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シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>『小賢しい』アムリタのささやかな野望

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ここは港町ローリンローリン
 から、離れた山の中。
 太い幹に大葉のような葉がついた特徴的な植物が茂っている。
 ――ザン!
 大風が吹いたと思ったら、次の瞬間、植物は根こそぎ地を離れていた。
 むくつけき男たちがその植物を奪い合うように背中のかごへ投げ入れる。彼らが集めているのは薬草だった。とある、特別な効果のあるものだ。
 大風の元凶は場にそぐわない白いスーツを着た男だ。彼が手刀を振るたびに、風が巻き起こり、かまいたちがあたりの草木を刈っていく。男は不機嫌さを隠そうともせず手を動かしている。
「……ぜんぶ、ぜんぶイレギュラーズのせいだ。この私が、かつて工場長とまで呼ばれた私が、草刈りだと……おのれえええええ!」


「それでアムリタ。このロスはどうやってとりかえすつもりかね?」
 どこともしれない一室で、白いスーツを着た男が、いくつもの影に取り囲まれ糾弾されていた。
 男の名はアムリタ。『小賢しい』アムリタと口さがない者からは呼ばれている。
『きもちよくなる薬』の一種を生成する工場の長だったが、イレギュラーズの活躍でその工場は全焼。『新生・砂蠍』は拠点のひとつを失った。
「かの工場がいまでも稼働していれば、おまえの命など吹けば飛ぶような大金が生まれていたはずだがね。おまえはどうやってこの穴を埋めるつもりかね。おまえの心臓を差し出すかね? 一ゴールドの価値もないが、見せしめにはなる」
 アムリタは大きく手を振り、はずむ息を抑えた。
「お、お聞きください、マイスター。幻想のとある山に『きもちよくなる薬』によく似た薬効成分のある薬草があるそうです。そのままでは苦味が強すぎて摂取には不向きですが、精製すれば十分採算がとれるかと……」
「そのための工場を失ったのは誰のせいかね?」
「……申し訳ございません」
 深くうなだれるアムリタ。しばしの沈黙が場に落ちた。
「そうだな、こうしよう。その薬草を一定量採取してくればおまえの首は保証しよう」
「ああ、ありがたきしあわせ!」
「ひとりでは大変だろうから、部下を十名つけてやろう」
「恩に着ますマイスター!」
 アムリタは敬礼をして上司たちの言葉に答えた。
 ここでいう部下とは監視役のことだ。アムリタは上司の気質を知り抜いていた。次に失敗すれば自分は『新生・砂蠍』から追放されえる。この組織は軍隊のように整っているようで、その実、誰も彼もが足の引っ張り合いをしているのだ。


 そんなわけでアムリタは自慢の手刀を雑草相手に叩きつけている。
 彼の怒りがこもった手刀はその切れ味を増し、威力も大きくなっていく。その一撃が不幸にも薬草を採取する部下にあたった。 
 ぶつっ。
 男の顔へ赤い斜線が入った。ぷつぷつと血の塊が斜線に沿って生まれ、たらりとこぼれる。
「あーあああるららああいいいああ~~あ!!」
 甲高くなっていく悲鳴とともに、ずるりと滑り落ちていく男の頭部。頭蓋骨の中身をぶちまけて、男は屍となった。『小賢しい』アムリタはそれを一瞥すると舌を打った。
「私の射程に入るほうが悪い」
 手下たちが恐怖でざわめいた。恐怖は目に見えない足かせとなって彼らを縛った。彼らはせっせと仕事をこなすふりをし、この不機嫌で危険極まりない上司を遠巻きに見守るので精一杯だった。

●そしてギルドへ
「なんだか怖い顔のおにーさんがすごい勢いで草刈りをしてるらしいのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はそう言って襟元をかき寄せた。
「今回情報をくれたのはとある猟師さんです。山が荒らされていたのでただ事ではないと追跡した結果、死体を出くわしたのです。警戒しながら先へ進んでいくと、その薬草刈りをしているおにーさんたちを発見したそうなのです
 薬草はきもちよくなる薬の原料にもなりうるアブナイ草なのですが、だからといって根こそぎ持っていかれては山の生態系が崩れるのです」
 いや、ユーリカちゃん、もっと直接的で害になることが起こるよね? とイレギュラーズが茶々をいれる。ユーリカは不思議そうに首を傾げると、反論を考え……つかなかったらしく大声をあげた。
「とにかく、そのおにーさんたちを倒してきてほしいのです! 危ない人達なのはこのユーリカが保証するのです!」

GMコメント

ようこそこんばんは、みどりです。
きもちよくなる薬の薬草。略してキモ薬草。

ロケーション
 昼間。山の斜面での戦闘です。
 足場は悪く、視界も木々によってさえぎられる場合があります。
 具体的に言うとファンブルが+10されます。
 浮遊などのスキルをもつとデメリットが回避されます。

討伐対象

部下×9
 格闘 物至単
 曲芸射撃 物遠単

『小賢しい』アムリタ
 手刀 物中扇 『懊悩』付与
 かまいたち 神近貫 『不運』付与

注意点
 アムリタはHPが50%を切ると、部下に命じて薬草へ火をつけさせます。
 キモ薬草を燃やした煙を吸うとPCたちもウルトラハッピーで行動不能になります。

「<蠢く蠍>燃えて逝け偽りの幸福よ」を読んでいるとにやりとできるかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <刻印のシャウラ>『小賢しい』アムリタのささやかな野望完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月15日 21時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
生満つる夜の守人
最上・C・狐耶(p3p004837)
狐狸霧中

リプレイ


 竜巻でも通ったのかと言いたくなる眺めだった。
 草という草はなぎ倒され、藪は荒れ、木には大きく傷がついている。無軌道に刈られた草が斜面の上に散らばり、ただでさえ足場の悪い山道をさらにすべりやすくさせていた。移動には充分気を使わねばならないだろう。そんなことになったのも……。
「アムリタ……あの白スーツか。あの時は取り逃がしたけど、今度は始末付けさせてもらう」
『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は唇を噛み締めた。過去の戦闘を思い浮かべているのか、青い瞳はものうげに前を向いていた。足元を確かめつつ、すり足で進む。その先には例の白スーツが待っている。薬草狩りと称して山を荒らしながら。
『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は重い傷を圧してこの場へ立っていた。因縁のある相手と聞いて黙っていられなかったのだろう。
「どうやら前回の件で全く懲りてないみたいだね。取り逃がしてしまった者の責任として、今度こそきっちり叩きのめしておこう」
 こちらはこんな山の中だというのに、足取りは軽く体重を感じさせない動きだ。メイドとしての嗜みが身についているのか、それとも過酷耐性がそうさせているのか。どちらなのかはわからないが、メートヒェンにとってはこの山道がピクニックの延長のようだ。メイド服のすそに絡んだ草の葉を払いつつ進んでいく。
「一文吝みの百知らずといいましたか。姑息な方は却って大損をするという諺を体現したような方で御座いますね」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は節を付けて歌うように言葉を紡ぐ。
「畑仕事に精を出すのは結構ですが、その畑仕事が薬物のため、なんて許されざる行為です。ましてや環境破壊なんて放ってはおけません。気持ちよく永遠の夢をみて頂きましょう。『小賢しい』お客様に相応の夢を」
「小賢しい、小賢しい、ええよく言われる言葉ですよね、私にも覚えがあります、はい」
『狐狸霧中』最上・C・狐耶(p3p004837)がこくんとうなずいた。
「ですが小賢しいとは逆を言えば生き上手とも言います。のらりくらりと悪知恵働かせて利益を得ていく生き方ですね。ええ、私もわりと得意なほうです。なにしろきつねですから」
 ちっちと、人差し指を振り、狐耶が続ける。
「つまり小賢しい程度は片腹痛いのです、きつねという昔話にすら載っている小賢しさの前には。さあ格の違いを教えてあげましょう、はい」
 山道の荒れ具合がひどくなってきた。草木の青臭い匂いが鼻孔をつく。感じる、人の気配。大勢の人間が移動している音だ。風に乗って罵声も聞こえてくる。おそらくはアムリタが部下たちを怒鳴りつけているのだろう。
「甘露の名を冠するわりには確かに小物だねぇ、面白い。ヒヒヒ……」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が長い袖で口元を抑えて笑う。商人の足元でぐちゃりと何かが踊った。
「ああ、高揚しているのだね。あとでアップルパイより美味しい蜜をあげよう。いい子にしていればだけれどもね」
 気配はもうすぐそこまで迫っている。木々の連なりを抜ければ、相手の顔を見ることが出来るだろう。
『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は気持ちのスイッチをいれた。
「危険人物は撲滅せねばならないな。神の名の元に悔い改めるがいい。ポテト、援護を頼んだぞ。俺の背中は君に預ける!」
「ああ、無論断る理由はない! 自然の生態崩すのも人に迷惑かけるのも困るし、ここで止めさせて貰おう!」
『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)もリゲルの闘気に同調する。
 それを見上げた『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)、ふと思う。窮地に立たされたやつらはとちくるって薬草に火をつけるかもしれない。となると、スーパーポジティブな自分が怪しい薬草の餌食になったらウルトラハイパーらりらりハッピーになるのでは? と。
「え、あ、嫌だよ? あっはは、僕は今のままで良いのさ! 妙な煙を吸うはめになるのはそこの馬鹿どもだけ! ……いや、吸うのもだめだ。呼吸をするな、特に工場長(笑)は……死ね」
 ぼそりと付け加えると、すぐに取り出せるよう、マフラーの裏へマスクをセットした。
 獲物は目の前だ。ランドウェラは赤の熱狂を振りまき、藪の中へ飛び込んだ。


 梢を引き裂き、イレギュラーズがアムリタたちに相対する。こんな山奥でもノリのきいたスーツに磨き抜かれた革靴というアムリタの姿は、かえっておちぶれた今の状況を雄弁に語っていた。部下たちは山歩きに適した服装で編み上げのブーツを履き、背中にかごを背負っている。中へ乱雑に投げ入れられているのは件の薬草だろう。
 状況がつかめず目を丸くしている部下たち。対してアムリタは酷薄な表情のまま舌を打った。
「イレギュラーズか」
「そのとおりだ! 『小賢しい』アムリタ、貴殿の首を狩りに来た」
 リゲルが勢いよく地を蹴り、部下へ近づく。
「我が名はリゲル、リゲル=アークライト! 銀糸光る暴風雨! 俺たちを倒さないと君たちの命が危ないのでは? 死に物狂いでかかってこい!」
 部下たちは互いに目配せをし合った。恐怖に濡れた眼差しを絡み合わせて、後ろめたい怒りに惑わされリゲルへ走り寄ろうとした。その時。
「何をしている。私の周りを離れるな」
 氷のような声がムチのように部下たちの背を叩いた。
「持ち場に戻って曲芸射撃でもしていろ。それしか能がないのだからな。わかったか」
 アムリタの命令を聞いた部下たちは冷水を浴びせられたように持ち場へ戻った。イレギュラーズにとって、彼らの位置は後衛といえる。前衛はアムリタ唯一人。
「イレギュラーズたちなど、私の手刀で充分」
 言うなりアムリタは大きく腰を捻り、反動を利用して手刀を放った。その手刀から生まれた衝撃波が草木を裂き、イレギュラーズたちを襲った。彼らが思っていたよりもその飛距離は長く、中距離にいたランドウェラまで巻き込んで衝撃波は過ぎゆく。
 一瞬、ぞろりとした感触がランドウェラの背中を這い回った。
「うわ、気持ちわる! 幽霊に触られたみたい、ってそんな体験なーいよ! あははは!」
 セルフノリツッコミで笑い飛ばせば状態異常も何処かへ去っていく。リゲルが自分で自分を抱くように両手を回した。
「寒い……」
「あ、それどういう意味!? ひどいなあ、がんばって気分あげていってるのに!」
「いえ、物理的に寒いんです。なんでこんなに寒いんだろう、おかしい、風邪でも引いたかな、昨日の晩はいつもどおり暖かくして加湿器をかけて寝たのに……」
「それは風邪ではなく懊悩というものです」
 後方で幻が手をかざす。キュアイービルの光をラッキーコインに変え、リゲルへ向けて投げた。そのコインがリゲルの頭に当たったとたん、彼を苦しめていた寒気は嘘のように消えた。
「ちっ、ヒーラーがいるか。次は距離をつめて後衛から葬ってくれよう」
 苦々しく舌打ちしたアムリタ、その足がつかまれる。
「何っ!」
 いつのまにここまで近づかれていたのか。気配を感じさせなかった。アムリタの足には、血まみれになったメートヒェンがしがみついていた。パンドラの青い光が彼女の体を包んでいる。
「メイドたるもの、目的のためなら身を挺することも日常茶飯事」
「大丈夫かメートヒェン! いま癒やすからそこを動くな!」
 ポテトが光の弓矢を生み出した。きりきりと弓を引き絞り、ハイヒールの矢を放つ。その矢はあやまたずメートヒェンへ突き刺さり、彼女の刀傷を塞いだ。そのまま彼女は木へよじ登るようにして立ち上がり、アムリタが右手を動かせばその腕を、左手を動かせばそちらの腕をつかんだ。場所が場所なら、ダンスでも教えているかのように見えただろう。残念ながらここは館の大広間ではなく荒れた山道で、アムリタとメートヒェンの合間にあるのは憎悪と憤怒だけだったが。力比べでもしているように、ギリギリとふたりの腕が鳴る。
「貴様、離せ、離さんかあぁぁ!」
「そう怒りなさんな工場長殿。久しぶりの再会だろう? 工場長様自ら材料の採取だなんて精が出るじゃないか。工場の稼働はそんなに好調なのかな?」
「……!」
 真に怒った時、人は言葉を失うという。
 その隣を狐耶が、武器商人が、リゲルがすり抜けていく。目当てはうしろでうろうろしている部下どもだ。アムリタより先に排除してしまえば邪魔者はいなくなる。目当てに気付いたアムリタが焦った様子で後ろを見ようとする。だがメートヒェンがつかんで離さない。
「うぜえんだよこのブス! どけっ! どきやがれ!」
「お、化けの皮がはがれてきましたねー。これじゃ『小賢しい』じゃなくて『口汚い』アムリタさんですね、はい」
 狐耶がひらひらと手を振って挑発する。
 部下たちは迷っていた。撃つべきか撃たざるべきか。いっそイレギュラーズに加勢して罪を減じてもらうか。それともこの上司といっしょに地獄への道をひた走るか。
 ふと陽の光が陰った。反射的に見上げた先には長いローブを着た武器商人の姿。長椅子にでも座っているかのような体勢でふわりと浮かんでいる。
「難儀な上司をもつと大変だねえ。上司の采配ひとつで人生が決まるというのはどんな気分だい?」
 恐怖のあまり冷や汗で濡れた額を、武器商人ががっちりとつかんだ。
「さて、だいぶタイプが違うが、かの物語に沿ってこう告げようか。――絶望せよ。"歩く破滅"が此処にいる」
「EEEETTTTeeeeeeeekKKkUUUUssSAAAAAAAAAAAATTTTT!」
 触れた部分から男の皮膚が盛り上がり、ボコボコと異様な音を立てながら脳みそをシェイクしていく。逆再生を受けた男は快楽の麻酔でも打たれたかのように失禁し、だらりとあいた口から舌を突き出してよだれをたらした。武器商人が手を離すと、男は木の棒よりたやすく地面へ倒れ、山道を転がり落ちていった。彼が死ぬ間際に見た景色はけっこうな色彩をしていたのだろう。それがせめてもの慰めだろうか。
「よし、いい位置につけたなみんな。部下どもから各個撃破といこう。……シューティングスター・ブレードダンス、翔星の剣舞よ、いざ舞えやこの束の間の夜に」
 後ろに下がっていたウィリアムが両腕を天へ掲げた。その間に星々の輝きが集まり、一振りの剣に変わっていく。
「穿!」
 ウィリアムの発した力ある言葉のとおり、剣は彗星のように尾を引いて流れていき、部下のひとりの腹へ突き刺さった。
「はい! なんともナイスですね! とどめさしちゃいましょう!」
 狐耶が攻撃へ集中し、星の剣の柄を殴り抜けた。はらわたの感触が拳に当たる。男の腹を貫通した剣は霧散し、狐耶はさらに打撃を加えていく。
「や、やりやがったなあ……」
 息も絶え絶えの男が最後の意地を見せて狐耶を掴もうとする。しかし狐耶はあっさりとその手をかわし、あかんべえをして足払いを仕掛けた。悲鳴を上げながら男は転がっていく。もう二度と登ってこれはすまい。
「強襲です。ええ、強襲なんです。ですから、手加減はなしですよ。全力全開な私の姿、黄泉の旅路のお供にするがいいです」
 狐耶はくるりと方向転換すると、鋭い視線で別の男をねめつけた。
「次はおまえです、はい」

 アムリタが動いた。追いすがろうとするメートヒェンを振りほどき、後退を始める。部下たちよりさらにさがったところで足を止めた。血走った目が手刀のダメージの残る武器商人をとらえる。
「くたばれ!」
 呪詛とともにくりだすかまいたちが武器商人を襲う。つ、とたれた血をぬぐうと、おかしそうにそれを眺める商人。足元の影へぱたりぱたりとしずくがこぼれ、そこで波打つ何かが喜びの踊りを見せた。
「バカな! 普段なら今のでトドメだったはずだ……!」
 驚愕するアムリタに武器商人は唇を三日月の形に引き上げた。
「脆弱でしぶといのが我(アタシ)さ。何度倒れてもそのたびに立ち上がってみせよう。さあ、お次は何がくるんだい?」
 笑みを深める武器商人。その禍々しさに部下たちが一歩後ずさる。
 ここにきてようやく部下たちも腹が決まったようだ。ここにいたら死んでしまう。そんなシンプルな答え。わかっていたはずなのに。現実はいつでも冷たく、運命はハサミを持ち出す時を今か今かと待っている。部下たちはゆっくりと後退し、背中のかごを投げ捨てて逃げ出した。
「あ、待て、こら! バラバラに逃げたら狙いが定まらねえじゃねえか!」
 ウィリアムがライトニングの呪文を唱えようとして、途中でやめた。考えてみれば狙っているのはアムリタただひとりであり、部下たちはおまけだ。それに、ここからでは仲間も巻き込んでしまう。
「何をやっている! 戻ってこい、戻ってこいと言っているんだ!」
 アムリタは蒼白になって叫んだが部下たちは見向きもせず、全速力で去っていく。中にはそのまますっころんで藪に突っ込んだり、山道をごろごろと落ちていったり。自分たちが招いた不運に足を取られている。
 部下たちの無様な姿をよそに、イレギュラーズたちはアムリタとふたたび対峙した。気は抜けない。アムリタはいまだ手傷らしい手傷を負っておらず、まだまだ戦闘能力はあるからだ。
「……どいつもこいつも。まあいい。俺はいつだって独りでやってきた。また独りに戻っただけのことだ」
 アムリタを覇気が包む。
「メイド! おまえから先に死ね!」
 アムリタが再び手刀を振るう。範囲内にいた仲間までまとめて手刀が切り裂いた。まるで大太刀でざっくりとやられたような傷が生まれ、血が飛び散る。
「……くっ、すまない、私はここまでのようだ」
 メートヒェンが膝を付き、倒れ伏す。
「メートヒェンさんの無念、俺が引き継ぎます!」
 今がチャンスだとばかりにリゲルは突進していく。誰も巻き込まない今が使い所だ。
「戦鬼暴風陣!」
 銀の剣を振り回し、自らを小さな台風と化すリゲル。きらきらと輝く白銀の暴風域だ。その美しさとは裏腹に威力は高い。アムリタは暴風域を避けようとして盛大に足をすべらせて転んだ。リゲルの暴風域が彼を包んだが、アムリタはすぐに横へ転がって脱出をはかり、起き上がった。
「あにしてれんだよぉ! クリーニング代だせよなあ、ああ、こらぁ!」
 よれよれになったスーツにはあちこちにかぎ裂きができている。
「そんな義理はありませんね」
 着地したリゲルは冗談じゃないと手を振った。
 続けてランドウェラが魔力放出を試みる。人差し指を立て、くるりと円を描く。円、それは魔法陣の基本形であり、完全、完璧を意味する。ランドウェラが何度も円を描くうちに、その軌跡が輝きはじめ、魔力が集中していくのがわかる。
「ほら、こいつはどうだい、工場長(笑)」
「だまれ! その呼び方は却下だ、却下!」
 溜まっていた魔力がアムリタへ向けて一気に流れ込んだ。その魔力の筋を読んだかのように、アムリタがぎりぎりのところでよける。白いスーツの端が蒸発し、ランドウェラの攻撃の威力の程を見せつけていた。
 ウィリアムが口を開いた。
「小賢しい、ね。ああ、確かに小賢しい。でも、賢しい訳でも、狡猾と呼べる訳でもない。その結果がこれだ。ここがお前の限界だぜ、アムリタ。また逃げても、次があると思うのか?」
「え、ええい……。やかましい!」
 ウィリアムのセリフは少なからず動揺を誘ったようだった。そこを狙い、ウィリアムは星の剣の最後の一本を打ち込んだ。剣は彼の足を縫い止め、身動きできなくした。
「ここまでか? いや、まだまだ! 俺にはこれがある!」
 アムリタが内ポケットからスキットルを取り出し、あたりに液体を振りまいた。周囲には部下たちが残していった薬草がゴロゴロしている。火のついたマッチを投げ入れれば、煙がもくもくと立ち込めた。火に囲まれながら、アムリタは高笑いをした。
「燃えろ燃えろ! みんな燃えてしまえ! あははははひーはははっははは!」
 アムリタの暴走にいち早く動いたのはポテトだった。
「風の精霊よ、風向きを西へ!」
 ポテトの思惑は誰もいない方角へ煙を吹き寄せること。幸い精霊たちの協力が得られ、じわじわと効果が出つつあった。
「不運な男の不運なんて……これだから陰湿で執念深い男は嫌ですね。僕がすぐに消し飛ばしてみせましょう」
 幻はマリオネットダンスを披露した。無数の見えない糸を放ち、アムリタを縛り上げると、炎の中から引きずり出す。精魂尽き果てたのか、アムリタは気絶していた。
 おのおの煙対策をして薬草についた火を踏み消せば、山奥は本来の静けさを取り戻した。
 武器商人が転がっているアムリタの顎を蹴飛ばした。
「おはよう、アムリタの旦那。敗者には尋問って相場が決まってるものだよ。新生・砂蠍について何か知らないかい? どのみち、二度失敗したのならここで逃げ延びてもキミに安全な未来があるわけでなし。知ってる情報と引き換えに減罪してもらいながら保護してもらう方が合理的なんじゃない?」
 しかしアムリタの持つ情報は、すでにローレットが掴んでいるものばかりだった。
 夕暮れ、イレギュラーズに囲まれて『負け犬』のアムリタの影が長く長く伸びていた。

成否

成功

MVP

メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士

状態異常

メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917) [重傷]
メイドロボ騎士

あとがき

おつかれさまでした。
皆さんの作戦が功を奏し、アムリタは捕虜になりました。
いまごろ牢屋で膝を抱えていると思います。
MVPは重傷なのにブロックをがんばったメートヒェンさんへ。追加もたしておきました。
またのご利用をお待ちしています。

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