叩き込んだ後にイーリンの傍で庇う態勢を作った。
 状況の遷移が激しい。特異運命座標達のうち、九鬼やミーナと言った前衛の攻撃手は短時間で瞬く間に満身創痍と化したが、それに比例して鉄帝の中隊長の体力も加速度的に削られつつあった。
 中隊長の特筆すべき能力は、あくまでも広範囲に対する支援と回復だ。それを自身──要は単体のみに対して使用すると成れば、効率は悪く、かつ回復量も単体に対するそれより幾分か劣る。
 この辺りは、スペルヴィアが今回の戦闘でぶつかった問題点とは全く正反対である。それでも男は咆哮と共に無理矢理気力を絞り出しては、必死で自信の回復……ひいては護衛者達が特異運命座標を退けるまでの時間稼ぎに注力する。
「無駄とは理解しているが、それでも敢えて問おうか。
 鉄帝の中隊長殿。君達が此処で退くのなら、私個人としては君達の穀物庫を焼いた犯人捜しに協力したいと考えているのだが、どうかね?」
「お断りだ。アンタが幻想とは何ら関係ない人物だったとしてもな。
 一度疑惑の種を撒かれりゃ、身内以外を信用するのは無理も同然よ。それが『撒き手』の思惑通りだったとしてもな」
 渋い表情を浮かべるイシュトカも、その所作だけは淀みない。
 敵が固まっているところに撃ち込んだライトニングはその回避動作を鈍らせ、魔弾の射手を介して放たれる魔力放出は的確に護衛者達の体力を刈り取っていく。
 威力の大きい攻撃もさることながら、こうした小手先の妨害が絶え間なく続くのも敵にとっては厭らしい。しかしながら、隊長格の男は彼が持ちかけた交渉を鼻で笑う。
「何より──それは立場が上の奴が出来る交渉だ、ウォーカー。
 軍同士の戦いはこっちが有利。お前らさえ凌げば勝てる戦に、どうしてそんな話を受け容れる必要がある?」
「……そうか、残念だ」
 では、此処までだな。そう言って彼が視線を向けた先には。
「ああ、俺も残念だぜえ……ローレット」
 嗤う隊長格の男に向けて、終ぞ疾駆する姿は、イーリン。
 許容限界まで魔力を注ぎ込んだオーラブレードの推力で突進し、その勢いのまま振り下ろされた絶閃を前に、しかし男は獰猛な笑みのままで。
「手前らが、俺達の『子供』を『皆殺しにした』なんて……信じたくは無いけどよォ!」
 拳に構えた魔術媒体が、同時にイーリンを狙う。
 衝撃は二度。カリブルヌスの軌跡である紫の燐光が両者の間を埋め尽くし、それが晴れた後。
 ──立っていたのは、ただ一人だった。


 特異運命座標らはほんの少しばかり、ミスを犯していた。
 それは今現在に至るまでの道程。輜重車で敵陣を駆けていた頃の挙動に端を発する。
 敵の元に辿り着くまでの唯一の手段として、輜重車が破壊されないことは確かに重要だが──逆に言えば、破壊されない限りは輜重車を過度に気遣う必要もないのだ。
 或る意味に於いて、この依頼で特異運命座標達が最も気に掛けるべき点は『輜重車と自身らのリソース配分の計算』とも言える。
 元より苛烈を極めると理解していた吶喊時、輜重車に与えられる全ての攻撃を庇い続けるというのは(それが各員ごとに分担されたものとしても)自殺行為に近しいものがある。
 事実、輜重車から降りた時点でランドウェラと寛治の両名は立っているのが可笑しいレベルでのダメージを負っていた。
『砲台』を務めていたイーリン、ムスティラーフらの気力も、大幅とは言わずとも減衰は見て取れる。その甲斐あって輜重車の傷は実に些少なものだが、結果としてこの本陣に於ける戦闘は特異運命座標達が予想しているものより遙かに厳しい展開を余儀なくされていた。
 故に、この結果は──────
「……流石に、効いたわ」
 ──この結果は、奇跡と呼ぶに相応しいものだった。
 気力も体力も、パンドラすらも使い果たしたイーリンの傍では、戦いの中で倒れた仲間達に視線を送る。
 最後の攻防の後、寛治が倒れた。前衛陣の殆ども、庇い手として立っていた寛治もだ。
 これが最後まで立っている者を勝敗の基準とした戦いであったら、間違いなく特異運命座標達の完敗だった。
 だが、そうは成らなかった。そうならないための作戦を組み、尽力し、掴み取った勝利を……皆は喜ぶより先に、帰還へと意識を向ける。
「……復讐の炎、消せなかったのは、残念だけどね」
 苦笑混じりに呟くムスティラーフに、未だ意識を失っている仲間を引きずるイシュトカが無言で首を振った。
 敵将である中隊長は倒せたものの、それにトドメを刺すことは不可能だった。
 それ故、護衛たちによるカバー、その後の撤退を許すこととなったが……それまで鉄帝兵たちが築いていた戦況を構成していた中隊長の援護がなくなったとなれば、敵の勢いも徐々に落ち着いていくだろう。
「……そこから先、幻想兵達は巻き返せるかしら?」
『さてな。それは契約者殿が受けた依頼の範疇には無いことだ』
 スペルヴィアの言葉に応える契約呪具サングィス。
 彼女の懸念の通り、中隊長が倒れるまでにかかった時間で幻想兵達は元のそれより少なくない数を失っていた。
 数に勝る鉄帝兵か、練度で勝る幻想兵か。何れにせよ、最早メンバーの大半が戦闘不能に追い込まれた特異運命座標に出来ることは、もはや『依頼主』が勝利するのを祈ることだけだった。
「……幸運を」
 イシュトカの言葉は、誰が為か。
 未だ戦いの音響く戦場を背に、特異運命座標達は帰還の途についた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788) [重傷]
黄昏夢廸
天之空・ミーナ(p3p005003) [重傷]
ディザスター
新田 寛治(p3p005073) [重傷]
ファンドマネージャ
鴉羽・九鬼(p3p006158) [重傷]
Life is fragile

あとがき

ご参加、有難う御座いました。

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