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シナリオ詳細

<ジーニアス・ゲイム>幻想のマーチ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ラサから落ち延び、勢力を復活させた『盗賊王』キング・スコルピオの軍勢は今まさに幻想南部を侵していた。
 ローレットの対応、イレギュラーズの活躍もあり、幻想体制側は彼等の魔手をかなりの局面で挫く事には成功したが、少なくない街や拠点が『新生砂蠍』の手に落ちたのは事実だった。
 陥落せしめた拠点を橋頭堡に幻想王都メフ・メフィートを狙う砂蠍。貴族軍もそうはさせじと考えるが、最悪のタイミングで北部戦線の名将ザーバ――鉄帝国の軍勢も動き出さんとしていた。


「北部戦線近くの小さな街から、とある幻影貴族が抱える軍楽隊を連れだしてやってくれ」
 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)はさらっと説明した。が、軍楽隊が置かれている状況を聞きだすと、これがとんでもない話だった。軍楽隊は街にある野外円形劇場で、娯楽に飢えた鉄帝国軍の猛獣部隊にぐるり360度囲まれているというのだ。そこで昼夜問わず休むことなく吹奏を強要されているという。
「倒れそうになったら鉄帝の兵士がスキルで無理やり回復させているらしい。街から逃げ出した人々の話によると、楽隊士たちはゾンビみたいな顔で演奏していたそうだ」
 トイレ休憩はもちろんのこと、夜は寝かせてもらえず、食べ物も水も与えられずで、軍楽隊は気力、体力ともに突きかけている。いくらスキルで回復させられようと、この状態が続けば死んでしまうだろう。
「楽隊士の数は24名。非戦闘員ばかりだ。対する鉄帝猛獣部隊は100名」
 そのほとんどが獣種で、国軍に組み込まれているが、金目当てのならず者ばかり。街には一気に攻め込んできたらしい。
「まあ、数は多いがほとんどが酔っぱらっている。ほとんど相手にならないだろうが、一応、油断はするなよ」
 円形劇場には酒瓶や食い散らかしが散乱しており、足元もよくない。中には階段の途中で酔いつぶれて寝ている兵士もいるという。
「その貴族の軍本隊は別の街で鉄帝と戦っている。勇気をくれる軍楽隊の到着を、彼らの演奏を待っているそうだ。頼んだぜ、イレギュラーズ」

GMコメント

!!幻想側について鉄帝と戦うシナリオです。

●依頼条件
軍楽隊を無事に街から連れ出し、本隊と合流させる。
※本体は5キロ先の別の街に駐留、そこで鉄帝と戦っています。

●日時
昼です。よく晴れています。風はありません。

●軍楽士隊……24名。
持っているスキルは『勇壮のマーチ』と『静寂とバラード』のみ。
全員、気力体力ともつきかけています。
ほとんど惰性で演奏しています。
意識が朦朧としているので話しかけてもろくに返事が返ってきません。
歩くのも大変な状態です。

●鉄帝猛獣部隊……100名
 ほとんどが獣種。
 スキルは『マッスルパワー』と『格闘』『喧嘩殺法』のみ。
 半分は酔いつぶれて寝ており、もう半分は酔っぱらっていい気分です。

●その他
 うまく立ち回れば、ほとんど敵と戦わずに軍楽隊を円形劇場から連れだせるでしょう。
 ですが、無事に送り届けるまでが依頼です。
 追撃される可能性も含めて、くれぐれも油断なさらないように。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ジーニアス・ゲイム>幻想のマーチLv:10以下完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月12日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リア・ライム(p3p000289)
トワイライト・ウォーカー
パン・♂・ケーキ(p3p001285)
『しおから亭』オーナーシェフ
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)
鉄腕アリス
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ビス・カプ(p3p006194)
感嘆の
河鳲 響子(p3p006543)
天を駆ける狗
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長

リプレイ


 冷たい風の中にアルコールの匂いを嗅ぎつけて、『トワイライト・ウォーカー』リア・ライム(p3p000289)は渋顔になった。
「これでまだ死人が出ていないのが不思議ね。どんな肝臓をしているのかしら?」
 風に当っているだけで酔っぱらってしまいそう、と軍馬の背で肩をすくめた。斜面を利用したすり鉢状の劇場が、小さく見えたところで馬首を返して止まる。
 馬車で並走していた『天狗』河鳲 響子(p3p006543)も、手綱を引いて馬を止めた。
「食事も摂らせず、身動きも碌に出来ないなんて酷いことする……そんなロクデナシたちの肝臓は真っ黒に違いありません」
 響子は馬車体の小窓を開けて「つきましたよ」と同乗者に告げてから、御者席を降り、馬上で弦の張り具合を確かめていたリアにいう。
「わざわざ腹を割り裂いて確かめようとは思いませんけど」
「同感」
 美咲・マクスウェル(p3p005192)が馬車から出てきて、ふたりの会話に加わる。
「度を越した酔いも、惰性の演奏も。それでよしとできる感性は、私にはよくわかんないね。それとも、戦時中なんてどこもこんなものなのかなー」
 胸の思いを吐きだし、空に向かって思いっきり背伸びをする美咲の横に別の荷馬車がゆっくりとやって来て通り過ぎ、止まった。
 『調香師』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は馬車の戸をあけて首を出し、風が運んでくる乱れた音楽に耳を澄ませた。
(「やーねぇ、とんだブラック案件じゃない。飲まず食わず、休みなしで無理矢理演奏させるなんて……音楽を何だと思ってるのかしら!」)
 調香師になるためには、豊かな感受性と良いセンスを磨かなければならない。音楽は調香においても人生においても重要な要素の一つだ。美しくなければ、楽しくなければ、音楽とは言えないと思う。
 ジルーシャは憤慨しながら首を引っ込めると、ストラディバリウスを収めたバイオリンケースの蓋を開けた。
 『『しおから亭』オーナーシェフ』パン・♂・ケーキ(p3p001285)は、御者席でストラディバリウスは非常に繊細でとても柔らかく美しい音を聞いた。うん、とひとつ頷いて、隣に軍馬を止めた『鉄腕アリス』ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)に声をかける。
「ここで火を起こすのは危険だな。遮るものがない。全員酔っぱらっているという話だが、誰かが煙を見て不審に思うぞ。楽士たちに距離を歩かせたくはないが……オレはこの丘の下、街の近くに救援ベースを作りたい」
「吾輩も同意見であるな! 隣と後続の馬車に伝えるであるよ。パン・オス殿はジルーシャ殿と先にいい場所を見つけておいて欲しいである」
「承知した」
 パン・オスは馬に再び鞭を入れ、馬車を走らせた。
 ローガンも後続に声をかけるため、馬の腹をぽんと蹴る。
「ビス殿!」
「どうしたの? 劇場はあっちだよ?」
 『感嘆の』ビス・カプ(p3p006194)はローガンの話を聞いて、片耳を寝かした。
「うーん。僕は円形劇場のそばに馬車を置いといて、いざとなったら馬車で走って逃げられるようにしておくほうがいいと思うけどな」
 御者席の横に座っていた『湖賊』湖宝 卵丸(p3p006737)が口を開く。
「いざというときのために馬を2頭、劇場そばで待機させておけば大丈夫じゃないかな。馬車だと目立つしね。煙も街の方で上がっている分には怪しまれないよ」
 それもそうだね、とビスが耳を起こす。
「物資の調達もあるし……と、そうだ。鉄帝兵の馬や馬車はどこ?」
「ここに来るまでに見かけなかったね」
 卵丸は御者台で立ちあがると、額に手をかざして当たりを見回した。
「吾輩が馬でひと駆けして探すであるよ! だからみんなで先に、救出の準備を整えておいて欲しいである」


 リアはローガンが見つけた鉄帝の荷馬車を素早く改めた。
「武器の類は置いてないわね。腐っても武人……というところかしら」
「残っているものも、碌なものじゃないわ。腐ったリンゴの芯とかバナナの皮とか、ハエが高った骨つき肉の残骸とか」
 ジルーシャがつまみ上げて投げ落としたものを、卵丸が嬉しそうに拾い集めた。
「卵丸殿、どうするつもりある? 腐っているであるよ」
「だからいいんだよ。これで連中に食べさせる料理を作るんだ。自分たちの残飯で食中毒……皮肉がきいていいんじゃないかな」
 卵丸は白い歯を見せた。
 水桶から取りだす食材の他に、街まで戻って腐ったものを集めるつもりだったが、これで手間が省けた。
「ちょっとだけ時間をくれる? パパっと作っちゃうから」
「悪臭を消す香づけが必要なら、近くの草花を使ってさっと香を作るわよ」
「うん、お願い」
 卵丸とジルーシャが救護班の起こした火を借りに向かうと、ローガンは桶に顔を突っ込む敵の軍馬へ近づいた。
 発見とともに放逐せず、ここへ連れて来たのには訳がある。主人たちが享楽にふけっている間、飲まず食わずの馬たちが哀れに思ったからだ。放つ前にせめて綺麗な水を飲ませ、飼葉を食ませてやりたかった。
「連中は軍人としてだけではなく、ブルーブラッドとして種族の誇りをも持っていないようであるな。吾輩はとても悲しいのである」
 ローガンは鞍を降ろし、首を撫でてから軽く尻を叩いた。一頭が駆けだすと、つぎつぎと走りだし、やがて馬たちは木陰の彼方へ消えて行った。
「時間が許せば、因果を含め聞かせながら倒したいところである……」
「陽が落ちる前に出発したいってパン・オスが言っていたわよ。ほっといても幻想の貴族軍たちが片づけてくれるでしょう。ねえ、そろそろ劇場へ行かない?」
「そうであるな」
 リアは手をあげて、料理する二人を呼んだ。
 円形劇場は、観客となった鉄帝兵のおしゃべりや笑い声、楽士たちが奏でるどこかちぐはぐな音楽でガヤガヤしていた。
 ステージは客席の中央にまで伸びており、観客は三方向から観られるようになっている。ステージの正面にある客席は平土間と呼ばれる立見席だが、いまは酔い潰れた兵の雑魚寝場と化していた。
「こんにちは、鉄帝猛獣部隊のみなさん。本日は、日々、ゼシュテルの為に戦うみなさんの為に慰問に参りました。どうぞ我らの芸をお楽しみくださいませ」
 リアの口上に振り向いたものは僅か。向けられた目もどろりと濁っていた。その中に正気のものがあるか、注意深く見つめ返す。が、少なくとも階段近くに正気を保っている者はいないようだ。
「……とりあえず半分片づけるまでは用心しましょう」
 小声で仲間に伝えると、リアは腰をくねらせながら階段を下った。
 ジルーシャは、軍楽士隊の演奏に重ねるようにストラディバリウスを弾きながら行く。
「アリスちゃん、足元に気をつけてね。アタシの頭の上からその鍋の中身をぶちまけたりしたら許さないわよ」
 階段に転がる酒瓶や食い散らかしを、さりげなく足で隅に寄せた。楽士を劇場から連れ出す際に邪魔になる、というのもあるが、敵がこちらの企みに気づいて襲ってきた時、ゴミにつまずいて転んでくれれば助かる。
 ジルーシャの軽口にローガンはわざと憤慨した。
「兵隊さんのお食事である! こぼすなんてとんでもないである!!」
 大なべを座席に降ろしてフタを開ける。おいしそうな匂いと湯気が立ちのぼり、風にあおられ客席へ広く漂った。
 何人か兵士が、酒に焼けた鼻をひくひくさせた。舌を口の端からダランと伸ばした犬面が立ちあがり、ふらふら鍋に向かって歩きだすと、俺にも食わせろと立ち上がる者が続出した。
「たくさんあるから慌てないで。順番にね」
 卵丸はローガンを先に行かせると、食器を入れた籠をおろした。お玉を取りだして椀に盛りつけ、犬面に手渡す。
 椀の中には黄金色に染まった野菜たち。見た目は美しいが、実は腐っている。卵丸、渾身の特製悪料理だ。
「卵丸の特製手料理を食べて暖まったら、せっかくだから僕の歌も聞いてね」
 フリフリのステージ衣装の端をつまんで持ち上げて微笑む。腹の底では、さっさとお腹下しちゃえ、なんて思いながら。
 リアはステージに素早く上がると、楽士の一人に踊りながら近づいた。
「ローレットよ。あなたたちが所属する本隊から依頼を受けて助けに来たの」
 ステップを踏みながら移動し、別の楽士に耳打ちする。
「少しずつ、ここから逃げてもらうから、連中に気づかれないよう協力してちょうだい」
 半分ずつ。演奏をやめて逃げ出す準備をしてもらう。
 ジルーシャのバイオリンがリードする形で、人抜けによる曲の崩壊を防ぎつつ、演奏を続けさせた。
 いつの間にか、ステージ脇で控えていた救護班のビスと美咲が一人、二人と楽士を劇場から連れ出していく。
 ビスは星官僚のタクトを振って楽士の気を引きながら、美咲は魔眼をかけて。
(「頼んだであるよ」)
 ローガンはステージ下で子守歌を歌った。深みのある低い声が、語りかけるようにメロウでブルージィなメロディーを綴ってゆく。歌いながら、子供を寝かしつける母親さながらに寝ている兵士たち一人一人を気づかって回った。坊やが怖い夢に暴れてベッドから転げ落ちないように……手足をロープでしっかり縛る。
「さて、ステージを卵丸殿に任せて吾輩も連れだし――わわ、である!?」
 ローガンは兵士たちの気を引くために半裸になったリアをみて、顔を赤らめた。すでにリアは数名の兵士を劇場外で仕留め、赤い血を豊かな乳房の上に散らせていたが、それに気づいたのはローガン一人だけだろう。
 卵丸がステージに上がり、ジルーシャと交代した。
「みんなー、今日は卵丸のコンサートに来てくれてありがとー、一杯一杯楽しんでってね!」
 起きている兵士からアルコール臭い声援が送られる。
「卵丸ちゃーん! こっち見てー!」
「らんちゃん、かっわいいー! ペロペロしたーい!」
 ニッコリと観客席へ微笑みを返すが、内心ムカついていた。
(「卵丸ちゃんとか、らんちゃんとか言うな、卵丸は海の男なんだからなっ!」)
 ぐっとこらえて明るい声で歌いだす。もうすぐ下品な野次を飛ばす余裕なんてなくなるはずだから。
 ジルーシャはアルコールが霧となって見えるような観客席へ降りた。特別に調香した香りで酔っ払いたちをリラックスさせながら話しかける。
「是非、部隊長さんにお目にかかりたいわ。みなさん、とても素敵なんですもの。……どちらにいらっしゃるのかしら、ご存じ?」
 部隊長は立派なたてがみをした獅子のブルーブラッドだった。しこたま酔って藪にらみになっていることを割り引いても、かなり人相が悪い。
 悪臭に辟易しながら肩にしなだれかかると、部隊長はジルーシャの太ももに手を伸ばしてきた。
「めっ! いけないおてては縛っちゃいましょう」
 いちゃつくフリをしながら素早く縛りあげると、部隊長はニヤニヤ笑いながら体を横たえた。怪しまれないよう、鳥肌を立てながらしばらく添い寝する。
(「もういいかしら?」)
 その時、ステージの上から撤退の合図が出された。
「アンコールもコンサートの醍醐味、卵丸達一度引っ込むけど、大きな声でアンコールって呼んでね☆」
 ジルーシャはステージに戻ると、卵丸とともに残る楽士を連れ、階段を堂々上がって劇場を出た。


 響子はビスが劇場から連れ出してきた楽士の脇の下に肩を入れた。もう片方の手でトランペットを受け取る。
「頼んだよ。僕はもう一度、連れだしに戻る」
「はい。気をつけて」
 ビスを見送った後、肩から力なく垂れ下がる腕の先――楽士の指に目がいった。この寒さの寒の中、ずっとピストンを押さえ続けたため、指先が凍って切れたのだろうか。ぽたり、地にしたたり落ちる血の色が痛々しい。
 響子は楽士を地面に座らせた。持参した救急箱を開き、包帯を取りだす。
「本陣の方達と一刻も早く合流できるよう頑張りましょう」
 路上ではせいぜいが包帯を巻く程度。本当は馬車をもっと劇場の近くに止めるつもりだったが、したかだかない。
「もう少しですよ、しっかり。向こうで温かい食事を用意しています」
 手当てを済ませると、楽士の肩を担いで立ちあがった。辺りを警戒しながら、足音をひそめてパン・オスが待つキャンプへ戻る。全員がずっと劇場にするとは限らない。実はつい先ほども、腹に手をあてながら出てきた兵士の一人を倒したところだ。
(「……咄嗟の事だったとはいえ、倒す場所を考えなかったのは失敗でした」)
 兵士はこと切れる前に大を漏らしていた。臭い匂いを極力嗅がないように顔を横に向け、そばを通り抜けた。
「お帰り。さあ、こっちへ」
 パン・オスはトランぺッターの腕を取ると、すでに助け出された楽士の元へ連れて行った。座らせてから、温かいシチューとパンを手渡す。
「よく頑張ったな。美味しいものを食べて、仲間達と合流するまでしばし休んでくれ。あ、ビスが作ってくれたおかゆもあるぞ」
 切れた唇に熱いシチューが染みたのか、楽士が顔をしかめる。
「ビスが戻ってきたらちゃんと手当てしてもらおうな。あっちで湯も沸いている。腹を満たしたら、響子に手伝ってもらいながら服を着替えるといい」
 服は無人なった家々から拝借して来たものだ。他にも調理道具や毛布なども街から集めてきていた。
 パン・オスは響子に顔を向けた。
「彼で12人目。残り半分か。あとどのぐらい連れ出しにかかるかな?」
「娯楽班がいい感じで敵を動けなくしてくれていますし……そんなに時間はかからないんじゃないでしょうか」
 パン・オスは空を仰いだ。
 冬の日暮れは早い。空には気のはやい星が瞬き始めている。こうしている間にも、あたりは暗さを増していた。
「着替えを済ませた楽士から馬車に乗ってもらうか。鉄帝のやつらから奪った荷馬車も使えば、全員乗せられるな」
 オレは歩く、というパン・オスに後ろから美咲が声をかけた。
「御者がいないと困るよ。パン・オスさんは自分の馬車に乗って。私かジルーシャさん、それに卵丸君は鉄帝馬車にするから。乗り心地は悪そうだけど」
 美咲は劇場から連れだしてきたティンバレス演奏者を丸太の端に座らせた。
「ところで四台の出発順だけど……私たちを最後にして欲しいんだ」
 なぜ、という問いに美咲はいたずらっ子のように笑った。
「私、ここまで通ってきた経路はぜんぶ記憶してる。『効率よい逃走経路の候補』や、『どこを壊せば追手の邪魔になるか』もね」
 それだけではなく、美咲は本隊が駐屯している街までの道もしっかり学習してきていた。
「追手が出た場合に備えて、効率よく罠を仕掛けようと思っているの。どう?」
「いいアイデアです。馬を走らせながらの戦闘は、追われる方が不利です。数を減らすに越したことはありません」
 そこへビスが楽士を三人連れて戻ってきた。
「なんかもー、馬車の中で食べてもらった方がいいかな。最後の一人がここに来たら、すぐに出発しよう」
 治療の準備で手を洗いながら、おかゆの鍋を覗きこむ。次にシチューの鍋を覗き込んだ。
「減ってるね。食欲があるのはいいことだよ」
 連れ出す前に回復魔法をかけて体力を回復させてはいるが、温かい食事には叶わない。あとは馬車の中でしっかり仮眠をとってもらえばいいだろう。
「うさぎレスキュー、仕事はじめまーす。状態が悪い人はうさぎ馬車へ。移動中もライフサンダーで回復するよ」
 ビスが治療をほどこしている間にも、娯楽班のメンバーに支えられ、つぎつぎと劇場から楽士が助け出されて来た。もちろん楽器もいっしょに運ばれてくる。リアとローガンが、最後にジルーシャと卵丸が楽器を持たない指揮者とともに戻ってきた。
 響子が人数を数える。
「楽士24名、ローレット8名。全員揃いました」
「よし、出発しよう」
 最初にパン・オスの馬車と軍馬に乗ったリアが出発。次にビスのうさぎ馬車と軍馬に乗ったローガンが立った。比較的に元気な楽士を乗せた荷馬車を、卵丸が御して出る。最後に、楽器とジルーシャを乗せた美咲の馬車が残った。
「まず、劇場のメイン出入り口を壊すよ。それから事前に目をつけていた場所を壊しつつ、皆と別方向へ離脱。追手が来たらジルーシャさん、お願い」
「任せてちょうだい」
 派手に逃走の偽痕跡を作りながら、美咲たちは大きく迂回するルートで先を行く仲間たちを負った。
 合流してしばら、もうすぐ街の明かりが見えるというころ、夜の闇に荒々しい蹄の音が響いた。それも複数。
 追手だ。
 ランタンに火を灯し、暗闇に掲げると、獅子のたてがみを立てた悪人ズラを先頭に、三騎が迫ってきていた。とはいえ、馬の首にみっともなくしがみつく格好だ。ただ、ただ、意地だけでイレギュラーズたちを追いかけてきたらしい。
 前に回り込まれて止められないよう、パン・オスとビス、卵丸が馬車を下がらせて美咲が御す馬車と並んだ。広い道を四台で塞ぐ。
 軍馬に乗ったリアとローガンが敵指揮官に従う兵士2名を討ち、ジルーシャがお別れの品とばかりにロベリアの花を撒いて獅子面を撃破した。
「フフ、これで酔いも醒めたでしょ? 次に音楽を粗末に扱ったら許さないんだから!」


 無事に本隊が待つ街まで送り届けたイレギュラーズたちは、去り際に「ありがとう」と感謝され、涙する楽士たちに手を握られた。そればかりか――。

 星が輝く空の下、幻想のマーチはイレギュラーズたちの姿が見えなくなるまで演奏された。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

成功です。
ご参加ありがとうございました。

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