PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>何のために咲いているの?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●なにがいけないの?
 わたしの将来の夢は――レンセットのおよめさんになることと、かぞくをつくること!

 これは人生という物語が、互いの正義をぶつけ合い、過ちを繰り返す歴史であると証明するために存在しているのかもしれない……可哀想な少女の言葉である。

~~~

 混沌世界の各地では『Bad End 8』なる魔種達が本格的な攻撃行動を開始。
 対する人間達も迫り来る滅びを何とか打ち破るべく、決戦に向けての準備を進めている。
「おはよう、今日は少し肌寒いね」
 そんな中、深緑で暮らす【レンセット・ロンド】は目の前の少女の為だけに今日も生きていた。
「……また食事を取らなかったんだね。このまま続けていては、身体を壊してしまうよ。ティア」
 呼びかけられた女性【ユースティティア・ロンド】は、ただ窓の外を見つめながら呟く。
「ねぇレン。フェルムはどこ?」
 彼女は求めるのは大好きな娘の【フェルム・ロンド】。
 幻想種のレンセットと、人間種のユースティティアの間に生まれるはずのない鉄騎種の女の子。
 それは歪んだ絆だったけれど、三人は確かに『家族』として同じ時を過ごしたのだ。
「ティア……」
 レンセットは知っている。
 フェルムがどこにいってしまったのかを。
 ユースティティアも同じはずだ。
 でも彼女はきっと……分かっていても、分かれないのだ。
「食事に行ってくる」
 レンセットはそんな彼女を残して今日も町へと向かい歩き出した。
 辛い。
 家族を喪った今だからこそ、本当はひとりぼっちになんてさせたくない。
 だけど。
「あの『魔女』に俺達の痛みを教えてやらないといけないんだ……」
 何がいけないことかなんて、最初から分かってる。
 でも、生きている上でいけないことをしていない者など、一体どれだけいるのだろう?
 だから皆が思うのだ。
 『なにがいけないの?』と。
 生きるために、幸せになるために。
 この不条理極まりない世界を、もがいているだけなのに。


●復讐の連鎖を断つために
 その日『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)にローレットまで呼び出されていた。
「こんばんは、ヴェルグリーズさん」
「こんばんはマリエッタ殿。すまない、待たせてしまったかな」
「いいえ。お招きした側として先に待つのは当然のこと。
 それに、私も今さっき来たばかりですから」
 真実は不明だが、この短い会話の中で相手に悪気を感じさせぬよう配慮する言葉選びやその物腰柔らかな様子は、マリエッタを心優しい村娘のように思わせる。
「本日お呼びしたのは、これが届いたからなのです」
 そんなあどけないはずの女性が差し出してきた一通の手紙。
 ヴェルグリーズは既に封が切られたそれの中身を確認する。
「拝啓死血の魔女様、結婚式へのご招待につきまして?」
 世界も崩壊に迫っているのに、中々尖ったことをするものだと思った。
 だがそんな考えは招待主の名前を見てすぐに改めさせられる。
「これは……!」
 ユースティティア、レンセット。
 かつてヴェルグリーズと縁があったがために、魔種となった者達。
 そして少し前、自分達の手で彼らが子供と定めた魔種の命を断った相手からの手紙だったのだ。
「実はあれから、深緑辺りで噂をまいてみたんです」
 マリエッタ曰く、噂の内容は単純明快だ。
 フェルムという魔種は天義にて結婚式場を探していたところを呆気なく殺されたと。
 殺したのは『死血の魔女』を名乗る人物であると。
 魔女はローレットに所属するイレギュラーズであると。
「そうしたら、予想通り引っかかってくれました」
 実に平然と言ってのける。
 ヴェルグリーズもマリエッタの性格を知らぬわけではないが、まさかこうして自身を標的にしているとは夢にも思わなかったのだ。
「だとしたらマリエッタ殿。これはロンド夫妻がキミを殺そうと呼び寄せているんだと思う」
「ええ、そうでしょうとも。それが私の望み……自分が恨まれる方が何かと都合がいいですから」
「なるほど、そういうわけだったのか」
 ヴェルグリーズは様々な縁を持つ男。
 故に忙しい身ではあるのだが、時間を見つけてはロンド夫妻に関する情報は集めていた。
 思い返せば、確かにフェルムが討伐されてからロンド夫妻の犯行と思われる人殺しは極端に減り。
 代わりに魔女なる存在の行方を尋ねられたという不審な体験談が増えていたのであった。
「とはいえヴェルグリーズさんはあの魔種達と旧知の間柄のようでしたから、こうしてお伝えさせて頂いたんです」
「ありがとうマリエッタ殿。決戦の時もきっとすぐそこまで迫っているけれど、俺はこの二人を見過ごすわけにはいかなかったから、助かったよ」
「理由をお伺いしても?」
「彼らが人喰いの魔種へと至る魔術にはまだ人としての意識が定まっていなかった頃の俺が使われたんだ。
 『双薔薇の恋』という御伽噺を聞いたことは?」
「あれですか。随分昔に聞いて以来ですが」
 魔種であり番の二人が、血肉を求めて殺戮を行う物語。
 その概要だけで、おぞましいほどの邪悪を感じさせると思ったものだ。
「では終わらせに行きましょうか、その悪夢を」
「巻き込んでしまってすまないね」
「いいえ。自分から巻き込みに行ったのですよ」
 世界に揺蕩う邪悪にとって、『わるいまじょ』となるためにね。

~~~

 二人がローレットを出たところでは『無尽虎爪』ソア(p3p007025)が待ち受けていた。
「やっほー、ボクだよ」
「ソアさん、こんばんは」
 ソアもまた精霊種。
 しかも人間に興味を持ち、人間に憧れた末にこの姿を手に入れた存在だ。
 彼女もまた先日の事件で人を喰うという魔種に対して色々と思うところがあり、独自に調査を進めていたのだ。
「ごめんね。わざとじゃないんだけど、丁度このあたりを通りかかったら二人の話が聞こえちゃったの」
 超聴覚の悪い癖だね、なんて笑ってみせる。
「実は最近、深緑の中に変な教会が建ったらしいんだ。それも天義式の」
「教会が? 一切あり得ない話でないけれど、少し違和感は感じるね」
 ヴェルグリーズの脳裏に、フェルムを葬ったあの場所が浮かぶ。
 どうやらそれは他の二人も同じようで。
「だよね。それでもっと調べてみたら、やっぱりボク達がロンドって魔種2体を倒したところとそっくりなんだって」
「そうでしたか。招待状では名指しで呼び出されただけでしたから、どうしようかと思っていましたけど……探す手間が省けそうですね」
 相手からの招待を受け、行先が決まった。
 後は乗り込み、事を為すだけだ。
「二人が話をしてる間に、手伝ってくれそうな皆にも声をかけておいたよ」
 こうしてソアと彼女が集めていた仲間達も合流し。
 ヴェルグリーズとマリエッタはロンド夫妻の討伐へ向かう事となる。
(結婚式か……)
 ヴェルグリーズは剣として生きていた記憶の片隅に僅か残る、まだ人間だった頃の少女の言葉を思い出す。

 ――大嫌い。こんな世界も、何もかも……
   でも、レンセットはわたしと、生きたいと望んでくれたから。     
   ……わたしは、レンのために、生きてるの。
   いつか、二人で結婚式をするために。

 一行は、そんな少女の願いを壊すために、先を急いだ。



※関係者関連SS
 以下を読んでいなくとも問題無く参加できますが、知っていると関係者回りの解像度が上がります。
(全て染NMご担当)

●ユースティティアとレンセットの経緯
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/1627
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/1595

●三人が家族になった日
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/1613

GMコメント

●目標(成否判定&ハイルール適用)
 ユースティティア・ロンドの討伐
 レンセット・ロンドの討伐

●優先
※本シナリオは、関係者に基づき制作されています。また、アフターアクションも採用しております。そのため以下の皆様(敬称略)へ優先参加権を付与しています。
・『無尽虎爪』ソア(p3p007025)
・『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)
・『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)

●冒険エリア
【深緑内某地】
 木製の大きな教会内合計2km程度(以後「教会」表記)
 (木々を結び付けているのは特殊な魔力を宿した茨です)

《依頼遂行に当たり物語内で提供された情報(提供者:マリエッタさん、現場での状況判断 情報確度B)》 

●人物(NPC)詳細
【【あなたのための白い薔薇】ユースティティア・ロンド】
 暴食の魔種。
 深緑に捨てられ、幻想種として育てられた元人間種。
 本来は心臓の病で死ぬはずでしたが、後述するレンセットの魔力と禁呪の魔導書、当時人としての意識が覚醒していなかったヴェルグリーズさんの魔力によって人を喰らうことで生き長らえる魔種と化しました。
 自身と似たような禁術を施すことで家族となったフェルムが殺された事により、精神崩壊。
 怨みの対象であるイレギュラーズ達を喰らうために食事を我慢し続けた結果、今は飢えた獣です。
 攻撃全てに【HA吸収】と【失血系列】、【反動2000】。
 全てのステータスが高いですが、とりわけ機動力と反応が高めのCT型です。
 前に出て積極的に戦います。

【【君だけを愛す黒い薔薇】レンセット・ロンド】
 傲慢の魔種で元幻想種。
 ユースティティアと種族違いの恋に落ちましたが、運命は種族の違い以外にも試練を与えてきました。
 病に侵され死ぬ寸前だった彼女を助けるために施した禁術がきっかけでユースティティアが反転。
 自分も彼女と同じ境遇で同じ時間を過ごすため、ユースティティアの呼び声を受けて反転しました。
 彼女を反転させてしまった事に一抹の後悔と責任を感じていたため、人を喰らう事を避けていましたが、フェルムの一件で心変わり。
 復讐を果たすため手近な人間を食い散らかし魔力を存分に高めています。
 エリア全域に届く神秘アタックと多種多様なバフデバフヒールをこなすオールラウンダー。
 防御面は多少低いのでそこをつきたいところですが、彼を狙うには茨とユースティティアを突破しなければなりません。

【【羽ばたくための鈍色の翼】フェルム・ロンド】
※関連シナリオ
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/10608
 嫉妬の魔種で元鉄騎種。
 関連シナリオにてイレギュラーズに討伐されました。
 OPで出ている鉄の羽根は彼女が、ロンド夫妻の子供として家族になった時に生えたもので、戦国時代風に言えば首が贈られてきたのと同義です。
 本シナリオの舞台である木製の教会は、フェルムが二人に結婚式場として紹介しようと思っていた教会を模して茨で作られたものです。


●敵詳細
【ロンド夫妻】
 個々のビルドは人物(NPC)詳細をご参照下さい。
 両者とも【棘】【カ特レ(1ターンにつき3回まで)】を装備。
 カは妻ならば夫、夫ならば妻を狙う相手に対して積極的に利用してきます。
 また、夫婦共に教会を守るように動きます。
 【怒り】効果半減。(狙いは自身に向けられますが、カでの行動指針が優先します。また、レンセットは基本的に移動しません)

【終焉獣】
 これまでロンド一家が食い荒らしてきた人達の内、鉄騎種の機械や飛行種の翼、ゼノポルタの角、秘宝種のコアなど、食事に適さない部分を媒体に、滅びのアークで仮初めの肉体をくっつけた存在です。
 レンセットが供養のためこっそり持ち帰ってお墓を建てて供養していたのですが、子供を無残に殺された怒りでなりふり構わなくなっております。
 PC目線だと元がどの種族だったか大体分かります。
 数多め、戦闘力低め。
 またキメラ化している個体も数体おり、それらは中々に強敵です。

【茨】
 所々に黒と白の薔薇が咲いており、それ以外は棘まみれの植物です。
 ロンド夫妻の魔力により動いています。
 教会のあちこちから飛び出しては攻撃してきます。
 単純な物理ダメージの他に、絡みつかれると機動力が低下。
 棘に刺されると【毒系列、火炎系列、出血系列】のランダムBS付与があります。
 通常攻撃で払いのけることはできますが、こちらの対処ばかりではロンド夫妻を攻撃することができなくなるでしょう。

●特殊判定
【茨のバージンロード】
 教会が教会として成立する間、以下の判定が生じます。
・【能率ー200】
  →皆さんが所持している能率にこれを加算します。
   能率100の方であれば能率-100となり、AP消費2倍。
   能率0の方であれば能率-200となり、AP消費4倍となります。
・毎ターン【Mアタック100】
 (HPダメージに至った場合3倍ではなく30倍で判定)
・敵の攻撃全てに【摩耗20】追加

●エリアギミック詳細
<1:教会(戦闘エリアは2km四方)>
 屋内です。月明かりが窓枠からさしています。(ガラスは入っていないのであくまで直接光が入っている状態)
 薄暗いので注意して下さい。
 教会の中には沢山の黒と白を基調とした物や花が置かれています。
 どうやら大半はロンド一家の思い出が詰まった品々のようです。
 魔種達は結婚式場だと謳いますが、PC目線では葬儀場です。

<全般>
光源:1注意
足場:1問題なし
飛行:1可
騎乗:1不可
遮蔽:1注意(物は遮蔽ですが、壁や柱は茨が中に通っています。過信すると隙をつかれます)
特記:特になし

《PL情報(提供者:GM プレイングに際しての参考にどうぞ)》
【主目標のために何すればよい?】
 魔種2体を倒します。
 しかしロンド夫妻に辿りつくには終焉獣と茨が邪魔な戦闘です。
 特に厄介な茨のバージンロード効果を何とかしたいところですが、単純に効果破壊を狙うような行動は、他の茨や夫妻に妨げられてしまうでしょう。
 結婚は人生の中でも大きな行事の一つです。
 それをぶち壊すというのですから、しっかり演出して下さい。

【プレイングのススメ】
 単純な戦闘行動も重要ですが、ロンド夫妻はステータスが高く、茨による消耗も大きいこちらが純粋戦闘を選ぶとかなりじり貧になりやすい環境です。
(特にユースティティアは反動2000が気にならない程の吸収や自己回復性能を持ちます。手数も多いです)

 人とは、親とは、家族とは、生きるとは、自分達の生きる上での覚悟とは。
 各々が思う心をぶつけ、相手の思考や行動ルーチンを乱せると、狙いが通りやすくなるかもしれません。
 また、相棒が死亡したり教会が崩壊すると魔種のステータスは下がります。
 とはいえ、相手は狂気に堕ちた魔種の中でもとりわけ『覚悟が決まった』二人です。
 投げかける言葉によっては相応の反撃を覚悟しておきましょう。

・その他
目標達成の最低難易度はH相当ですが、行動や状況次第では難易度の上昇、パンドラ復活や重傷も充分あり得ます。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 HPAPが全て尽きて戦闘不能になると、ユースティティアに物理的に喰われます。
 そうなる前にバージンロード効果を何とかしましょう。

  • <終焉のクロニクル>何のために咲いているの?完了
  • GM名pnkjynp
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シラス(p3p004421)
超える者
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ

●黒薔薇の愛と哀
 【ユースティティア・ロンド】と【レンセット・ロンド】から送られた招待状に従い深緑へとやってきた一行。
 つい先日世界各地がBad End 8の侵攻にさらされた折、この国も相応の被害を受けたものの。
 イレギュラーズ達の活躍によってワーム・ホールが塞がれた今は、決戦に至るまでの僅かなモラトリアムを過ごしている。
 そんな状況下において昨今急に出来た天義風の教会が無いかと尋ねれば、目的地はすぐに見つかった。
「ちっ、嫌んなる話だな」
 『竜剣』シラス(p3p004421)が一人ごちる。
 人手が要るということで、闘技場でチームを組むことも多い『無尽虎爪』ソア(p3p007025)の呼びかけに応じ駆けつけたはいいが。
 関連する依頼の報告書は、読んでいて気分が良いものではない。
(子供が殺されたことを知らされた母親か)
 少し前、仲間達によって討伐された魔種【フェルム・ロンド】がその子供だ。
 血は繋がらぬものの、家族となった二人の為に結婚式場を探していた彼女。
 親の喜ぶ顔が見たいから。自分の頑張りを褒めて貰いたいから。
 毛色は違うが、フェルムの考え方に思うところがないわけではない。
 今もしそんな意気込みで家を出た子供が死んで帰ってきたら、親はどう思うのだろうか。
 自分だけのために悲しんでくれるのだろうか。
(……何も聞かずに仕留める方が楽で良かったぜ)
 考えても詮無きことだと首を振り、シラスは教会の扉へ手をかけた。
 木製の大きな扉がギィと音を立て開く。
 まず目を惹いたのは入口から伸びる真っ赤なバージンロード。
 だが裏を返せば、それ以外は色の失せた空間であった。
 絵や写真、何らか思い出の品であろう数々等が配置されてはいるものの。
 それらを装飾する薔薇は全て黒と白。
 人を寄せ付けぬ茨の棘が張り巡らされているのも相まって、葬儀場と呼ぶ方が似つかわしい雰囲気だ。
 無数の茨で縁取られたバージンロードの先、本来なら神父の立つ位置にはレンセットの姿が見える。
「ようこそ『死血の魔女』ご一行様。今日は私達の結婚式にお越し下さりありがとう、と言っておこうか」
「ええ。こちらもわざわざお招き頂けた事、嬉しく思いますよ。もっとも、些か遅すぎて待ちくたびれても居ましたが」
 『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が薄らと微笑えば。
「それは申し訳ない。娘がお世話になったようだからね。万全の状態でお迎えしたかったんだ」
 落ち着いた言葉のやり取りに、皮肉の刃が舞い踊る。
 その様子を『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)が苛立たしげに見つめる。
(マリエッタは本当にもう……どうして自分を囮にするような事をするのかしら!)
 考えがあるのは分かる。
 けれど自他共に姉妹と認め合う相方を危険に晒しておけるほど、セレナはお利口さんではない。
「わたしはマリエッタの妹、セレナよ。死血の魔女への復讐がお望みなら、わたしの存在も無視できないんじゃない?」
「セレナ……」
 マリエッタが小さく息を吐いた。
 並び立ち臨戦態勢を取るセレナ。
 先日血を交わした時もそうだが、我の出し方が上手くなってきているように思う。
「妹がいるとは知らなかったよ。家族がいるのは素敵な事だからね。勿論歓迎するとも!」
 レンセットは魔導書を開くとふんだんな魔力を惜しむ事無く注ぎ込めば。
 教会全体に敷き詰められた茨の這う音が聞こえ始め。
 参列者席に座っていた滅びの気配を纏った人であった何か――終焉獣も立ち上がる。
「これは……ひどい」
 終焉獣を見たソアが零す。
 それもそのはずで、終焉獣の身体を構成する大部分は滅びのアークであったが、所々に混沌世界で生きる種族達の特徴が色濃く残っている様は見るに堪えなかった。
 これではまるで生ける屍ではないか。
「皆、気を付けてくれ。レンセット殿が持つあれは禁書。古い禁忌の数々が記されているはずだからね」
 『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が己の象徴たる剣を構えた。
 かつて意識が目覚めきる前の自分も加担してしまったからこそ知っている。
 あの本は命を弄び人を狂わせる魔本であった。
「おや……それは魔剣ヴェルグリーズ。見るのは何処かで落として以来だ。幾多の人間の生き血を啜った剣にしては……随分と優しそうな人の手に渡ったんだね。良かったじゃないか」
 レンセットはその人こそがヴェルグリーズであると気づいていない。
 当然、この剣がフェルムの命を奪った事など知る由もない。
 だからこそ剣に向けられる言葉は本物だった。
「でも残念だよ。ユースティティアを救ってくれた剣がこうして敵となるなんて」
 思い返される沢山の主。その中には道を踏み外した者も大勢いる。
 けれど誰も彼もが根っからの悪人という訳ではない。
(そう、キミ達の願いはとにかくささやかだった)
 生きて、結婚して、家族を作って、皆で幸せに。
(俺がそんな願いを叶えられるような存在だったならどんなに良かったか)
 当時のヴェルグリーズに出来たのは、生きる時間を少しだけ延ばすこと。
 そして同時に、世界に嫌われる呪いを刻むこと。
「……そうだね。きっとこの剣も残念に思っているよ」
 例え意図はなくとも、罪がある。
 その重みを感じる美男子は、敢えてただの剣士として答えた。
「さて、そろそろ挙式といこう。おいでティア」
 レンセットが呼びかけると、教会奥の扉が開く。
 出てきたのは、お気に入りの真っ白なワンピースに似たドレスを纏う少女――ユースティティアであった。
 悲しみに暮れ、食事も禄に喉を通らなかった魔種の女。
 ユースティティアがこの先も生きていくためには生きた血の補給が必要だった。
 そんな彼女を何とか立ち直させるため、レンセットは自身との結婚式という舞台を用意したのであった。
「この人達を食べてお腹一杯になったら、幸せな結婚式を挙げよう」
「……」
 本来であればユースティティアはレンセットよりも聡明であったはずだ。
 命の儚さを知る故に人一倍早く大人を目指した少女であったはずだ。
 だが今は、子を喪い涙が乾ききった母であり。
 暴食の欲望が解き放たれる寸前の飢えた獣であった。
(私は君達に求めたい。フェルムを殺し、ティアを壊した償いを)
 全ては双薔薇が咲き続けるために。
 そして亡き娘の復讐を果たすために。
 レンセットの抱く愛と哀が、イレギュラーズへ襲いかかる。


●グリーティングタイム
 敵味方入り交じる形での戦闘となる一行。
 飛び出してきたユースティティアの一撃を『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が暗い空に煌めく星を抱いた盾で受け止める。
「こんな結婚式、誰にも祝福されない。幸せになれないよ……!」
「祝福? そんなの無くたってわたしは幸せだよ……レンが愛してくれるもの!!」
 悲しみとは別に、確かな愛が燃えている。
 愛する者だけを信じ、そのためならば全てを擲てる覚悟の温度だ。
 だがフラーゴラも負けてはいない。
「そんな悲しいこと言わないで。現にワタシは、二人を素直に祝福したくてここにいるんだよ……!」
 本当だと証明するように、フラーゴラは反撃を控え防御と味方の強化だけを続ける。
「……わたし、嘘つきは皆嫌い!」
 ガリガリと。
 血に飢えた魔力の爪が盾越しにフラーゴラの命を、魔力を傷つけるも。
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が放つ音の波がユースティティアを弾いた。
「落ち着いてくれ。俺達は招待状を見てここに来た。だとしたらその理由はなんだ? 当然貴方達を祝うために決まっているだろう!」
「そんなわけない! ローレットは、死血の魔女は、人間は無慈悲なの!」
 捨てられ、苦しい環境で育った経験が彼女を激昂させる。
 何も知らない子供じみた態度の裏側に、確かな嘆きが隠れている。
 消耗を分割するためフラーゴラと入れ替わった『未来への陽を浴びた花』隠岐奈 朝顔(p3p008750)は、そんな彼女の攻撃に顔をしかめた。
(自分でも心の整理が出来てないくらい、苦しいんですね)
 ユースティティアの有り様は、どこか記憶を失い生き方に迷っていた頃の自分に似ている。
(大切な子供を失って悲しむ気持ちも、結婚に憧れる気持ちも、愛する人と生きていたいという気持ちも。想い自体は間違っていないですけど)
 朝顔は約束という陽を浴びることで、再び花開くことができた。
 なれば今の彼女にとっての陽は、やはり結婚の成就以外にないだろう。
「先輩方の気持ちは本当ですよ! 私だって……!」
 朝顔は歌う。
 人生の門出に送る祝詞を。
 口を開けば二枚に分かれた舌が顔を覗かせるが、この位置ならば仲間達に見られる事もない。
「やめろ! ティアも私もフェルムも、他人に除け者とされて生きてきた。魔種になるよりも前からずっと! だから互いだけを支えに生きていた!! それを今更寄り添うだなんて!!!」
 レンセットが妻に近づく者を狙い終焉獣や茨を差し向けるも、雷を纏ったソアの爪が裂いていく。
「ボクには人間の心の機微を理解するのは……まだ少し難しいの」
 魔種が傷ついていることは分かる。
 とはいえ恋や愛、家族というのは人間の感情の中でもとりわけ『深い』分野だ。
 時間をかけてかなり人間的な振る舞いや営みについて学んできたとはいえ、ソアにはかけてやるべき言葉が見つからない。
「でもね。ダメなことと良いことの区別は、間違えないよ」
 けれど確かな事として。
 他者を傷つけるような生き方、ましてや他者の命を奪う生き方など人間社会では許されない。
 なれば自分は全力で人の障害となるものを排除していくのみだ。
「何がいけないの? お前たちも牛や豚を殺すでしょ? 其れとおんなじ。わたし達もごはんのために殺してただけ。それ以外は殺さなかったのに……だから死血の魔女だけは絶対に惨たらしく殺してやるの!」
「マリエッタを殺す、ですって? ……そんなこと、わたしが許す訳が無いじゃない!」
 心に沸き上がる憎悪を堪えながら、セレナは結界を展開すると箒に乗ってユースティティアへ肉薄。
 絡みつこうとする茨も結界で防ぎながら、眼前の『魔物』が自身から目を離せないよう立ち塞がる。
「マリエッタは、わたしが絶対に……護るわ!!」
「魔女は、わたしが絶対に……殺す!!」
(憎まれたものですね。……けれどこれで良い)
 茨を払いのけながら、マリエッタは思う。
(生きて幸せになるために、生き足掻くことは何も悪くない。苦しみも言われなくても知っている……いくつの人から奪った事か)
 マリエッタの生き方は、相対する者にとって肯定であり否定である。
 魔種はそも人の原罪たる欲望の果てに堕ちるもの。
 自分勝手であろうとなかろうと、そこには何かしらの理屈や思いがあるはずだ。
 それを理解し、感情の存在を肯定し、その上で更なる悪意でこれを制する。
 『マリエッタ』でも『エーレイン』でもない、今世に生きる死血の魔女マリエッタ・エーレインの覚悟である。
「レンセット、聞いての通りです。貴方達が私を怨むのは構いませんが、私の仲間が貴方達を祝するのも自由なはず。ならばまずはご結婚されては如何ですか? 信じられぬというならこの通り」
 マリエッタは血の魔術による防御を解くと、自分から茨の棘を迎え入れた。
 腕や足に強く絡みつけば、茨は彼女の魔力を奪う。
 同時に、深く魔力と結び付いている彼女の血液もまた、吸われていく。
「マリエッタ!?」
 ユースティティアを抑えるセレナが悲痛な声を上げた。
 しかしマリエッタが目でこれを制する。
 我が強いのは姉妹揃って同じなようだ。
(少し戦っただけでこの消耗だ。どのみちこのままにはしておけないな)
 シラスもまた茨を引きちぎる手を止め、交戦の意志はないと手を挙げてみせる。
「どうだろうユースティティア殿、レンセット殿。入場行進から誓いの言葉まで。こちらには出来る限り盛り上げる用意がある。ケーキ入刀がやりたいのなら丁度いい、かつて調理にも使われていたというこの剣を貸してあげるよ」
 ヴェルグリーズに至っては剣をレンセットの前に投げ渡してみせた。
(ヴェルグリーズ)
 危険が過ぎると小声でシラスが呼びかければ、ヴェルグリーズは心配ないと首を振る。
(正直賭けではある。だけどこれは元々俺の犯した罪……少しでもその贖罪となるのなら)
「……戻ってくるのか、ヴェルグリーズ」
 剣を拾い上げたレンセット。
 刀身には優しげな蒼い光が揺らめいている。
 人間なんてもう信じるものかと堅く思っていた。
 けれど、人間を介して命の恩人とも言える魔剣が返ってきた。
 信じられない偶然に思えた。
 もしこの偶然が続くなら。
 もし本当に彼らが祝ってくれるのならば。
 愛する妻に、たくさんの祝福を与えられやしないだろうか。
「……嘘でないと誓えるのか」
 レンセットは元々争いを好まない男であった。
「ええ、誓いましょう。私とセレナはともかく。私の仲間達は、貴方達を心から祝福すると」
 マリエッタは元々それなりの美しさを持つ村娘に見える女であった。
「話は決まりだな。早速準備にかかりたいが……ここの茨、少し抑えてくれないか? 飾り付けの邪魔になる」
 イズマもまた剣をしまうと魔術で色取り取りの薔薇を作り始め、それを受け取ったフラーゴラや朝顔が会場のあちこちへ駆けていって添えた。
 勿論茨に触れれば魔力が吸収され消えてしまうため、レンセットは茨の後退を余儀なくされる。
「セレナ、聞こえていたでしょう?」
 手足に絡みついた茨が引くのを見てマリエッタが声をかければ。
「……ティア」
 レンセットもまた、睨み合う相方に休戦を促す。
「……分かったわ。まずは結婚式を終わらせましょう」
「……ふん」


●幻影のバージンロード
 元々建物は教会の作りなのだ。
 薄暗いながらも月明かりが差し込む空間に淡く光る色味が添えられれば、幻想的といえる。
 用意された品々だって、遺品で無ければ温かな思い出が詰まったもの。
 悲しみを想起させてしまうようなフェルムに関わる部分を隠してやれば、それも薄まろうか。
 簡素ではあるが、出来るだけの事をした一行。
 レンセットの指示により終焉獣や茨は教会の奥深く、深淵の闇に隠れ。
 魔種の二人も扉を隔てた向こうでその時を待つ。
「演出できるのはせいぜい1分といったところだ。しっかり味わってくれよ」
 イズマが幻想で流行りの結婚行進曲を演奏し始めるのに合わせ、新郎新婦が入場する。
 黒と白の薔薇で作られたブーケを持つユースティティアは確かに花嫁であったが、表情はまだ明るいとは言い難い。
 空腹、復讐心、今まさに叶おうとする夢。
 ないまぜとなった心を結婚に集中させるためには、まずは五感から。
 イズマは演奏の傍ら、教会全体に少しずつ光の幻を作り出し、心理的環境を整えていく。
(幻想種にはトラウマがありそうだが……確か報告書だと娘は鉄帝出身だと言っていたか。それなら)
 演出に加わると決めた面々は各々が思う結婚式の幻影を作り出す。
 二番手のシラスが呼び出したのは沢山の参列者。
「あ、あの闘士さんこの前戦った人だ」
 それはソアにも良く見覚えがある人物達。
 主に自身が個人戦やソアとのチームマッチで戦ってきたラド・バウ闘士を思い描いた。
 もしフェルムが幸せな日々を過ごしたのなら、この中に友人の一人もいたことだろう。
 続く朝顔が用意したのは神父と祭壇。
 最初に交戦した状況の都合上、入口と出口が逆向きになってしまっているのだからこれも必要だろうという判断だ。
(綺麗な教会で、平和を生きる人々が幸せな結婚式を挙げられる……)
 そんな日常こそ、きっと朝顔の中に生きる『彼』が望んだ世界の一つ。
「結婚おめでとう……!」
 参列者席に並ぶ幻影の中には、精一杯に手を叩き生の声を届けるフラーゴラも混じっていた。
 少しでも現実味が増すように。
 何よりも、花嫁が幸せであれるように。
「……嘘つきじゃ、ないんだね」
 横切る花嫁が呟く言葉。
 人間種でも幻想種でもない、獣種の優しさはユースティティアに染みていく。
(……ゴメンね)
 フラーゴラは聞かせぬ真意を返した。
 二人は赤いバージンロードを、一歩一歩踏みしめ進む。
 ある世界では、これを花嫁の人生に例えるという。
 入口から祭壇へ向かい、誕生から歩んできた日々を象徴するのだそうだ。
 それに習うなら祭壇の前で立ち止まるのは今。
(たとえ偽物だとしても最高の瞬間をキミ達に)
 ヴェルグリーズが作り出した幻――フェルムが二人へ台車にのったケーキを差し出す姿がそこにあった。
「……! フェ……!!」
 花嫁の瞳から一瞬で涙が溢れ出す。
 分かっていたはずだ。
 でも受け入れられなかった。
 だから苦しかった。
 どうしてあなたはそこに咲いていて。
 私達の隣に咲いていないのか。
 その答えが欲しかった。
 ――結婚おめでとう、お父さん。お母さん。喜んでくれたら嬉しいな。
 幻影の口が、小さく動く。
 それは幻、現実からみれば歪んだ偽りに過ぎないけれど。
 確かな愛が、三人の間にはあった。
「さぁティア。ケーキを切ろう」
「……うん!」
 本来ならいるとも知れぬ神に誓いを捧げたり、キスをするところであるが。
 折角魔剣もここにあるのだ。
 二人は自分達の始まりとなった儀式を行うことにした。
 フェルムが来る前も後も、ずっと二人は共に歩んできたけれど。
 『夫婦』としての祝福を受けた上での、初めての共同作業を行う。
 魔剣に手を添え、ゆっくりと降ろし。
 誓いの言葉を口ずさむ。

 Surrexerunt mea sponsa. Amabo te, utcumque plures temporibus sum renatus.
 ――我が花嫁は立ち上がった。永遠の君を愛している。

 誓う愛の言葉は未来への約束である。
 だが。これら全てが逆の意味を持つとするならば。
 二人は歩んだのだ。
 未来から今、今から過去へ。
 そして辿りついたのだ。
 二人が生まれてしまったあの禁じられた日へ。
 その先に待つのは、選ばれなかった可能性。

「おめでとうロンド夫妻。祝福しましょう、この死血の魔女が」

 夫婦の顔が、ケーキから離れ神父の方を向く。
 御伽噺の時間が過ぎれば、幻影は徐々に薄れ始めて。

「貴方達の子供の命を喰らう魔法を唱えたこの口で。祈りましょう、どうか末永くお幸せに」

 完全に幻影が消え去れば。
 そこには、悪辣非道たる魔女の微笑みがあった。


●業火のデッドロード
 執り行われたのは本当の結婚式であった。
 愛し合う二人がいて、幸せを誓いあった。
 ただそれは、未来への旅立ちではなく。
 終わるべきであった物語のエピローグに過ぎなかったのだ。
「禁忌に手を染めた時点で、幸福も祝福も望めるものじゃない。待つのは……ただ破滅だけよ」
 マリエッタの対面、元々レンセットがいた位置に立つセレナ。
 彼女は精神のモナドに作用すると言われる護符を破り捨てると、魔力を一気に解き放ち炎の魔人を召喚する。
「本当に酷い場所だわ。人の命を喰らう飢えた獣、死者の尊厳を愚弄する禁呪の魔術師。あるのは吸血の茨と取り残された遺品だけ。こんな世界、わたしが燃やし尽くしてあげる!!」
 セレナは魔女である。
 しかしながら心優しき夜守の祝福を授けることができる存在でもあった。
「マリエッタを殺そうとしたこと……絶対許さないんだから!!!」
 そんな彼女がこうして咲き乱れるのは、どうしても隣で咲きたい居場所があるからに他ならない。
 セレナの周囲から燃え広がる炎。
 茨が導線となって、昏かった教会は瞬く間に紅蓮へと染まり。
 教会はその意義を失っていく。
「行くぜソア。お化け屋敷はもう充分だ」
「おっけーシラスさん。みんなの憎しみも悲しみも、まとめて灰にしてあげよう」
 魔種達の理解が追いつく前に、竜虎が飛び出した。
 ソアは炎にまかれ飛び出た茨を全力の雷で焼き払い。
 シラスは竜剣と称された神速の拳を魔種二人に撃ち込み、怯ませる。
「ヴェルグリーズさん、これ……!」
 次に迫っていたフラーゴラが、手からこぼれ落ちた蒼剣を取り上げると投げ渡す。
「ありがとう、フラーゴラ殿」
 ここからは剣士たる男もまたヴェルグリーズだ。
 魔種達との戦いへ集中すべく、ヴェルグリーズは火の影響が届いていない茨を断っていく。
「お前……!」
 フラーゴラが声に振り返れば、花嫁の瞳は怒りの狂気に満ちていた。
「嘘じゃなかったよ、ううん。むしろ嘘なら良かったとすら思ってる……」
 どうしてこの二人は魔種なのだろう。
 魔種は倒さなければならない。
 元に戻る方法もなければ、重ねた罪を償う方法すらない。
 それが世界の摂理だと分かっていても。
 フラーゴラが結婚が彼らに対して抱く思いは間違いなく真実で。
 もしも友達として出会うことができたなら、きっと全力で助かる方法を探してあげたことだろう。
 だって愛はゲヘナの炎よりも熱く、尊いものであるのだから。
「ユースティティアさんアナタの思い、ぶつけていいよ。もしワタシ達に勝つことができるなら、その恋の物語は続いていくはずだから……!」
 結末は見えている。
 それでも、もしもの友に今際の夢くらい見せてあげたいじゃないか。
「うわああああああ!!!!」
 ユースティティアが涙を残して神速一閃。
 それを朝顔が身体を張って食い止める。
「どうして、なんで、なにがいけないの!?」
 慟哭にも似た響きだ。
「貴女達は手段を間違えたんです。どんなに清らかで美しい想いがあるのだとしても、自分達以外の者を犠牲に肯定すれば、必ず罪の報いを受けます。悪魔に魂を売った者は……この世界を生きることなんて、許されないんですよ!!!」
 朝顔もまた怒りと悲しみを背負っていた。
 何故天義式の教会で魔種が幸せを掴めるのかと。
 人の命に人が価値を付けるなど烏滸がましい。
 比べること自体が不適切だ。
 それでも、理想と正義を抱いて戦う姿が過ぎってしまう。
 天義の大聖堂で散った彼。
 少しでも彼の願いを叶え、生まれ変わってきてくれる世界を綺麗なものとするためには。
 死が満ちた空間などあってはならないのだ。
「終焉獣よ、茨よ!! 全てを喰らえ!!」
 ユースティティアを庇うべく、レンセットは終焉獣を呼び寄せながら魔法陣を展開。
 イレギュラーズ全員を狙った強力な魔法を唱えようと試みるが、それより早くイズマの魔力が撃ち込まれる。
「くっ!?」
「無駄だ。今の一撃で貴方の魔力を封印した」
「最初からこれが狙いか……!」
「いや、どちらも本当だ。幸せを望む権利は誰にでもある。だから出来うる限りでそれを叶えたいとは思うが……この先へ進むには、貴方達が犠牲にした命は多すぎる」
「レン!」
 朝顔から離れたユースティティアがイズマを狙う。
 しかし先んじて放たれた血の魔術がその身体を切り刻み、真っ白なドレスを朱色に塗り替えた。
「つっ――! ……魔女ぉぉぉ!!!」
 花嫁は止まらない。
「さぁ終わらせましょうか、この輪舞を!」
「ええ、わたし達魔女姉妹でね!」
 次の一撃は合流したセレナの結界が拒むのであった。


●双薔薇の愛よ永遠に
「ティア、早くこっちへ!」
 火の手が強まる現状から逃れるべく、レンセットは彼女の手を引いた。
 二人の歩んだバージンロードは燃えてしまったが、その先にある出口――未来を信じて駆けていく。
「いかせられないよ……!」
 そこにフラーゴラが立ち塞がった。
「どいてくれ!」
 魔力が封じられているレンセットがとっておきの終焉獣を繰り出す。
 複数の種族の特徴が見受けられるキメラ体は、連続攻撃でフラーゴラを痛めつけるも。
「こんな熱じゃワタシ達は燃え尽きないよ!」
 フラーゴラは癒しの魔力を放ち、自分や仲間達の力を蘇らせる。
 茨の力で奪い盗ろうにも、炎によってその大半は焼失済だ。
「なら押し切るだけだ!」
 レンセットは更に一体を召喚。
 だがイズマ、セレナ、マリエッタが次々と放つ魔法で、ロンド夫妻ごとキメラ体を蹂躙する。
「もう、おやすみなさいの時間だよ」
 動きの鈍ったキメラ体では、切れ味鋭いソアの爪は避けられない。
「人を食べた後にこんな風にするなんて、何か意味があったんじゃない?」
 命を狩るだけなら、今のソアのように遠慮無くやればいい。
 食事としてだけなら、不要な部分は捨てればいい。
 だというのに。
 終焉獣に取り込まれた『パーツ』は、土を被っていた痕跡以外はどれも綺麗なままであるように思えたのだ。
「そ、それは……」
 レンセットの心が揺れる。
 彼女と共に咲くために、迷いなんてあるはずがないと思っていた。
 しかしそれでは自身が食事を好まなかったことにも、墓を建てて供養していたことにも、説明がつかない。
「罪の意識の表れ……なんですよね」
 朝顔が答えを突きつける。
「辛くても、貴方は過去の時点で彼女を送ってあげるべきだったんです」
 鬼人種である朝顔は能力の影響もありこれまで何度も魂の供養に立ち会ってきた。
 だからこそ思い悩んでいる。
 人を人たらしめるものがなにか。
 魂、記憶、身体。どれも正しく、どれもそれだけでは不正確だ。
 けれどこの難問にもし、一つ確かであること述べるならば。
 禁術を使った時点で、二人とも人としては死んだのだ。
「ふぅー。こんなところかな」
 狩人たるソアが連撃をもってキメラ体を沈め。
「残りの終焉獣も茨も全て片付けたよ」
「後は、あんたらだけだ」
 ヴェルグリーズとシラスが魔種を見据えた。
「わたしは、わたしは――!!」
 ユースティティアが決死の覚悟で飛び出す。
「やっと結婚できたの! また家族をつくりたいの!! 他にもやりたいことがいっぱい、いっぱい……!!!」
 ヴェルグリーズは彼女の爪を、痛みを、剣と身体で受け続けた。
「……ユースティティア殿」
 既に魔法で血を喰らう力を封じられた彼女にとって。
 それはまさに命を削った叫びであったから。
「やっと幸せになれるんだから!! レンと一緒に……ずっとずっと、咲いていくんだから!!!」
「ティア……! 止めるんだ、もう……!」
 レンセットの声も震えている。
 見かねたシラスがユースティティアの腕を掴んだ。
「俺がやろうか」
「……いや、任せてくれ」
「分かった」
 シラスが軽く押してやれば、命をギリギリまで削った少女はふわり花のように倒れ込み。
 男はそれを愛おしそうに抱き止めた。
「二人とも。実は俺は、魔剣ヴェルグリーズそのものなんだ」
 真実を告げ、精霊種と生きてきた日々を伝え、別れるものであることを言い聞かせる。
「これまで沢山の別れを届けてきた。だからだろうね、なんとなく分かるんだよ」
 それは嘘か真か。
「きっとキミ達の愛を分かつことは出来ない。俺にも、死にすらもね」
 ヴェルグリーズは魔力を集中させると、できるだけ痛みを感じさせぬよう、振り抜く。

 ――さようなら、双薔薇の恋。どうか向こうでは、安らかに。

~~~

 燃え尽きた教会跡では、ソアの発案によって一行は終焉獣が抜け落ちた遺骸の回収と、お墓の建立に取り組んでいた。
 建立が終わり次第、朝顔も魂を送る祈りを捧げ、イズマが鎮魂歌を奏でていく。
 茨によって吸い尽くされた魔力も、フラーゴラの献身的な回復によってかなり元の状態まで戻り。
 ここで失われたものの内、取り戻せるものはほとんど元通りとなった。
「最後はマリエッタさんだね、腕見せて」
「わざわざありがとうございます、フラーゴラさん」
 治療を受ける姉の様子に、特段違和感はない。
 その事に安堵するセレナであったが、心のざわつきは収まっていなかった。
「……馬鹿」
「なんですか藪から棒に」
「なにもあなたが悪役に徹する必要は無かったでしょ」
 隣に座り込み、治療を受けていない方の肩へ頭を乗せる。
「心配させないでよ、もう」
「どうしたものでしょうかね。ごめんなさいと言うのは簡単ですけれど、どうあれ魔女のするべきことは決まっていますからね」
 意固地な姉のことだ。
 この先の決戦においても、魔種の前で躊躇いもなく悪意を振りまくのであろう。
(はぁ、いつもこれなんだから……どっかで改めて言ってやらないとね)
 これまでもそうであったが。
 今回の戦いを通じて、改めてマリエッタの隣にあることへ強い想いを抱いたセレナ。
 まさか終焉の中心で叫ぶことになるとは、この時はまだ誰も知らない。
「そういえばあの二人にあったことって、双薔薇の恋ってお話になって伝わってたんだよね? どんなお話だったのかな……。あ、マリエッタさんは知ってるんだっけ?」
 フラーゴラの問いかけに、マリエッタは記憶を探るような素振りを見せる。
「はい。とはいえ内容までは定かではなく……。なにぶん古いお話ですからね。誰かが語り継がないと忘れられてしまいそうなくらい」
「そっか。じゃあワタシ達が覚えていてあげないとね」
 治療を終え、ふと月を見上げたフラーゴラはその手に幻覚を灯す。
 そこには、結婚を温かく祝福するイレギュラーズの姿があった。

~~~

 ある日ある酒場にて、旅人達が語り合っている。

「なぁ、『双薔薇の愛』をしっているか」
「? 其れは、いったい?」

 片や、黒薔薇を咲かせた幻想種の男。
 片や、白薔薇を咲かせた人間種の女。

「魔種となる呪いを受けた夫婦の二人が、人へ戻るために奮闘するお伽噺さ」
「へぇーそれで、どういうオチなんだ?」
「魔種の衝動を互いに支え合うことで耐え抜いた二人は、旅の果てに呪いをかけた魔女を見つけるんだ。最後は愛の力で魔女を撃退。呪いも解けて、魔女が捕えていた娘と三人で幸せに暮らしたんだとさ」
「随分ご都合主義な話だな」
「古い話だからな、どこまで脚色されているかは分からないけど……嫌だったか?」
「いや、ハッピーエンド自体は悪くない」

~~~

 未来は誰にも分からない。
 だがもしこんな未来があるのなら。
 きっとそれは、大いなる悪意で他者の悪意すら塗りつぶしてしまう『わるいまじょ』の仕業であろう。

成否

成功

MVP

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

状態異常

なし

あとがき

※OP内で「能率-200時AP4倍消費」となる旨を記載しておりましたが、計算上正しくは「AP消費通常100%+ギミック200%=最大300%」処理になるため、訂正して「能率-200時AP3倍消費」を前提に各種判定をしております。
 提示間違い申し訳ありませんでした。

冒険お疲れ様でした!

前回から間が空いてしまいましたが、これにてロンド一家の物語は終幕となります。
PBWですので当然どのような展開にもなり得て良いのですが、前回が子供を倒し、復讐を望む魔種を倒し……となりましたので、今回はあくまで皆様に復讐心や夫妻の是非について向き合って頂く形となっておりました。
中々心苦しい展開からのスタートでしたが、各々のキャラクターらしい提案が入り交じり、このメンバーでしか作り得ない結末になったかと思います。

MVPは人間らしい想いを胸に秘めつつも、毅然とした態度で魔女を貫かれた貴女へ。

pnkが担当する通常シナリオはこちらで最終となります。
残るラリー決戦、結婚を控える人々の幸せのためにも是非勝利して下さいね!

ご参加ありがとうございました!

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