PandoraPartyProject

シナリオ詳細

餓狼の贄

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●貪る餓狼
 幻想の辺境の奥地に存在するその集落は、人を寄せ付けない雰囲気を纏っていた。
 そして、その集落の更に奥に、その社はあった。
 集落に住まう者達が神と崇める、知恵ある狼。餓狼だ。
 餓狼達が社の中で、何かを貪るように食らいついている。それはよく見れば白い幼い肢体で――そう少女の身体に他ならない。
 少女は声一つ、涙一つ流さずに為すがままとなっていた。
 そこに、一際大きい餓狼が寄ってきて――崩れないバベルがあるように――言葉を発した。
「あれほど喚いていた娘が、もはや声も上げないか。
 ……ぐぎゃぎゃぎゃ、まあいい。
 お前のお勤めはもうじき終わる。
 その身体を縛る不死の呪いも解け、いよいよ本当の死への旅路となろうよ」
 大餓狼の言葉通り、少女の身体は喰われた側から元通りとなっていた。
 生ける餓狼の餌。無尽蔵に供給されるその餌を、餓狼達は実に五年間貪っていたのだ。
「悔しいか? 悲しいか?
 こんな辺鄙な集落に生まれ落ちたことを恨むがいい。
 俺達餓狼に支配された、この集落にな――」
 邪悪な笑みを零す大餓狼が、少女の腕に齧り付いて骨までしゃぶる。
「そうそう、そういえば一年間に集落から逃げ出したお前の兄は、とうとうむかえに来なかったなぁ。
 まあ逃げ出すときに相当痛めつけられたんだ。きっとどこかで野垂れ死んでるだろうよ」
 兄、その言葉に少女の身体がぴくりと揺れた。
 何も映していなかった瞳に光が差し込み――目を伏せた。
「ぐぎゃははは!
 さあ、残り一週間の命。最後までしゃぶり尽くしてやるから覚悟しなぁ!」
 貪り喰らう餓狼の群れ。
 少女は悔しさに唇を噛みながら、一筋の涙を零した。
(――助けて、お兄様――)
 その想いは、果たして届くのだろうか――


 ローレットに傷だらけの――片腕のない――男が依頼料を手に駆け込んできたのは先日のことだ。
「つまり、その辺境の集落では罪のない子供に不死の呪いを掛けて、餓狼とかいう魔物に生け贄として献上していた。そういうことなんだな」
「ええ、間違いないようよ。
 まあ呪いを掛けるのはその餓狼とかいう魔物のようだけど、村の大人達は餓狼の言いなりとなって、生まれた子供達を生け贄としていたようね」
 イレギュラーズの確認に、『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が頷いて答える。
 時代錯誤も甚だしいが、恐ろしいことをする人間達もいたものだ。
 ローレットに駆け込んできた男はその集落のやり方に賛成できず、なぶり殺される覚悟の上逃げ出して来たと言うことだ。
 傷を癒やしながら、金を稼ぎ、ついにローレットへと依頼を持ち込んだということになる。
「呪いは五年間の期間限定。少女の呪いももうすぐ切れる。それが切れたら生け贄を食い殺し、また次の生け贄を要求する。そうやってその集落は今までやってきたようね。
 よくもまあ、世間に気づかれずそんなことをやってこれたものと、呆れてしまうわね」
 そう言ってリリィは依頼書を提示する。
「オーダーは生け贄になっている少女を無事に確保すること。
 餓狼との戦闘はもちろんだけれど、少女のいる社へは村を通ることになるわ。
 行きに食いとめられるのは勿論、帰りも気をつける必要があるでしょう」
 餓狼を神と崇める連中だ。
 天義の信者達に近い雰囲気があるが、それ以上に狂信者と言って良いだろう。
「餓狼は群れで行動し、凶暴さも併せ持っているわ。
 貴方達も食い殺されないように、気をつけて行ってきてね」
 依頼書を受け取ったイレギュラーズは、リリィの言葉に頷き席を立つ。
 恐るべき餓狼との戦い。
 まずは何から準備するべきだろうか――思案を浮かべ、ローレットを出るのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 人を喰らう悪しき魔物餓狼。
 贄となった少女を救い出せるのは貴方達だけなのです。

●依頼達成条件
 生け贄の少女の救出

■失敗条件
 生け贄の少女の死亡
 生け贄の少女を救出できない(餓狼に撃退される)

●情報確度
 情報確度はAです。
 想定外の事態は起こりません。

●少女について
 少女は不死の呪いにかかっていますが、救出するその時に呪いの効果は切れ、普通の少女へと戻ってしまいます。
 少女は衰弱しているために、少しの傷でも致命傷となりかねないので注意が必要です。

●餓狼について
 人を喰らう悪しき魔物です。
 リーダー格の大餓狼は知能を持ち人の言葉を喋ります。
 数は十五体。
 群れでの行動を主軸とし、連携力に富んだ攻撃を繰り出します。
 高い反応値と回避値、鋭い牙と爪は時に防御技術を無視することがあるでしょう。
 
●戦闘地域
 幻想の辺境にある集落になります。
 少女のいる社へ行くためには、必ず集落を通る必要があります。
 集落には村人が十名います。(!!※:2018/10/27修正!!)
 餓狼の下へ行こうとするのが発覚すれば、必ず武器を持って襲ってくるでしょう。
 集落は小さな家々がある広々とした場所になります。目立つ障害物等はありません。戦闘に集中出来るはずです。
 社は、そう大きくない建物で、距離を取って戦うのは難しいでしょう。
 襲撃時刻は自由に選べますが、深夜になればなるほど、少女の命が危ないでしょう。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 餓狼の贄完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月12日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
詩緒・フェンリス・ランシール(p3p000583)
銀蒼棄狼
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
芦原 薫子(p3p002731)
アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)
シティー・メイド
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
ベテルギウス(p3p006505)
猛犬王
魔王(p3p006718)
濡衣

リプレイ

●閉塞の村
 月の光も、朝の陽の光も通らぬ闇の中を、イレギュラーズは進む。
 幻想辺境の集落、時刻は早朝。辿り着いて見れば、廃屋の並ぶ、閉鎖された環境のようにも思えた。
 恐らくこれは、元は村としてあった場所だが餓狼によって支配され、寂れ、村として機能しなくなったものだろうと思われた。
「辺境の寄る辺の無い者にしても、話に聞く狗っころにしても『生きる』って本分から、大きく逸脱してるとも思わんすよね」
 腰から伸びる触腕を蠢かせながら、『簒奪者』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285) が言葉を零す。
 超聴覚によってわずかな音も聞き逃さないヴェノムはイレギュラーズを先導し、起き始めた村人達を回避しながら、村の奥、餓狼がいるという社を目指す。
「まるで警戒してないわね。
 まあ依頼者が逃げ出してから結構な日が経っているし、当然よね」
 『銀蒼棄狼』詩緒・フェンリス・ランシール(p3p000583)はそう言葉を漏らしながらも、手にした銃による警戒を怠らない。
 人を脅し、贄として提供された人を喰らう餓狼。
 躾のなっていない駄犬はさっさと潰すに限る、と内心思う。
 その思いは集落に対しても同じだ。馬鹿馬鹿しい風習を続ける連中など消えた方が世のためだと、確固たる意思を持つ。
「依頼者のお兄さん、村の近くまで案内してくれたね。
 ……片腕を取られて、戻ってくるのなんて怖いはずなのに」
 きっと妹がそれほどまでに心配なのだろう。その依頼者の覚悟と努力を無駄にはしなくないと、『兄の影を纏う者』メルナ(p3p002292)は思う。
 それは自分の境遇と重ねるようで――同じ思いはさせたくないと、胸に誓いを立てる。
「裏切り者を許さない、か。
 ……まつろわぬものを信ずる輩というのは大概どこかで頭イッてますからね」
 『雷迅之巫女』芦原 薫子(p3p002731)はどこか遠くを見て言葉を零す。昔を思い出し、気分の悪さを感じる。青い丸淵眼鏡を直しながら、苛立ちを抑えるように先を急いだ。
「何にしても急がないといけませんね。
 アレクシアさん、様子はどうですか?」
 『シティー・メイド』アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)が尋ねると、ファミリアーと五感を共有する 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が応える。
「うん、このまま進めば大丈夫。
 呪いをかけて神様気取って……誰かを苦しめるなんて許せない!
 絶対に助けるんだ!」
 人助けセンサーの感度を最大に。感じればすぐさま向かえるようにアレクシアは進む。
「……」
 喋れば一際大きく吠えてしまう、犬であるところの『猛犬王』ベテルギウス(p3p006505)は静かに鼻を鳴らす。
(今回の奴ら、贄に不死の呪いとやらで生きながらにして貪るとは、性根が腐っているな。
 さすがに、やり方が気に喰わねぇ)
 その内心は餓狼へと憤る。全員、ぶっ潰すと息巻いた。
 依頼者が渡してきた囚われの妹の髪飾り、その匂いを頼りに、ベテルギウスが社への道を進む。
「村の者がいれば、言葉を投げかけたところだが……。
 介入がないのであればそれに越したことはないな」
  魔王(p3p006718)は村人の説得を買って出ていた。もし介入があるのならば、声を届けその動きを止める心算だ。
 隠密行動で進むイレギュラーズは幸か不幸か、村人達を出会わず、避けて移動することができた。
 しかし、いつでも対応できるようにと、魔王は心構えた。
 闇に紛れる暗い集落をイレギュラーズが進む。
 その雰囲気は集落そのものが人の出入りを著しく制限し、不干渉を貫いているようにも見える。
 灰暗い閉塞の村。
 餓狼に支配され、人としての自由を無くした村は、ただ静かにイレギュラーズの進行に不快な気配を漂わせていた。
 慎重に進んでいく。いくつかの木々を抜けると、林の中に異質に立つ社があった。
 音を立てないように進むイレギュラーズは、思いもがけず耳にする。
 肉を食み、貪るように喰らう餓狼の咀嚼音。骨を啜るような涎の音に背筋に寒気が走る。
 その音は少女が食べられている音だというのはすぐにわかった。故に素早く助け出そうと、武器を構えた所で、社の中から声があがった。
「臭ぇ……臭ぇなぁ。
 鋼の臭いに、嗅いだことねぇ臭いが漂ってやがる。
 いるんだろ? 入って来いよ、人間……!」
 威嚇するような声に、イレギュラーズはしまった、と思う。狼であれば超嗅覚と思しき技能をもっていてもおかしくはないだろう。社への奇襲という案は、このとき潰えた。
 警戒を高めながら、イレギュラーズは社の引き戸を左右に開いた。
「う……」
 血生臭さが鼻を突き、吐き気を催す。目の前に広がる光景は”食事中”のそれに他ならない。
 散らばる内臓を餓狼達が貪り喰っていた。
 社の奥、一際大きい餓狼が、言葉を喋る。崩れないバベルによる翻訳だ。
「ぐぎゃはは! 部外者がこんなところに来るなんて初めてのことだ。
 ……ああ、よかったなぁ。オマエを助けに来たみたいだぞ?
 まあ、全員喰っちまうがな! ぐぎゃははは!」
 社の中央、大の字に倒れている少女の頭を踏みつぶし、大餓狼が立ち上がる。
 傷付いた少女の身体が一瞬にして復元するのが見えた。呪いはまだ、効いている。
「ここまで来たんだ! 歓迎するぜ人間!
 全員喰ってやるから覚悟しなぁ!!」
 瞬間、爆発的に広がる殺気と共に、大餓狼が遠吠えを上げる。続けて周囲を固める十四匹の餓狼が遠吠えを上げた。
 人喰らう餓狼との戦いが始まった――

●人食い狼
 戦闘開始と同時、餓狼達より先に行動したのは薫子、メルナ、アーデルトラウトの三人だ。
 高い反応力を持つ餓狼より先に三人が動けたのは僥倖と言える。また三人が前衛であったことも優位に働いた。少女の周囲に立つ餓狼目がけて飛びかかり、攻撃を命中させることで少女の周囲の立ち位置を確保し、少女を守る形が作れたからだ。
「まったく気分の悪い光景を見せるものです。
 私達が来た以上、もう人を喰らうことはできないと思いなさい」
 強烈な一撃で構えごと砕く薫子の一撃。飛び退る餓狼が唸り睨み付ける。その眼光を受け流し、反応のままに一歩踏み込む薫子は全身に纏う紅の雷を、瞬時に刀身に集束させると、刹那の呼吸で大上段から振り下ろした。
「散々苦しめたんでしょ……? なら……今度は、あなた達の番だ。
 彼女にはこれ以上近づけさせはしない」
 ギフトを使わず、自らの意思で自由なる攻勢をその身に宿し、メルナが駆ける。薫子が怯ませた相手を狙いながら、その背後にいる餓狼を巻き込み、騎士が放つ雷なる一突きが放たれる。
「血肉撒き散らすお行儀の悪い狼たちですね――参ります」
 アーデルトラウトが踏み込めば、餓狼が間合いを詰めて鋭い爪を振るう。だが、その攻撃は見切っている。
 鋭い一撃を躱しながらその力と己の膂力を利用し、強烈なカウンターを鼻先に叩き込む。
「何をしてやがる!!
 ビビるんじゃねぇぞぅ! 全員でかかれ!!」
 大餓狼のリーダーシップ発揮する言葉に餓狼達が一斉に動き出す。
 狙いは一番最初に攻め入った薫子だ。鋭い牙と爪が幾重にも襲いかかり、都度受け流し、弾くもその数の多さに圧倒される。群れで狩りをする狼としての本能が、武器持つ人を圧倒する様は末恐ろしいものを感じさせる。
「ぐぎゃははは! 皮ごと肉を喰い破り! 内蔵一つ残さぬまで喰らい尽くしてやるぜぇ!!」
 大餓狼が腐った床を踏み抜きながら疾走する。飛びかかり頭から食らいつくようにその大顎を開く。寸前のところで身体を反らし致命傷を避ける薫子は、しかしその腕の肉を咬みきられていた。
「もう大丈夫だよ。助けに来たからね」
「……あ、……う……」
 身体の傷は癒えているものの、声も出せぬほど衰弱している少女。アレクシアが高位の治療魔術を用いて体力の回復を図る。
 神秘的な光がもたらされ、痙攣するように震えていた少女の身体に力が入る、ゆっくりと起き上がり、アレクシアの顔を覗き見た。
「……あ、貴方……達は、……どう、して?」
「話はあとだよ。
 動ける? ここは危ないから少し離れられる?」
 そういってアレクシアは少女を庇う役を買って出たヴェノムの方へと誘導する。
 少女は力の入りづらい身体を懸命に動かし、ヴェノムの後ろへと隠れる。
「ぐぎゃはは! 人間がこの餓狼に叶うと本気で思ったか!!」
「餓えた狼? 笑わせないでよ、行儀の悪いただの駄犬でしょう」
 詩緒が構えた二丁の拳銃から精密な狙いで弾丸を発射する。執拗に薫子へと襲いかかる餓狼の横っ腹に直撃し転倒させる。
「がふがふがふぅっ!!(オレを甘く見るなよ)」
「ぐっ……なんだ? 身体が言うことをきかねぇ……!!」
 この依頼において無類の強さを発揮するのはベテルギウスだろう。そのギフトの効果は当然イヌ科である餓狼にも適用される。
 腹を見せ服従するとまでは行かないが、ベテルギウスの威嚇の咆哮は、大餓狼さえも一歩引かせ、圧倒的な強さを誇示する。
 上下関係を正しく認識させるように、ベテルギウスが餓狼に飛びかかる。攻撃へと集中させた自殺行為とも呼べる捨て身の突撃に餓狼達が怯え竦んだ。
「ぐぎゃぅ! イヌ風情がなんてプレッシャーだぁ! くそっ、びびるな、まずは人間どもを叩きのめせ!!」
 悔しそうに顔を歪める餓狼が言葉を走らせる。
「怖いすか? しばらくの辛抱すよ」
 少女を庇いながらヴェノムが声を掛ける。守られながら少女はヴェノムに疑問の視線を投げかける。それはどうして? なぜ助けるのか、と。
「僕たちはお兄さんに依頼されて来たんすよ。
 ……依頼すけど。まぁ、僕は護ると決めたら必ず守る方でして」
 襲い来る餓狼の鋭い爪をその身を盾に受け止めて、少女へと危害が加わらないように立ち回る。
「弱肉強食ってのは。弱い者が理不尽に虐げられる事を是とするモノじゃない。僕は、そう思ってるす」
 必ず守る。惜しむモノなど何もない。力強い言葉は少女の心に届く。少女は感激に歪む顔を隠すようにヴェノムの身体に縋り付いた。
「憐れだね。折角賜った呪術をその程度にしか扱えぬとは」
 魔力弾を放ちながら魔王が餓狼を憐れむ。癇に障ったのか大餓狼が睨み付けるように向き直った。
「なぁにを言ってやがる! この力は俺達の飢えを凌ぐには最高の力だ!」
「自分の飢えを満たすことにしか使えない。
 ……それだから狼如きと侮られるのだよ」
 間合いを詰める餓狼を一刀両断に切り伏せながら、魔王は鋭い眼光で大餓狼を睨めつけた。
 餓狼の群れが大餓狼の指揮の下社の中を駆け回る。
 防御を突き破る鋭き牙と爪の猛攻に、最初こそ押し込まれるイレギュラーズであったが、「回復担当、なんてガラじゃないんだけどね」という詩緒のフォローも在って、立て直すことに成功し、各個撃破による攻勢が、一匹、また一匹と餓狼の数を減らしていった。
 当然ながら、イレギュラーズも多くの血を流した。体力の少ない者から順にパンドラへと縋ることとなり、体力の多いヴェノムやアーデルトラウト、アレクシアもその役割がら狙われることも多く、ヴェノムとアーデルトラウトの二人はパンドラへと縋り満身創痍と言える状態だった。
 そして、奮戦したイレギュラーズが最後の取り巻きの息の根を止め、イレギュラーズ同様に多くの傷を受けている大餓狼を取り囲んだ。
「く、なんだ! クソみたいな集落の奴等とはちげぇ……人間がこんな力をもつのかぁ……!?」
「辺境に引きこもって外を知らなかったことが敗因だよ。覚悟するんだね」
 アレクシアに指を突きつけられ、悔しさに歯噛みする大餓狼。
(ちくしょう……どうする……このままじゃマジに殺されちまう……なにか、なにか手はねぇか)
 追い詰められた大餓狼が悪知恵を働かせている最中、予期していた来訪者が現れる。
「な、なんだ! が、餓狼さまが!」
「あ、あんたらなんてことをしてくれたんだ!!」
 村人五人が社をのぞき込み吃驚しながらに声を上げた。大餓狼が即座に村人達へと命令する。
「お前らぁ! この侵入者の動きを止めろぉ!! 俺が逃げる時間を稼げぇ!!」
 言うが早いか出入り口へと向かい走り出す大餓狼。
「くっ、逃がすか!」
「うわああ――!」
 命令されるがままに村人達も走ってくる。なぜ、餓狼の言うがままなのか。信じられないと思う気持ちでイレギュラーズも対応に走る。
「逃がさないわよ――!」
 詩緒が狙いを付けて射撃する。大餓狼の胸を背後から撃ち貫いて血を溢れさす。大餓狼の勢いは止まらない。
「――行かせません!」
 大太刀を大胆に振るう薫子。その一刀は確かな手応えと共に大餓狼を袈裟斬りにする。しかし、血眼になった大餓狼は両手足をバタ付かせて勢いを殺さず走り抜ける。
「待ちなさい!!」
 社の出入り口から飛び出す大餓狼に、アレクシアが遠距離術式を叩きつける。身体をくの字に折りながら吹き飛ぶ大餓狼。手応えはあった。しかし、すぐさま立ち上がる大餓狼は変わらぬ勢いままに走り抜け林の奥、山々の連なる方角へと逃げ去った。
「や、やめろぉ、餓狼さまに手をだすなぁ!」
 残るイレギュラーズに取り付いて行く手を塞ぐ村人。
 取り付かれたまま、魔王が声を上げる。
「貴方方の心の奥底に僅かでも良心が残っている事を信じて、敢えて言おう。
 私たちは『終わらせに来た』んだ。私たちを信じてくれるなら、それに必ず応える――!」
「な、なにを勝手なことを! お前達はなんてことをしてくれたんだ!!」
「クーシャ! 貴様お勤めを放棄して、なぜそんなとこにいる!!
 ……そうか! 貴様の兄ジルタの仕業だな!!」
「ひっ……!」
 怒りの形相を浮かべる村人にクーシャと呼ばれた少女が怯え竦む。
 説得は聞き入れられない。その表情、言動、そしてなによりイレギュラーズに組み付いて離れない村人達を見てよく分かった。
「この……邪魔をしないで!」
 説得が通じないとみれば即座に対処に切り替える。メルナが反転し組み付きを取り払うと容赦なくその魔剣を振るった。邪魔をする村人に情けを掛けて助ける理由など、なかった。
「あんたらのせいで逃げられたじゃないすか」
「粗相が過ぎますね」
 打撃のコンビネーションで村人を無力化するヴェノム。アーデルトラウトも容赦のない組技で村人をねじ伏せる。
「がふぅ!!」
 残る一人も、ベテルギウスが組み伏せた。
「うぅ……終わりだ……俺達は、もう終わりだぁ……」
 呻くように「終わり」を呟く村人達を残し社の外へ出る。
 大餓狼の姿はもうそこには無く、夥しい血が点々と山へと向かって伸びていた。
 イレギュラーズの才覚を持てば追跡もできなくはないだろう。しかし、その為には衰弱した少女クーシャの存在が邪魔となる。
 致命傷を与えたとはいえ、大餓狼相手に人数を分けるのは危険にも思えた。なによりイレギュラーズもまた、満身創痍なのだ。
 イレギュラーズは逃したことを悔やみながらも、追跡を諦め、少女を連れ村の入口へと戻るのだった。

「はっ……はっ……やった、ぐぎゃはは……逃げれたぞ」
 深い山の森の中、追跡の気配がないことを確認した大餓狼が歓喜の声を上げる。
 身体中が痛い。血が止まらない。目眩も酷くもう身体を動かすのも億劫だった。
「は、はは、ちくしょう! あの人間どもいつか……見ておけよ!
 はっ……くそ、血が足りねぇ。肉……人間の肉はねぇのか……」
 こんなことになるのなら、最後にクーシャの肉を喰らっておけばよかったと、大餓狼は舌打ちする。人の肉を切らす、それは”餓狼にとって死を意味する”。
「ちくしょう……腹がへった……腹が……」
 人間への復讐を誓いながら、大餓狼は、誰もいない森の中で息を止めるのだった――

●朝日は昇る
「やってくれましたな……」
 村の入口に待ち構えていた村人五人。
 餓狼を討伐したことを告げると首を横に振るう老人が、肩を落とし嘆いた。
「儂等は餓狼さまと共に生きるもの。餓狼さまより幸福を与えられて生きてきたのじゃ」
「人一人を不幸にして、幸福を享受するなんて間違っているわ」
「それがこの村の生き方じゃ。他所の者にとやかく言われる筋合いはない。
 お前さん方は餓狼さまを裏切ったジルタと共に、娘一人を救い、村人全員を不幸へと導いたんじゃよ」
 恨みがましい眼孔で睨み付ける老人。
 苛立ちの増した薫子が見下すように睨めつけた。
「実を言うと、
 お前達を見てると昔を思い出してだんだんムカついてくるのでここで死んでくれません?
 死んでもらいますね?」
「好きにするが良い……どのみち儂等は餓狼さまの元へ往く」
 それは集団自決を仄めかす言葉。で、あれば苛立ちの解消に刃を振るうことに躊躇いを持ちはしなかった。

 朱に染まった村から離れれば、心配そうに待っていた片腕のジルタがイレギュラーズを出迎える。
 どうにか一人で歩けるほどに回復したクーシャを見つけると、涙を零しながら抱きついた。
「……兄様、ありがとう」
「ああ、よかった……本当に、よかった」
 涙の再会を遂げた兄妹はしばらくの間、互いのぬくもりを確かめ合う。
 これから続く未来を予感させるように、眩しく光る朝日が、顔を覗かせた。 
 

成否

成功

MVP

メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。

しっかりと役割分担されていてよいプレイングだったと思います。ちょっと逃走への警戒がなく危ないところでしたが、大餓狼に止めをさすことはできました。
説得はちょっと難しかったですね。村人の狂った信仰心はかなりのものでした。

MVPは範囲火力として多くのダメージを与えたメルナさんへ。

依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

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