PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>トレイリアス・ディ・マスフォール

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「順調そうであるな」
 でっぷりとした巨体を揺らし、男は引きつるようにくぐもった声を発した。笑っているようにも見える。

 机上に広がるのは幻想南部の地図があり、目の前には一人の女が居た。
 大振りの曲刀を腰に下げているが。磁器のように白く透き通る肌、すらりと伸びた手足と、皮鎧に隠し切れぬ胸。真っ直ぐな長い黒髪に、冷えた夜空を思わせる大粒の瞳。
 十二分に美しくはある。女と呼ぶより少女とするほうが相応しくも見えるのは、単に化粧気のない素朴さがそう見せているのだろうか。
 けれどそれより何より目立つのは彼女の視線だ。あまりに鋭く、底知れぬ昏さを湛えている。

 男のねっとりとした視線を気にも留めず。
「これもマスフォール卿のご英断あってのこと。この『イーグルハート』ミリアム・アルマファル、感謝致す」
 涼し気な声音で礼を述べた少女は、その地図に視線を落とした。黒い丸石は――おそらく軍事的な拠点を示している。
「そうかしこまらずとも良い」
 この太った男トレイリアス・ディ・マスフォール子爵は幻想貴族である。
 幻想南部小領の子爵ながら家柄は古く、格式ならばいささかの自負があった。
 館を構える町もまた歴史が古い。いくつかの漁村と農村とを街道によって束ね、更には石材の通り道として『ペイヴロードの町』と呼ばれている。
 土地柄から石工が盛んであり、中央の教会が誇る小さなステンドグラスをよく見れば、タガネと木槌の意匠だったりもする。

 ――それはさておき。
 状況がここへ至ったのには、いくつかの訳があった。
 西方の大討伐から逃れた砂蠍という盗賊団、その頭目である『キング・スコルピオ』が、この幻想に潜んだという情報が流れて久しい。
 彼等は正体不明の資金力と人脈を発揮し続け、幻想の盗賊達をも吸収して勢力を拡大し続けていた。
 幻想中央部を牽制しながら動く様は、さながら軍隊であり、最早盗賊の域を逸脱している。
 そして彼等は突如、幻想南部の貴族領、街、村等への大規模な侵攻を開始したのである。

 さて。イーグルハートというのは西方由来の一部族である。
 遠い昔は傭兵や暗殺なども行っていたようだが、現状の実態はキング傘下の盗賊団であった。
 逃げ延びたキングと共に幻想に潜んだ彼等は、このマスフォール家に取り入り、魔物の退治等を引き受けつつも対価を得ていた訳だ。無論その裏でキングの指示を守りながらの事であろう。

 では子爵の事情はどうか。このたび新生砂蠍の動きは速く、近隣諸領に対する瞬く間の制圧劇には、かなり肝を冷やされることとなった。
 更に『サリューの王』クリスチアン・バダンデールからもたらされた情報――幻想北部で鉄帝国が侵攻の兆しを見せているという話に茫然としたと言う。
 そんな折にイーグルハートから持ち掛けられたのが、一つの取引だ。
 内容はキングの旗下に加わること。引き換えは新しい王国での身分保障。具体的には伯爵位を約束するというものであった。
 子爵は悩んだ。
 大いに悩んだ。
 そして結局、国からの派兵要請に対しては資金と物資の提供だけを約束した。つまりは蹴ったのである。

 いざ決断に至った後は不思議な感情が芽生えてきた。今や解放感すら感じる。
 何代も子爵位に甘んじ、王都の宮中伯共風情の風下に立っていたことが気に入らないだとか。
 東西の大貴族共から緩衝地帯のように扱われていた事への鬱憤だとか。
 特異運命座標なる不逞の輩に好き放題させているという、この国そのものへの不満であるとか。
 名誉欲、権力欲、支配欲、闘争心まで溢れてくる。
 この時トレイリアスは歴史という遊戯盤の『指し手』になったのだと、そんな意識すら生まれたのだった。

 子爵の難癖は意外にも、王都にすんなりと受け入れられた。
 弱小であることに加えて、今まさに近隣の領が新生砂蠍に襲撃されている南部の貴族へ更なる過大な負担を強いるという状況に、なんらかの政治的な力が働いたのかもしれない。
 ともかくこうして舞台は整ったのであった。
「では伯爵」
「まあまて、それは気が早いというものだ」
 そうは言いながらも、子爵は再びくぐもった声で笑った。満更でもないのだろう。
「そろそろお時間です」
「そうか。しかしミリアム殿。そなたは美しく気立ても良い。成功の暁には側室に迎えようとも考えんでもないのだぞ」
「……お戯れを」
 吐き捨てるように。凍える声音を、しかし悟らせず。少女は子爵を先導する。
「悪い話ではあるまいて」
 この男もずいぶんと気が大きくなったものだ。僅か数日前の蒼白な顔が今でも思い出されるというのに。

 豪奢な執務室の外。廊下を抜け、階段を降りた先。門を出るとそこには広大な庭園が広がっていた。
「今日、集まってもらったのは他でもない」
 新たな門出の祝いには家臣達の他、イーグルハートの団員達、そして町が誇る数名の名士も混じっている。
 誰しも皆、事情は承知していた。
 各々の杯に静脈血のような赤が満たされる。南部の葡萄酒だ。
 不遜なスピーチを終え、それを全員が一気に飲み干す。

 少女の口角が微かに動き、ガラスの割れる音がした

 ――

 ――――

 辺りは正に阿鼻叫喚の様相であった。
 次々に倒れる家臣達に名士達。しかしイーグルハートの面々だけは、杯を飲み干したというのに平然としている。生粋のアサシン集団に毒など意味がないという、実に簡単な仕掛けである訳だが。
「計ったな……」
 かすれた声が聞こえた。

 これで少女の想いは叶う。
 一族が部族間の闘争に敗れて幾星霜。
 祖父母の代から盗賊に身をやつし、ありとあらゆる悪事を働いてきた。
 彼女の手など子供の頃、その背が今の半分にも満たぬ頃から血に染まっている。
 旅人から金を奪った日々が。
 行商人から積み荷を奪った日々が。
 寒村を焼き払い僅かな蓄えを奪った日々が。
 自分自身と同じ年ごろの少女を浚った日々が。
 命乞いする女を殺し、その子供を売り払った日々が。
 誇り高い一族の戦士達を薬漬けの暗殺者にしてまで闘争に明け暮れた日々が、ようやく終わりを告げる。
 ついに『居場所』が手に入ったのだ。そんな一族の悲願が成就したのだ。
 新たな明日が、つかみ取った未来がこれから始まるのである。

 だからこそ、そんな子爵の声に少女は薄く笑い――数瞬の後に目を見開いた。
「……なぜ」
 なぜ生きているのだ。この男は。

「控えよ」
 丸々と太った身体はそこになく、隆々たる体躯の大男が彼女を見下ろしていた。
 少女は腰の獅子尾剣に手をかけ――
「二度は無い。控えよ」
 そのまま動くことが出来なかった。

「貴様等を匿ってやった」
 言葉も出ない。
「貴様等に金をくれてやった」
 雷光に撃たれたように、ただ立ち尽くす事しかできない。
「貴様等には、暗殺者を養うという薬物の供与もしてやった」
 その強大な威圧に、少女は膝が震えていた。
「三度の恩へ、この礼か」
「……ッ!」
 突然の激痛に、少女は左目を抑えてうずくまる。
「――しかし私は許そう」
 大男は血に濡れた玉を手の平で転がし、そのまま口へと放り込んだ。
 のたうつほどの痛みの中。少女は片方だけになった瞳で辛うじて睨みつける。
「信賞必罰は、あってしかるべきであろう?」
 男は口の中のものを飲み込んで、そう言った。

「お前、は……」
 吐き気がする。

 魔種(デモニア)か。


 この日。
 ローレットは慌ただしく動いていた。
 通り過ぎる者達がこちらの卓やや驚いた顔で一瞥し、すぐに去っていく。
 そんなギルドの片隅で。

「皆さんにはペイヴロードを奪還頂きたい」
 そう述べた『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレクはイレギュラーズ達に一枚の書状を手渡した。
 といっても彼直々の物ではなく、国からの依頼書である。
 未だ町そのものには、数名の名士が亡くなった程度の被害しか出ていないが、盗賊達が占拠した以上は時間の問題であろう。

「つまり、俺達は砂蠍の連中を追っ払って、現れた魔種……その、元子爵サマを倒せって話だな」
「そうなります」
 ガブリエルの説明は次のようなものだった。
 曰く。ペイヴロードの町を治める子爵が、砂蠍かあるいは未知の魔種の奸計により魔種へと変貌させられた。
 ローレットの冒険者は直ちに現地へと赴き、砂蠍を撃退して元子爵である魔種を討伐されたし。

 国や貴族の兵は割けない。現地の兵は死んでいる。ローレットも手いっぱい。だが必滅の敵が居る。そんな状況だ。
「町の自警団にも支援を依頼しています。残念ながら皆さん程の実力は約束出来ないのですが」
 僅か二十名程度の中で手練れは数人だけらしいが、冒険者もやっており実戦には慣れているようだ。居ないよりは随分マシだろう。
「厳しい依頼であること。そして不誠実な物言いであることは承知していますが、事情をお分かり頂きたい」
 幻想最後の防波堤たるこの伯爵は、最後にそう含ませた。
 ともかく話は、この国家の中では『そういうこと』になっているのだろう。そんな所に口をはさんでも仕方がない。
 神に愛されたる幻想貴族が、よりにもよって魔種になったなどというスキャンダルは。理由はともあれ邪悪な何かの仕業にしておくほうが良いのだ。

 むしろ北方の問題で忙しい中、この伯爵殿が出立前にわざわざ足を運んでくれた事を感謝すべきだろう。
 誤解を恐れずに言うならば、彼はイレギュラーズ達にとって、大口のクライアントであると同時に同志のようなものだった。
 この男でなければ『言い含む』等と言う方法で暗に真相を伝えてくれることなどなかったはずで。つまるところ事態の裏など、その程度の宮廷茶番劇でしかないことへの理解も難しかったに違いない。
 ローレットが誇る敏腕情報屋達であれば、より直接的に事態の真相を伝えてくれたかもしれないが、伯爵の訪問により調査の負担も減っただろう。
 なにしろローレットは大忙しなのである。

「それじゃあ。やるしかないわね」
 それまで難しい顔で腕を組んでいた『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)が宣言する。
「だな」
 では具体的な作戦はどうしたものだろうか。
 イレギュラーズ達はペイヴロードの町へ赴き、領主の館を占拠する砂蠍の盗賊達と、魔種を討伐する事になる。
 伯爵からの情報によると、どうやら魔種は館から出てこないらしく、まずは広大な庭園で盗賊達との戦闘になりそうだ。
 ここからは推測になるが。盗賊達のマクロな背景事情としては『前門のキング、後門の魔種』との板挟み状態で、戦意は低いようにも思える。
 おそらく魔種との戦闘がメインとなるのだろう。それまでどうにか戦力を温存して上手くやり過ごさなければなるまい。魔種への対処自体、本来ならば万全な状態のイレギュラーズのパーティが一丸となって挑むべき相手だ。少なくとも援軍には任せられない。
 仮に盗賊達にこちらの真意を悟られるなりしてしまい、全力の盗賊団と交戦することになった場合。勝てはするだろうが、そのまま魔種と交戦するのはまず無理だ。撤退を余儀なくされるだろう。そうなれば当然依頼は失敗だ。
 正攻法で行くなら分散しているであろう敵を各個撃破すべきだろうか。
 それにしても援軍も含めて全員で攻めるか、陽動作戦等を講じるかと選択肢は多い。
「私達が魔種を倒すから、出ていけ、なんて」
 流石に無理よねと、アルテナが再び腕を組む。
「相変わらず重そうだな」
「なにがよ、失礼ね」
 まあ。
「いや。そりゃそうだろ。無理だと思う」
 もっとしっかりと作戦を考えなければ。
 アイスティーを飲みかけたグラスの中で氷が転げる音がした。

「それじゃ、こんなのはどう?」
 アルテナの提案は、盗賊団を無視して一気に領主館へ侵入。いきなり魔種を倒して館を制圧し、その勢いで盗賊を追い払うというものだ。
「意外と脳筋なんだな」
「そう?」
 アルテナが微笑む。挟撃されては目もあてられない上に、傷付いた状態で厳しい交戦になっては厄介だ。
「なんで嬉しそうなんだよ。けど、一利あるかもな」
「でしょ?」
 だが敵にも『魔種になど近寄りたいか』という切実な問題もあるだろう。
「つうても、相手の立場を考えると難しいが」
 キングから見れば敵前逃亡など失態でしかないだろう。そう簡単に敵が逃げてくれるものだろうか。
 だが上手くいけば連戦は避けられる。つまり被害を最小限に出来る可能性がある訳だ。悩ましい所である。

「賊頭目の目的が、自分達の安全確保ならば、だ」
 もしかすると説得や取引などの余地も出てくるのかもしれない。言葉や口約束だけで解決出来るのであれば、イレギュラーズ達は魔種討伐に専念出来る。
「でも、悪人よ」
 資料の経歴が残忍な犯罪の数々を物語っている。
「一時的に……なら、ありかもな」
 こんな盗賊団など誰が許しても国や世間が絶対に許さない。どのみち後で倒すことになるだろうから誠実な交渉にはなりそうにないのだが。さて。

「まずは準備を急がねえとな」
「そうね」
 ともあれ。いまのところ気を付けるべきは、こんな所だろうか。
 書状には丁寧にも敵の詳細な戦力分析までされているようだ。なかなかどうして、幻想という国も侮れないものである。
 これがあれば他にも作戦は考えられそうだ。
 最終的にどんな方法で乗り込むかは、現場に到着するまでに詰めておけばよいだろう。
 いずれにせよ、どんな作戦であっても決断し、精度と足並みはしっかりと揃えなければ勝利など夢のまた夢であろうか。

「それでは皆さん、ご武運を。どうか無事で居てください」
「伯爵サマもな」
 そう言って馬車に乗り込む伯爵を見送り、イレギュラーズ達は出発の準備を整えるのだった。

 貴族は北へ。
 それじゃあ、この国の南をひとつ任されてやろう。

GMコメント

 pipiです。魔種でHARDなEX。
 なんだか大変な事になっちゃったぞ。
 悩ましい状況をドーンと突破してやりましょう。

●目的
 ペイヴロードの町を奪還すること。
 以下の二点を満たせば達成となります。
・盗賊団『イーグルハート』の撃退(生死逃亡等不問)。
・魔種『トレイリアス』の抹殺(絶対殺す)。

●情報精度B
 敵と味方戦力のスペック、ロケーションはかなり判明しています。
 それ以外は十分な情報と言えません。

●同行NPC
 具体的な指示をしてくれても構いませんが、文字数足りないと思いますので。
 皆さんの意図を読み取って適度に動きます。

『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 皆さんと同じぐらいの実力。
 神物両面+バランス型。格闘。近距離攻撃、遠距離攻撃、回復を使います。
 皆さんの作戦を尊重します。指示がなければ適度にそれらしく行動します。

『自警団の男達』
 ローレットの噂はかねがね聞き及んでおり、皆さんへの敬意が感じられます。
 皆さんの作戦を尊重します。指示がなければ適度にそれらしく行動します。

・ジャン
 自警団リーダー。立派な短槍と丸盾に鎖帷子の男。手練れです。皆さんと同じぐらいの実力。
 この戦いが終わったら恋人にプロポーズするつもりらしく、張り切っています。

・手練れの自警団員×5人
 皆さんと同じか、やや弱い程度の実力。
 前衛攻撃型。前衛防御型。中距離BS型。回復型。遠距離型。

・その他の自警団員×15人
 そこそこ戦えますが皆さん程の実力はありません。
 近距離型8名。遠距離型4名。回復型3名。

●ロケーション
 時刻は昼。
 以下詳細。

●『大庭園:正門』
 広さと明るさは十分です。
 奥に林があり、庭園の中央部とは数百メートルの距離があります。

『イーグルライトウィング』ファハンブール
 この盗賊団の幹部。強いです。
 曲刀使い。
 ファンブル値を犠牲に基礎性能を高めているタイプ。
 至近~中距離が得手。単体攻撃、貫攻撃を持ちます。
・毒無効(P)

『イーグルレフトウィング』ジャムルード
 この盗賊団の幹部。強いです。
 両手にサブマシンガンを装備。
 ファンブル値を犠牲に基礎性能を高めているタイプ。
 遠距離範囲攻撃、近距離の扇形掃射を持ちます。
・毒無効(P)

『盗賊(曲刀)』×1名:前衛バランス型:毒無効(P)
『盗賊(短剣)』×1名:前衛機敏型:毒無効(P)
『盗賊(弓)』×1名:遠距離型:毒無効(P)

●『大庭園:裏門』
 裏門は木々に隠れて見晴らしが悪いです。
 領主の館(裏側)は目と鼻の先。

『イーグルクロウ』ザムダ
 この盗賊団のNo.2。かなり強いです。
 両手にジャマダハルを装備した大男。高耐久、高攻撃力。
 すべて至近単体攻撃ですが、良燃費技、大威力技、防無技、必殺と揃えています。
・毒無効(P)

『盗賊(弓)』×6名:遠距離型:毒無効(P)

●『大庭園:中央』
 見晴らしも明るさも良好で、広さも十分です。
 遠くに領主の館が見えます。

『イーグルハート』ミリアム・アルマファル
 盗賊達を束ねる十八歳の少女。武器は華麗な装飾のシャムシール。
 布と皮の鎧で、身軽さと攻撃力を両立する強力な戦士。かなり強いです。
 白くなった髪で失った左目を隠しています。
・至近単体攻撃:出血、致命、弱点
・至近単体攻撃:大威力、出血
・近接列攻撃:出血
・近接貫攻撃:出血
・毒無効(P)

『盗賊(曲刀)』×4名:前衛バランス型:毒無効(P)
『盗賊(短剣)』×4名:前衛機敏型:毒無効(P)
『盗賊(弓)』×2名:遠距離型:毒無効(P)

●『領主館の大広間』
『魔種』トレイリアス
 黒檀のような肌と模様。隆々とした体格の大男です。
 額に一本の巨大な角が生えており、両手には鋭い爪が生えています。
 まるで悪魔のよう。マジでめちゃんこ強いです。
 性質は『色欲』であると推測されます。原罪の呼び声が発生する可能性があります。
・爪角撃(A):物中貫、弱点、大ダメージ
・薙ぎ払う((A)):物近列、ダメージ、飛
・幻炎術(A):神遠範、ダメージ、恍惚、痺れ、乱れ
・幻氷術(A):神中範、ダメージ、不吉、停滞
・狂気伝播:3ターンに一度自動発動。効果範囲はトレイリアスを中心に半径20メートル。抵抗失敗でBS狂気状態となります。

  • <刻印のシャウラ>トレイリアス・ディ・マスフォールLv:10以上完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年11月15日 21時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
ハニーゴールドの温もり
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
医術士
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)
終焉語り
九重 竜胆(p3p002735)
一刀繚乱
ハロルド(p3p004465)
聖断刃
最上・C・狐耶(p3p004837)
狐狸霧中
蓮乃 蛍(p3p005430)
鬼を宿す巫女

リプレイ


 きらめくような木漏れ陽の元。
 涼風に騒々とささやく木々は、葉を黄に赤に美しく着飾っていた。
 イレギュラーズ達が立つのは大きな館の裏手。その周囲に広がる林の中である。
 いくらか歩いた限りには、鬱蒼という季節や風合いではなく。自然が織りなす風合いと溶け合うよう、良く手入れされているようだ。
 腕のいい職人が居る――あるいは居た――のであろう。

 行楽日和にこの景色。普段の『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)ならば婚約者と共に感嘆も出来たことであろうが。
 この日、彼女等には成すべき重大な使命があった。
「盗賊退治に魔種退治。どちらも大変だが、どちらも成功させないとな」
 素朴に飾らぬ物言いながら、ポテトの言葉は依頼の神髄を貫いている。物見遊山の心算など毛頭ありはしない。

 現在――西方の盗賊王に率いられた砂蠍の盗賊達は、あたかも軍隊のような統率の元で幻想各地を侵略している。
 この場もその一つであり、更に述べるならば盗賊達と幻想国と双方にとって作戦上重大なポイントでもあった。
「はい。ここを乗り切れば、砂蠍の勢いも少しは弱まるはず……」
 だから、厳しいと判断されているこの戦場に怖さこそ感ずれど、『鬼を宿す巫女』蓮乃 蛍(p3p005430)は作戦を成功させるためにここに立っている。
 見解自体は彼女らしく些か控えめではあるが、やり遂げるという意思は強い。
「ええ、もちろんですわ」
 二人に同意し胸を張る『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)もまた然り。
 けれどその声音は、自由闊達な暴走台風たる平素より『大いに』控えめであった。
 なぜならば――

 ふいに『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)が後方を振り返る。総勢十四名の視線が彼を見据えた。
「見えたぞ、あそこだ」
 木陰から覗く先。西方遊牧民風の帽子をかぶった弓使いが大きなあくびをしている。こちらに気づいた素振りは見て取れない。
 頷いたイレギュラーズ達にハロルドが目配せする。偵察(ファミリアー)を放つべき頃合いだ。
 今回、ハロルドが選んだのはカケスである。
 放たれた鳥はしわがれた声でひと鳴きし、大空を舞う。
 上手く行けば良いと誰しもが思った時。

 緊張が走った。
 カケスを弓使いが目で追っている。
 悪辣とさえ感じられる辺りの静寂に、誰かが息を飲む。

 カケスはそのまま――数羽の同種(なかま)と共に、館の屋根を越えてくれた。
 弓使いは再び視線を地に落とすと、大きく口を開いた。二度目の大あくびである。
 あの退屈そうな見張りは、先ほどから何度も飛び交っている秋の野鳥共になど、まるで注意を払っていないのだろう。

 このように。
 ――少なくともこのタイミングで敵に気付かれる訳にはいかない作戦が、今まさに遂行されているのである。


「行きましょう」
 林を抜けたイレギュラーズの進撃は迅速であった。
 涼し気な声音で先陣を切る『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)の細剣、その美しい魔晶が陽光に煌いた。
 攻め込むべき貴族の館ではあるのだが、敷地全体が防衛力よりも多分に景観を重視していると見て取れる。話が速くて助かるというものだ。

「幻想の犬、否――」
 ひと際大きな大男。裏門を守る敵副官の大男が嘯く。
「その出で立ち。ローレットの石動か。貴様の命を奪える事を、我が生涯の誇りとしよう」
 その視線は黒衣を纏う精悍な男、その鋭い眼差しと交差する。
「ザムダ、か」
 墨色の焔を纏い、石動 グヴァラ 凱(p3p001051)が踏みしめた大岩を踵で蹴りつける。
 砕け土煙を上げる戦場の只中で、突如黒色の塊が炸裂した。

「敵襲だ!」
 敵の弓兵達が慌てた様子で武器を拾い上げる。
 だが、遅い。
 二刀が閃き――『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)の紫電を纏う斬撃が、立ち上がりかけた弓兵を薙ぎ払う。
 こうして初戦はイレギュラーズ達による一方的な先制攻撃から始まった。

 リースリットの剣がザムダの胸元で拳刃に弾かれる。だがその反動を利用するように彼女は身を翻し、更なる斬撃を立て続けに叩き込んだ。
「チッ」
 防いだか。だが舌打ちし両足で大地を踏みしめるザムダの腕には無数の刀傷が刻まれ、その構えが僅かに崩れる。
「――捉えました」
 一気に懐へ飛び込んだリースリットが緋炎の力を解放し――爆風。赤く舞う血飛沫がちりちりと焦げる臭いがした。背を壁に叩きつけられたザムダが悪鬼の形相で彼女を睨む。
 しかしイレギュラーズ達の猛攻は止まらない。
 彼等の後方から友軍とイレギュラーズ、矢と弾丸、そして攻性魔術の嵐が降り注ぎ。強烈な初撃が敵陣を飲み込んでゆく。
 風に煽られ消え失せた土煙の中。現れたのは早くも倒れた弓兵の一人。そして敵を貫く悪鬼が如き機神<ガド・グヴァラ・ギグ>の姿。
 倒れた兵に息はある。敵を穿った拳は的確に急所を外していた。

 ここまで僅か二十秒余り。だがこれほどの事態であれば、すぐに中庭の主力部隊が気づく筈だが――ザムダが天を仰ぎ、ハロルドが不敵に笑う。
「囀りが聞こえない」
 冬を控えた野鳥達の歌声が。
「へえ。やるじゃねえの」
 仕掛けに気づかれた。
 ハロルドが放つ輝き。聖剣リーゼロット(アイデンティティ)。かつて聖女が一人の『勇者』の為、その命を捧げて完成させたという剣の力が、この戦場における音と臭いの全てを初めから完全に遮断していたのだ。

 戦略は動きつつあれど、目的は互いに固定されていた。全員の予想通り、弓兵の矢がイレギュラーズ達に降り注ぐ。
 幸いと言うべきか。襲うのはてんでバラバラな攻撃である。被った被害は小さなものだ。
 しかし連戦を想定する戦場で、細かな傷とて後の負担へと繋がってもおかしくはない。
(わたしは皆さんにできるだけ生きてもらおうと考えてます――)
 儚げな少女。孤高を胸に、されど仲間の背を守るように。『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が掲げた<ユゴニオのカルト>は清廉な水底の青を煌かせ。優しい力が仲間達の傷を癒して行く。

「ここは俺が抑える、行け」
 数と質が共に勝るイレギュラーズを相手に、弱兵は通用しない。交戦可能な戦力は己だけであると踏んだザムダが部下を走らせた。
「させないよ」
「うん!」
 竜胆と『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)が弓兵を斬り。
 響き渡る聖歌<太陽が燃える夜>と共に、吹きあがる炎が濁流のように敵陣へと押し寄せ、その身を焼き焦がし。
「えっと……行きます……!」
 異国の印を切る蛍。その静かな声音と共に、突如隆起した巨大な岩の塊が弓兵を強かに打ち付けた。
「逃がさんである」
 ポテト、ヴァレーリア、ココロ、蛍、そして立ち塞がる『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256) が追撃を仕掛けるが。
(まあ、そうでしょうね)
 ザムダの拳刃を受け流した、リースリットが戦場に視線を走らせる。
 このタイミングで敵の逃走は防げないとリースリットは読んでいた。とはいえ中央部隊との合流まで猶予はある筈だ。
「マヤコフスカヤ」
「ええ。分かっておりますわ」
 ハロルドの声にヴァレーリヤが応じる。彼女もまたファミリアーを放ち、ここ裏門と正門、中央の広大な庭園との情報を繋ぐ役割を担っていた。
 到着を見定めるハロルドからの次の合図で、ヴァレーリヤが正門チームへと情報を伝える。そんな作戦の念押しだ。

 戦場は未だイレギュラーズのコントロール下にあるが――あたかも錆びた歯車が軋むように、状況は動き出そうとしていた。
 大男が前に歩み出る。おそらく未だ傷は浅い。
「ははっ! 歯ごたえがねえと思ってた所だ」
 ザムダが見据えるハロルドは聖剣を正眼に構え。
「いいぜ、来な!」

 刃は再び激突する。


 一方。大きな館と庭園を挟んで数百メートルの先。正門を伺う影の中。

 友軍の自警団長ジャンは手の平に一匹のリスを乗せていた。
「……あっ、イデッ」
 リスが突如、手に持っていた大粒のクルミを頬に投げつけたのである。
「はあ、これは。あれですね」
「そっすね。ヴァレーリヤさんの合図っすね」
 笑いをこらえていた自警団員達の表情が俄に引き締まる。
 この合図は敷地中央部に陣取る敵将ミリアムの部隊に、裏門での戦闘が伝わったという状況を意味していた。

「ええがんばりますよ。こやっと、ほどほどに」
 ぴょんと立ち上がる『狐狸霧中』最上・C・狐耶(p3p004837)に合わせ、自警団の男達が腰を上げる。
「ええ、ほどほどにっす」
「まあ、責任重大ですけどね」
「あー」
 なんとかするしかない。騙しは狐の得手中の得手なのだ。

 ここまで正門側の敵に目だった動きはない。おそらく今の所、上手く行っているのだろう。
 ここからでは中央は分からないが、さて。そろそろ頃合いではある。
 今の所敵の数は少ないが。仮に中央の敵が正門に合流してくるとして。距離からして一分強か、どんなに良くても二分はあるまい。それからをどう耐え凌ぐべきかが課題となりそうだ。

「「来やがったな!」」
 二人同時に声を発した敵精鋭ファハンブールとジャムルード、その部下達に向けて、狐耶に率いられた自警団の男達が一斉に突撃を仕掛ける。
 口笛の音が鳴り響き、盗賊達が一斉に怒声を上げる。おそらく中央の敵将ミリアムに襲撃を伝えたのだろう。
 正門と中央。彼我の距離は見る限りおおよそ四百メートルはある。

「はいはい、鬼さんこちらの。こんこん、でいいですかね」
 足元を穿つ火線を避け、榊神楽を舞う狐へ敵が殺到するが、こちらの戦力は十七名。敵兵よりも数に勝る自警団員達に阻まれてしまった。
「狐耶さん、まじぱねぇっす!」
 鷲の両翼を睨み、背中合わせのジャンがお道化る。
「はあ、まあ。いいですから、変なフラグ立てたまま死なないでくださいね」
「え、えぇっ……」
 自警団長ジャン。この戦いを終えたらプロポーズを予定している男である。

 些末はさておき。早くも狐耶とジャンを中心に、軽口こそ叩けども状況はシビアだ。
 刃と弾丸、矢と槍の激突が始まっている。
 端から持久戦が狙いだ。正門の陽動作戦は元より中央からの援軍も想定している。故に初動は上手く運んでいるが、ここからが勝負所となるのであろう。

「どこ狙ってんすか、ね!」
「テメエ!」
 大振りの曲刀がジャンの盾を打ち。
「ジャムだ!」
 度重なる敵の攻撃の中、小さな幸運がもたらされる。
「お狐の加護ですかね」
「クソッ!」
 生じた隙を逃さず、狐耶がジャムルードに掌底を叩き込む。至近距離で炸裂する波動を受け、敵は喀血した。
「まあ。あれです、力こそパワーですし?」

 幾度かの激突の最中、狐耶は遠く向こう側から駆けてくる一団を視界に捉えた。
 その数は彼女の持つ情報より少なく見える。
 敵の大将ミリアムはこれを挟撃と読んだか、それとも陽動と読んだか。敵にとって二正面作戦は悪手ではあるのだが、さて――

 ――

 ――――

 遡ること僅か前。敷地の中央。
「お頭! 敵襲です!!」
 裏門から駆けてくる部下の声を受け、ミリアムは獅子尾剣を抜き放つ。グリフォンの意匠が陽光に輝いた。一族のシンボルである。
「裏手か」
 館の裏手から決死の形相で駆けてくる部下に、そう声を掛けた直後のことだ。
 甲高い口笛の音が正門から響いてきた。部下達の数名が正門へと走り出す。

 止める訳にもいかない状況に、敵将ミリアムは苛立ちを隠せなかった。
 裏門からの知らせと正門の襲撃開始は完全に一致している。あまりにタイミングが良い。
 ならば。
「裏口が本命か」
 仮にそちらが陽動であれば少なくともザムダは部下に伝えさせるのではなく、直ぐに撤退する筈だ。ならば裏門は少なくとも『彼自身が戦う他ない相手』だということ。そう読んだのである。
「ザムダに伝えろ。直ぐに引けと」
「へい! それがお頭、聖剣がぶわーってなって、ぶわーですぜ!」
 要領を得ない言葉に、ミリアムはついに舌打ちした。
「音が聞こえねえでやんす!」
 部下の言葉に頭痛がしそうだ。なんらかの魔道具か、あるいはギフトか。いずれにせよ強力な仕掛けが働いているに違いない。
「私は正門を叩く。さっさと行け!」
「へいっ!」

 歯がゆい状況だが可能性は二つある。挟撃か陽動かだ。
 仮に敵が陽動と本命に分散しているのであれば、各個撃破する他ない。
 正門側の陽動から攻略すれば、連戦は難しいが条件は敵とて同じこと。人質でも取れれば状況も動かせるだろう。
 そしてザムダであれば、本命の敵からも上手く撤退することが出来る筈だ。彼女は少なくともその程度には副官の能力を信頼していた。
 それに陽動ではなく挟撃なのだとしても、おそらく同じ作戦を取るほかない。どのみち選択肢はないのだ。
 しかし。部下の報告とは言え思わぬ足止めを食ったものだ。
 ミリアムは駆けだしながら、正門への援軍が二分されてしまった事にもう一度舌打ちした。


 こうして再び、舞台は裏門へと移る。

「さすがにやるじゃない、けど」
 巨体から繰り出される一撃を受け、肩で息する竜胆が、二振りを十字に構える。銀の閃光が巨体に走り、赤い霧が戦場を染める。

 あれから幾度目かの攻防が続いていた。イレギュラーズ達の集中砲火を受けてなお、ザムダの巨体は倒れない。
 狂った暴れ馬に引かれた馬車のように激突を繰り返す大男は、しかしその限界も露呈し始めていた。
「ありがとうございます」
「ああ。後ろはまかせろ」
 強烈な一撃を受け血を流すリースリットを、ポテトの魔術が暖かく包む。
 ザムダの一撃は重いが、精鋭揃いのイレギュラーズ、そして数を後押しする自警団員達の敵ではない。
「そろそろ足元がやばいんじゃないのか?」
 そんな声に、ザムダは唇を真一文字に結んだ。目は血走り、額に太い血管が浮いている。
 ハロルドが、ココロが、我那覇が。立て続けに放つ技に、敵は擦り切れ、早くも満身創痍の体となっていた。

「どっせえーーい!!!」
 気合い一発。ヴァレーリヤの燃え盛る戦棍がザムダの胸を強かに打ち付け。
 片目を閉じ、よろめくザムダの前に立つのは、正に機神。
 出し惜しみが通じる相手ではないが、ここで殺しては元も子もない。だが――凱は刹那の思案を巡らせる。もう一撃の猶予はあるはずだ。
「これで……終わりだ……」
 半壊の黒鎧。廃滅の偽神。凱が放つ憎悪の爪牙がザムダの腕、その先の拳刃を砕いて。そのまま隆々たる巨体を弾き飛ばした。

 ――

 ――だが。

 再び館を挟んだ対面。
「こりゃきっついっすわ」
 防戦しながらも敵を圧倒していた正面組に、ほころびが見え始めていた。
 遅れて参戦した敵の本隊により数の優位性は崩れている。そして更に遅れて加わった敵将ミリアム等の苛烈な攻撃を前に、自警団員達は大きな打撃を受けていた。

 裏門が攻略された報は、表門チームにも伝わっている。
 仲間は捉えたザムダを連れて急ぎ到着するだろう。それまで保つか、保たないか。正門側の状況は今まさに正念場と言えた。
 裏門チームは完勝であったとはいえ、一撃が重いザムダから受けた傷、そして短期決戦を目指して放ち続けた大技による疲労を埋め合わせる必要があった。
 蛍、ポテト、我那覇、ヴァレーリヤ、リースリットといった面々は各々自身、あるいは仲間に対して癒しの術を行使しなければならない。

 そうしなければ万全な状態とはならず、最悪の場合には敵本体との交渉に支障をきたす。イレギュラーズ達はそう予測していた。
 次の戦場へ急行すること。捉えたザムダを連れてゆくこと。傷を癒す事。全てを効率よく行ったとしても、裏門から館を挟み広大な中央庭園、そして中央庭園から正門まで。かなりの距離がある以上時間のロス自体は生じる。
「はあ、潮時ってやつですか」
 のんびりとした声音で呟いた狐耶ではあったが、その表情はどこか硬いものがある。

「狐耶さん、ここは俺が……せめてあんただけでも!」
「これ以上変なフラグを立てないほうが良いのでは? 名推理ですが。多分」
 そうした中で自警団員は数名が倒れ、ジャンもかなりの傷を負っている。狐耶自身も踏みとどまるため、可能性の箱をこじ開けていた。

 撤退の策はある。あるのだが。

「そこまでですわ!」
 ヴァレーリアの高らかな声が戦場に響く。
 吐息と、舌打ちと。
 勝気な瞳を輝かせ真っ直ぐに指さす『祈る暴走特急』に、友軍はどれだけ勇気付けられた事であろうか。
「良かった……」
 リースリットが呟く。倒れた者は居るが、息はあるようだ。友軍の自警団を無駄死にさせたくはなかった。

「ははっ……」
 誰かが笑う。そんな声音は安堵を孕み――


 ここまで。イレギュラーズ達の作戦は、精度の良い高度な物だと言えるが、同時に全てが読み切れていた訳でもなかった。
 闘争には往々にして『戦場の霧』が付きまとう。
 常に完全な状況が把握出来る程の情報が揃うことこそ稀なのである。
 そして戦場の地形、状況、敵味方の行動を完全かつリアルタイムに把握することは、現実的には不可能に近い。
 そうした中でイレギュラーズ達は、ハロルドの結界による情報遮断。そして同ハロルドとヴァレーリヤを中継ポイントとした情報の伝達を絶妙なタイミングでやり遂げた。
 これが彼我の情報力を隔てる極めて重要なファクターとなったに違いない。故に敵は合流が遅れたのであろう。

 そんなことはさておき。
 仮に、敵が裏門の襲撃に気付くタイミングが速すぎれば、おそらくその時点で作戦はこうも上手くいかなかった筈だ。持久戦に持ち込まれ、裏門に合流されてしまう可能性があるからだ。
 勝てはするだろうが、戦力が削られれば本命(デモニア)との戦闘に支障をきたす。
 また仮に遅すぎればおそらく正門側の味方戦力は持たなかったであろう。
 そして狐耶達の奮闘もあり、この作戦は成立したのだ。
 作戦そのものの高い精度に加え、イレギュラーズ達が意思を統一し、覚悟を決め、堅実に足並みを揃えたことで結果を勝ち得たと言えるだろう。

 かくして作戦は次のフェーズへと移行する。
「くっ、殺せ……」
 むくつけき大男の台詞に苦笑する暇もなく、交渉は始まった。
 強烈な威圧感を放ちながら、しかしゆっくりと凱が歩き、立ち止まる。
 敵もまた同様。互いに交戦開始を見据えていた。まさに一触即発といった空気である。

「人質が通用するとでも?」
 囚われのザムダに目もくれず、ミリアムが言い放つ。
 じりじりとした時間が経過する中で、蛍が細くゆっくりと息を吸い込んだ。この恐れを決して敵に感づかれまいとする彼女の決意は、仲間達だけが知っている。
 リースリットは素早く正門側の仲間達の様子を伺っていた。理知的に判断するのであれば、敵に勝機はないと言えるはずだ。

「どうかこの場は退いて頂けませんこと?」
 静寂を断ち切ったのはヴァレーリヤであった。
「……ほう」
 ミリアムの答えはそっけないが、ヴァレーリアは言葉を続ける。
「私達の目的は、あくまで魔種の討伐」
 目的を伝えた。
「貴方達を殲滅する事もできるけれど――」
 そう言ってのける。
「――魔種との戦闘に備えて戦力の損耗を抑えたいと思っていますの」
 そんな真正面からの言葉は、正直で誠実なものだ。
 ミリアムが自身の頬に手を当てる。
「殲滅と来たか。だがその戦いで。私達はお前達をいくらかでも殺す事が出来るだろう」
 それを目的としてもよいのだと、ミリアムは伝えている。
「それは我等が主たるキング・スコルピオの意に叶うものだ。そしてあの――忌々しいデモニアもな」
 目的意識は強そうに思えるが。ともあれ魔種の直接的な指揮影響下にある訳でもなさそうだ。

「わたしは――」
 深い海の底に揺蕩う、静かな流れのように。
「貴方達の気持ちが理解できない」
 けれどはっきりとココロが伝える。
 ここに居ても魔種の思うつぼだ。仮にこのまま味方をしても絶対に敵となる。最悪の場合は――原罪の呼び声に囚われる、と。
 そんなココロの正論は覆す事の出来ない真理を突いている。ミリアムが押し黙った。思案しているのだろう。

「魔種を打倒しうる可能性と、仲間の命。貴方達にとって大事な物はどっち?」
 更に。竜胆が問う。
「命が続く限り可能性は尽きる事は無いと思うのだけれど、私は」
 それはクライアントからの情報を元に、彼女なりに導き出した答えだ。
「知ったような口を」
 あざけって見せるミリアムではあったが、痛い所を突かれたのだろう。再びそのまま押し黙ってしまった。
 だがそれを交渉を得手とするヴァレーリアは見逃さない。今ここで、強がりが見えたのだ。それは敵のロジックに綻びが生じたことを意味する。
「この要求を飲んでくれるなら、魔種を倒した後、人質を解放致しますわ」
 だからココロと竜胆に続いて、再びヴァレーリヤが言葉を紡ぐ。
「信用出来ないかも知れないけれど、極力生かして捕えている事を誠意の証と見て欲しいの」
 イレギュラーズ達はさらに問う。
 敵は既に傷つき、イレギュラーズはほぼ万全な状態で戦力を残している。より正確には、傷さえ言えれば疲弊した正門チームとて十分に戦える状態だ。
「ならば面目は立つ筈――」
 こうした彼我の戦力差を理解した上で。
「つまらぬ意地で家族を死なせるか」
 凛と貴族の声音で、リースリットが言葉の刃を叩きつけた。
「理解なさい」
 刹那の静けさ。

「言いたいことは分かった」
 飲みづらい要求なのだろう。
「だったら。イーグルハートの為に他の戦いをした方が良いんじゃない」
 静かに。儚げに。しかし有無を言わせぬココロの口調に――
「要求を飲もう」
 ついにミリアムが折れた。
「約束は守りますわ、神に誓って」
 聖職者たるある種の人徳か。それとも技術(スキル)か。ともあれ話を結んだヴァレーリアにミリアムは頷き。
「退くぞ」
「い、いいんですかい、お頭」
「構わん。イレギュラーズ。ザムダを、そこの木偶の坊を放せ」
 声音こそ威圧的だが、鋭かった視線には刃こぼれが見て取れる。

 賊がザムダの口に赤い実を含ませる。荒い呼吸が落ち着いたものとなった。暗殺者を作るという天然のアルカロイドであろう。
「嬉しいものではなかろうが。武運は祈ろう」
 去り際にミリアムが宣言する。
「我らが祖先に。そしてお前(ヴァレーリア)達の神に」
 我等。
「イーグルハートの名にかけて」
 ミリアムが片方だけの瞳を閉じて祈る。

 かくして賊共は去った。もしも次があるのなら、その時に交わすものは言葉でなく剣となるのだろう。
「まず一つ終わったな。みんな大丈夫か?」
 ポテトがその無尽蔵とも思える魔力を仲間達に賦活する。
「ねえちゃんも大丈夫か?」
「ああ、私は大丈夫だ」
 そう言って彼女は、自警団のメンバーに改めて次の役割を伝える。

 ともあれこうして、長い初戦は幕を下ろしたのであった。


 蛍が息を飲む。
「開きました……」
 彼女の言葉通り。ゆっくりと軋みを上げて、館の門が開いたのである。

 ようこそ。と言ったか。
 くぐもった耳障りな声が館の奥で反響している。
「罠はないでしょう」
 そう言って歩き出すリースリットは、おそらくこの館の主を知っていた。どうしようもなく幻想らしい貴族だが、気位は高い。

 広く長い廊下。権勢を誇示するように並ぶ絵画や甲冑を、点在するランプの炎が照らしている。
 大広間へ続く扉は、やはり開いていた。

「マスフォール卿」
 真の目的(ほんめい)へ向けて。館へ踏み入るリースリットが呼びかける。
「どこかで会ったかな。紅玉の姫君。後ろのそちらは――」
 アルテナの表情が強張った。
「それに、その面影」
 愉快げに口元をゆがめる。ヴァレーリヤの髪、美しい緋色が微かに揺れた。
「いえ。気のせいでしょう」
 吐き気を催す滑り気を帯びた声を、けれどリースリットは糸杉のように受け流し。
「つれんな。我が側室に迎えても良いのだが」
 男が嗤う。
「ああ。美しい」
 次に見つめる先はヴァレーリヤ。その祝福を纏い新緑に輝く気高い瞳だ。
 男の視線は這うように。否、嘗め回すようにイレギュラーズ達へと注がれている。
「ああ。それから……」
 眠たげな視線が虚空を揺蕩う、狐耶のいたずらな瞳を見据える
「なるほど」

 暖かな大地の恵みを湛える、ポテトの優しい瞳を。
 深い海のような永遠を彷徨う、ココロの儚げな瞳を。
 涼やかな眼差しの奥に、決意が燃え上がるリースリットの瞳を。
 好奇に満ちた竜胆を彩る少女に、潜む剣鬼の瞳を。
 そして光と闇を静謐に溶かす、蛍のいたいけな瞳を。

「喜ばしい日だと思わんかね」
 そう述べるでっぷりとした男は、広間の最奥、豪奢な椅子に座している。かのサーカスの団長を、今少しつるつるとさせたような風体だろうか。
「はて」
 それは誰にとってとなろうか。
「イレギュラーズ。貴様等がここへ来た理由は問うまい」
 怒気を押し殺し鷹揚さを見せようとする、そんな声に聞こえる。根は小心者なのであろう。

「幻想貴族の務め、果たさせていただきます」
 リースリットが宣言する。
「ハーモニア風情が高貴を騙るか!」
 対する突然の激昂。
 だが臆することなく男を見据えるリースリットは、やり遂げるつもりなのだろう。大逆への誅罰か。否、神に愛されたる幻想貴族が、真に果たすべきであろう責務(ノブレスオブリージュ)を。
「美味そうな――目だ」
 そう述べた男はぶるぶると脂肪を揺らしながら、さも大儀そうに立ち上がった。

 生ぬるい風に壁の灯が揺れ。眼前のトレイリアスを囲むように。半径二十メートルはあろうかという魔法陣が顕現し、怪しい光を放ち始める。
 その中心に立つ男は――滑らかに光る一本の角を生やした、黒檀のような肌の魔人と化していた。

「分かりやすいってのは、悪かないぜ」
 聖剣を抜き放つハロルドの言葉通り、あの魔法陣が狂気を生み出すのだろう。
 駆けだすイレギュラーズ達へ、放たれた冷気が襲うが。
「引くわけにはいかぬである」
 我那覇が大地を踏みしめる。
「もう保険はありませんが。まあ、ええ。なんとかしましょう」
 狐耶が舞う榊神楽が、イレギュラーズ達に踏み込む力を与える。

 両の拳を打ち鳴らし、黒衣の男は再び機鎧を身に纏う。
 襲い来る冷気の嵐に、甲冑象がけたたましい音で転げ――だが機神に走破出来ぬ道などありはしない。
 ひしゃげた鉄兜を踏みしだき、跳ねた剣が分厚い絨毯を一文字に切り裂く。
「……何であろうと、叩き潰す、だけだ」
 凱が腕をひき絞り、穿孔の螺旋がトレイリアスの胸に吸い込まれた。
 黒い粘液が迸り、デモニアが絶叫をあげる。

「あなたの色は迷いなく、ただの一つ」
 壁を離れて転げる灯が、前に立つココロの影を引き延ばし。

 ――要らない――

 座の背面を覆う巨大なココロの影。その刃がデモニアの背を切り裂いた。
 イレギュラーズ達の猛攻が続く。
 有効打を増やすためには、あの狂気の円に踏み込まねばならない。
 並の人であれば、いやイレギュラーズであっても抗いきれない力である筈だが――
「な、貴様っ!?」
 蝕む邪悪をものともせずに斬り捨て、リースリットはうろたえるデモニアへ至近の斬炎を次々と叩き込んだ。

 そして。
 あの日、死力の聖剣(フィアンセ)が幕引きした慟哭する悪夢(ジャコビニ)。
 その背を押したポテトは強かった。
 だが今の彼女は――
「負けるわけにはいかないからな」
 魔杖から放たれる光が強固な鎖となり、トレイリアスの身体を締め付ける。
「ガッ、ア!」
 ――更に強い。

 光の鎖に縛られて尚トレイリアスは吠え、その腕を振るう。
「その程度?」
 しかし満足に身動きがとれぬデモニアの爪を竜胆は刀で弾き、二刀を揃えて腰を落とした。
「一刀両断!」
 爪弾かれがら空きになった胴へ。
「何てね?」
 遅れて走る光の後、黒血が舞う。

「来な! アンタの相手はこの俺だ!」
「黙れ、『聖剣使い』の小僧めが!」
 ハロルドの声に、デモニアがいきり立つ。
「ご存じなようで何よりだぜ!」
 幻想に武名轟くハロルドへ、言うに事欠き小僧とは。だが――まさか敵が彼の事情を鑑みた訳ではなかろうが――それで結構だ。
 幾度かの攻防の後。光の鎖を打ち払ったデモニアが咆哮する。
 邪気を纏った角がハロルドの身体、その中心へ迫る。
「はははっ!」
 だが。振るう聖剣の輝きがその一撃を僅かに反らした。
「面白れぇ!」
 肩から噴き出す血飛沫に――しかし笑ってやる。
「それでこそ倒しがいがあるってもんだぜ!」
「グ。ウ、ア、アァァ!」
 ハロルドが纏う光がデモニアの身を焼き、
 守護の輝きを刀身に込め、ハロルドが打ち下ろす。
 白銀に輝く斬撃がデモニアの頭部を駆け抜け、その左目を、肩を、胸部を切り裂いた。
 デモニアの絶叫。
 聖剣の光、そしてココロの聖なる力を纏ったハロルドを止められる者など居はしない。


「皆殺しとしてくれる!」
 未だ戦いは続いていた。
 荒れ狂う氷炎の嵐。突進と共に繰り出される強烈な角撃に倒れる。
 苛烈な敵の攻撃にイレギュラーズ達は膝をつきかけ、パンドラを燃やす。
 我那覇、そして狐耶はもう戦えまい。
 それでもアルテナや一部の自警団達も含め、イレギュラーズ達は奮闘していた。

 幾度か隊列を崩され、幾人かが狂気の渦に蝕まれ、恍惚の内に自傷した最悪がなかった訳でもない。
 そうした中で、敵の得手である状態異常はいまいち効果を発揮出来ていないようだ。
 それは技能や位置取り等、イレギュラーズ等の十分な対策に寄るのだろう。ならば戦闘に残るファクターは、ただ命の削り合いでしかなかった。

「恐れるなかれ。主は汝らを守り給わん」
 ヴァレーリヤの清廉な祈りに応え、凱が最後の力を振り絞る。唸りを上げた螺旋が再びデモニアを貫いた。
 無限に満ちる神の愛、その癒しの力がイレギュラーズ達の闘志を支えている。

「全員で生きて帰る」
 疲労が滲む足を叱咤するようにポテトが杖を握りしめ、地に打ち付けた。あふれ出す暖かな光が、血を流すリースリットを優しく包んだ。
 己自身を媒体に戦闘継続力を供与し続ける彼女は、この依頼における兵站の概念そのものだ。
 いくら傷つこうとも。既に吐息のような声音しか残されていなくても。
「ここで……倒れるわけには行かないんだ」
 彼女の瞳の輝きは色あせる事なく。
 イレギュラーズ達がここまで戦い続けていることは、そんな功労の成果であろう。

「とどめだ。聖剣使い!」
 肩で息するハロルドに迫る角が。
「――ッ!」
 二刀に弾かれ――しかし勢い衰えぬまま竜胆を貫いた。
「捕まえたよ」
 凄絶な笑みを浮かべ、剣鬼は。そしてハロルドはその刃を渾身の力で突き出した。
 鋭い三本の杭が魔種の背に生える。

 デモニアの、間近から嘗め回すような血走った目を睨み返し。
「後はお願い、ね」
 剣を引き抜き竜胆が膝をつく。
 渾身の力で聖剣を捻り、ハロルドが吠えた。聖なる守護の輝きを再び魔を打ち滅ぼす力へと変え、振りぬく。
 血飛沫がハロルドの闘衣を黒く染めた。
 次のチャンスはおそらく、もうない。

 胸を締め付ける恐怖をねじ伏せ、蛍が眼前の宙をさす。
 華奢な指先が光の印を描き――顕現した巨大な岩槌は、傾いだデモニアの背を打ち。

「終わらせましょう」
「ええ」
 リースリットが放つ斬炎の乱舞に応え、ココロが駆ける。
「オ、オオオ、アア、アァァァァ!!!」
 咆哮し、爪を振り上げるデモニアの胸元へ、少女は一枚の小さな板を押し当てた。
 刻まれた文字。

 ――私達は決してあきらめない――

 銀板から吹きあがる炎がデモニアの身体を這い、一気に燃え上がった。
 デモニアの腕が、角が、顔が、胸が、そして足まで。身体の全てが白く崩れてゆく。

「灰は灰に……ですわね」
 赤髪の司祭が呟いて。

 この日二度目となる戦いは終わりを告げた。

成否

成功

MVP

ハロルド(p3p004465)
聖断刃

状態異常

石動 グヴァラ 凱(p3p001051) [重傷]
九鬼 我那覇(p3p001256) [重傷]
三面六臂
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984) [重傷]
終焉語り
九重 竜胆(p3p002735) [重傷]
一刀繚乱
ハロルド(p3p004465) [重傷]
聖断刃
最上・C・狐耶(p3p004837) [重傷]
狐狸霧中

あとがき

 しんどい依頼を大変お疲れ様でした。
 友軍も全員生還出来ました。
 長いオープニングに続き、長いリプレイとなりましたが、お楽しみ頂ければ幸いです。

 MVPは状況構築への貢献が最も高かったであろう方へ。

 それではまたのご参加をお待ちしております。pipiでした。

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