シナリオ詳細
ノンフィクション、偽りの勇者
オープニング
●
『こうして、勇者のレイピアは巨大なる二つ頭のグリフォンの、一つしかない心臓を貫き、人々に平和をもたらしました』
『この冒険譚は、偉大なる勇者ドノファン・ノーブルから、未来の冒険者たちへ捧げます。
やろうと思えば、きっと出来る!
ひとに、出来ないことなんてありません。
ひとはなんにだってなれるのです、勇者にだって。実際にグリフォンを倒した、このドノファンが保証します。
なれる! 冒険者! なれる! 英雄!
さあ、次は君の番だ!』
ドノファン・ノーブル著『グリフォンを倒した時のほんのささやかな体験について』
●サイン会
「はいはい、押さないで! きちんと並んでくださいね!」
「きゃー! ドノファン様! 応援してます!」
「新作読みました! 面白かったです!」
ここは、幻想の小さな町の一角だ。何やらにぎわっている。
「ようっ! あの人だかりの理由が知りたいんだな?」
別に知りたいとは言っていないかもしれない。そうであっても自称・情報屋のキータ・ペテルソン (p3n000049)は一方的に話し出す。
「『ドノファン・ノーブル』って作家知ってるか? 冒険小説家で、ここいらでちょっと有名な男なんだけどな。見た目がいいから、ちびっ子だけでなくて奥様方に大人気らしいぜ。あの人だかりの何人かは、母親のほうがドノファン目当てで子供を連れてきてるんだろうな!」
たしかに人込みには子供が多いが、それ以上に奥様方が多い。
列の先では、派手な貴族風の恰好をした男が、ひっきりなしに本にサインしているのが見える。ファンと握手したり、(自分の!)ブロマイドを売ったり、どうにもナルシスト感のぬぐえない男だ。
小さな子供が母親に促され、ドノファンに歩み寄っていく。
「ドノファンさん、ぼくでも勇者になれますか?」
「ああ、もちろんだとも!」
「でも、ぼく、体も小さくて、勇気もないです……」
「だーいじょうぶ! 私だって、小さい頃は君みたいな子供だったんだよ」
「ほ、ほんとう?」
「本当だとも! でも、きちんと修行を積んで、グリフォンを倒せるくらいの男になれたのだよ!」
「ぼくもドノファンさんみたいになりたい……です」
「じゃあ、まずは好き嫌いせずに食べて、太陽をたくさん浴びて過ごしてみることだ! ありがとね。はい、次の人ー!」
ドノファンは本にサインを終えると、次に並んでいる人を呼んだ。
「ちっちゃいころは、俺も勇者ごっこなーんてしたっけな。あ、サインももらったんだぜ」
キータが見せびらかしてきたサインには、よく見ると「けいた君へ」と書かれている。名前間違われてるぞ。
しばらく見ていると、ドノファンもこちらに気が付いたようだ。
「おや、あなたがた、ひょっとしてほんとうの冒険者というわけですか? ノンノン、このドノファンの目をごまかせはしません」
「きゃー! 冒険者よ!」
ドノファンが歩み寄ってくると、人だかりが割れる。
「よろしければ、冒険のお話を聞かせてくださいませんか?」
●宴と山賊
ドノファンは、イレギュラーズの冒険の話を聞く代わりに、酒場で食べ物や飲み物を奢ると言った。きみたちは、ドノファンと一緒に語り明かしたかもしれないし、あるいは、呆れて帰ってしまったことだろう。
すっかり夜も遅くなり、酒が飲めるものが酔いつぶれてしまいかけたころ……。慌ただしく扉が開いた。
ただならぬ雰囲気を察する。
「大変です!」
「どうしました?」
「さ、山賊に子供がさらわれてしまって」
「なんですって!」
その一言に、すっかり酔いがさめる。
「でも、ドノファンさんがいらしてくれてよかった! ああ、山賊は、夜明けまでに根城に身代金を持ってくるようにと言っています!」
「金はこれだけは集めたのですが……半分ほど足りず……ドノファンさん! お願いします。グリフォンを倒したというあなたであればきっと、山賊から子どもたちを助けられるはずです!」
「お願いします! 息子を助けてください!」
「む、娘はまだ! 5歳なんです!」
ドノファンの顔が青ざめる。
「う、ウムムムム……分かりました。少々、時間を……時間をください」
「ありがとうございます。でもあまり時間が……」
「では、準備しておくので、そこで待っていてください」
しかし、いつまでたってもドノファンが戻ってこない。嫌な予感がして部屋に乗り込むと、泣きそうな顔で荷物をまとめ、窓から伝って逃げようとするドノファンの姿を目にする。
- ノンフィクション、偽りの勇者完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年12月06日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●白日
ドノファンの威光は借り物であると知れた。
だが、イレギュラーズもそれは十分察していたことだ。
「ふーん、まぁ嘘だろうがなんだろうがどうでもいいけど。その程度の冒険譚に興味ないし」
『「冒険者」』アミ―リア(p3p001474)はばっさり斬って捨てる。(外見上は)幼い少女の言に、ドノファンはうなだれた。
「まぁ、そんなこったろうと思いましたよ……えひひひ」
『こそどろ』エマ(p3p000257)はひきつった笑みを浮かべた。
ドノファンの話に多少なりとも目を輝かせていたのは、『孤兎』コゼット(p3p002755)くらいなものだろう。
「なんだ、話してたのはうそだったんだ……がっかり、だよ」
悲し気に黒い兎の耳を畳むコゼット。これにはさすがに良心が痛んだ。
「冒険者って訳じゃないし、特異運命座標のことは好きじゃないんだけどなー」
偶然にもこの事態に居合わせた『気まぐれドクター』松庭 黄瀬(p3p004236)くるくるとメスを弄ぶ。
「まー、いいや。冒険者らしくお仕事しよっかー」
ドノファンは安堵しかけた。だが、エマは素早く動き、ドノファンの喉元にナイフを突き付けていた。
「ひっ……」
「私、諭すのは苦手ですけど脅すのは得意なんです。……わかります?」
手っ取り早く言えば、面倒ごとを請け負う代わりに協力しろということだ。
「いやいや、戦闘はしなくても構わんが、身に危険が及ばない範囲でちょいと手助けしてもらえないかって話だ」
エマがムチなら、『風来の博徒』ライネル・ゼメキス(p3p002044)はアメだろうか。ポンと手を肩に置き、やんわりと諭す。
「お前だって後味が悪いだろう? 荒事は俺達がやるから、お前は最悪逃げるだけでいい」
「でも……いやしかし」
「偶には本当の冒険ってやつの欠片でもやってみないか?」
ライネルからかけられた意外な言葉に、ドノファンは唸った。
「死んでしまっては元も子もないけど、一度も本物にならないまま生きていくのも辛いものだよ」
『特異運命座標』ヨルン ベルクマン(p3p006753)は静かに言った。
「僕のように死んでからも生き続けられるとは限らないからね」
「え?」
ドノファンはまじまじとヨルンの顔を見た。ヨルンはお人好しそうな笑みを浮かべる。ヨルンは、森をさ迷う名もなき死霊だった。生前のことは、記憶に乏しい。
「……英雄は作るものでは無く作られるもの……そこに本物なんて関係無く有るのは人の妄想ッスよ……」
「えひひっ」
『傷だらけのコンダクター』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)が呟き、エマが追従して笑う。
「ふむ、なるほどな」
ひととおり現状を聞き終えると、『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)は頷いた。
「となると、今やるべきことは……」
●金だ、金
「まずは、金を用意しよう」
シャルロッテは皆をぐるりと見まわし、不敵な笑みを浮かべてみせた。
「それについては……適任がいますね?」
エマのなだらかなカーブのあるナイフがピタピタとドノファンの頬を叩く。
「身代金を用意しないとドノファンさんにとって非常に後味の悪いことになりますからね、ちょっと身の回りのものを売っぱらって用立てていただければいいんです」
「うっ、嫌、こんな時間では」
「叩き起こして来ればいい」
「こんな事態だ、協力してくれるはずだと思うね」
ライネルと黄瀬が答えた。
「なに、お金は後で返しますよ。ひひひひっ」
「……少なくとも、ここで捕まって自身が身代金代わりにされるよりはマシかと思いますがね……身なりの良い英雄様なら相手も納得してくれるんじゃないっスか?」
クローネは、脅しを交えながら巧みにドノファンを揺さぶった。
「わかった……」
ドノファンは覚悟を決め、駆けずり回り、なんとか金を調達した。
いつのまにか、エマは土の付いた農民の服をどこからか見つけており、まとってみせた。そうしているエマは、先ほどナイフを突きつけていた動きからは想像もつかないほど無力に見えた。
「じゃあ、行くっスよ」
「ぼ、僕も? どこへ?」
ドノファンは、クローネに聞き返す。
「……まさか、みすみす山賊が身代金を受け渡しただけで人質を解放するとでも?」
「まー、今までの経験から察するに『待ってくれない』し、『衛兵を呼んで間に合う保証はない』だろーね」
黄瀬はけろりとしてそう言った。
「そ、そんな」
「ここは腹を決めなきゃ。ぼくらじゃなくて、きみが」
「僕が?」
「きみだって何の罪もない子供たち……しかもきみの嘘をし信じてくれている人たちに目の前でこういう事されちゃ後味悪いだろ?」
「まあ……」
「賊への直接の対処はぼくらがやるから、きみは『きみの出来うるかぎりの事』をしてほしいなー、なんて」
「ううむ」
ドノファンは考え込んでいるようだった。
「時間がないっスね」
クローネは踵を返す。
「あ、ちょっと……」
「逃げるのは悪い事じゃあないよ、何事も命あってのことだからね」
ヨルンが振り返る。
「でも、一回くらいは本当の冒険をするのも良いんじゃないかな。今なら危険は僕らが折半で、子供たちの英雄になるチャンスだ」
イレギュラーズたちは、あえて強制することはなかった。だが、ドノファンはついていくことを決めた。
それは善意というよりは、小心からくるものだったかもしれないが……。
(ひひっ、こうすればついてくると思いましたよ)
(臆病者は決断するのにも臆病っスからね)
やってくるドノファンに、黄瀬がにこりと笑って見せた。
「この一部始終を目の当たりにしたなら今まで以上の臨場感たっぷりな作品が書けると思うなー」
何気なく黄瀬が言った言葉で、ドノファンは、自分の行く末に思いをはせた。
「しかし、大丈夫なのか? みすみす身代金を用意して……」
「何、逆らわずに油断させることに意味があるのだよ」
シャルロッテは振り返った。
「今、仲間が調査しているところだ。例えば自然の洞窟を利用しているなら、思わぬ場所に抜け穴があったり……ね」
●忍び寄る影
「夜分遅くにすみません」
ヨルンは村人を尋ね、洞窟について尋ねてみた。
緊急事態ということで、村人も積極的に協力してくれる。普段、洞窟を狩場にしているという狩人が外観を説明してくれた。
「入り口がもう一つあるんだね」
「結構何度も崩れていてな……この前の大雨でふさがってしまったが」
上手くやれれば、今も通れるかもしれない。
「5人、かな」
暗闇に聞き耳を立てていたコゼットは、洞窟内の敵をかなり遠くから観察していた。
「こっちなら、気が付かれない、と思う」
か細い南瓜ランタンが揺れる。
洞窟の奥には、ふさがりかけた穴があった。
「ついてるな。俺は通れなさそうだが」
「はいれそう?」
「うん、平気」
アミーリアが穴のサイズを確かめる。
「よしよし、ぼくも通れそうだねー」
黄瀬は変化をすれば通れそうだ。ウサギフクロウの隣に、黒ウサギが並ぶ。
「人質は、無事、みたい」
「俺たちは茂みに潜んでるか。最優先は子供の命だ」
「うん、そうしよう」
ライネルとヨルンは視線を見かわした。
コゼットは、クローネから受け渡されたファミリアをそっと引き寄せた。もうすぐシャルロッテたちがやってくるはずだ。
「子供が穴から出てたら、いっしょに避難してって、ね」
やってきたドノファンはごくりと喉を鳴らした。逃げ出したかったが、洞窟の奥からは、すんすんと押し殺したような泣き声が聞こえてくる。
「ここなら、安全だから。作戦開始したら、穴から子供を元気づけてあげて」
黄瀬とアミーリア、コゼットは穴に潜っていく。
これから敵地に、それもど真ん中に向かうというのに、どうしてそう平然としていられるのか、ドノファンには分からなかった。
「これが……冒険者というやつなのか?」
●約束の時間
「来たか」
山賊はやってきた3人を見てにやりと笑った。どう見ても村人の3人。そして、一人は車椅子ときたものだ。……これならば勝てそうだ。
「身代金は用意しました、約束通りあの子たちを返して……」
エマは弱々しく言った。クローネの印象は、知らず知らずのうちに、村人という認識に塗りつぶされていた。
「そこの弱そうなの、持ってこい」
エマの肩が跳ねる。
エマはよたよたと身代金を置く。
「ご苦労だったな……」
金を得た安心と高揚で気が緩み戦闘の為再び引き締めるまでの間隙、ここが最も気の緩む瞬間だ。シャルロッテはタイミングを計っていた。
山賊は思った。すべてが万事うまくいっている。だが……。「それじゃあ、」という言葉はシャルロッテの一言に遮られる。
「さて、」
これに、山賊はどことない不吉を感じた。綿密に組み上げられた完全犯罪が、がらがらと崩れ落ちるような感覚。シャルロッテはその先を告げなかったが、代わりに、思いもよらぬ方向からの攻撃を受けることとなる。
「いくよ!」
クローネの合図があった。
洞窟に潜んでいたアミーリアが、人質に近い山賊の一体をアースハンマーで奇襲する。男は身を庇いながら、人質へと手を伸ばす。だが、今度は闇に潜んだヨルンが矢を放った。シャルロッテに注目していた山賊は、気をとられていた。
そして、もう一射。ヨルンは針の穴に糸を通すような射撃を見せた。アミーリアは人質に素早く接近すると、防御の構えをする。
「下がって!」
「奥へ!」
「くそ」
一人は、エマを人質に取ろうと武器を抜いてこちらへやってきたが、のけぞったのは山賊の方だ。暗闇に身を落としながらの影穿。
不自然な接近、急所を狙った一突き。周りの山賊は、男が勝手に倒れたかに思えていた。いや、男自身でさえも。
「おい、どうした!?」
シャルロッテが懐に手をやった。
あっけなく視線をもぎ取られ、その隙にさらにエマは動く。ふらりと、エマの姿勢が独特の足運びを見せる。ともすればよろけて、気を失うかに見えた動きは急激に加速する。
「かはっ……」
急所を突かれ、攻撃をそらすことすらできない。
「えひひひっ」
何が無力な村人か。山賊は己の判断が致命的なまでに間違っていたことをついに察した。
「よっ、と」
ライネルのソウルストライクだ。”避けた”と山賊は思ったが、軌道は不自然に曲がり、みぞおちを直撃する。
「便利なもんだ」
憤った山賊の攻撃を、アミーリアは受けながらものともしない。
「数の上ではこっちが有利! 多少無理してでも出来れば一人一つに張り付いて人質に手を出させない様に!」
「ああ」
「弓持ちを最優先で除去! 遠距離攻撃持ちさえ潰しちゃえばあとは大したことないよ!」
「ぐっ……」
弓を持った山賊は一歩下がった。だが、クローネのファントムチェイサーが追いかけ、追い詰める。
「ほら、ドノファンが来てくれてるから、もう安心、だよ」
コゼットは素早く子どもたちのロープを断ち切り、前へと進み出た。
「ドノファン?」
「は、っは」
ドノファンは穴の外でかろうじて泣き笑いのような奇妙な表情を浮かべた。いつのまにか、ここも戦場の真っただ中だ。
「はじめるか」
シャルロッテはゆるりと立ち上がる。これまで一歩も動いてすらいなかった。自らを戦場に置き、自らの生命力を差し出し、的確な指示を飛ばす。
武器はもとより存在しない。あるとするならば……。
Esperanto。暴力という共通言語が戦場を包み込む。
神子饗宴によって機敏さを増したイレギュラーズたちを相手に、山賊は制限された動きを強いられていた。
「さーて、こっちだよ」
黄瀬が子供を庇いながら、洞窟の入り口に誘導する。
「逃がすかよ!」
「それは……こっちのセリフっスよ」
クローネが接近し、人質を追いかける山賊に魔弾を飛ばす。
だが、一人が人質に追いついた。
「へっ、こいつがどうなっても」
「ああ」
シャルロッテは不吉につぶやき、仲間を見やった。
エマだ。
エマは、恐ろしく機敏に動いていた。
絢爛舞刀。ペレグリンが閃いた。一体の防御は通らない。一人が崩れ落ちる。さらにもう一人、エマは恐るべき速さでしとめにかかる。
その隙に人質はドノファンの元へと接近し、ドノファンは破れかぶれに戦場を撤退しようとする。
「なんとか、一人でも」
「おっと、させねえよ」
ライネルが射線に割り込み庇った。
「ま、大丈夫だ。行きな」
「あとで治療してあげよう」
人質を撤退させつつ黄瀬が言う。
「攻撃かいし、」
コゼットはドノファンを追う山賊に接近し、ショットガンブロウを放った。体躯の小さな兎の素早い攻撃で、山賊が宙を舞う。
ひらりと身をひるがえし、着地。
そして、即座にひく。
「ほらほら、いくよー」
黄瀬は片手で顔を覆いながら、ヴェノムクラウドを放った。猛毒の霧が相手を蝕む。
「させない」
多段牽制。ヨルンの矢が、弓を持った山賊を撃ちぬいた。
それが去った後は、人質ははるか遠く。近接武器では間に合わない。
首尾よく射程県外、といったところだ。
「畜生、舐めやがって!」
人質を失った山賊たちは、破れかぶれに突撃していく構えを見せた。
「悪あがきだね」
「見苦しいよ」
人質の撤退を見て取ったアミーリアは、黒鴉を呼び寄せ、矢をつがえていた一体を攻撃する。
「くそっ!」
コゼットは手近な山賊に踏み込み、見事な蹴りを繰り出した。シャルロッテは射撃しながら、仲間の射線の上へと敵を誘導する。
「射程圏内だね」
アミーリアがアースハンマーで追い打ちをかけ、弓を持った一体を打ち据える。
「よし、みんな逃げたね」
「じゃあ、遠慮はいらないッスね」
黄瀬が再びヴェノムクラウドを、そして、クローネもヴェノムクラウドを重ねた。
猛毒の嵐の隙間を穿つようにヨルンが一射を撃ち、一人を。
(まずい、ここは一度退いて奇襲を……)
身を隠そうとした山賊。だが、エマが回り込んでいた。
「闇に隠れてても一発ですよ? えひひひっ」
エマが音もなく暗闇からもう一人を葬った。
ライネルが一体にソウルストライクを放ち、隙を作る。そこへ、クローネの魔弾が炸裂する。
上手くいった、と視線だけで頷く。
クローネは、立て続けに2射の魔弾を繰り出した。
ライネルが動き、マギシュートで相手を打ち据えてから、ソウルストライクを放った。なんとかそれを耐え抜いた山賊だったが、懐には大きな隙ができた。
「やってやれ!」
一人に、ヨルンがトドメを刺した。
倒れた山賊の数は5体。
「はいはい、集まってね。全員無事かなー?」
黄瀬が辺りをぐるりと見渡す。全員いる。人質は無傷だ。子どもたちは、急にわんわんと泣き出した。
「い。生きてる……」
ドノファンはその場に崩れ落ちた。彼もまた泣いていた。
「一件落着、といったところかな」
シャルロッテは再び電動アシスト車椅子へと座る。
(助けられた)
コゼットはふうと息をついた。
「えひひっ、お返ししますね」
「え?」
エマが身代金を持ってきて、差し出した。ドノファンは一瞬我を忘れた。
「ほら、返すっていいましたし?」
「いや、それは……私からの依頼料、ということにしてくれ」
「……じゃあ、遠慮なくもらうッスよ」
「お、お姉ちゃん、お兄ちゃん、大丈夫? 血が……」
人心地着いた子どもたちが寄ってきた。
「平気平気」
「だいじょうぶ」
アミーリアとコゼットは優しく言った。
「まあ、なんとかなるようにできてるのさ」
ライネルが笑ってみせた。
「はいはい。手当するから並んでねー」
黄瀬がフクロウ印の応急処置セットを持ってきて、簡易的な処置を施していく。
「っと、ありがとな」
(大丈夫だって?)
ドノファンは驚愕した。何が大丈夫なものか。庇い、傷つき、それでも子どもたちの前では笑ってみせるイレギュラーズ。
それに対して自分は……。
ヨルンは子供たちに近づき、そっとしゃがんで髪を撫でた。
「ドノファンさんが来てくれて嬉しかった?」
「うん……」
ドノファンは目を見開いた。ヨルンは微笑んで見せる。
(出来ればこの出来事が彼の勇気になってくれますように)
「ありがとう……」
ドノファンは絞り出すように言った。
●
『おお! 特異運命座標たちよ!
剣が閃き、魔法が眩しく炸裂する!
こうして彼らは山賊を倒し、見事、囚われの子どもたちを救ってみせました。
私の虚飾が世間に晒され、偽りの栄光が地に落ちた今となっても!
私には『英雄』はいると、ひとの心にいると、間違いなく申し上げられるのであります。
剣を持ち、振るい、ある時は知恵を絞り、悪を倒すために装い……それもまた、力の一つの形なのです』
ドノファン・ノーブル著『偽りの作家、ドノファンの告白! 特異運命座標たちが山賊を倒し、いたいけな子どもたちを救うまで』より。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
おつかれさまでした!
これにて身代金目当ての誘拐事件は見事に解決し、人質も無事に救い出されることとなりました。
著作がノンフィクションではなかったことが明るみに出たことで、ドノファンもそこそこの非難を浴びたようではありますが……。
書きたいものが見つかった彼は、それでもしぶとく、筆を執っているのでした。
機会がありましたら、また冒険いたしましょう。
GMコメント
●目標
・山賊から子どもたちを無事に取り戻す
・山賊を倒す
●状況
外で遊んでいた子供たち、男女3名が山賊にさらわれ、人質にとられている。
山賊の要求は身代金。夜明けまでに山賊の根城に持ってくるように指定している。
身代金は、半分ほどは町の人がなんとか用意できた。
なお、町の人は山賊から取引する相手は指名されていない。イレギュラーズが行っても構わないだろう。あまり露骨に武装していたり、大人数だと警戒されてしまうかもしれないが。
取引までの時間は、何か洞窟を調べたり、ささやかに準備をする時間くらいはある。大掛かりなものは難しいだろう。
●山賊とその根城
5名の山賊。そこそこに悪名高い連中。
自然にできた洞窟を根城にしていて、最近住み着いた連中。知能は低いが、こちらを警戒している。
身代金を受け渡しても、子どもたちが帰ってくる保証はない。むしろやってきた者たちを皆殺しにして、ここを引き払い、子どもたちはどこかに売り飛ばす算段を立てている。
「あっはは、身代金だけもらって皆殺しよ」
「ガキどもどうすんだ?」
「いつものとおり、売り払うさ。この世の中、買い手には困ってねぇしな」
「次はそうだなア、南の島にでもいきてえな」
上記の会話は忍び込んだりなどの方法で、盗み聞くことができる。子どもたちはおびえている。
洞窟は入り口が2つで、山賊の設置したたいまつが燃えている。中はうす暗い。
一つは、正面の出入口。もう一つは子供くらいの体格ならば抜けられそうな穴で、こちらは洞窟の周りを良く調べると見つかるもの。小さな方の穴に関しては、山賊たちは把握していない。
●取引
山賊たちは入り口で取引をしようとする。武器を向けながら人質を連れてきて、「そこに身代金を置け」と要求する。置いて離れると、「ご苦労だったな……じゃあ」と武器を向けて、戦闘になる。山賊はこの時点で5名全員が出てきており、一人は剣を抜いて人質を見張っている。
取引時、子供たちは手足を縛られている。
山賊の1名は弓を持っている。他はだいたいサーベルなどの近接武器。
取引の前に襲撃することも可能。その場合は、山賊たちは酒を飲みながら洞窟の中にいる。最低でも一人は外を見張っており、一人は人質を見張っている。
取引に人が現れない場合、山賊はしびれを切らして人質を若干名見せしめにして、とっとと売り払うために引き上げる公算が高い。
●ドノファン
貴族風の恰好をした長髪・金髪の男。
お察しの通り戦闘能力はほとんどない。武器を扱えないこともないが、実戦経験がない。
金も、そこそこ稼いでいるが、浪費家であるので、今持ち合わせていない。大急ぎで身に着けたものを売り払って身代金の半分と言ったところだろうか。
実は貴族でもなんでもない、ただの庶民。作家ではある。
●だって……。
「ムリです! ムリムリムリ! だって、だってあれは全部ウソなんです! グリフォンを倒したとか全部嘘なんです! 人から聞いた話を私がそれっぽくアレンジしただけなんです!」
「山賊どもの巣窟に行くなんて! ええ! 死にます! 無理です!」
「逃げようとしてたわけじゃなくて、え、衛兵に言うつもりだったんです! きっと夜明けまでって言うのは脅しで、もっと待ってくれますよ!」
「だって私……いや、ボクにはムリ、ムリですよ!」
ドノファンは、このまま逃げさせてもいいし、諭してもいい。ドノファンが逃げようと、依頼の成功には関係しない。
善人ではないが、根っからの悪人というわけでもない。子どもたちのことは助けたいとは思っている(が、自分の身が大事)。小悪党といったところか。
諭すか脅すかさせて協力させると、持ち合わせているものを売り払って何とか身代金のもう半分くらいにはなる。
覚悟を決めると山賊の根城までついていって、なにかやることはできるかもしれない。ただし、急に強くなったりはしない。
・ドノファンの言う通り衛兵に任せようとすると、時間が足りない。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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