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シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>森の入り口にいる狐を狩れ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「状況は、バーントシェンナにラサレッド」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー (p3n000004)の掲揚は、今日も訳が分からない。かすれた土色に赤錆色。
「大討伐から逃げ延びた『砂蠍』のキング・スコルピオは幻想の盗賊達を束ねて膨れ上がってしまったわ。どこからかお金と人が流れ込んで、気が付いたら軍隊のよう。ここにきて自分たちの利益優先で放置していた貴族達は顔面蒼白ね。これまで『新生・砂蠍』は収奪等を中心に動いていたけれど、貯蓄の季節は終わったようよ。これまでに溜めた力で強烈な部隊を編成し、幻想南部の貴族領、街、村へ本格的な侵攻を開始したの」
 気が付いたら、領土侵攻の憂き目だ。青くも赤くもなるだろう。
「既に失陥した拠点もあるし、まだ耐久している拠点もあるわ。幻想貴族達はカンカン、すぐさまに本気の部隊を派遣しようとしたけれど、『サリューの王』クリスチアン・バダンデールの諜報によれば、『間が悪いこと』に幻想北部、鉄帝国との国境線で鉄帝国が侵攻の兆しを見せているんですって。関係あるのかしらね」
 これがよその国なら資金流したのはお前らだな。と言いたくなるが、鉄帝国のスタイルとはかけ離れている。連携があるのかは疑わしい。と見せかけて。なのかもしれない。確認に割ける手勢がいないといったところだろう。不明だ。一時棚上げ案件だ。
「北部を抜かれれば国防上に最悪の問題が発生する。故に貴族は国境線に戦力を集中しなければならない。『不運にも』挟撃されているのよ。誰かの意図か偶然の産物かわからないけれど」
 鉄に押し潰しに来ない内に、足元の蠍を踏みつぶさなくてはならない。蠍の毒が回れば鉄に立ち向かうのも難しくなる。
「結局、手が回らなくなった貴族達が頼るのは、イレギュラーズなのよね。便利に使われるわ。政治的立ち位置は中立なんですけどね。お金払ってくれる限りは全力でお味方するのがギルドの信用」


 プルーは、細かいことを説明するわね。と言った。
「そういう訳で、南部に行ってちょうだい。この町、さして広くはないし交通の要所ってわけでもないのだけれど、地形が複雑なのよね。山伝い、森伝い、抜け道が結構あって向こうに籠城候補地として押さえられると色々面倒なの。素人の村人の抵抗でいまだ占領されていないことで、地形の効果を察してちょうだいね。現在辛うじて防衛中だから、占領される前に何とかして」
 つまり、街で粘っているのをおとりにして布陣してる小隊を潰せと。
「そうね。大体そういう感じ。心配なら人数を街の方に割いてもいいわ。イレギュラーズは街の中で加勢しているっていうのはいい目くらましになるわね」
 プルーは街の外の森と野原の境目を指さした。
「外から街が見える場所はここしかないの。『新生砂蠍・狐団』とやらはここに布陣しているから必ず頭は潰してね。色はアッシュグレー。砂漠の砂色よ」
 比喩的表現だろうか。具体的表現だろうか。
 比較的若い男だという。幻想に入ってから迎合したらしい。これから組織の上を目指していくつもりで血気盛ん。
「それから、連中は略奪じゃなくて占領が目的。前者なら手近な女子供をさらって、はいさようなら、復興したあたりでまた来ます。でしょうけど、占領は、街の束ね役の首を端からはねて、今日から俺たちが束ねるぜ。ずっといるからな。ですからね。守る対象の優先順位に気を付けて」
 盗賊と思うな。と、プルーは念を押した。
「奴らは国を墜としに来てるの。侵攻軍と思ってね。幻想王家・貴族の正式なお墨付きだから、手加減はいらないわよ。本当に誰なのかしら。この忌々しいシナリオを書いたのは。ああ、カーキでダークオリーブグリーンな気分だわ。」
 ウォーカーの一部なら合点がいっただろう。とてもスタンダードな国防色だ。

GMコメント

田奈です。
 天然の要害で素人さんが粘ってるうちに、侵攻してくる連中を叩き潰すお仕事です。

目的:占領される前に『新生砂蠍・狐団』を潰す。

守備場所:天然要害の町。
 扇状地の付け根に位置する街。周囲は山に囲まれ、攻めにくく守りやすいので今のところ抵抗していますが、時間の問題。
 町の入り口は石の櫓門です。頑張って抵抗していますが、盗賊による度重なる奇襲で戦える人員が損耗しています。
 山伝いで町に入り、加勢する人員を送り込むのは可能です。町が陥落するまでの時間が伸びますが、狐団討伐に割ける人数は減ります。

侵攻場所:町のそばの森の入り口。
 主要街道から分岐してそれなりに入ったところ。簡単に増援が来られる場所ではありません。街との距離は徒歩5分。見えるが火の手でも上がらない限り何が起きているかはわからない距離。
 森を背にしているので、そちらから近づくのは可能ですが挟撃になるくらいなら町に突っ込んでいくでしょう。

攻撃最優先対象:「新生砂蠍・狐団」
 頭目と有象無象合わせて20人。盗賊らしく、奇襲や忍び込みが得意なのと、陽動略奪ヒャッハーするのと二種類に分類できます。
 新興盗賊団を立ち上げて、砂蠍が幻想入りしてから吸収合併された部隊なので、まとまりはあります。占領しろと命令されているので、今回逸脱ヒャッハーはしないし、させません。
 隊の頭目は、すすけた砂色の髪の若い男です。この男をつぶせばこの隊は容易に瓦解します。
 双剣使い。ヒャッハーな言動のわりに防御重視な戦い方をします。自分が前に出て粘っている間に手下に背後から襲わせたり、略奪させたりするスタイルです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <刻印のシャウラ>森の入り口にいる狐を狩れ完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月15日 21時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リオネル=シュトロゼック(p3p000019)
拳力者
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ライハ・ネーゼス(p3p004933)
トルバドール
フォーガ・ブロッサム(p3p005334)
再咲の
リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)
勝利の足音

リプレイ


「今日からこの町は俺たちのお頭の狐様が取り仕切るぜ!」
 砂漠の毒虫にそそのかされた狐の一団が町を襲ってきました。
 町のみんなは必死に抵抗しましたが、戦いには不慣れなので一人また一人と怪我をしていきます。このままでは大人からやられて最後には抵抗できない女子供や年寄りばかりが残って蹂躙されてしまいます。
「ああ、誰でもいいから救けて!」
 神様は救けてくれませんでしたが、助けの手はやってきました。
「ローレットの者だ! 無辜なる民を襲う蠍のクソ共が! 俺が来たからにはそう簡単にこの町を落とさせやしねぇぜ!」
 それは遠い、遠い、お星さまよりもっと遠いところからやってきた豚さんと狼さんでした。


 天然要害の町を支援する 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)と『再咲の』フォーガ・ブロッサム(p3p005334)と別れたイレギュラーズ達は町側から押し出すように盗賊団の勢力圏を侵す。
「新生砂蠍か…不死鳥の如く復活した盗賊団」
『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)は、自分の生命力をチップにして英雄を仕立て上げる準備に余念がない。
「さて、そもそも一連の流れに如何なる思惑が吹き荒れている事か……非常に興味はあるが――」
 なぜ、この時機。誰の指がかかった糸なのか。物語のために糸を引くのもやぶさかではない男は吹き荒れる思惑の中心をのぞいてみたくはある。
「まぁいい。今は奴らめの駆逐を優先するとしよう」
 思惑に拮抗するための物語が必要だ。
「砂蠍が動き出してるとは聞いていたけど、こんなタイミングで一気に攻めてくるなんて……」
『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)は『拳力者』リオネル=シュトロゼック(p3p000019)から再生付与されながら呟いた。
『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)に先ほど放った鳥のファミリアーの視覚情報が流れ込んでくる。
 頭目と少数の部下が固まっている位置を特定する。これで、頭目を直接狙える経路を仲間に示せる。
「侵攻「軍」から街を守る……つまり戦争、なんだよね」
 蛍は、戦争どころか人が殺されること自体から遠いところで育った。情報屋から言われた言葉が腹の底でずしりと重い。
「喧嘩はいいのさ、個人レベルの話で、楽しみもある。だが戦争はダメだ。戦う気がない連中から奪ったり踏みつけたりが当然のようにされる」
 武侠集団に生まれ育ったリオネルにとって戦争は一家を離散させる厄ネタだし、軍隊は性に合わない。
「どんだけ大義名分があろうが、外道働きに差はねぇぜ」
 どれほど聖戦を謳おうと、結局は他者を蹂躙し、平らにした後飲み込むものなのだから。
「街の人々の命は俺達にかかっているのか負けるわけにはいかない。騎士の誇りにかけて!」
 応じる『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)にも再生付与。これからこの二人が矢面に立つのだ。
「じゃあ、二手に分かれよう」
「オイラはこっちに行くね、リゲルさん」
「できるだけ分断させて、対頭目組の負担を減らす」
『特異運命座標』リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)は、それぞれ単独で動く二人に頷いた。リリアーヌ達四名は頭目を倒すのが仕事だ。
「速攻をかけて一秒でも早く打倒します」
 明らかに多勢に無勢×2だ。
 狐団にいつもの戦法をとらせると思わせておいて、頭を狩る。そのための布陣だ。囮役二人の負担は大きい。
 リオネルは、両ポケットに手を突っ込んだ。
「がんばれよ。こっちも頭目のドタマかち割ってくらぁ」
 悠々と歩いていくのも戦術だ。
 ライハは、勇壮なマーチを奏で、さらに英雄を飾り立てる。
「では、助太刀を許してもらう。後で会おう!」
 リゲルの放った閃きが空を飛ぶ。巻き上がる草の渦が軌跡を示すが除けらる由もがな。


 山伝いで町の入り口に来た豚さんと狼さんは、石の櫓門にやってきました。
「守る奴らは聞け!俺らが信用できると感じた時点でここは俺に任せて周りの奇襲に備えろ! 敵が来たら声上げろ!」
 ギルドの紋章が大きく入ったマント。町の人達は元気をもらいました。この世界に元々いる悪い豚さんはお馬鹿さんなのでギルドのマントを作って身に着け人をだますなんて思いつかないのです。
「狐団、ですか……随分と大きく、勇ましくなったようですね」
 狼さんが悲しげに言いました。
「知ってんのかよ」
「ずいぶん前にギルドで悪さする若者を懲らしめてくれという依頼を見た気がします」
「へえ。冒険者を返り討ちにしたかやられて再起したか、とりあえず懲りねえどうしようもねえ連中ってことだわな」
「その気概は侵略者として不足はないものとし、私も全力でお相手する所存でございます」
「おう。俺が防衛と住民の統制を担当、フォーガが遊撃として奇襲してる盗賊どもに逆撃を仕掛ける担当だな。頼んだぜ」
「……防衛戦は慣れませんが、四の五の言う時ではないですね」
 狼さんは、町の誰も見たことないような剣と銃を取り出して、櫓の中の人に山刀を向けている人を倒してくれました。

 銀色の閃きは頭目の肩口を削った。
「これくらいじゃ俺たちは止まらねえーっっ!」
 その絶叫に、手下たちは鼓舞されていく。
「卑怯な手段しか使えない雑魚共か。盗賊とは悲しい集団なのだな!」
 リゲルは、白銀の剣を頭目に向けて突き付けた。
「自らの哀れな振る舞いを恥ずかしいとは思わないのか? 貴様達が束になってかかってこようと負ける気はしない! 神の名の元に悔い改めるがいい!」
 自らを鼓舞することで腹の底から湧いてくる力と闘志。
 輝く剣と大盾、古式ゆかしい戦衣。品位と風格。リゲルが立っているだけで、十分に盗賊たちは煽られる。
「オイラたちがきたからにはこれ以上の狼藉は許さない! この街も人々の命も渡さないよ!」
 勲詩に名乗り口上はつきものだ。ライハの耳には快く響くが、盗賊たちの目の前を真っ赤に染め上げる。
「おう。チョーシくれてんじゃねぇぞカスが」
 正面から近づいていくリオネルは、戦闘準備万端だ。
 海賊が着ていそうなゾロリとしたコート。狐を意識したのか、狐の毛皮が何頭分もあしらわれている。狐の頭が体中から生えているようだ
 蛍の価値観だと有閑マダム的装いだが、自前で調達すればそれほどお値段が張るものではなかろう。
 どちらかというとその妙にかぶいた装束のせいで体の正中線、ひいては急所の位置が読みにくい。
「チョーしこいてんのはどっちだ、馬鹿野郎が! 町一つ落とそうって俺たちにたったの六人ってか!? ギルドもよっぽど人手不足らしいな、おい?」
 狐の頭目の死角には、リリアーヌが回りこんでいる。
「言いてえことはそれだけか、ボケ」
 リオネスの目の前が赤く染まりかけたが、頭の芯は冷えている。
 背中の推進装置がうなりを上げる。
 ロケットダッシュから得物を構える。ジェットパックの派手な推進に気配を忍ばせて、リリアーヌが狐の頭目に忍び寄る。横合いから音速を拳に乗せて狐の横っ面めがけてぶち当てる。衝撃より後からくる音との空隙が凍気をもたらし、混乱と体勢の乱れをプレゼントする。村を襲われ、心を折られた相手と覚悟を決めたイレギュラーズを相手をするのは勝手が違う。
 ライハが構えたまま動かないのに、蛍は気が付いた。ライハはこのまま待機する気だ。ライハのソウルストライクに自分のドゥームウィスパーをつなげるつもりだった蛍は叫んだ。エレガントな解法もとい攻撃魔法は調和が命だ。
「ライハさん、お先にどうぞ!」
「おや、私の反応だと基本最後だと思っていたが――」
 時間が惜しい。誰もが全体の方針に従うと心得ていた。ならば、今統制している蛍が指針だ。
「正直あてにしています!」
 もちろん、難色を示されたらすぐ引っ込める。無理はしない。だが、これから回復に忙殺される蛍が攻撃に回るならこのタイミングが最適だ。
「――では、そのように。ははは。何が何でも当てなくてはいけないね」
 英雄の介添えは、吟遊詩人の本懐である。
 ライハは蛍が促すまま、自分の心の力を弾丸に変えた。この力が最高の物語を誘発せんことを。
「攻撃失敗の確率も高い? 知らんよ。ならば数を撃つのみだ」
 弾丸は正しく狐の頭目の自意識を貫いた。
 狐の頭目の魂に『俺が考える最高にかっこいい俺の凱旋』が回っているらしい。さしずめ、首尾よく天然要害の町を占領している白昼夢でも見ているのだろう。
「いずこからともなく。囁け、忍び寄る終末」
 二乗しても負にしかならない虚数定理によって導かれる蛍の魔導が、狐の頭目の浮かれた夢を侵食して惑わせる。さしずめ、膝に乗せた町娘に晩餐のフォークを突き立てられたのだろう。天国から地獄へのコンボは現実にも影を落とす。
「どこ見てくれてんだ、こらぁ!? お目目ぐるぐるかよ、これからだぜ、馬鹿野郎!」
 リオネルはパイルバンカーを狐の頭目に向けた。いかに分厚く自分の身を守ろうと、それの前では全く無意味だ。
「おら、何枚着込んでたって関係ねえぞ、厚着野郎。背中の向こうまで突き通してやっからな!」
 直接ドカンと肉をえぐっていく杭。そう簡単に当たらないはずのそれはたまたまコートに引っ掛かり、いい感じの場所に射出された。
「ハッ、”硬ぇ”って聞いてたが、そうでもねぇな?」
 刹那、リオネスの腹にも衝撃が走る。ねじ込まれた片手剣。至近距離で互いを縫い留めあっているのだ。重装甲の隙間からねじ込まれた。混乱の果ての一撃にしては、いい感じだ。
「おいおい、遊んでんのか? それとも、一方的に潰されたいドMか?」
 だが、勢いはそがれている。
 狐の頭目の目に絶望が走った。ほんの十秒の間に脳内分泌物質がでたらめにぶちまけられたのだ。


 有象無象――他人の尻馬に乗るしかない者が何人来ようが、ナイトの前では意味がない。
 盗賊が繰り出す山刀を独特の構えとドリルで跳ね返し、即応して突き返すチャロロの小躯が武装形態に変わっているのに、有象無象達は怒りから冷めかけてようやく気づいた。
 機械の耳。分厚い装甲。色の変わった髪。
 怒りに任せて蹂躙してやろうと思った子供は得体のしれないモノに姿を変えていた。
「くらえ」
 大きな右手が赤熱する。集中する出力。帯びる熱。
「一網打尽にしてやる!」
 至近距離での爆裂四散。千切れた末端は炎にまかれて灰と化す。炭の塊となる元仲間も恐ろしいが、けろりとしているチャロロの方が恐ろしい。
 怖気づいて下がる盗賊に、そうはいかないとチャロロは胸を張る。
「こっちだ、かかってこい!」
 リゲルの周囲でも、暴力が吹き荒れている。
振り回される銀県が旋回するたびに血しぶきが風に乗り、周囲を赤黒く染め上げる。緑の葉にはたはたと赤い雫が飛び散った。血を失い、息を失い、青黒い顔をした盗賊たちが気力を途切れさせる間、リゲルは血肉の嵐の中心にいながら仲間の頭目征伐を注視していた。
 叩きつけられる憎悪の一撃も、街で奮闘している二人のことや反対側で奮戦しているチャロロのことを考えればまだ踏ん張れる。
 恐ろしい勢いで自分の体勢を立て直した頭目は、今度はぎりぎりの線で張り巡らされた乱調の罠をよけて通っていく。
 それどころか、少しづつ仲間の傷が増えていくのだ。狐の頭目はチャロロと同じような戦い方をする。打ち気を誘って手ひどく返す。
 手負いの多勢ほど面倒なものはない。ここで血嵐を途切れさせればその隙に畳みかけてくるだろう。しかし、頭目を万全で戦わせるのは得策ではない。何か一つ崩れれば、狐の頭目の戦術は瓦解する。
 銀剣を旋回ではなく斬撃へ。
 頭目の首に巻かれていたしっぽの一本がすっぱり切れて、頭目の足元が乱れた。
 恐慌の果てに振るわれる山刀を盾でしのぎながらもリゲルは仲間の奮戦を確信した。


 とにかく早く倒しきること。イレギュラーズは迅速に減った分の手数を消耗しないように気を付けながら戦っていた。
「防御よりも攻撃を。恍惚の付与を。誰ぞへの一撃に繋げる為に!」
 ライハの願いを糧にして弾丸が飛び、後続するリリアーヌがそれを受ける。
「さぁ奴を仕留めたまえ。至高なる一撃を。英雄譚を見せてくれ!」
 掌に練り上げられた爆発概念。攻めて攻めて攻め潰す。
「この程度の速度に対応できず頭目を名乗る等、組織の程度が知れますよ」
 埋もれるような狐の毛皮の隙間に叩きつける。リリアーヌも無事では済まない爆裂。
 狐の威を借りた男がこときれていた。
「できれば殺したくなかったけど、中途半端な情けで街やみんなに犠牲が出るくらいなら……」
 チャロロの優しい覚悟の続きを穢れた盗賊は勝手に補完した。『おまえ達残らず皆殺しだ』
「この人みたいになりたくないなら、ここから消えて!」
 蛍の恫喝に三々五々手下たちは逃げていく。町の方へ、きっと占領しているだろう仲間を信じて走り出していく。
 別の方角に走る者たちもいたが、頭上高く飛ぶ蛍のファミリアーが見ていた。すぐに彼らのねぐらは暴かれ、しかるべき部隊が派遣されるだろう。後詰めのやつらがいたら万々歳だ。
「あ、狼煙! ゴリョウさんたちに知らせなきゃ!」
 チャロロとリリアーヌ、リゲルが流した血をぬぐいもせずにのろしを上げにかかっている。
 蛍の回復とそれぞれの頑健さに支えられたとはいえ、それなりにぼこぼこだ。
「手伝おう。彼らの口から頭目の敗北が伝われば確実であろう」
 英雄譚を目の当たりにしたライハは上機嫌で大団円を演出し始める。こういう時狼煙を上げ忘れると、ノンストップで悲劇が始まるのだ。


 豚さんは、ずっと門の前で踏ん張っていました。豚さんがどんなふうに盗賊を怒らせたかなんて、良い子のみんなには教えられませんが、壁を上っていた盗賊がみんな怒って壁から降りて門の前に集まったことから察してください。
 そこを狼さんがすっと側によっては一人切り倒し、ちょっと離れて銃を撃ち、一人、二人と倒していくのですぐに門の前は倒れた盗賊でいっぱいになりました。
 もちろんそんなことをしていた狼さんの白と灰色の毛皮は乾いた血でごわごわです。何度も何度も血反吐をはいては立ち上がりました。
 豚さんだってぼこぼこです。きれいだったマントも盗賊の血と豚さんの血で真っ赤に染まってしまいました。豚さんは大丈夫だと言いましたが鎧から白い煙が漏れています。
 それでも二人は仲間を信じてずっと立ち続けていました。
 誰かが、森が火事だ。と、叫びました。
 豚さんが、ぶははははっとそれは愉快そうに笑いました。
「ハッ! 蠍共、あののろしが見えるかよ。テメェらの頭目は俺らの別働隊が仕留めたぜ!」
 盗賊はのろしを上げる算段なんかしていません。つまり、盗賊団が焚いているんじゃないってことです。そして、盗賊団は冒険者が悠長に狼煙を焚くのを黙ってみてたりしません。つまり、狐のお頭は本当にやられてしまったのです。
 櫓門の中から湧き上がるような歓声が起こりました。
「狐団の諸君よ、聞け! 貴方達の頭目はたった今、我々ローレットの者が討ち取りました!」
 狼さんは、狐の手下に向かって叫びました。
「あの方に見えるのろしこそがその合図です、それでもまだ戦うと言うのであれば……貴方達に明日は来ないものと思いなさい」
 新しいカートリッジが銃に飲み込まれます。狐の頭目を倒した仲間がやってくるまで狼さんは気を抜いたりしません。狐の手下が街の人に危害を加えたりできないようにしているのです。
 盗賊たちは互いの顔を見合わせました。櫓門からたくさんの町の人の目が注がれています。みんな、手に石を持ち、街を守るという意志に満ち溢れていました。
 盗賊たちは倒れた仲間を置いて逃げだしました。命が一番大事だと思ったからです。
「あー……住人の皆さんよ、追撃かける余裕あるかい?」
 豚さんの問いに、町の人は首を横に振りました。豚さんが追撃することはないといったように聞こえたし、豚さんがもう戦えないくらい怪我をしているのは豚さんの足元に広がる血だまりを見ればわかったからです。鎧を脱いだら、そのまま豚さんは転げてしまうでしょう。
「まあ、そうだよな。大丈夫、あいつらもすぐ御用になるさ」
 豚さんはそう言ったきり疲れて眠ってしまいました。空には鳥が飛んでいました。
 こうして、町のとっても長い一日は終わりました。そして、また、始められるのです。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
黒豚系オーク

あとがき

お疲れさまでした。
天然要害の町には、狐さんに襲われる街を守ってくれた豚さんと狼さんのお話が爆誕します。
これで、砂蠍の残党が籠城というシナリオは瓦解しました。
ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。

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