シナリオ詳細
破れた羊皮紙
オープニング
●其れは悪か
とある村での出来事である。
「俺の……俺の家が!!」
「おい、待て! 早まるなッ!!」
その場の空気を満たしているのは、木と空気の焼け焦げた臭い。
「家の中に、子供がいるんだ!! 離してくれ!」
鼻を突くような煙と臭いに包まれた中で。羽交い絞めにされてなお、我が子を救おうと火の回った家へと手を伸ばす。
しかしそれはもう、届かない手だ。無慈悲に天へと巻き上がった炎は、彼のこれまでの人生と、その周囲の全てを飲み込み。只、嘲笑う。
「あぁ…………あ、ああ……」
目の前で悪意に巻かれ、自分の持つ全てが消えていく。ただ声を漏らすことしか出来ない彼に、何かをする力は残っていなかった。
●
濃密な影、とでも表現すればいいだろうか。
この村の何処か。誰も知らない影たる場所で、そっと。悪意の種が芽吹こうとしていた。
「……私の悲願も、もうすぐ……」
カリ、と。彼は机に置かれた古い羊皮紙に書かれた文字に、線を引く。釣られるように口元が弧を描く。
「ひ、ひひ……ひひひ……」
半ば狂ったような男の笑い声は、更に深くなった闇の中に飲まれ、溶けていく――。
●ギルド・ローレットにて
「皆さん、緊急なのです!」
パタパタとギルドの奥から駆けてきたのは『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。しかし、彼女は可愛らしい走りとは裏腹に、珍しく沈痛な面持ちでイレギュラーズたちに依頼書を向けた。
「近隣の村で、不可解な事件が次々に起こっているらしいのですよ」
不可解な事件。その難解といえば難解な言葉にイレギュラーズたちは顔を見合わせる。
ローレット近郊にある、とある村。そこで「怪事件」とでもいうべき現象が起きているらしい。
それも、子供の悪戯などではない。村としても放置しておけない、実害が出るレベルのものが立て続けに起こるというのだ。
「子供が消えたり、畑の作物が盗まれたり、火元がない家が全焼したり……とにかく、大惨事なのです」
原因も不明、加害者がいるかも分からない。しかし村として放置はしておけない……そんな彼らが頼ったのは、イレギュラーズたちだった、ということになる。
「お願いするのです」
ユリーカはぺこりと頭を下げた。彼女とて、危険が無いわけではないのは重々承知しているのだ。しかし依頼された以上は解決せざるおえない。
――『村を救ってくれ』と小さな一文が綴られた依頼書が、ふわりと風に靡いた。今にも飛ばされてしまうかのように。今にも破れて、消えてしまうかのように。
- 破れた羊皮紙完了
- GM名鉈
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年11月27日 23時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「ふむ。村に出入りを繰り返しているのは、行商人の方々のみということですね」
「そうですじゃ」
しわしわの老人はうむ、と質問に素直に頷く。そのお爺さんとテーブルを挟んで向かい合い、メモを取っているのは『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)だ。
「次に、事件の発生した詳しい日時をそろぞれお聞きしたいのですが」
「そうじゃのう。あれは一昨日の昼間じゃった――」
寛治は、意外にも物覚えのいい老人の言うことをきっちりと書き留めていく。スーツ姿でメモを取る彼はいま、サラリーマンか会社員にしか見えないだろう。
……事実、そうだった過去もあるのだが。
(バラバラ、だね)
『孤兎』コゼット(p3p002755)は、寛治と老人のやり取りに無表情に首を傾げた。
(何が目的、なんだろ?)
行方不明者、火事、盗難。村長の口から出る事象をどう繋ぎ合わせても、その目的がまったく見えてこないのだ。
これといった共通点もなく、かといってただ事件を起こしたいだけにも思えない。
「お爺さん、村の地図を見せてもらえるかな?」
「おお、お安い御用ですじゃ」
「ありがとう」
寛治の聞き込みが一段落すると『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741)は村長へと声をかけた。
彼女は、震える手で差し出された地図を机に置くと、取り出した紙にそれを写していく。
(隠せそうな場所とか、あるかもしれないからね)
地形の把握は大切だ。見ただけでは分からない場所、たどり着き辛い場所。そういうものは確実に存在する。
「……解決、できますかのう……」
老人は不安げに声を揺らした。
「大船に乗った気持ちで任せて下さいなっ!」
『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)は、どんっ! と胸を叩いて見せる。
「私たちが来たからには、もう安心ですっ!!」
ヨハナは自信満々に胸を張る。老人を安心させるように。
「ありがとうございますじゃ」
老人は小さく笑う。そんな少女の姿に、多少は暗い気持ちが晴れたのだろう。
無論、お気楽ド天然娘にそんな意図があったのかは怪しいところだが。
「これ、お返しするよ。ありがとうね」
鼎は、写し終えた地図を村長に返却すると、それを全員へと共有する。
それを合図に、彼らは事件解決のため。村長の家を後にしたのだった。
●忍者と兎
コゼットは内心、小さく苛立っていた。
(うるさい、な)
彼女のギフトはノイズ。悪意を雑音として聞き取れる能力。それを使って犯人まで迫ろうと思ったのだが……
(多すぎる、よ)
村に渦巻く敵意と悪意。疑心暗鬼に染まった村では、あまりにもそれが多すぎたのだ。
その大きさは辛うじて聞き取れるものの、全てを詳細に把握することは難しい。
「大丈夫でござるか?」
コゼットのそんな機微を感じ取ったのか、『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)はその顔を覗き込む。
たまたま同じ依頼を受けただけの仲ではあるが、今は大切な頼れる仲間なのだ。放ってはおけない。
「問題ない、よ」
コゼットはこくりと小さく頷いた。多少うるさいだけだ、問題はない。
「よかったでござる……あ、此処でござるよ」
二人がたどり着いたのは、自警団詰所と書かれた小さな小屋。鼎の地図にあったとおり、この場所で間違いないようだ。
(彼らへの悪意も、ある、ね)
自警団もまた疑いの対象らしい。それが分かるだけでも、ノイズのギフトは役に立ったといえるだろう。
「何か分かるといいでござるが……」
「そう、だね」
兎にも角にも話を聞くしかない。
彼女たちは頷きあうと、そっとその扉を叩いたのだった。
●冒険は現場が命
「よい、しょっと」
ガコン! と。『観光客』アト・サイン(p3p001394)は、そんな掛け声と共に瓦礫を持ち上げた。
彼がいるのは火災現場、その焼け跡である。
(ここも何もなし、か)
ガコンッ。
3m棒を巧みに駆使して瓦礫を戻すと、アトは周囲に大量に散らばる瓦礫を見渡す。
「火元の無い家が燃えるなんて、不思議なこともあるものだね」
興味が尽きない、と言わんばかりに手を動かすと。また別の瓦礫へと棒を差し入れた。
よく目を凝らしてみれば、彼の周囲だけは焼けた損傷が他よりも酷い。アトはそれを看破し、火事の火元となった原因を探っているのだ。
(故意的なものにせよ、そうでないにせよ。絶対にあるはずだ)
持ち上げた瓦礫の下をカンテラで照らし、フードの奥から視線を巡らせる。
「……お、これは」
そう呟くと、彼は暗い瓦礫の奥からそっと、小さな物体を摘まみ上げた。
摘まんだ小さなそれを目の前まで持ってくると、矯めつ、眇めつ。
焼け焦げた小さな木の棒。ぱっと見ただけでは分からないが、それはマッチ棒と酷似していた。
「藪の中に蛇はいないと思ったけど、そうでもなさそうだ」
アトはその証拠品を大事にザックににしまい込むと、次の調査場所に出向くべく焼け跡を後にする。次は、畑で情報収集だ。
(冒険の基本は情報収集、ってね)
●焼け跡の遺体
「何も無かったんだ! そう言ってるだろ!」
「ええ、わかってますっ! 分かってますから、落ち着いてっ」
「くそ」
此処は村の診療所。そこで興奮するメリルを宥めているのはヨハナだ。
メリルが感情的になり、ヨハナがそれを宥める。そんなことを繰り返しながら、既にかなりの時間が経っていた。
「火事の時、周囲には誰がいたか覚えてますか?」
時間をかけて、興奮するメリルと会話を続けたヨハナの努力のかいあってか。自らの不幸に悪態をつきつつも、彼は考え込むように顔を伏せる。
「……実は、あんまり覚えてないんだ。あの時は、必死でよ……」
無理もないですねっ、とヨハナは頷く。
「思い出せる範囲でいいのでっ!」
「大きい火事だったからな。野次馬は大勢いた」
見知った近所の村人たち、村長。そして商人たちも、その現場にいたという。
(そう簡単に絞り込めそうにもありませんねっ)
「私以外に、お見舞いに来る人は?」
「友人と、医者くらいだ」
ほむほむっ、とヨハナはメモに彼の言葉を書いていく。
だいたいは聞き終えた。後は……
「事件後の状況を、聞いてもいいですかっ?」
彼の感情が高ぶりそうな質問を最後にとっておいたのだ。少し落ち着いた今なら、きっと彼も話してくれるに違いない。
「……リィが、いなかったんだ」
「リィ?」
唐突に出てくた聞き覚えの無い名前にヨハナは首を傾げる。そんな彼女を見たメリルは、幾分信用した視線をヨハナに向けた。
ポツン、と。蛇口から一滴、水が落ちる。
「遺体が無かったんだ。確かに家の中にいた、娘の遺体が……みんな、燃え尽きちまったんだていうけどよ」
――俺は、絶対生きてるって信じてるんだ。
悲痛な面持ちでそう口にするメリル。彼を見つめるヨハナの目がこれだっ! と、きらりと輝いた。
●カレー?
「これとこれと、あとこれもください!」
「毎度あり!」
『特異運命座標』藤堂 夕(p3p006645)がいるのは村の商店街。その一角にある八百屋で、彼女は大量の野菜を買い込んでいた。
両手に抱えた袋の中には、様々な野菜がこれでもかと詰め込まれている。店主がサービスしてくれたようだ。
「あ、ねえ、おじさん。少し聞いてもいい?」
夕は「そうだ」と思い出したように、笑みを崩さず話しかける。
「嬢ちゃんは大事な客だ、何でも聞いてくンな!」
(よしっ!)
彼女は、店主のその言葉を聞くと満面の笑みで心の中でガッツポーズ。金払いのいい客というのは、一時の信頼を勝ち取りやすい。
こういう時にこそ有効なのだ!
「お店、盗難にあったんだよね? 取られたものとか、詳しくきかせてくれるかな!」
店主は暫くして「分かった」と頷くと、
「そうさな。一昨日は、人参3本に芋が2つ、それから……」
「うぇ、ちょ、ストップ! メモ! メモだすから!!」
わたふたと慌てて取り出したメモ帳に、夕は盗難情報を書き出していく。
孫を見るような目で見送る八百屋夫婦に「ありがと、おじさん! おばさん!」と手を振り、店を出る。
かなりの時間、買い物をしていたからか、日差しが少し眩しい。
とりあえずお店には、使い魔を置いてきた。次に盗難があれば必ず見つけてくれるだろう。
改めて、メモに視線を落とす。
(いっぱい盗られてるんだ。それに、時期もバラバラ)
店主が覚えている限りの日付と盗難品を書き出してみたものの。それだけではなかなか難しいものだ。
「人参、ジャガイモ、ナス、トマト……ん?」
そこまで口にして、夕は足を止める。この野菜の組み合わせは……
「カレー?」
●水源の痕跡
村のすぐ側に流れる川。アルテア・オルタ(p3p006693)はそっと川に近づくと、その水面を覗き込む。
騎士装束を身に纏った、銀の髪に赤の瞳の少女がこちらを見返した。光を吸い込むような、綺麗な川だ。
(難しかったが、何とか信用してもらえただろうか)
彼女は先ほど、村で聞き込みを行っていたのだ。
始めこそ、村人は話を聞こうとさえしなかったが。調査に来たこと、村を助けたいこと。それを懸命に伝えていれば、最後には協力的になってくれたのだ。
それは彼女の努力の賜物であり、そして、その類稀なカリスマ性もあってのことだろう。
しかし――
(分からないな)
聞き込み調査の結果は、あまり芳しくはなかった。ヒントはあるのかもしれないが、それだけではまだ足りない。
そしてアルテアはいま、村人に教えてもらった水源地である井戸と川。その川の方へと足を運んでいた。
もし、行方不明になった子供たちが飲み水を得ているとするならば、おそらくこの場所なのだ。
アルテアは目を閉じ、そっと冷たい川へと両手を浸す。
それは、自然会話。この場に子供たちが来ていれば、きっとそれが明らかになると信じて。
「知っているなら教えて欲しい。村と、子供たちの為だ――」
鏡のような水面が、小さく波打つ。伝えられることに歓喜するかのように。
知り得ることを断片的に、その鏡に映し出す。
「……これは……」
●唄
村の広場の一角。そのベンチの一つに、楽器を片手に座る少年がいる。
「やあ、少しお話を聞いてもいいかな?」
少年がふと顔を向ければ、ミステリアスな金の瞳が彼を見返した。鼎である。
「構わないけど……」
「それはよかった。君はいま、この村で起きていることを知っているかな?」
「ああ、うん」
怪事件のことを知らずに村に来る者も少なくはない。しかし、唄い手である彼は知っていたようだ。
首肯する少年に、鼎はふふ、と笑うと「話が早いね」と。指を口に当て、片目を瞑る。
「この村で起きていることと似た事象を謳っている唄を、君は持っていないかな?」
ふむ、と少年――吟遊詩人の少年――は、考え込むように顔を伏せた。
「おや、あるみたいだね?」
どちらかといえば「意外だった」とでもいうように目を丸くする鼎。
少年は楽器を両手に持つと、そっと指を弦に添えた。自らの唄を紡ぐために。
「――世界に災い 訪れる」
ポロン。
ひとりひとりと 消えていく
生贄を神に捧げれば 死の世界との戸が開く
願いは全て 叶うだろう
悲願は必ず 叶うだろう
世界に降りかかる厄災の炎。人が消え、家も畑も燃えて消える。
事象は違えど、確かに内容は酷似していた。
「……死の世界とは何かな?」
「それは――」
少年曰く。生贄を神に捧げれば、死者を生き返らせることができるのだという。「もちろん、ただの唄だけどね」と、彼は小さく舌を出した。
「いや、ありがとう。なかなか興味深かったし……いい声だったね。これはほんの気持ちだよ」
鼎の弾いた硬貨を少年は慌てつつもキャッチする。
そんな姿を見た鼎はまた、ふふ、と笑みを漏らしたのだった。
●小さな疑念
「べスター様と隊商の皆様の疑いを晴らしておきたく、お話を伺った次第です。ありがとうございました」
スーツ姿の眼鏡の奥、どちらかといえば知的な光を湛えた視線。寛治は、行商人であるベスタ―に小さく頭を下げる。
「ご苦労さまです。我々としても、事件の早期解決を望んでいる。頼みましたよ」
ベスタ―は寛治に労いの言葉をかけた。ごくごく自然に、だ。
寛治はベスタ―と握手を交わすと部屋を後にする。
(印象は悪くありませんでしたね)
仕事人の性か、そういう視線で見てしまうのは仕方ないことでもある。
(盗難被害は商隊からも多数。アリバイは無しですか……)
ベスタ―の仕草や言動に、怪しいところは見当たらなかった。しかし、同時に彼らにはアリバイも無かったのだ。
隊商の中の数人に、じんm……「丁寧な質問」に付き合ってもらったのだが。ベスタ―の供述との矛盾点も特にない。
(しかし……)
しかし、だ。寛治は小さな疑念を拭えないでいた。
確かに矛盾はなかった。しかしそれは、矛盾するような事柄をそもそも話していないからではないか?
隠そうと思えばいくらでも隠せるのだ。何かあっても、何らおかしくはない。
「ひとまずは、合流するべきですね」
聞き込みのメモをスーツの内ポケットにしまいこむと、彼は合流地点へと向かうのだった。
●伏してでも
村の広場。ある程度の広さがあるその場所は自然、村の子供たちの遊び場となっている。
いつもは和やかなその場所が、今日は何か不穏な空気に包まれていた。
「あなたたちが犯人じゃないって保証はどこにもないわ」
「……そうでござるな」
咲耶と、子供たちの親である。彼女たちが作り出す空気が、広場をどんよりと暗いものにしている。
「なら協力なんてできない!」
「……」
(行方不明になった我が子を心配するあまり、疑心暗鬼に陥っているのでござろうな)
犯人でない証拠を見せろと騒ぐ彼女をどう説得したものか。咲耶は考えを巡らせる。
彼女に協力的になってもらうには……証拠は、ない。それなら……
「……何をすればいいでござるか?」
「……は?」
「何でもするでござる」
信用できぬというのなら、してもらうまでのこと――!
「頭を下げろというのなら下げよう。踊れというのなら、踊るでござる」
咲耶は向き合っていた。目の前の彼女ではなく、その心と。直接。
「なれば、伏してでもお願いするでござる! これ以上の被害を出さぬために、協力しては貰えぬでござろうか?」
バッ、と。躊躇なく咲耶は頭を下げた。
――そのまま、幾分の時間が過ぎる。
「村のこと、好き?」
「!?」
突然きこえた別の声。振り向けば、そこには子供たちへの聞き込みを終えたコゼットが、いつの間にかそこにいた。
「……好きよ、勿論」
母親はひとつ、頷く。
「なら、教えて。私たちは、助けたいだけ、だよ」
「……何が聞きたいの」
「……! それでは…!」
咲耶の目に映ったのは、毒気を抜かれたような母親の表情。
「協力するわ、何でも聞いてください」
「ありが、と」
「かたじけないっ」
咲耶とコゼットは目配せをすると、聞き込みを再開するのだった。
「まずは、事件当時の状況を教えてほしいでござる――」
●悪意の在処は?
真夜中。村の路地を隠れるように歩く人物がいる。ソレは人目のつかない道を選ぶと、そっと。誰もが見過ごすような、木製の古いドアの隙間へと身を滑らせた。
バサバサッと、フクロウが屋根から飛び立つ。
その人影は階段を降りると、手に持っていた麻袋を床へと放った。袋には誰かが入っているのか、もそもそと動いている。
そこには既に、床に敷かれた藁の上で寝ている子供たちが9人。男が麻袋の紐を解くと、そこには10人目の子供……少年が、顔を出した。
「ひひ、ひ……これで、10人…!」
男の顔が歪み、笑みが零れる。ひひひ、とただ男が笑う声だけが、その場に――
「……残念ですね」
「誰だ!?」
男は声のした方向を振り向くものの、そこには誰もいない。
――いや、いた。壁から滲み出るようにして姿を現したのは、寛治だ。彼のギフトである。
「とても残念です……ベスタ―様」
彼の横には、銀髪の騎士。アルテアが、刀を構えている。
男――行商人ベスタ―は、咄嗟に入り口の方を振り向き、駆けた。
「おっと、逃げちゃだめだよ」
「ぐおっ」
扉を出たのも束の間。待ち構えていたアトの投げロープに引っかかり、体制を崩す。
「大人しく、ね」
いつそこにいたのだろう。気づけば懐に潜っていたコゼットの蹴りを腹にくらい、ベスタ―はその場に倒れ込んだ。
「ひ、ひひひっ……」
倒れたベスタ―をヨハナがマジックロープで縛りあげた。それでも彼は、狂ったように笑っている。
「どうしてこんなことを?」
少し悲し気な表情で夕が問いかける。
「ひ、ひひ。生贄だっ」
「生贄? 何の……これは?」
彼のポケットを漁っていたアトが取り出したのは、破れた羊皮紙の切れ端。
「生贄を神に捧げれば、死の世界との戸が開く……」
「私が聞いた唄だね」
全員が無事だった子供たちを引き連れた鼎が、ちょうど扉から出てきたところだ。
「妻を生き返らせるんだ。あいつを。ひひひ、ひひっ……」
「生き返らないよ。これはただの御伽噺だって、吟遊詩人の子がいっていたからね」
「死んだ人は、生き返りませんっ…」
ヨハナの言葉が追い打ちをかける。ベスタ―の顔がくしゃりと歪んだ。
「うぁぁあ!!」
8人が見つめる中。彼の慟哭が、夜の路地に響き渡ったのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
参加者の皆様、お待たせして大変申し訳ありません。鉈です。
OPではかなり情報が少なかったはずなのですが、悟られないよう配慮された情報共有。
そして手分けして、よりたくさんの情報を集めることに尽力した皆様の連携。プレイングによって、見事ベスタ―を捕らえることができました。
実は、情報共有の場面で何も対策を講じなければ、簡単な戦闘が発生する予定でもありました。お見事です。
めっきり寒くなってきましたので、風邪などひかないようにお気をつけて。私は熱が下がりません。
次回またご縁がありましたら、よろしくお願い致します。よい冬をお過ごし下さい。
GMコメント
お久しぶりです、鉈です。入院からの療養を経て少しずつではありますが、活動を再開しようと思います。どうかよろしくお願い致します。
ちなみに入院生活はベッドでした。オフトゥンではなくベッドでした。大事なので2回言いました。
皆様もこれからの季節、風邪などひかれないよう。お気をつけて。
●成功条件
村で起きている怪事件の原因を調査し、解決すること
●現在の村の状況
火元の無い家が全焼する
子供が行方不明になった
畑の作物や店の品物が、次々に何者かに盗まれる
そんな事件の数々に見舞われた村は、かなりギスギスとした空気に包まれています。隣人が犯人かも分からず疑心暗鬼に陥っている村人も少なくありません。彼らが快く協力してくれるとは限らないでしょう。
●主要な村人たち
・村長
ローレットに依頼を出した村の長です。老齢のお爺さんで、村の中央にある家に住んでいます。村で起きたことに精通しており、年齢のわりにボケていないのが自慢なのだとか。
・主夫メリル
OPにて家が燃え、全てを失った男性です。現在は村の病棟にて寝起きしているそうです。
・行商人ベスタ―
村へと生活必需品等を運んできてくれる商人です。村で売られているものは、ほとんどが彼が持ち込んだものであり、村の特産品を買い取り運ぶのもまた、彼の商隊です。
・(自称)自警団
怪事件の原因特定のため、自然と集まった4人程度の村人の集団です。ある程度の聞き込みや調査を行っていますが、結果は芳しくないようです。
・その他
大勢の村人。店を経営したり、畑を耕したり、鍛冶師や吟遊詩人などもいます。
●注意事項
アドリブNGと記載がない限り、ぽつぽつとアドリブが入ることが予想されます。NGの場合はプレイング、又はステータスシートに記載していただきますよう、お願い致します。
よい冒険を。
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