シナリオ詳細
<刻印のシャウラ>その蠍、森より出でる
オープニング
●砂蠍の名はまだ
ラサ傭兵商会連合で起きた大討伐から逃げ延びた『砂蠍』のキング・スコルピオは、幻想の盗賊達を束ね、一大勢力と化していた。
正体不明の資金力と人脈を発揮し続けている彼らは、勢力を拡大しながら幻想の辺境を中心に荒らし回り、更に力をつけている。
自分たちの利益を最優先にする貴族への対策として中央に牽制を入れつつ動く彼ら。その動きは盗賊団のレベルを超えてもはや軍隊に近い。
これまでは収奪を中心に動いていた、『新生・砂蠍』。
ところが、ここで別の動きが見えてきた。
彼らは強烈な部隊を編成し、幻想南部の貴族領、街、村へ本格的な侵攻を開始。
既に失陥した拠点もあるが、まだ耐久している拠点もある。
幻想貴族達はすぐさまに本気の部隊を派遣せんとしたが、『サリューの王』クリスチアン・バダンデールの諜報によれば、幻想北部にある鉄帝国との国境線で鉄帝国が侵攻の兆しを見せているというのだから、なんと間の悪い!
北部を抜かれれば国防上に最悪の問題が発生してしまう。
故に貴族は国境線に戦力を集中しなければならない。
しかも、南部と北部では対極にあり、二手に分かれて対応しようとすれば失敗する事は目に見えている。
鉄帝国と砂蠍が連携しているのかは不明。位置も真逆だから接点は無いはずで、その上鉄帝国はそういうのを嫌うはずだ。
だが、砂蠍を無視するわけにはいかない。
貴族達は自分達では対応できないとして、イレギュラーズに依頼をしたのだった。
●食い止めるべきもの
ローレット中が慌ただしく動く。
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)もまた、忙しなく動いており、イレギュラーズにいくつもの依頼を振り分けていた。
今回依頼してきたのは、次の内容である。
「侵攻してきた砂蠍をかろうじて防いでいる拠点があるのです。他に比べれば少数ではありますが、それなりに統率の取れている兵士達が居る詰め所が今回の依頼場所になります」
今回の場所は近くに町がある、森に囲まれた詰所。
砂蠍の方の人数は正確には不明。
しかし、詰所から目視出来た限りでは、四十人近く居るのではないかという。
武器には近接武器のほか、弓矢や銃も見受けられている。乗ってきたのは荷馬車であり、おそらく彼らの武器類もそこに仕舞われているのではないかと思われる。
詰所にいる兵士達の数は二十人。辺境であるために人数は少ないが、これまでにも盗賊団に対応したことのある経験から、なんとか今回食い止めている、という事だ。
詰所には大砲も僅かながらあるが、使う機会が少ないからか、弾の数は少ない。
それ故に、大砲は奥の手として存在しており、兵士達は弓矢や銃などで牽制しているという。
だが、食料的な意味でも体力的な意味でもそろそろ限界を迎えてきた。
至急応援を頼みたいという事で、今回の依頼がやってたきたというわけだ。
「迅速にお願いするのです。馬車もありますので、もし移動手段がない場合はこちらを使用して下さい。また、今回は、侵攻を食い止めるのが目的ではありますが、繰り返すわけにはいきませんので、遠慮なくやっちゃってくださいなのです」
早口でまくしたてるユリーカ。
イレギュラーズが承諾すると、彼女は次の依頼を振り分けるために移動していったのだった。
- <刻印のシャウラ>その蠍、森より出でる完了
- GM名古里兎 握
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年11月21日 21時45分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●ギリギリの中の救世主
詰所に集う兵士達の士気は、もはやギリギリであった。
砂蠍の集団と戦い、今やジリ貧のような状態。その上、武器や食料の貯蓄も無くなりかけている。
対して、砂蠍の方はまだ余裕がありそうに見える。
このままでは、こちらが押し切られるのも時間の問題だろう。
どうにかして食い止めたい。しかし、どんな手が有効か?
兵士達で作戦を考えようにも、疲弊した頭ではそれもままならない。
弓や銃を持ち、武器を構える兵士達。
その時、見張り台より伝令管から声が聞こえた。
「こちらに向かう馬車が一台見える」
増援か?
色めき立つ兵士達は、続きの報せを待つ。
耳をそばだてると、伝令菅は予想していたものとは別の報せを伝えてきた。
「鳥より手紙が……読み上げます。『これより援護に向かいます。それから、詰所の入口に大砲の照準を合わせ、布で隠しておいてもらえませんか』、以上です」
「わかった。数名を大砲に割け。言われた通りに行なうように!」
「はっ!」
兵士長と思われる、他よりは少しばかり装備が違う男の指示に、迅速に動く兵士数名。すぐに大砲の準備に取り掛かる。
援軍がいつ入ってきてもいいように、開門の準備も忘れない。
「見張り台の者は、森の様子を逐一伝えろ。どんな様子なのか、詳細にな」
「はっ! ……あ! 兵士長、馬車から人が何名か出てきました。……そのまま砂蠍と交戦を開始!」
「何?!」
伝令菅から入ってきた情報によると、青い何かと白い鴉が通り抜けて砂蠍の前線の一部を崩し、そこを突く様に、剣を持った者達が斬り込んだのだという。
手負いを受けて、砂蠍の一部が後退していき、その隙に馬車が門に近付いてきているという報告を受け、急いで門を開ける兵士達。
馬車を追おうとする砂蠍達へ、再び青い何かと白鴉が蹴散らす。
剣で応対していた者が、傷が浅くも深くも無い砂蠍の一人を抱え、此方に向かって駆けてくる。
諦めずに追って来ようとする砂蠍だが、こちらの対応の方が速かった。
馬車と増援が入ってきたのを確認した直後、布を外した大砲が現れる。
兵士長より発された号令により、大砲が一発放たれる。
響く轟音。着弾は敵の中へ。
最後まで見届けずに、急ぎ閉まる門。
見張り台より、「砂蠍、態勢一時撤退」の言葉と共に、まずは安堵の溜息が零れた。
改めて、馬車のいる方を見やる。
馬車から降りてきた者を含め、増援としてやってきたのは人型の者が八名程。
暫し、睨み合いのような緊張が走った。
●援軍、その名は
その中の一人の男――――『観光客』アト・サイン(p3p001394)が、一度深く礼をした。
「やあやあ、どうも、兵士諸君! お疲れのところ、やってきたのは観光客だ!」
その言葉に、兵士達の肩が落ちる。明らかに、顔に落胆の色が見える。
兵士達の様子を見て、補足するようにアトは言葉を続けた。
「ああ、そんな終わったみたいな顔しないで、観光客だって役に立ちたいのさ!」
にこやかな言葉とは裏腹に、男の顔は不敵な笑みを作ってみせた。
続いて、『水葬の誘い手』イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)が、兵士達に声をかけた。
「今の内に、兵士さん達を回復させたいんだけど、怪我人とかはいるのカナ?」
『ミスプラチナ』十六女 綾女(p3p003203)もまた、唇に指を当てて、イーフォの言葉に補足した。
「そうね。すぐにでも再戦するわけだし、少しでもこちらが万全になるに越した事はないわね」
ハッとした顔になる兵士達。
兵士長が進み出て、「ありがたい。是非とも頼む」と頭を下げた。
イーフォと綾女が回復に集中する中で、アトは水を生み出していた『特異運命座標』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)に声をかけた。
「探索の状況ははどうかな?」
「森の中から窺っているのが見えるかな。事前に木々から聞いた話を考えると……」
出した水を兵士達へ提供し終えると、彼は簡単な地図を作成し、居ると思われる場所へ印をつけた。
それを見て、頷くアト。
「皆が相談している間にちょっと行ってくるよ。罠を仕掛けたら戻ってくる」
「わかったよ。気を付けて」
言うが早いか、アトはザックを抱えて外へと向かう。
その姿を見送った後で、『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)がウィリアムに話しかけた。
「一緒に罠を仕掛けられたら良かったんだけど……」
「適材適所だよ。こっちはこっちで相談していこう」
「そうだね」
二人は頷きあうと、迎え撃つ為の相談をしている輪の中に足を向ける。
途中、兵士達がムスティスラーフが着ているフリルドレスに目を見開く事があったが、気にも留めずに進むムスティスラーフ。精神力が強い。
机を囲んで話し合う兵士達とイレギュラーズ。
『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が、地図の中の点――荷馬車があると思われる場所を指す。
それを覗きこむ『流転の閃華』ユイ・シズキ(p3p006278)、『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)、ルフト=Y=アルゼンタム(p3p004511)、ムスティスフラーフ、ウィリアム。
「出来れば、荷馬車と、敵の物資、ついでに武器類を破壊しておきたい所です」
「そこは我々も賛同したい。しかし、そこに向かうと迎撃されるだろうというのは目に見えている。この辺りは開けていてな。接近すれば周りに囲まれるだろう事は想像がつく」
「弓や銃は? それか、大砲とか」
「ここからは遠く、弓で射るには当てづらいのだ。大砲は、弾にあまり備蓄が無い」
「無駄撃ちは出来ないな」
ルフトは少し考えた後、一つ提案する。
「もう少し情報を得たいところだな。捕虜に聞くのが手っ取り早いだろう」
彼が視線を移した先には、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が他の兵士達と共に見張っている砂蠍の一人。
利香が持っていたパンは既に兵士達へ渡され、配布されている。
ルフトの言葉が聞こえたのか、利香は振り向くと、「尋問ですか?」と聞いてきた。
それに対し、頷く面々。
ちょうどそこに、治療を終えたらしい綾女が戻ってきた。
事の経緯を説明してもらい、彼女は柔らかく微笑んだ。
「あら、それなら私がしてもいいかしら?」
「頼む」
「任せて」
ふふっと笑い、綾女は靴を鳴らして捕虜の男に近付いた。
まずは目を合わせ、微笑んでみせる。
目を逸らす男の頬を両手で優しく包み、顔を無理矢理彼女の方に向かせた。
「ふふ、あなたの仲間の事を教えてほしいの」
「言うものか」
「あら、この状況であなたに拒否権はないわよ?」
「色仕掛けで落とそうとしても無駄だ」
「そうね。そこの意地は良いと思うわ。けどね、あなた一つ勘違いしているわ」
「何?」
「あなたが断れば、いい酒もいい女とも無縁になるだけの事よ」
手を滑らせ、抱きしめる。柔らかな双丘が男の体に密着し、形を変えた。
「聡明なあなたなら、その意味が分からない訳は無いでしょう?」
耳元で囁く甘い声。彼女が持つ香りが、男の鼻腔を擽った。
彼女の足元で感じる男性の変化。しかしながら、男はその誘惑を果敢にも跳ねのけた。
「残念だが、話す事は無い!」
「強情ね……。いい男なのに残念だわ」
男の体から離れる腕と体。
安堵した男の目に映ったのは、ルフトの姿。
色仕掛けを遠ざけた事で油断した男の目が、ルフトと視線が絡み合い。
発動したルフトの魔眼に、男はその虜となった。
「さあ、聞かせてもらおう」
「……はい」
彼らイレギュラーズのやり方を見て、兵士の誰かが呟いた。
「すごい……」
同時に、畏怖する。何の力も無い自分達とは違うものを持つ彼らを。
兵士達が、イレギュラーズの戦い方にも似たような言葉を発するのは、もう少し後。
●動揺走る
魔眼の使用による尋問を終え、再開された相談。
その相談もある程度纏まった所で、アトが戻ってきた。
相談の結果を伝え、納得するアト。彼はその後で、自分が仕掛けた罠の設置場所を報告した。
その事を踏まえた連絡事項が、兵士達とイレギュラーズの間で飛び交う。
やがて、準備を終えた彼らは、各々の場所に立つ。
反撃の狼煙は、ここからだ。
砂蠍。そう呼ばれて幾月か。
彼らは詰所の兵士達と、先程入っていった援軍が出てくるのを待った。
兵士達の数と援軍の数を合わせても、こちらが押し切れるだろう。詰所にも兵士は残らせる筈だし、そうなると、出てくる兵士の数は限られる。
荷馬車の中には武器類も食糧もある。籠城対策にたっぷり詰め込んできたので、こちらの態勢は万全だ。
援軍だけでは乗り切れないだろうと高を括り、その時を待つ。
物々しい音と共に開門するのが見えた。
走って出てくるイレギュラーズと兵士達。
途中まで真っ直ぐに走った後三手にわかれた彼ら。三又のような動きからして、真ん中を荷馬車が、残る両翼で森の中を潰す作戦か。
だが、そうはさせない。木々に隠れて見えにくくしている自分達だ。そう簡単に見つかるはずがない。
ところが、聞こえてきた悲鳴は相手側のではなく、こちら側のもの。
「?!」
動揺するのも無理はない。自分達が優位だと思っていた所に襲撃を受けたのだから。
襲撃はなおも続く。
聞こえてくる悲鳴。相手がこちらを的確に捉えていると分かり、リーダー格の男に焦りが生じる。
浮かんだのは、先程囚われた奴がこちら側の手を喋った可能性。だが、それで正確に捉えきれるものなのか。
男に、周りの者達の視線が集まる。
彼らも動揺しており、指示を待っている。自分達で判断が出来ず、咄嗟に頼っての行動だった。
視線を受けて、男は息を呑む。
そうだ。迷っている暇はない。今は詰所を手に入れる為に動くべきなのだ。
その為に彼が下した命令は。
「荷馬車を守りながら戦え! 手が空いている奴全てで迎え撃て! 我々の拠点となるべき詰所を手に入れるのだ!」
「ハッ!」
その号令を受けて、規律正しく敬礼の後、武器を構える砂蠍の者達。
剣を、弓を、銃を。
荷馬車を守るように四方八方に構えたり、前方から走ってくるイレギュラーズに向けて走りだしたりと、二手に分かれて行動が開始された。
怒声が飛び交う戦場は、決着を迎えるまでの時間を過ごす場所となった。
●決着まであと
ユイの斬撃が飛び、離れたところの賊へ一撃が当たる。
そこを狙うように、イーフォのナッシングネスが、その一人を虚無のオーラで包み込んだ。
呻く声も聞こえないまま、賊はオーラに食われていく。
ムスティスラーフが眼光鋭く相手を睨みつける。
彼の眼光を受けた砂蠍は、ただものではない、と感じた。
距離をとり、離れていこうとする男へ、利香が近付いていく。
「はぁーい、お兄さん」
にこやかに笑い、ウインク一つ。
魔力の無い彼女では戦意ある者への誘惑は効かないが、その戦意を再び燃え上がらせる事は出来る。
急な怒りを増幅した男は、利香へ詰め寄ろうとするが、彼女が剣と共に一撃を男に当てた事でカウンターに近い攻撃を貰う。
不殺の一撃。決して命を刈り取らぬが、意識は刈り取られた。
そのフォローに、ムスティスフラーフからお礼の言葉が出る。
「ありがとう」
「どういたしまして」
短い会話の後、二人は別の敵へと意識を向ける。
ムスティスラーフが持つ柄からはオーラが出ており、それは長剣の形を作っていた。
敵を一閃し、死を告げる。無慈悲な一撃が、一人ずつ賊の命を奪っていく。
(もう少し密集していれば、閃光を放てたんだけどね)
味方も居るこの状況では、流石に使えない。せめてもう少し減らせば出来るかもしれない。
そう考えた彼は、少しでも賊の数を減らすべく、地道に攻撃をしていくのだった。
ウィリアムのエーテルガトリングが纏まりかけていた賊を散らす事に成功する。
しかし、遠距離攻撃は砂蠍の方も得手とする所。
響く銃の発砲音。先程の動揺が嘘のように、彼らは落ち着いた所作でトリガーに指を添える。
集中する銃撃は彼へ。全てを避けきれる事は不可能で、鉛玉をくらう大盾。堅固な盾はそれに耐えうるもの。流石は鉄帝国の防御力、という所か。
お返しだと、雷の一撃が迸る。砂蠍の二、三名の体を貫き、その命を奪う。
盾を持たぬ仲間にも、銃撃は飛ぶ。
しかし、着ている鎧が、その命を奪う事はしない。仮に彼らに傷を負わせたとしても、後方に控えているイーフォや綾女がその傷を癒す。
対して砂蠍は回復手段を持っていない。このままならイレギュラーズが押し切って荷馬車を破壊する事も出来るだろう。
とはいえ、なかなか荷馬車を攻撃する隙が出ない。訓練された動きで荷馬車をうまく守っている。
推しきろうと動く中で、砂蠍が動く。
イレギュラーズ達は彼らの作戦を知っている。捕虜から聞いた情報を基に、木々から話を聞ける者達と、ファミリアーや式符で鳥類による情報を得る者達が、裏付けをとる。
予想される動きをいくつか提案し、こうして攻勢に躍り出た。
故に、彼らが自分達をすり抜けて詰所に寄ろうとする事も予想済み。
気付いたのはイーフォ。
「詰所へ行ったヨ!」
その言葉に即座に呼応したのはルフト。
「詰所に行きたくば、先に俺を倒せ! ルフト=Y=アルゼンタム! お前達の相手をしてやる!」
砂蠍を呼び止める為に発した声。しかし、それで全員は止まらない。出来て一、二名程。
少しでも減らせるならばと彼はライトニングを放つ。先を行く砂蠍にも狙いを定めていたが、一直線には走っていない敵に対してそれは難しかった。それでも、自分に向かってきた敵は一掃出来たが。
リースリットが二つの剣を振るう。透明なクリスタルの刀身と、緋色の炎の色を持つ刀身。
その剣二本による斬撃は、砂蠍を二人一度に葬り去る。
彼女は詰所に聞こえる程の声で、叫ぶ。
「レスト、お願いします!」
「は~い、おばさんに任せて~」
リースリットの声に反応した彼女が居たのは、詰所の砦上。すぐ近くには兵士と、大砲。
此処からでも動きはよく見える。
自分達の意図を察したイレギュラーズが少しずつ脇に逸れていくのを見て、レストは号令の用意をする。
「それじゃあ、ドカ~ンといってみましょうかあ~」
のんびりした口調とは裏腹に、彼女は片手を振って合図を送った。
轟音。
大砲の筒から出た大きな鉛玉。
そして、着地点での爆発音。玉の直撃を避けても、至近距離に居ればその爆発からは免れない。
あっという間に焦げた臭いと、倒れる屍の完成だ。
それでも取りこぼした者に待ち受けるのは、アトの銃から発された鉛玉だった。
リースレットと同じく詰所にて銃を構えて待機していた彼は、詰所の奥から狙いを定めていた。予想通りの位置に、彼は少し息を吐く。
仲間達はだいぶ先に行っている。
おそらくは、荷馬車へもう少しすれば到達するのだろう。
あとは、彼らに任せるのみだ。
弓がしなる。弦が震え、矢が放たれる。
ウィリアムの盾がそれらをかばい、後ろからムスティスラーフやユイが躍り出て使い手を斬り伏せる。
弓や銃、剣の使い手が兵士を撃つ。
傷ついた兵士達を癒す為に、綾女は自分の周りに怪我人を集めて、柔らかな光を発する。
少しずつ砂蠍の数が減り、ようやく半分まで削れてきた。
それでも、彼らがイレギュラーズの防具を削ってきているのは確かであったし、少しずつではあるが怪我する事も増えてきた。
イーフォと綾女が回復しているものの、それにも限りはある。彼らの助けが無ければどうなるのか。それを考えたくなくて、ひたすらに、己の物である技を使っていく。
リースレットの剣が閃き、切り伏せる。
一歩。
また一歩。
イレギュラーズも、兵士達も、そうして荷馬車まで距離を少しずつ詰めていく。
兵士達が砂蠍の一部を押さえつけてくれているおかげで、荷馬車周りの砂蠍を減らしていく事に成功する。
比例して、兵士達が砂蠍を押さえつける数が増えていく。それはつまり、荷馬車の破壊をイレギュラーズが心置きなく出来る様になる機会に恵まれるという事。
魔力の弾幕が、飛んできた斬撃が、一刀の下に振るわれた剣が、あるいは、オーラで形成された剣が、様々な形で目の前の目標を切り崩していく。
やがて、荷馬車が完全に破壊されたのと同じくして、砂蠍の中の最後の命も刈り取られたのだった。
●一仕事の後には
捕虜として捕えられた砂蠍の一員であったが、もう一人捕虜が加わった。アトが仕掛けた罠に引っかかった偵察部隊の一人である。
二人は厳重に捕縛と監視を行ない、しかる後に裁かれる場所へ引き渡されるという。
「俺らは決して屈しない! 砂蠍はまだこれからなんだ!」
叫ぶ捕虜に対し、ユイが冷めた目で見下ろした。
「自分ら……蠍の熱毒にやられとるんやろうねぇ……ちょっと頭冷やそうか」
そんな中、互いが互いを労う中で、ルフトはアトと綾女に声をかけた。
「二人が居てくれてよかった。ありがとう」
視線を交わし合った二人は、ちょっと驚いた様な顔をしていたが、すぐに微笑んだ。
「ありがとう」
兵士達やイレギュラーズを回復させてから、イレギュラーズは詰所を後にした。
今後、この詰所にまた何かの危機が起こらない様に祈って。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
皆様のおかげで詰所の危機は去り、砂蠍も殆どが壊滅しました。
荷馬車も破壊できた事に加え、大砲も使用したようで何よりです。
皆様、お疲れ様でした。
GMコメント
●情報角度:A
ユリーカの情報以上の事は起こりません。
砂蠍は森に身を隠しつつ侵攻しようとしていますが、兵士達がそれを食い止めている現状です。
人数も、兵士達が目視した数がすべてです。
武器類を積んだ荷馬車が見受けられますが、兵士達ではその荷馬車を破壊する事は出来ません。しようとすれば砂蠍の反撃に遭うと分かっているからです。
『新生・砂蠍』だそうです。
なかなかにしぶとい集団ですね。しぶとい上にパワーアップとか、漫画などでいう主人公のライバルポジションか何かでしょうか。
さておき、今回はこの侵攻を食い止めるのが目的です。徹底的にやってしまってかまいません。
ついでに武器類しまってる荷馬車も破壊できれば万々歳、ですね。
それでは、皆さまのご参加をお待ちしております。
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