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シナリオ詳細

<ジーニアス・ゲイム>舞うは蠍の姫、散るは毒の華

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●混沌とする状況
 『新生・砂蠍』。
 先の幻想南部侵攻によって幾つかの拠点を落とした彼等は、幻想南部に拠点を築き上げ、橋頭堡として幻想王都メフ・メフィートを狙っていることがわかった。
 そう、強力な軍隊と化した砂蠍の目的は国盗りであり、状況は予断を許さない。
「幻想貴族達もこの動きに対応を進めているわ。
 ローレットにもこの動きに加わるように助力要請が来たわ」
 情報をまとめる『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)は、いつになく真剣な表情で言葉を続ける。
「ただ気になるのは鉄帝国の動きね。
 北部戦線にも幻想貴族から助力要請が出ているのだけれど……鉄帝国からも同じように来ているの」
 それはローレットの政治的な中立性を考えると、拒否する事の出来ない要請だ。
 これに対しギルドは『両方の依頼をそれぞれ受ける』という形をとったと言う。そうどちらも受諾する。これが”ローレットがローレットとして成立する”最低条件なのだ。
「イレギュラーズ同士の直接対決はうまく避けつつ、二国の軍勢に対してそれぞれの依頼で対抗する状態、というわけね」
 北部戦線の二つの助力、そして幻想南部での砂蠍との対決と、状況は混沌と呼ぶに相応しい状況にあった。

●蠍姫に動きアリ
「そんな中で依頼したいのは幻想南部の砂蠍への対応よ」
 依頼書へと書き込みながら、リリィは不穏な動きを見せる小部隊について説明を始めた。
 王都メフ・メフィートにほど近い幻想南部の大拠点、大都市ルキシオン。
 砂蠍の大部隊がまさにルキシオンを侵攻しようとしている矢先、その大部隊から離脱して王都メフ・メフィートへと向かう小部隊の存在が確認された。
 リリィはイレギュラーズへと視線を這わせ、因縁めいた言葉を零す。
「知っている人もいるかもしれないわね。
 その小部隊を指揮しているのは、新生砂蠍・毒姫部隊『蠍姫』スキラ・スロースということが確認されたわ」
 毒物のスペシャリストであり、前回の戦いではその主目的都市への毒物攻撃をローレットに阻止されながら、対応したイレギュラーズを追い詰めた危険な人物だ。
「その行き先はメフ・メフィートで間違いないわ。恐らく少数精鋭で王都に忍び込みお得意の毒物による撹乱……もしくは暗殺を行うつもりなのかもしれないわね」
 蠍姫の扱う毒は既に呪詛の類いと呼べる代物だ。王都に侵入されれば、その被害は甚大なものとなるに違いなかった。
「最後に確認されたのは王都南部、ヘルトの森の入口。恐らく森の中で機会を窺い、他の砂蠍の王都侵攻の混乱に乗じて動く……そういう心算なのかもしれないわね」
 ただだとすると――リリィは顎に手を添えて考えを口にする。
「隠密部隊がこちらの情報網に引っかかったのが気になるわ。
 そう、まるでこちらを誘ってるみたいな……考えすぎかもしれないけれど、相手はあの『蠍姫』。頭もキレるし、非常に狡猾よ。罠、ということも十分に考えられるわ」
 だとしても、放って置くわけにもいかない状況だ。
 罠だったとしても、これを抑え撃破するしかない。
「情報は極めて不明瞭。危険な戦いになると思うわ。決して油断せずに、依頼に望んでね。
 どうか、無事に帰ってきて頂戴」
 依頼書を手渡すリリィは、真剣な眼差しで、そう願いを口にするのだった。

●蠱毒の中で
「はぁ……はぁ……くっ……うぅ……・」
 体内を巡る毒に、意識は混濁となり、心臓が破裂しそうになる。
 潜伏地についてから、何度と繰り返す吐き気を前に、スキラ・スロースは嗚咽を噛み殺して、ひたすらに毒を精錬する。
 最初の戦いでは、専門的な毒物対応の前にその力を発揮できなかった。
 二回目の戦いでは、ありとあらゆる異常を精神的抵抗で無視された。
 三度目はない。次こそは自分の得意とする武器で、完膚なきまでに苦しみ落とす。
「もう、あとがないさね。
 私自身が死のうが構いやしない。あの連中を――特異運命座標共を殺してみせるさね」
 幼き頃より毒の扱いに長け、その力を認められてキングに拾われた。その恩を――愛し惚れたキングの為に返してみせる。
 精錬し高められた蠱毒は極みへと至る。自らの身体をも犯すこの毒で邪魔な奴等は全て殺すのだ。
 覚悟を己が運命に突きつけて、『蠍姫』スキラ・スロースは「クククッ」と笑った。
「――状況報告!」
「報告しな」
 テントの外より掛けられた声に――自分の弱さを悟られないように――いつも通りの声色で応える。
「ザトルバ部隊長の屠殺大部隊がルキシオンへと侵攻を開始したとのことです!」
「始まったかい。
 残してきた連中、ザトルバはうまく使えてるかねぇ」
「左翼に展開し側面後方から動くようです。
 ……ですが、きっと囮ですね。ザトルバの奴は毒物によるスマートな制圧より嬲り殺すのが趣味ですから」
「ハンッ、人殺しにスマートもなにもないさね。
 まあザトルバの奴がうちの連中を捨て石に使ってご覧、生きて帰ったら私が報復してやるさね」
 生きて帰ったら――その言葉にスキラは自分で零して目を細めた。
「――……姫?」
「なんでもないさね。
 さぁ準備しな。すぐに戦いは始まるよ!」
 スキラの指示の元、ヘルトの森に集まる砂蠍の隠密部隊が慌ただしく動き出す。
「さぁくるんだねぇ、特異運命座標。
 早く来なけりゃ、王都に毒の華が咲くさね――!」
 蠱毒をその身に宿す、蠍の姫が邪悪に顔を歪めた。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 砂蠍の王都侵攻が本格的に始まりました。
 その中で、蠍の姫が特異運命座標を狙い待ち構えています。
 決着を付ける時です。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●依頼達成条件
 蠍姫スキラスロースの撃破

●情報確度
 情報確度はCです。
 情報精度は低く、想定外の事態が起きる可能性が高いです。

●『蠍姫』スキラ・スロースについて
 長い黒髪を靡かせる妖艶な美女。女で有りながら砂蠍の幹部にまで上り詰めた。
 二度のローレットとの戦いによって砂蠍での地位を危ぶまれ、起死回生の一手を狙っている。
 毒の扱いに長け、手にした扇から毒針を放つ攻撃を得意とする。
 男を足蹴にして踏みつけるのが趣味。
 蠍姫については『<蠢く蠍>散毒の蠍姫』、『<刻印のシャウラ>蠍姫は嗤笑せり』
(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/931)
(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1091)
 をご覧ください。

 反応値が高く、EXA値、回避、特殊抵抗が高い強敵です。

 蹴技を主体としながらソニックエッジとクリティカルスナイプを放つ。
 また、以下の特殊攻撃を使用します。
 ・致死毒針(物遠扇・致死毒)
 ・出血神経毒(物中範・出血・麻痺)
 ・EX 蠱毒・極(神中域・特殊毒II・反動)
 
 特殊毒IIは毒無効スキル、耐性による無効化はできない。
 特殊毒IIは特殊抵抗判定時、対象者の特殊抵抗値を半減させる。
 特殊毒II状態の対象は毎ターンHPを最大値の25%失う。
 BS自然回復判定及びスキルによるBS回復は可能。

●『蠍姫』直轄の盗賊について
 数は十名。
 砂蠍に所属し、その士気、戦闘能力はかなり高い。
 『蠍姫』の直属の部下として長くいた歴戦の盗賊で、連携力も高い。
 前衛六名、後衛四名。
 前衛はバランスの良いファイター、後衛は火力と回復も兼ねる。
 『蠍姫』に踏みつけられるのを至上の喜びにしている。
 EXF値が高く、防御技術に優れる。攻撃力も高め。強いです。

●戦闘地域
 幻想中央南部ヘルトの森の中になります。
 襲撃時刻を選ぶことが可能です。
 大木の並ぶ森の中での戦闘です。木々を遮蔽物として利用することが可能でしょう。

 そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • <ジーニアス・ゲイム>舞うは蠍の姫、散るは毒の華Lv:10以上完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年12月13日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
六車・焔珠(p3p002320)
祈祷鬼姫
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束

リプレイ

●静謐と殺意の森
 木洩れ日の中で、イレギュラーズ十名が木々を背にして息を潜める。
 侵入したヘルトの森は、恐ろしい程に静かだった。葉擦れの音も、動物たちの囁きも、全てが消えて無くなっていた。
 最初に違和感を覚えたのは、自然や精霊と意思を疎通する『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)と『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)だ。仄暗く怯え怯む自然動物(かれら)の声を聞き、原因を辿る。
 すぐに、答えはでる。悪意持つ敵もまた、動植物を操り脅かす術を持っているのだと感づいた。
「きっと……、相手にもこちらの位置は知られていると、思うの」
「そうね。きっと有利になる位置取りを取ってくるでしょうね」
 エーリカとレストの言葉に、『魔剣使い』琴葉・結(p3p001166)が頷く。
「使い魔を使えるヤツもいるっぽいわね。さっきからこっちの使い魔が狙い撃ちされているわ」
「さっき、小さな鳥を見かけたが……今思えばこれだけ動物を見かけない中、逆に不自然だな。だとすると、敵の使い魔だったか」
  『黒キ幻影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)が内心舌打ちするように歯噛みする。
 幽鬼となって罠対処に望むシュバルツは敵の――使い魔の――視界にも入りづらいだろう。感づかれることなく見つける事は確かに可能と思われた。
「どうする? このままいいように動かされる、というのは上手くないな」
「たしかに。敵のフィールドと考えれば動かされた先に罠が待ち構えているのは自明だ。とはいえ、こちらから相手を動かそうと陣形を崩すというのは、少々リスクが高いと思うな」
 『濃紺に煌めく星』ラノール・メルカノワ(p3p000045)と『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)の会話は、イレギュラーズ全員の思うところだ。十人という小部隊故に、陣形の乱れは、個人のフォローを失する可能性が高い。敵も同様の事を考えているのだろう、大きく包囲しプレッシャーを掛けるというよりは、少しずつこちらを追い詰めるような動きだ。或いは、焦れたこちらに突撃させるのが目的か。
「相手に翻弄される形となりましたね。なんとかして状況を変えたいところですが……」
 『空き缶』ヨハン=レーム(p3p001117)の言葉に、思考していた『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)が頷く。
「こちらの状況が相手に伝わっているというのならば、もはや小細工は不要、と思いたいね。
 相手の誘いに乗るようで癪だが、ここは先手を打って攻めに転じたいと思う。
 こちらの目的はスキラ・スロースの撃破だからね、どう足掻いたって彼女とぶつかるんだ。罠に嵌められ、奇襲を受けるより、罠を見越した覚悟を持って挑めば、そう悪いようにはならないと考えるね」
「同意します。
 すでに状況不利であるならば、少しでも優位な状況に変えるべきでしょう。
 罠への対処は――精神論ですが気合いで立て直す他ないでしょうね」
 『銀凛の騎士』アマリリス(p3p004731)の言葉は些か乱暴であるが、正鵠を射ている。後手へと回る以上、臨機応変に対応するのが肝要なのだ。
「まあ、わかりやすいし良いんじゃないかしら。
 小難しく頭を捻って連携にミスが生まれるよりは、単純明快に勢いつけたほうがマシよね」
 仄暗い周囲を鬼火によって照らし奇襲と罠の警戒を続ける『芋掘りマスター』六車・焔珠(p3p002320)が、努めて明るく言う。快活なその声が、仲間達の背を叩いた。
 対応方針を固めた所で、各人が決めた陣形に広がりながら、突撃のタイミングを図る。
 静謐湛えた森、木々を背にし奇襲への警戒を行いながらの位置の奪い合い。
 各種スキルをフルに駆使しながら、互いに距離を測り合う。
「そろそろ頃合いだな――」
 ラルフが手を上げ合図をだす。エーリカとレストが敵の位置と距離を知らせ、全員に共有した。
(罠は――!)
 幽体化によって先陣を切ったシュバルツが、木々をすり抜け駆け抜ける。透視によって先の視界を確保し、違和感――罠へと注意を向ける。瞬時に周囲を見渡し確認するが、それらしいものは見当たらない!
(目に付く罠は見当たらねぇな――なら!)
 先手必勝。
 敵前衛の背後に回り込むとナイフを取り出し襲いかかる。
 強制的に幽体化が解除され、その場にシュバルツが現出する。濃密な殺意と気配の現れに、敵が咄嗟に振り向いた。
「遅ぇ――!」
 鋭いナイフの斬撃が盗賊の腹部を切りつける。バッと血が噴き出る――が、致命傷へとは至っていない。盗賊も戦い慣れている、回避不能と認識した傍からダメージを減らす防御的な動きを見せたのだ。
 傷を受けながらバックステップを挟み間合いを広げる盗賊。深追いは禁物と、シュバルツも一歩間合いを取った。
「敵襲――!」
 盗賊の上げた声に反応して、続々と気配が近づいてくるのがわかる。同様に、イレギュラーズ達もまた、陣形を維持したまま先手を取ったシュバルツの元へと集まる。
「ククク、良く来たねぇ、特異運命座標。
 ビビって逃げるかと思ったけど、突っ込んでくるとは良い度胸さね」
 木々の影から姿を見せるのは、長い黒髪を靡かせ、自慢の脚足を見せつける女。『蠍姫』スキラ・スロースに他ならない。
 その姿を睨めつけるイレギュラーズ。多い者ではこれで三度目の邂逅。その姿にも見慣れたものだ。イレギュラーズを睨めつける蠍姫もまた、同じ事を思う。
「見知った顔がほとんどだねぇ。
 いいさね。敗北を味合わせるにはもってこいの相手さね」
「さて、敗北を知るのはどちらかな?」
 互いに口の端を釣り上げ余裕を見せ合う。その実、油断成らない相手なのはお互いがよく理解していた。
「仲良くおしゃべり、とはいかないものでねぇ。
 早速だが、お前達には死んでもらうさね。
 誘き出されてるとわかって突っ込んできたんだ、覚悟はできるだろうさね」
「そっちこそ、用意していた罠が使えなくて困ってるんじゃないの!」
「クク、あんな罠に掛かかるような相手なら、楽でよかったんだがねぇ」
 言って、蠍姫が愛用の扇を広げる。
「いくよ! お前達。私に続きなぁ!!」
 号令。同時に尋常ならざる速度で先陣切って走り出す蠍姫。
「大将自ら先陣とはね――!」
 ラダが即座に反応して生み出した魔弾を発射する。長大な射程から放たれる抜きんでた貫通力の魔弾が、凍結をもたらしながら蠍姫への道を割って作る。
 その魔弾を、速度を落とさず――否、加速して回避する蠍姫。そのままイレギュラーズの陣形中央に飛び込んで、邪悪に顔を歪めた。
「――! それが狙いか! 全員出来るだけ離れろ、毒が来るぞ!」
「遅いさねぇ!」
 ラルフの言葉に蠍姫が笑いながら全身を広げる。瞬間、蠍姫を中心に広がる呪詛めいた毒素の空間が生み出される。目に見える程の呪毒。それがイレギュラーズを包み込み、呼吸を止めさせ内臓に障害をもたらす。
「ゴフッ……!」
 だが恐ろしい程の力を持つ呪毒は、蠍姫自身にも耐えられるものではない。咳き込み口の端から血を吐き散らかす。だが、そうであっても、血を拭い笑う蠍姫。自らの命を捨ててでも勝ちを求める姿がそこにはあった。
 蠍姫の思惑は、イレギュラーズをこの蠱毒に犯すことにあった。
 森の中にいくつかの罠を仕掛けてはいたが、それは本命ではない。相手に奇襲的突撃を行わせ、その上で罠の存在を確認させず、警戒が落ちた所からの蠱毒。部隊の長であり、イレギュラーズの目標でもある自身が、先陣を切るという不意をついた戦法。しかしながらこれは蠍姫の得意技であり、こうして数々の敵を打ち倒し砂蠍幹部へと上り詰めたのだ。
 口の端に付いた血を下舐め吊りながら、呪毒の効果を確かめるように視線を這わせる。
「半分かい……まぁまぁってとこさね。
 相も変わらず、天義のお嬢ちゃんは耐えてるところが気にくわないねぇ」
「ふん。
 なるほど、前よりも制度が上がっているようですね、
 物理的な毒というより……もはや完全な呪詛ですね。
 しかし!!
 私にも、その毒を跳ねのける覚悟がある!!」
「これだけの呪詛毒を覚悟だけで耐えられたら、こちらの商売あがったりさね。
 まあいいさね、アンタには直接痛い目見て貰うさね」
 腰を落とし、構える蠍姫。だがそれに立ちはだかるようにラルフが肉薄する。
「二人の決着も見てみたいところだが、私も君とは決着をつけたくてね。
 ダンスを誘ってもよろしいかな? 蠍姫」
「ククク、顔に見合わず紳士なことさね。
 いいさ、アンタから殺してやるよ」
 呪毒に犯され額から汗を流すラルフだが、それをそうと感じさせず蠍姫の前へと立ちはだかる。
 蠍姫の相手が決まった事を確認すると盗賊達も一歩、一歩とにじり寄り、イレギュラーズへとプレッシャーを掛ける。
「すぐに毒を消さないと――」
「エーリカちゃん、手分けしていきましょ」
 エーリカとレストが駆け寄りブレイクフィアーによる回復を試みる。大きく体力の消耗はあったものの、これによってひとまず毒を消去することに成功する。
 だが、ブレイクフィアーは大きく消耗する技で、そう多くは使えない。蠍姫が蠱毒を――敵味方巻き込んで――どれだけ使ってくるかが問題であるし、恐らく蠍姫の狙いはそこにあるだろうと思われた。
 蠍姫が自滅するのが先か、それとも蠍の毒がイレギュラーズを蝕み殺すのが先か。
「本気みたいね――」「イッヒヒヒ。イカれてるぜ、蠍の姫さんはよぉ!」
 蠍姫の思考を読み取る結が目を細めて睨めつけた。
 ヘルトの森は、ただただ静謐を湛え、そこで対峙する二十一名は溢れんばかりの殺意を携えながら、相対する。
 決着を付けるため、命を賭けた戦いが始まった。

●覚悟と矜持
 戦いはラルフと蠍姫を中心に、敵味方入り乱れての乱戦の形となった。
 これはイレギュラーズ側の思惑が嵌まった形となるが、蠍姫側としても望むところであった。その理由は、蠍姫の蠱毒にある。
「これだけ敵味方入り乱れては、得意の毒も機能しまい――!」
「はっ! 考えが甘いさね。
 毒を作れるってことは、その抗毒剤も作れるに決まっているだろう?
 私の部下が私の毒に巻き込まれても、無効化してるさね。
 ――もっとも、呪詛毒には効果がないがねぇ!」
 ラルフを蹴りつけながら呪詛毒を広げる蠍姫。その効果範囲に部下の盗賊が巻き込まれる。盗賊は歯噛みし苦しむ、が、苦鳴ながらに笑みを浮かべ武器を持つ手に力を入れた。
「こいつら、死ぬ気か――!」
 盗賊達は死をも恐れず、イレギュラーズへとその手にした武器を振るう。
 盗賊達の狙いは蠍姫の援護にあるが、その中でも特に集中するのは当然回復役としてイレギュラーズを支えるエーリカとレストだ。
 盗賊の前衛六名の内、四名がエーリカとレストへと向かう。
 これを阻止するのはラノールと結だ。
「二人をやらせはしない。必ず守りきってみせる――!」
「さぁこっちよ! かかってきなさい!」
 エーリカを守るラノールが二体を引きつけ、レストへと向かう敵二人の内一人を結が引き寄せる事に成功した。
 また、残る敵前衛は後衛の盗賊を守るように展開している。この敵を釣り出すためにアマリリスが名乗りを上げる。
「乾いた砂場の害獣ども、今日此処が貴様らの墓と知れ!!」
 この力強い言葉に、盗賊達三名が動かされる。この状況は蠍姫としては看過できない状況にあるが、目の前のラルフに抑えられ対応に向かう事ができない。
「お前達、安い挑発に乗るんじゃないよ!」
 声を上げることで冷静さを促すが、頭に昇った血は、そう簡単には下がらない事を理解していた。
「チッ、しつこくまとわりつくねぇ。後衛でぶっぱなすような戦い方じゃなかったのかい」
「本来はこうして挑むのが私のスタイルでね」
 蠍姫に手出しはさせないと、次から次へとラルフが攻撃を放つ。厄介なヤツだよ、と蠍姫が幾度目かの舌打ちをした。
「……誰も連れて行かせない」
 それはエーリカの譲れない物だ。毒を伴う二重苦の攻撃に対し、必死に仲間を支えるエーリカとレスト。
 レストの使役するリスを連絡手段とし、互いに声を出さずに連携する。
「貴女にも、きっと色んな事情や信念があるのでしょうね……。
 信念を持った子の行動は、中々止められるものではないけれど……」
 蠍姫へと言葉を綴るレスト。ラルフがレストの想いを汲むように蠍姫へと問いただす。
「――君は何故戦う?
 渇望か、復讐か?」
「フン。
 どうだろうね……、今はもう忘れちまったよ。
 そうさ、今はただ、アンタらを倒してキングへと捧げる。ただそれだけさ」
 長くしなやかな脚を振り回しながら、蠍姫はただ己が命をキング――盗賊王――に捧げるという。
 耳聡く聞き及んだアマリリスが盗賊達と切り結びながら、言葉を投げつける。
「蠍姫! 己が命より名誉が大事か! その王への忠誠心、気に入った!!
 だがそれまでだ――
 主君の下へ必ず帰還してこそ、一流の従僕よ。
 王の寵愛が消えるのを恐れ、己が命をベットした時点で、甘えが見えているのよ!
 命かけりゃいいって思うな、己の命さえ守れぬ、この二流悪党がッッ!!」
「はっ! 天義の小娘が、言いたい放題言ってくれるさね。
 アンタらのような何でも屋にはわからないだろうよ。命捨ててでも守らにゃいけない誇りとプライドがあるさね!」
「プライド? くだらないわ! そんなもの命を捨ててでも守る価値などありはしない!」
「矜持ももたない何でも屋が思い上がるんじゃないよ!
 キングに仕える盗賊――砂蠍であるという誇り、そしてプライド。それらを無くして何が蠍姫だい。
 私が私であることを、私は命を賭けてでも守り抜くさね!
 お前達には何がある! 命を守る事を優先し覚悟も定まらないお前達に!!」
 命を捨てて、矜持を守るもの。
 いざとなれば矜持を捨て、命を守るもの。
 両者の想いは武器に乗り、激しく火花を散らす。
 覚悟の定まった者の力はとてつもなく、死線に肉薄しながら迫る一撃はどこまでも重く鋭い。
「アンタはどうなんだい? 何の為に戦うのさね?」
 対峙するラルフへと投げかけられる質問に、蹴撃を受け止めながらラルフが答える。
「死人の俺は自己である事を証明し続けるのみよ」
「フン、すでに死を超越してるとでもいうのかねぇ。
 自己完結するアンタの生き方は、何でも屋が丁度いいさね」
 扇の先から毒針をばらまきながら、目を細める蠍姫が呟いた。
 わかり合おうという気はない。しかしながら両者は相対しながら互いにその資質を認め合うように感じていた。
 アマリリスはああいうが、ラルフは命懸けの蠍姫に対し命を燃やして応えると決めていた。抑え役として買って出たのもそういった理由がある。
 作り上げた抗毒剤は、蠱毒こそ防げないものの、それ以外の毒に対し十全の対応力を見せ、蠍姫の毒を防ぎ切る。
「普通のの毒はもうだめだねぇ……身軽にさせてもらうよ」
 蠱毒以外が効果がないと悟れば、愛用の扇を投げ捨て、肉弾戦の構えを見せる。堂に入った構えに対峙するラルフは恐るべき圧力を感じるのだった。
「一人ずつ、確実に――」
 木々の影から盗賊を狙って致命な一撃を放つラダ。
 正直、気は逸っていた。こんなに死を感じるのは初めてかもしれない。
 敵も味方も、死を担う死神の鎌を首元に押しつけられているようだ。
 それでも、落ち着いて。一発ずつ丁寧に、放っていく。
「鬼気迫るってヤツね。でも鬼の気っていうのなら負けはしないわ――!」
 全身の魔力を破壊力へと変換し、焔珠が放つ魔砲が盗賊達を飲み込んでいく。ラダと同じように木々を遮蔽物として利用しながら、敵の注意を引かないように立ち回り、狙いを付けて大技を放つ。
 その威力は絶大で、盗賊達の肌を焼ききり、震え上がらせる。盗賊達の後衛も即座にフォローに回る動きを見せざるを得ない。
「二人をやらせはしませんよ!」
 フリーの盗賊がエーリカとレストを狙い肉薄する。その射線へと割り込んで、ヨハンが莫大な雷エネルギーを放電しながら盾として立ちはだかる。
 後衛をフォローする前衛として動くヨハン。ラノール、結、アマリリスによる盗賊の引きつけだが、当然全てを引きつけられるわけではなかった。そうして生まれるフリーの盗賊は、要たる回復手を狙ってくる。
 これを防ぐヨハンのポジションは重要で、ヨハンのガードがあることで、エーリカとレストは無理なく回復へと回る事ができていた。
「いい加減しつこいぜ――倒れなァッ!」
 前衛として、戦場をよく観察しながら弱っている敵を狙うシュバルツ。
 幾度となく肉薄からの連続攻撃を繰り出し、盗賊の一人を追い詰めていく。シュバルツの振るうナイフが盗賊のシミターを弾き飛ばす。ガラ空きとなった胸部――心臓へと目がけて殺意滾るナイフを一思いに突き刺した。
「ぐぅッ……!」苦悶の息を漏らしながら、しかし盗賊はシュバルツの動きを封じるようにのし掛かる。
「くっ……こいつ――!」
  それは乱戦となった戦場では圧倒的な隙を生み出す。その隙を盗賊達も逃しはしない。フォーカスしたターゲットはシュバルツへと定められ、凶刃が降り注ぐ。
「シュバルツ!」アマリリスの悲鳴めいた声が響く。
「情けねぇ声あげるな、まだ、まだ終わりやしねェ――!」
 地面を転がりながら致命傷を避けたシュバルツが血を拭う。無理はせず一歩後退し回復を待つ。
「しぶとい奴等だよ、まったく。
 アンタもいい加減倒れたらどうさね?」
 ジロリと膝を付くラルフに視線を向ける蠍姫。一人蠍姫を抑え続けたラルフはすでに満身創痍であり、その身体にパンドラの輝きを宿していた。
「ふ、剛胆な君と踊るには少々ハードだったようだ。
 しばしのブレイクタイムだ。なに、心配せずともすぐに戻ってくるさ」
 言うが早いか、ラルフはバックステップで後退し、治療を受ける事に専念する。入れ替わるようにスイッチしたアマリリスが手にした大剣を蠍姫に突きつける。
「だいぶこっぴどくやられたようですね。
 自慢の脚足が傷だらけじゃない」
「フン、あの男、加減もなにもなしにぶっぱなしてきたからねぇ……。
 けれど、心配はいらないよ。この程度怪我の内にはいらないさね。
 天義のお嬢ちゃん、アンタも同じように這いつくばらせてやるよぉ!」
「やってみなさいよ! 蠍のおばさん!!」
 ラルフとアマリリスがスイッチし、シュバルツが治療を受けている最中、ラノールと結が共に引きつけていた盗賊二人を追い詰める。これはラダや焔珠の火力的支援を受けたものであり、連携協力が活きた結果だ。
「死をも覚悟した男の目、しっかりと確認させてもらった。
 だが、ここまでだ――!」
「手ひどくやってくれたようだけど、私の方が一歩強かったわね!」「イッヒヒヒ! やっちまえぇー!」
 二人の振るう武器が、盗賊の急所を叩き、少しの痙攣の後、盗賊二名が絶命した。
 それをアマリリスと対峙する蠍姫が、目を細めて見送る。激昂も悲嘆もなく、ただただ無感情に。
 大なり小なり傷を負いながら、しかし倒れる者なく盗賊三名を倒したイレギュラーズ。
 状況はやや優勢にも思えるが、蠍姫スキラ・スロースは未だ健在。
 予断を許さぬ戦いは、徐々に死線を巡る攻防へと変化していくのだった。

●死線を超えて

 お前の毒は『最高』だ、とあの人が言った。
 それが嬉しくて、生きる価値を認めてもらえた気がして。
 自分を認めてくれたあの人の為に、力になりたい。
 だから――あの人の為に――私は蠍の毒となることを決めたのだ。

 盗賊の振るうナイフの一撃を受け、ラノールの腕から血が零れる。歯噛みしながら大型のマトックを振るい反撃する。間合いが開いたところで一歩後退すれば、そこには守るべき――守らねばならない少女が心配そうに顔を向けていた。
「大丈夫、かすり傷だ。
 そう、心配そうな顔をするな。君のことは――いや、皆は必ず守ってやるさ」
 優しいラノールの表情に、エーリカは言い淀んで……否、と頭を振れば、強い瞳でラノールを見つめ返す。
「うん、だいじょうぶ。
 あなたを、みんなを、信じてる」
 傷口に添えた手が仄かに光り癒やしの魔力が傷を塞いでいく。暖かな支援に背中を押され、ラノールは今一度気合いを入れて盗賊達へと向かっていく。
 そんな様子を見ていたレストが微笑ましそうに笑みを浮かべた。
「ふふふ」
「なんですか、急に笑って」
 盗賊の攻撃を受け流しながらヨハンが問いかける。
「いいえ、何だか、いいなって」
「んん? まあ戦闘中なので余所見はほどほどにしてくださいよ……っと!」
 幾度目かの盗賊の突撃を去なすヨハンにレストは頷いて、今一度戦闘へと集中する。
(敵も味方もかなり消耗しているわ。
 回復も追いつかなくなってきているし――いつどこが崩れてもおかしくないわね……)
 ハイヒールを飛ばしながら、レストは戦況をよく観察していた。状況不利を感じれば、すぐに撤退の声をを上げれるようにと。
「しっかり間合いを取ってくるか……けれど、逃がしはしない」
 ラダが木々の隙間を掛けながら距離を詰める。敵の回復を担う後衛を狙って大口径のライフルを構えた。
 轟音と共に放たれた致命の一撃が盗賊の腕を穿つ。その音に反応して焔珠が木々の背後から身をだしてフォーカスする。
「威力は低いけど、連続でなら――!」
 生み出した魔力弾を連続的に放つ焔珠。木々をすり抜けるように飛来する魔力弾がラダの狙った盗賊に叩きつけられ、転倒させる。止めを刺した――と思いきや、しぶとく起き上がる盗賊。
「くっ、しぶといっ!」
「いや、十分だ――ッ!!」
 疾駆するシュバルツが起き上がり武器を構えた盗賊へと襲いかかる。
「終わりだ――!」
 『傲慢な左』は全ての防御を突き抜けて、絶対の死を与える。突き刺されたナイフが心臓を抉り、蘇る事が不可能なくらい完璧な死を与えた。
 新たに一人の盗賊を倒し、戦況を傾けだしたイレギュラーズが勢いに乗る。
 戦場の中央では激昂のままに大剣を振るうアマリリスが吠える。
「よくも――よくもシュバルツの手前で恥をかかせてくれたわね!!」
「はァン? いつぞやのことかい? それともさっきの可愛い悲鳴かい?
 ククク、愛した男と一緒の戦場たぁ、羨ましいことさね」
「はっ! 羨ましいでしょ! 所詮貴方と王の愛なんて一方通行なのよ!
 貴方の王への愛。
 私のシュバルツへの愛。
 どっちが勝つか魅せてやる!」
 アマリリスの言葉は蠍姫の心を抉る棘となりうるか。歯噛みする蠍姫にアマリリスが大剣を叩きつける。蠍姫は脚で受け流そうとするも、勢いを殺しきることができず大きく吹き飛ばされ木々に叩きつけられる。
 ゆらりと立ち上がった蠍姫が舌舐めずりしながら戦場を見渡す。部下四名を倒され形成はイレギュラーズに優勢。ならば――
「――! それを使わせてはダメよ!」
「――全員飲みなァ!」
 蠍姫の声より早く、思考をリーディングしていた結が叫ぶ。同時、蠍姫を含む盗賊達全員が胸元から小瓶を取り出した。
「アンタの狙い通りになんていかせないわよ――!」
 結が手近の盗賊に肉薄しその小瓶を叩き壊すように武器を振るう。この結の行動に反応できたのは、ラノールと焔珠、そしてヨハンとラダだ。それぞれが二人がかりで盗賊二名の小瓶を叩き割る。
「半分はダメだったかい。まあいいさね」
「何を飲んだの!?」
 アマリリスの問いに「ククク」と笑う蠍姫。その顔が邪悪に歪む。
「なァに、ただの毒さね。
 死ぬほど苦しくて、場合によっちゃ死に至る――代わりに素敵にハイにしてくれる薬毒さね」
 それは、危険な毒だ。命と引き替えに身体能力、魔力を強化する邪法の中の邪法。
 そのようなものを、平気でこの者達は口にする。
「愚かな……! 貴方は人の命をなんだと思って――!」
「砂蠍に集った命は、すべてキングのものさね!
 キングの益となるものには其の命を差し出す! すべては盗賊王キング・スコルピオのために!!」
『キング・スコルピオのために!!』
 ヘルトの森に響き渡る盗賊達の大合唱。
 狂っている。イレギュラーズは誰しもがそう思った。
 盗賊の王、それがなんだというのか。自らの命を差し出してまで恭順する価値があるというのか。
 蠍姫、そして盗賊達がどのように盗賊王と出会ったのかは知りもしないし、知ろうとも思えない。しかし、それほどまでに恭順するその信仰を、神に仕え、神に信仰するアマリリスは恐ろしく思えた。
「さァ! ここからが本番だよ、特異運命座標!!」
 盗賊達の動きが変わる。
 誰もが、口から血を吐き零し、身体の一部を青紫に変えてまるで生ける屍のようにしながら、しかし尋常ならざる速力で縦横無尽に戦場を駆ける。振り翳すシミターの軌跡は重厚なる残響と瞬美なる剣閃を生み出しイレギュラーズに襲いかかる。その一撃は重く、重く、気を抜けば一瞬のうちに武器ごと腕が飛び消えてしまうかと錯覚するほどに思い衝撃を残す。
 これほどの力がまだ残っていたのか。否、これは残り少ない命を燃やし尽くし絞り出した禁忌の力。どれほど強大とはいえ、命を糧に生み出している以上、そう長く持つものではないことは明白だった。
「ヤベェ……が、ここを耐え凌ぐぞ!」
「ええ、凌ぎきって見せますよ!」
 イレギュラーズ達も必死さは変わることはない。ここを抜けさせれば、待っているのは王都を襲う毒、そして王宮が抑えられ、盗賊王が玉座に座ることも考えられる。
 イレギュラーズの仕事として、受けた依頼には変わりはないが、それ以上に、蠍姫スキラ・スロースとの因縁をここで断ち切るのだと、強い意思を持って望んだ戦場だ。対峙する相手が蠍姫なら、引く事などできはしない。
 その想いを強く持つのは、蠍姫と相対し十分な引きつけを行ったラルフと、そして今なお相対するアマリリスだろう。
「私は!
 貴方が潰れるまで!! この剣を止める事はしないわ!!!」
「ククク、一人の人間に固執するなんて、信仰屋ってのはそうして私情を優先して、仕事や戦争のことは頭にないのかい?」
 横薙ぎに振るったアマリリスの大剣を人間離れした体勢から蹴り上げ斬撃を逸らす蠍姫。アマリリスは予測し得なかった軌道を描く大剣の勢いを殺さず、続けざまの二連撃へと変えて振るい叩きつける。
「イレギュラーズの依頼? 幻想の戦争? 知ったこっちゃないわよ!!
 私は私の人生で初めて己の意志で戦場に立ち――
 貴方を討つ!!
 地獄で詫びろ!! テメェの王が踏みにじった命達に!!」
「ハハハ!! 上品なお嬢ちゃんかと思えば、とんだ激情家じゃないか!
 地獄で我らが王に刃向かったことを後悔するのはアンタらの方さね!!」
 空間を制圧するように広がる蠱毒の極み。体内を犯すその毒の効果にアマリリスが唇を強く噛み――耐えきる!
「ッ、あァァ――ッッ!!」
「チィッ! ったく毒は耐えるもんじゃなくて解どくもんだって知らないのかねェ!!」
 裂帛の気合いのままに大剣を振るうアマリリスは、強化毒によって身体能力を向上させた蠍姫を、なんとか押さえていた。
「アマリリス君が押さえている内に、他の盗賊を――もう苦しみから解き放ってやるとしようか」
 ラルフの言葉に、エーリカが伏せていた瞳を開く。
 盗賊(あのひと)達もきっと忌み嫌われて生きてきて、その行き着いた先が盗賊王(あのひと)の元だったのかもしれない。
 それは、同じように虐げられ続けて、その先にやっと辿り着いたローレット(ここ)にいるエーリカには少し理解できるような気がした。
 それでも、人々に暴力と恫喝による支配をもたらそうとする盗賊王を――それに従う者達を許すわけにはいかない。
「幸せは……奪わせはしない、ぜったいに」
 残る力を振り絞り、エーリカが恐怖を打ち払う光を放った。
 長いようで、短い、命の灯火揺れる戦場で、幾多の想いが交錯する。
 人々を救うために戦う者、主の望みを叶えるために命を投げ出す者、相容れぬ価値観をぶつけ合い、命を削り合う。
 戦いは佳境を迎えようとしていた。

●舞い散る姫と毒の華
「一人……二人……ッ!」
 木々の隙間を走りながら、ラダが自律自走式の爆弾を走らせる。爆弾は木陰から盗賊達へと飛び出して、必殺の一撃となってその命を奪う爆発を見せる。
 スナイパーとして影に潜みながら火力支援を行うラダの貢献度は高く、その凶弾をもって幾人もの盗賊を打ち倒していた。
(負けられないけど……力は温存しておかないとね――)
 戦場を駆けながら魔弾を放つ焔珠。
 まだ大技を打てる力は残してあるが、前回の戦いの経験がそれを止めさせる。同じような失敗は繰り返さない。最後の最後、どんな状況にあっても逆転を生み出す手札を温存しておくのだ。
「ラノールさん!」
「任せてくれ――!」
 結の合図でラノールが大戦槌を振るう。それはカウンターとなって盗賊の一人を弾き飛ばし結の前へと無防備を晒した。
「喰らいなさい――ラ・ピュセルッ!!」
 戦乙女の加護を身に纏い、結の突撃が盗賊の心臓を貫いた。だが死の間際にあっても盗賊は武器を振るうのを忘れない。
 姫、ご武運を――
 呟くように残した言葉を結が耳にするのと、切り裂かれた痛みに脳が酷く揺らされるのは同時だった。
「それはいけないわ――ッ!」
 レストがすぐさま結にハイヒールを掛ける。だが戦場で一瞬でも足を止めればそれは死と同義なのだ。
 残る盗賊達が一斉に結へと襲いかかり、体勢の整わない結は凶刃を防ぐ事も叶わず吹き飛ばされ倒れる。パンドラが輝いた。
 獣のような荒い息を漏らしながら、血涙をもらし攻め入ってくる盗賊達。
 押してはいる。押してはいるのだが、命を賭して攻め入る盗賊達の勢いを殺しきる事が叶わない。イレギュラーズも一人、また一人と流れる血に力を失い、パンドラへと縋るのだった。
「それでも、終わらせなけりゃなんねぇんだ――ッ!」
 血を拭いながら駆けるシュバルツが、蠍姫を回復する後衛へと肉薄する。カバーに入る前衛の盗賊二人。
「させないわよ!!」
 木陰から飛び出した焔珠の魔弾が一人を捕らえ手に持つその武器を大きく弾き飛ばす。残る前衛の横薙ぎの一撃を紙一重で回避すると、勢いを殺さずに後衛へと突撃する。
 確かな手応えとともに相手に馬乗りになってマウントをとる。敵は――まだ生きている。
「――ッ!」
 慈悲もなく叩きつけるように振るった『傲慢な左』に持つナイフがその首を切り払い、取り返しの付かない失血をもたらして絶命させる。
 シュバルツの背後、カバーに回っていた盗賊達もまた、ラルフ、ヨハン、ラダ、そしてラノールの手によって、その動きを止めていた。
「幕引きだ。蠍の姫よ」
 手にした隠者のカードを放れば、周囲に浮かび上がるはイレギュラーズ達の幻影。戦闘中幾度となく蠍姫の視界を妨害したそれを、今一度展開し完全なる囲いを作る。
「……だらしのない奴等だよ、まったく」
 足下に転がる盗賊の死体を踏みつける。それは死体となった盗賊達への責め苦などではなく、慈悲なのだと、彼等は理解している。
「覚悟なんて、とうに決まっているでしょう?
 容赦も慈悲もなく、これで決めさせて貰うわ」
 互いに血塗れながら、武器――脚足――を突きつけ合う。
「私の体力ももう限界さね……なら、反動を気にして抑える必要ももうないさね!!」
 瞬間、空間がどす黒い虹色に染まる。何度となく見た蠱毒――だが、その範囲は視認できる範囲を超えている。
「毒花万華鏡――私が死ぬのが先か、アンタ達が一人残らず倒れるのが先か、勝負と行こうじゃないか!」
 服で覆った肌がピリピリと焼け付くようで、瞳から侵入するその毒気が視界を明滅させる。
 一分はもたないだろう。その場にいる誰もがそう理解した。同時、一斉に蠍姫へと攻撃に転じる。

 ――舞いて 開くは 毒の花
    集る 虫けら 退けて
    撒いて 散らすは 我が命――

 ラノールの大戦槌をその華奢な手で受け止めながら、蛇のよう蠢く身体で絡みつき、勢いままに回し蹴る。焔珠の放つ魔弾が黒虹の空間を切り裂いて飛来するも、それを尋常ならざる身体能力で回避すると、落ちていた扇を手に取り出血毒針を放つ。
 エーリカを中心に広がる毒針を、身を挺して防ぐのはヨハンだ。引き裂かれるような肌の痛みと同時に大量の血が噴き上がる。
 轟音が空気を振動させる。ラダの放った弾丸が蠍姫の手に持つ扇を、その手のひら事吹き飛ばす。同時、ラダは懐から用意していた”おまじない”の形代を放り投げる。呪詛として成立する蠍姫の蠱毒が瞬間、形代に吸い込まれ弾け飛ぶ。瞬間的な毒の軽減がなされたが、空間は直ぐに黒虹に染まった。
 裂帛の気合い、そしてズィーガーの笑いが響く。魔剣を手に強打を振るう結の一撃が蠍姫の胸元切り裂く。噴き出る血に目もくれず、背面へと身体を反らした蠍姫の強烈な蹴りが結の顎を捕らえ、意識を刈り取った。
 すぐに飛びかかり止めを刺そうと動く蠍姫。それを身を挺して防いだのはエーリカだ。闇に纏う刃の数々が、蠍姫の攻撃に合わせて振るわれる。凌ぎきれば、エーリカは結を抱えて距離を取る。
 最後の力を振り絞り、レストの恐怖を打ち払う光が空間を覆う。それは一時のみの効果だが、短時間で全てが決まる今において最良の選択に他ならない。
 一時的に身体が軽くなった。その瞬間、ラルフとシュバルツ、そして全てを防ぎ切ることは叶わないまでも、耐性によって他者よりも力を籠められるアマリリスが疾駆する。
 空間全ての呪いを封じ込めるように錬成された銃弾がラルフの手により放たれる。蠍姫の左肩に吸い込まれるように突き刺さった銃弾が夥しい呪いと共に炸裂する。
「生憎だが、此処でくたばる訳にはいかねぇんだよ! 地獄へ落ちるのはお前一人だ蠍姫!」
 大きくバランスを崩した蠍姫にシュバルツが肉薄する。互いに鋭い視線を繰り交わしながらシュバルツは手にしたナイフを、蠍姫はその脚足を、捨て身とも思える体勢ながら放ち合う。
 シュバルツのナイフが首筋を切り裂くも――浅い。対して無理な体勢から放たれた蠍姫の蹴撃が、シュバルツの頭を横薙ぎにし叩き飛ばす。
 その後ろから激昂の表情を浮かべたアマリリスが突撃する。毒をものともしないその胆力、勇ましく凜々しく、明るい未来を見つめる少女を前に、きっとスキラは嫉妬していたに違いなかった。
「終わりだァ――ッ! 蠍姫ッッ!!」
「負けるわけにはいかんさねッッ!!」
 アマリリスの大上段からの振り下ろし、それを身体を捻りながら放つ横薙ぎの蹴りで弾き飛ばす。この攻撃を凌げば――イレギュラーズの体力も底を尽きるだろう。
(勝った――ッッ!)
 その先に待つのは明るい未来などではなく黒く染まった行き止まりだというのに、スキラは歓喜に笑みを染めたまま、勢いままにアマリリスの頭を消し飛ばす蹴撃を放つ。
 だが――
 その一撃はアマリリスの綺麗な顔を叩く事はない。目にしたのは、決意のままに刃を引いたアマリリスの姿だ。
 この日、初めての連続攻撃を見せたアマリリスが、スキラの一撃を見越して、一歩引いていた。
 そして、渾身の一撃を籠めた大剣の突き刺しがスキラの心臓を抉るように突き刺さった。
「ゴフッ……はっ、まいったねぇこれは」
「私の、私達の勝ちです。
 命の賭け方を間違えましたね」
 もっと違う相手にその力を使えば、きっとこんな結果にはならなかっただろう。僅かな同情が過ぎるも、それを向けて良いような相手ではない。どうしたって悪党は悪党なのだ。
「それでも、私は……」
 劣悪な環境から逃げ出して、地獄のような日々を過ごしたあの時。救いの手をもたらしてくれたあの人のためにと力の限りを果たした。
 あの人は――今頃夢を叶えているだろうか。
 それを傍で見届けられないのだけが残念だ、とスキラは目を細めた。同時五月蠅そうに顔を顰めた。
「五月蠅い声が聞こえてきたねぇ……何だってんだい」
「――! それは、ダメだ。
 耳を貸すな、高利貸しの甘言と同じだ」
「はっ、言われなくても興味ないさね」
 ラダの言葉を受け入れたわけではないが、頭を揺らす誘惑の言葉をスキラは無視した。そんなもので手に入るものを望んでいるわけではないのだ。
「ククク、高見の望みだねぇ……。
 ゴフッ……さて特異運命座標のアンタ達に朗報だ。
 蠍姫、スキラ・スロースは……ここに倒れた。アンタ達の、勝利さね」
 何事か掠れた声でしゃべり出したスキラにイレギュラーズが目を向ける。その顔は晴れ晴れとして何もかもやりきった表情すらある。
「――舞いて 開くは 毒の花
    集る 虫けら 退けて
    撒いて 散らすは 我が命――
 ククク、さて毒の花はどこに咲いただろうねぇ?」
「……――! まさか!?」
 ラルフが、そしてシュバルツが気づく。まだ毒は終わっていない――!
「解毒剤はここにあるさね。
 生きていたら飲むといいさ――」
 胸元から取り出した一つの小瓶それを残った左手で握りしめたまま、スキラは目を見開いた。
「さぁ、蠍姫最後の舞いを見てご覧よ――ッ!」
「全員離れろ――ッッ!」
 ラルフの叫びと同時に、イレギュラーズが木々を盾に離れていく。
「……アンタは逃げないのかい?」
「善悪等知らぬ。
 君がその身を毒と化すならば俺はそれを取り込もう」
「はっ、馬鹿な男だねぇ……」
「なに、単純に君を気に入ったのさ」
 ラルフの言葉に「ククク」といつもの笑いを見せる蠍姫。
 瞬間、蠍姫の腹部の傷口から、魔力で編まれた花弁が一枚、また一枚と生まれていく。舞い踊る魔力の渦が、その毒の花を形作ると同時、これまで味わったこともない、全身の細胞が一つずつ怨嗟を上げながら死んでいくような、苦しみが襲いかかり――
 そして爆発するように、一際眩しい閃光を上げながら夥しい量の花弁が周囲を覆うように舞い散った。
「くっ――君は守る!」
「シュバルツこっちよ!」
 ラノールがエーリカを庇い、アマリリスがシュバルツを抱き留める。木々の裏側にまで舞い散る毒の花弁に触れれば、そこから服を焼払い肌へと浸透してくる。
 毒花万華鏡。
 スキラの置き土産は十数秒の効果の後、霧散した。
「あの女、最後になんてものを……身体が内部から溶かされてるみたいだわ……」
 然しものアマリリスでもこれを耐えきることはできず、意識朦朧のままに倒れる。
 比較的戦闘中のダメージが少なかったラダ、焔珠、レストもパンドラの輝きに守られた形であって、その毒に身体をやられていた。
「こういうときの為に……取っておいたのよ! 使わなくてどうするのよ!」
 震える手足は、他の者よりマシだ。起こるべき事態を想定していた焔珠が祈祷を行った。
 空へと祈る祈り。僅かな奇跡が、苦しみを和らげていく。
「ッ! ラノール!」
「君が無事で良かった……」
 手足の痙攣が消え、ラノールを抱き留めるエーリカ。しかし、エーリカを庇ったラノールの症状は重い。そしてなにより――
「ラルフ!」
 その中心、スキラの傍で倒れ伏す男の元へエーリカが走った。
 大いなる奇跡を望み、命を賭した博打にでたラルフだが、それを呼び込む為にはパンドラは多すぎたように思われた。
 だが、ラルフが毒花の中心でその悉くを受け止めた事で被害が最小で済んだのはいうまでもない。
「すぐに、解毒剤を――!」
 硬直しているスキラの手から解毒剤を取り出し――本当に信用していいものかと悩むも――すぐにラルフを始めイレギュラーズに飲ませていく。
(お願い、どうか――)
 焔珠の祈祷と共に祈りを捧げるエーリカ。倣うように意識ある者達が祈りを天に捧げた。

 そして――
「……また死に損なってしまったな」
 ラルフが目を覚ましたことで、イレギュラーズ達は歓喜に沸いた。
 その喜ぶ顔にレストはホッと胸を撫で下ろしながら、ラルフの傍らに倒れる蠍姫へと目を向けた。
 腹部に咲いた魔力で編まれた花が枯れ落ちる。
「たくさん、笑ってきたのかしら……?
 たくさん、踏み躙ってきたのかしら……?
 それとも……たくさん泣いてきたのかしらね……?」
 レストの呟きに、応える者はもういない。
 今はただ、静かに枯れ落ちる毒華を湛えるのみ。
 ヘルトの森に少しずつ、音が満ちてきた。
 瞳を伏せたレストは、仲間達の元へと歩み寄る。最後に言葉を残して。

 ――いずれにせよ、ゆっくりおやすみなさい。

 新生砂蠍の毒尾を象徴する『蠍姫』スキラ・スロースは斃された。
 重い身体を引き釣って、しかし勝利を手にしたイレギュラーズは、命の重さを思い出しながらヘルトの森を後にするのだった。
 陽光が木洩れ日を生み、葉擦れの音と動物たちの囁きが騒がしくなる。
 彼女は仲間達と共に、穏やかな眠りに付くのだった――

成否

成功

MVP

ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に

状態異常

ラノール・メルカノワ(p3p000045)[重傷]
夜のとなり
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)[重傷]
我が為に
アマリリス(p3p004731)[重傷]
倖せ者の花束

あとがき

澤見夜行です。

蠍姫スキラ・スロースはこれにて退場となります。
全員のプレイングも良く、見事な決着になったかと思います。
PPPの発動も望まれてたようですが、パンドラ値的にもまだ時期尚早でしたね。何れその時がくるはずです。

MVPは最後まで蠍姫に付き合ったラルフさんに贈ります。
いくつか称号も出しました。

依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

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