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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>春風は私達を攫っていく

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 春――それは出会いと別れの季節。

 ロザリエイルは独り言ちた。あの人と出会ったのは偶然だったのだ。
 まるで野草を摘み取るような気紛れであったとも思う。その在り方に触れた刹那に恋に落ちたのだ。
 恋することは稲妻に打たれるようなものだとはよく言うけれど、まさしくそうだった。
「わたくし、ロザリエイルと言いますの! あなたは!?」
「名を聞くとは無礼者め」
「今、わたくしはあなた様に恋をしましたのよ!? 恋をした人間なんて頭パッパラパーで残念なものですわ!
 ですから、構いませんでしょう。頭パッパラパーな無法者に名前を教えてくださいませ!」
 思えば、あの時から自分はぱっぱらぱーだった。ぱっぱらぱーすぎて暫くは愛しいあの人に「おい、ぱっぱらぱー」と呼ばれていた。
 それも何だか二人だけのあだ名のようで嬉しかったけれど、ただ、印象的なワードで呼んでいただけで名前を覚えて居たわけではないと知ったときは酷く落胆した。
 あの人は、様々な能力を『真似』る事が出来るらしい。それ故に、人類最強だと言われていた。
 違うのだ。あの人は彼その物の力で全てを切り開けるのだ。こんな、誰ぞの借り物なんて似合っていない。
 だからだろうか。彼はイレギュラーズを殺せと言っていたけれど「あなたの為に戦っているのですわよ」なんて嘯いて、あなたの意思に反するように戯れ事ばかりを行って居た。
 今回だってそうだ。
 あなたが借り物の力を使うことが酷く、疎ましかったのだ。
「わたくしとの愛の力だったら良いのに!」

 ロザリエイル・ロード・ロクサリルは鉄帝国に生まれた少女だった。
 父親は鉄帝国軍部に所属し、母は『南部戦線』ほど近くに追い遣られた辺境の貴族だったという。
 貴族らしく育てと作法を与えられたが残念ながらロザリエイルは口調だけしか覚えていない。ティーカップ、持ち上げたら茶が飲めますわ! の勢いであったため母は酷く落胆したのだ。
 母にも何だか見捨てられ、父は忙しくて家に帰らない。そんな日々の中で彼と出会った。
 愛しい人。何もかもが暗かった世界に唐突に冒険の気配を宿した男が来た。初恋だった。

 ――世界は滅びるのだ。

 なんて素晴らしい事を仰るのか。二人だけの世界でも作りましょう!
 ロザリエイルは莫迦だった。だからこそ、男の言葉の全てを理解はしていなかったけれど、あの狭苦しくって、息苦しくって、自分なんて居ない場所から連れ出してくれるその人が愛おしかったのだ。


「――と、言うのが私の個人データでしてよ」
「どうして今、こんな場所で紙芝居をしたの?」
 パルス・パッションは困惑していた。『コロッセウム=ドムス・アウレア』の玉座の間にはワームホールが開かれている。
 その場には全剣王ドゥマが存在し、イレギュラーズを屠るつもりなのだろう。
 ワームホールの向こう側には影の領域が存在して居る。その場で殺すべき相手が揃っているというのはビッツ・ビネガーの談だ。
 とどのつまり、倒さねばならぬ相手が居て、その邪魔立てをする敵が目の前に居たのだが相も変わらずと言った様子で彼女は笑うのだ。
「此処に来たのがボクでよかったね。ビッツだったらだから何よって殺されてたよ」
「お、おそろしいですわー!」
 驚いてみせるロザリエイルにパルスは肩を竦めた。目の前に立っている鮮やかな黒髪の娘は仮面を投げ捨てる。
 柔らかな桃色の眸の女はいそいそと幼稚園児の着用するスモッグを身に着けた。
「この空間は毒の気配が満ちておりますの。不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)――全剣王の能力ですわ。
 ですけれど、わたくし、あの方が借り物の力を使うのは嫌いですわ! ですから、それに対抗策を講じましたの!」
「敵なのに?」
「嫌いだから仕方が無いのですわ! ですから、そう、『学生服っぽいもの』を着用すれば毒の気配は遠ざけられましてよ!」
「敵なのに?」
 パルスはもう一度問うた。
 此れまで色々とあった。その度に彼女には困惑してきたが――四度目のロザリエイルはにんまりと笑う。
「この案はイレギュラーズから頂きましたのよ!」
「はっ!?」
 ボクじゃないよと首を振ったのは炎堂 焔(p3p004727)である。しにゃでもないですがと慌てたのはしにゃこ(p3p008456)だ。
 犯人は誰かと言いたげな視線の中でロザリエイルは「それではどうなさいますの?」と問うた。
「と、兎に角、ロザリエイルちゃんはどうしたいのかな? ここでボク達と殺し合い?」
 パルスは問う。当たり前だ。今は世界の滅亡の危機が前に在るのだから。
「足止めですわ」
 そう言ったロザリエイルを守るようにゴレムとソラムが立っていた。
「ゴ、ゴレム? ソラム?」
「ゴゴゴゴゴゴ(守ってあげます)」
「喋れましたの!?」
「ゴゴゴゴゴゴ(もしも、王が死んだならばあなたはどうするのですか)」
「待って、喋れますの!?」
 ――一体何が起こっているのかとパルスはまじまじと彼等を見た。
「ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴ(ここで、主を守ります)」
「ゴゴ……(主は只の人です)」
「ゴゴゴゴォ(どうするかはまかせますね?)」
 ゴーレム達はイレギュラーズの返答を聞く前にずしん、ずしんと地を踏み締めた。
 此処で駄目なら次回決着! よろしくて? ――なんて言って居た女は置き去りだった。

GMコメント

●成功条件
 ・『ゴレム』『ソラム』の破壊
 ・『ロザリエイル』の無力化

●フィールド情報
 突然鉄帝国に生えてきた『コロッセウム=ドムス・アウレア』の内部。
 『玉座の間』にてワームホールが存在するため、全剣王ドゥマはその地を守っているようです。
 ですが、今回もロザリエイル嬢は明後日の方向を向いています――
 広々としたエリアの内部はまるで普通の学校のような雰囲気です。この場にいると制服の着用もしくは『園児スモッグ』の着用を義務付けられているようです。

 ・『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』
 非常に強力な『毒系列』のBSを戦場中にばらまくギミックです。
 参加PCに毎ターンの初めに『毒系列』のBSを付与します。
 また、戦場の味方NPCが、毒に苦戦する描写を入れるとよいでしょう。
 廃滅の毒を騙りますが、かの冠位の権能に比するものではありません。苦戦はすれども、決して対策や突破ができないものではありません。

 ・特殊ルール『年齢差』
 実年齢と着用制服年齢の差が大きいほどに『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』への耐性を持ち得ます。
 ロザリエイルはどうやらあまり『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』を好まないようですのでこの耐性を用意した様です。
 それでも、BSとはなりますので、ある程度の回復が必要です。
 二十歳の方が幼稚園児になればちょっと痛いがそこまで気にはならないようになるようです、

●『不毀の軍勢』ロザリエイル
 ロザリエイルと名乗った黒髪ロングヘアーの女性。年齢は10代後半程度でしょう。仮面を取っています。
 普段の真白のドレスを脱ぎ捨てて何故セーラー服姿で鎮座しています。些かテンションが高いのが面倒くさく、アッパーなおばかです。
 典型的な鉄帝国人タイプです。どうやら彼女は滅びの使徒や『不毀の軍勢』のうちでも怪物そのものではなく、そう名乗って居ただけの『全剣王』に力を与えられた人間です。
 ロザリエイルの力の源は彼への恋情です。彼女に全剣王を諦めさせる事が出来れば無力化できます。
 行く宛てなんてないのでここでスパッと殺すか、今後について考えてあげてください。

●『不毀の軍勢』ゴレム、ソラム(ゴーレム)
 ロザリエイルの使役するゴーレムです。何故か幼稚園スモッグを着ています。今回のボスです。
 攻撃は質実剛健な打撃が中心のようですが、ソラム側は魔術にも優れます。ゴレムはブレイクなどを行えるようです。
 ロザリエイルを護る事に命をかけています。こちらは完璧に石の魔物ですので破壊せざるをえません。
 ここで全剣王が倒されればロザリエイルは心の行く先をなくして死亡しますし、意地でも皆さんをここで止めるつもりです。
 不憫な存在(スク水を着せられたり、うさ耳を付けたり)でしたが、ロザリエイルへの忠誠は本物です。

●終焉獣 10体
 ゴレムとソラムの指示に従い動く終焉獣です。ロザリエイルはアホなのでゴーレムが司令塔です。
 何故か幼稚園スモッグを着た二足歩行の恐竜です。黄色の帽子も被っています。
 戦闘方法はそれぞれ違っています。トリッキーな個体も……?
 基本はパルスが相手にしていますが、パルスだけでは対処不可能です。

●『同行NPC』パルス・パッション
 ラド・バウ闘士。皆さんとご一緒にここまでやってきました。終焉獣は2対ずつ相手にしています。
 スピードファイターと謳われますが実力はお墨付ですので余り心配なさらないで下さい。
 また、お洋服については皆さんの指示に従いますがなければ、えいや!とスモッグを着ます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。最終決戦なのに、幼稚園スモッグを着ることになった理由は優先の中に居ます……!

  • <終焉のクロニクル>春風は私達を攫っていく完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年03月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

サポートNPC一覧(1人)

パルス・パッション(p3n000070)
アイドル闘士

リプレイ


 終末の足音がする。世界を飲み食らわんとする終焉の気配を受けながら、何故かイレギュラーズ八人は黒髪の女の紙芝居を見詰めていた。
 ある意味で、平凡で。ある意味で、異端で。ある意味で――日常の象徴であるような。
 ロザイリエイルは堂々と宣言する。そう。皆揃って幼稚園児になるのだ、と。
「御主は最後の最後まで変わらんのだなぁ。
 ……実の所、結構な精神力の持ち主だったりするのではないか? ロザリエイルよ」
 嘆息する『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)にぱちくりとロザリエイルは瞬いた。
 それはそうだろう、誰もが命懸けで戦っている。死をも厭わず、身を粉にして戦う者が多く居る。その中で幼稚園児用スモックを着用する特殊ルールを課した戦いを勃発させようとするのだから精神が強靭なのか余っ程に何も考えて居ないのか。
「わたくし、単純に気に食わなかっただけですわ」
 つんけんとした態度で自らの希望を告げる彼女の在り方は寧ろ好感を覚える存在だ。だが、そのやり方を考えれば何故と問いたくなって仕方が無いのだ。
「このコロッセウム、なんか見覚えがあるです……。前は皆で水着姿になったような。
 水着よりも布地が増えた分防御力はあるような気がするですが……ええと。メイ、似合ってるですか?」
 困った様子で問うたこう見えても3桁年齢の『ひだまりのまもりびと』メイ・カヴァッツァ(p3p010703)。
 この危機迫る状況に彼女は幼稚園児スモックを着用してこの現場に立っていた。『コロッセウム=ドムス・アウレア』では全剣王との決戦が行なわれている。
 素直に考えれば彼と向かう敵をこの場で抑えるのがロザリエイルの仕事である筈だ。スモックを着用することだって戦意を削ぐ姑息な手段……ではないのがちょっと頭痛の種になる。
「スモッグ……ウッ、頭が……存在しないはず(実際存在する)の記憶が……。
 あの馬鹿女をそそのかした優先枠は誰だァ! ふざけてんじゃねぇぞ!!!!! 名乗り出ねぇと代わりに洗井をぶちころすぞ!!!!!」
「そうだよ、しにゃこちゃん!!!!」
 もう吼える勢いだった。狂犬、失礼、『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)は噛み付かん様子で振り返る。ぱっぱらぱーな敵はさて置いて、誰かが唆したに違いない。
 本当にそうだと思い込んだ様子で『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)がリアに乗っかった。「しにゃじゃないですよ!!!!!」と『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)が慌てた様子で返す。
「そりゃあ、スモックを着てもしにゃの可愛さは曇ることはありませんが!! ハート型の可愛いスモックは裾もふりふりひらひらです。
 名札は桃の形でももぐみさんとしてこの場に降臨してるんですよ!!! まあ!!! フィールドの毒は~~いや~~~! 若いって辛いですからねー!」
 ダメージ喰らっていますと言いたげに若さをアピールするしにゃこ。そう。全剣王はコレまでの冠位魔種の能力を『模倣』しているのだ。
 これが冠位嫉妬の能力の持ち得る能力の真似事であり、スモック着用でその効能を遅らせることが出来ると言うのは『着ろ!!!!(力強い宣言)』でしかないのである。
「しにゃこちゃん!? 違うの!? じゃあ、誰!?」
 驚愕に目を剥いた焔の前でいそいそと水色のスモックに黄色い帽子姿になった『黒一点』――『蒼光双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)は臆することなく真っ直ぐとロザリエイルを見ていた。
「ロザリエイル…前回から1mmもブレないその姿勢に、少し安心しました。
 春といえば入学&卒業の季節。ここで制服を着るのは、ある種当然の流れと言えます」
 ルーキスの姿をリアがぎらりと見た。しにゃこは「犯人見たり」の表情をし、焔が「ルーキス君……!」と息を呑んだ。
「ええ。はい。言い出しっぺの責任はちゃんと取りますとも! 歩いて移動できる分、赤ちゃんよりはやりやすいはず……多分!」
 ――比較対象が可笑しいのである。
「ええ、赤ちゃんでは最終決戦に似合いませんわよ!」
「そうですね!」
 いや、そもそもスモックも似合うのだろうか。最終決戦時にスモック姿で立つ敵幹部を挙用できるのかはさて置いて。
(どんな姿であったって、何があったって全剣王を愛している。彼女にとって彼自身が大好きなんだろう……それは尊い事に思うんだ)
 目を伏せった『天下無双の白盾』レイリー=シュタイン(p3p007270)は本当にスモック姿だった。「責任者出てこーい」と呼べばロザリエイルが「わたくし!」と言うだろうか。
(あぁ、こうパルスちゃんとかは可愛いし……リア殿や汰磨羈殿とかはおかしさと背徳感があるけど。
 私には似合わないと思うし、すっごく恥ずかしい、大人っぽいセクシーなのとかならいいのよ! でも、こんなのこんなの――)
 レイリーは震える声音を絞り出した。
「ろざりいえる、どうして!」
 どうしてって、ルーキスが求めたからだと彼女は言うだろ。


 全剣王という男は燻り続けて居たのだろう。鉄帝国『らしい』男である。

 ――強者こそがすべてを恣にできる! それがこの世の摂理だ! そしてそれができるのは、この、我だ!

 その思想をロザリエイルは好きだったのだろう。強く、何よりも芯の真っ直ぐしたその人の心意気に惚れた。女の子ならば当たり前だ。
(……そうだよね。好きな人が死んだら、ましてそれが正しいとされ皆が喜ぶなら、死んで彼の元へ逝きたいよ。
 彼女に生きて欲しい。その為なら一緒に今後についても悩むよ。でも恋を諦めろとは言えない……)
 紙芝居で告げて居た。落魄れた貴族であったとしても、貴族らしささえ手にしていればいつかは再興できるとでも考えたか。
 苦しい日々を送ってきたのだろう。良く分かる。救い出してくれた王子様だったのかも、しれない。
『未来への陽を浴びた花』隠岐奈 朝顔(p3p008750)とて恋する乙女だ。良く分かる――けれど。
「それとして、unknown(23歳)ですがスモック着させて頂きます! ……どうして最後までこのノリなのですか?!」
「ゴゴ……ゴゴゴ……」
「何だか言葉分かるようになってきましたよ。『仕方ない、これもサガ』、誰のですか!?」
「洗井」
「どうしてそこだけはっきりと!?」
 朝顔は頭を抱えた。リアが先程人質に取っていた概念(洗井)―――――――!!!!!!
 冤罪ではあるが、そういうことにしておこう。この報告書はあらいらくうんが書きました。
「ああ、もう! だけど、なんだかんだでここまで来たんだ!
 アンタのやり方には最後まで付き合ってやらぁ! セーラー服? やるからには妥協するかよ!」
 憤怒の園児スモックシスター、リア・クォーツはヒーラーだろうが何だろうがずんずんと前へと進んでいく。パルスはごくりと息を呑んだ。
 これが覇気――! 流石は再現性コスプレ同好会の在り方は違う。
「まぁ、それはさておき。"そんなネタ"を仕込んできたからには、覚悟は出来ているのだろうな?
 ……ああ、それを出されたからには。無論。最 大 火 力 で 行 く ! !」
 もう戸惑うこともなくフリフリロリータ風スモックを着用した仙狸厄狩 汰磨羈には迷いなんて無かった。
「さぁ……いくぞッ!!」
「お待ちになって!!!」
 ロザリエイルは叫んでセーラー服を脱ぎ捨てた。そのまま幼稚園児スモックを着用し「皆様に合わせましてよ!!!!」――本当に彼女はぱっぱらぱーなのかもしれない。
「ええっと、じゃあ、戦おう!」
 パルスは焔と共に終焉獣の元へと駆けて行く。
「ゴレムさん、ソラムさん……良いの? 倒して。貴方達もロザリエイルさんの大切なモノなのに、私だって前回から妙な共感をしてたんだよ?」
 朝顔はまじまじと彼等を見た。ゴーレム達は『自らは全剣王がいなければ動かないような存在』だと思ったのだろう。
「ゴゴゴゴ……(主は振り切れないと、きっとこのまま死んでしまう)」
「そう……。貴方達の懸念も正しいよ、約束はあの世か来世で……なら私は死んで彼の所へ行きたい気持ちがあるから。
 せめてさ、自分達の思いをハッキリ伝えてあげてよ。生きて欲しいって」
 ゴーレム達は首を振った。自らは『全剣王』ありきだ。だからこそ、彼女の未練にはなりたくはない。
 朝顔は唇を噛み締めて「そう」と静かにそう言った。
「今回は小細工抜きの真っ向勝負だ。闘士らしく、豪快に正面から抜かせて貰う!」
 地を蹴った。そう、格好こそ胡乱ではあるがこの戦いは命懸けだ。眼前にはゴレムとソラム――ロザリエルに付き従う者が居る。
 汰磨羈はゴレムに肉薄した。ゴウゴウだとか、ゴゴだとか、そうした声を上げるのは彼女を心配しての事だろう。
「ああ、心配するなよ二人とも。あのおばかさんは、絶対に死なせやしないさ……!」
 メイはゆっくりと顔を上げた。皆を癒すのが仕事だ。だからこそ、全力でゴーレムに応えるルーキスを支え続けるだけである。
「ゴーレムさん。貴方を壊したくないし、ロザリエイルさんを殺めたりもしたくはないのですよ……。
 だって、わるいひとには思えないのです。立場が違うから戦っているだけに思えるのです」
 メイはそれでも、ゴーレム達を倒さなくてはならないならば、せめて彼等の主を救うことだけを考えた。
「ゴーレムさん。ロザリエイルさんがこの先も生きていけるよう。メイ達は心のサポートを頑張るです。だから、どうか許してくださいね……」
 絶対に皆で。その中にロザリエイルも含んで――進む道を定めるようにメイは支え続けた。ルーキスの刃は尚も曇ることはない。
「ゴレムにソラム、アンタ達は忠義者ね。安心しなさい、アンタ達の主人は懲らしめはするけど死なせるつもりはないわ。
 なんて言うか、あまりにも馬鹿すぎて敵意すら抱けないもの……あの馬鹿女の後の事は任せなさい」
 こんなに莫迦なら、なんとかなるわとリアは笑った。ゴレムとソラムとの戦いは苛烈そのものだ。
 あちらも本気という事だ。支え続けるメイとリアに頷いて、レイリーは進む。
「どうして邪魔をするのです!?」
「ああ、もう、正直マジで他人事じゃないっていうか、似てるところがあるんですよ!
 嫌ってほど解っちゃうんですよ! 親の期待に答えられずにしんどい気持ち!
 しにゃは応えるの無理だしお姫様になる! って家飛び出しちゃいました。思えばしにゃもあの頃はぱっぱらぱーでしたね!」
「ぱっぱらにゃーこ!?」
「違いますが!?」
 しにゃこは、それでも彼女の気持ちが痛いほどに分かって仕舞ったのだ。リアルなお姫様にはなれないけれど、沢山の友人に恵まれた。様々な景色を見た、良い事ばかりではなかったけれど――可愛くって大事なものをみつけたのだ。
「勿論、貴女もその大事なものの内の一つです!」
「わたくしが――」
 ときめいたのは嘘じゃない。なんか、あの子、良い子じゃないなんて想ったのだ。
 そんなロザリエイルを守るようにソラムが腕を上げた。しにゃこの弾丸がそれを逃すまい。
「…ドゥマさんは似てると思ったんだ。私と、今も私が好きな人に。
 あの人は自分を許せず理想に走り、現実を正しくないと憎んでた。
 私は自分が大嫌いだし、その人に対して何か成果を出してからじゃないと積み重ねなど無意味だと……その人に愛されないと今でも思ってるよ」
 でもあの人は教えてくれたのだ。愛する者は弱さも短所も全てが愛おしいのだと。だからこそ、ロザリエイルは『ドゥマ』の全てが愛おしかったのだ。
「私は貴女に生きて欲しい……でも、1番貴女に届くのは彼だよね? あの人との約束が私を救ったように。
 多分彼は全てを偽り、自分に向く想いを偽った自分故だと疑ってる……それは悲しいよ。私は彼の心を救いたい。その為に貴女の想いを正しく伝えなくちゃ」
「それは、あの人の弱さを愛せ、と」
 朝顔は、屹度彼女はそうしているけれどドゥマは受け入れる事が無いのだろうと悔しげに眉を顰めた。
 反転とは、そういうものなのだろう。悔しい。けれど、終わりにする戦いにきたのだから。
 受け入れられなくったって構わないというならば、彼女の心を運んでいくことだけを朝顔は願っていた。
「私は終焉を終わらせる。そのためなら、貴女を討つわ――ロザリイエル。一途に恋する貴女が大好きよ」
 真っ直ぐに、レイリーはロザリエイルを見ていた。それは、彼女が諦めないならば覚悟をしてきたのだ。
 死ぬまで戦うというならば殺してあげる。けれど、『彼女を否定しない』レイリーは死んで欲しいなんて願っては居ない。
「貴女が選んで欲しいの」
「……ドゥマという人がわたくしを受け入れるのは解釈違いですものね」
 へたり込んでからゴーレム二体の欠片を眺めて「わたくしがとんだおばかだから、あの子達には迷惑を掛けましたわね」とロザリエイルは悲しげに微笑んだ。


「アンタを死なせるつもりはない。アンタが全剣王に抱いた気持ちも……まぁ、分かるわ。
 あたしにも、あたしに色彩をくれた愛しい人が居てね、アンタの恋を否定なんかしないわ」
「ッ、何を仰るのかしら! わたくし、あの方のために生きてますのよ!」
 ロザリエイルが涙を混じらせた声音で、リアを糾弾した。長い黒髪を揺らがせて彼女はリアへと詰め寄っていく。
「わたくしが守らねばなりませんの! わたくしがあの方を救って差し上げたいわ!」
 何て真っ直ぐな愛だろうか。リアは唇を噛み締めた。スモック姿同士で交し合う言葉にしては重く、そして苦しい者だった。
「……だけど、アンタの恋の行く末は否定する。滅びを恋の成就とするなんて、そんなのもったいないわよ。
 好きな人と一緒になって、ずっとずっと寄り添って幸せに楽しく生きる――その方が、ずっと素敵じゃない」
「なら、ならば、どうしろっていいますの!?
 わたくしは、わたくしはドゥマ様にぱっぱらぱーと呼ばれるだけで幸せでしたのに!」
 ロザリエイルがへたり込む。その姿をまじまじとみてから焔は息を飲んだ。なんて、痛々しい姿なんだろう(色んな意味で)。
「……ロザリエイルちゃん。今のままじゃ、ボク達は全剣王さんを倒しに行かなくちゃいけない。
 この世界を壊させないために、全剣王さんを倒して先に進まなくちゃいけないの。
 でも、もし、ボク達が先に進むのを邪魔しないでくれるなら、倒さなくてもよくなるかも……」
「ど、どういうことですの!? スモックを脱げという事!?」
「スモックは関係ないかも。
 ボク達が倒さなくてもいいようにしてみせる。だから、一緒に行こうロザリエイルちゃん」
 驚いた様子のロザリイエルにリアは「そうよ」と頷く。
「ほら、あたしの溢れんばかりの神格位(スモッグ着用)を見なさい。なんかもう凄いでしょ? 全剣王くらいありそうでしょ?」
「でもわたくしが凄いだけじゃ駄目では!?」
「そんなことないわよ。ほら、立って。――と、言うわけでこの書類にアンタの署名をくれないかしら?
 あぁこれね、入会届けよ再現性コスプレ同好会って言う、得体の知れない組織のね。練達って国で訳分からんトンチキな格好してトンチキな事する所なんだけど」
 ――このシスター、生きる意味をなんてぱっぱらぱーな所に求めたのか!
「アンタを其処に引き入れたらあたしはあそこからオサラバできるって寸法よ! ほら! 焔にバレる前に書きなさい!
 アンタはエースになれるわ! 輝けるわ! あたしを信じなさい! さあ! 面白おかしい日常がアンタを待ってるわ!」
 衝撃を受けた様子のロザリエイルが振向いた。「わたくしが……」と呟く彼女に焔は何も気付かない様子で微笑みかける。
「きっと全剣王さんを倒さずに止められるとしたら、ロザリエイルちゃんだけだから。
 一緒に行って、ロザリエイルちゃんの想いを、もう1度伝えてあげて……滅びの神託を回避した後、魔種の人達がどうなるのかはわからないけど。
 それでも、ロザリエイルちゃんとドゥマさんが一緒にいられる未来があるかもしれない。
 そんな未来を守るために、ロザリエイルちゃんとドゥマさんが出会って、恋をしたこの世界を守るために、力を貸して欲しいんだ」
「決別は?」
 焔ははっと息を呑んだ。その隣に立っていたレイリーは「あると思うわ」とそう言った。きっと、これは片思いだから。叶わない恋をしているかも知れない。
「提案しても良い? 『ドゥマ殿の名を遺していく』……書物でも、絵画でも、言葉だけでもいい。彼の事を後世に伝えるのはどう?
 もしも、混沌が終焉しなかった時に、彼の名を、彼が『何者か』であったかを語れるのは貴女しかいないと思う。
 彼の意思を継ぐ道も、彼へ恋し続ける道も、こんな感じであると思うんだ」
「わ、わたくしが振られてしまっても?」
 レイリーは渋い表情をした、きっと苦しいだろう。
「ロザリエイルよ。単刀直入に言うが、御主は全剣王の事を見誤っている!
 私は、あの塔の中でドゥマと直に相対してきた。だからこそ言える。彼奴は――」
 汰磨羈は「わたくしが何を見誤ったと言いますの」と困惑したように言った。スモックを着用した迷うことなき『フリフリロリータ♪ たまきちゃん』は真っ向から彼女を見据えた。
「彼奴は、自身の弱さと可能性から目を背けた臆病者なのだ
 人間種を弱き種族と決めつけ、自分は人間種だから強くなれないと言い訳をし、強くなる為に人の身を捨てたと言いながら、借り物の力に身を委ねた小心者に過ぎん!
 ……彼奴自身に、全剣王と名乗れる程の力は無い。他ならぬドゥマ自身が、そう断じているのだから。人間種だから無理なのだと」
「……だから、わたくしは、あの方の力が嫌いなのですわ! だってそうではなくって!?
 借り物の力で戦う事なんて必要ありませんわ! ドゥマ様ならばうまく出来ますもの!」
 信頼か、それとも、その眸が真実を映さないだけか。恋は盲目とは言うけれど。汰磨羈は首を振った。
「てか、もういっそ全剣王にもう一回告ったらどうです?
そして思いっきりフラレてきたらいいですよ! そしたらしにゃが大笑いしてやります!
 ばっかですねぇ、一回恋が終わったからってなんだって言うんですか。ぱっぱらぱーらしく速攻忘れてまた新たな恋でも探したらいいじゃないですか!」
 しにゃこが明るく笑って見せた。ロザリエイルはと言えば「この恋一世一代ですのよ!!!!」と立ち上がる。黄色い帽子がその頭からずり落ちた。
「あの人以上は居ないぃ!? ほんとにぃ!? この世界の隅から隅までちゃんと探しましたか!?
 恋に限らずこの世界には素晴らしいモノで溢れてるんですよ!
 それをもう終わりだーなんて諦めるなんてぱっぱらぱーらしくないですけど!
 もし探し方が解らないならしにゃが手伝ってあげますよ! 友達としてね! ここまで何度も一緒に遊んできたのにまさか他人だなんて言わないですよね!?」
「友達ですの!?」
「違うんですか!?」
「大ッッッ親友ですわ!?」
 ハードルが一気にブチあがった。
 ルーキスは小さく笑ってからゆっくりと武器を下ろす。
「俺達は終焉の勢力を討つ為にここまで来た。このまま戦うと言うのなら、最後まで相手をするが……
 どうにも、まだ未練がある様に見える。そう、全剣王に対して、です。
 もし彼に伝えたいことがあるのなら、一時休戦を受け入れましょう。会うなら今しか無いでしょうから
 その後にまだ、戦う気持ちが残っていたら……その時は、改めて刃を交えましょう」
「残っていなかったらお友達になって下さる? オギャリ王……」
「待って」
 ルーキスは慌てたがロザリエイルはどこか不慣れな様子で笑みを浮かべてみせる。
「心は決まったか? この状況だ。彼に向ける感情に違いは無いか?
 否定されるかも知れない。それでも尚、愛するか? ならば、共に会いに行こう――そして、己が目で確かめるんだ」
 汰磨羈に頷いてからロザリエイルは立ち上がった。
「ええ……あの、一つだけ質問しても、よろしくて?」
 朝顔は「どうぞ」と優しくロザリエイルに手を差し伸べて――
「……着替えた方が宜しくて?」
 その問い掛けにぴしりと岩のように固まったのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 スモック着てるのにメッチャ感動する話ししてる……って思いました。
 ありがとうございます。私の心の中の『あらいらくうん』も感動しております。
 それでは、全剣王との戦いも頑張って下さいませ。

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