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シナリオ詳細

<八界巡り>みんなの世界

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●世界平和のそのあとで
「お兄ちゃん、準備とかしなくていいの?」
 『全ての世界が救われた』という未曾有のグッドニュースに誰もが飲めや歌えの大騒ぎをしてから暫し。
 練達の都市を見渡せる高台で、セーラー服の少女が振り返った。
 虹色の髪が風に靡いて、仮想の空をすかす。
 かつて消えたはずの少女。電子の世界からすくいあげられ、第二の生を得た彼女の名は、エイスという。
「準備って言ってもな。今回のメンツ、好みもバラバラだろ?」
 指折り数えていたイデアは両手の指を大体折ったところで顔をあげた。
「第一、全員違う世界の出身だしな。あわせるにしても誰にあわせるんだって話になるぞ」
「なんだよ、その面倒な話は。面倒事は『イデアの棺実験』で充分だぞ」
 後ろから声がしてイデアもまた振り返ると、清水 湧汰が苦々しい顔で歩いてくるところだった。
「例のメンバーで祝勝会をするっていうから来たのに、まだ会場おさえてないのか?」
「いくつか候補はおさえてるぞ。ローレットの祝賀会だって伝えたら二つ返事だったから。けど決めきれなくてさ」
 イデアがあたまをかいていると、湧汰は表情を苦笑に変える。
「それこそ、自分で選ばせたらいいんだよ」
 その顔にはどこか晴れやかな、大人びた余裕があった。
「世界まるごと救ったんだ。祝賀会を企画するくらい、朝飯前だろ」

●ようこそ。ここはあなたの世界です。
「ここへ来るのも久しぶりですね」
「最後の実験以来……だっけ? あの時は本当に何が起きたのかサッパリだったけど。なんだかすごい昔のことみたい」
 桜咲 珠緒 (p3p004426)が窓辺に立てば、藤野 蛍 (p3p003861)がその隣で息をつく。
 くるりと身体ごと振り返ってみると、そこは九つのチャンバーが並ぶ無機質な部屋だった。
「いや俺、今でもちょっと分かってないけど。けど色々丸く収まってるし、いいんじゃねえ?」
 零・K・メルヴィル (p3p000277)がチャンバーの表面を指でなぞる。
 ひと一人が眠れるほどのチャンバーは全て空っぽで、その表面にはうっすらほこりが積もっていた。
 あれから誰もこの部屋を使っていないのだろう。リュグナー (p3p000614)は口元だけで笑みを作って自分がかつて使っていたチャンバーによりかかった。
「クハハ。なあに、終わってしまえばすべて過去。万人にあるのは今だけだ」
「どういう意味?」
 ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788)が真顔で振り返ると、清水 洸汰 (p3p000845)が小さく肩をすくめる。
「わかんねー」
「『終わり良ければ全てよし』って意味じゃない?」
 ジェック・アーロン (p3p004755)がぽそっと呟くと、ランドウェラと洸汰が全く同じ動作で『それだ』と返した。
 この場所に、この八人。
 一見すると共通点のない彼ら彼女らには、忘れがたいひとつの繋がりがあった。
 イデアの棺実験。通称八界巡りと呼ばれた実験は、予想も付かない体験と大いなるものを巻き込んだ冒険へと発展した。それは彼ら彼女らが共有する、小さくて大きな想い出である。
 うーんと言いながら背伸びをする洸汰。
「じゃ、そろそろ行くかー!」
「だね」
 ランドウェラも首を左右にこきりとならす。
 八人がここへ集まったのは、なにも古い思い出バナシをすためだけではない。
 ジェックが、遠い窓の外の景色を見ながら言った。
「それじゃあやろっか。祝勝会」

 珠緒と蛍はガイドブックを覗き込み、ページをぱらぱら捲っている。
「お店、沢山有りますね」
「レンタルスペースだって。こういうのもアリ?」
「どこをどう使ってもいいらしいな。いやマジで」
 零がメモを片手にあたまをかく。
 キッカケは確か、零が世界を賭けた戦いの中で『終わったら祝勝会をしよう』と言ったことだっただろうか。
 無数の奇跡と伝説のうえに、世界崩壊のシステムそのものに勝利を収めたローレット・イレギュラーズは、それはもう世界各地で大騒ぎされ祝われに祝われ称えられに称えられたのだが……それはそれ。
 この八人で集まって、自分達だけの祝勝会をしようと決めたのである。
 事前準備をしてくれたイデアたちの話によれば、練達の民はぜひうちを使ってくれと前のめりに了承し、使っていい場所リストはとんでもなく分厚くなっているらしい。
 なにせ全世界を救ったローレットである。彼らがやると言ったら五分後であろうと店は即座に貸し切りに応じるだろう。店どころか、利用客すら喜んで。
 なので、この際だから主役の八人が自分達がやりたい祝勝会を自由に企画することになったのだった。
「けどここまで自由だと、かえって迷うよなあ」
「好きなだけ迷えば良かろう。それも含めて楽しめば良い」
 リュグナーが余裕そうに腕組みをして言った。
 確かにその通り。
 これから始まる祝勝会。
 場所も内容も自由自在。みんなで作るパーティーだ。

GMコメント

 みなさん、ごきげんよう!
 世界を賭けた戦いの祝勝会。それも、<八界巡り>に関わったメンバーだけの祝勝会が開かれます。

●イベント企画
 どんな祝勝会にするか、皆さんで相談して決めてみてください。
 いくつかアイデアを出し合ってもいいですし、いっそアイデアを複数採用してしまっても構いません。
 出来上がったアイデアをもとに、皆さんで祝勝会を手作りしましょう。
 世界をあげての大祝勝会は済んだので、ここからは皆さんだけの特別な祝勝会なのです。

 場所は練達国内。基本的に『なんでもできる』と思って頂いて大丈夫です。
 他に参加するNPCはイデア、エイス、清水 湧汰の三人。
 あんまり世界規模のなんかを動かしたりとか世界規模のゲストを呼んだりとかはできませんが、今回の皆さんだけの祝勝会という趣旨からすれば必要のないことでしょう。
 企画を作ったら、それを皆さんで目一杯に楽しんで下さい。

 きっとこれが皆様を描く最後の機会となるでしょう。
 どうか心ゆくまで楽しんで、自分達だけの思い出を作って下さい。

  • <八界巡り>みんなの世界完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2025年02月25日 23時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者

サポートNPC一覧(1人)

エイス(p3n000239)

リプレイ

●どんな想い出を作ろうか
 『つばさ』零・K・メルヴィル(p3p000277)は動きやすい服装に着替えて、イデアとエイスに向き直った。
「まずはスポーツ大会だ! 昔の時ならいざ知らず、此れでも結構体は鍛えてんだ。
 負けねぇぞ~! 攻撃は任せとけ! イデア、エイスも頼むぜ!」
「祝勝会でスポーツするの!?」
「そうとも。つまりはサッカーだ」
 『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)がさも当たり前みたいな顔でサッカーボールを抱えている。
「イデアが勇者だった時とは異なる、本当の共闘だ」
「あ、すごい動きに違和感がある。武器がないからかな」
 『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)はやや身体を傾けながらも楽しそうだ。
 中でも一番楽しんでいそうなのは『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)である。
「ちょうど11人揃ってるしな! ぜってー点数は取らせねぇ! ゴールキーパーは任せとけ〜!」
「オレも数に入ってるのかよ……」
 全く着慣れていない様子のユニフォームをきて天を仰ぐ清水 湧汰。
 言葉につられて振り返れば、頭がサッカーボールになった人形たちが試合開始を待っていた。ここは練達のなかにある競技場。拡張現実装置を用いて相手選手を作り出しているらしい。
「大仕事も終わり、被害は色々あったが……またこの面子で集まれたのは僥倖だな」
 なんだかのんびりとした口調でいう『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)。なんだかやけにユニフォームが似合ってしまっている。
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は顔を見合わせ、そした微笑み合う。
「皆で集まるのも久しぶりね。でも、あの時結ばれた縁は、きっとこれまでもこれからも、途切れることなくずっと……」
「確かに、同窓会のようでもありますね。多くの方と苦楽を共にしましたが、この場の皆さんはより特別……」
 頭上にほわほわ浮かぶ珠緒ランキングなる表には零やエイスたちが同率二位で並んでいる。ちなみに一歩進んで一位にいるのは蛍であった。
「サッカーやったことないからルールも曖昧だけど……いいね、アタシも思いきり走り回ろ!」
 『冠位狙撃者』ジェック・アーロン(p3p004755)はパスされたサッカーボールを胸でトラップすると、早速強烈なシュートを繰り出した。
「ってうおー! こっちは味方のゴール!」
 洸汰が必死にキャッチし、ボールを拳で跳ね返す。
「え、そうなの?」
「連携プレイなら任せて!」
 蛍と珠緒がボールを受け取ると、襲い来る相手選手を見事なコンビネーションですり抜けていく。
 そして大きく出されたパスをマカライトが受け止める。ディフェンスをかける相手選手に刹那の読み合いに勝利し、またも力強いパスを放った。
「頼むぞ! 俺の屍を越えてゆけぇ!!」
「イデア、エイス!」
「ああ、一気にいこう!」
 イデアがエイスをちらちら見ながら相手ゴールへと迫れば、ディフェンスが立ち塞がる。素早く出したパスは零へと繋がれ、即座にミドルシュートが放たれた。
 必死にガードした相手キーパー。跳ね返ったボールを、完全に先読みしていたリュグナーが止めてゴールへシュート……と見せかけてサイドへとパスを出した。
「決めるがいい」
「それじゃ遠慮無く!」
 ランドウェラはボールをうけ豪快にシュート。虚を突かれたキーパーの横をボールが突き抜けネットをおおきく揺らした。

●お料理大会
「いっぱい動くとやっぱりお腹減るね。もうぺこぺこだよ」
 ジェックは数年前から恋人に教わっていたらしく、料理も結構できるらしい。エプロンをつけて早速ひき肉を丸め始める。
 その横ではリュグナーもこねこねし始めた。
「確かハンバーグカレーだったな。創作は得意とは言えぬが、ハンバーグのタネ作りならば我にも出来よう!」
「リュグナー! 形バラバラすぎ!」
「個性だ」
 苦情(?)を一蹴しながら、リュグナーはふと料理にいそしむ仲間達を見る。
「戦争の絶えぬ世界からの出身故、平和など夢物語だった。
 それが突然現実になったとあらば、我とて悩むものだ。
 正に贅沢な悩み、だがな」
「何の話だ?」
「この平和な世界で何をするのか、という話だ」
 イデアに問われ、リュグナーは口元を緩める。
「どうだかな。考えてもなかったよ。とりあえず……『普通のこと』はしたいかな」
「ねえねえ、カレーはどんな風にする? ビーフ? チキン?」
 ランドウェラがうきうきした様子でカレーの仕込みを進めている。
「いつも以上に美味しく感じる。不思議だねぇ」
「なんたって世界全部が平和になったんだもんな。カレーだって百倍美味いぜ!」
 洸汰がジャガイモの芽を取りながら振り返ると、湧汰が腕組みしていた。
「どうしたユータ」
「いやオレ、料理したことないし」
「すげー機械つくれるのに?」
「エンジニアリングとクッキングと一緒にすんな!」
「コーヒーはいれられるだろ? あとで皆のコーヒーいれてくれよ!」
「まあ、それなら……」
 そんな様子を眺めながら、零がなんだかうずうずしていた。横目でそれを見るエイス。
「もしかして、カレーはパン派だったりする?」
「いやライス派。カレーパンとはな、カレーはカレーでも違いがな」
 ろくろをまわしはじめる零にエイスがくすくす笑った。
「ま、あとでハンバーグサンドでも作っておくか」
「ならオレはポテトサラダを。サッパリしたものは必要だろ?」
 マカライトがテキパキとジャガイモを潰している。エプロンも似合ってしまっているマカライトである。
 ややあってから。
「混沌世界ではいろんな事をやってきたけど……世界の崩壊をとめたあとにやることがハンバーグカレー作りなのね」
 蛍はできあがった料理をお皿にもりつつテーブルへと運んでいく。
 珠緒もハイゼンを終え席に着いた。蛍から学んだという料理の腕は結構なもので、ハンバーグもカレーも、勿論炊いたお米も上手にできた。コーヒーとポテサラも一緒に並び、皆で手を合わせる。
「日々の成果を皆さんにお見せし、また新しき学びを得る……。
 同じ料理でも、それぞれ違う美味しさが出るものですね」
 一口食べてみた珠緒はしみじみと呟き、大きなテーブルを囲む皆の顔を見回したのだった。

●みんなの卒業式
 借りたのは学校の体育館。それも再現性東京の体育館だ。
 ステージには『卒業式』という幕がはられ、あちこちが手製の飾り付けでいっぱいになっている。
「わあ……これぞって感じね」
 蛍が言うと、学園の制服を今一度見下ろす。式の最後には卒業生代表としてのスピーチも待っているのだが……なぜだろう。世界の敵と戦うより緊張してきた。
 ごく普通の女子高生が、来るところまで来てしまったものである。装備は派手だわ教科書は変形するわで、このまま元の世界に戻ったらそれはもう奇異の目でみられること間違い無しだが……ふしぎと今の自分は好きになれた。
 いや、そんな自分を好きでいてくれる人ができた。というべきなのか。
「珠緒さん」
「はい……」
 同じ学園制服で並ぶ珠緒。彼女がこのイベントに『卒業式』を加えたのは、まず蛍を想ってのことだった。
 途切れてしまった学園生活に区切りを。かつて体験した『蛍の世界』で抱いた気持ちを、ちゃんと残しておきたくて。
「この世界が平和になった節目、アタシ達の戦いが終わった節目、思い思いの暮らしを送れるようになった節目……って思うと、今のアタシ達にピッタリなイベントだよね」
 セーラー服をきてで並ぶジェック。振り返ると同じように並ぶ学生たちの姿があった。彼らも『卒業式』のあった世界から来た人達だろうか。彼らにとっても、元の世界へと帰れる今は最大の節目といって良いだろう。
「思えばあの放課後から、よくここまで来たもんだ」
 学ラン姿のマカライトが、リュグナーやランドウェラへと目をやる。ステージを今一度見ると、校長が真面目な顔で立っていた。どうやら今回はマカライトも学生として『卒業』させてくれるらしい。
「清水 洸汰」
「はい!」
 洸汰が元気よく返事をして、机の前に立つ。差し出されたのは卒業証書だ。
(そーいやオレ、ちゃーんと卒業式できてないんだった。これでちゃんと、ガッコー卒業できたことになるかな)
 次に呼ばれたランドウェラが元気に返事をして、後に続いて卒業証書を受け取る。
 この形式張ったやり方には、どこか特別な空気がある。これまでやってきたことを褒められたような、認められたような。
(終わったと言う感じで少し寂しいが、次の段階に行ける、という意味でもあるんだよな? 素晴らしいイベントだねぇ)
「此度は別れではない。我々は世界を超えて出会ったのだ……同じ世界にいるならば、再び出会わぬ方が難しいであろう?」
 リュグナーは微笑み、階段を上っていく。
(成程、ある意味これは”続き”だ)
 いつかの出会い。予期せぬトラブルと真実と、その先につかみ取った未来。
 自分達は確かに、想いのために戦って、望んだ未来を勝ち取った。
「昔の学ラン、今もずっと持ってるんだよな。てか此れホント丈夫だな」
 零は想い出の学ランをぽんと叩いて、階段を上っていく。
(卒業式は、高校生時代から飛ばされて結局し逃してたからな。これでやっと……ってことか)
 卒業証書を手にして、零はしみじみとそこに書かれた名前を読んだ。
 そして、校長が次の名前を呼ぶ。
「姉ヶ崎エイス」
「――はい!」

 卒業証書を円い筒状の箱に入れ、それを手にした11人は卒業式と書かれたプレートの前に集まった。
 大きな桜が咲いていて、はらはらと花びらを散らせている。練達民の粋な計らいであった。
 向けられる大きなカメラに、どこか気恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
 それは確かに彼ら彼女らの生きた証であり、まさにこの世界からの卒業の瞬間であったように見えた。

●タイムカプセル
 卒業式の写真を、早くも手にしたジェック。
 他にもサッカーの試合中の写真や料理中の写真、皆でテーブルを囲む写真。沢山のそれらが束になって、箱へと収められた。
 そこに重ねたのは、ジェックから皆へあてた手紙。そして……将来の自分への手紙。
 最後に寄せ書きに自分の名前とメッセージを書き込んで、箱へと置く。
「今日は節目だけど、でも、今日で終わりじゃない。
 アタシ達の日常はこれから始まるんだから。
 だから──この平和を、アタシ達はこれからも守っていくんだ」
 『世界を救う』。簡単に口にできるその言葉は、けれど沢山の意味を持っている。
 エイスという存在を見つけ出し、助け出したあの時だって、あるひとつの世界を救ったと言っていい。
 ジェックたちは世界の崩壊そのものと戦い勝利したけれど、それで全てが終わるわけじゃない。むしろ、終わりを回避した永遠なる世界が始まったのだ。
 混沌世界だけじゃない。他にあるいくつもの世界だって……。
「では、次は珠緒が」
 珠緒は寄せ書きに自らの名と詩を書き添えると、隣の蛍へと手渡した。
「これは?」
「異世界から流れてきた本にあった詩です。伝えたい思いを短くまとめるというのが、どうも苦手でして……先人の詩に込めました」
 幸せを願う詩。自分と相手の境界を越えて、溶け合ってひとつのものとして幸せになれますようにという願いの詩だ。
「そっか……」
 蛍はくすぐったそうにして、『これを読んでいる貴方も幸せであることを願います』とその横に書き添えた。
「今日は、良い写真沢山撮れたね。みんな笑ってた」
 こんな日が来れば良い。いつか想った願いが、目の前にあったみたいだった。
 マカライトは寄せ書きを手に取り、少し迷った後『青空は続く』と美しい文字で書き込んだ。
「俺は、元の世界に帰ろうと思う」
 ハッとして洸汰やイデアたちが振り返る。マカライトの世界で続く邪神との戦いが過酷なことを、装置を通して知っている。
 マカライトもまた、新たな戦いに身を投じることになるのだろうか。
「今生の別れにする気はないからな?」
 言いながら、マカライトは『Project IDEA』と書かれた紙切れを箱に入れる。
 それはつまり、ここにはいない12人目へのメッセージであった。
 許さないでねと。それこそが最後の繋がりであったのだと。涙も流せなかった彼女への。ほんのささやかな意趣返し。
「ユータ、どうする?」
「オレは別に……」
 と言いつつ、湧汰はポケットから手紙をひとつ取り出して洸汰へと渡す。
 ニッと笑い、洸汰は自分の手紙と一緒にそれを箱に入れた。
 そして回ってきた寄せ書きに『また遊ぼ!』と豪快に書き付ける。
「タイムカプセルは、オレが開けるその日まで、ずーっと守ってる。
 だってオレが、皆の童心を守るからさ!」
「またそんな安請け合いを……」
 ぶつぶつと言いながら、けれど湧汰は笑みを浮かべていた。
 洸汰が本当に、守ると約束したものを守ってきたのを見てきたからだ。
 きっとこの先も、彼はなんでもかんでも守っていくだろう。
 神様でも王様でもない、『にーちゃん』として。
「うーん……」
 その隣ではランドウェラが腕を組んで唸っていた。
「どうした? 入れないのか?」
 イデアが訊ねると、ランドウェラは刀の柄に手を触れる。
「刀入れたら灼那欺に怒られそうだし、イヤリングは外したくないし……」
「タイムカプセルに何てもの入れるつもりだったんだよ。もっと簡単なものでいいんだって」
「こんぺいとうとか?」
「食べ物以外で」
「じゃあ……」
 ランドウェラはビー玉を三つ取り出した。
「この色は僕で、こっちはエイスで……人数分いれちゃおっと」
 じゃらじゃらとビー玉を流し込むランドウェラ。
 なんだかおかげですごくタイムカプセルっぽくなった。
「ふむ、ではこうしよう」
 リュグナーはおもむろに自らの目隠しを外すと、それを箱の上でパッと手から話した。
 重力にひかれ、はらりと箱の中に落ちる布。
 驚いた顔で零が振り返る。
「え、い、いいのか!?」
「この世界での我たるアイデンティティーの一部だが、これからはこの眼でしっかり"みんなの世界"を見ていくが故な」
 リュグナーは『目を細めて』そう言った。
(しかし、皆の大事なモノを未来に預けるというのであれば――どうやらまた一つ、元の世界に帰らぬ理由が出来てしまったな)
 帰る者もいれば、帰ってからいずれ戻ってきたいという者もいる。
 それぞれの人生だ。それぞれが選べばいい。
 いまこうして繋いだ絆は、決して消えることはないのだから。
 だから、リュグナーは寄せ書きに筆を走らせる。
 『この出会いに感謝を』。
 そう書かれた寄せ書きを、零へと手渡す。
 零は笑い、ペンを手に取る。
「『何が有ろうと、この友情は不滅だぜ!』」
 言葉にして、そのまま文字を書き込んだ。
 照れくさそうに笑って、零はイデアとエイスへと色紙を差し出す。
 二人は顔を見合わせて、そして連名でひとつの言葉を書き付けた。
 『ありがとう。ずっと一緒』
 遠い遠い、はるか遠くの願いが叶ったようで、皆は顔を見合わせて笑い合った。
 閉じた箱が、未来へ向けて埋められる。

 かつて、勝利があった。
 そしていま、未来がある。
 彼ら彼女らは自ら選択して、この世界を生きていくのだ。
 今日という絆の証を、胸に抱いて。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 『ありがとう。ずっと一緒』

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