シナリオ詳細
ゴリラ
オープニング
●自由を
それは逃げ出していた。
「どこへ逃げた!! 捕まえろッ――!!」
「くそ! まさか爪楊枝で鍵をピッキングするなんて……! どういう器用さだよ!」
それは跳躍する。施設の中をひたすらに、駆け抜けるのだ。
ここは私の居場所ではない。ああ、そうだ。帰るのだ。あの地へ。故郷へ。
邪魔をする者は――
「いたぞ、あそこだ! 殺すなよ、必ず捕獲するように――」
白衣らしき物を来た男が『それ』の前に立ち塞がった。が、次の瞬間には、ひっという短い悲鳴を漏らす。
なぜならばそれは振りかぶっていたからだ。拳を。跳躍の勢いで空を跳びながら、
邪魔をする者は――誰であろうと、粉砕する。
重力の流れに沿って。『それ』は男の右頬を撃ち抜いた。
凄まじい衝撃に男の身体は後方へと吹き飛ぶ。背中から壁にぶつかり、全身に衝撃を行き渡らせて――ようやく停止した。
さすれば2テンポ置いて悲鳴が鳴り響く。痛みが伝わってきたのか。気絶出来れば幸福だったろうに。
「ひ、ひぃ! 抵抗してきた!!」
「当たり前だろ!! 捕獲用の道具先に持ってこい!! なけりゃ武器でもいい応戦だ――!」
幾体掛かってこようと関係ない。全て捻り潰す。
強い思いを胸に『それ』は構える。右の拳を顎の前に。脇を締め、ファイティングポーズの構え。闘争の意思を示して――『奴』は。『それ』は、爆発するかの如くの勢いで、地を蹴り前進する。
奴とは。全身に黒き体毛を携えた、分類は霊長目ヒト科ゴリラ属の特徴を持つ――というか――
つまりゴリラの事なんだよね。あっ黄金の左ストレートが男達を吹っ飛ばした。
●オランウータン「なんやワイの種は関係ないぞ」
「お、お願いします! 奴を! LILAを捕獲してください!!」
「……え、え? リラ? ゴリラじゃなくて?」
違います! LILAです!! と叫ぶは右頬に大きなガーゼを張り付けた男だ。あと全身に包帯も巻いてる。
なんなんだその負傷は……というギルドに集まった面々はドン引きしているが、そのままでは話が進まない。意を決してユリーカ・ユリカ(p3n00002)が口火を切る。LILAって何?
「奴は……LILAは、そう。一般的に言うゴリラの特徴を持っています。しかし奴は! ゴリラの姿を借りた、その実ゴリラではない全く別種の生物である可能性があるゴリラなのです!!」
それはつまりゴリラなのでは?
「もしかしたら奴は……我々の想像を遥かに超えた危険な生物なのかもしれない……我々はLILAを森林の中で発見し、捕獲に成功して以降様々な観察を続けてきました。しかし、つい先日奴は脱走してしまったのです!」
そこまで言って男は、机の上に勢いよく地図を広げる。
それは彼が言うにはLILAの逃走経路予想図らしく。
「皆さんにはLILAを捕獲して頂きたい! 傷が与えられるのは仕方ありませんが、絶対に殺すのだけは止めてください!! 我々はLILAの生態とその能力を調べ尽くせてはいないのですから!」
地図上を指差す。そこは、地図がしっかりと正しいのならば森の中か?
奴は間違いなくここに来ると男は言う。LILAの故郷らしく、逃走ルート的にも最終目的地がここになりそうなのだと、計算が出来ているそうだ。しかし森の中か。ゴリラである向こうにとってはホームグラウンドと言える場所かもしれない……舐めては掛らない方がよさそうだ。
「はぁ。大体お話は分かりましたが……ところで貴方達は一体どういう組織なのですか?」
「申し遅れました! 私、貴重生物保護団体『クロス』のマゼッタと申します!」
お見知りおきを! と彼は同時に名刺をユーリカに。
なんというか、こう。本質的には悪い人間ではなさそうだが……なんだか、どこかぶっ飛んでいる印象を与える人物だ。正直あんまり近付きたくない。あとこの組織ホントにクリーン?
様々な思惑が渦巻きつつも――依頼は依頼だ。さて、出発と行こう。
- ゴリラ完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年02月13日 21時00分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●ウッホッホ――!!
バナナ。
それはいわゆる南国の食べ物であり、栄養価の高い果物である。『とある生物』がよく食べているイメージがある様に、特有の匂いが動物達を惹き付ける要因ともなっている。さて、ではなぜそんな話をしたかと言うと。
「森の声が――聞こえてきそうです」
バナナを食す『ジュリエット』江野 樹里(p3p000692)が森の中にいたからだ。
LILAをおびき寄せる為に用意したBANANA。その一本を試しにと食べてみれば、おや美味しい。噛み締めながら味を堪能するため目を閉じれば――木々のざわめきが耳の中へと入り込んでくる。LILAはもうすぐ来るだろうか。
「ならば急がなければいけませんね。神を相手にする舞台を、早急に……!」
故にだ。『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)は作業を急ぐ。え、何をしているかって? 辛うじて見つけた木々の中のスペースに蔦を張り巡らせているのである。四隅に直線状に。つまり上から見ると四角になる様に。
お分かり頂けただろうか……そう。これは――リングである!
「っし。こっちは固定出来たぞ! あとは向こうの方を……おーい誰か手伝ってくれ!」
トンテンカーン。『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は力仕事を率先してリング作成に取り掛かっている。夜ではないが、薄暗い故にカンテラも用意して作業をしやすいように万全だ。
これにLILAが引っかかるかは分からない。しかし無為ではなかろうと作業を急ぐ。後は――LILAの奇襲を防ぐ為に上部の枝に切り込みを入れたい所だが。
「ああ、そちらは私が取り掛かろう。そっちはまずリングに集中すると良い」
声の主は『霧の主』ミストリア(p3p004410)である。木に登り、枝に切り込みを入れ、天からの奇襲をさせんとすべく行動。どちらの作業が早くに終わるだろうか。先に終わればリング作成手伝いに取り掛かるとしよう。
さりとて作業自体は予想外のトラブルもなく中々順調。これならば問題はなさそうか。
「よし。ならば予定通り私達は先に隠れておくとしよう」
「うん、そうだね――LILAがいつ来るともしれない」
その様子を見て『千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)に『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は先んじて行動し、周囲の潜伏先を探し出す。汰磨羈は葉っぱや蔦を絡ませた簡易ギリスーツを身に纏い周囲へ溶け込む。保護色。保護色ぅ。
ルチアーノの方は逆に木の上だ。ギフトの夜目を使用すれば、視界の薄暗さは解消され他の者よりもある程度は見えている。隠れ潜み、LILAの到着をそこで待てば。
トンテンカーン。リングも無事に完成と相成る。
さすれば最後の準備だ。潜伏組とは別。LILAに見つかりやすいよう囮となるべくの班はリングへと。
「はてさて……力が強い者ならば頭で上回るしかあるまいな」
そして『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)も囮側だ。彼は己のギフトで剣へと擬態すればゴリョウ近くへと獲物を装い潜伏。奴を待ち受ける。リング上にいるのはシグ、ゴリョウ、樹里、ミストリアだ。
ゴリョウや樹里は持ってきたバナナを食し、ミストリアはあえて武装を外してリング上で寝たフリを行う。いずれもLILAの油断を誘うための行動だ。睡眠をとっているだけの無防備な少女と見られれば幸いで。バナナはバナナによるバナナの為のバナーナ。
と、その時。
「――来ました」
小声で、樹里がリング上の皆へと伝える。
感じた。森のざわめきが奴の襲来を告げている。潜伏組も見た。リングに近付いている――
一体の、ゴリラを。
「知り合いにも一人。あの様な方がいますが。彼のような世界特有の種族ではなかったのでせうね」
地に伏せながら『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は誰にも聞こえぬ様に呟いた。紳士な性格の知り合いによく似ているが――さてはて。
目の前の彼はどうなのだろうかと、思考をしながら。
●ウホホ?
彼は見た。リングがあるのを。
さっぱり分からない。なぜこんな物があるのだ。マジで分からない。こわいよぉ。
「よぉ来たのか。待ってたぜ」
さっぱり分からないが――目の前のオークらしき者が話しかけてきた事は分かった。
ゴリョウだ。彼はリングのド真ん中に、持ってきていたバナナを全て叩き置けば、指を指す。次いで己を指差す。そして右の拳を左の掌に叩きつければ。
「分かるか? ――勝ったらアンタの物だ」
欲しいか? 欲しけりゃくれてやる。俺に勝てたらな! と宣戦布告だ。
そしてその動作に察する。ああこれは追手かと。どうもあの連中とは些か雰囲気が違うようだが……先回りされていたのか。これは迂闊だった。しかし細かい理屈はともかく目の前のバナナ。バァナーナは魅力的である。つい登ってしまってもいいのではないかと思ったその時。
おや。足元にバナナが。
「リラさんリラさん――」
樹里が話しかける。お目目パチパチ。足元へ放ったのは彼女か。
言葉はいらない。代わりにいるのはアイコンタクトとバナナとバナナ。バナナを持って近付いて。交信するかの如くお目目パチパチパチパチ。
パチパチ。パチパチチチ? パチチチチチ――
もはや細かい理屈もいらなかった。
「さー熱い抱擁が今交わされ、始まりました無制限一本勝負! 実況はわたくしエリザベス、解説は仙狸厄狩 汰磨羈様でお送り致します。よろしくお願いします仙狸厄狩様!」
「うむ解説の仙狸厄狩 汰磨羈だ。よろしく頼む」
LILAがリングへと上った、と同時。ゴングがカーンッ! と鳴り響けば、近くに隠れていたエリザベスと汰磨羈が飛び出しリングの傍へ、布陣する。ちなみにゴングはエリザベス所有物である。実に素晴らしい所有物だ心が躍るぜッ! ヒュウ!
「しかし見えるか。奴のキレにキレた筋肉――なるほどコイツは中々にヤるな。油断は出来ないぞ」
「おや! よもや、仙狸厄狩様は筋肉に一家言がおありで!?」
「ああ。さっぱり分からないがヤツはヤる。間違いなくヤる。ヤる奴だよ奴は!」
わぉアメージング! と大熱狂だ。スーパー実況とスーパー解説が混ざり合ってもはやここはなんぞやの大会会場の雰囲気となっております。さー試合開始まで目前ですとアナウンスが流れそうで――あれ? ここどこだっけ?
「細かい事は良し。しかし、くくっ。まさか本当にリングに、な」
真正面から来るとは、とミストリアは言う。寝たフリをしながら横目に見ていた感じではLILAは周囲の枝が折れている事に気付いている様子だった。視線が幾度か上に向いていた気がする。
逃げ切れぬ上に幾らかの準備もされているのならばいっその事正面から、と踏んだのか。準備した甲斐はあったというものだ。そんな訳で、ならばこれ以上睡眠のフリは無用。ミストリアは外していた武具を瞬時に再装備すればLILAを逃さんとすべく包囲の一角を担う。
囲むのだ。総出で。逃がさねえぜ! 熱い試合を観客は望んでいる!
「よっし! それなら、ねえLILAさん――勝負しようよ!」
僕とさ! と声がしたのはLILAの斜め後方側。ルチアーノである。
枝が折れている所は避け、リングのコーナー代わりとなっている幹を蹴り急速接近。
踵を落とす。LILAの脳天に、さぁ如何するとばかりに先手を仕掛ければ。
「――!」
直撃寸前。黒き拳がルチアーノの眼前に迫っていた。
反転、即座に拳を突き出したか。アッパーとは少し違う。真っすぐと突き出された、踵落としと交差するその一撃はルチアーノの頬を抉り取るかのように掠めて――されど。
その返しの一撃は声をかけてから攻撃した彼にとっては想定内の事。
「あぁっと!!? ルチアーノ様の踵が――ッ!」
エリザベスは見た。ルチノーノの踵がLILAの頭部に直撃しているのを。
存在を知らせた上で攻撃したのだ。攻撃が来るのは分かっていた、故に。拳は見切って直撃を避けつつ、相手には真上からの一撃を突き落とした。されば二撃目が来る前に、足を捻ってLILAの頭部を地として跳躍。
距離を取る。己の暗殺術が、この動物を相手にどこまで通じるのか試す為に。
「ふふふ……流石GODとまで呼ばれしLILA。恐るべきハァードパンチャーなのです」
それと入れ替わるかのように、ヘイゼルもまた潜伏地点から姿を現す。頭の衝撃を和らげる為に踵を落とされた場所をさすっているLILAを見据えて、一礼。そして。
「しかしこの構えはどうでせうか? そのファイティングスタイルでは慣れていないでしょう」
ヘイゼルは全体的にしゃがみつつも――足だけは前に出した構えを取る。虎なる構え、タイガー。
拳闘は基本的にあまりにも身長が違い過ぎる相手との戦いを想定していない。また、それがスポーツの類であるのならばそもそも下半身への攻撃が禁止されている場合も存在している。狙えばいいのにね。生命の神秘的な所。
「ほう――よく知っているな。しかし君自身はその虎の構えに慣れているのか?」
「無問題なのです! マステディア百科事典の隅と隅を読んだ私の講座教室に隙はありません! ありがとう辞典執筆者さん! お支払いの口座はどちらでせうか!!」
本当に大丈夫だろうかと剣の状態になっているシグは思うが多分大丈夫だろうと判断して。
「では、こちらも行こうか。さぁ猪の者よ――」
声をゴリョウへ『――剣を執り給え』と言葉を紡ぐ。さればゴリョウも剣を、否。シグを片手にLILAへと相対すれば。
カーンッ! 試合開始のゴングが鳴り響いた。
●ウホホホホッ!!
「解説の仙狸厄狩様、仙狸厄狩様――!! 思ったのですけれど戦闘が始まったら前衛と後衛で実況解説って大分無理がありません事!? そこの所どうでしょうか仙狸厄狩様! あ、ちょっと言い辛い噛みそう!」
「エリザベス、エリザベス。安心しろ。今の所噛んで死んだ人間は数える程度しか知らない」
仙狸厄狩様、仙狸厄狩様――!? という声が響いているが汰磨羈は無視した。冗談を言える程度には会話は可能であるし、エリザベスなら大丈夫大丈夫。それよりもLILAの方だ。
「如何なる生物であろうと、ストレスが溜まれば乱暴にもなる。密閉空間にでもいたのなら尚更だ……案外、暴れて発散した後なら、こちらの話を聞いてくれるかもな?」
瞬間。拳が飛んでくる。盾を斜めに、受けるのではなくいなす形で衝撃を和らげ、LILAを逃さないべく立ち位置を変え続ける。暴れたいのならば暴れさせてやろう。時にはそのような発散方法も大切だ。
「っし! 汰磨羈はそっち抑えといてくれ! 俺はこっちから――行くぜッ!」
そしてゴリョウも往く。剣となったシグと共に、LILAへと接近し至近戦。振るう剣、振るう拳が襲い掛かれば、バックステップでLILAはダメージを受け流さんとする。が――その時、腕に絡まるモノがあった。
オーラの縄、シグの放ったマジックロープだ。
「ほう、流石に気付いたか。ま、こういう芸当も可能なのでな。侮ってはくれるなよ?」
その瞬間LILAは気付く。この剣は意思がある。あるいは剣に化けている何かだと。
シグも向こうが察した事に気付いたようだ。出来るのならば相手の攻撃に合わせて衝術を放ちたかったが、そのタイミングは中々難しい。行動を他者に合わせているのならば尚更に。自らの最適なタイミングと間合いが常にあるとは限らないからだ。
「樹里! 追撃、頼めるか!」
「任せてください……ゴリラえります……!」
「え!? 今なんて!?」
ゴリョウの声に反応した樹里が、術式を起動させる。遠距離にも届く魔法の矢だ。ゴングが鳴ると同時に使用していた血沸く技能がその威力を幾らか増大させていれば、LILAへと放つ。威嚇術でゴリラえるのはまだ早い。それは相手が弱ってからだと。
ともあれゴリョウは積極的に声を飛ばして皆と連携を取らろうとする。薄暗い森の中、少しでも連携のし辛さを緩和するために、だ。彼の才知としての連携力はあくまで彼自身が繋がっている者としか効果が無く、統制の技能も非戦なる技能であり緩和にも限度はあったが。
それでもその声は確かにLILAを追い詰めつつあった。
「如何に二足歩行が問題ないとはいえ、貴方の本質はナックルウォーキングでしょう?」
そして虎の構えを崩さぬヘイゼルは常にLILAにとって殴りにくい位置を陣取りながら言葉を紡ぐ。ナックルウォーキング。いわゆる腕を握り拳の状態にて四足状態での歩き方こそがLILAの本質であると。
「効くでせう? 効くでせう? こんな戦い、そう経験したことはないですか? え、何? 世紀の凡戦? 塩試合? ははははは! 勝てば良かろうなのですよ!」
私の名前を言ってみろ――! と絶好調である。握りしめた杖でLILAの頭部を執拗に狙い続ければ。
「やぁLILA。そろそろキツイだろう? ――こちらに来る気はないか」
ミストリアが言葉を放つ。拳を振るい、抵抗するLILAを遠目に。
「正確には投降、かな? 何。また同じ所へ戻して終わりなどとはしない。あの妙なクロスとかいう連中には、こちらからも待遇の改善要求を伝えておこう」
逃げ出さないように環境の改善をした方がいいのは明白だ。そもそもLILAが逃げ出した理由もその辺りにあるのでは、とミストリアは当たりを付けている。長射程の遠距離術式を発動させつつ、その言葉に嘘は含まれていない。
思えば八対一の環境下。これ以上の抵抗は無用か――そう思いもするのだが。
「――」
しかしこのリングが己の血を沸き立たたせる。闘争の場だ。ここは!
振るう拳に迷いはない。卓越した上半身の筋肉から繰り出される一撃は、前衛となっているゴリョウやヘイゼルらを捉えていて――その時。
LILAの首筋に、蹴りが叩き込まれた。
「ちょっと、サシでやってみたいなとは思ってたんだけども……中々難しいね」
ルチアーノだ。周囲に生えている木々を利用し、三角跳びから力を加えた回し蹴りを行ったのだ。LILAは首筋も太く、それでも倒しきるにはまだ至っていないが。
「それでも」
視線が動いた。LILAの右拳がルチアーノの胸部へと。今度は外さない。
衝撃音が鳴り響く――が。寸での所で間に合った腕の十字ガードが意識を手放さない。ならばもう一撃だと左の拳は既に構えられていて、
放たれた。
「それでも!」
膝の力を抜く。さすれば体が自然と地へ。左の大振りを潜る形で躱す。
だがそれだけでは終わらない。身体を反転。脚部に全力を込めて沈んでいた身体を押しとどめLILAの腕を握りしめれば。
「むっ! あの構えは――ッ!」
解説の汰磨羈さんが気付いた。あれは、投げ技の一種である――ジャッパーニズッ!
「一本背負いッ!」
叫ぶようにルチアーノの声が響いたと同時。LILAの体が浮く。
自らの力を利用され、そのまま吹き飛びコーナーに直撃して――
「今! 今でせう! 脳! 脳を揺らすのです!」
「シグ! ロープを頼むぜ!!」
「任せろ。準備は万端だッ」
その顎をヘイゼルが蹴り飛ばし。ゴリョウがシグと盾の装備を解除してLILAの身柄を抑えにかかり、剣の状態から人へと戻ったシグがロープで拘束すべく行動する。
「あ、駄目ですよ! 逃げ出そうとするのは許しません! GO! LILA!!」
それでも最後の抵抗として突破しようとしたLILAを、エリザベスが衝撃波で叩き飛ばす。再び抑え込まれる形となって、仕舞いには樹里がゆっくりと近寄ってから――
「が、がお――!」
ぺしっ、と叩いて制圧した。
●I'll be back
「倫理的――というか常識的に考えてだが。保護を謳うのならばこの自然環境と同程度は用意して然るべきなのではないかな?」
ついに引き渡しの時間がやってきた……のだがその前に。『クロス』の人員に対してミストリアは言葉を紡ぐ。先程LILAへと放った言葉は嘘ではないのだから。
「うむ。要は、ギブ&テイクを弁えろって話なのだが。彼の故郷で研究を続ける事は出来ないのか?」
「そうだよストレスの無いこの森でもいいんじゃない?」
汰磨羈やルチアーノもまた同様に。そもそもここで研究を続けることが出来ないのかと。
特に汰磨羈は人語を介する=交渉可能。保護団体ならLILAの事をもっと考えるべき。LILAが納得しうる環境や報酬を用意した方がいい。との三点を踏まえた上で納得させるべく行動する。出来なければまたいずれ同じ事は起こると。
「うむ……御尤もです。努力させて頂きま」
「……」
「必ずやり遂げます!」
努力します、という『クロス』の言葉を樹里のうるうるとした無言の瞳が言い返させた。余ったバナナを差し出しつつ、儚き花の角度で。バナナしますよ? と言わんばかりに。
「まぁ。あの連中も悪人ではねぇから勘弁してやってくれ、な? 悪気はなかったんだよ」
そしてゴリョウは縛りまくったLILAの隣に座って肩に手を置き。
「仮によ。森に観察地点造るなら手伝うぜ! そん時ゃ呼んでくれよ!」
今度は『クロス』の方へと手を振り、言葉を紡ぐ。しかし彼らもほとほとおかしな団体だ。もし全ての改善が果たされたとしても、また何かの理由でトラブルを起こすかもしれない……だから、ヘイゼルは言った。
「――どうぞ」
個人的名刺を差し出して。
「次も御贔屓に!」
満面の笑顔で。どうせまたやらかすやろ? と含みながら。
何はともあれ。彼らも同様に帰るとしよう。
LILAと違い故郷ではないが。ギルドへと――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
大変お待たせしました。『ゴリラ』これにて以上となります。
『クロス』は多分、きっと反省して次が無いように恐らく色々な対策を講じてくれることでしょう。
信じよう。
ご参加、ありがとうございました!
GMコメント
■依頼達成条件
LILA(リラ)を捕獲する。
■戦場
森の中。
薄暗い地であり、非常に視界は悪いです。連携も取り辛いかもしれません。
LILAはまだ戦場に到着していないようです。何らかの技能があれば罠の設置が出来る、かもしれません。
■LILA
ゴリラです。
LILA(リラ)とは研究チームが付けた名前です。四足歩行が基本ですが、二足歩行も特に問題ないようです。戦闘の際は基本的に二足歩行であり、ボクシングの構えを取ります。どっから知識を学んだかは不明です。
非常に優れた腕力と、瞬発性に優れた速度から繰り出される一撃は強力です。
また、研究チームにより以下の特徴が確認されています。
■特徴1:喋る事は無いが知能の高さは確認されているゴリラ。恐らく人語を理解しているゴリラ。
■特徴2:その正体はGOD・LILA(ゴッド・リラ)というかつて伝説とされた、ゴリラとは全く違う別の生物なのではないかと言われているただのゴリラ。
■特徴3:まごう事無きゴリラ。
■貴重生物保護団体『クロス』
なんかすっごい怪しげな団体ですが、特に大いなる陰謀も何もない普通の変人の集まりの組織なので生暖かい目で距離を取って見守ってあげてください。構うと喜んでしまうので餌を与えるのはお止め下さい。
■その他
みんなー戦闘だよー!
『捕獲』という事は【不殺】が無ければいけないのか? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな事はありません。体力が減った段階で取り押さえに掛かる。ロープなどで縛り付ける。などでも捕獲は成功します。
そこは安心してゴリラとゴリラしましょう。
では、よろしくお願いします!
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