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シナリオ詳細

逆光騎士団と岩窟令嬢

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●剣はみなのためにあり
 ネメシス国教に属するノフノ・ワンソン教会。
 『我々は民の自由と意志を尊重し、罪をまねく心を赦し、悪を憎む心を赦し、未熟なる我らの学びと育みを尊びます』という僧侶の詠唱が響く。
 日曜礼拝に訪れる人々の安らかな表情は、この町の平和と教会騎士たちへの信頼を示している。
 ここは通称、逆光教会。
 騎士たちは、『逆光騎士団』と呼ばれている。

●『茨の騎士』プリクル
「どうもっ、ローレットの皆サン! プリクルっす! おかげさまで騎士として立派に市民の皆さんを守らせて頂いてるっす! ……じゃなかった。です!」
 新米気質の抜けない少女。短い金髪にギザった八重歯。薔薇の模様が彫られた銀の鎧を纏っている。
 彼女は天義逆光教会に正義を誓う騎士のひとりである。
 であると同時に、初任務の功績からローレットとの連絡役に任命されていた。
「皆さん、『沼地の魔女』って覚えてますか? ジブンと皆さんで一緒に倒した町外れの悪者っす。町から子供を誘拐してたことが分かって、その子供がどこかへ送られていたってことまで分かってきたんすよね?」
 この場には当時の事件を担当していない者や、資料でしか知らない者もいる。プリクルは順を追って、身振り手振りで話し出した。
「センパイ騎士たちの捜査で、子供たちの送られた先が分かったんす。
 といっても、沼地の魔女は浚った子供をあちこちに売っていたらしいんす。
 それをセンパイたちが片っ端から洗ってるんすけど……そのうちの一つに、ジブンとローレットさんが関わることになりました。
 ハイ。逆光教会からの正式な依頼ッス!」

 対象となる場所は南の洞窟。
 岩ゴブリンの住む洞窟とされているが、観察の結果ゴブリンではないものが、その群れを指揮していることがわかった。
「教会では『岩窟令嬢』と呼称してるッス。
 どろどろに汚れたドレスを着て、身なりのわるい女性だそうなんすけど、ゴブリンがその『岩窟令嬢』に服従して、手に入れた人間の子供を洞窟に運び入れたりしてるのが確認されたんす。
 ジブンたちは内部へ突入して、恐らく見張りや迎撃に出てくるであろうゴブリンの退治をしつつ、内部に生息してると思われる『岩窟令嬢』を退治するのが任務ッス。
 子供たちが生きてるなら保護したいッスけど……い、生きてます、よね? ジブンなんだか不安になってきたッス。うう……」
 騎士とはいってもまだ新米。どこか弱々しく眉尻を下げると、泣きそうな顔で言った。
「現場にはジブンも一緒に行くッス! きっと役に立ちますから、共同作戦ということで……よろしくお願いします! ッス!」

GMコメント

【情報精度】
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

【岩ゴブリンの洞窟】
 岸壁にくりぬかれた穴の先は、人が屈まずに4人並んで通れる程度の道が続いている。
 入り口には見張りが2人。
 内部は音がきわめて反響しやすいため侵入からしばらく経てばゴブリンたちが迎撃のために集まってくると思われる。
 内部の構造は不明だが、分かれ道が複数あるだろうこと、照明の持ち込みが必要なこと、地の利が敵側にあることを踏まえる必要があるだろう。

●岩ゴブリン
 体表が岩のように硬いことからそう呼ばれている。
 ここでいうゴブリンとはよくわからない亜人系モンスターの総称をさす。
 つまり硬くて人型である以外の情報は少ない。
 防御の高さに気をつける必要あり。
 武器を使う様子あり。
 身長1メートル程度の小さい個体だけが観測されているが、内部に大型のものが生息している可能性を考慮すべし。
 内部の個体数は不明。かなり多いとみて、迅速な探索と任務達成が理想。

●岩窟令嬢
 ボロボロのドレス。ボロボロの肌。女性であることだけは分かるがかなりよくわからない存在。
 岩ゴブリンが服従していることからかなり高い戦闘力を有していると予想される。
 また『沼地の魔女』の例から会話が通じない種類の存在であることも考慮すべし。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

【オマケ解説】
●逆光教会
 ネメシス国教に連なる教会。管理者である『逆光』がその名の由来。
 日本のキリスト教会や寺のようにおだやかで真面目なところ。
 町の中心的存在で、教会所属の騎士団が警察をはじめ様々な治安維持要員となっている。
 騎士団さえしっかりしていれば町は安泰という精神なので不正はしないという堅い誓いによって町の平和と安心は保たれている。

●プリクル
 逆光騎士団の新米騎士。
 立派な騎士だった父のあとを継ぐ形で騎士にとりたてられたが、実戦経験が浅くて自信がない。
 装備は立派だし訓練も積んでいるのでPCと同じくらい戦えるが、なにぶん自分に自信が無いのでメンタルは弱い。
 戦闘性能は『【反】持ち・高HP・高再生』のタンク役。主に味方を庇うのが仕事。プレイングで指示を出さなくても自動で動くAIつき。

  • 逆光騎士団と岩窟令嬢完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月16日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
不動・醒鳴(p3p005513)
特異運命座標
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
道頓堀・繰子(p3p006175)
化猫
空木・遥(p3p006507)
接待作戦の立案者

リプレイ

●逆光騎士団と岩窟令嬢
 『沼地の魔女』による相次ぐ誘拐事件。そのさきに繋がっていたのは森を抜けた先にあるという岩ゴブリンの洞窟であった。
 しかもただの洞窟ではない。ボロボロの衣を纏った女が支配する謎の岩ゴブリンコミュニティ。
 女は住居と岩ゴブリンたちの様相から、岩窟令嬢と呼ばれた。
「ついに居場所が分かったんだね! 今度こそ助け出してあげよう!」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は森をギリギリ抜けられる程度の馬車を引いて、情報にある洞窟前へとやってきた。
 馬車を近づければ気づかれてしまう。遠い場所に一旦停め、茂みに紛れるようにして接近していく。
「モンスターの中に一人の女性、さしずめモンスターの女王でござるな」
 ううむ、と唸る『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)。
「『沼地の魔女』は魔種に拐かされた者だったと聞くが、岩窟令嬢もそれ等と同じ者でござろうか。攫われた子供達の身が心配でござる……」
 誘拐事件が起きてから随分な日数が経っている。何かしらの手出しがなされているとは考えられるが……。
「せめて生きている者だけでも救いたいところでござるな」
 一方。
「子供を攫って何がしたいんだろう?」
『その辺りは人身売買に暗殺業を教え込んだりと色々だろう』
「それは助けないと。酷い事される前に」
『ああ、相手に慈悲は要らんだろう』
 『穢翼の黒騎士』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)も内なるものとそんな会話をしていた。
 殺すばかりが用途ではない。というより、殺すだけなら他者の力まで借りて浚う必要がない。
 子供でなければいけない理由。安全な場所でゆっくり行なう何か。
 すくなくとも、優しいお話とは思えない。
 『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)や『特異運命座標』不動・醒鳴(p3p005513)も同じような感想を持っているようで、特に醒鳴は黙ってはいるが非常に険しい雰囲気を発していた。

「騎士つっても、まぁ色々いるわな」
 『接待作戦の立案者』空木・遥(p3p006507)がぽつりとそんなことを言った。
 どうやら別の天義騎士に悪い印象をもったことがあるらしい。宗教国家は教会が政治の中心にあるため、各地の教会によって政治の仕方が細かく変わることがある。信仰心が深いという部分を除けば、一概に語るのは難しいのだ。
 そこへくるとプリクルをはじめとする逆光騎士団は遥の中で好印象だったらしい。
「んっ? どうかしたッスか?」
「いや……」
 振り返りつつ首を傾げるプリクル。薔薇の花とイバラが描かれた鎧。短い金髪に八重歯という、騎士というよりスポーツ少女めいた印象があった。口調も相まって、どこか部活の後輩めいている。
「天義の侍、騎士殿でござるか。若く見えるのに既に仕官しているとは、プリクル殿は優秀なのでござるな。……拙者も早くどこかの武家に仕えたいでござるなぁ」
 感心感心と頷く『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)。
 いやあそれほどでもッス、と手を振って照れ笑いを浮かべるプリクル。
 プリクルが特別なのでなければ、人道的かつ謙虚というのは逆光騎士団の基本姿勢なのかもしれない。
「さてと、そろそろ到着やで。皆静かにな?」
 『怪猫』道頓堀・繰子(p3p006175)がナイフの柄を握り、唇に指を立てた。
「プリクル君、後ろ任せたでー?」
「了解ッス!」
「そんじゃ、ま……」
 一同は声を沈め、身を潜めるように茂みの中を移動していく。

●岩ゴブリンの洞窟
(オ、洞窟に、ミハリはっけーん)
 情報の通り、岩ゴブリンは二人体制で洞窟の前に見張りをつけていた。
 といっても、大きな穴の前に二人してぼーっと立っているだけである。
 危険な動物がやってきた時くらいには役立つが、人間がこっそり侵入しようとしたら対応できないのではないか。そんな風に思えた。
 実際ジェックたちは隠密系のスキルをもたず、ただ普通にこっそりしただけである。
(静かにシんでネ?)
 ジェックはライフルのサイトを覗き込み、狙いを岩ゴブリンの頭にあわせる。
 どころか、その先にあるもう一人のゴブリンにまでまっすぐ通るように狙いをつけた。
 射撃――の直後に飛び出す繰子と下呂左衛門。
 一匹の頭を貫通したライフル弾はそのままもう一匹の鼻先をかすめ、顔面を破壊した。
 一匹はよろめきながらも下呂左衛門に対応しようとし、もう一匹は痛みのあまり鼻と口を押さえた。
(そちらは任せたでござる)
 素早く接近した下呂左衛門は抜いた刀両手でしっかりと握り、ゴブリンの首を一太刀ではねる。
 一方で繰子は顔を押さえたゴブリンの喉にナイフを突き立て、深くえぐり込んでいく。
「ゴッ……」
 最後の力を振り絞って何かを叫ぼうとしたゴブリン。
 しかし、接近した遥が頭部を派手に蹴飛ばし、岩壁へと叩き付けた。
 ゴブリンはそのまま気を失い、だくだくと血を流している。
「この様子じゃ情報を聞き出せそうもねえか……」
 勿論こちらは殺す気満々なので、相手が数分の命惜しさに道案内をしてくれるとは、ちょっと考えづらかった。蹴っ飛ばして少しでも情報が出てくればいい、くらいの考え方である。
「ここからは暗くなるよね。松明を置いて行こうか」
 焔が松明という名の生木の枝(さっき森で沢山採取した)に神炎をともすと、洞窟の道ばたへと放り投げた。
 そう長く火が続くもんでもなさそうだが、こうして大量に光源を増やしていけるのは、何にでも着火でき燃焼しないという焔の炎が役立つ場面だ。
 ついでに言えば落とした木の枝がそのまま探索ルートの目印にもなるので一石二鳥である。
「ゴゴ?」
 暫く進んでいくと洞窟の中から声がした。
 見張りの交代なのだろうか。棍棒を持った二人組のゴブリンがこちらの存在に気づいた。こちらに明かりをつけているのでまあ当然と言えば当然だが、ゴブリンは仲間を呼ぶような声をあげながらこちらに突進してきた。
「侵入者を見つけて少数で突撃する……か」
 焔は槍を短く持ち、同じく突撃で返す。
「あんまり頭は良くなさそう」
 ティアは死骸盾とディスペアー・ブルーを同時発動。
 接近してくるゴブリンたちをまとめて攻撃すると、一旦遅れて突っ込んだ焔に任せた。
 焔はゴブリンの一匹を槍で派手に貫くと、そのままもう一匹に向けて叩き付た。岩壁にサンドされたゴブリンは血を吹いて崩れ落ちる。
「仲間を呼ばれたかな」
「まあ、狭い洞窟だ。遅かれ早かれ気づかれるだろう。急ぐぞ!」
 醒鳴は咲耶に音で探れとジェスチャーを送った。
 頷いて耳を澄ます咲耶。
「別れ道の右側から何匹か近づいてくるでござる。左側に逃げるでござるか?」
「ちょっとまて……」
 醒鳴は手を翳し、サイバーゴーグルで足下を凝視した。
「岩がすり減ってる。恐らく連中の導線だろう。左側はあんまり使われてないっぽいぜ。向かうなら右だ」
「了解、応戦でござるな!」
 咲耶は絡繰暗器・妙法鴉羽をクナイモードにして分離させると、それを勢いよく投擲。
 接近してくるゴブリンの胸に突き刺した。
「むっ……左側からも来るでござる。プリクル殿!」
「後方防衛ッスね!」
 咲耶とプリクルは隊がバックアタックに晒されないよう、右側ルートに立ち塞がった。
 一方で醒鳴は迫り来るゴブリンに対応。
 巨大剣を抱えるように持つと、相手の突撃に対抗するようにしてディスピリオドを叩き込んでいった。

 そこからの探索は戦闘の連続だった。
 ゴブリンたち(ないしは岩窟令嬢)に弱小戦力の逐次投入をする愚かさがあったおかげでいきなりすりつぶされることは無かったが、飛行したり跳ね回ったりするには天井が低すぎる地形であったり、分かれ道でエンカウントした際細道に誘い込んで迎撃……といったような作戦は特に考えて居なかったことで若干のバタつきはった。
 一方で醒鳴の(スキル構成とはまた別に)丁寧な探索によって道を間違える確率は少なく、ジェックや咲耶そして下呂左衛門が音や臭いで探索を助け、焔による豊富かつ投げ込めるタイプの光源によって探索や道中の戦闘は有利に運んだ。
 強いていうなら罠や鍵に対応しようと構えていた繰子が岩ゴブリンたちの文明力の低さゆえに出番がなかったことがあげられるが、それはむしろ『良い空振り』である。万全な探索に加えた余力、とも言おうか。
「多少やられはしたけど、撤退するほどやないな……」
 まだ皆が戦える状態なのを確認すると、繰子たちはいよいよ洞窟の最深部へと踏み込んでいった。
 最深部。
 つまりは、岩窟令嬢の寝室である。

●岩窟令嬢の寝室
 寝室とあえて呼びはしたものの。
 そこは寝室とはとても思えない空間だった。
 むせかえるような薬品臭。
 灯りはなく真っ暗で、岩肌には奇妙なぬめりがあった。
 光源を投げ込んでみると、無数の鉄釜や奇妙な瓶。腐敗した動物の死骸や草といったものが換気のされない空間に密集し、この異様な臭いを作っていることがわかった。
 薬品類と調合道具を除いて家具らしい家具はなく、しかし寝室と呼んでいたのは獣の死骸を集めた腐肉のベッドに『岩窟令嬢』が仰向けに眠っていたからである。
「ゴ、ゴフ……ゴ……!」
 『岩窟令嬢』は目を覚まして起き上がり、そしてサイレンのような声で叫んだ。
「仲間を呼ぶ気か!」
「出入り口はジブンらに任せるッス!」
 咲耶とプリクルはそれぞれ出入り口に立ち塞がるように陣取った。
 間もなくして大量の岩ゴブリンが押し寄せてくる。
 防御姿勢で飛び出すプリクルと共に、咲耶は絡繰暗器をシールドモードにして構えた。
「仲間には指一本触れさせぬ!」
 咲耶が敵を引きつけ、プリクルがそれを庇う。その反撃性能をもってして岩ゴブリンを減らそうという考え方だ。
 一方で、その二人のカバーを抜けた岩ゴブリンたちが部屋に殺到。
 ティアは飛行状態からディスペアー・ブルーを放とうとしたが状況的にそぐわないために断念。漆黒に切り替えて応戦を開始する。
「ここは拙者に任せるでござる!」
 下呂左衛門はオーラを練り上げると武者鎧へと変え、全身に装着。
 握りしめた刀を振り上げ、名乗り口上を岩ゴブリンたちにぶつけ始めた。
「拙者らには岩窟令嬢の退治のみならず、子供たちの救出という目的もあるでござる。こんな所で疲弊するわけには……!」
 そんな下呂左衛門へ背後から殴りかかろうとする『岩窟令嬢』。
 奇声を上げて枯れ枝のような腕を振り上げる彼女に、遥が割り込みをかけた。
 我に続けやクイックアップをかけ自他を強化すると、攻撃を腕で受け止める。
 その時腕に走った魔術的衝撃に、思わず歯を食いしばった。
 気づいたときには岸壁まで吹き飛ばされ周囲の薬品を派手にひっくり返していた。
「なんつー威力だ……おい、お前の真意は何だ? 買ってきたガキ共をどこへやった?」
「ゴゴゴ……ゴッ!」
 おかしな声をあげる『岩窟令嬢』。
 『崩れないバベル』の影響を受けても言語として認識できないということは、発声能力か言語能力かのどちらかを失ったのだろう。
 これは『沼地の魔女』にも共通する特徴であった。
 それに、至近距離で見てみれば『岩窟令嬢』の顔面は醜くやせ細り、鼻はそげ落ち歯はいびつに変形していた。
 人間というよりは、むしろ岩ゴブリンに近い顔面をしている。
 否、ボロボロの衣服でよく見えなかったが、彼女の肉体もまた、岩ゴブリンの特徴によく似ていた。
 焔が槍を水平に構えて突撃していく。
 『岩窟令嬢』を押し込み、背後の鉄釜を押し倒しながら転倒させた。
「この……!」
 突き込んだ槍が『岩窟令嬢』の腕を破壊する。
 と同時に突き出された腕から魔術の衝撃が走り、焔は思い切り吹き飛ばされた。
「…………」
 ジェックはガスマスクの下で何かを呟いた。
 それが誰かに聞こえるよりも早く、『岩窟令嬢』にライフル弾を連射。背後の薬品類や道具もろとも破壊していく。
「今や――ッ」
 滑り込む繰子。
 反撃にと腕を突き出そうとした『岩窟令嬢』に、自らのナイフを打ち込んだ。
 ナイフの先端から流し込まれた気功爆弾が破裂。
 とても気持ちの良くない音をたてて、『岩窟令嬢』は爆発四散した。

●魔女は魔女を呼ぶ
 『岩窟令嬢』を文字通り粉砕したことで、岩ゴブリンたちは目に見えて統率を喪った。
 元々あまり統率されてはいなかった動物的集団ではあるが、わめき散らしながら洞窟の外へ逃げ出したり、洞窟の中を駆け回ったり、めちゃくちゃに暴れて無謀に突撃してきたりと……対処の難しくない集団へとなりはてた。
 ティアや遥たちはその後処理に追われたが、暫くすれば静かな時間がやってきた。
 といっても、いつどこから錯乱した岩ゴブリンが出てくるかわからない。
 醒鳴や咲耶たちはこれまで有効に使ってきた探索能力を駆使して今度は子供たちの居場所を探り当て、鉄格子の牢箱に入れられていたのを発見した。
 今度こそ繰子の出番である。
 鍵を外してやると、2~3人の子供たちが涙を流しながらしがみついてきた。
 どうやらギャグボールを嵌められていたようで、繰子たちの気配に気づいていても言葉を発することすらできなかったようだ。
「よしよし、おねーちゃんらが来たからもう大丈夫や。ここから出よ」
「うん、ハヤく出よ、ここクサいし」
 ジェックも頷いて、洞窟から出ることに同意した。
 暫く、岩ゴブリンから子供を守りながら戦ったり出口へと走ったりという時間があったが、落としてきた目印のこともあって迷うことも無く出口へ到達。
 一同はとめてあった馬車までたどり着いた。
「子供を誘拐し、閉じ込める。目的は何だったのでござろうな? 単純に人身売買と結論付けるには金の臭いもしない……」
 下呂左衛門は馬車に子供たちをのせ、首を傾げた。
 子供たちはよほど恐い目にあったのか、震えたまま何も語ろうとしない。
 この場で何があったかを知るのは、彼らの心に安定がもたらされてからになるのだろうか。
「それにしても……いったい何だったんだろう、この岩窟令嬢って」
 明らかに正気を失った元人間。
 魔種のような非常識な強さは見られなかったし、ただただ狂っていただけに見えた。
 そして、その狂気が子供たちにもたらしたものとは、一体なんだったのか。
 ふと、プリクルが口を開いた。
「あの、あの……」
「なあに?」
「き、気のせいだと、思うんッスけど。あの、ジブン全然新米で、勘違いとか、よくするし、あの……」
 いつも以上に動揺しているようだ。
 一旦気持ちを落ち着かせようと、咲耶が肩をぽんぽんと叩いてやった。
「なんでも言ってみるでござるよ」
「えっと……」
 プリクルは、吐き気をこらえるような顔で子供たちを指さした。
「この子たち……肌が、岩みたいに、なってませんか」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 子供たちは教会の孤児院に預けられました。
 身体に大きな異常はなかったものの、肌が岩のように硬くなるなどの奇妙な症状が出ていた。
 それ以上おかしなところはなく、なぜそうなったのかについては、子供たちの心の回復を待つ必要があるだろう……。

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