PandoraPartyProject

シナリオ詳細

アーティスティック・ピンチヒッター

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ミラーレ美術館の窮地
 ご想像いただけようか?
 きらびやかな広間にどっしりとたつ男性の彫像を。
 美しい草原と馬車が描かれた絵画を。
 絶妙な彩り模様が施された織物を。
 ミラーレ美術館はこれまで多くの人々に美の感動と心の豊かさをもたらしてきた、由緒と誇りのある美術館だ。
 館長のミラーレ氏も美術館こそが生涯の誇りであり、生きる価値そのものであった。
「明後日はいよいよ出資貴族たちが視察に来られる。むろん私も魂を込めてお迎えする予定だ。スタッフ一同、館内の手入れを怠らぬように!」
 スタッフたちを引き連れ、美術館への道のりを歩くミラーレ氏。
 美しく整った街の風景にその建物はよくマッチしている。
「当館が格安の入館料で人々の教養を助けていられるのも、貴族たちの出資があってこそだ。彼らをきっと満足させてみせよう。この――」
 ばんっ、と扉を開く。
「美術品の数々をもって!」
 すぐさま目に入ってくる彫像! 絵画! 織物!
 ……の、すべてが、そこには無かった。
 透明な展示ケースだけががらんと倒れているのみである。
 扉をいちど閉じ、眉間をもみ、もう一度開く。
 やはり。
 そこにはなにも無かった。
「……えっ、泥棒?」
 こういうときに気の利いたことを言えるようになりたいとは、後の館長の弁である。


「大変なのです! ミラーレ美術館が廃館のピンチなのです!」
 依頼書を振りかざして現われたのは『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。
 ギルド・ローレットの掲示板にそいつをべしんと貼り付けると、集まるイレギュラーズたちへと振り返った。
「今すぐアーチストさんを募集するのです! あとゲットバッカーさんも募集するのです! すぐなのです!」

 ミラーレ美術館は評判のいい美術館である。
 入館料は安いし美術品は素敵だし、キレイな娯楽に飢えた王都の人々は休日にこの美術館を訪れるなんてこともよくあると聞く。
 彼らにとって心の保養地であり、憩いの場なのだ。
 しかしスポンサーの視察直前にして泥棒が入り、主要な美術品を根こそぎ盗まれてしまったという。
「急いで美術品をしあげることのできる人……もしくはライブアートが可能な人をまず募集しているのです」
 なければ今から作ればいいの精神で、それまでの品々に負けない美術品を作ってしまおうという考えだ。
 いっそスポンサー向けの特別企画として、作っている所を見せつけるライブアートをやるというのもテだろう。
 でもって――。
「盗まれた美術品を取り返してくれる人も、募集中なのです!」
 根こそぎ盗まれたといっても、その全てが一気に売り払われてしまうわけではない。なんといっても足がつく。
 そんなわけで、まだそれなりに残っている美術品を泥棒から取り返す依頼も、同時にこなしてもらいたいという。
「そうはいっても、アートはとっても大変なのです。取り返す人と美術品を作る人を、それぞれ分ける必要があるのです」
 そうした経緯で。
 ――美術館に新たな展示品を生み出すアーティスト。
 ――盗品を取り返すゲットバッカー。
 その二種類の人員が、求められているのだ!
「なんとしても、スポンサーが来るまでに美術品を整えたいそうなのです。
 美術館のピンチを救うためにもお願いします――という、ことなのです!」

GMコメント

 ご機嫌いかがでしょうか、プレイヤーの皆様。
 美術館というのは不思議な場所で、一日そこで過ごしてみると普段刺激されない色々な感性がびしばし刺激されますよね。
 パソコンひとつで色んなメディアに触れられる昨今にあってもなお、その価値は計り知れません。
 今回はそんな美術館のピンチを救うべく、イレギュラーズの出番がやって参りました。

【依頼内容】
 美術品を作り上げる。
 盗品を取り返す。
 この二つの手段を使って、スポンサーが来館する前に美術品を揃えてください。
 最終的なオーダーは『美術品を揃えること』ですので、全員で新たな美術品を作りまくる作戦をとっても良いですし、いっそ全員で盗品を取り返しに行くのでも構いません。
 依頼に集まったメンバーの個性や技能(そして好み)でお選びください。


【ゲットバッカー(盗品を取り返す)】
 盗まれた美術品の保管場所や盗み出した連中の目星はついています。
 その場に乗り込み敵を戦闘で倒すことで、美術品を持ち帰ることができます。
 保管場所はバラバラになっており、『アウトロー』クラスが2人ずつ見張りについています。
 武装はランダムですが、主にグローブやナイフ、ライフルなどです。
 倉庫にある美術品を傷付けないように戦いましょう。美術品を人質(物質)にとられちゃうこともあるかも……!?

 ※仮に8人全員がゲットバッカーになったとした場合、2人×4箇所にばらけて奪還作戦にあたることになります。


【アーティスト(美術品を作る)】
 ないなら作ればいいの精神で、新たな展示品を作りましょう。
 といっても一日でちゃっちゃと作れるものではないと思いますので、こちらの担当者は『ずっと前から作業にはいっている』という扱いにしてよいものとします。
 内容は自由ですが、それまで美術館に展示されていた品に並ぶほどのものが作れるとよいでしょう。
 美術系の技能は勿論、アートに昇華できそうないろいろな技能がございます。色々試して、あなたのアートを作り上げてください。
 プレイングにはどんな作品を制作するかを書いてください。
 『雰囲気』『ねらい』『使う技術』『込める想い』『なんとなくのイメージ』が書かれていればキャラクターが持ち前の技でズバッと作り上げるものとします(今回は)。
 キャラクターの個性や活躍に集中すべく、具体的な手順や概要はすっとばしてOKです。
 そのキャラクターらしい作品を作り上げましょう!

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • アーティスティック・ピンチヒッター完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月07日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Suvia=Westbury(p3p000114)
子連れ紅茶マイスター
レンジー(p3p000130)
帽子の中に夢が詰まってる
ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)
屍の死霊魔術師
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
フレイ・カミイ(p3p001369)
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
n n(p3p003213)
来世もルシファー

リプレイ

●アーティストたちの夕べ
 手が灰色のかさかさだらけになるまで、『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)は作業に没頭していた。
 作業のために着込んだ白衣も今はあちこち同じかさかさだらけで、気づけば一日がぽっかりと過ぎ去っている。
「茶葉を買うために引き受けたお仕事でしたが……随分熱中してしまいましたね」
 Suviaは透明な手袋をして、すっかり冷めた紅茶を飲み干した。
 さすが上質な茶葉、冷めてもおいしい……などと思いつつ、振り返るは『豊穣の像』。
 髪を下ろした妖艶な女性が豊かな胸をツンと立てている、それはそれは艶めかしい胸像である。
「お、おおう……」
 様子を見に来た『来世もルシファー』n n(p3p003213)がなんて言っていいのか分からない顔をしていた。
 彼女も同じく像をつくっていた筈だ。それゆえか、Suviaと同じく手を灰色のかさかさだらけにしている。
「休憩ですか? よかったらお茶をいれますね」
「ふっ……はっはっは! 黄昏より来たる漆黒の堕天使(ルシファー)である我に休息は必要ないが? 献上するというなら貰ってやろうぞ!」
 (ひらたい)胸を張ってはーっはっはと尊大さをアピールするnnちゃんに、Suviaははいはーいと言ってミルクティーをいれてあげた。お砂糖たっぷりの。
 わぁあまーいという顔でちびちびやるnnちゃん。ふとSuviaの胸像を見やった。
「所であの胸像。どこかで見たような気がするぞ」
「そうですか? わたしから型をとったので、そう見えるのかもしれませんね」
「…………」
 想像してみた。
 一糸まとわぬSuviaが石膏を胸に塗りつけ肩をとるさま。
 髪を下ろした自分そっくりに顔を削ってゆくさま。
 情熱のなせる技かそれとも紅茶の神様がおこした奇跡か、見る者が見ればSuviaの面影が見えるようだった。
 注目すべきはその豊かな乳房なのだが……。
「あれは」
「リアルっぽく仕上がりましたねえ」
「ふ、ふぅーん」
 nnちゃんからチョットだけ素が出た。
「けれど、なんだか自分の裸を見られているような感じもして」
 Suviaは両手を当てて頬を赤くしていた。
「ゾクゾクします」
「ゾクゾクします!?」
 二度見。nnちゃんからかなり素が出た。
 オホンと咳払いしてキャラ――じゃなくて真なる姿を取り戻すnn様。
「そちらの出来はどうですか?」
「ふっふっふ……見て驚け、神々しくも禍々しい偉大なるルシファー像である!」
 ばばーんとカーテンをひいて見せた像は、身長17センチ超のグラマラスボディ美女であった。
 (地平線のような)胸を張るnnちゃんと、神々しくも禍々しい偉大なるルシファー像を交互に見るSuvia。
「素敵な作品ですねぇ」
「そうだろうとも!」
 おお、世界の優しさたるや。

 部屋は空気が通らぬように仕切られ、白く清潔に保たれていた。
 絵画や彫刻を作成する部屋というよりは、化学実験を行なう部屋といった雰囲気だ。
 実際、用いられていたのはきわめて専門的な化学薬品である。
 なんの専門かといえば……。
「エンバーミングだ」
「なるほど」
 『屍の死霊魔術師』ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)と『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)は人の死体を前にとてもドライな態度をとっていた。
「人体の防腐処理、ないしは蝋人形化か」
 ジークがやっているのは死体芸術だ。(出所は定かで無いが)死体を用いたアートである。
「とても意欲的だね。僕の作品とも通じるところがありそうだ」
 悠が振り返ると、デスクの上に並べられた透明なケース内で物質変化をテーマにした展示品が作られていた。
 例えば菌を用いて獣の鱗に美しい立体模様を描かせたり、薬物反応による結晶化で透明な球体内部に複雑で美しい模様を作ったりだ。
 二人の作品はとても芸術的で前衛的だ。
 科学によるアートという点で共通していたが、しかしジークの作品は人に対して意図的にショックを与えるもの、悠の作品は発見をもたらすものという点で別れていた。
 ツールを手にため息(のようなもの)をつくジーク。
「この部屋を貸した人は、作品を見た途端にひどく気分を悪くしたようだ。アナタもそう思うかな?」
「んー」
 悠は自分の感じたことがらを言語化するのは難しいだとうと考えてか、指先で自分の顎をとんとんと叩くだけにとどめた。
「その人がどう感じたにしろ、『それを認識した人に対して何かしらの跡を残す』ものこそを芸術と呼ぶのだと思うよ。だから、これはきっと芸術だ」
 それに、どうしようもなく美しいよ。
 とまでは、言ってよいものだろうか?

●ひとのためならず
「今回は盗品の奪還なんだね。本当、色んな依頼があるんだね」
 獣の遠吠え。
 夜の月。
 海沿いに並ぶ倉庫群の三角屋根に立ち、『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は両の目を光らせた。まるで連なるように、額の『目』もきらりと光る。
『異世界だからな、そういう事もあるだろう』
「そうだね」
 ティアは余人には見えない存在に返答した。
「とりあえず、美術品を盗むとか良くない事だし、遠慮はいらないよね」
『慈悲はいらんだろう』
 ティアはそこで会話を打ち切ると、羽根の上を小刻みに走り始めた。
 スピードに乗る手前、足場を蹴って飛ぶ。眼下が広く遠く、自由落下が始まる。
 ティアは二対四枚の翼を広げ、滑るように飛行した。
 目指すは盗品の保管されている倉庫の――。

 一方、フレイ・カミイ(p3p001369)は肩をぐるぐると回しながら硬い扉の前に立っていた。
 金属製の、さび付いた扉だ。
 不用心にも鍵はついていない。隙間に手を引っかけ、強引に開く。
 軋む音と共に開く、両開きの引き扉。差し込む月光がフレイの影を長く伸ばした。
「なんだ、オマエ。美術館のヤツに雇われてブツを取り返しに来たのか?」
 倉庫の見張りについていた男たちがナックルダスターを手にはめ込んで身構えた。
 ボクサーのように構えるフレイ。
「うるせえ、サンタクロースにでも見えんのかよ」
 笑えるぜ。と呟いた時には既に相手への距離を詰めていた。
 驚いて飛び退く相手を逃さぬように、襟首を掴んで顔を殴りにかかる。
 相手はそれに応じるように、フレイの顔面にパンチを繰り出してきた。
 フレイの胸にさげたリングが僅かに揺れる。
「おい、何やってる! こっちに来て手伝え!」
 見張りの男が仲間を呼び寄せた。
 フレイの様子に気づいた仲間が倉庫の奥から現われ、拳銃の狙いを定めた――その時である。
 倉庫の窓が拉げるような音と共に破壊され、倉庫内にティアが飛び込んできた。
 驚く仲間の銃が明後日の方向へと発射される。
 ティアは手を翳し、相手にまずは至近距離で魔術を叩き込んだ。
 相手が勢いに弾かれるように軽く飛び、背中で地面を滑る。
「くそっ、もうひとりいやがった!」
 取り落としそうになった銃を再びとり、起き上がる。
 一方のティアは反転しながら着地。敵に正面を向けたまま後ろ向きに地面を滑りつつ、地面に手のひらを叩き付けた。
 その時である、地面に描かれた不可思議な文様からアンデッドのなり損ないが出現。敵の放った弾を代わりに受けてぼろぼろと崩れていく。
 屍を抜けた弾がティアの肩にめり込むが、ティアは表情を変えなかった。
 代わりに怨念を手のひらの上に凝縮させ、構えた弓につがえて発射。
 奇妙な軌道を描いた矢が敵の胸にクリティカルヒットした。
 『ギャッ』という声と共に壁に叩き付けられる見張りの仲間。
 その様子に焦って振りむいた所へ、フレイは豪快なパンチを叩き込んだ。
「よそ見してる暇があんのか? その首ねじ切るぞ」
「て、てめぇ……殺す!」
 再び構える見張りの男。
 連続して繰り出してくるパンチを、フレイは腕のガードで防いでいく。
 決定打が与えられないとみるや、相手は大きく拳を振りかぶった。
 本来ならガードを更に固める所だが、フレイはギラリと笑ってガードを解いた。
 まっすぐに放つ左ジャブ。
 顔面に軽くめり込み、相手は振りかざした拳を一瞬だけ止める。
 その一瞬の硬直を狙って、フレイは相手の顎を正確に打ち抜くようなパンチを放った。
 このとき歯を食いしばって居なかったら、相手は顎を外していたかも知れない。
 パンチのインパクト、そして脳にかかった衝撃ゆえか、相手はよたよたと後退し、後ろの木箱に寄りかかった。
「く、くるな。こいつがどうなってもいいのか。美術品を取り返しにきたんだろう? 壊れたらこまるよなあ!? どうだ!」
 木箱から何かの像のようなものを取り出した。落とせば割れそうな見た目をしている。
 人質ならぬ物質で形成を逆転した……と思い込んだ相手に、フレイはなんとも微妙な顔をした。
「わかんねえ」
「は?」
「無傷で取り返すテクなんか知らねえ。俺は壊れたソイツの分だけ嫌な顔されるんだろうぜ。で?」
「で、って……」
 戸惑う相手に、フレイはずかずかと歩み寄る。
「その憂さ晴らしには付き合ってくれるんだよなあ!?」
 見張りの男は予想外の返答に戸惑い、思考がわずかに止まった。
 それに構わず、フレイは相手を思いきり殴りつけた。
 がほ、というおかしな悲鳴を上げて崩れる男。
 その手から落ちそうになった美術品を咄嗟に掴み、フレイはヒュウと口笛を鳴らした。
「あっぶねえ。ほら、無事に取り返したぜ」
「…………」
 フレイが掲げてみせる美術品を見て、ティアは小さくこっくりと頷いた。

●ゲットバッカーによろしく
 ちょろちょろと歩く小さなネコ。
 裏路地に存在する寂れた家の前で立ち止まる。
 さあおいで。そう言ってかがんだ『大賢者』レンジー(p3p000130)は、手のひらに出した乾燥フードをネコに与えた。
「あなたのネコなの?」
 後ろから声をかける『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)。
 レンジーは暫くかがんだまま、ネコを見ながら応えた。
「そうしてもいいけれど、お仕事を終えてから……かな」
 食べ終えたネコの頭をわしわしと撫でて、レンジーは立ち上がる。
「さあ、奪還作戦だ。エスラ、準備はいいかな?」
「いつでもどうぞ」
 エスラは上着のフードを指でつまんで深く被りなおし、バンドでとめていた魔術書を解いた。
「新しい美術品を作るっていうのもいいけれど、かつてあったものを取り返すのも大事なことよね。それそのものを見に来る人のためにも」
「そういうことだ」
 エスラは大きな帽子を脱ぐとネコのそばに置いた。預かっておいてね、とでも言うように。

 民家の中はがらんとしていた。
 家具はなく、明かりも少ない。
 魔術性の監視カメラが動いていたが、エスラはスペクターの能力を使ってそっと監視下をくぐり抜けた。
 壁伝いにゆっくりと進み、部屋の中を覗き込む。
 一方で裏口に回ったレンジーはエスラが窓越しに送ったハンドサインに応答した。
 『見張りがいる』『入る合図をくれ』だ。
 本来ならこの時点で見張りも気づいてよかったところだが、レンジーとエスラがステルスの能力をはたらかせていたおかげで未だ接近に気づいていなかった。
 勿論それは、見張りたちにとっての命取りだ。

 見張りの男にとって仕事は退屈だった。
 誰にも知られていない偽装倉庫で、万一誰かが尋ねてきたときに追い払う役目。必要ではあるが、暇の方が多い。退屈を紛らわすべく本を広げ、ランプのそばでコーヒーを飲みながらくつろいでいた。
 何気なくマグカップを掴むと中身が無い。男は舌打ちをして立ち上がり、振り返り――エスラに首を掴まれた。
「悪いわね」
 バチンという衝撃音。男が床に倒れる音。
 何かに躓いて転んだのだと思い込んだ別の男が様子を見にやってくる。
 そこに居るのは手にばちばちと赤い電撃のようなものを纏わせたエスラと、けいれんしながら倒れている見張り役。
 男は咄嗟に懐から銃を抜――いたところで、背中に指を突きつけられたことに気づいた。
「悪いね」
 突如生まれたオーラのツタが、まるで花の生長を早回しにしたかのようにぐるぐると男に絡みつきながら伸び、最後に紫色の花を咲かせた。
「い、いつのまに――」
「いつのまにか、だよ」
 男の抵抗を受ける間もなく、レンジーはスペルブックの角っこで男の頭をごつんとやった。もちろんつま先立ちでも届かないので、投擲である。
「よし、うまくいったよ!」
 倒れてのびた男を見て、レンジーは手をパチンと合わせた。
 一方で成功に安堵したエスラが深くため息をつく。
「途中でバレたらどうしようかと思ったわ」
「念入りにステルスしていって正解だったね。おっと、怪我してるじゃないか!」
「ああ、これは少し抵抗されて……」
 エスラの腕に一筋の血の跡を見たレンジーは、ベルトにストックした試験管のような長細いガラス瓶を取り出した。
 蓋を開くとまるで香水のような甘い花の香りがして、それだけでなんだか癒やされたような気持ちになるが……。
「ほら、傷口を出して」
 レンジーはエスラの腕に丁寧に薬液を塗り込んで、傷を治療しはじめた。
「ありがとう。それじゃあ美術品を運び出しましょ。折角無事に取り返したんだもの。けど、人手が足りないわね……」
「それなら、あの子の手でも借りるかい?」
 くい、と親指を窓の外に向けるレンジー。
 ネコが、帽子をくわえて立っていた。

●開演
「何を描きましょうか? ……お花ですね。それではご覧ください」
 Suviaが紅茶のラテアートを実演披露している。
 ティアはできあがった作品を前に、目をぱちぱちとしていた。
 ひと吸いしてしまえば消えるような、一時間と状態を維持できない、しかしいたく可愛らしい花が描かれている。
 無事にオープンした美術館は、取り返したいくらかの美術品と共にSuviaたちの作品が展示されていた。
 いつも通りに客を入れているが、こうして加えられた作品をみなそれぞれに気に入ってくれたようだ。
「こういう美術館に飾れる物を作れる職人さんってすごいよね」
『一芸に秀でている者達だからな』
 一方で、ジークの作品は注意書きとともに個室に展示されていた。
 部屋から出た人々は一様に顔を青くし、中には体調不良を訴える人までいた。
 その様子を、エスラとジークは観察していた。
「あの作品……その……『随分』よね」
 言葉を選んで語るエスラに、ジークは腕組みをして返した。
「残虐に表現されたものを鑑賞することで、人は己の暗部を認識する。誰でも等しく持っている残虐性を自覚すれば、それを律する理性を培うことも可能だ」
「……かも、しれないわね」
 無自覚な残虐性というものを経験で知っているエスラは、フードをつまんで頷いた。

「なあ、それ、作品なんだよな?」
「そうだよ?」
 台座の上に三角座りをした悠がいる。
 ……だけである。
 台座のタイトルは『世界』。
 そのなんともいえない様子に、フレイは唸った。
「人間っていうのは、一つの閉じた世界だ。覗けば底は見えないし、角度や時を少し変えただけで全く違う表情が見える。それでいて、関わることで何かしらの跡を相手に残すのだから、これは間違いなく芸術だよ」
「お、おう。俺にはやっぱアートとかわかんねえな。けどとりあえず……」
 腕組みをしてもう一度観察するフレイ。
「テメエ(自分)が一つの世界だって考えは、なんとなく伝わったぜ」
 一方で。
「はーっはっはっは! どうだ、罪深き終焉の煉獄たる堕天使の作品は!」
 (フラットな)胸をはって自己主張するnnちゃん。
 彼女の後ろには『神々しくも禍々しい偉大なるルシファー像』と、その背景に描かれた『壮大なる魔王の内面世界』の絵画があった。
 その堂々たる有様は、(nnちゃんセットで)見る者をなんだかほんわかさせた。
 ぱちぱちと手を叩くレンジー。
「おお、すごいすごい。よく作ったねえ」
「そうだろうそうだろう!」
「おーよしよし」
「もっと褒めたたえ――ん? なんか違うぞ!?」
 といった具合で、アーティストたちの作った作品やゲットバッカーが取り戻した作品は一般の観客にも、そしてスポンサーの貴族にも深い感銘をもたらした。
 美術館は今まで通りの投資を受けることとなり、深い感謝と敬意を込めて、彼らの作品は今も展示されているという。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 自らの個性を爆発させた作品、そして見事に泥棒たちから美術品を取り返した戦い、実にお見事でございました。
 ゲットバッカーに回った方々が作品を作ったらどんなものになるのか、はたまたアーティストとして作品作りをなさった方々が戦ったらどんなアクションになるのか……なんて、少し考えてしまいますね。
 けれどそれはまた次回。
 皆様がいらっしゃったときに描かせて頂けることと期待して、お待ち申し上げております。
 

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