シナリオ詳細
<ジーニアス・ゲイム>ハーレイと魔導機械
オープニング
●発端
ローレットへその少女が訪れたのは夜半過ぎてのことだった。
泥で汚れてはいるが、上質なシルクの衣装に身を包み、何かにおびえるようにあたりを見回している。『黒猫の』ショウ(p3n000005)は彼女に近づき、椅子を勧めると温かいお茶でもてなした。少女はショウへ金貨の入った袋をさしだした。
「私の両親を助けてほしいの」
聞けば彼女はケイティケイティという町の領主の娘、つまり貴族だ。ショウは続きを促した。
「昨日の晩、賊が眠っている私たちのところまで侵入し、パパとママを捕虜にしてしまったの。私はどうしてだかこの袋とカードを渡されてローレットへ行くように言われたの」
カードには流麗な文字で一言『ハーレイ盗賊団、ここに参上』とある。最近世間を騒がせている砂蠍の配下の一派で、多額の上納金で組織をのしあがろうとしているグループだとの噂をショウは思い出した。そして何度かイレギュラーズと拳を交えた結果、イレギュラーズそのものへ興味を抱くようになってきたということも。
「……あのね、パパとママは悪徳領主って呼ばれててね、でも私には大事な家族なの。助けてほしいの」
少女の瞳からぽろんと涙がこぼれ、紅茶へ落ちて輪を描いた。
●承前
最初に気づいたのは押し殺した男の声。
「……起きろ。おい、起きろ」
こんな夜中に何者か無礼であるぞとケイティケイティの領主イクサルは目を開け、仰天した。首筋へヒヤリをするものが押し付けられたからだ。寝室へ見るからに盗賊団とおぼしきガラの悪い連中が押し込んでいる。「読め、そしてサインしろ」カンテラの薄明かりに照らし出されたのは一枚の羊皮紙。
イクサルはそれに書かれた一文を視線でたどり、目をひん剥いた。「屋敷の使用権ならびに付帯するすべての権利を委譲する」。羊皮紙を持った優男が楽しげに笑う。
「サインするかしねえか、いまここで決めな。こちとらあんたの血をインク代わりにしたっていいんだぜ」
「ま、まて、サインしたら私はどうなる。私の妻は、娘は」
「お、のってきたね。やっぱり命乞いがあってこその脅迫だよなあ。安心しな。あんたと嫁さんは地下牢いきだ。いちばんいい部屋を用意しておくから覚悟してな。娘さんにゃローレットへいってもらう」
「ローレット?」
はて。と、イクサルは首を傾げそうになった。世界をまたにかける『何でも屋』。希望と可能性をあつめ、不可能を可能にするローレットへ娘が行ったならば、当然自分たちの救出依頼をだすはずだ。あの優しい娘のことだからきっと自分たちを助ける依頼をだしてくれるに違いない。イクサルは混乱した。
「何を考えている?」
「俺たちゃオモチャがほしいのよ。いとしのイレギュラーズちゃんとドンパチするのにふさわしい楽しい楽しいオモチャが」
つまり、イレギュラーズと戦う、そのためだけにこの屋敷を欲しているのだ。
「まさかおぬし……」
「そのまさか、だ。あんたにゃ寄ってもらうところがある。知らないふりしたって意味ないぜ、もう場所はおさえてあるんだ」
恐怖と屈辱に震えながらイクサルは羽ペンを動かした。イクサルのサインの下に、優男は外見そのままの流麗な文字で自分の名をいれる。ハーレイ……そこまでは読みとれた。何故ならイクサルはぼんのくぼに手刀を入れられ、意識を失ったからだ。
意識を取り戻したイクサルは、自分ががんじがらめにされていることに気がついた。コツコツと硬い靴音が壁に反響する。
「なーんか変な屋敷だと思ったんだよな。窓は丸くて小さいし、ほとんどのドアは金属製だし。けど、それもこいつの秘密を知れば納得だ」
ハーレイは機嫌よくそう言うと、行き止まりの部屋を開けた。
「や、やめろ、よしてくれ! 『こいつ』は危険すぎる、ゆえに封印されたのだ!」
「そうかい、そりゃ楽しみも増すってものさ」
ハーレイは小さな台の前に立つと、イクサルの手を台ヘ押し当てた。とたんに部屋中が光り輝く。腹に響く音がして、重いエンジン音がいななく。壁面にはずらりと並んだモニター。屋敷の外、廊下、ホールなどを映しだしている。ハーレイは今度は自分が台ヘ手を押し当てた。
「こういう時なんていうんだ、パンツァーフォー?」
エンジン音が高まった。
目前のモニターに、『艦長を変更しました』の文字が流れていく。地震のように屋敷が揺れ、やがて『それ』は地を走り始めた。屋敷の体をなしていたハリボテが吹き飛び、大砲が現れる。キュラキュラと音がして、通常の倍以上もの大きさのキャタピラが現れた。音声に反応して動く練達製の巨大戦車、それがこの屋敷の正体だった。
イクサルを地下牢へ放り込む段取りを付けると、ハーレイは操縦室を眺め回した。その後ろにひざまずくいくつもの影。略式だが兵装をしており、全員が銃を腰にぶら下げていた。
「ハーレイ様、砲兵隊、整いましてございます」
「ん、おつかれさん」
「我ら四十名、地獄の底までお供いたします」
「そこまで気張らなくていいぜ。ほどほどのところで引いて長生きしてくれや」
「冬の寒さが厳しいこの時期に減税をしていただけるとは、住民一同命をとりとめたも同然です。せめてものご恩返しをさせてください」
「薪の税をなしにしただけだろ。腹が減っているときに体が冷えるとガチでへこむからな」
ハーレイは指先であごをなで、あたりをぐるりと見回した。いくつもの大砲と機銃。彼ら砲兵隊が扱えば海の上の扇すら撃ち抜くだろう。だがその代償は計り知れない。
「こいつは金食い虫だからな。税金も高くなろうってもんよ。ま、俺がぱあっと使ってやるから、お前たちも磨いた腕を存分に発揮してくれ」
「御意」
「それと、怪我人はすぐ後ろへ下がらせてくれよ、でないと目覚めが悪い、俺がな!」
「やはりハーレイ様こそこの町の領主にふさわしい。自分のことしか考えない元領主へ忠誠を誓った日々がうそのように充実しています」
「持ち上げるのもそこまでにしてくれ。ヤサは定期的に変えることにしてるんだ。俺たちにゃ星空が一番の天井よ」
「どうかそうおっしゃらずにこのケイティケイティを末永くお導きください、ハーレイ様、いえ、領主様」
そう言って砲兵隊は隊長以下全員が頭を下げた。ハーレイは困ったように頬をかいている。そこへハーレイの手下がどら声を張り上げた。
「アニキ、ここから西へいったところが人里がなくてちょうどいい! 矢でも鉄砲でも打ち放題だ!」
「よし、よくやった! ひとまず俺は主砲の威力がみたい。一発打ってくれや!」
「おまかせあれ。ハーレイ様」
砲兵隊が位置につく。主砲の照準を定め、エネルギーを充填させ、発射。耳をつんざくような轟音と光が長く虹のように伸びて山へ直撃する。爆音のこだまが去った後、着弾点にはなにもなかった。ただえぐれた地面があるだけだった。
「あははははは! こいつはいい!」
ハーレイが手を打って笑った。
「この主砲がある限りこの艦は無敵です」
「さて、どうだろうな」
砲兵隊隊長の言葉にハーレイは鼻歌でも歌いそうに機嫌よく返した。
「なぁにすぐ来るさ。厄災が。破滅が。台無しが。すべてかきまわして混沌のるつぼにするイレギュラーズがくるぜ」
●さぁて!
「仕事の話をしようか。今回の相手は巨大戦車ラグナロックだ。君たちにはなんとかしてラグナロックへ乗り込み、撃沈してほしい」
言うは易く行うは難しというやつなんだけどね。と、ショウは言った。
「いまはまだハーレイ盗賊団のオモチャになっているけれど、『盗賊王』キング・スコルピオに献上されてしまうと厄介だ。キングの配下は既に軍隊と呼ぶにふさわしい。彼らは既に幻想南部へ拠点を築いている。次に狙うのは、首都メフ・メフィートだろうね。そこへ強力な砲を持つ戦車が加勢したら……どうなるか」
珍しくショウがためいきをつく。
「北部戦線の二つの助力、幻想南部での砂蠍との対決――状況は極めて混沌としている。きみたちは鉄帝と幻想、ふたつの依頼をこなしつつ、『新生・砂蠍』の国盗りにも対抗しなけりゃならない」
大変だと思うがそこはなんとかしておくれよ、プリーズ。そう言ってショウは苦笑を浮かべた。
「船の艦長は『いいとこどりの』ハーレイ。棍棒使いの手下が二十人、神秘使いの手下が二十人、そして今回新しく砲兵隊が四十人加わった。彼らの処遇は君たちに任せられている。殺してもいいし、捕縛してもいい。けれども、部下たちの忠誠心をなめちゃいけないよ。ハーレイは専用のギフトでも持ってるのかってくらい、相手を魅了してしまうんだ」
そのうえ気に入ったイレギュラーズをキディちゃんと呼び、追い回すくせがあるという。
「誰が気に入られるかわからないから女の子は一応、覚悟しておいてね」
ほんとにもう困ったやつだよね、なんていいながらショウはいれたての紅茶へウイスキーをひとたらしした。
- <ジーニアス・ゲイム>ハーレイと魔導機械完了
- GM名赤白みどり
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年12月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
巨大戦車ラグナロック、それが今回の標的だ。
イレギュラーズたちは物陰から双眼鏡で下調べをする。頑強な装甲、四方に据えられた砲門。何より、その大きさ。この距離からでも双眼鏡の視野を圧迫してくる。その履帯はせわしなく動き、西へ西へと向かっている。
「わー、大きいなぁ。思わず現実逃避しちゃいそう。こんなのが動くんだ」
『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はぽかんと口を開けて戦車を見つめていた。もとは屋敷として使われていたというだけあって、冗談のようにバカでかい。その分通常の戦車のように小器用な立ち回りはできなさそうだ。
「住める戦車、か。少し、欲しいな。ローレットの移動拠点にでも、できないものだろう、か……」
「そいつは無理だろう、なにせ今回のオーダーはやつの破壊だ」
『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)のつぶやきに、『風来の博徒』ライネル・ゼメキス(p3p002044)が答えた。
「もしあれが船としたら、動力系はどこにあるんだろうな。やっぱり下段か?」
戦車は見る限り、主砲のついた上段、甲板のせり出ている中段、そしてキャタピラの走る下段にわかれている。外見からのおおざっぱな把握でしかないが、少なくともあの戦車が複数階の構造をしているのはまちがいないだろう。
「頭の悪いモン作った奴がいたものじゃのう」
『鋼鉄の谷の』ゲンリー(p3p001310)が嘆息した。ドワーフたる彼には、戦車がただ鋼鉄を積み上げ、砲台を取り付けただけの不格好な代物にしか見えないのだろう。
「戦車っつうのはもっとこう、装甲と砲台のバランスを考えて作るもんじゃ。あの戦車には機能美がない。ごてごて着飾っとるだけじゃ」
『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)がしげしげと戦車を眺める。
「地上を移動するカラクリとしては、拙の覚えている限り最大級でございますね。これほど大きな物が動くとは、正直信じられませんが」
「戦力増強と新蠍への意思表示ついでのこちらとの戦闘。うまくいけば兵器も手に入る。入らずとも得るもののほうが多い……辺りですかね。領主の椅子は野の獣には窮屈そうですが。この玩具はお渡しするわけには参りません」
「拙はハーレイという男に関しては、あまり好んで戦いたい相手ではございませんね。己で戦わぬ者は、好きませぬ」
『極楽を這う』天音 白雉(p3p004954)の言を受けて、雪之丞はふんと鼻を鳴らす。
「みんなわかっとるな。今回の方針は、ハーレイをとっとと退散させて戦車を壊すことじゃ」
そのためには……。なんとも言えない空気が一同に落ちた。スティアは思う。
(……手下を十人以上殺さなくてはならない。生きてる人を明確に「殺す」と決めるのは初めてだなぁ。情けをかければこっちが危ないし、仕方がない事なんだけど。こういう状況を作ったハーレイがちょっと恨めしい。仲間が死ぬかもしれない状況で何を考えているのかな。死んだら増やせば良いと思ってるのかな?)
彼女の戸惑いは正当なものだ。良心ある人間ならば、はい殺せと言われてもすぐに切り替えることはなかなか難しい。だが、目的の前には犠牲が必要なときもある。スティアは覚悟を決めた。
『星の歌姫』シュテルン(p3p006791)はかたかたと震える体を己で抱きしめ、きゅっと唇を噛んだ。
「シュテ、凄く……怖い。でも、がんば、る、の!」
大きな戦いのうねりが幻想全土を包んでいる。今シュテルンが目にしている戦車もその一角に過ぎない。血潮と阿鼻叫喚を大気から感じ取り、彼女は再び自分を抱きしめた。だが、大丈夫。ただ、怖いだけ。今はただ。恐怖をも大事に抱いて、あとは走り抜ければいい。それが自分を、仲間を守ることにもつながるのだから。
「さあみなさん。立ち止まっていても仕方がないですよ!」
『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)が気勢を上げた。
「長大な射程の主砲に隙のない対空射撃……巨大戦車ラグナロック、近寄ることすら難しいでしょう。僕以外にはね」
そう言うとアルプスは邪気のない笑顔をみせて、本体であるバイクのシートを指先で叩いた。雪之丞とエクスマリアがそれに答えて後ろに乗る。
「行きましょう!」
バイクは地を走り、小石を蹴ってふわりと空へ浮かび上がった。
●
「未確認飛行物体接近中! イレギュラーズと思われます!」
『どっちだ』
「後方です!」
『機銃はどうだ。使えるかー?』
「それが速すぎて、こ、こちらへみるみる近づいてきます! ご指示を!」
スピーカーが一瞬沈黙した。
『そっかあ。やっこさん十中八九甲板へ乗り付ける気だな。砲兵隊は持ち場を離れ、後ろの甲板へ集まれ。腰の小銃で着陸してきたところを狙いな。一発打ったら中へ戻ってこい』
「了解」
『射線には気をつけてな』
「了解!」
はたして排気音とともにアルプスは甲板へ着地した。スピーカーからハーレイの声が響く。
『よおし、砲兵隊。俺の剣となれ!』
指示通り砲兵隊は発砲した。弾丸が牙を剥き、アルプスたちの体へ突き刺さる。
「ぐ……うう!」
「はうっ!」
アルプスがうめき、雪之丞が激痛に息を呑む。エクスマリアが黄金の髪を振り乱した。返り血が甲板を汚し、パンドラの青い光が三者三様に輝いた。
『退却!』
再びハーレイの声が響いた。砲兵隊は側部のハッチをあけ、次々と中へ入っていく。
「待ちなさい……!」
雪之丞がすばやく甲板を蹴り、ハッチへ近づいた。大きく息を吸い込んで豪鬼喝。直撃した3~4人が戦車の斜面を転がり落ちていく。
だが彼らには構わずすぐにハッチは閉められ、甲板は駆動音だけが響く閑散とした場になった。
「噂に聞いていたハーレイの号令、これほどの威力を持つとは」
エクスマリアが不服気な顔をする。
「それよりも気になるのは、甲板でさえハーレイの指示が届くということだ。戦車内への侵入は、ヤツの城へ入るも同じ」
彼女は閉じられたハッチをうろんな目で見た。この向こうには統制の取れた手下たちによる大火力が飛び交う戦場が待っているのだろう。きちんと対策を講じなければ。
そう思いながらゲンリーから受け取った鉤縄を戦車の後方へ取り付ける。黄金の髪でしっかりと固定し、もう一房を手の代わりに上へ上げ、出番を待っている仲間へ合図した。まずゲンリーが紐へ組み付き、それからライネルが軽快に縄を登り、白雉とスティアがそれに続いた。がらんとした甲板にあがると、いくつかのハッチがあることに気づく。
まずは正面にある主砲へと続く扉。中央にある階下へとつながる観音開きの扉。両の側面にあるハッチ。正面以外の入り口は、中段へつながっているのだろう。
「どうする? どの入口を選んでも待ち伏せをされていそうだよなあ」
ライネルがつとめて明るく言った。実際そのとおりなのだろう。しかしそれは敵戦力の分散を意味する。制圧できれば一気に走り抜けることも可能かもしれない。どちらにせよ地の利はあちらへあるのだ。ならば突き進み、粉砕するのみ。
「それでは、内部は頼みましたよヒーロー達!」
言うなりアルプスはすさまじいスピードで戦車の後方、砲撃のレンジ外へ移動した。そこから戦車本体へダメージを与えていく心算だ。
「頼まれたからにはなさねばならんのう」
ゲンリーが愉快げに笑みを浮かべ、火炎瓶を取り出し、左のハッチへ近づいた。
「砲兵たちが逃げ道に使っていたということは、ここは間違いなく行き止まりではない。そして待ち伏せにはこれがよく効くんじゃ」
ゲンリーはそういうとハッチをあけ、火炎瓶を中へ放り込んですぐに閉めた。中から聞こえる絶叫が鉄の扉に遮られる。
「1、2、……」
たっぷり十数えてゲンリーは再び扉を開けた。割れた火炎瓶が焦げた絨毯とともに残されている。
「ふむ、死体がないということは、向こうにも回復手がいるということじゃな」
顔だけ中に入れると、上品なオフホワイト一色の部屋が見えた。そう広い部屋ではない。妙にカラフルなゴミ袋が積まれている以外は特になにもないのがわかった。エクスマリアが髪を伸ばし、ハシゴをつたってするりと部屋へ降りる。
「戦車……なのに、中、お屋敷……? びっくり……」
シュテルンが瞬きをする。目隠し程度の扉が目の前にあった。エクスマリアはゴミ袋をひとつ、髪の毛で切り裂いてみる。なかからあふれだしたのはドレスだった。
「胸元の破れ方が激しい。きっと縫い付けられた宝石を奪ったんだよ」
「ドレスがたくさん……ということは、ここはウォークインクローゼットだったのだろうな」
『大当たり~』
エクスマリアがつぶやいたとたん、突然若い男の声が辺りに響いた。
『イレギュラーズちゃんのお耳の恋人、ハーレイでっす!』
「なんだかめんどうなのが出ましたね」
雪之丞が目をすがめた。
「てめえ、どこにいる!?」
ライネルが声を上げた。からからと笑い声が降ってくる。
『当てたらクラッカーを鳴らしてケーキをプレゼントしてやるよ。そうだな、こっちからはあんたたちがよ~く見えてるぜ。キディちゃんの羽の一枚一枚までな』
「……下品な」
白雉が眉をしかめ、羽を隠すように腕を背にまわした。
『まああんまり話し込むのもあれだ。俺とキディちゃんたちは悲しいことに敵同士だからな。仕掛けてこいよ、こっちはそれが楽しみなんだ。じゃあな』
ブツンという音がした。通信が切れたのだろう。
白雉は落ち着いてあたりを見回し、天井の隅にカメラアイをひとつ見つけだした。
「あれがハーレイの目ですね。……藍より青し疾風、迅雷の髄、衝撃の青をこれに!」
突き出した両手から衝撃の青が放たれる。壁紙が引きちぎれ、カメラアイが粉々に砕け、そして、壁の一部が吹き飛んだ。鋼鉄の壁が衝撃に耐えきれず、大穴が開く。
「この調子でどこもかしこも壊して回りましょうか」
「そうしたいところじゃが。狙うなら動力系じゃ。それまで温存しておけ」
ゲンリーがドレスの山へ火をつける。炎の舌が壁をなめ、みるみるうちに壁紙で隠されていた本来の部屋の姿を暴き出す。まるく小さな窓の下に走る無数のパイプ。その中でも青く輝く液体が走るパイプへ目をつけ、ゲンリーはそれを拳で壊した。
『ああ~! 最初にそれいっちゃうわけ!? じーさん目ざといなあ、いい勘してるじゃん!』
「やかましゃあ若造。お主の細首、握りつぶしてやるから覚悟しておけ」
『お、いいねいいね。そういうの大好きさ。その調子でどんどんやっちゃっていいぜ』
「……お主もしかしてドMか」
ゲンリーがうっとおしげに手を振った。十分に注意をしてクローゼットから外に出る。広めの部屋だった。ふかふかの絨毯を踏み荒らしつつイレギュラーズたちは円陣を組んで動いた。鋼鉄の扉がある。
「拙が確かめてまいります」
「いや、おぬしは既にパンドラを使っていよう。わしが前に出る」
「シュ……シュテ、がんばって、回復、する、か、ら」
ゲンリーのうしろへぴたりとくっつくシュテルン。きゅと拳を握って小声で静寂のバラードを口ずさむ。ゲンリーが扉を開けて左右を確認する。モザイクで彩られた廊下があった。どうやらこの廊下を軸にいくつもの部屋が並んでいるらしい。
「安全か?」
「今の所はな。ともかく、クローゼットの火の勢いが強くなっている。早く移動せねばわしらも巻き込まれるのう」
部屋でじっとしていてはどうしようもない。そう考えたイレギュラーズたちは一気に廊下へ出た。
その瞬間、左方向のドアが次々と開き、ハーレイの手下が飛び出してきた。
『撃て撃て! ここで仕留める気でやっちまいな!』
彼らが一斉に呪文の詠唱を開始した。整然と並んだ手下たちがイレギュラーズを集中攻撃する。放たれた魔力の弾丸がイレギュラーズの体へ炸裂する。
「いかん、引け」
「引くったって。どこに引くんだよエクスマリア! 部屋は火事で使えねえぞ!」
「右だ。右側へ走れ、まだ誰もいない」
「罠かもしれないだろ!」
「ここで倒れるよりマシだ」
エクスマリアはわめくライネルに髪の毛を縛り付けて自分の後ろへ移動させた。言い合っているうちにさらに傷がひどくなっていく。パンドラの使いどころはここだとばかりにイレギュラーズたちが青く染まる。
『おい、マジでここで終わるのか? 冗談だろ、イレギュラーズなのに?』
ハーレイの声がしゃくに触る。シュテルンはむかむかする心を集中させて、神秘の力を増大させる。小さな口から澄んだ歌声があふれだした。
「そっと 目を閉じて
そっと 明星光る
そっと 時を重ねて……」
淡く光る癒しが全員へ施される。その歌声で力を取り戻したスティアが、近くの扉へ取り付き、ノブをまわした。
「カギがかかってる!」
「こっちもだ!」
ライネルも叫ぶ。一同は逃げ場を探してさらに奥へ押し込まれた。スティアがまわしたドアが音を立てて開く。
「ここだよみんな!」
一同はその部屋へなだれ込み、扉を閉めた。弾幕の音が小さくなる。ほっとしたのもつかのま、重い足音が複数、右側からなだれこんできた。
「もしや」
ライネルが扉を開ける。再び始まった神秘攻撃の猛攻を扉で受け流したライネルが見たものは、棍棒を持った男たちが長い廊下を走ってくる姿だった。反射的に扉を閉める。
「挟み撃ちかよ。ハーレイのやつ、最初からこれを狙ってたな」
「どう、し、よ……ねえ」
シュテルンが不安げに肩を抱いた。
エクスマリアが髪の毛をゆらりと揺らめかせ、部屋のカメラアイを壊した。
「これからどうする?」
「……撤退じゃ。もはやわしらはハーレイの手の内。あがけばあがくほど首が絞まる」
ゲンリーが歯噛みする。
「計算上、策は完璧でした。ただ、ハーレイがここまでこの玩具を使いこなしているとまでは。面倒なことになってまいりました。ここはいったん引くが吉と白雉も考えます」
「それならいい出口がある。廊下を挟んだはす向かいの部屋に外へ続くハッチがあるそうだ」
しゅるりと紙で壁をなで、エクスマリアは淡々と無機疎通で得た情報を味方へ提供する。スティアが口火を切った。
「だったら、棍棒のやつらのブロックを頼む。私がライトニングを撃つ隙を狙ってくれ」
「神秘の人たち……は、どう、す、る、の?」
「やらせておけばいい、気力はいずれ尽きるよ。それより格闘に秀でた前衛どものほうが今の状況では厄介だ」
スティアが前に出た。神秘の弾幕を扉一枚で耐えながら、己の中の魔力を練り上げる。
「遠方より来ませい激しくも美しきものよ、我にあだなす者らを打ち破りませい、雷帝の一撃よ――ライトニング!」
強烈かつ効果的な一撃だった。細い廊下、そこへ体格の良さから一列に並ばざるをえなかった男たちを貫いてスティアのライトニングが疾駆する。直撃を食らった最前列がぐらりとゆらぎ、皮鎧から煙を上げながら倒れた。
『げっ。そんな隠し玉があったのかよ』
「何もかも思い通りになると思ったら大間違いだよ、ハーレイ」
スティアが廊下のカメラアイをにらみつける。そしてすみやかに雪之丞と交代した。
「拙の目があるうちは、容易くはいかせませんので」
たたらを踏んでいた後続の棍棒持ちをがっちりとブロックする。
邪魔な男どもはライネルとゲンリーが黙らせる。目的の部屋の扉を開けると、天井の隅にはしごが垂れ下がった扉があった。
(狙われている……)
アルプスは戦車の後ろから遠く離れた距離を維持したまま走っていた。戦車の速度に合わせての移動にならざるをえず、のろのろと走るしかない。
彼の戦場は膠着状態に陥っていた。アルプスが待機しているように、砲兵たちも待機しているのだ。相手の出方を伺っているのだ。
(勢いに任せて突っ込むか? いやそれでは機銃掃射の餌食になる。何より後方の副門が直撃したら立っていられない)
突入に気を取られるあまり後方の砲門を潰さなかったのは痛手だった。
待機者同士の順番争いは、結局反応をあげた者が制する。アルプスは砲兵より先に動かざるをえず、待っているのは蜂の巣になる未来だ。アルプスはギシリと奥歯を噛み締めた。こんな射程外からでは援護攻撃もできない。やむをえず手番を、攻撃の意志を放棄する。すると敵も同じようにする。先延ばしにされるだけの戦闘に、アルプスは苦り切った思いでのろのろ運転を続けた。
戦況が変わったのは突然だった。後部甲板から仲間たちが次々と姿を現し、砲兵たちを倒しはじめたのだ。
「どうしたんですか皆さん!」
「撤退だよ、履帯を切って! アルプスさんは私たちが回収するから遠慮なくやっちゃってよ!」
スティアが大声を上げる。
「わかりました!」
磨き続けた牙を突き立てるのはこの時。
アルプスは超加速してラグナロックへ接近し、スピンしながらエッジを履帯へ食い込ませる。鉄板の隙間を正確に狙った一撃に、巨大な履帯がきしみをあげて引きちぎれていく。アルプスほどの攻撃力でなければなしえない破壊力だった。制御を失ったラグナロックは横滑りして獣道からそれていく。
近くの丘からそれを眺めたイレギュラーズたち。ゲンリーが疲れたように座り込んだ。
「今回は痛みわけじゃのう。次はそっくび刎ねてやるぞ、まっとれ若造」
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
プレイング全体が駄目だったという事はありませんが重要な部分の不足もあった為今回は高難易度という事で総合的な判断で失敗判定となりました。
シナリオにご参加をありがとうございました。
またのご利用をお待ちしております。
GMコメント
目標
巨大戦車ラグナロックの破壊
ロケーション
真昼 風はそよそよくらい
戦車は西へ向かっています
今回のメインディッシュ:ラグナロック
左右に六門、正面に主砲と機銃二丁、後方に一門と機銃二丁を搭載した巨大な戦車です。エネルギーの殆どを大砲へまわしているため、動きは鈍重で、毎ターン10mを移動します。また、各砲門はそれぞれに行動力を有しており、集中攻撃されると非常に危険です。大きさは便宜上25立方メートルとします。
アプローチの方法はいくつかあります。
飛行で近づく
上空は砲の死角になっています。機銃にさえ気をつければ一方的に攻撃することも可能でしょう。
フック付きロープや縄梯子で乗りこむ
地上10mの部分に戦車の甲板があります。そこから乗りこむのも手です。内部にはハーレイの手下が控えています。まずはそれらを排除する必要があるでしょう。スタイリッシュな方法と言えるでしょう。
殴って壊す
もっともエキサイティングでファンタスティックな方法がこちらになります。ただし戦車の最大HPはPCのそれをかるく凌駕するうえ、乗員たちが反撃してきますので、お気をつけてお越しください。
●『いいとこどり』のハーレイ
さまざまな号令の使い手です
号令は二人以上の盗賊に対して効果を発揮します
メインは
・特攻せよ(号令を受けた盗賊が捨て身の一撃を繰り出します
・俺の盾になれ(号令を受けた盗賊がハーレイのもとに集まり彼をかばいます
・俺の剣になれ(ハーレイの号令に応じて集中砲火を浴びせます 人数によってはパンドラ必須レベルです
・転進せよ(逃亡します
HPが50%を切るか、手下が十人以上殺された場合逃亡します。
捕縛はカウントに入りません。
ハーレイの手下
棍棒による近距離担当が20人
神秘攻撃による中~遠距離担当が20人
イレギュラーズを見ると襲いかかってきます
ハーレイへの忠誠心が高く、彼の号令に盲目的に従います
砲兵隊
大砲や機銃を扱うための軍人 40人
全員銃装備 中~超対応
ハーレイの号令にも従う
長い間この日のための訓練を秘密裏に行っていたらしくかなりのテンションでヒャッハーしている
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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