PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Please,Roll me!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●正しい英文なのかどうかは気にしてはいけない
 薄暗い室内に、男のうめき声が響いた。続いて、何かを引きずるような音と、こすり合うような音。
 男は、太い何かにまかれていた。よく見れば、それは緑の鱗を持つ巨大な蛇の体であり、足元から胸元まで、グルグルと巻き付かれている。
 先ほどの音は、この蛇の身体が動き、擦れた結果の音であろう。時折、蛇が締め付けるたびに、男がうめき声をあげる。
 蛇の体の先、丁度頭があるであろう場所には、あるべきものがなかった。代わりに、滑らかなくびれを持つ女性の腹部が見える――つまり、蛇の体から、女性の上半身が生えている、というわけだ。
 とある異世界には、ラミア、という神話上の怪物がいる。半人半蛇の怪物である。本来は一個人の名前であったのだが、通りのよさからかは不明ではあるが、こんにちでは一般的に、この類の怪物の事をラミアと呼ぶ。
 さて、話を戻す。状況を整理すれば、男は薄暗い室内にて、ラミアに襲われている、と推察できた。蛇がそうするように、身体を用いて獲物を絞め殺すのだろう。
 ぎしり、とラミアが体に力を入れるたびに、男が呻いた。弄ぶように、また力を籠める。男が呻く。獲物をなぶり殺しにする、嗜虐的な行為。ラミアの表情は、酷く愉悦にそまって――いる事は特になく、むしろ割とうんざりした様子である。
 男の方は苦痛に歪んだ表情をしている、かと思いきや、何やら頬を紅潮させ、恍惚とした表情を浮かべていた。それを見たラミアがため息をつくと、身体の力を緩めた。解放された男が床に転がり、
「えー、レリちゃん、もうやめちゃうの?」
 不服気に声をあげる。
「うん。疲れたし」
 レリと、呼ばれたラミアは、はぁ、と肩を落とした。器用に尻尾を使ってテーブルの上のグラスを取り、口に運ぶ。
 周りをよく見てみれば、ここは広いホールのような場所である事が分かる。薄暗いながらも、天井には豪奢なシャンデリアが輝き、高級感をかもし出している。
 あたりには、ソファに腰かけ、酒とつまみを片手に会話をする、様々な種族の男女の姿が見える。
 そう。ここはお酒を飲みながら、異性のキャストによる接待を楽しむ飲食店……要するに、キャバクラ・ホストクラブの類である。
 つまり、男は客。レリはいわゆるキャバ嬢。先ほどのまきつきは、サービスの一環と言う事だろう。この店は健全なお店なので、ここには書けないあれやこれやは禁止されているが、まきつきは、まぁ、ギリギリOKと言う事で。
「シュウくんさぁ、ヤバいんだもん。そりゃあ、このお店、あたし達みたいなのがウリのお店だから、シュウくんみたいに、あたしたちの特徴を生かした接客? してほしいって人多いんだけど」
 混沌世界は生命のるつぼである。混沌世界に元々生息している様々な種族はもちろん、異世界より来る旅人は、世界の常識では測れぬような種族も多い。
 そう言った、『変わった種族』が相手をしてくれるお店――それがこの店のウリであるのだ。
 なるほど、周りをよく見てみれば、キャスト達は全て、人ならざる者であるようだ。いわゆるモンスターに属する種族、機械生命体、めいじょうしがたいもの。混沌の混沌たる面をぶち込んだ、混沌とした店である。
「もっときつく締めてくれーって言ったって、これ以上やったら死んじゃうよ、マジで。あたしやだもん、人殺しとか」
「でもなぁ、もうちょっと、物足りないんだよなぁ」
 レリの言葉に、シュウが答えた。そんなシュウの様子に、レリは再度ため息をつく。客の否定は接客業ではタブーであると思うのだが、気心知れた仲なのか、それともレリのそういうキャラが受けているのか、シュウは気にしない様子である。
「もーあたしには無理だよ。これ以上は、マジで死ぬ覚悟で、理性のない魔物系のコにやってもらうしかないって」
 苦笑するレリの言葉に、シュウは頷いた。
「そうか……そうだよな……うん、それしかないよな……」
 何やらぶつぶつと呟くシュウに、レリは「余計な事を言ったかもしれない」と、またため息をついた。

●巻き付いて、彼岸の果てまで
「……つまり、野生魔物種のラミアの住んでいる洞窟まであなたを連れて行って、あなたが死なない程度・かつ満足する程度にラミアに巻き付かれた後に、助けて連れて帰って欲しい、と」
「はい! お願いします!」
 理解しがたい――そんな表情で言う『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)に、しかしめっちゃいい笑顔でシュウが言った。
 ローレットの片隅である。
 特殊な護衛の依頼、という触れ込みに集まったイレギュラーズ達は、ファーリナと同様か、もしかしたら「分かるわかるその気持ち、俺も巻き付かれたいし」と思ったかもしれない。
 これ以上きつくきつく、ラミアに巻き付いてもらうには、理性も常識も何もない、いわゆるモンスターに分類されるラミア類に襲われるしか、手はないだろう。
 そう考えたシュウは、イレギュラーズ達へ依頼する事を思いついたのだ。
「とりあえず、事前に下調べは済んでます! 幻想西部に出没するラミア類辺りが、色々と丁度いいかなって。住処にしている洞窟を見つけたので、そこに行きましょう! 詳しくは道中でお話ししますね!」
 いい笑顔で、シュウ。ファーリナはさび付いたみたいにイレギュラーズ達へ視線をやると、
「えっと、まぁ、お仕事ですので……お気をつけて……」
 そう言って、ゆっくりと手を振った。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 僕はまかれたいタイプです。

●成功条件
 『シュウ』を満足させた後連れて帰る

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 幻想西部に発見された『ラミアの住処』である洞窟が舞台になります。
 洞窟内には光源がないため、真っ暗になっていますが、トラップ、その他のモンスターなどは存在しないものとします。
 ラミアたちは、洞窟の最奥に潜んでいます。

●エネミーデータ
 ラミア ×3

 特徴
 パラメーターとしては平均的。
 知能はさほど高くはない。本能まま。
 毒を付与する近接単体物理攻撃と、中距離神秘単体・範囲攻撃を使用。
 特殊攻撃として、以下の物を使用する

 まきつき
  至近・単体・物理攻撃。
  対象のキャラ一体に巻き付いて、拘束する。ダメージあり。
  拘束状態のキャラは、『窒息』『体勢不利』を付与され、『のがれる』『待機』以外の行動が出来なくなる。
  『のがれる』を使用した場合、そのキャラの最も高い攻撃力で判定を行う。成功した場合、拘束状態を解除され、まきつきによって付与された『窒息』『体勢不利』が直ちに解除される。
  拘束状態は、他のキャラによる、まきつき使用中のラミアへの攻撃によっても解除可能。
  『まきつき』を使用したラミアは、『のがれる』で拘束状態を解除されない限り、毎ターン同対象に『まきつき』を継続する。

●登場NPCについて
 シュウ

 特徴
 一般人。男性。
 生命力などは一般人並。ラミアの攻撃はそう何度も耐えられないだろう。
 『まきつき』を受けた場合、待機を選択し続ける。自力で『のがれる』ことはできない。また、そう長くは耐えられない。『まきつき』を受けてから3ターンが経過すると、死亡する恐れがある。
 まきつかれたい。
 まきつかれたい。
 まきつかれたい。
 特殊パラメータ、満足度を持つ。内容は、以下の通り。

 満足度
  シュウの満足度。『まきつき』をうけるごとに上昇していく。
  毎ターンの最後に、ダイスにより満足度判定を行う。
  この判定に成功した場合、シュウは満足した事になる。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加お待ちしております。

  • Please,Roll me!完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月08日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
鴉羽・九鬼(p3p006158)
Life is fragile
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽

リプレイ

●道中での出来事
「で、ですね! やっぱりこう、抱きしめるって言うのは、本能的な物――目の前の獲物を逃さない、そういうところから来てると思うんですよね!」
 かれこれ一時間、喋りっぱなしである。
 色々と残念な男、シュウ君の依頼を受けたイレギュラーズ達は、標的となったラミアに同情しつつ、ラミアの住処へと歩みを進めていた。
 その道中、シュウは延々と、「自分がいかに死ぬほどラミアに巻き付かれたいのか」を力説していたわけである。
 シュウも自分から高説をぶち始めたわけではない。発端は、『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)のあまりにも不用意な一言にあった。
「ちょっと質問だけどさぁ。命をかけてまで巻き付かれたいのってなんで?」
 当然の疑問であろう。誰だってそう思う――その筋の者でないのなら。理解できない人間にはとことん理解できまい。好みとか趣味というのは、そういうものである。
 とは言え、ペッカートの質問自体は、常識的に考えれば、それほどクリティカルな物ではあるまい。常識的な人間は、内輪の話を外に向けて力説するものではないと弁えているものだ。当たり障りのない範囲で軽く説明し、相手もそれで納得する。ペッカートも、そういう反応を期待していたはずだ。
 だが残念ながら――シュウと言うこの男は、とても残念な男であった。
 だから語った。語った。全部語った。
 何が好きなのかを語った。どこが好きなのかを語った。どうして好きなのかを語った。
 話は脱線し、回り道し、グルグルと回ってまた本筋に戻り、脱線し、脱線し、ちょっと戻って明後日の方向へ進み、全く繋がらぬ道筋を通って本筋の話へと戻った。
 その歴史を語った。その知識を語った。そのコミュニティを語った。
 語った。語った。語った語った語った語った語った語った語った!
 語り続けた!
 一時間!
 ノンストップで!
 しかもまだ止まる様子を見せない!
 だからモテないんだ! 違う、やめろ! 別に僕は泣いていない!
「……まぁ、よくも、あれだけ話せるぜ。ある意味情熱の勝利っつーか」
 『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)は嘆息した。途中から話の内容は聞いていない。生まれて初めて森で眠った時の事を思い出した。そこら中から響く、虫やら動物やらの声はうるさく、果たして眠れるものかと思ったものだが、しばらくしたら気にならなくなっていた。そういうものである。
「……今は迂闊だったと思ってるよ」
 ペッカートはかくかくとぞんざいに首を振り――シュウの話について、頷いているフリをしている――、キドーへと言った。元の世界では人を堕落させる悪魔であった、とはペッカートの言う所ではあり、欲望渦巻く人間は見慣れているだろうが、それにしたって限度ってものがあるだろう。
「うふふ、でも、好きな物に夢中になっちゃう気持ちはわかるわぁ」
 どこかふわふわした様子で、『酔興』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が言った。アーリアの場合、お酒の話だろう。アーリアは思い出したら飲みたくなってきたのか、手でグラスを持つ形を作って、くっと傾けた。
「趣味を持つことは良いのでござるが、それで身を破滅させては元も子もござらんよ……」
 ド正論を言う『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)である。嘆息しつつ、シュウへと視線をやり、
「まだ破滅してはおらぬが……いや、このような事を我らに依頼できる精神は、ある意味破滅しておるのかもしれぬでござるが……」
 肩を落とす。
「とは言え、破滅しなければしなかったで、また面倒な依頼を持ち込みそうな気がするのです」
 桜咲 珠緒(p3p004426)が、半眼で言った。
「つぎはしょくしゅだ、まるのみだ、と言われては、こちらの体力はさておき、精神の方が持たないのです」
「え、何それ、そういうプレイもあんの、あの界隈」
 キドーが尋ねた。どの界隈なのだろうか。
「一般論なのです」
 珠緒がさらりと答えた。あの業界では一般的なのだろう。
「あら、いいわよねぇ、まるのみ……まるのみ? 瓶ごとお酒をきゅーっと飲むことかしら?」
 アーリアがふわふわと答えた。そうだったら平和である。
「あまりいい気分ではござらぬなぁ、丸飲みとは」
 下呂左衛門が肩を落とした。相手はラミア――蛇の怪物である。蛇とカエルの関係ではないが、下呂左衛門もなんとなく、居心地の悪いシチュエーションである。とは言え、今回は丸飲みはないので安心していただきたいものだが。
「……というか、ラミア、って怪物さんですよね?」
 『Life is fragile』鴉羽・九鬼(p3p006158)が小首をかしげた。九鬼の住んでいた世界においても、神話や昨今のファンタジー創作物にて語られていた。九鬼は今回の依頼について、神話上の生物が実在し、それを見ることが出来る、というので少しばかりワクワクしているのだ。それはさておき。
「その……そういう気持ちになるものなんでしょうか」
「なる……のだろうな……いや、様々な世界の伝承では、男を誘惑して食らう、という話もある。絶世の美女であるというし、魔力なども関係しているのだろうが、魅了されるというのもない事ではないだろう」
 『世界の広さを識る者』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)が答えた。「けど、人間部分に魅かれるのは分かるが、蛇の部分にフェチズムを感じるのはよくわからん」という言葉を飲み込んで。『世界の広さを識る者』と言えど、今回の相手は少しばかり守備範囲外である。まぁ、その存在を知る事と、理解する事と、共感する事はまた別々の事なので。
「いや、人間の欲望ってのは限りがねぇなぁ」
 呆れたように――しかしどこか楽しそうに、ペッカートが言った。面倒くさい相手ではあるが、しかしやはり、欲に塗れた人間の行動は面白いのだろう。
 さて、その欲に塗れに塗れた人間であるところのシュウは、まだ喋っている。いつまで続くんだ……イレギュラーズの誰もがそう思っていたし、「その話、まだ続く?」と聞きたい所である。が、一応こらえていた。
「えーと、その話、まだ続く?」
 『特異運命座標』藤堂 夕(p3p006645)が聞いた。夕が慌ててパタパタと手を振ると、
「あ、違くて。もうすぐ目的地だから、一応最終確認したくて」
 その言葉にシュウは頷いた。
「まず、私達の指示には絶対に従う事。言うまでもないけど、人命が第一だからね」
「はい! 別に俺も、殺されかけたいだけで死にたいわけじゃないので!」
 業が深いなぁコイツ、と、思わずイレギュラーズ達は感心半分、呆れ半分の視線を向ける。シュウは気づかない。
「絶対に、だからね? それだけは肝に銘じて置く事。それから――」
 夕はそのまま、簡単に行動の指示について説明した。シュウは不平不満を言う事なく、全てに無駄に元気よく頷いた。その点では、シュウは従順であった。
「――って言う所かな。じゃあ、もうすぐ到着するから、準備してね」
 夕の言葉に、シュウは頷くと、にこにこと笑いながら、
「あ、で、さっきの話の続きなんですけど」
 と言ったので、
「その話、まだ続く?」
 夕はにっこりと笑いながら、そう言った。今度は本気だった。

●シュウ君被害者の会
 洞窟内部は、明かりもなく、湿気もあり、肌寒い。とても快適に過ごせそうには思えない――とはいえ、それは人間の目線から見た場合の話だ。今回遭遇するラミアのような存在にとっては、かっこうの住処なのだろう。その点でも、やはり今回の相手は、人間とは異なる存在なのだ、と認識させられる。
 夕の蝙蝠(ファミリアー)が持つカボチャのランタンに照らされて、一同は洞窟を奥へと進んだ。道中に、危険は一切ない。事前の情報の通りであり、シュウが一歩進むごとにテンションをあげていってウザかった以外は、イレギュラーズ達にとって害となるものは存在しなかった。
「えーと、ここのラミアの好むものは……生き血かな。魅了とかは使ってこないね」
 夕のそらんじるモンスター知識……イシュトカは頷いた。
「より高位のラミアなら、また違ってくるのだろうね。まぁ、魅了の魔術となると、我々にも被害が及びかねない。そう言った意味では、今回の依頼にはちょうどいい個体なのだろうね」
 そのせいでシュウに目を付けられるとは、可哀想に……という言葉は飲み込んだ。
「まきつく基準なんかはどうよ」
 キドーの言葉に、夕は頷く。
「うん、その辺は現実の蛇と同じだよ。捕食直前の行動……だから、まぁ、彼が前に出れば、まきつくと思うよ」
 敵も野生動物、御しやすい相手かそうではないかは、察しが付くだろう。イレギュラーズを相手取るよりは、シュウの方が喰いやすい……別の意味で御しづらい相手であるのが残念な所だが。
「あ、見てください! いましたよ!」
 九鬼が声をあげる。果たしてイレギュラーズ達の視線の先には、3体のラミアが当たりを警戒するように視線を動かしていた。巣に近づく何者かの気配を察知したのだろう。
「おお……すごいです、本当にお話しに聞くラミアなんですね……!」
 九鬼が感動した様子で声をあげる。
「ですよね、俺もこの世界来た時感動したんです、やった、マジじゃんって!」
 シュウが言った。
「感動の方向性が違いすぎるのです……」
 珠緒は何かを諦めたような表情でぼやいた。
「確かに美人ではござるが……やはり、ふとももがないのでは、拙者は心動かされぬなぁ……」
 下呂左衛門が小声で言った。幸いにも、誰にも聞こえなかった。
 それはさておき、珠緒はこほん、と咳払い一つ。
「では、指示があるまでは待機願います。お命を預かる身、有無は言わせないのです」
 珠緒の言葉に、シュウが頷く。
「さて、悪魔としては契約の履行はしてやらねぇとなぁ」
 ペッカートが笑い、戦闘態勢をとる。イレギュラーズ達は合わせ、一気に突撃した。
「さてと……悪いが、まずは寝てもらうぜ!」
 キドーが『巻き付かせない』ラミアへと飛び掛かる。呪符を構え、衝撃を放つや、『巻き付かせない』ラミアがうめき声をあげた。
「ええっと、お邪魔します! それからごめんなさい!」
 『巻き付かせない』ラミアへと、九鬼が追撃を見舞う。申し訳なさそうな言葉と表情は、本心から来るものだろう。
「正しい情報の把握は、落ち着いた行動の源なのです……モニタリングは行っていますので、存分に戦うのですよ」
 珠緒の言葉に、キドー、そして九鬼は頷いて返した。キドーと九鬼には、珠緒のギフトによる血の呪印を施されており、珠緒はその効果により、二人の状態を感知することが出来た。
 さて、イレギュラーズ達の作戦であるが、まず三体のラミアの内、一体を無力化する。極論、シュウにあてがう一体が残っていればいいのだ。とはいえ、そこは保険と言う事で、二体を残すことにした。この二体の内、一体をシュウにあてがい、残る一体は何とかキープするのが大まかな流れだ。
 もちろん、ラミアも黙ってやられるわけではない。ラミアは威嚇の声をあげ、キドーに強くまきついた。全身が力強く締め付けられる……呼吸の為、肺を膨らませるスペースも奪われるほどに。
「ぐ……あ、頭に霞がかかって……気持ちいい……? ……気持ちよくない?」
「ふむふむ、もう少し……おや、窒息状態ではありますが、魅了状態ではないようなのです」
 小首をかしげる珠緒。
「わ、わーっ! キドーさんっ!」
 慌てて九鬼が引きはがしにかかる。妨害されたラミアが、キドーを放し、威嚇の声をあげる。
「ゲッ……ガハッ……! いや、これぜってぇそういう気持ちにはならねぇって!」
 喘ぐように呼吸しながら、キドーが声をあげた。
 一方、その他のラミアたちは、魔術による射撃を試みる。衝撃波の様な、簡易的な術式が、イレギュラーズ達を襲った。
「ふむ……下級とはいえ、なかなか厄介なものだ……」
 嘆息するイシュトカ。
「……そういえば、うわばみ、って言うわよねぇ。やっぱりラミアもお酒強いのかしら……」
 呟きつつ、アーリアが応戦する。
「ほら、今回は命はとらないでいてやるよ!」
 ペッカートが放つ無数の見えぬ糸が、『巻き付かせない』ラミアの肌を切り裂く。些か嗜虐的な光景とも取れなくはなかった。
 ペッカートの言葉通り、イレギュラーズ達は、ラミアの命をとろうとは考えてはいなかった。ある意味で、今回のラミアたちは被害者と言えるだろう。人に害をなす魔物である事に違いはないのだが、何せ今回、その住居に攻め入ったのはこちらだ。
「失礼、しばし寝ていてもらうでござるよ……!」
 下呂左衛門の一撃が、ラミアへと突き刺さった。か細い悲鳴をあげ、ラミアがその意識を手放す。
「うむ……準備は整ったでござる!」
 下呂左衛門が声をあげ、シュウを見やった。シュウは無駄に力強く頷く。
「夕ちゃん、私も援護するけれど、『保険』の子の抑えをお願いねぇ」
 アーリアが声をあげるのへ、
「了解っ! さぁ、あなたの相手は私だよ!」
 夕が頷き、『保険』のラミアを抑える。準備は整った。整ってしまった。
「……行きます!」
 要らぬほど勇敢な声で、シュウが宣言した。念のため、下呂左衛門が護衛につき、まきつき以外の攻撃を警戒した。まぁ、1度や2度なら殴られても死にはしまい。というか、2度や3度くらいなら、殴られた方がいいかもしれない、と、思った者もいるかもしれない。
 シュウがラミアの前に立つ。突如現れた獲物――ラミアにとってみれば、鴨が葱を背負って、という状態である。ので、ラミアは躊躇せず、シュウにまきついた。
 はじまった。
 誰かが呟いた。
 そう。ある意味で、イレギュラーズ達の真の戦いは――余りにもしょうもなく、全力で命を懸けた、長く、余りにも長い戦いは、今この瞬間から始まったのだ――。
 詳しい描写は割愛する――幾度にもわたり、締め付けられた男が恍惚の表情で呻き、解放され、最高の笑顔でまた締め付けられに行き――という様子を、情感たっぷりに格好良く説明すると、作品の対象年齢が確実に上昇してしまう。それは避けたい。
 なんにせよ、シュウは何度も締め付けられ、解放され、都度立ち上がり、再び締め付けられに行った。何度も……そう、何度も。イレギュラーズ達にとっては不幸極まりない事態だったが、シュウにとっては至福の時間だった。
 シュウにとってはまさに桃源郷の出来事であったであろうが、周囲との温度差は火山地帯と氷河地帯ほどの開きがあった。『保険』のラミアを抑えていた夕などは、魔物相手には効果が薄いであろう動物疎通で、なんか分かり合えそうになるほどに、恐らく同じ気持ちを共有していた。というか、シュウの異常さに、流石に本能ママのラミアも気づいたのだろう。或いは本能ママであるからこそ、本当にヤベーやつについては忌避感が湧いたのかもしれない。『巻き付かせる』ラミアも、正直最後の方はひいていた。
「ふぅ……満足しました……」
 つやっつやの笑顔で、シュウが言った。その言葉を、イレギュラーズ達も、ラミアも、誰もが待ち望んでいた。
「えっと、じゃぁ、その……お邪魔しました」
 夕が静かに言った。ラミアが静かに、夕を見た。ようやく帰ってくれるのね。そう言いたげだなぁ、と夕は思った。申し訳ないと感じたので、用意しておいたゆで卵――好物かもしれなかったので――を、籠一杯に置いておいた。ペッカートも、用意していた生肉などを置いた。
 すごすごと撤退するイレギュラーズ達を、ラミアたちは追う事はなかった。ラミアたちも疲れていたのだろう……あるいは、恐ろしい侵略者たちがようやく帰ってくれた、そういう気持ちだったのかもしれない。
 微妙な空気のまま――一名は満面の笑顔で――一同は、洞窟を後にした。日差しが心地よい。
「なぁ、やっぱりこれ、手伝っただけだよな、自」
「それ以上はいけないのです」
 何やら呆然とした様子で呟くキドーを、珠緒が制した。
「……今度から、ラミアの話聞いたら、今日の事思い出しそうです……」
 九鬼が言った。要らぬトラウマを植え付けてしまったことに関しては、謝罪の言葉しかない。
「ふむ……しかし、やはりどうせ挟まれるならふともも……」
 下呂左衛門。
「ま、まぁ~これでお仕事は無事完了、よねぇ。お疲れ様よぉ」
 努めて明るく、しかしやっぱりふんわりした様子で、アーリアが言った。アーリアの言う通りである。辛く、苦しい仕事を、イレギュラーズ達は無事にやり遂げたのだ……。
「あー、その、なんだね。今回は依頼に基づいて君の願いを叶えた、とはいえだ。いろいろなこの世界の生物や、あるいは私のような旅人を見てきたから言うが……君の希望に応えられる種はなにも彼女達ばかりではないし、その気質も様々だ。その情熱と冒険心で、君を受け容れ満たしてくれる相手を探すのも悪くないと思うがね……」
 イシュトカが何とか、言葉をひねり出した。かなり頑張った。
「まー、なんだ。俺はお前みたいな人間は嫌いじゃないがね? 次はスキュラにでも挑戦してみるか」
 ペッカートの言葉に、
「あー、良いですね! じゃあ、その時も皆さんに」
 シュウがそう言う。その言葉に、
「……その話、まだ続く?」
 夕が心底疲れた表情で、突っ込むのであった

成否

成功

MVP

藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 シュウの魔の手からラミアを守っていただいた皆さんの活躍は、世に広く知られ……あれ?

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