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シナリオ詳細

COSMIC TRAVELER SYNDROME

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●異界旅人症候群
「どう調べても、あなたはこの世界で生まれたこの世界の住人のようです。ウォーカーではありえません。
 おっと、おちついて。どうか興奮なさらず……」
 ネームプレートに『コマツバラ エンメイ』と書かれた白衣の医者が、なだめるように手を翳す。
「最近はあなたのような方が増えているのです。混沌出身であるにも関わらず自分を異世界からの旅人だと言い張る方がね。
 私はこれをコズミックトラベラーシンドロームと呼んでいるのですが、中にはこの世界は自分が見ている夢だと主張する方もいまして」
 カルテシートをぱらぱらとめくる。
 黒縁の眼鏡の位置を直して、コマツバラ氏は目を細めた。
「うん。これだ。あなたと同じ主張をしているんですよ。
 えーと……灰色の壁、灰色の天井、灰色のベッドフレーム。
 ええ、あなたと同じです。この方も、自分は今、精神病棟に隔離されていると主張しています。
 この方だけではありませんよ。もう何名かいらっしゃって……あなたで丁度17人目になりますね。
 どうでしょう。暫く入院して、安定剤を投与してみるというのは」

 ――この後、精神医コマツバラ氏は惨殺死体で発見された。

●ピクセルマンを知っているか
「町外れの病院にモンスターが発生したらしい。入院患者と医者が惨殺されてしまっていて、これ以上の被害拡大を抑えるために駆除の依頼が入ってきた。出資者の貴族サンからだが……金を出すってことは管理に噛むってこともある。面倒だがつらい話だよな」
 ローレットのイレギュラーズにそんな話を持ってきたのは幻想の情報屋だった。
「ま、とりあえず見てくれ。現われたモンスターのスケッチだ」

 異様な造形のモンスターだった。
 人型のシルエット。
 ピンク色の表皮。
 頭髪もなく爪もなく歯も眼球もなく、まるで大小様々な立方体を粗く融合させたような形状。
 立方体の集合体。

「『ピクセルマン』と呼ぶことにしたらしい。ん、知ってるのか?」

GMコメント

【オーダー】
 『ピクセルマン』18体の討伐

【フィールドデータ】
 二階建て精神病棟とその周辺。
 山の中に建設されており周囲に人はいない。高い金網と森に覆われており、ピクセルマンは病棟の中と手前あたりをふらふらと徘徊している様子。

 周囲から隔離された精神病棟で、内側のロックは解かれている。
 そういった用途の建物なので鎮静剤などはおいてあるがメスのような外科手術道具および施設はない。

【エネミーデータ】
 ピクセルマンは人間に似た動作を行ない、木材やカッターナイフ、ペン、椅子などを武器にして他の入院患者や医者を殺害したものと思われる。
 よって基本的な攻撃方法は『格闘』に限定されるはずだ。
 遠方から観察したところ一箇所に固まっている様子はなく、ちらほらとあちこちをうろついている。
 ただし各個撃破を狙って端から攻めていくとピクセルマンが逃げてしまうおそれがあるため、チームをできるだけ細かく分散させて病院の周囲(屋上含む)から追い詰めるようにせめていくことが推奨されている。

【情報精度】
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 ……ですが、あなたはもしかしたら、知るべきことを知っているかも知れません。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • COSMIC TRAVELER SYNDROME完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月23日 23時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
レッド(p3p000395)
赤々靴
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
刀根・白盾・灰(p3p001260)
煙草二十本男
七鳥・天十里(p3p001668)
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
レンゲ・アベイユ(p3p002240)
みつばちガール
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女

リプレイ

●COSMIC TRAVELER SYNDROME
 精神医コマツバラ氏が惨殺したいで発見されたことをきっかけにして始まった通称『ピクセルマン』の討伐業務。
 精神病棟に入院していた17名の安否は分からぬまま、18体のピクセルマンに対応することとなった。
 出資者の貴族が患者の保護や死亡確認を依頼内容に含めなかったということは、病院ごと捨てるつもりでいるということなのだろうか。
 普通に考えれば、そういうことになる。
 が、今回。
 『普通』に考えていない者がいくらか、いた。
 『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)もそのひとりである。
「戦闘員的なルックでいて、武器を持つ様子を見る限りどうやら知性があるようですね。貴族は詳細を話しませんでしたし、精神病棟にこういったエネミーが出るのは不自然です。パターンでいうとコレ元人間とかいう話になりそうですが、改造手術を行う施設でもないようですし……精神干渉系の敵が別に居て、認識阻害を起こしているだとか?」
「そもそも、自然発生するものなの? 混沌っていろんなモンスターがいるから絶対いないとは言わないけど……場所的に、さ」
 七鳥・天十里(p3p001668)も珍しく不安げな顔だ。
「絶対なにかあるよね。敵も気味が悪いし」
「なによ、またピクセルマンが現われたくらいで慌てないの! 今度は負けないんだから!」
 『みつばちガール』レンゲ・アベイユ(p3p002240)がえっへんと胸を張った。
 はっとして振り返る天十里。
「前に戦った経験があるの?」
「ないわよ?」
「ん?」
「えっ?」
「んー?」
 二人してゆっくりと首を傾げ合う。

 世界の構造についていまいちど話さねばなるまい。
 世界のルール混沌肯定『不在証明』は最も容易い悪魔の証明とされている。
 この世界にあってはならないものを一方的に無効化する法則であり、この世界そのものを歪めるほどの現象がおこりえないことの担保でもあった。
 混沌という世界が多の世界に対するイレギュラーであるという証明でも、ある。
 ……なぜこんな話をするのか?
「武器じゃなく木材やペンで殺害されていたのですか、その医者は」
 走る馬車の中。
 『屑鉄卿』刀根・白盾・灰(p3p001260)は依頼書を読みながら、小さく首を振った。
「なぶり者にされたのでしょうかね。なんとむごい……私もとらえられたりせぬようにしなければ!」
「とらえられてペンでいじめられるとは……ハッ、閃きました!」
 『魔砲使い』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)がよろしくないキメ顔で振り返った。
「(騎士に)通報しました」
「騎士はあなたでしょう?」
 依頼書にペンでピクセルマンの落書きをしていくエリザベス。覗き込む灰。
「しかしこんなクリーチャーが精神病院を徘徊しているとは。恐くは?」
「こわくなんてねーし! マジで!」
 やや喰い気味に身を乗り出していく『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)。
 どうどうとなだめる大人(?)二人に『まじで……』と言いながら椅子に戻る洸汰。
「しっかし、患者たちはどこに行ったんだろうなー? あそこって隔離病棟だろー?」
「えっ、そんなこと書いてありましたっけ?」
「え、ないか?」
「ないですね」
「そうかー?」
「「んー?」」
 首を同時に傾げる灰とエリザベス。

 馬車は長い山道を抜け、鉄柵に囲まれた病棟前へとたどり着いた。
 『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は馬車から降りていまいちど全景を眺めてみる。
 鉄格子のはまった窓が等間隔に見え、建物の周囲には刑務所のごとき柵が並んでいる。まるで中にいる人間を隔離ないし拘束することが目的のようだった。
 そういう病院は少なからずあるものなので、別段奇異ではない。
「人を殺し病院を我が物顔で蔓延る悪いモンスター。ピクセルマンを退治するっす!」
 そう、目的もこうして言葉にすれば実にシンプル。
 けれどなんだかひっかかる。何がひっかかるのかすら、わからないが。
「さて、と。まずは偵察よね」
 同じく馬車を降りた『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)は手慣れた様子で小動物を呼び出し、五感の共有と使役を始めた。
 ここで安易に小鳥を出さず鼠を出してくるところが、エスラの場慣れ感である。スカイウェザーが沢山居るこの世界で空が不注意になることは珍しく、取得さえすれば誰でも扱える技術であるがゆえ誰でも利用を思いつく。頻繁に羽音を出す飛行動物は警戒されやすくばれやすい。かつこちらの意図を読まれやすい。
 それゆえ、ファミリアーをただ使うだけでなくどう使うかが重要なのだ。
 小難しい話はこのくらいにして。
 雑草が多く生える野外と大きな建物内の探索や偵察には隠れやすい鼠がとても便利だ、と言う話である。
 ついでにその辺の雑草に問いかけて、この辺りには滅多に人が出入りしないことも確認していた。
「こんな所かしらね。それじゃあ、手分けして対応しましょ。建物を四方の角から囲う感じで」
 GOGOとでもいうように握った拳を掲げ小さく回すサインを出した。

●イデア
「さて――」
 アルプスローダー・アバターはポケットからキーを取り出すと、親指ではじくように飛ばした。
 キャッチしたその時には、既にキーは差し込まれ、エンジンはかかり、圧倒的なスピードによって既に芝の上を走って逃げていたピクセルマンを後ろから撥ねていた。
「振り切りますか」
 追突によって吹き飛ばされ、鉄柵に激突するピクセルマン。
 あたりどころが悪かったのか、頭から赤い血を流してぐったりとしていた。
 動く様子すら見られない。
 瞬殺とはまさにこのことだ。
 エスラは偵察鼠を立ち上がらせて建物の影を探索。
 こちらの様子に気づいたピクセルマンの二人組が反対方向へ走って逃げるのを確認した。
「いたわ。こっちは任せて」
 勢いよく走り建物を回り込む。
 走って追いつく必要は無い。
 既にエスラは魔導書のロックを解いており、魔方陣を無数に展開し終えていた。
 まるで複数のミサイルポットが首を向けるかのように、四つの升目型魔方陣がそれぞれの数式ゲートを開放。マジックミサイルの群れを次々に発射した。
 逃げるピクセルマンの一方が、もう一方を庇うように動いた。
 悪意魔術の爆発が二人を包む。
 血を吐いて崩れ落ちるピクセルマンと、それを抱えて揺するピクセルマン。
「味方を庇ったの? けど、その味方が逃げないんじゃ意味ないわね」
 エスラは升目式魔方陣を更にもう一つ追加すると、再びの一斉発射を仕掛けた。

「宇宙人にはまず挨拶!」
 レッドはスケッチブックに大きく『こんにちは』と書き付けると、頭上に高く掲げた。
「こんにちは! っす!」
 そんなレッドめがけて、ガラスの破片を布でくるんだ即席ナイフを握って突っ込んでくるピクセルマン。
「うわー! 挨拶したのにー!」
 一生懸命スケッチブックを振るレッド。迫るピクセルマン。
 横から飛び出す電子妖精。
 血の付いた金槌をピクセルマンの側頭部に直撃させた。
 衝撃のあまり転倒するピクセルマン。間に割り込むようにエリザベスが(ジョジョ立ちで)滑り込みをかけた。
「ご無事ですか」
「いや、無事っすけど……」
 レッドは掲げたスケブを見上げた。
「イン○ペンデンスデイやマー○アタックはご存じでしょうか」
「このパターンも知らないわけじゃ……えっなんて?」
「ほら、まだ来ますよ」
 自分から割り込んだくせにすすっとレッドの後ろに隠れ始めたエリザベス。
 レッドはやばいっすやばいっすといいながらナイフを握り、起き上がりざまのピクセルマンにナイフパンチ(ナイフの柄を握り込んで無理矢理ぶんなぐるレッドの必殺技である)を叩き込んだ。
 偶然にもピクセルマンの肘にぶつかり、ガラスナイフが手元から飛んでいく。
「もう一発っす!」
 すかさずレッドはナイフキック(ナイフを握った心の強さで赤い靴キックを繰り出すレッドの必殺技である)を叩き込んだ。
 衝撃で一回転し、壁にぶつかって動かなくなるピクセルマン。
「状況終了……のようでございますね」
 さあ、次は屋内でございますわよ、とエリザベスがレッドの手を引いていった。

 飛来するこぶし大の石をにらみ、洸汰はバットのグリップを握りしめた。
 一見まっすぐに飛ぶ石の回転を見極める。回転の強さから落下に対し軽い抵抗が生じることを予測し、洸汰は内角高めにバットを振り込んだ。
 芯でとらえたバットが、石を鉄柵の向こう側まで打ち飛ばした。
「っしゃ! 今度はバッチリ調子いいぞー!」
 ニッと歯を見せて笑う洸汰。しかし違和感が彼の中で油のようにねっとりと張り付いていた。
 背後の建物に覚えがあるような気がしてならぬ。
 聞くところによれば精神病棟。病気や怪我はともかく精神的に健康きわまる洸汰とは無縁の施設であるように思えるが。
 石を投げてきたピクセルマンがこちらに背を向けて走り出す。
「待てー! 前はお前らにボッコボコにされたけど、今度はそうはいかねーぞー!」
 鉄柵にしがみつき、よじ登ろうとするピクセルマンをバットで殴りつける。
 痛みと衝撃で手を離したピクセルマンが地面に転がるのを確認して、レンゲは回り込んだ柵の上から攻撃を仕掛けることにした。
 ホワイトとメイプルイエローで色分けされたタンバリンをリズミカルに叩くと、はじける滴のようにマジックドロップを出現させる。
 タンバリンをラケット代わりにしてドロップを弾くと、ピクセルマンへと次々に叩き付けられていった。
 穴だらけになって沈黙するピクセルマン。
 レンゲはそのそばへと着地して、これ以上動かないことを慎重に確かめた。
「うん、ばっちりねコータ。次は屋内を調べましょ。今度こそはぐれないようにしなくっちゃ!」
 洸汰はそーだなーと言って、レンゲの手を引いて歩き出した。
 それが自然なことであるかのように。以前にもそうしていたかのように。
 初対面の相手であるにも、関わらず。

「逃げるなッ!」
 灰は前傾姿勢で走ると、ピクセルマンの後ろ腰よりやや下を意識して掴みかかるようなタックルをしかけた。
 ラグビーの経験がある者ならこのタックルの原理がわかるだろう。人間は通常、身体のバランスの大半を腰でとっている。腕を振り回しても転倒しないのはそのためだ。
 ゆえに腰から下に激しい横向きエネルギーを加えることで、容易に人は転倒する。訓練されたラグビー選手であってもそうなのだから、素人丸出しの逃走をはかったピクセルマンなど。
「七鳥殿、そちらを頼みます!」
 灰は転倒させたピクセルマンにのしかかるように匍匐移動で頭部を目指すと、腰の後ろから抜いた剣を逆手に握ったまま首の下へと通した。
 その隙間へ刃を立てた状態で剣を挿入、自身の重量をかけて対象を切断した。
 そうして屈んだ姿勢のままピクセルマンを沈黙させる灰。ゴボゴボと音をたてながら暴れるピクセルマンを押さえつける彼の頭上を越えるように、天十里は両手でしっかりとリボルバー拳銃を握り込んだ。
 足を肩幅に開き、自らの全身を銃の固定具とする。
 トリガーをひき撃鉄に力が伝わり雷管を叩き重心を抜けきるまでのきわめて僅かな時間だけ、全身を硬直させる。
 背を向けて走るピクセルマンの後頭部に、アイアンサイトをあわせる。
 肩から指にかけてのみを柔軟にうごかすべく、そしてもっと大事なあることのために、天十里はいつもこの瞬間に笑顔をつくった。
 無限のように引き延ばされた刹那の時間が、通常時間感覚へ戻る時。
 ピクセルマンは後頭部に穴をつくってうつ伏せに倒れていた。
「野外のピクセルマンはこれで全部片付いたかな。あとは屋内だよね」
 透視能力を発動させて、病棟の内側を透かし見る。
 見て、そして、天十里はあることに気がついた。

●ピクセルマン
「三階っす! 屋上に逃げるやつらがいるっすよ!」
 透視能力を持ち込んでいるのは天十里だけではない。レッドが屋内三階への階段を駆け上がるピクセルマンの存在に気づき、指をさした。
 エリザベスが腕を大砲のように向け、各所をぱかぱかと展開しはじめる。
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロングエリザベス砲、うてます」
「撃つっす!」
 発射した砲撃が窓ガラスとそのフレームを丸ごと破壊し、ピクセルマンの手をひいて走るもう一人のピクセルマンを打ち抜いた。
 衝撃で壁に激突し、ずるずると崩れ落ちるピクセルマン。
「逃がさないようにしないと。誰か――」
「僕がいきましょう」
 アルプスローダーはボディから翼とジェット噴射口を展開すると、垂直発射によって三階まで上昇。即噴射方向を90度まげて起き上がろうとするピクセルマンに突撃した。
 壁を破壊して部屋の中へと転がり込む。壁をやぶるほどの突撃をうけたピクセルマンは人間の形をしていたとは思えないような変形をし、パイプフレームのベッドに軽く『混ざって』いた。
 計器板から出たアイカメラを180度回転させ、後方を見る。
 壁の大穴からこちらを覗き込むピクセルマンがいた。
 エンジンを唸らせ、再びの突撃をしかける――が、ピクセルマンはその場から飛び退いて回避した。
 かろうじて窓際の壁に激突することで退場を免れるアルプスローダー。
「援護するわ。そのまま追って!」
 地上から多重反転式魔方陣を筒状に展開していくエスラ。魔方陣によって作った大砲を担ぐかのように両肩に乗せると、三階の廊下を端から順に砲撃していった。
 次々とガラスが割れ飛び散り、破壊されたフレームが歪んでいく。

 一方で、灰と天十里は病院裏口から屋内に侵入、隠れていたピクセルマンを探しだしては銃殺していった。
 リボルバー弾倉を解放し空薬莢をばらばらと落とす天十里。
 スピードローダーで再装填をかけると、灰へと振り返った。
「ちょっと状況がまずいかも。皆たしか、『人助けセンサー』でピクセルマンの位置を探って攻撃しようとしてるんだよね」
「そのはずです。壁抜きはさすがにしていないと思いたいですが……必ず目視確認をするように呼びかけておきましょう」
「それがいいね。だって」
 灰が壁に頭を叩き付けて殺したピクセルマンを投げ捨てると、掃除用具を入れるためのスチールロッカーがゆっくりと開く。
 中には、震える少女が入っていた。
 人間の、少女である。
 白い髪。青い目。ディープシーの種族特徴が耳に出ていた。歳は12歳前後といったところだろう。
「確かこの病院には17名ほどの入院患者がいたはずです。きっとその一人でしょう」
 灰は布で手に付いた血をぬぐい、少女の目線にあわせてかがみ込んだ。
「ピクセルマンに脅かされていたのですね。もう大丈夫です。お名前は、言えますか?」
「あ、あとりです……ななとり、あとり……」
 少女は震える唇で言った。
 表情が、歪んだ笑顔になっていく。
「これは、ゆめ、だよね……?」

 精神病院一階の来客用女子トイレ。その一番奥の個室に入り、洋式便器の蓋の上で膝を抱くものがいた。
「いや! やだ! 怖い! 怖い! 怖い! 誰かいないの!? 誰か!」
 囁く声に顔を上げる。
「誰……」
 声が。足音が、個室の前で止まった。
 木製のバットを引きずる音と共に。
 ぴたりと。
「ああ……いたんだ……そんなところに……」
 個室の扉を開く。
 血まみれのバットを握ったピクセルマンが立っ――。
「うりゃー!」
 ピクセルマンの側頭部に洸汰のバットが直撃した。
 派手に転倒し、トイレの床を転がるピクセルマン。
「オレの『人助けセンサー』が反応してたんだ。駆けつけて正解だったなー」
 なおも起き上がろうとするピクセルマンに洸汰はさらなる打撃を加えた。
 幾度かバットで殴りつけたところで、洸汰はトイレの個室で震えていた少女に振り返った。
「大丈夫かー? 助けに来たからもう心配いらないぞ」
「あ、ああ……ああ……」
 ショックのあまり言葉が美味く出てこないのだろう。
 黒髪黒目。カオスシードと思しき17歳ほどの少女は自らの顔と髪をぐしゃぐしゃとかきまぜるようにしながら、か細いこえで何かを言っていた。
 首を傾げ、よく聞こえるように近づいてみる。
「あたしは名家アベイユ家の末娘なんだから幻想の大きなお家に住んでるのよもういつまでも夢なんて見てちゃだめね早く起きてお仕事をしなくちゃあたしは名家アベイユ家の――」

 屋上の扉が乱暴に開かれた。
 ピクセルマンは閉じた扉に鍵をかけ、コンクリートの地面を走る。
「まちなさい!」
 レンゲが飛行し、屋上へと到達。
 牽制射撃として放ったマジックドロップがコンクリート面に曲がった点線を描いていく。
 それをなんとかよけきったピクセルマンは、屋上の縁へとたどり着いた。
「もうそれ以上逃げられないわよ。大人しくこっちに――」
 レンゲが手を伸ばした、その時。
 ピクセルマンは縁から『外』へと飛んだ。
 重力にひかれる全ての物体がそうであるように。
 ピクセルマンは短い放物線を描き、三階建造物の高さより落下し、へし折れるように地面に爆散した。
「………………」

 こうして、事件は終了した。
 ピクセルマンの討伐は、成功した。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼内容は達成されました。

 同時に、事件被害者が救出され、元々精神を病んでいたことから別の病院へ移送されました。
 事件処理にあたったイレギュラーズの興味から、院内の資料が検索されています。
 情報の整理にしばらく時間がかかるでしょう。

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